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2013年12月30日月曜日

2013年投稿分からのおすすめ十選

今年投稿した記事の中で、個人的に改めてとりあげたいと感じたものを10件選びました。

<投資対象について>

1. 石器時代へあともどり(ウォーレン・バフェット、チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガー「本当に巨額の財産を時とともに築いていくには、よいビジネスに投資してそこから離れないこと。その上で、よい事業をさらに加えていくこと」


2. 世界を変えて、投資で成功する(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガー「2メートル以上もある柵は飛び越せないと。そうではなく、向こう側に大きな見返りが待っている30cmの柵をさがします」


3. 「最良」の投資家になる方法(ボブ・ロドリゲス)

ボブ・ロドリゲス「(25年間にわたる投資成績が)複利で年率24%増でした。その上乗せ分がなぜ生じたのかを考えると、集中度を高めたことと、他者が感情的になって資金の出入りを決めることに左右されなかったのが原因だと思います」


4. ある投資家が描くチャーリー・マンガー像(4)

某個人投資家「買いの決断を20件や30件も下す場合、それらが正しい上に、ポートフォリオ全体に重大な影響を与えるほどになる確率は、いったいどれぐらいなのだろうか。ポートフォリオのわずか3-5%を占めるために、何ヶ月あるいは何年も時間を費やして企業を研究しなければならないのか」


<投資姿勢について>

5. 隣人のロバをむさぼってはならない(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェット「自分たちがよくわからないものには手を出さないことにしています。そして、他人がうまくやっているからといって妬まない。それですべてです」


6. 2012年度バフェットからの手紙(1)100年間はぐっすり眠れる

ウォーレン・バフェット「ゲームに参加しているのと比べて、参加しないリスクのほうがずっと大きい。チャーリーとわたしはそう確信しています」


<認知心理学>

7. 私たちはいつも幻覚を見ている(神経科学者V・S・ラマチャンドラン)

ラマチャンドラン「私たちは、世界を見るときいつも幻覚を見ている。知覚とは、しばしば断片的かつ短命な入力データにもっともよくあう幻覚を選ぶ行為であるとみなしても、ほとんどさしつかえがないくらいだ」


<生きかた>

8. 他人をしのぐというものではない(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェット「他人をしのぐというものではありません。それよりはむしろ、自分が何をすべきか、どんな種類の人間になりたいかを決めるだけの問題だと思います」


<起業家魂>

9. ウォッカの大瓶を買ってきてあげる(ミセスB)

(若きミセスBの旅立ち)靴底を減らさないように靴を肩に背負い、最寄りの駅まで約30キロの道のりをはだしで歩いた。


<この世の切なさ>

10. いずれ悲惨な時代がまたやってくる(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガー「悲惨な激動を招くのは、人間が築く文明の本質でしょう。ですから、まったく揺らぎもしない凪ぎの時代が500年もつづくとは思えません」


ここには含んでいませんが、セス・クラーマンによる「安全余裕」の文章の多くは今年のような状況だからこそ、なおさら読むに値すると感じています。

2013年12月28日土曜日

能力のパラドックス(7)最終回(マイケル・モーブッシン)

マイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」の7回目、今回でおわりです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

能力のパラドックスに際して、どうすればよいのか

プロ野球の世界で再び4割打者にお目にかかれることはないかもしれない。スティーブン・ジェイ・グールドの言う「優秀さの広まり」が反映されたのだから、それで良しとしよう。能力が向上することで結果を形成する際に運の役割がいっそう大切になってくるのを、みなさんもさまざまな場所で目撃するだろう。では、それに際してどうすればよいだろうか。以下は私からの3つの提案である。

・能力の大きなばらつきが未だにある領域を見つけること。能力の幅が広い領域において競争するならば、上手な人は下手な人を犠牲にして勝つことができるだろう。

投資はこの例に当てはまる。成熟した市場では、事情に通じた大規模な機関投資家が取引の場を独占している。そこでは有能な参加者がしのぎをけずっており、他に先んじるのはむずかしい。一方、新興の市場では大規模な機関投資家が事情に疎い個人投資家と競い合っている。研究結果が示すところでは、平均してみれば機関投資家が個人投資家を犠牲にして超過利益を得ている。参加者として自分がもっとも有能なのか、いつでも容易に気がつくものではない。バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOである著名な投資家ウォーレン・バフェットは、ポーカーになぞらえて指摘している。「ポーカーをやり始めて30分、カモがだれかわからなければ、そういうあなたがカモなのです」。

・絶対的ではなく、相対的に考えること。能力のパラドックスにおいて不可欠なことは、向上した度合いを測定するには絶対的な水準か、あるいは競合と比較するやりかたのどちらでもできるという考えである。たとえば100メートル走のように[他者との]直接的な働きかけがなかったり、運の要素が入らないときは、絶対的な能力こそが問題になる。しかしそうでない場合は相対的な能力で測るべきだ。その重要性は、次のビジネスの例でわかると思う。企業の能力を改善させるために単純な公式を示すベストセラー本は、山ほどある。しかしそれらが的はずれなのは、競合がとりうる行動を考慮していないことだ。ビジネスの結果とは、自己とライバルがとる行動の組み合わせである。もしあらゆる企業が同じ歩調で良くなっていけば、有利になっていく企業など存在しないことになる。

・結果ではなく、プロセスに焦点をあてること。世界的なバイオリン奏者やチェス選手になりたいならば、そういった領域では運がほとんど関与しないので、入念な練習をおよそ1万時間つづける必要がある。ここで決定的なのは、改善後にでてくる結果が自己の能力を示す上で信頼できる指標になることだ。それらの世界でなされるフィードバックが明確であいまいさがないのは、そのためかもしれない。一方、運が役割を果たす領域で競争するのであれば、プロセスつまり意思決定のやりかたに対していっそう焦点をあてるべきで、短期的な成績はそれほど信頼すべきではない。なぜなら、能力と結果をむすぶ直接的な関係が運の良し悪しによって破られるからだ。有能なのにお粗末な結果だったり、能力がないのによい結果となりうるわけだ。カジノでブラックジャックをやる例を考えてほしい。基本戦略では、配られたカードが17のときはヒットせずにスタンドすべしとしている。これは望ましいプロセスで、長い目で見れば最善であることが保証されている。しかしヒットしてディーラーのめくったカードが4だったら、まずいプロセスにもかかわらずその手で勝ちになる。つまり、結果からは能力を明かすことができない。それをできるのはプロセスだけで、だからこそプロセスに焦点をあてるのだ。

最後にもう一言。能力のパラドックスという考えをいったん受け入れたら、運勢に対して冷静でいることが適切だとわかるだろう。勝てるための最善を尽くしたなら、結果がどうであれば納得すべきだ。運が良ければ期待を越える結果になることもあるし、悪ければがっかりな結果におわることもあるだろう。そのようなときにいちばんよいのは、気を取り直して過去のことは忘れてしまい、明日からまた挑戦する心構えをもつことだと思う。

What To Do About the Paradox of Skill

We may never see another .400 hitter in professional baseball. That's alright. It reflects "the spread of excellence," using Stephen Jay Gould's phrase. You'll see skill increasing and luck becoming more important in shaping results in many places that you look. So, what should you do about it? Here are three suggestions:

-> Find realms where the variance of skill is still wide. If you compete in a field where the range of skill is wide, the more skillful will succeed at the expense of the less skillful.

Investing is a good case in point. In developed markets, large and sophisticated institutional investors dominate the trading scene. The skillful players compete with one another and it's hard to gain an edge. In some developing markets, by contrast, large institutions compete with less sophisticated individuals. Research shows that, on average, the institutions earn excess returns at the expense of the individuals. But it's not always easy to know if you're the most skillful player. Warren Buffett, the famous investor and chairman and CEO of Berkshire Hathaway, makes the point in the context of poker: "If you've been playing poker for half an hour and you still don't know who the patsy is, you're the patsy."

-> Think relative, not absolute. Essential to the paradox of skill is the idea that you can measure improvement in skill either on an absolute scale or relative to competitors. In activities where there is no direct interaction or luck - say, a 100-meter dash - absolute skill is all that matters. But when there is interaction and luck, you have to measure relative performance. Here's why this is so important, using business as an example. There are a slew of best-selling books that offer a simple formula for corporate performance improvement. These miss the mark because they fail to consider what competitors may do. Results are a combination of your actions with those of your rivals. If all companies are getting better in lockstep, no company is gaining an edge.

-> Focus on process, not outcome. If you want to become world-class as a violinist or a chess player, areas where little luck is involved, you need roughly 10,000 hours of deliberate practice. What's crucial is that your results, as you improve, will be a reliable indicator of your skill. As a result, feedback in these domains can be clear and unequivocal. If you compete in a field where luck plays a role, you should focus more on the process of how you make decisions and rely less on the short-term outcomes. The reason is that luck breaks the direct link between skill and results - you can be skillful and have a poor outcome and unskillful and have a good outcome. Think of playing blackjack at a casino. Basic strategy says that you should stand - not ask for a hit - if you are dealt a 17. That's the proper process, and ensures that you'll do the best over the long haul. But if you ask for a hit and the dealer flips a 4, you'll have won the hand despite a poor process. The point is that the outcome didn't reveal the skill of the player, only the process did. So focus on process.

One final thought. Once you've embraced the paradox of skill, you'll see that it's appropriate to have an attitude of equanimity toward luck. If you've done everything you can to put yourself in a position to succeed, you should accept whatever results appear. Some days you'll be lucky, and the results will exceed your expectations. Some days the results will be disappointing because of bad luck. The best plan will be to pick yourself up, dust yourself off, and get ready to do it again tomorrow.


「結果ではなく、プロセスに焦点をあてる」、この文章をご紹介したくて今回の話題をとりあげてきました。2013年という1年間を顧みるにふさわしい文章だと、個人的には感じています。

2013年12月26日木曜日

能力のパラドックス(6)(マイケル・モーブッシン)

マイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」のつづき、6回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

投資: 能力ゆえに生じるランダム・ウォーク

投資の世界ほど能力のパラドックスがはっきりしている場所はないだろう。それほどまでに運の要素が重要なので、この業界の本で過去通算でのベストセラーの中に『ウォール街のランダム・ウォーカー』が入っている。しかし、全体としてみたときの投資家が有能ゆえのランダム・ウォークなのだ。企業やアナリスト、政府、メディアによって広められた莫大な情報は、投資家によってすばやく価格へ反映される。技術が進歩したことで、コンピューターの莫大な能力を数値処理に使えるようになった。そして成功による果実は十分に甘いので、最優秀の学生が次々と投資の世界へひきつけられる。

ほとんどの投資会社がやっていることをみれば、むずかしい状況だというのがわかる。同じ情報、最高のコンピューター、頭脳明晰な院卒生と、どこも同じことをしているので、それらで差をつけることはできない。一般的に株価は公になったあらゆる情報を反映するから、新しい情報だけが株価を動かせる。定義上新たな情報を予測することはできないので、株価はランダム・ウォークの形を歩みやすくなる。ランダム・ウォークという筋書きは完全に正しいわけではないが、市場を凌駕することがいかにむずかしいか強調している点はうまく配されている。野球やビジネスと同じように、[投資の世界でも]能力が向上すれば運の要素がより重要になるのだ。

しかし投資が他の領域とまったく異なる重要な観点がひとつある。スポーツを起点に考えてみると、選手の能力は時が経つにつれて人間が有する能力の限界へと近づくことは避けられない。肉体のできることは限られているため、極限に到るわずかな成績向上を勝ちとるのはむずかしい。成績を向上させようとして化学物質に頼る選手がいるのもそのためだ。しかし完全には連続的ではないにせよ、能力は時間と共に向上していく。効率性は良き方向へと磨かれていくのだ。

では、投資とスポーツをくらべてほしい。投資の世界では、効率とは価値と価格が同一であることを意味する。その場合、将来得られる全キャッシュフローの現在価値を株価が正確に反映し、ニュースは迅速的確に取り込まれる。実際のところ、経済学者による多くの実験結果において、一群の投資家が平常時には効率的な価格で取引することが示されている。問題は、投資の世界では状況が常に平常とは限らないことだ。ときには群衆に従った投資家が、価値よりもはるか遠くへと株価を導くこともある。近年に起きた2つの例として、熱狂的なドットコム・バブルが2000年初に頂点に達したことと、すさまじい恐怖によって2009年初めに底をつけたことが挙げられる。そういった状況において市場に勝つことはなおむずかしいが、市場は効率的だと言うように要求されても、それは厳しい注文だろう。

Investing: A Random Walk Because of Skill

Perhaps nowhere is the paradox of skill more evident than in the world of investing. Luck is such a big deal that one of the industry's all-time best-selling books is called A Random Walk Down Wall Street. But it is a random walk only because investors are so collectively skillful. Companies, analysts, the government, and the media disseminate gobs of information that investors quickly incorporate into prices. Advances in technology mean that there is massive computing power available to crunch numbers. And the spoils of success are sufficiently high that many of the best and brightest students are drawn to the investment world.

The challenge is that most investment firms have access to the same information, whiz-bang computers, and sharp graduate students. Those things don't set you apart. Since stock prices generally reflect all of the information that's out there, it's only new information that moves prices. And because by definition you can't predict new information, stock prices tend to follow a random walk. The random walk story is not exactly true, but its emphasis on how hard it is to beat the market is well placed. Similar to baseball and business, as skill increases luck becomes more important.

But in one important respect, investing is quite different than those fields. Take sports as a starting point. As time goes on, the ability of the athletes marches inexorably toward the limit of human performance. That last bit of performance improvement is hard fought because there's only so much a body can do. It's also why some athletes turn to chemicals to enhance their performance. But even if it is not perfectly linear, improvement over time occurs. Efficiency grinds upward.

Now compare sports to investing. In investing, efficiency means that value and price are one and the same. The price of a stock accurately reflects the present value of all of the cash flows in the future and news is rapidly and accurately assimilated. Indeed, economists have done lots of experiments to show that a group of investors will settle on an efficient price under normal conditions. The problem is the conditions are not always normal in investing. From time to time, investors follow one another in a herd, leading to prices that veer far from value. The euphoric dot.com bubble that peaked in early 2000 and the acute fear that created a market low in early 2009 are but two recent examples. In these cases, it's still hard to beat the market but you'd be hard pressed to say that the market is efficient.

2013年12月24日火曜日

能力のパラドックス(5)(マイケル・モーブッシン)

マイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」のつづき、5回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかし、問題なのはここからだ。同社にとって筆頭に挙げられる競争相手も同じように在庫回転数に焦点をあて、同時期に5.1回から8.1回へと改善できたのだ。先に挙げた会社は絶対的な成績という意味では強化されたが、相対的な位置づけは後退してしまった。これが能力のパラドックスが教えてくれる教訓のひとつである。競争によって打ち消されてしまうのであれば、絶対的な観点で良くなることは重要ではない。今日の打者は昔とくらべて良くなっているが、それは投手も同じことだ。向上した分は、互いに及ぼし合う影響によって目立たなくなってしまう。同じように、先の小売会社は1994年とくらべて2002年のほうが改善されたが、実のところは最大の競争相手に水をあけられてしまった。

消費財における類似品目間の品質の差異はだんだんと縮小していることが研究によって指摘されている。このことは能力のパラドックスに当てはまるもうひとつの知見と言える。企業が供する製品の品質は過去においては幅広かったので、概して価格が品質の差異を反映していた。たとえば自動車には低価格な手抜き製品がある一方、丹念に製造された高価な車もあった。

時が経つにつれ、品質の差は狭まってきた。その結果、今では顧客は価格と品質を天秤にかけることが少なくなり、その一方で便利さやアフターサービス、店舗の場所といった他の要因を重視するようになってきた。このことは売上げを守る点において運の果たす役割を広げ得る。おそらくビジネスの世界でも野球と同じように能力の分布が引き締まり、運の要素が結果に対して大きな役割を果たすようになってきている。

Here's the problem: the retailer's number one competitor also happened to be focused on inventory turnover and was able to take its ratio from 5.1 times to 8.1 times during the same period. So even as the first retailer strengthened its absolute performance, its relative position weakened. This is one of the lessons of the paradox of skill. Getting better in an absolute sense doesn't matter if it's offset by the competition. Hitters today are much better than they were in the past, but so are the pitchers. The improvement is obscured by the interaction. Likewise, the first retailer was better in 2002 than it was in 1994 but it actually lost ground relative to its prime competitor.

Research has pointed out the variance of quality in consumer goods has narrowed over time, another finding that's consistent with the paradox of skill. In years past, companies offered products across a wide spectrum of quality, and prices by and large reflected that quality gap. For instance, some automobiles were cheap and shoddy, and others were expensive but well made.

Over time, the gap in quality has narrowed. As a consequence, customers now rely less on price-quality trade-offs and more on other variables, including convenience, after-sale service, and store location. This can enhance the role of luck in securing the sale. In business as in baseball, the skill distribution has likely tightened allowing luck to play a growing role in outcomes.

2013年12月22日日曜日

能力のパラドックス(4)(マイケル・モーブッシン)

マイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」のつづき、4回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

ビジネス: 良くなれないということは、悪くなるということ

それでは次はビジネスの世界をみてみよう。ここで大切なのは、運によってビジネスの結果が大きく左右されることを最初に認めることだ。野球では20cmほどの打球の軌跡差が安打とアウトを分けることがあるが、それと同じようにビジネスも無作為に依る影響を大きく受ける。

そのような無作為を産むものはいくつかある。ひとつには、競合が何をたくらんでいるのか知り得ないことがあげられる。企業同士がおだやかに競争することで、業界にとって好ましい結果につながることもある。一方で競争相手が値下げや能力増強といった戦略をとることもあり、その場合には応酬をまねく。自分の計画を知っていても、競合の計画はわからない。経済学の一分野であるゲーム理論では、ゲームに参加する者同士の行動や反応を研究する。しかし競争相手が増えれば、即座に不確実性が増すのだ。

顧客という要素もビジネスにおける無作為の根源である。当然ながら、企業は多大な時間と労力を費やし、顧客の望みや必要なものを当てようとする。しかし新製品の成功率が示すように、それは容易ではない。たとえ企業が競争相手や顧客を解読できたとしても、技術の変化に対応していかなければならない。メディア産業をみれば、新聞やラジオ、テレビ業界においてこの数十年間に起きた変化を正しく予想していた経営陣はいったいどれだけいただろうか。これから先、どこに向かうのかわかる人はいるだろうか。ビジネスも自前の運勢ビンを持っており、そこに入っているカードの数字は幅が広いのだ。

Business: If You're Not Getting Better, You're Getting Worse

Now let's take a look at the business world. It's important to start with the acknowledgement that luck plays a large role in the results for business. Just as in baseball, where the difference between a hit and an out might be six inches of flight trajectory, business has a lot of randomness.

There are a few sources of that randomness. For one, you never know what your competitors are going to do. Sometimes companies compete in an orderly fashion and the outcome is good for the industry. Other times competitors may develop a strategy to drop prices, or add capacity, that forces a reaction. So even if you know what your plans are, you don't know those of your competitors. Game theory is a branch of economics that studies how players act and react to one another, and as you add players to the competition, the unpredictability rises quickly.

Customers are another source of randomness in business. Naturally, companies spend lots of time and effort anticipating what their customers want and need, but the success rate of new products shows that there's no easy way to do so. And even if a company can decipher its competitors and customers, it has to deal with changes based on technology. Consider the media business: how many executives in the newspaper, radio, and television industries properly anticipated the changes of the last couple of decades? Who knows where things are going from here? Business has its own version of the luck jar, and there's a wide range of numbers.

2013年12月20日金曜日

能力のパラドックス(3)(マイケル・モーブッシン)

マイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」のつづき、3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

最高の能力から最低の能力までの差は、なぜそれほどまでに狭まったのか。2つの要因を以ってすれば、この現象の大部分を説明できる。まずプロ野球が始まった頃は、米国北東部の白人選手しかとらなかった。しかし球界は次第に人種を問わず選手を雇い始めた。その範囲は当初米国内全体からだったが、結局は全世界へと広がった。選手候補者を見いだす場を大幅に広げたのだ。ドミニカ共和国やベネズエラ、日本から来たハングリーな選手は新たな水準の能力を試合の場へもたらしてくれた。もうひとつ確かなのは、1940年代以降には練習内容が大幅に改善され、能力が収束する一因となったことだ。才能豊かな選手を幅広く採用するとともに、研ぎすまされた練習技術が加わることで、より高度で統一的な水準の能力が球界全体にわたって得られるようになった。

能力ビンの釣鐘曲線が次第にやせていくのに対して運勢ビンのほうが同じ形でいることは、能力が広く向上すると結果を決めるうえで運勢がいっそう重要になることを意味する。一般的に選手は昔の時代よりも現在のほうが高い能力を有しているので、成績はますます運だよりになる。このことは他の分野にも同じように及ぶ。

すぐれた理論から導かれる予測は、検証することが可能である。能力のパラドックスが説くところでは、(投手対打者などの)お互いのやりとりによって相殺されることがなく、さらには幸運を必要としない分野においては、絶対的な意味での成績は向上するが、相対的にみた成績は一群にまとまることが当然予想されるとしている。これはまさに水泳や陸上競技においてみられる現象だ。

当然ながら人間の生理的能力には絶対的な限界がある。男性が走る速さには限度があるし、女性が泳ぐすばやさにも限りがある。しかし能力が向上し、そして収束する様子は広くみられる。たとえばオリンピックの男子マラソン競技で、優勝者のタイムは1932年から2012年までに23分短縮された。また1位と20位の時間差も同じ時期に39分から7分半へとちぢまったことが示されている。運勢や相互のやりとりが能力のパラドックスをあいまいにする部分もあるが、それぞれの場合ごとに[能力差を収束させる]主要な要因が存在しているのだ。

Why did the range of skill from the best to the worst narrow so much? Two factors can explain a great deal of the phenomenon. When professional baseball began, it drew only white players from the Northeastern part of the U.S. But over time, the league began recruiting players of all races, from all parts of the U.S., and eventually from all around the world. This greatly expanded the pool of talent. Hungry players from the Dominican Republic, Venezuela, and Japan brought a new level of skill to the game. In addition, training has improved greatly since the 1940s, which has certainly had an effect on this convergence of skills. Combine more access to talented players with sharpened training techniques and you get a higher, and more uniform, level of skill throughout the league.

That the bell curve in the skill jar gets skinnier over time while the bell curve in the luck jar remains the same means that as skill improves for the population, luck becomes more important in determining results. On average, players have greater skill today than they did in years past but their outcomes are more tied to luck. This extends to other realms as well.

A good theory makes predictions that we can test. The paradox of skill says that in fields where there is no offsetting interaction (for example, pitcher versus hitter) and no luck, we should see absolute results improve and relative results cluster. This is precisely what we see in events such as swimming and track and field.

Naturally, human physiology limits absolute performance - a man can run only so fast and a woman can swim only so swiftly. But we see improvement and convergence broadly. For example, the winning time for the men's Olympic marathon dropped by more than 23 minutes from 1932 to 2012. As revealing, the difference between the time for the winner and the man who came in 20th shrunk from 39 minutes to 7.5 minutes over the same period. Luck and interaction can partially obscure the paradox of skill, but the core elements are there in case after case.

2013年12月18日水曜日

能力のパラドックス(2)(マイケル・モーブッシン)

前回からご紹介しているマイケル・モーブッサンの「能力のパラドックス」のつづきです。(日本語は拙訳)

成功を得るためのビン

2つの広口ビンを想像してみよう。片方のビンは能力を、もうひとつは運勢をあらわす。それぞれのビンには数字が印刷されたカードが詰められている。その数字の頻度分布は釣鐘曲線型になる。釣鐘曲線を定義するには平均値と標準偏差の2つが必要だ。釣鐘の頂上から両端へ向けて曲線が対称的に降りていくので、両側には同じ枚数のカードが登場する。標準偏差とは釣鐘の両端部が平均からどれだけ離れているかを測るもので、やせた釣鐘ならば標準偏差の値が小さくなり、太った釣鐘ならば大きくなる。

それぞれのビンに入ったカードの大半は平均値に近い値をとっている。わずかのカードだけが、平均値から離れた値が記されている。能力のビンから1枚、運勢のビンからも1枚とり、それらを加算することで打率を決めよう。つまり、ビンからひいた数字がその人の打撃能力と幸運の度合いをあらわしている。すばらしい選手であってもシーズンによっては不運に終わり、実力以下の打率しか残せないことがある。平均以下の選手が馬鹿ヅキして実力以上の打率を残すこともある。ウィリアムズが残した打率4割6厘のためには、ものすごい能力とすばらしい幸運が必要だ。彼は両方のビンから平均をはるかに上回る数字を引き当てたのだ。

それぞれのビンの数字を足して平均を求めてみよう。まずは運勢ビンから。シーズンを通してみれば、ツイている選手もいれば不運の選手もいる。つまり運勢は平均すればゼロになると考えてよい。一方、能力ビンの平均は全選手の打率の平均値とほぼ等しくなる。これは過去75年間ほどで2割6分から2割7分前後で変動している。能力の平均値が上がらない理由は、たとえ今日の打者が以前より優れていたとしても、打率とは投手と打者の対決結果を示すものだからだ。投打が足並みそろえて改善すれば、打率がそのままでも全体としての能力は急激に向上しうる。投手対打者の腕合戦をながめていると、選手の能力が向上しているのに一定のままでいるような錯覚に陥る。

さて、グールドの重大な洞察とは「能力の標準偏差は次第に小さくなっていく」だった。[能力の]釣鐘曲線において両極端な値が平均へと近づき、太った形からやせた形へ変わる様子を思い浮かべてほしい。つまり運勢の分布がほとんど変わらなくても、打率の標準偏差は次第に減少するということだ。これがまさしくグールドが示したものである。ウィリアムズが偉業を達成した時代、すなわち1940年代の打率の標準偏差は0.0326だった。そして2000年代最初の10年間では0.0274だった。統計的に言えば2011年に打率3割8分を記録することは、70年前にテッド・ウィリアムズが記録した4割6厘に相当する。

The Jars of Success

Imagine two jars, one representing skill and the other luck, that are each filled with cards with numbers printed on them that comprise a bell curve. Bell curves are defined by a mean, or average, and a standard deviation. From the top of the bell, the curve slopes down the sides symmetrically with an equal number of observations on each side. Standard deviation is a measure of how far the sides of the bell curve are from the average. A skinny bell curve has a small standard deviation and a fat bell curve has a large standard deviation.

So most cards in each jar have values at or near the mean, and a few cards are marked with numbers that have values far from the mean. To determine an outcome, you draw one number from the skill jar, one from the luck jar, and add them. Relating this to batting averages, you could say that a player has a certain amount of hitting skill - the number he drew from that jar - and some luck. A great player can have an unlucky season that results in a batting average below his true skill, or a below-average player can enjoy substantial luck and hit at an average that overstates his skill. Hitting .406 as Williams did requires tremendous skill and terrific luck. He drew numbers from both jars that were far above average.

Let's put some numbers to the averages in each jar. Let's start with the luck jar. While for a season some players will have good luck and others bad luck, we can safely assume that luck is zero on average. That says that the average of the skill jar will approximate the batting average for all of the players combined, which has vacillated around .260-.270 in the last 75 years or so. The reason that average skill hasn't gone up, even though the hitters today are better than in the past, is that batting average represents a duel between pitcher and hitter. If pitchers and hitters improve roughly in lockstep, the overall skill can improve sharply even as the batting average remains steady. The arms war (pun intended) between pitchers and hitters creates the illusion of stability even as the players improve.

Here was Gould's crucial insight: the standard deviation of skill has gone down over time. Imagine the bell curve going from being fat to skinny. The extreme values are closer to the average. So even if the luck distribution doesn't change a bit, you should expect to see the standard deviation of batting averages decline over time. And that is precisely what Gould showed. The standard deviation of batting averages was .0326 in the 1940s, when Williams achieved the feat, and was .0274 in the first decade of the 2000s. In statistical terms, hitting .380 in 2011 is the equivalent to the .406 that Ted Williams hit 70 years earlier.

2013年12月16日月曜日

能力のパラドックス(1)(マイケル・モーブッシン)

以前にご紹介したマイケル・モーブッサン(クレディ・スイスのストラテジスト)が書いた新刊の翻訳を待ちつづけていたものの、どうやら(少なくとも)今年はダメなようです[過去記事]。そこで情報がないかさがしていたところ、同書の宣伝材料的な文章を彼が書いていました(掲載サイト: changethis.com)。短めのものですが、数回に分けて全訳をご紹介します。(日本語は拙訳)

The Paradox of Skill - Why Greater Skill Leads to More Luck (PDFファイル)
(能力のパラドックス: 能力が向上するにつれ、ますます幸運頼みになるのはなぜか)

偉大な選手にとっては何のことはない技でも、それを披露する機会を堪能できた。しかし選手全般の能力が改善されてそれらが消滅すると、打率のばらつきは減少せざるを得ない。つまり平均的な成績は、人間が有する可能性の限界へと向かうのだ。(スティーブン・ジェイ・グールド)


さて、能力を向上させるためにどうしたらよいか、あなたもご存じだろう。1万時間の投入、刻苦勉励、入念な訓練、根性、そして周到なる師匠。どれも聞いたことがあるものばかりだ。その一方で、人生におけるさまざまな活動であげた成果は、能力と幸運が組み合わせで達成されたと認識しているだろう。たしかにそのとおり。では多くの場合において能力を向上させるとますます幸運をたよるようになる、と言ったらどう思われるか。そう、能力が向上するほど幸運が不要になるのではなく、いっそう必要になるのだ。スポーツやビジネス、あるいは投資に興味がある人ならば、ここから学べるものがあると思う。

スティーブン・ジェイ・グールドはハーバード大学の名の知れた進化生物学者だったが、野球に関する文章を書くことを好んでいた。ある最上のエッセイでは、「テッド・ウィリアムズが1941年に4割6厘を記録して以来 、なぜメジャーリーグの選手はシーズンを通して4割以上の打率を維持できないのか」について語られている。まずグールドは、よくある説明を検討してみた。ナイターが増えたとか、移動が多いとか、守備が上手くなったとか、リリーフ投手を以前よりも多用するとか。しかしどれも条件を満たさなかった。

そこでグールドはこう考えた。たぶんウィリアムズはある種途方もない選手だったのだろう。彼以前のだれよりも上手く、彼以降のだれよりも上手い選手だと。しかしそれは到底信じられない、彼はそう結論づけた。水泳やランニングのような所要時間を計測するあらゆるスポーツでは、選手の能力は向上してきた。野球選手だって同じで、以前より良くなっているのだ。より速く、より強く、ますます壮健になり、練習内容も進歩している。

では、4割打者が根絶された謎をどうすれば解けるだろうか。いちばんよいのは、単純なモデルを用意して、能力が向上するとますます幸運頼みになるのを示すやり方だ。それがうまく説明できれば、ほかの領域ではどうなるかこのモデルを適用できる。それぞれの分野の登場人物が能力を研ぎ澄ましていたとしても、運勢はますます揺れ動くと判明するだろう。これが能力のパラドックス[逆説]である。

Variation in batting averages must decrease as improving play eliminates the rough edges that great players could exploit, and average performance moves toward the limits of human possibility. - Stephen Jay Gould


Okay, you have gotten the memo on improving skill: 10,000 hours, hard work, deliberate practice, grit, and attentive teacher. We’ve all heard it. you also recognize that in many of life’s activities, the results you achieve combine skill and luck. no debate there. now, what if I told you that in many cases improving skill leads to results that rely more on luck? that’s right. Greater skill doesn’t decrease the dependence on luck, it increases it. If you have an interest in sports, business, or investing, this lesson is for you.

Stephen Jay Gould was a renowned evolutionary biologist at harvard university who loved to write about baseball. one of his best essays was about why no player in Major league Baseball had maintained a batting average of more than .400 for a full season since ted Williams hit .406 in 1941. Gould considered several conventional explanations, including more night games, demanding travel, improved fielding, and more extensive use of relief pitching. none checked out.

Maybe Williams was some sort of freak player, Gould thought, better than all of those who came before him as well as all of those who followed. that’s implausible, he concluded, because in every sport where performance is measured versus a clock, including swimming and running, athletes have improved. Baseball players, too, are better than they were in the past: faster, stronger, more fit, and better trained.

So how do we solve the mystery of the vanishing .400 hitter? the best approach is to set up a simple model that explains how greater skill can lead to a greater reliance on luck. We’ll then apply our model to other realms to see if it explains what we see there. In each case, we’ll see that luck has more sway even as participants hone their skill. It’s the paradox of skill.


ところで「1万時間」と言えば、やはり『究極の鍛錬』を指しているのでしょうか。

2013年12月14日土曜日

1円使うのは1円なくすのと同じ(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その13です。今回はよく知られた話題で、チャーリー・マンガーとの関係や自家用飛行機について冗談を連発しています。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> バフェットさんが今日飛行機で来ることを、チャーリーが認めてくださったのですか。それとも自動車で来ることになったのでしょうか。

<バフェット> この方は、わたしのパートナーでチャーリー・マンガーという人のことを話題にしています。ちなみに彼のおじいさんはリンカーン[講演が行われている街]で連邦裁判所の判事を務めていました。わたしとは違う時期でしたが、実はチャーリーもわたしのおじいさんの店で働いていたことがあります。彼と出会ったのはずっとあとになってからで、その後わたしのパートナーになってくれました。なんやかんやで何十年間もいっしょにビジネスをつづけてきました。わたしたちの間で意見が異なることはありましたが、口論をしたことはありません。極めて良好な関係がつづいています。チャーリーは若いころにベン・フランクリンにのめりこみ過ぎて、「1円使うのは1円なくすのと同じ」という考えをしています。バスに乗る前にお祈りをするタイプの人なのです。ですからわたしは、飛行機を買ったときに彼の耳にいくぶん残るように「チャールズ・T・マンガー号」と名付けようかと考えました。結局、その代わりにつけた名前は「弁明不能号」です。これはある種の降参したオオカミのようなもので、彼が別のオオカミに負けたときに使えるものです。今日ここには飛行機では来ませんでした。しかし毎晩ドラッグストアに行くときになると、飛んでいこうかどうしようか頭を悩ませています。それだけこの飛行機を気にいっています。飛行機に反対するいろんなスピーチをやったのは、若いころのこのわたしです。しかし反黙示録的と言われるでしょうが、いまでは飛行機にぞっこんです。棺桶の中に持っていくつもりです。

Q. Mr. Buffett, I was just wondering if Charlie authorized the flight over today or did you have to drive?

A. This gentleman is referring to the fact that I have a partner named Charlie Munger, whose grandfather was a Federal Judge in Lincoln. Charlie actually worked in my grandfather's store, but not at the same time I did. I met him later in life and he has become my partner. Charlie and I have been partners in business one way or another for decades. We’ve never had an argument. We have different opinions on things, but we get along extremely well. Charlie overdosed on Ben Franklin early in his life, so he thinks that a penny spent is a penny lost, or something like that. This is the guy who, you know, has a prayer session before he takes the bus and, therefore, when I bought a plane, I was going to put his name - "The Charles T. Munger” - on the plane just to stick it in him a little bit. Instead, I just decided to call the plane "The Indefensible.” And that is sort of like the wolf, you know, baring his throat when he is losing to another wolf! So, I did not fly here today. But it is true - that I contemplate flying to the drug store every night! I’m in love with this plane, and I’m the same person who gave all these speeches against planes in earlier years. Then I had this counter-revelation, as they call it, and now I’ve fallen in love with the plane and it’s going to be buried with me!

2013年12月12日木曜日

中国は活力を失うのか(経済学者ダロン・アセモグル他)

少し前に読んだ本『国家はなぜ衰退するのか』はそれなりに勉強になるところもあったのですが、気鋭の経済学者が書いたせいか、持論を踏まえて大胆な予測を試みている点がひっかかりました。今回引用するのはその話題、「今後の中国がどうなるか」について書かれた文章です。

私たちの理論は、中国に見られるような収奪的政治制度下の成長は持続的成長をもたらさず、いずれ活力を失うことも示唆している。(下巻 p.247)

こんにちの中国の経済制度が30年前とは比べものにならないほど包括的であるにしても、中国の経験は収奪的政治制度下の成長の例だ。近年、中国ではイノヴェーションとテクノロジーに重点が置かれているものの、成長の基盤は創造的破壊ではなく、既存のテクノロジーの利用と急速な投資だ。(下巻 p.250)


この手の本は好んで読むようにしていますが、著者が自説にこだわりすぎないもののほうが個人的には納得しやすいと感じています。以前に挙げたかと思いますが、たとえばキンドルバーガーの『経済大国興亡史』のような書き方には好感をもっています。

2013年12月10日火曜日

手抜きをするのは、裏切りも同然だ(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の21回目です。前回のつづきで、心理学を軽んじる話題の締めくくりになります。(日本語は拙訳)

次も同様なものですが、機能不全状態となった経済が回復したラテンアメリカでの奇妙な事例にふれたいと思います。ラテンアメリカのこの一部の地域では、だれもが何でもかんでも盗む習慣が広まっていました。会社のものを着服し、地域で開放されているあらゆるものを盗みました。もちろん、経済活動は事実上停止状態でした。ところがこの問題が解決されたのです。私がこの事例をどこでみつけたと思いますか。ヒントを出しましょう、経済学の論文集ではありません。そうです、心理学の論文集でみつけたのです。頭のいい人たちがおいでになり、いろんな心理的なトリックを使ったことで問題を解決しました。

そのような機能不全状態の経済が回復した見事な事例があり、多くの問題が簡単な技で解決される一方、自分では対処方法もわからず問題も理解できないとしても、経済学者は弁解もしないと思います。専門である経済システムを機能不全から立ち直らせる心理的芸当さえ知らないのに、心理学に対してなぜそれほどまでに無知でいられるのでしょうか。

ここで過激な強制命令を出しましょう。ハード・サイエンスにおける根源的なものを組織化するエートスよりもずっと厳しいですよ。これはサミュエル・ジョンソンの言葉です。彼の発言は実質的にこうです。「もし学術界がわずかの努力で容易に取り除ける無知を抱えたままならば、学術界のその行いは裏切りも同然だ」。彼は「裏切り」という言葉を使っているのです。この文句を私が気に入っている理由は、おわかりだと思います。彼はこう言っているのです。間抜けなところがなるべくないように努める学術界の一員ならば、取り除くことが可能な無知は自分のシステムからできるだけ多く排除する義務があると。

In this vein, I next want to mention a strange Latin American case of a dysfunctional economy that got fixed. In this little subdivision of Latin America, a culture had arisen wherein everybody stole everything. They embezzled from the company, they stole everything that was loose in the community. And of course, the economy came practically to a halt. And this thing got fixed. Now where did I read about this case? I'll give you a hint. It wasn't in the annals of economics. I found this case in the annals of psychology. Clever people went down and used a bunch of psychological tricks. And they fixed it.

Well, I think there's no excuse if you're an economist, when there are wonderful cases like that of the dysfunctional economy becoming fixed, and these simple tricks that solve so many problems, and you don't know how to do the fixes and understand the problems. Why be so ignorant about psychology that you don't even know psychology's tricks that will fix your own dysfunctional economic systems?

Here I want to give you an extreme injunction. This is even tougher than the fundamental organizing ethos of hard science. This has been attributed to Samuel Johnson. He said in substance that if an academic maintains in place an ignorance that can be easily removed with a little work, the conduct of the academic amounts to treachery. That was his word, "treachery." You can see why I love this stuff. He says you have a duty if you're an academic to be as little of a klutz as you can possibly be, and therefore you have got to keep grinding out of your system as much removable ignorance as you can remove.

2013年12月8日日曜日

(回答)そのスロットマシンが特別な理由(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の20回目です。前回投稿した問題の回答部分です。(日本語は拙訳)

その台が他とちがうのは、現代的な電子工学によって高い割合でニアミスするように設定されている点です。普通の台とくらべて「BAR = BAR = レモン」や「BAR = BAR = グレープフルーツ」といった目がよく揃うようにしたわけです。これが頻繁にプレイされている原因です。この答えをどうやって求めたかは、心理的な要因を考えれば簡単明白ですね。その台は、打ち手の基本的な心理的反応を呼び起こしているわけです。

心理的要因にはどんなものがあるのかわかっていてチェックリスト形式で頭の中に叩き込まれていれば、リスト中の要因をあたっていくことでやがてはドカンと大当たり。この現象を説明するものにたどり着きます。これ以上効率的にやれる方法はありません。そういった心理的な仕掛けについて学んでいない人には、答えは思い浮かばないのです。百人一首大会に目隠しで出場するような人生をおくりたいなら、ここにいらっしゃるのはなぜでしょうか。腕利きの選手のように成功したいのであれば、心理学も学んだうえで経済学に取り組むということも含めて、それらの心理的性向を習得すべきです。

What’s different about that machine is people have used modern electronics to give a higher ratio of near misses. That machine is going bar, bar, lemon, bar, bar, grapefruit, way more often than normal machines, and that will cause heavier play. How do you get an answer like that? Easy. Obviously, there’s a psychological cause: That machine is doing something to trigger some basic psychological response.

If you know the psychological factors, if you've got them on a checklist in your head, you just run down the factors, and, boom!, you get to one that must explain this occurrence. There isn't any other way to do it effectively. These answers are not going to come to people who don’t learn these mental tricks. If you want to go through life like a one legged man in an ass-kicking contest, why be my guest. But if you want to succeed, like a strong man with two legs, you have to pick up these tricks, including doing economics while knowing psychology.

2013年12月6日金曜日

(問題)そのスロットマシンが特別な理由(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の19回目です。チャーリーから「やさしい」問題が出題されています。回答は次回にご紹介します。なお、前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

6) 心理学に対する極端かつ非生産的なほどの無知

それでは6番目の欠陥に進みましょう。経済学では、極端かつ非生産的なまでに心理学に対して関心を持っていません。これは学際主義を軽視している一分野と言えます。ここでひとつ非常に簡単な問題を出しましょう。私は簡単な問題を専門にしているのです。

ラスベガスで小さなカジノをやっているとします。スロットマシンは標準的なものが50台あります。それらは見た目も同じ、機能も同じ、出玉率も同一、当たりの組み合わせも同一と、つまり同じ勝率で動作しています。ところが終業後に勝ち状況を確認すると、ある1台は他の台よりも25%多く[カジノ側の]勝ちを記録していました。50台のうちのどこに配置しても、時をおかずしてそうなります。この説明にはまちがいはありません。さて、この大勝ちする台は他と何がちがうのでしょうか(静寂)。だれかわかりますか。

<ある男性> その台でたくさんの人が勝負するからです。

<マンガー> いやいや、なぜたくさんの人がその台で勝負するのか知りたいのです。

6) Extreme and Counterproductive Psychological Ignorance

All right, I'm down to the sixth main defect, and this is a subdivision of the lack of adequate multidisciplinarity: extreme and counterproductive psychological ignorance in economics. Here I want to give you a very simple problem. I specialize in simple problems.

You own a small casino in Las Vegas. It has fifty standard slot machines. Identical in appearance, they're identical in the function. They have exactly the same payout ratios. The things that cause the payouts are exactly the same. They occur in the same percentages. But there's one machine in this group of slot machines that, no matter where you put it among the fifty, in fairly short order, when you go to the machines at the end of the day, there will be twenty-five more winnings from this one machine than from any other machine. Now surely, I'm not going to have a failure here. What is different about that heavy-winning machine? (Silence) Can anybody do it?

Male: More people play it.

Munger: No, no, I want to know why more people play it.

いつものようにわたしはハズレましたが、この問題は正解する方がたくさんいらっしゃるかもしれません。

2013年12月4日水曜日

割引率の選択(セス・クラーマン)

ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』からご紹介します。前回からのつづきですが、今回と次回は「割引率」の話題になります。この話題は地味で見送ってしまいがちですが、遠くない将来に振り返りたくなる話題だと感じています。第8章「事業価値の算出という技」(The Art of Business Valuation)からの引用です。(日本語は拙訳)

割引率の選択

現在価値分析を構成するもうひとつの要素である割引率をどう設定するか、投資家が十分に考慮することはめったにない。投資家にとっての割引率とは事実上、現在と将来における金銭価値の差異を埋めるための金利である。将来よりも現在消費することを強く望んだり、不確実な将来よりも確実な現在に信頼をおく投資家は、投資先へ高い割引率を適用するだろう。一方で予測が的中するほうにかける投資家もいて、彼らは低い割引率を採用するだろう。その場合は将来のキャッシュフローに対して、現時点で保有しているのとほとんど差がない価値を与えることになる。

しかし、将来得られる一連のキャッシュフローに適用すべき唯一正しい割引率など存在しないし、それを選ぶための正確な方法もない。ある特定の投資に対する適切な割引率とは、投資家が将来よりも現在の消費をどれだけ重んじるかだけで決まるものではない。他の要因、つまり本人のリスクに対する考え方やその投資対象を検討したことで認識されたリスク、あるいは別の投資候補におけるリターン率にも左右される。

投資家は単純化しすぎる傾向がある。割引率を選定する方法はその典型と言えよう。検討対象の投資先が持つ性質にもかかわらず、万能の割引率として非常に多くの投資家が日常的に使っている値が10%だ。この数字はキリがよくて覚えやすく、そして使いやすいが、場合によってはよい選択だと言えないこともある。

適切な割引率を選ぶ際には、投資から得られる将来のキャッシュフローに関する潜在的なリスクを考慮しておかなければならない。無リスクの短期投資であれば(そのようなものが存在すればだが)、現在流通している財務省短期証券の利率で割り引く必要がある。先にふれたように、この証券は無リスク金利を代用するものとみなされている。対照的に、低級の債券が市場で取引される際には、12%から15%あるいはそれ以上の利率で割り引かれている。これは、キャッシュフローが約束通りに支払われるのか投資家が疑問視していることを反映している。

投資家が将来のキャッシュフローを予測する際には、割引率を保守的に選ぶことは不可欠である。キャッシュフローの時期や規模に左右されるため、割引率が少し変動しただけでも現在価値の計算にかなりの影響を与えかねないからだ。

事業価値は、割引率の変化やそれ以前に金利変動によっても影響される。利率すなわち割引率が固定されていれば、投資価値を決定するのは容易だろう。しかし投資家はそれらが変動する事実を受け入れた上で、金利変動からくるポートフォリオへの影響を抑制できるような対策を講じなければならない。(p.125)

The Choice of a Discount Rate

The other component of present-value analysis, choosing a discount rate, is rarely given sufficient consideration by investors. A discount rate is, in effect, the rate of interest that would make an investor indifferent between present and future dollars. Investors with a strong preference for present over future consumption or with a preference for the certainty of the present to the uncertainty of the future would use a high rate for discounting their investments. Other investors may be more willing to take a chance on forecasts holding true; they would apply a low discount rate, one that makes future cash flows nearly as valuable as today's.

There is no single correct discount rate for a set of future cash flows and no precise way to choose one. The appropriate discount rate for a particular investment depends not only on an investor's preference for present over future consumption but also on his or her own risk profile, on the perceived risk of the investment under consideration, and on the returns available from alternative investments.

Investors tend to oversimplify; the way they choose a discount rate is a good example of this. A great many investors routinely use 10 percent as an all-purpose discount rate regardless of the nature of the investment under consideration. Ten percent is a nice round number, easy to remember and apply, but it is not always a good choice.

The underlying risk of an investment's future cash flows must be considered in choosing the appropriate discount rate for that investment. A short-term, risk-free investment (if one exists) should be discounted at the yield available on short-term U.S. Treasury securities, which, as stated earlier, are considered a proxy for the risk-free interest rate. Low-grade bonds, by contrast, are discounted by the market at rates of 12 to 15 percent or more, reflecting investors' uncertainty that the contractual cash flows will be paid.

It is essential that investors choose discount rates as conservatively as they forecast future cash flows. Depending on the timing and magnitude of the cash flows, even modest differences in the discount rate can have a considerable impact on the present-value calculation.

Business value is influenced by changes in discount rates and therefore by fluctuations in interest rates. While it would be easier to determine the value of investments if interest rates and thus discount rates were constant, investors must accept the fact that they do fluctuate and take what action they can to minimize the effect of interest rate fluctuations on their portfolios.

2013年12月2日月曜日

ロッキー山脈を越えると、そこは大平原だった(ジョン・ギルバート)

中国の金融情勢に関する文章をいろいろ探していたところ、興味をひいたものがあったのでご紹介します。具体的な内容はTwitterの話題から始まって中国の金融不安へと進みますが、今回引用した箇所には中国の内容は含んでいません。個人的には、ときどき登場する風刺の利いた言葉遣いを楽しみながら読みました。(日本語は拙訳)

History Ignored, Again (GR-NEAM) (PDFファイル)

文章を書いているのはGR-NEAMという会社のマネー・マネージャー、ジョン・ギルバートという方です。同社はGeneral Reに買収された資産運用会社なので、バークシャー・ハサウェイの孫会社にあたります。

投資家へばかげたふるまいをするように中央銀行が仕向けていることに対して、幸いにも米国政府で働くあらゆる人が満足しているわけではありません。TwitterのIPOが実施される前には、米国証券取引委員会(SEC)の委員長メアリー・ジョー・ホワイトが、複雑だったり発展中のテクノロジー事業へ投資することに対して警告を発しています。株式市場はそれを無視しましたが、彼女の発言は適切に選ばれたものでした。

これと同じ事態が以前にも発生し、お粗末な結果に終わったものです。ホワイト女史の忠告は、そのような歴史的教訓によって受粉されたのだと思います。Twitterの株式公募が完了した同じ週には、偶然にも別のテクノロジー企業が残念な決算報告を発表しました。その会社はシスコシステムズ(CSCO)、1990年代後半の株式ブームの人気の的だった一社です。2000年代初期のピークにはシスコはめざましい評価を受け、時価総額はおよそ50兆円に達しました。これは、当時あげていた利益の200倍に相当します。しかし、当時のシスコやその同胞は、今日のTwitterと同じように世界を変えるつもりでいました。以下の図1はシスコの株価の道のりで、畏れ多くも「ロッキー山脈の向こうにつづく大平原」パターンをたどっています。


シスコの評価は大幅に縮小しました。現在では利益の11倍に過ぎず、平均的な評価といえます。ここに教訓が残されます。そのような群衆に付き従うのは、経済的な独立を勝ち取ることに対する見事なまでのヘッジになると。いずれは重力に屈するのです。

Happily, not all members of the U.S. government are as pleased as the central bank to induce investors to behave foolishly. On the eve of Twitter's IPO, Mary Jo White, chair of the Securities and Exchange Commission, offered cautionary remarks on investing in complex or inchoate technology businesses. The stock market ignored her, but her comments were well chosen.

We have seen this all before and it ends badly. Ms. White's remarks were presumably pollinated by the lessons of history. By coincidence, in the same week that Twitter completed its offering, another tech firm reported disappointing earnings. That firm was Cisco, which was one of the belles of the stock market boom of the late 1990s. By the peak in early 2000, Cisco was valued at about $500 billion, which was 200 times the company's then earnings. An impressive valuation, also. But back then, Cisco and brethren were going to change the world. Sort of like Twitter today. Chart 1 is Cisco, tracing out the dreaded where-the-Rocky-Mountains-meet-the-Great-Plains stock price pattern.

Cisco's valuation has been decimated, and it trades today at only about 11 times earnings, a rather modest valuation, and a reminder that following such a crowd is an excellent hedge against ever being financially independent. Gravity wins in time.

シスコに限らず、IBMやインテルといった「オールド・テック」の企業は、近年は市場からそれほどよい評価を受けていません。個人的には、投資対象として検討に値する企業群だととらえています。

2013年11月30日土曜日

リスキーだがバブルではない(ハワード・マークス)

Oaktreeの会長ハワード・マークスが久しぶりに新しいメモを公開していました。市場全体の動向を描写し、まとめとして現在の価格水準に触れています。そのまとめの部分を引用します。(日本語は拙訳)

The Race Is On (Oaktree) (PDFファイル)

リスクを許容する風潮は最近になってあきらかに高まっています。リスク資産から得られる高いリターンによって相変わらず助長され、市場はさらに過熱しています。セクターによって利益の幅はありますが、2008年末の金融危機や2009年初の株式市場の危機のどん底以来、市場はもっともリスキーな状況にあると断言できます。そしてさらに危険は増しています。

「売り」の合図なのか、それとも別のものか

しかし私は、今が市場から退出する時期だとは考えていません。価格や評価水準は数年前より高くなり、危険な行動も見受けられます。しかし肝心なのはその度合いで、危険な領域にはまだ達していないとみています。

第一の理由として、すでに述べたようにリスクの絶対量が2006-07年ほどには大きくないことがあります。この現代では、金融面での奇跡がたびたび(高頻度とも称される)は起きませんし、借入に依存する水準もそれほどではありません。

第二に、価格や評価水準が高すぎるほどには進展していないことです(S&P500のPERは16前後ですが、これは戦後平均の水準です。一方、2000年には30台前半つまり行き過ぎでした)。

リスクを許容する風潮が高まれば、それに注意を払いながら自分のことに集中すべきです。しかし強く危険視すべきなのは、評価水準が大きく上昇したときです。まだその状況ではないと私は考えます。ほとんどの資産クラスが満額まで値付けされており、多くの場合妥当な水準の上位に達していますが、しかしバブル型の高値にはなっていません。(後略)

Certainly risk tolerance has been increasing of late; high returns on risky assets have encouraged more of the same; and the markets are becoming more heated. The bottom line varies from sector to sector, but I have no doubt that markets are riskier than at any other time since the depths of the crisis in late 2008 (for credit) or early 2009 (for equities), and they are becoming more so.

Is This a Sell Signal? If Not, Then What?

No, I don't think it's time to bail out of the markets. Prices and valuation parameters are higher than they were a few years ago, and riskier behavior is observed. But what matters is the degree, and I don't think it has reached the danger zone yet.

First, as mentioned above, the absolute quantum of risk doesn't seem as high as in 2006-07. The modern miracles of finance aren't seen as often (or touted as highly), and the use of leverage isn't as high.

Second, prices and valuations aren't highly extended (the p/e ratio on the S&P 500 is around 16, the post-war average, while in 2000 it was in the low 30s: now that's extended).

A rise in risk tolerance is something that should get your attention and focus your concentration. But for it to be highly worrisome, it has to be accompanied by extended valuations. I don't think we're there yet. I think most asset classes are priced fully - in many cases on the high side of fair - but not at bubble-type highs.


ハワード・マークスが「まだだ」と言っており、またマクロの状況はあまり気にすべきではないのですが、個人的には中国の過剰な外貨借入れの現状を警戒しています(参考記事)。

2013年11月28日木曜日

ずっと裕福になっていたのに(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の11回目です。前回の投稿と関連した質疑応答です。(日本語は拙訳)

<質問者> 統計的な分析や洞察に基づくとは、どういうことでしょうか。

<マンガー> たしかに何かを決断するときには、うまく洞察できるものを考えます。しかし洞察できるかどうかが、事実上確率的に決まることもあります。そして繰り返しますが、ほんのわずかしか見つけられません。

単に勝ち目があるというだけでは足りず、そういった機会が我々の認識できるところに来なければならないわけです。ですから、我々の見識で見分けられるような掘り出し物が必要です。そのような組み合わせは、そうそうお目にかかれるものではありません。

それでも大丈夫です。大いなる機会を待ちつづけ、それがやってきたときにしっかりつかむ勇気と精神力を備えていれば、いかほどの数が必要でしょう。バークシャー・ハサウェイが過去に投資した上位10件のビジネスを考えてみればわかります。我々2人の生涯を通じて他に何も手を出していなければ、ずっと裕福になっていたのですから。

ですからくりかえしになりますが、「どんなものに対しても投資上の完全無欠な判断をいつでも下せる」といった仕組みを我々が持っていない以上、みなさんに教えることもできません。そもそも、そんなものはばかげているでしょう。現実を精査する際に利用できるやりかたを説明し、それを理解したみなさんが合理的に反応することで折々に機会を得られるようになる。私のやろうとしているのは、それだけのことです。

その方法を普通株の銘柄選定のような競争の激しい分野で使えば、頭脳明晰な人がたくさんいても太刀打ちできるでしょう。しかし我らのやりかたを使っても、手にできた機会はわずかなものでした。幸いなことに、それで十分でしたが。

Q: Based on statistical analysis and insight?

Well, certainly when we do make a decision, we think that we have an insight advantage. And it's true that some of the insight is statistical in nature. However, again, we find only a few of those.

It doesn't help us merely for favorable odds to exist. They have to be in a place where we can recognize them. So it takes a mispriced opportunity that we're smart enough to recognize. And that combination doesn't occur often.

But it doesn't have to. If you wait for the big opportunity and have the courage and vigor to grasp it firmly when it arrives, how many do you need? For example, take the top ten business investments Berkshire Hathaway's ever made. We would be very rich if we'd never done anything else - in two lifetimes.

So, once again, we don't have any system for giving you perfect investment judgment on all subjects at all times. That would be ridiculous. I'm just trying to give you a method you can use to sift reality to obtain an occasional opportunity for rational reaction.

If you take that method into something as competitive as common stock picking, you're competing with many brilliant people. So, even with our method, we only get a few opportunities. Fortunately, that happens to be enough.

2013年11月26日火曜日

世界を変えて、投資で成功する(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の10回目です。今回から質疑応答が始まります。(日本語は拙訳)

<質問者> 投資上の判断をする際に、心理学をどのように取り入れていますか。「だれからも気に入られるコークのような製品を選ぶ」、ただそれだけの作業ではないと思うのですが。結局は、どこかに頭のいい人たちがたくさんいて、あなたが今日説明してくださったようにまさしく考えているわけですよね。成功企業を選びだす際には、そういった投資家が思考する上でのあやまちを見つけようとしているのですか。

<マンガー> USC[南カリフォルニア大学]でも話しましたが、投資がむずかしいのは、他社より良い事業を営んでいる企業を見いだすのは簡単だという点にあります。しかし株価が上がるや否や、どの株を買うのが最善かという問題は極めてむずかしいものとなります(過去記事)。

この問題におけるむずかしさを我々が排除できたことは、一度もありません。市場に対する我々の姿勢は、九分九厘において不可知論者です。わからない、ということです。GMがフォードに対して適切に評価されているかなど、わからんのです。

我々がいつもさがしているのは、我々自身の洞察が大幅な統計的優位をもたらすと思われるものです。それが心理学のおかげのときもありますが、他のことのほうがよくあります。ただし1年間で見つけられるのは1,2件程度です。あらゆる投資上の決定においてすぐれた判断を自動的に下せる仕組みなど、持ち合わせていません。我々の仕組みは、まるっきり違うものなのです。

我々が求めているのは何のことはない、簡単に判断できることです。私に限らずバフェットも繰り返し言っているでしょう。2メートル以上もある柵は飛び越せないと。そうではなく、向こう側に大きな見返りが待っている30cmの柵をさがします。ですから我々が成功できたのは、この世界を自分たちにとって単純なものに変えたからであって、むずかしい問題を解いたからではありません。

Q: How do you incorporate psychology in your investment decisions? I think it would be more than just picking products that will appeal to everybody like Coke. After all, there are a lot of smart people out there who obviously think just the way that you showed us today. So are you looking for failure in the thinking of their investors when you go about picking successful companies?

What makes investment hard, as I said at U.S.C., is that it's easy to see that some companies have better businesses than others. But the price of the stock goes up so high that, all of a sudden, the question of which stock is the best to buy gets quite difficult.

We've never eliminated the difficulty of that problem. And ninety-eight percent of the time, our attitude toward the market is … (that) we're agnostics. We don't know. Is GM valued properly vis-a-vis Ford? We don't know.

We're always looking for something where we think we have an insight which gives us a big statistical advantage. And sometimes it comes from psychology, but often it comes from something else. And we only find a few - maybe one or two a year. We have no system for having automatic good judgment on all investment decisions that can be made. Ours is a totally different system.

We just look for no-brainer decisions. As Buffett and I say over and over again, we don't leap seven-foot fences. Instead, we look for one-foot fences with big rewards on the other side. So we've succeeded by making the world easy for ourselves, not by solving hard problems.

2013年11月24日日曜日

慎重派投資家のジェレミー・グランサムが豹変?

ファンド・マネージャーのジェレミー・グランサムに関する記事が、米経済誌バロンズ(Barron's)のWebサイトに掲載されていました。見出しが「今後2年間は強気の見通し」とあり、慎重派のあの人が心変わりしたとはなにごとかと思ったのですが、記事全体を読んでみて納得しました。いつものとおりでした。

Jeremy Grantham's Bullish Two-Year Outlook (Barrons.com)

バロンズに掲載された記事は、実は彼のファンドGMOの2013年第3四半期レターの文章そのものです。今回はその中から話題をいくつかご紹介します。なおグランサム氏のこの話題は、日経新聞のWebサイトでも取り上げられていました(「3割上昇後に急落? 米著名投資家のバブル論」)。(日本語は拙訳)

はじめの引用は、問題の箇所です。

私の個人的な想像では、米国株特に優良銘柄以外は、来年あるいは再来年までの可能性のほうが高そうですが、20%から30%ほど上がると思います。また新興市場を含む世界各国の株式市場も少なくとも部分的には追いつき、好転するでしょう。しかしそのあとにやってくるのが、1999年以来3度目となる深刻なまでの暴落です。グリーンスパンから始まってバーナンキ、イエレンとつづく面々は、おそらく休息をとるでしょう。彼らはみずからの経験による行く末をまぎれもなく予期しているはずです。もちろんですが、我々市民は相応の報いを受けることになります。

My personal guess is that the U.S. market, especially the non-blue chips, will work its way higher, perhaps by 20% to 30% in the next year or, more likely, two years, with the rest of the world including emerging market equities covering even more ground in at least a partial catch-up. And then we will have the third in the series of serious market busts since 1999 and presumably Greenspan, Bernanke, Yellen, et al. will rest happy, for surely they must expect something like this outcome given their experience. And we the people, of course, will get what we deserve.


次の引用こそ、彼の本音にあたる部分だと思います。(2013/11/25追記、一部訂正しました)

しかしそうなるまでは、投資家は米国市場がすでに相当割高だとわかっておくべきです。実際のところ、今後7年間のリターンは実質ベースでマイナスになると我々は確信しています。この夏にはほとんどの外国市場でも急上昇しましたが、いくぶん低いもののこれらも割高です。我々の見解では、分別ある投資家は総じて株式への投資分やリスク水準を既に減らしておくべきです。賢明な投資家(お望みならば「バリュー投資家」とも)は、相場が頂点に達する最終段階では、さまざまな楽しみをまず見送らざるを得ません。これはかなり苦しいことですが、投資における教訓のひとつなのです。今回の相場も、もはや例外ではありません。投機に参加したいという気持ちが慎重な姿勢をくじくかもしれませんし、たぶんそうなります。しかし、これが世の中というものです。中央銀行と共にある我らは、そうなって然るべきなのでしょう。

In the meantime investors should be aware that the U.S. market is already badly overpriced - indeed, we believe it is priced to deliver negative real returns over seven years - and that most foreign markets having moved up rapidly this summer are also overpriced but less so. In our view, prudent investors should already be reducing their equity bets and their risk level in general. One of the more painful lessons in investing is that the prudent investor (or "value investor" if you prefer) almost invariably must forego plenty of fun at the top end of markets. This market is already no exception, but speculation can hurt prudence much more and probably will. Ah, that's life. And with a Fed like ours it's probably what we deserve.


最後の引用はGMOらしい文章で、興味深い過去の事実を紹介しています。今回の彼の発言は、ここから始まっていたようですね。

GMOが設立された1977年の10月以来、36年間が経過しました。その間で、次期選挙に向けて景気を刺激するのが論理的・経験的に必要とされる大統領任期の3年目をみると、ほかの3年間合計よりも1.5倍以上の成績でした。一方の1,2年目はまさに引き締めの時期で、それに伴って市場も不調でした。もっとも不調だった5期分の大統領任期サイクルでは、1,2年目の平均の成績はマイナスでした。一方、3期分のサイクルでは非常に好調な成績におわっています。それら3期の結果が、過剰な刺激傾向を示すグリーンスパン=バーナンキ体制に完全に帰するとは言えませんが、ほとんどはそうだと言えるでしょう。大統領任期サイクルにおける1年間とは、始まりが10月1日で終わりが9月30日であることに留意しておいてください。その3期分のサイクルでの最初の2年間のリターンをみると、1996年のときが48%、1984年が43%、2004年が19%でした。さて、次の事実はおどろくべきものです。1996年から始まるサイクルの最終年は2000年ですが、市場が暴落した年です。1984年サイクルには1987年の暴落がありました。そして2004年サイクルでは2008年の金融危機が発生しています。現在のサイクルは1年目ですでに19%上昇しています。もちろん、非常に好調な2年間にとどまらず全部よかった、となるかもしれません。はたして、どうなることでしょうか。

Since October 1977 when GMO started, 36 years have passed. In that time - when logic and experience say you stimulate to help the next election - the third year has been over 1.5 times the other three added together and years one and two, when you should be tightening, have been commensurately weak. For the weakest five cycles, the average of years one and two was negative but for three cycles it was strong, even very strong. These three cannot be blamed totally on the Greenspan-Bernanke regime's tendency to overstimulate, but mostly they can. Bearing in mind that for us Presidential years run October 1-September 30, these three two-year returns were 1996, +48%; 1984, +43%; and 2004, +19%. Now, this is the scary part. 1996 ended in the 2000 crash, 1984 in the crash of 1987, and 2004 in the financial crash of 2008. In the current cycle we are already up 19% with a year to run! Of course, it may turn out to be a very strong two years and all will be well. Who knows?

2013年11月22日金曜日

累進消費税について(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その12です。今回も2件の質問に答えています。軽い話題とまじめな話題です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> バフェットさん、あなたがコーンハスカー[ネブラスカ大学のアメフト・チーム]の新人クォーターバックを夕食に誘ったといううわさは、本当のことでしょうか。

<バフェット> ちがいます。もしいい人を知っていたら、そうですね..、もしこちらに身体壮健でボールを60ヤード先[=50m超]に放れる人がいたら起立していただけますか。[出身大学のアメフト・チームが]すごく楽しみなのです。われわれのアメフト・コーチは全国でも一番だと思います。彼[コーチのトム・オズボーン]とナンシー[トムの妻]は二人ともすばらしい人です。それは個人的に知っています。今年はすごく運が悪かったので、ぜひ全部の歯車がうまくかみ合うようになってほしいものです。

<質問者> この国の税制は、ビジネスや個人が投資や貯蓄に励むような後押しをしていないと強く感じています。そういった動機づけがないと、国の経済成長は限定されてしまいます。バフェットさんは、付加価値税のような広く適用される消費税に賛成ですか。それと共に譲渡所得税や法人と個人双方[の所得]に課される税率を引き下げ、貯蓄や経済における投資活動を促進させるのです。

<バフェット> ええ、この話をする理由はいろいろあります。その一つが貯蓄を奨励することですが、それとは別の理由で累進税率の消費税がいいと考えています。これは消費する量が増えるほど税率が上がるものです。税率が一定だと比例的に課税されるので、いいやりかたとは思いません。全員に課税する際に同じパーセント分を払わせるようなものです。正直なところ、公平性という面からみて累進消費税がもっとも公平な税だと感じています。現実問題として短期的には経済に悪影響を与えるでしょうが、長い目で見ればもっとも有益だと思います。次第に投資をうながし、基本的には生活水準が向上するでしょう。しかし累進課税ではなく、消費税や連邦売上税などをきっちり比例的にするのは不公平です。ひどく逆進的になるからです。はっきり言えば、他人よりも多く消費する人は、消費することによって社会という蓄えから効率よく引き出すことになります。ですから高い割合で消費する人は、より高い税率を支払うべきだと思います。

わたしは累進税率の消費税導入を強く要請してきましたが、10年前や20年前とくらべると経済学者や政治家にいくぶん受け入れられるようになりました。数十年前には、この考えは経済学の一部の領域に限られていたのです。上院議員の[サム・]ナンと[ピート・V・]ドメニチは1年半前に報告書を出していますが、その中でこれと実質的に同じことを実施するように勧告しています。無制限貯蓄勘定(Unlimited Savings Account)、略称USA というのが彼らのつけた呼び名です。しかし5,6年前にわたしの案ではまだまだだったときとくらべると、今は貯蓄よりも税率のほうが実現しやすいと思います。貯蓄の状況は悪くなってきてはいません。楽観的すぎると思われるかもしれませんが、それでもほとんどの外国の経済とくらべれば、この国では貯蓄を推進するよりも簡単に実現できます。現実問題としては、消費税あるいは無制限のIRA口座[個人退職勘定]がやりやすいでしょう。この国の経済状況は、貯蓄を推進している外国の大多数のようには厳しくないのですから。

Q. Mr. Buffett, I'd just like to know if there is any truth to the rumor that you have been taking Cornhusker quarterback recruits out to dinner?

A. Nope. If I knew any good ones, I think I would, but... If anybody here is healthy and feels like they can throw that ball sixty yards, stand up. I've got an intense interest. I think we have the best football coach in the United States. He and Nancy are both truly outstanding human beings. I know that personally. I would love to see everything come together. I think he has had a lot of bad luck this year.

Q. Mr. Buffett, I believe the Nation's tax code does not provide the incentives for businesses and individuals to save and invest. Without these incentives, the growth of the Nation's economy is limited. Would you support a broad-based consumption tax, such as a value-added tax, combined with offsetting reductions in the capital gains tax and corporate and individual tax rates, to encourage more savings and investment in our economy?

A. Well, I would say this, for various reasons, one of which is encouraging savings, but for other reasons I would favor a progressive consumption tax - a tax where the rates go up as you consume more. I would not favor a flat tax because that’s proportional. That would be like having the some tax on everybody, paying the same percentage. And, I really feel, in terms of equity, that a progressive consumption tax is the most equitable tax. I also think it would have the greatest long-term benefits, although in the short term it would actually hurt the economy. But, over time, I think it would provide more investment and that will provide essentially a higher standard of living. Unless it is progressive though, it’s unfair to have that or a national sales tax or anything that’s strictly proportional, because it gets very regressive and, frankly, I think those people who consume far more than their fellow man are making withdrawals from society's bank effectively when they consume. I think they should pay higher rates as they get up in the high rates of consumption.

But, I've urged a progressive consumption tax and it's achieved somewhat more currency with economists and politicians now than it had 10 or 20 years ago. It was limited to a few academic areas a couple of decades ago. Senators Nunn and Domenici put out a report about 18 months ago, where they recommended something which was equivalent to that. I think they call it USA Unlimited Savings Account. I would say this, though: The tax rates are more conducive to savings now than they were when I was down here five or six years ago. It's not like the situation has gotten worse, in terms of savings. This will sound a little Pollyanna-ish, but it is still relatively easy to save money in this country compared to most economies in the world. A consumption tax or an unlimited IRA, in effect, would make it easier. But, this is not a tough economy compared to most of those around the world in which to save.


ウォーレンの主張する論理「他人よりも多く消費する人のほうが、社会という蓄えから効率よく引き出す」の部分が、恥ずかしながらこれまでは理解できずにいました。しかし今回翻訳するにあたって考え直したところ、ある一面では理解することができました。チャーリー・マンガーは「さまざまな基本的原理を知らないでいるのは不利だ」という趣旨の発言をしていますが、個人的にはその意味を実感できた一件でした。

2013年11月20日水曜日

マックス・プランクの運転手(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の18回目です。前回から間隔があいてしまいましたが、今回まで「総合」の話題がつづきます。(日本語は拙訳)

みなさんを総合の世界へと誘ってきた途中ですが、さて私企業や政府においてどれだけ取り組まれているのか、また何を以って各機能の居場所を決めればよいのか、はたまた総合がうまくいかない理由は何か、こういったことを見極めようとすると、ぐっとむずかしくなります。

私が思うに、経済学を修めて学校を出た高いIQの持ち主であればだれでも、それらの考えすべてを総合した10ページほどの説得力ある文章を書けて然るべきです。しかし、この国の事実上すべての経済学部でこのテストを実施しても、見事にお粗末な総合ばかり返ってくるでしょう。私なら、そちらに大金を賭けます。ロナルド・コース[経済学者]を持ち出してくるかもしれない。取引コストの話になるかもしれない。教授が教えてくれたものの消化しきれないあれこれが出てくるかもしれない。しかし、そういったあらゆるものがどのように相互関連するか本当に理解しているのかとなれば、すごく上手な人はごくわずかだろうと確信をもって予想できます。

じゃあやってみるかと思った人はぜひ挑戦してください。むずかしいことがわかると思います。これに関連して、ぜひ申し上げておきたい興味深い話題があります。プランク定数を発見した偉大なるノーベル賞受賞者マックス・プランクのことです。彼は経済学にいちど挑戦したものの、さじを投げました。指折りの頭脳の持ち主であるマックス・プランクが経済学をあきらめたのはなぜでしょうか。彼の答えはこうでした。「こいつはむずかしすぎる。答えを出そうにも、大雑把で不確かなものにしかならない」。道理を追究していたプランクを満足させるものではなく、けっきょくあきらめることになりました。完璧な道理は導き出せないとプランクが早々に認識していたのであれば、みなさんもまったく同じ結果に到達するだろうと確信できます。

ところでマックス・プランクには有名な逸話があります。真偽のほどはあやしいのですが、こんな話です。ノーベル賞を受賞してから、彼はあちこちから講演を依頼されるようになりました。そこでドイツ中を講演する際に、運転手に車を運転してもらいました。やがて講演内容を覚えてしまった運転手は、あるとき彼に言いました。「どうでしょうプランク教授、お互いの立場をとりかえてみませんか」。そういうわけで、運転手は朝起きると講演にでかけるようになりました。しまいにはある物理学者が席から立ち上がり、きわめて難解な質問をだしてきました。しかし運転手はうまくやったもので、こう答えたのです。「なんとまあ、ミュンヘンのような進んだ街の市民たる方が、そのように初歩的な質問をなさるとは。よろしいでしょう、わが車の運転手に答えさせるとします」(笑)。

Well, I've taken you part way through the synthesis. It gets harder when you want to figure out how much activity should be within private firms, and how much should be within the government, and what are the factors that determine which functions are where, and why do the failures occur, and so on and so on.

It's my opinion that anybody with a high I.Q. who graduated in economics ought to be able to sit down and write a ten-page synthesis of all these ideas that's quite persuasive. And I would bet a lot of money that I could give this test in practically every economics department in the country and get a perfectly lousy bunch of synthesis. They'd give me Ronald Coase. They'd talk about transaction costs. They'd click off a little something that their professors gave them and spit it back. But in terms of really understanding how it all fits together, I would confidently predict that most people couldn't do it very well.

By the way, if any of you want to try and do this, go ahead. I think you'll find it hard. In this connection, one of the interesting things that I want to mention is that Max Planck, the great Nobel laureate who found Planck's constant, tried once to do economics. He gave it up. Now why did Max Planck, one of the smartest people who ever lived, give up economics? The answer is, he said, "It's too hard. The best solution you can get is messy and uncertain." It didn't satisfy Planck's craving for order, and so he gave it up. And if Max Planck early on realized he was never going to get perfect order, I will confidently predict that all of the rest of you are going to have exactly the same result.

By the way there's a famous story about Max Planck which is apocryphal: After he won his prize, he was invited to lecture everywhere, and he had this chauffeur that drove him around to give public lectures all through Germany. And the chauffeur memorized the lecture, and so one day he said, "Gee Professor Planck, why don't you let me try it as we switch places?" And so he got up and gave the lecture. At the end of it, some physicist stood up and posed a question of extreme difficulty. But the chauffeur was up to it. "Well," he said, "I'm surprised that a citizen of an advanced city like Munich is asking so elementary a question, so I'm going to ask my chauffeur to respond." (Laughter).


余談ですが、以前の投稿でご紹介した本『とんでもなく面白い 仕事に役立つ数学』(西成活裕 著)でも、今回と同じ運転手の話題が取り上げられていました。ただし、昔聞いた話ということですが登場人物がアインシュタインになっています(p.234)。

2013年11月18日月曜日

ヤクトマン・ファンドの投資方針

少し前の投稿で引用した文章に、ファンド・マネージャーのドナルド・ヤクトマンが短期的な成績を追わず、現金比率を上げている旨の一節がありました(過去記事)。彼の今年の成績を確認してみると、年初来の成績はS&P500を若干下回っています。また昨年2012年も5%ほど差をつけられていました(ファンドの成績資料PDFファイル)。もちろん現在の彼の動きは長期的な観点によるものであり、はたからそれを観察できるのは個人的には勉強になります。

今回引用するのは、ヤクトマン・ファンドのWebサイトに掲載されているファンドの紹介文です。ウォーレン・バフェットの説明する内容とよく似ていますが(過去記事など)、もう少し具体的な表現に踏み込んだものもあります。(日本語は拙訳)

Managers Investment Group: Yacktman Fund - Overview

<ファンドの狙い>

ヤクトマン・ファンドが主眼とするのは、長期でみたときの資産形成です。そのうえで、現在における収入も副次的な目標としています。当ファンドでは主に米国企業の普通株に投資しますが、多くの銘柄には分散させません。対象企業の規模は問いません。配当金の支払い状況は考慮しますが、必ずしも必須ではありません。[当ファンド]ヤクトマンは規律に基づいた投資戦略に従い、割安と考えられる価格で成長企業を購入します。この方針こそ、「成長株投資」と「バリュー株投資」の最良の特徴を合わせたものとヤクトマンは信じております。株式を購入する際には、次の3つの属性のうち1つ以上を有していると確信できる企業を追求します。その属性とは、第一に優れたビジネスであること、第二に株主本位の経営がされていること、第三が安値で購入できることです。

<優れたビジネスについて>

優れたビジネスは、以下の項目の1つ以上が該当することがあります。

・主力の製品群あるいはサービス群のマーケットシェアが高いこと。
・対有形資産比でのキャッシュ・リターン率が高いこと。
・相対的に少ない設備投資で、成長し続けながらもキャッシュを創出できること。
・顧客の購買頻度が高く、製品ライフサイクルが長いこと。
・独自のフランチャイズを有していること。

<株主本位の経営について>

株主本位の経営者であれば、過大な報酬をみずからに支払うことなく、会社が稼いだ金の使途を賢明に決めるものとヤクトマンは信じています。ヤクトマンが追い求めるのは次のような企業です。

・事業に再投資し、かつ余剰資金をうみだせる企業
・相乗効果のある買収をおこなう企業
・自己株式を買い戻す企業

<安い購入価格について>

ヤクトマンがさがす株式とは、投資家が企業全体を買う際に支払ってもよいと考える金額よりも安く売られているものです。

個々の企業の株価は短期間で大きく変動することがあります。そのような価格変動は企業の本質的な業績の変化と必ずしも連動するわけではありません。よってヤクトマンは通常、購入すべき機会を好んで待つことにしています。そのような機会は市場全体の価格動向と関係なしに出現することがあります。

Fund Focus

The Yacktman Focused Fund seeks long-term capital appreciation, and, to a lesser extent, current income. The Fund is non-diversified and mainly invests in common stocks of United States companies of any size, some, but not all of which, pay dividends. Yacktman employs a disciplined investment strategy, buying growth companies at what it believes to be low prices. Yacktman believes this approach combines the best features of "growth" and "value" investing. When they purchase stocks they generally search for companies they believe to possess one or more of the following three attributes: (1) good business; (2) shareholder-oriented management; or (3) low purchase price.

Good Business

A good business may contain one or more of the following:

High market share in principal product and/or service lines;
A high cash return on tangible assets;
Relatively low capital requirements allowing a business to generate cash while growing;
Short customer repurchase cycles and long product cycles; and
Unique franchise characteristics.

Shareholder-Oriented Management

Yacktman believes a shareholder-oriented management does not overcompensate itself and wisely allocates the cash the company generates. Yacktman looks for companies that:

Reinvest in the business and still have excess cash;
Make synergistic acquisitions; and
Buy back stock.

Low Purchase Price

Yacktman looks for a stock that sells for less than what an investor would pay to buy the whole company.

The stock prices of individual companies can vary significantly over short periods of time, and such price movements are not always correlated with changes in company fundamental performance. Accordingly, Yacktman generally prefers to wait for buying opportunities. Such opportunities do not always occur in correlation with overall market performance trends.


(追記2013/11/19) 「ウォーレン・バフェットの説明する内容とよく似ている」と書きましたが、通りがかりさんからコメントでご指摘頂いたように、「似ている点はあるが、ちがいもある」といった表現のほうが適切でした。


2013年11月16日土曜日

気楽な金もうけはおわりにしよう(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の9回目です。前回につづいて「不正」の話題です。(日本語は拙訳)

カリフォルニア州の労災制度の話をしましょう。ストレスがかかるのは確かですし、それによる苦痛もあるでしょう。そこで、職場でそういったストレスを抱えている人に補償したいと考えるかもしれません。そうするのは褒められたことだと思うかもしれません。

しかしそのような補償を行うことには問題があります。山のようにでてくる不正をなくすのが事実上不可能なのです。いったん不正に対して補償してしまうと、紹介という企てに乗じる不正直な弁護士、医者、組合などがぞろぞろ出てきます。ひどいふるまいの雰囲気が漂うばかりで、だれもが悪い行いをするようになります。社会の進歩を助けようとしたつもりが、それどころか莫大な害をもたらすのです。

ですから、たやすく不正ができるようなシステムを築くよりも、そのようなことに対して補償しないほうがずっとマシです。つまり、「人生はそんなに甘くない」のです。

ひとつ例をあげましょう。わたしの友人がやっている会社はテキサス州に工場がありました。国境からそれほど離れていない場所で、産業向けの製品を製造していました。彼のビジネスは利益率が低く、なかなか厳しい商売です。その彼は、従業員の労災制度を悪用されてしまいました。金額は莫大で、彼が払う保険料は高くなり、賃金に対する割合が2ケタ台のパーセントに達しました。製品を製造する工程はそれほど危険ではなく、また解体業者というわけでもありませんでした。

彼は労働組合に対して抗議しました。「こういうことはやめてくれ。うちの製品を作るぐらいでは、こういったごまかしの全部をまかなうほどの金は稼げないんだ」。

しかし、だれしもそうするのが習慣になっていました。「これはみんながやっていることで上乗せ分の収入なのだから、おまけの金を手にして悪いわけはない。成功した弁護士や医者やカイロプラクターは、そんなものがいればだが、みんなごまかしているのだから」。

彼らに対して「もうおやめなさい」と諌められる人はいませんでした。ちなみにこれは「パブロフの単なる連想」でもあります。悪い知らせとなれば、それを語る人を憎むわけです。ですから、組合の代表者がみんなに向かって「気楽な金もうけはおわりにしよう」と話すのは非常にむずかしいことでした。組合の代表者として得をすることが何もなかったからです。

結局、我が友人は工場を閉めて、モルモン教の信者が住まうユタ州へ移転することにしました。そこのモルモン教徒は労災制度を悪用していませんでした、少なくとも私の友人の工場ではそうでした。彼が現在支払っている労災保険料がいくらになったかわかりますか。賃金に対する割合が2ケタ台のパーセントだったのが、2%に下がったのです。

この種の不幸なできごとが起こるのは、くだらないことを野放しにするからです。ですから、くだらないことは早々に終わらせるべきです。しばらく放置してしまうと、それをやめさせ、堕落したモラルを取り戻すのは非常にむずかしくなります。

Take the workers' compensation system in California. Stress is real. And its misery can be real. So you want to compensate people for their stress in the workplace. It seems like a noble thing to do.

But the trouble with such a compensation practice is that it's practically impossible to delete huge cheating. And once you reward cheating, you get crooked lawyers, crooked doctors, crooked unions, etc., participating in referral schemes. You get a total miasma of disastrous behavior. And the behavior makes all the people doing it worse as they do it. So you were trying to help your civilization. But what you did was create enormous damage, net.

So it's much better to let some things go uncompensated - to let life be hard - than to create systems that are easy to cheat.

Let me give you an example: I have a friend who made an industrial product at a plant in Texas not far from the border. He was in a low-margin, tough business. He got massive fraud in the workers' compensation system - to the point that his premiums reached double-digit percentages of payroll. And it was not that dangerous to produce his product. It's not like he was a demolition contractor or something.

So he pleaded with the union, "You've got to stop this. There's not enough money in making this product to cover all of this fraud."

But, by then, everyone's used to it. "It's extra income. It's extra money. Everybody does it. It can't be that wrong. Eminent lawyers, eminent doctors, eminent chiropractors - if there are any such things - are cheating."

And no one could tell them, "You can't do it anymore." Incidentally, that's Pavlovian mere association, too. When people get bad news, they hate the messenger. Therefore, it was very hard for the union representative to tell all of these people that the easy money was about to stop. That is not the way to advance as a union representative.

So my friend closed his plant and moved the work to Utah among a community of believing Mormons. Well, the Mormons aren't into workers' compensation fraud - at least they aren't in my friend's plant. And guess what his workers' compensation expense is today? It's two percent of payroll [-- down from double-digits.]

This sort of tragedy is caused by letting the slop run. You must stop slop early. It's very hard to stop slop and moral failure if you let it run for a while.


このシリーズですが、次回からは質疑応答の部になります。長いです。

2013年11月14日木曜日

損失処理で不良債権を一掃する企業(セス・クラーマン)

ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』からご紹介します。前回のつづきで、第8章「事業価値の算出という技」(The Art of Business Valuation)からの引用です。(日本語は拙訳)

投資家によくみられるのが、自分のくだす未来の評価を楽観的にとらえすぎる傾向だ。その好例として、企業が評価損を計上したときにみせがちな反応がある。企業はこの会計慣行に従うことで、みずからの裁量によって所帯の汚れを一掃できる。つまり業績不振の資産や回収不能な売掛金、不良な貸付金、評価損を伴うあらゆるリストラで生じるコストなどから、即座に解放されるのだ。この施策はウォール街のアナリストだけでなく、投資家からも大歓迎されやすい。それらの損失処理を済ませた企業の業績は、一般的に高ROEで利益率も上昇する。そして業績が改善されたことを将来にも織り込んで予測されるようになり、もっと高い株価で評価される理由づけとなる。しかし財務の大掃除を行ったという歴史を、投資家は大目にみるべきではない。過去の失敗がぬぐいさられたからといって、これまで失敗知らずだったとみるのは安易すぎる。ともすれば、過去にあやまちがないから将来も同じだろうと考えはじめるからだ。現在の黒字経営がまずい状態に陥ることはないし、お粗末な投資がくりかえされることもない、 といった起こりそうもない予想をするようになる。

バリュー投資家は不確実なことを予測することも含めて分析を行う必要があるが、いったいどのように取り組めばよいだろうか。その答えはただひとつ、「保守的にやること」である。あらゆる予測はまちがいと背中合わせなので、楽観的な見通しをするのは、危険な突端にみずから立つことになる。楽観的だと、事実上すべてのことが的中しなければならない。さもなければ損失をこうむるだろう。一方、保守的な予測であれば容易に達成できるし、超過する可能性もある。保守的な見通しをたてた上で、それを起点に価値を評価し、さらにそこから大幅に割り引いた値段で買うこと。それこそが思慮ぶかい投資と言える。(p.125)

Investors are often overly optimistic in their assessment of the future. A good example of this is the common response to corporate write-offs. This accounting practice enables a company at its sole discretion to clean house, instantaneously ridding itself of underperforming assets, uncollectible receivables, bad loans, and the costs incurred in any corporate restructuring accompanying the write-off. Typically such moves are enthusiastically greeted by Wall Street analysts and investors alike; post-write-off the company generally reports a higher return on equity and better profit margins. Such improved results are then projected into the future, justifying a higher stock market valuation. Investors, however, should not so generously allow the slate to be wiped clean. When historical mistakes are erased, it is too easy to view the past as error free. It is then only a small additional step to project this error-free past forward into the future, making the improbable forecast that no currently profitable operation will go sour and that no poor investments will ever again be made.

How do value investors deal with the analytical necessity to predict the unpredictable? The only answer is conservatism. Since all projections are subject to error, optimistic ones tend to place investors on a precarious limb. Virtually everything must go right, or losses may be sustained. Conservative forecasts can be more easily met or even exceeded. Investors are well advised to make only conservative projections and then invest only at a substantial discount from the valuations derived therefrom.

2013年11月12日火曜日

53年分の坂道(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その11です。今回は2件の質問に答えています。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> ネブラスカ州株式ファンドへ投資したのは1回限りのものですか。

<バフェット> ちがいます。そのファンドは1年ぐらい前に州知事か彼の関係する団体が設立したもので、この州の低所得者向け住宅を供給するための出資です。その種のファンドは国中にあり、わたしどもはそういった全国レベルのファンドに拠出してきました。それでネブラスカ州ファンドにも投資してくれないか、と州知事から依頼があったのです。そうですね、いずれ投資しましょうと答えました。そういった投資にはもっと広くから参加してほしいと思います。というのは、社会に貢献するだけでなく、完璧に合理的な投資だからです。その投資によって、われわれの出資分にはどんな犠牲も生じません。これはバークシャー・ハサウェイにとって経済的に理にかなったものです。この州の企業ならば、ぜひ参加してほしいと思います。ですから、この投資は一度きりのものではありません。

<質問者> 私のような若い起業家が開業用の資金を手に入れるにはどうしたらよいでしょうか。

<バフェット> 開業資金がほしいのですか。なかなかむずかしい質問ですね。複利とは坂をころがす雪玉のようなものです。小さな雪玉で始めても、かなり長い坂をころがせば(最初に株を買ったときからなので、わたしの坂は53年分になります)、そして雪の湿り気がうまい具合であれば、最後にはかなりの雪玉に育ちます。でも、こう質問されるかもしれません。「そのてっぺんで、小さな雪玉はどうやって手に入れたのか」と。収入を全部使わずにいくらか残すことしか、わたしの口からは申し上げられません。まあ、遺産をもらえる幸運な人なら別ですが。

ご存知と思いますが、わたしの場合は投資が好きだったので、6歳の時から貯金をしはじめました。学校を出るころにはそれが1万ドルになりました。もちろんですが、お金がたまりやすいのは家族を持つ前です。資金入手を果たす方法として常々感じていたのですが、すでに本業があり、また自分のニーズに合うのであれば(わたしの場合は新聞を配達することでした。1日のうちの数時間を要する仕事としては最高のものでした)、もうひとつ別の仕事をやるという手があります。その稼ぎを全部貯金するのです。タネ銭があって先んじられるのは、人生において非常に重要なことです。有利な場所でタマを込めた鉄砲をかまえていられるのは、すごくいいですよ。資金はほんとうにわずかな金額かもしれません。1万ドルというのはそれほど大金ではなく、たぶん現在の価値で10万ドルぐらいだと思います。ですが、その資金がわたしの強みになりました。それがなかったら、その後のことは果たせなかったと思います。資金をつくるには、収入以下で生活するしかありません。まだ若いときのほうが簡単にできます。特に家族ができる前はそうです。(PDFファイル12ページ目)

Q. Was your investment with the Equity Fund of Nebraska a one time offering?

A. No. About a year or so ago, the Governor, or a group connected with the Governor, organized a fund to sponsor low income, affordable housing in the State. These funds have existed around the country and we had participated in those national funds; so he asked if we would participate in the Nebraska fund. We said yes, and we will participate in the future. I hope that the participation becomes broad, because it not only has a good social purpose, but it's a perfectly intelligent investment. So, it is not like there is any sacrifice on our part in doing this. This is something that makes economic sense for Berkshire Hathaway. And, I would hope that other businesses around the State would join in. It's not a one-time thing.

Q. How would a young entrepreneur, like myself, get start-up cash for my business?

A. Get start-up capital? Well, that's a tough question because compound interest is a little bit like rolling a snowball down a hill. You can start with a small snowball and if it rolls down a long enough hill (and my hill's now 53 years long - that's when I bought my first stock), and the snow is mildly sticky, you'll have a real snowball at the end. And then, somebody says, "How do you get the small snowball at the top of the hill?" I don't know any way to do it except spending less than you earn and saving some money, unless you are lucky enough to inherit some.

In my own case, you know that I was always interested in investing, so I started saving when I was about six and by the time I got out of school, I had about $10,000. It is much easier to save money, obviously, before you have a family than after you have a family. I've always felt that one way to do it, if you've got a job and it's meeting your needs (in my own case, I delivered papers and that's an ideal job for a couple hours a day), is to take a second job and save all the money from that. Getting the initial stake, being ahead of the game, is enormously important in life. It is so much better to be working from a position of strength and have a loaded gun. That may be a fairly small amount of money. Ten thousand dollars doesn't sound so big, although it was probably the equivalent of close to $100,000 now. That was my edge. If I hadn't had that, I wouldn't have had anything to work with subsequently. There isn't really any way to get capital except to spend less than you earn. That's easier when you are very young than at any other time-certainly before you have a family.



2013年11月10日日曜日

バリュー投資家ウォーリー・ワイツの現金比率

ネブラスカ州オマハと言えばウォーレン・バフェットの本拠地です。しかしその土地には、ずっと地味ながらもそれなりに注目されてきた別のバリュー投資家がいます。ウォーリー・ワイツ氏です。今回ご紹介するのは、彼のファンドにおける現在のポートフォリオの現金比率について、米ブルームバーグの記事から引用します。(日本語は拙訳)

Weitz to Yacktman Hoard Cash as Value Managers Find Few Bargains (Washington Post with Bloomberg)
(ワイツからヤクトマンに到るバリュー投資家、掘り出し物がみつからず積みあがる現金)

ミューチュアル・ファンド[=投資信託]のマネージャーであるウォーリー・ワイツは安いと思える株式を買ったことで、過去5年間の成績は同業者の中で上位10%に入った。その彼が、最近はお買い得がほとんどみつからず、手持ち現金が増えるままにしている、と言う。

「すごいアイデアを新しく見つけられるほうがずっと楽しいのですが」、ネブラスカ州オマハにいるワイツに電話でインタビューをすると、そう答えた。彼のファンドのひとつであるワイツ・バリュー・ファンドは預かり資産が1100億円だが、現金や財務省短期証券で保有している割合は9月30日現在で29%になる。「我々は市場がくれるものを頂戴するのですが、今は何もくれませんね」、彼はそう言った。

ワイツが寝かせている現金は、彼の30年間にわたる経歴の中で最高水準に近づいている。これはドナルド・ヤクトマンやチャールズ・ドゥ・ボーといった同業者と同じだ。彼らの話でも、株価は過去最高水準に達しており、お買い得は見出しがたいとのことだった。彼らは、この5年間で株式の上げ相場が4年つづいている現在は現金でいたほうが安全と考え、より高い成績をあえて追いかけない。

プライベート・エクイティーの経営陣レオン・ブラックやウェスリー・エデンスは「行き過ぎた高値になって、売り手市場と化していく」と言っており、ワイツの見解はこれと同調している。またヘッジファンドのマネージャーであるセス・クラーマンは、預かり資産を妥当な水準に保つために資産の一部を顧客へ返還している。

米国株ファンドにおける現金資産の平均は8月31日の時点で、1年前と比較して3.7%から5%へ増加した。シカゴのモーニングスター社のデータによれば、議会が先週合意に達し、暫定的に停止していた連邦政府業務が再開されたことで、S&P500指数が新高値を付け、2013年の上昇率は23%となった。

Wally Weitz, the mutual-fund manager who beat 90 percent of rivals in the past five years by buying stocks he deemed cheap, says bargains are so scarce these days that he's letting his cash holdings swell.

"It's more fun to be finding great new ideas," Weitz, whose $1.1 billion Weitz Value Fund had 29 percent of assets in cash and Treasury bills as of Sept. 30, said in a telephone interview from Omaha, Nebraska. "But we take what the market gives us, and right now it is not giving us anything."

Weitz, whose cash allocation is close to the highest it's been in his three-decade career, joins peers Donald Yacktman and Charles de Vaulx in calling bargains elusive with stocks near record highs. They're willing to sacrifice top performance for the safety of cash as stocks rally for a fourth year in five.

The mutual-fund managers' comments echo private-equity executives Leon Black and Wesley Edens, who say steep prices make this a seller's market. Hedge-fund manager Seth Klarman is returning some client capital to keep assets in check.

The average amount of cash in U.S. equity funds increased to 5 percent as of Aug. 31 from 3.7 percent a year earlier, according to data from Chicago-based Morningstar Inc. That's even as the Standard & Poor's 500 Index rose 23 percent in 2013 after reaching new peaks in the wake of last week's congressional agreement to end the partial U.S. government shutdown.

2013年11月8日金曜日

それでも盗まないでいられるだろうか(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の8回目です。今回と次回は心理学から派生して「不正」の話題です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

世知のほとんどは、すごく単純なものです。腕まくりして取りくむ意思があれば、私が推奨していることはむずかしいものではありません。そして得られる見返りはすばらしいです。本当にすごいですよ。

しかし、すばらしい見返りに興味がない人がいるかもしれません。不遇が続いても気にしないし、さまざまな自分の好きなことに対してよりよく貢献したいとは考えないかもしれません。そういうつもりであれば、私の話には耳を貸さないでください。なぜなら、すでに正しい道を歩んでいるからです。

人の心理にかかわる世知を考える際には、モラルに関する問題が深く絡みあってきます。このことはいくら強調しても足りないぐらいです。たとえば「盗む」という問題を考えてみましょう。もし容易に盗める状態にあり、かつ捕まる可能性が事実上ないとしたら、大多数の人が盗みをはたらくでしょう。

そしてひとたび盗みに手を染めてしまうと、一貫性の原則[参考記事]、すなわち人の心理面で大きな部分を占めるものが、オペラント条件付け[参考記事]と協調してはたらき、盗みをする習慣がついてしまいます。もし事業を経営している人が、容易に盗みができる環境を自らの方針ゆえにつくっているとしたら、職場で働く人たちに対してモラルの面でひどい傷を負わせていることになります。

あたりまえですが、不正がしにくいシステムを築くことはきわめて大切です。そうしないのは、ここまで進展した社会を壊すことになります。そういった強い動機づけがあると、動機づけによるバイアスを引き起こす上に、悪事をはたらいても問題ないのだと自己を正当化するようになります。

不正をはたらく人には、少なくとも2つの心理的な原理がうかがえます。動機づけによるバイアス[参考記事]、そして社会的証明[参考記事]です。それだけでなく、セルピコ効果[アル・パチーノ主演の映画が有名]も生じます。これは、ある社会環境において悪しき行為から利益を得る人が十分にいると、警鐘を鳴らす人にむかって反抗し、危険な敵となる現象です。

そういった原理を無視して、ばかげたことが忍び込むままとするのは非常に危険です。その心理的な力は強大で、悪行をはたらくからです。

この件が法律の仕事とどう関係するのだろうか、そう感じたかもしれません。では申し上げましょう。スタンフォードのロースクール[=この講演を行っている場所]のような学校を卒業し、崇高なこころざしを抱いてこの国の立法府に進んだ人たちが、容易に不正をはたらくことができる法律を制定するのです。これほどひどいことはなかなかできませんね。

公共の分野で働きたいと望む人がいるとします。そう思案する際の一環として、当然ながら逆から考えてみるでしょう。「我々の社会をダメにするにはどうしたらよいか」。簡単です。社会を堕落させたいのであれば、人が容易に不正をおこなえるシステムを作るように、議会で法案を成立させればいいのです。これで完璧にうまくいきます。

Worldly wisdom is mostly very, very simple. And what I'm urging on you is not that hard to do if you have the will to plow through and do it. And the rewards are awesome - absolutely awesome.

But maybe you aren't interested in awesome rewards or avoiding a lot of misery or being more able to serve everything you love in life. And, if that's your attitude, then don't pay attention to what I've been trying to tell you - because you're already on the right track.

It can't be emphasized too much that issues of morality are deeply entwined with worldly wisdom considerations involving psychology. For example, take the issue of stealing. A very significant fraction of the people in the world will steal if (A) it's very easy to do and (B) there's practically no chance of being caught.

And once they start stealing, the consistency principle - which is a big part of human psychology - will soon combine with operant conditioning to make stealing habitual. So if you run a business where it's easy to steal because of your methods, you're working a great moral injury on the people who work for you.

Again, that's obvious. It's very, very important to create human systems that are hard to cheat. Otherwise, you're ruining your civilization because these big incentives will create incentive-caused bias and people will rationalize that bad behavior is OK.

Then, if somebody else does it, now you've got at least two psychological principles: incentive-caused bias plus social proof. Not only that, but you get Serpico effects: If enough people are profiting in a general social climate of doing wrong, then they'll turn on you and become dangerous enemies if you try and blow the whistle.

It's very dangerous to ignore these principles and let slop creep in. Powerful psychological forces are at work for evil.

How does this relate to the law business? Well, people graduate from places like Stanford Law School and go into the legislatures of our nation and, with the best of motives, pass laws that are easily used by people to cheat. Well, there could hardly be a worse thing you could do.

Let's say you have a desire to do public service. As a natural part of your planning, you think in reverse and ask, "What can I do to ruin our civilization?" That's easy. If what you want to do is to ruin your civilization, just go to the legislature and pass laws that create systems wherein people can easily cheat. It will work perfectly.


参考までに、チャーリー・マンガーは大学を卒業せずにハーバード・ロースクールへ入学しています(過去記事)。また、同僚とともに立ち上げた法律事務所Munger, Tolles & Olsonは、今ではアメリカでも指折りの事務所として評価されています(英文Wikipedia)。

2013年11月6日水曜日

樹木が発生するのは水を好むからではない(エイドリアン・ベジャン教授)

流れとかたち ― 万物のデザインを決める新たな物理法則』という本を最近読みました。熱力学の大家である著者はマクロな視点に立ち、無生物の物理的傾向と生物の進化さらには人間文明の方向性を、ひとつの統一原理「コンストラクタル法則」によって説明しようとしています。これは「あらゆるものごとは、流れをよくする形へと変化する傾向がある」とするものです(英文Wikipedia)。本書で展開される説明はそれなりに説得力のあるものがつづき、なるほどと感心させられます。ただし適用範囲が壮大で、すべて納得できるかというと疑問符がつくかもしれません。意欲作というか問題作というか、先週末に丸の内の丸善をのぞいたときには各所に平積みされており、話題を呼びそうな作品です。

一般に、ミクロ的な基本原理の積み重ねでものごとを説明できればそれに越したことはありません。しかしそれがむずかしかったり、本質をつかみにくい場合には、本書の著者が提示するように俯瞰してとらえるやりかたは有効的だと思います。今回同書から引用する文章はその「俯瞰」の話題とは少し離れますが、本ブログでとりあげる話題に関連する箇所をご紹介します。

まずは、発想の逆転について。チャーリー・マンガーおなじみの思考プロセスですが、この発想には仰天させられました。

熱力学の第二法則によれば、自然界は局地的にも全体的にも、湿気の多い所から少ない所へ水を動かす傾向を示すことになっている。木も草も、湿気の少ない空気が大気から水分を吸い取るために使うストローのようなものだ。(中略)コンストラクタル法則は、樹木と森林が現れて存続するのは大地から大気への水の迅速な移動を促進するためであることを教えてくれる。(中略)樹木が「発生する」のは、そこに水があり、(上方へ)流れなければならないからであって、「木は水を好む」からではない。(p.198)


つぎは、規模の経済についてです。なお、この話題は本書の主題の一部を占めるもので、他の場所でも何度かとりあげられています。

たとえば、質量1,000キログラムのゾウが1キロメートル移動すると、移動する質量1キログラム当たりの食物摂取量は0.0562に比例する。質量が10キログラムのジャッカル100頭が同じく質量1キログラムを同じ距離だけ移動させたら、その1キログラムに必要な食物の量は0.383に比例する。ここで大事なのは、2つの食物必要量の比率、0.0562/0.383(約7分の1)という数値だ。結論として、ゾウが質量1キログラムを移動させると、ジャッカルの質量1キログラムを移動させるときと比べ、食物のコストはわずか7分の1にしかならない。

この事実から、さらに2つの大きな考えが浮かび上がる。第一にこれは、工学、経済学、ロジスティックス、ビジネスの各領域で認められている規模の経済という現象に、理論物理学的な基盤を提供してくれる。何かを大量に動かすときの効率は、規模に応じて向上する。第二にこれは、進化にはものの動きの向上へと向かう方向性があるという考えを際立たせてくれる。雨粒があって初めて川が生じるように、地球上では小さい動物が出てきてから大きい動物が登場した。ゾウより前に単細胞生物が、オオアオサギより前に蚊ぐらいの大きさの昆虫が現れた。コンストラクタル法則を使うと、動きが活発になるだけでなく、動きの効率も向上するという紛れもない傾向が見て取れる。(p.151)


最後の引用は、「コンストラクタル法則」に対する著者の所信表明の中でも東洋的なひろがりが感じられる箇所です。

コンストラクタル法則は、進化についてのダーウィンの考えに物理的原理の後ろ盾を与える。この法則は、特定の変化が他の変化よりも良い理由を説明し、そうした変化は偶然ではなく、より良いデザインの生成を通じて現れることを示してくれる。コンストラクタル法則はまた、進化についての私たちの理解を拡げ、生物学的変化という自然の傾向が、無生物の世界を形作るものと同じ傾向であることを示してくれる。

コンストラクタル法則とはそういうものだから、私たちが森の中を歩くときに感じる統一性の圧倒的な感覚の科学的根拠を提供してくれる。大地も、樹木も、大気も、私たち自身も、本当につながっている。いっさいのものは、同一の普遍的な力によって形作られ、創造の一大交響楽を奏でながら、それぞれが全体を支えているのだ。(p.223)


本書は万人向けするものではないと思いますが、生物の進化や地球物理的な現象のどちらにも興味のある方には刺激を与えてくれる作品です。個人的にはものごとをながめる視点のひとつとして、このメンタル・モデルを積極的に使っていきたいと感じました。

なお、規模の経済については過去記事で何度かとりあげていますが、以下の2つの投稿では「規模の不経済」が登場しています。この件は企業分析を行う際の要所のひとつと感じています。

規模の不経済(チャーリー・マンガー)
何も発明していない男、サム・ウォルトン(チャーリー・マンガー)

2013年11月4日月曜日

ガソリンたっぷりの人たち(スティーブン・ローミック)

FPAのファンド・マネージャーであるスティーブン・ローミックが四半期のレターを出していました。今回は、ポートフォリオの比率に関する話題を引用します。(日本語は拙訳)

FPA Crescent Fund Quarterly Commentary 3rd Quarter (October 8, 2013)

ここ最近の状況ですが、ガソリンたっぷりの人たちがご親切なことに、潜在的な損得勘定を考えるともう魅力がないと思える水準まで、我々の投資先の価格を押し上げてくれました。 頭は正直に、そして心は冷静でいたいと願う以上、この機会に乗じていくらか売却する以外には手がないと考えました。その結果、現在の保有株式銘柄数は46となり、2012年に最大だった時より7つ減少しました。2013年にポートフォリオからはずした11社への投資はすべて利益をだし、平均64%のゲインをあげました。銘柄数が減り、また魅力的な機会が少なくなったことで、買い持ち分の株式合計の割合は2012年末に63.8%だったものが54.2%まで縮小しました。しかし個々の証券のエスクポージャー[価格変動リスクの度合い]はそれに比例して減少してはいません。ほかよりも株価が好調な企業があったところで、それが常に正当だとは言えないからです。[当ファンド]クレセントの正味分の状況としては、有効流動性[=現金等価物]の割合が39.4%へ上昇しました。以前にも述べましたが、機会がめぐってきたときには、この流動性がきっとふたたび我々の味方となってくれるでしょう。

In the meantime, we've taken advantage of the kindness of others who seem to have plenty of petrol and have bid up many of our investments to a point where we find the risk/reward unattractive. To remain intellectually honest and clinically dispassionate, we have found ourselves with little alternative but to make some sales. The number of equity positions now number 46 as a result - 7 fewer than our 2012 peak. Each of the eleven companies purged from the portfolio in 2013 were profitable investments, posting an average gain of 64%. Fewer names and little in the way of attractive opportunities have caused our gross long equity exposure to shrink to 54.2%, down from 63.8% at 2012 year-end. Individual security exposure has not declined ratably, however, as some companies have seen their stock prices perform better than others, and not always justifiably. The net result is that Crescent's available liquidity has increased to 39.4%. As has occurred in the past, we expect that liquidity will inevitably be our friend again once opportunity returns.

2013年11月2日土曜日

石器時代へあともどり(ウォーレン・バフェット、チャーリー・マンガー)

経済誌Fortuneのインタビュー記事で、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーのコンビがそろって登場していました。よくある話題ですが、ウォーレン側の話題を引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

The best advice I ever got (Fortune; November 18, 2013)
(わたしが受けた最高の助言)

<バフェット> わたしには割安株にこだわるところがあったのですが、これはわがヒーローのベン・グレアムから学んだものでした。ところがチャーリーから、「銘柄を探すうえでそのやりかたはよくないよ」と言われたのです。チャーリーはこう説いてくれました。「本当に巨額の財産を時とともに築いていくには、よいビジネスに投資してそこから離れないこと。その上で、よい事業をさらに加えていくこと」。それを聞いてわたしは、まさしく本当に大きく変わりました。すぐにはそうできなかったですし、元に戻ってしまうこともありました。しかしわたしの成績にすごく大きな影響をもたらしました。彼の言ったことは本当に正しかったのです。

<マンガー> 私はふだんからものごとの成否を観察して、なぜそうなるのか考えるようにしていますからね。

<バフェット> そのやりかたで初めて実際に買った事業がシーズ・キャンディーです。これはとびぬけたビジネスでした。昔のわたしだったら、最後の残り数百万ドルが惜しくてしょうがなかったものです。

<マンガー> 残り数百万ドルって言ってますけれど、最後の25,000ドルは惜しんでいたでしょう。

<バフェット> わたしが石器時代へあともどりしないように、チャーリーはずっと注意してくれました。助言の数は、わたしからよりも彼から受けたほうが多いですね。彼の歩んできた人生は非常に合理的なものです。だれかを妬むような言い方はいちども聞いたことがありません。

<マンガー> 昔から言いますからね。「妬んだところで、いいことあるの。こんな罪おかしても、楽しくなんてありゃしない」。

<バフェット> IQよりも気質のほうがずっと大切ですね。

<マンガー> もうひとつ重要な秘訣として、我々は「死ぬまで勉強」という点に長けていることが言えます。若かった時とくらべると、ウォーレンは70,80歳代になってからのほうがいろんな面でよくなっています。ひたすら学びつづけることで得られる優位というのは、それはすばらしいものですよ。

Buffett: I had been oriented toward cheap securities. Charlie said that was the wrong way to look at it. I had learned it from Ben Graham, a hero of mine. [Charlie] said that the way to make really big money over time is to invest in a good business and stick to it and then maybe add more good businesses to it. That was a big, big, big change for me. I didn't make it immediately and would lapse back. But it had a huge effect on my results. He was dead right.

Munger: I have a habit in life. I observe what works and what doesn't and why.

Buffett: The first real business we bought that way was See's Candies. It was an outstanding business. From my past, I didn't want to pay the last few million dollars.

Munger: The last few million? You didn't want to pay the last $25,000!

Buffett: Charlie kept reminding me that I was slipping into the Stone Age again. He's given me a lot more advice than I've given him. He lives a very rational life. I've never heard him say a word that expressed envy of anyone.

Munger: There's an old saying, "What good is envy? It's the one sin you can't have any fun at."

Buffett: Temperament is more important than IQ.

Munger: The other big secret is that we're good at lifelong learning. Warren is better in his seventies and eighties, in many ways, than he was when he was younger. If you keep learning all the time, you have a wonderful advantage.


引用元の記事に掲載されている写真は黒を基調にしており、お二人のシャツやネクタイの色が引き立ってみえます。いいですね。