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2013年8月30日金曜日

65年ぶりに再び優勝した人(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の13回目です。今回もまたチャーリーからの問題が出ています。回答部分の文章は次回にご紹介します。なお、前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

それでは、そういった問題を私がどのように解いているかお話ししましょう。言うまでも私は単純なサーチ・エンジンを心に抱き、チェックリストを順に確認していきます。さらに、大雑把なアルゴリズムをいくつか使っています。これは非常に多くの複雑なシステムにおいて、かなりうまくいきます。そういったアルゴリズムはたとえば次のように使います。著しい成功とは、それらの要因を組み合わせることでなされるものです。

A) ひとつかふたつの変数を極大化あるいは極小化すること。たとえば、コストコや当社の家具・電化製品店の例があげられます。

B) 成功要因を追加して、より大きな連携をつくることで成功を後押しすること。これは非線形的に進むことがよくあるため、物理学における破断点や臨界といった概念を思い浮かべるかもしれません。そうです、非線形的な結果がしばしばもたらされるのです。もうひと押しすることで、「とびっきりな」結果が得られます。私は生涯を通じて「とびっきりな」結果をさがし求めてきたので、それらがどのように発生するのか説明してくれるモデルには大きな関心を持っています。

C) 多くの要因において、徹底的にすぐれた成績を追求すること。トヨタやレス・シュワブがその例です。

D) ある種の大波をとらえて乗ること。オラクルが例です。なお今日の議事次第の中でオラクルのCFO(ジェフ・ヘンリー)が多くを占めていますが、オラクルのことはそれを知る前から話題にあげようと考えていました。

概して私が問題を解く際に使っており、みなさんにもお勧めなのは、急所を突くアルゴリズムを選んで、前向きだけでなく後ろ向きにもやることです。一例をあげてみましょう。私は家族にちょっとしたパズルを出して悩ませることがあります。次の問題は、それほど昔でない頃に家族へ出したものです。「この国でおこなわれる活動のひとつで、一対一のコンテスト形式によって国内チャンピオンを決めるものがあります。65年前に優勝した人が再び優勝しました。さて、その活動とは何でしょうか」(一時中断)。この問題についても、答えがひらめく人はあまりみたことはありません。私の家族でも、それほど多くはひらめきませんでした。しかし息子の一人に物理学者がいて、私好みのこの種の考え方に精通していました。ほどなく正解にたどりついた彼の説明はこうです。

Well, how did I solve those problems? Obviously I was using a simple search engine in my mind to go through checklist-style, and I was using some rough algorithms that work pretty well in a great many complex systems, and those algorithms run something like this: Extreme success is likely to be caused by some combination of the following factors:

A) Extreme maximization or minimization of one or two variables. Example, Costco or our furniture and appliance store.

B) Adding success factors so that a bigger combination drives success, often in nonlinear fashion, as one is reminded by the concept of breakpoint and the concept of critical mass in physics. Often results are not linear. You get a little bit more mass, and you get a lollapalooza result. And, of course, I've been searching for lollapalooza results all my life, so I'm very interested in models that explain their occurrence.

C) An extreme of good performance over many factors. Example, Toyota or Les Schwab.

D) Catching and riding some sort of big wave. Example, Oracle. By the way, I cited Oracle before I knew that the Oracle CFO (Jeff Henley) was a big part of the proceedings here today.

Generally I recommend and use in problem solving cut-to-the quick algorithms, and I find you have to use them both forward and backward. Let me give you an example. I irritate my family by giving them little puzzles, and one of the puzzles that I gave my family not very long ago was when I said, "There's an activity in America, with one-on-one contests and a national championship. The same person won the championship on two occasions about sixty-five years apart." "Now," I said, "name the activity." (Pause). Again, I don't see a lot of light bulbs going on. And in my family, not a lot of light bulbs were flashing. But I have a physicist son who has been trained more in the type of thinking I like. And he immediately got the right answer, and here's the way he reasoned:

何年か前にこの文章を読んだときは、答えが全く思いつきませんでした。日本人になじみのない話題を取り上げているので、どんぴしゃりの答えを出すのは困難だと思います。

2013年8月28日水曜日

尊敬できる人のもとで働こう(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その6です。今回から質疑応答ですが、どこかで読んだことのある有名な発言がつづきます。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> ご自身の人生哲学をかいつまんで教えていただけますか。なぜそうなのか、理由もお願いします。

<ウォーレン> 立派な人生哲学かはなんとも言えませんが、人生を楽しんでいることはたしかです。自分の生き方を気に入っているという点では誰にもひけをとりません。毎日がいとおしいものです。それというのも、わたしは好きな人だけと働いているという幸せ者だからです。そのような立場にいられて非常に幸運だと感じています。仕事をしていてキリキリと締めつけられるようだったり、仕事に行くのが不安だったり、そういったことをかかえているのはそもそもがお金めあてに結婚するようなもので、どんな状況であってもひどい考えだと思います。もうすでに金持ちになっているなら、なおさら正気の沙汰ではありません。非常に幸運なことに、わたしにはなにもストレスがありません。ですから、ミセスBよりも長生きするつもりです。職場にはタップダンスをしながら向かいます。仕事をえらぶなら自分が楽しめることにするべきだ、とわたしは信じています。ハーバードで質問されて、つぎのような助言を一度したことがあります。「だれのもとで働くのがよいでしょうか」。わたしはこう答えました。「自分の尊敬する人と働くのがいいですよ。そのほうがよい結果になるのはまちがいないですから」。数週間後、その大学の学部長から連絡がありました。「あの一団になんとおっしゃったのですか。みんな自営でやりたいと決心しているのですよ」。

Q. In a sentence or less, could you please tell me what is your personal philosophy of life? And then my follow-up question, why?

A. Well, I'm not sure I have any brilliant philosophy of life. I certainly enjoy life. I like my life as much as anybody possibly could. I mean, I love every day and one reason I do is that I am fortunate in that I only work with people I like. I consider myself very lucky to be in that position. If you work in a job where your stomach churns and you find yourself dreading going to work and all that sort of thing, essentially, that is really like marrying for money, which is probably a dumb idea under any circumstances. And, it's absolute madness if you are already rich. I've been very fortunate in that I have no stress whatsoever. I'm going to try and outlive Mrs. B. I mean it. I tap dance on the way to work. I do believe in working at something you enjoy. I gave this advice one time at Harvard when somebody asked me, "Who should I work for?” I said, “Well, go work for somebody you admire. You're bound to get a good result.” A couple of weeks later, I received a call from the Dean, and he said, "What did you tell that group? They've all decided to become self-employed!"

2013年8月26日月曜日

証券の価格変動と機会費用(セス・クラーマン)

ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』からご紹介です。今回は価格変動の話題をとりあげた一節を引用します。ひきつづき第7章「バリュー投資思想の本質をなすもの」(At the Root of a Value-Investment Philosophy)からです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

一時的な価格変動との関わりあい

投資で起こりうる可能性には、恒久的な損失をだすだけではなく、内在的な価値とは無関係に価格が一時的に変動するものもある(ベータではこの2つを区別できない)。その価格変動を重大なリスクととらえる投資家は多い。価格が下落すれば、ファンダメンタルズがどうであろうとその投資はリスキーだとみなされる。しかし一時的な価格変動はほんとうにリスクなのだろうか。それは恒久的な価値を損なうものではないが、ある種の投資家がある種の状況に立っているときにはリスクとなる。

需給面で短期的な圧力がかかることで価格が一時的に不安定になる場合と、事業のファンダメンタルズから価格が移り変わる場合の違いを、投資家がいつでも容易に見分けられるわけではない。事実が生じてからでないと、真実は明らかにならないこともあるからだ。当然ながら投資家は投資対象へ支払う金額をおさえようとするし、業績悪化に伴って価値が減少するビジネスを買いたがらない。しかし、市場におけるランダムな短期的変動を避けることはできない。実際のところ投資家は価格変動を想定しておくべきで、その変動に耐えられないのであれば証券に投資すべきではない。

妥当な価値のあるものを割安に買うのであれば、短期的な価格変動は問題になるだろうか。長い目で見れば、大きな問題にはならない。最終的には価値が証券価格のうちに反映されるからだ。皮肉なことに、価格が変動することで長期投資が実際に向かうであろう方向は、市場における直近の影響とは逆向きになる。たとえば短期的に価格が下落しても、実際には長期投資のリターンを増加させる材料となる。しかし直近の価格変動が投資家にとって問題となるような状況もある。たとえば証券を早々に売却せざるをえない者は、市場価格にふりまわされる。投資家が成功するために肝心なことは、売りたいときに売ることであり、売らなければいけないときではない。売却を迫られるような投資家は、米国債以外の証券を保有すべきではないのだ。

やっかいごとをかかえた企業に投資している場合でも、直近の証券価格は問題になる。目先をしのぐために資金を調達せざるを得なくなると、証券を保有する投資家は、その会社の株式や債券の支配的な市場価格によって、持ち分の運命をある程度決定されてしまうからだ。(第8章では、再帰性(reflexivity)として知られるこの効果について、より徹底的な議論を展開する)

長期志向の投資家が短期的な価格変動に興味を示す第三の理由は、ミスター・マーケットが非常に魅力的な売買の機会を提供してくれることにある。その際に現金を保有していれば、機に乗じることができる。しかし市場が下落したときに資金を全額投資していると、ポートフォリオの価値が下がるだけでなく、より安い水準で株を買える機会という利益を奪われてしまう。これは機会費用と呼ばれるもので、つまり将来起こりうる機会を見送ろうとすれば必ず発生するものである。保有対象の流動性が小さかったり、市場で取引されていないものだと、機会費用はさらに増すことになる。非流動性は、より割安なものへ切り替える際の妨げとなるのだ。

投資家が機会費用を負うべきかどうか決める上でもっとも重要な要因は、ポートフォリオの一部に現金が残されているか否かである。妥当な現金を残しているか、定期的に十分な現金をもたらしてくれる証券を保有していれば、機会を見送ることが少なくなる。ある種の投資先に重きを置くことで、投資家はポートフォリオ・キャッシュフロー(現金の正味流入分のこと)を管理できる。ポートフォリオ・キャッシュフローは、(残存年数の加重平均が)短期間の証券のほうが長期間のものよりも大きくなる。投資対象の内在的価値が一部あるいはすべて満たされたことをきっかけにして、ポートフォリオ・キャッシュフローを増加させることもできる(第10章で紙面をより費やして議論する)。一般に継続企業へ株式投資をすると、 配当金の支払いの形で ごく一部の現金しかもたらしてくれない。それに対して破産したり清算中の企業の証券は、購入後の数年間のうちにポートフォリオへ十分な流動性資産を還元しうる。リスク・アービトラージを狙った投資[買収時のサヤ取り]は概して、ごく短期間つまり何週間や何ヶ月という期間で、たいていは現金や流動性の高い証券あるいはその両方の形で払い戻してくれる。リスク・アービトラージの状況や破産、清算を対象にした投資案件には、初期投資分と利益の両方が現金で戻されるという、もうひとつの魅力がある。

機会費用を抑えるには、ヘッジを使う方法もある。ヘッジとは、価格下落を緩和するために反対方向へ動くことが予想される別のポジションをとる投資だ。ヘッジ分に価値が発生すれば売却することで、新たにうまれた機会に乗じる資金となってくれる。(ヘッジングについては13章で詳細に議論する)

The Relevance of Temporary Price Fluctuations

In addition to the probability of permanent loss attached to an investment, there is also the possibility of interim price fluctuations that are unrelated to underlying value. (Beta fails to distinguish between the two.) Many investors consider price fluctuations to be a significant risk: if the price goes down, the investment is seen as risky regardless of the fundamentals. But are temporary price fluctuations really a risk? Not in the way that permanent value impairments are and then only for certain investors in specific situations.

It is, of course, not always easy for investors to distinguish temporary price volatility, related to the short-term forces of supply and demand, from price movements related to business fundamentals. The reality may only become apparent after the fact. While investors should obviously try to avoid overpaying for investments or buying into businesses that subsequently decline in value due to deteriorating results, it is not possible to avoid random short-term market volatility. Indeed, investors should expect prices to fluctuate and should not invest in securities if they cannot tolerate some volatility.

If you are buying sound value at a discount, do short-term price fluctuations matter? In the long run they do not matter much; value will ultimately be reflected in the price of a security. Indeed, ironically, the long-term investment implication of price fluctuations is in the opposite direction from the near-term market impact. For example, short-term price declines actually enhance the returns of long-term investors. There are, however, several eventualities in which near-term price fluctuations do matter to investors. Security holders who need to sell in a hurry are at the mercy of market prices. The trick of successful investors is to sell when they want to, not when they have to. Investors who may need to sell should not own marketable securities other than U.S. Treasury bills.

Near-term security prices also matter to investors in a troubled company. If a business must raise additional capital in the near term to survive, investors in its securities may have their fate determined, at least in part, by the prevailing market price of the company's stock and bonds. (Chapter 8 contains a more complete discussion of this effect, known as reflexivity.)

The third reason long-term-oriented investors are interested in short-term price fluctuations is that Mr. Market can create very attractive opportunities to buy and sell. If you hold cash, you are able to take advantage of such opportunities. If you are fully invested when the market declines, your portfolio will likely drop in value, depriving you of the benefits arising from the opportunity to buy in at lower levels. This creates an opportunity cost, the necessity to forego future opportunities that arise. If what you hold is illiquid or unmarketable, the opportunity cost increases further; the illiquidity precludes your switching to better bargains.

The most important determinant of whether investors will incur opportunity cost is whether or not part of their portfolios is held in cash. Maintaining moderate cash balances or owning securities that periodically throw off appreciable cash is likely to reduce the number of foregone opportunities. Investors can manage portfolio cash flow (defined as the cash flowing into a portfolio minus outflows) by giving preference to some kinds of investments over others. Portfolio cash flow is greater for securities of shorter duration (weighted average life) than those of longer duration. Portfolio cash flow is also enhanced by investments with catalysts for the partial or complete realization of underlying value (discussed at greater length in chapter 10). Equity investments in ongoing businesses typically throw off only minimal cash through the payment of dividends. The securities of companies in bankruptcy and liquidation, by contrast, can return considerable liquidity to a portfolio within a few years of purchase. Risk-arbitrage investments typically have very short lives, usually turning back into cash, liquid securities, or both in a matter of weeks or months. An added attraction of investing in risk-arbitrage situations, bankruptcies, and liquidations is that not only is one's initial investment returned to cash, one's profits are as well.

Another way to limit opportunity cost is through hedging. A hedge is an investment that is expected to move in a direction opposite that of another holding so as to cushion any price decline. If the hedge becomes valuable, it can be sold, providing funds to take advantage of newly created opportunities. (Hedging is discussed in greater depth in chapter 13.)

2013年8月25日日曜日

米マイクロソフト次期CEOを予想する

広く報道されているように、米マイクロソフト(MSFT)のCEOスティーブ・バルマーが退任し、後任をむかえる準備をはじめたと発表されました(当社の報道)。以前からバルマーは特に株式市場から好かれておらず、今回の報道によって株価は7%以上上昇しました。株式市場は将来の行方を織り込もうとしていますし、各報道でも憶測がなされています。個人的には当社の一株主なので、今回は戯れながら次期CEOを一点読みで予想してみます。

当社の株式を購入した経緯を書いた際にリスクをあげましたが(過去記事)、まずは「バルマー政権がつづく」ことによるリスクを考えてみます。

・Windows 8およびSurface(特にRT)の失敗のけりがつかないこと
低迷するPCおよびタブレット市場での巻き返しをねらってこれらの製品は投入されましたが、成功と呼べる水準までは受け入れられていません。特にSurfaceは巨額の在庫評価損を計上しました。この責任を正当に問わなければ、次期大型製品(Windows9など)にむけて本質的な反省ができないと感じます。それは、巻き返しを再度試みるための礎がもろくなることにつながります。消費者向け市場でWindows OSの後退をとめないと、やがては当社の主戦場である企業向け市場を侵食されかねません。

・消費者向け市場における業績が強調され、他分野の成功に目を向けてもらえないこと
消費者向けWindowsやSurfaceは低調ですが、企業向け全般やゲーム機Xboxといった事業では成功をおさめています。現在の当社は一部の事業によって企業全体のイメージが描かれており、ひいては中長期的な企業活動全般に悪影響を及ぼすことが危惧されます。

CEOが交代することで、少なくともこれらのリスクは解消できる可能性がでてくると考えます。つぎに、次期CEO選定において重要と思われる属性をあげます。

・「マイクロソフトは変わろうとしている」という印象を、消費者や顧客に与えられるか
社内の重役が昇進するやりかたは、従来の延長ととらえられやすいと思います。この観点からみれば、新CEOには社外の人物か、あるいは社内昇進の場合には女性を登用するのがよいと考えます。

・一方で、外部登用のCEOが社内の信頼を集められるか
IBMがナビスコ社からきたルイス・ガースナーの手で復活したように、外部の血を入れることで、当社の企業文化が強力で獰猛なものに生まれかわるでしょうか。それはちがうと思います。現在の当社は財務や業績面で深刻な不安材料はなく、状況が切迫していません。低調とはいっても、業界の最大手です。そのようなときには、こまかい事情をよく知らない社外の人間に自分たちの指揮をまかせ、その言うことに従いたいとは考えないものです。もちろんCEOを選出・承認するのは取締役会ですが、トップを抱いた社員がどのような心情で動くものか考慮に入れるでしょう。現在の当社では、外様を受け入れる可能性は低いと考えます。

これらふたつのあいだを埋めるものとして考えられる案が、「当社OB」の登用です。OBであれば社内から信任を受ける可能性も高く、その一方で社外的な顔や経験も期待できます。

そこでわたしが予想する当社の次期CEOは、スティーブン・エロップ(Stephen Elop)氏です。彼は携帯電話最大手だったノキアでCEOをつとめていますが、その前には当社でバルマーの部下として働いていました。


エロップ氏は不振のノキアのCEOに抜擢されてから、携帯電話のOSとして採用していたシンビアンを脇にやり、当社製OSのWindows Phone(WP)へ移行することを決断しました。そこに陰謀を感じている報道メディアがありますが、エロップ氏をノキアに出したことはただ単に当社の戦略に基づいたものと、個人的にはとらえています。WPを採用することでノキアが成功すればそれに越したことはないですし、失敗しても別の会社のことですから当社における財務面の影響は小さくとどまります。そのため、当社はノキア社を仮想的に一事業部門として位置づけてきたと考えます。そうであれば、エロップ氏が里帰りするシナリオは当初から想定されていてもおかしくありません。エロップ氏自身もマイクロソフトびいきを側近にそろえ、自分の後を継がせる準備をしてきたと予想します。

エロップ氏を当社のCEOにむかえる案の相対的な利点は、次のとおりです。

1. 大企業ノキアのCEOをつとめた経験があること。
2. 消費者向けの最たる製品、スマートフォンの製造販売企業で奮闘した経験があること。
3. 当社Office部門のボスだったため、それら稼ぎ頭の部門に対してにらみがきくこと。
4. 年齢が若く(1963年生まれの49歳)、長期戦を戦い抜けるだけの力を備えていること。
5. 老け顔かつ声域が低く、企業トップとしてのカリスマ性を漂わせていること。

一方の弱点は次のとおりです。

1. バルマーの元部下であるため、彼と同類扱いされる恐れがあること。
2. ノキアであげた業績は華々しいものとはほど遠く、実力が疑問視されること。
3. 当社のOBだが在籍期間が短く、人望を集めていない可能性があること。
4. ノキアが彼を手放したがらない可能性があること。

自分の株式ポートフォリオのうちのそれなりの部分を、当社およびインテルの合算が占めています(両社は一体としてとらえています)。当社は昨年までに購入し、インテルは今年からの購入です。割安という点でインテルにはさらに投資したいと考えていますが、インテルの行く末は当社にもゆだねられています。そのため今回のCEO交代は個人的にもそれなりに意味を持っており、今後のなりゆきを適宜追っていくつもりです。

最後になりますが、今回の記事は検証されておらず、単なる夢想にすぎません。的中する確率は10%以下、つまり一候補にすぎない程度とお考えください。

2013年8月24日土曜日

余計な不利をまたひとつ背負いこむ(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門、2回目です。おなじみの話題が登場しますが、ここでは具体的な説明がされている箇所を引用します。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

まずはベン・グレアムの話題です。

ご存じのように、ウォーレンにはベン・グレアムという先生かつ指導者がいて大きな影響を受けました。グレアムは学問向きの人だったので、コロンビア大学を卒業したときに3つの学部学科から博士課程へと声をかけられました。その一環として教鞭をとることも要請されていました。その3つとは、文学、ギリシャ・ラテン古典、数学でした。

グレアムはとても学術的な性格を持った人でした。彼とは面識がありましたが、まるでアダム・スミスのような人物でした。先を見通すのがうまく、非常に頭のいい人でした。学者のようにさえ見えたものです。その上、グレアムは良き人間でした。いつも寛大で、30年間にわたってコロンビアで教鞭をとり、自分の分野における教科書を著したり共著したりしながらも、本腰を入れて自己資産を最大化しようとはせずに、裕福なまま亡くなりました。

ここで私が申し上げたいのは、学術界というのは世知について多くを教えてくれる場所だということです。そして学問のもたらす最高に値打ちあるものは、本当にうまく働きます。

Of course, Warren had a professor/mentor - Ben Graham - for whom he had a great affection. Graham was so academic that when he graduated from Columbia, three different academic departments invited him into their Ph.D. programs and asked him to start teaching immediately as part of the Ph.D. program: (those three departments being) literature, Greek and Latin classics, and mathematics.

Graham had a very academic personality. I knew him. He was a lot like Adam Smith - very preoccupied, very brilliant. He even looked like an academic. And he was a good one. And Graham, without ever really trying to maximize the gaining of wealth, died rich - even though he was always generous and spent thirty years teaching at Columbia and authored or coauthored the best textbooks in his field.

So I would argue that academia has a lot to teach about worldly wisdom and that the best academic values really work.


つづいて複数のモデルを使い分ける意義を、トランプのゲームであるコントラクトブリッジを例にして説明しています。

すべてを知り尽くす必要はありません。そういった中から極めて重要なものだけ習得すればよいのです。それだけなら、それほどむずかしいことではありません。

トランプを使うゲームのひとつコントラクトブリッジを例に、この点を説明してみましょう。コントラクトはご存知でしょうから、ディクレアラーとしてうまくやるには何をすべきかはおわかりだと思います。自分のハイ・カードと最強の切り札スートをレイダウンすることで、ハンドにある確実な勝ち札をかぞえることができます。

しかしトリックがひとつかあるいは2枚のショートならば、必要な分のトリックを勝つにはどうすればいいでしょうか。定石が6つほどあります。ロング・スート・エスタブリッシュメントか、フィネスか、スローイン・プレイか、クロスラフか、スクイズか、はたまたディフェンスを惑わせて失敗させるような手をえらぶか。非常に限られた数のモデルしかありません。

しかしそういったモデルを1つか2つしか知らなかったら、ディクレアラーとして「おばかさん」な手しかとれないでしょう。

さらにそれらのモデルはお互いに関わりあっているので、モデル同士がどのように関連するのか知らないと、ハンドを正しくプレイできません。

また、何かを考えるときには順方向と逆方向のどちらからも考えるように、という話もしました。優れたディクレアラーはこう考えます。「確実に勝てるトリックをどうやって手に入れられるだろうか」。しかし逆にも考えるのです(おそらくですが)。「もしまちがって、トリックをたくさん負けてしまったらどうなるだろうか」。どちらの考え方も有用なものです。ですから、人生というゲームで勝利を収めるには、必要なモデルを頭に叩き込み、それを使って順逆の両方向に考えることです。ブリッジでうまくいくことが人生でもうまく働くでしょう。

コントラクトブリッジが廃れてしまったのは、みなさんの世代にとって悲しむべきことだと思います。ブリッジについては、中国はわが国よりも賢明です。いまや、かの国ではブリッジを小学校で教えています。資本主義的な文明が始まれば中国人はうまくやるだろうと、神はご存じです。ブリッジをよく知る人がたくさんいる国と、そうでない我が国が競争することになれば、我々は余計な不利をまたひとつ背負いこむことになるでしょう。

You don't have to know it all. Just take in the best big ideas from all these disciplines. And it's not that hard to do.

I might try and demonstrate that point by (using the analog of) the card game of contract bridge. Suppose you want to be good at declarer play in contract bridge. Well, you know the contract - you know what you have to achieve. And you can count up the sure winners you have by laying down your high cards and your invincible trumps.

But if you're a trick or two short, how are you going to get the other needed tricks? Well, there are only six or so different, standard methods. You've got long suit establishment. You've got finesses. You've got throw-in plays. You've got crossruffs. You've got squeezes. And you've got various ways of misleading the defense into making errors. So it's a very limited number of models.

But if you only know one or two of those models, then you're going to be a horse's patoot in declarer play.

Furthermore, these things interact. Therefore, you have to know how the models interact. Otherwise, you can't play the hand right.

Similarly, I've told you to think forward and backward. Well, great declarers in bridge think, "How can I take the necessary winners?" But they think it through backwards, (too. They also think,) "What could possibly go wrong that could cause me to have too many losers? And both methods of thinking are useful. So (to win in) the game of life, get the needed models into your head and think it through forward and backward. What works in bridge will work in life.

That contract bridge is so out of vogue in your generation is a tragedy. China is way smarter than we are about bridge. They're teaching bridge in grade school now. And God knows the Chinese do well enough when introduced to capitalist civilization. If we compete with a bunch of people that really know how to play bridge when our people don't, it'll be just one more disadvantage we don't need.

2013年8月22日木曜日

信頼感の果たす役割(ハワード・マークス)

Oaktreeの会長ハワード・マークスが新しいメモを公開していました。市場参加者の心理を概括する話題で、それが極端に振れやすいことを示しながら、現在の状況はどうなのか意見を述べています。結論にあたる部分を引用します。(日本語は拙訳)

The Role of Confidence (Oaktree) (PDFファイル)

経済の状況が好転しつづけ、FRBが債券の買い入れを縮小すれば、金利は上昇していくと思われます。しかし信頼感という点で現在は平均的な段階で、市場が危険水準に達しているとは言えない状況です。大半の資産は危険なまでには上昇していませんし(例外として考えられるのが、長期の米国債や高格付け債券)、圧倒的に安いということもありません。極端なときほど何をすればいいのかわかりやすいものですが、私が信じるところでは現在はまさに中間的な状態にあります。自著でも記しましたが、利口な道がまるでない時には、利口にやろうとすることにこそ失敗が待ち受けています。ですから現時点でできる最善の道は、今後投資をするにあたっては慎重さをこころがけ、行き過ぎないよう自重し、つねに注意を心に留めておくことです。

If the economy continues to recover and the Fed's bond buying eases off, interest rates are likely to go further on the upside. But given the modest level of confidence at play, the markets should not turn out to be perilous. Most assets are neither dangerously elevated (with the possible exception of long-term Treasury bonds and high grades) nor compellingly cheap. It's easier to know what to do at the extremes than it is in the middle ground, where I believe we are today. As I wrote in my book, when there's nothing clever to do, the mistake lies in trying to be clever. Today it seems the best we can do is invest prudently in the coming months, avoiding aggressiveness and remembering to apply caution.


彼の出した結論はそれほど歯切れのよいものではないですが、心の底にひそむ想いは共感できます。ただ米国株式市場については、個人的にはもう少し悲観的にとらえています。

2013年8月20日火曜日

10年間待ちつづけた例(チャーリー・マンガー)

2008年から2009年の暴落時に、チャーリー・マンガーは自身が会長を務めるデイリー・ジャーナル社の余剰資金を株式に投資した話は、以前にとりあげました(過去記事)。少し前のBloombergでもこの話題が登場していたので、一部を引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

Munger Triples Publisher’s Value With Panic-Era Stock Bet (Bloomberg)

チャーリー・マンガーを会長にむかえているカリフォルニア州の出版社デイリー・ジャーナル社は、2008年の金融危機の際に株式を買いこんだことで、同社の価値は3倍以上に増加した。

ウォーレン・バフェットの長きにわたるビジネス・パートナーとしてよく知られているマンガーは、ロサンゼルスに拠点をおくデイリー・ジャーナル社の資金を投じて2009年初頭から株式を購入しはじめた。ポートフォリオの価値は3月末日の時点で1億1,230万ドルとなり、現時点での同社の市場価値の65%を占めている。同社の年次総会に出席した投資家は、投資先のひとつとしてマンガーがウェルズ・ファーゴを示唆していたと語る。

「デイリー・ジャーナル社の現金を手つかずのまま10年間待ちつづけ、どん底を完璧にとらえて突如動いたのが、当時80歳代半ばだったこの人です」。こう語ったスティーブ・チェック氏はカリフォルニアのコスタ・メサを拠点とする資産運用のマネージャーで、2004年から同社の総会に参加している。

Daily Journal Corp. (DJCO), the California publisher that counts Charles Munger as its chairman, more than tripled in value since 2008 after the company jumped into stocks during the financial crisis.

Best known as Warren Buffett's longtime business partner, Munger began accumulating equities in early 2009 at the Daily Journal. The portfolio was worth $112.3 million as of March 31, or about 65 percent of the Los Angeles-based publisher's current market value. Investors who attend the company's annual meetings said he signaled that Wells Fargo & Co. (WFC) was among the bets.

"Here's a guy in his mid-80s at the time, sitting around with cash at the Daily Journal for a decade, and all of a sudden hits the bottom perfect," said Steve Check, a Costa Mesa, California-based investment manager who has attended the publisher's meetings since 2004.


マンガーの投資した対象は2009年5月に提出された報告書の「流動性及び資金の源泉」の節で明らかになった。ここでは、同社が1,550万ドルをいかに普通株に投資して900万ドルの利益をあげたか、概要が示されている。

デイリー・ジャーナル社の開示によれば、その投資から得た成果はさらに増加し、3か月後には持ち株の市場価値が4,100万ドルを超えた。

Munger's investments were disclosed in a May 2009 filing under the headline, "Liquidity and Capital Resources." The section outlined how the publisher was sitting on about $9 million in gains after spending $15.5 million on common stocks.

The results kept getting better. Three months later, the Daily Journal said the holdings were valued at more than $41 million. By the end of September of that year, they appreciated to almost $48 million.


もうひとつ、こちらはおまけです。ウォーレン・バフェットが株主総会で語った一言です。今年の株主総会の発言はひととおり確認したつもりだったのですが、この一言は見落としたか、失念していました。

バフェットは5月にバークシャーの株主に対してこう発言した。「よい機会がいずれもっとやってくるでしょう」と。副会長のマンガーがそれに対して注意をうながした。「なにかをするには現金がいるのですよ」。マンガーはこう説明した。「1959年に出会った時にはバフェットにはアイデアがたくさんあったのですが、問題だったのは現金があまりなかったことでした」。

バフェットはこう応じた。「いまや現金はたっぷりですが、いいアイデアがありません」。

Buffett told Berkshire shareholders in May that there will be more opportunities for investors. Munger, Berkshire's vice chairman, added a caveat: You need cash to act. Buffett's problem when they met in 1959 was that he had plenty of ideas and not enough money, Munger said.

"Now we're drowning in money," Buffett replied. "And we've got no ideas."

2013年8月18日日曜日

知性、情熱、人格のうち、もっとも大切なもの(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その5です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

コロンビア大学でわたしの先生だったベン・グレアムのことを、ジョン[本記念講演の座長]がふれています。彼は12歳のときにじっくり考え、称賛したい他人の美質を一覧に書きだしました。同じように、他人の不快なところも書き出しました。それを読んで彼は、魅力的な人格を築き上げる一方で不快なものを除くのは、意思の力と習慣によってなされると思い至りました。これはだれにでもたどりつけることです。他人のアイデアなのに功を争わない。近道をしない。妬まない。そういったことはすべて実現できることですから、あとは自分がどう動くかという点ですごく大きな差がつきます。仕事だけでなく、ひいては社会生活においてもそうです。

もうひとつ説明をあげてみましょう。学校を卒業するときにあるくじびきに当たって、クラスの仲間の一人を選べることになったとします。その人がこれからの人生で稼ぐお金の10%を受け取ることができるというものです。一からやるということにしたいので、大金持ちなどの子息は除外します。決めるまで1時間あります。さて、だれを選びますか。IQテストを持ち出すことはないでしょう。成績がどうかもみないでしょう。おそらく、実力をきちんと発揮できる人を思い浮かべるのではないでしょうか。300馬力のモーターだとしたら、150馬力とか100馬力ではなくて、300馬力すべてを出しきれる人です。そんな最善を尽くせる人をさがすでしょう。また自分が尊敬できる人格をそなえた人をさがすでしょう。ただしそれは自分でもなれるものですし、いずれは習慣の問題になることです。

ある人がこう言っています、習慣という鎖ははじめは軽すぎて感じられないが、やがて重くなってこわせなくなる、と。自分ではじめた行動は習慣となり、その後の人生についてまわるという言葉は、完璧に当たっています。だれなら10%を買いたいか、感心したり、惹きつけられる人はだれなのか。しかしよく考えてみて自分に当てはまると思えるならば、10%買いに値するのは自分自身なのかもしれません。これはむずかしいことではありません。ある友人がこう言っています。人を雇うときは次の3つ、つまり知性、情熱、人格を確かめなさい。ただし最後のひとつが欠けていれば前の2つだけでは命取りになる、と。たしかにそうだと思います。なぜならば、人格のすぐれぬ人を雇うということは、実のところ愚かで怠惰な人をより望んでいることになるからです。彼らが賢くて情熱的であれば、あらゆるたぐいの問題を持ち込んでくれるようになります。これは大切な助言ですね。

さて、みなさんがご興味のある質問にお答えすることにしましょう。とことんタフで無関係なものも歓迎です。そのほうがわたしにはおもしろいですし、聴衆のみなさんもそうでしょう。それでは手強いやつをどうぞ。

John mentioned Ben Graham, who was my teacher at Columbia University. When he was twelve years old, he sat down and made a list of the qualities he admired in other people; and he made a list also of the qualities that he found unattractive in other people. He decided that it was just an act of will and then habit to develop those attractive qualities and to get rid of the unattractive qualities. Anybody can show up on time; they cannot claim credit for ideas that are not their own; they cannot cut corners; they can avoid envy. All of those things are doable and they make an enormous difference in how you function, not only in your job but in society subsequently.

I'll give one more illustration. Let's just assume when you got out of school, that you won a lottery of some sort and you were entitled to pick one of your classmates, and you got 10% of the earnings of that classmate for the rest of his or her life. You had about an hour to make up your mind. Now we'll leave out picking the son or daughter of the richest person around or something of the sort; let's say we're all starting from scratch. Now, who would you pick? Just think about that for a moment. You wouldn't give them an IQ test. You probably wouldn't look at their grades. You'd probably think, who's going to function best when they get out there? If they had a 300 horsepower motor, who's going to get 300 horsepower out of it instead of 150 or 100? You'd look for who is going to function best. And, you would look for people with those qualities that you admire, but which are also attainable by you and which become a matter of habit after time.

Somebody said that the chains of habit are too light to be felt until they're too heavy to be broken. It's absolutely true that the habits of behavior you start out with will follow you the rest of your life. And, as you think about that person whom you would like to buy the 10% of, the person whom you find admirable or attractive, the answer is that if you want to sit down and do it yourself, you can be the one that you would buy 10% of. It is not that difficult. One friend of mine said that in hiring they look for three things: intelligence, energy, and character. If they don't have the last one, the first two will kill you because, it's true, if you are going to hire somebody that doesn't have character, you had really better hope they are dumb and lazy, because, if they are smart and energetic, they'll get you in all kinds of trouble. Well, that's enough of the advice.

Let's tackle the questions that you are interested in. Make them as tough and impertinent as you like because it makes it more interesting for me and it probably makes it more interesting for the audience. So, feel free to throw your hard one.


次回からは質疑応答の部です。

2013年8月16日金曜日

共食いをさがせ(モーニッシュ・パブライ)

過去の投稿でファンド・マネージャーのモーニッシュ・パブライを取りあげました。他人のアイデアを盗むことを良しとするのが彼の信条でしたが、そのような振る舞いをチャーリー・マンガーが激賞していたこともあり、個人的には気にかかるところがありました。今回たまたまパブライ氏のインタビュー記事に出会い、疑問が氷解しました。このインタビューで彼は、あまりに有名な「ウォーレンとのランチ」から得られた教訓を明かしてくれています。(日本語は拙訳)

Mohnish Pabrai: What I've Learned From Warren and Charlie (Fool.com)

はじめはウォーレン・バフェットとの会話からです。マネー・マネージャーとして活躍しはじめのころに行動を共にしていたリック・ゲリンの話題です。

それからリック・ゲリンはほとんど姿を消してしまいました。最近になってリックにお会いしましたが、ともかく彼は消えていたのです。そこでウォーレンに聞いてみました。「リックとは連絡をとっていますか。彼はどうなったのでしょうか」。ウォーレンは答えました。「よく連絡していますよ。ところであなたがすごい金持ちになるのは、チャーリーやわたしにはわかっていましたよ。われわれは急いで金持ちになろうとはしなかったのですが、そうなることはわかっていたからです」。ウォーレンは話をつづけました。「リックはわたしたちに劣らず頭が切れる人でしたが、急ぎすぎでした。1973年や74年の市場低迷時のことですが、これは世間に知られているところもありますが、リックは実のところ信用取引をしていました。その2年間で株式市場は70%近く下落し、彼はマージン・コールをバカみたいなほどくらったのです」。ウォーレンが言うように、彼は自分のバークシャー株をウォーレンに買ってもらうことになりました。「リックのバークシャー株を1株40ドル以下で買いました、借入れのせいで40ドルで株を手放すことになったのですよ」。

ウォーレンは話をさらに進めました。「わずかに平均を超えるぐらいの投資家でも、収入より少ない金額でやりくりしていれば、辛抱をつづけるうちにいずれは金持ちにならざるをえないものです」。まとめてみましょう、私の質問はこうでした。「リックはどうなったのか」。そして教訓はこうです。「借入れに頼るな」、さらには辛抱することも必要です。これらの特性は彼が折にふれてとりあげるものですが、あえて私から申し上げれば、彼からじかにそのような話を聞いたことで、なおさら心に焼きつけられました。

Then Rick Guerin pretty much disappeared off the map. I've met Rick recently, but he disappeared off the map, so I asked Warren, are you in touch with Rick, and what happened to Rick? And Warren said, yes, he's very much in touch with him. And he said, Charlie and I always knew that you would become incredibly wealthy. And he said, we were not in a hurry to get wealthy; we knew it would happen. He said, Rick was just as smart as us, but he was in a hurry. And so actually what happened -- some of this is public -- was that in the '73, '74 downturn, Rick was levered with margin loans. And the stock market went down almost 70% in those two years, and so he got margin calls out the yin-yang, and he sold his Berkshire stock to Warren. Warren actually said, I bought Rick's Berkshire stock at under $40 apiece, and so Rick was forced to sell shares at ... $40 apiece because he was levered.

And then Warren went a step further. He said that if you're even a slightly above-average investor who spends less than they earn, over a lifetime you cannot help but get rich if you are patient. And so the lesson. My question was, what happened to Rick? The lesson was, don't use leverage, right? And be patient. These are attributes he's talked about plenty, but I would say that it got seared in pretty solidly after hearing the format in which he put it.

リック・ゲリン氏の名前は、過去記事で登場していたことがありました。

つづいてチャーリー・マンガーから教わったことです。

つぎにチャーリーですが、彼もまた明晰な思考という点で非常に優れた人だと思います。チャーリーといちど夕食をご一緒したときのことだったと思いますが、つぎのような話をしてくれました。これは公衆の場で話されてはいないと思いますが、たしかに彼は話してくれたのです。もし投資家がまさに次の3つのことをすれば、いずれは他の人よりもずっとよい成績をおさめられるだろう、と。彼の言った3つとはこうです。ひとつめは「他のすばらしい投資家が何をしているのか、つぶさに観察すること」。実際のところ、チャーリーは他の13F[証券取引委員会に提出する保有報告書]を模倣していたのですよ。知っていましたか。だから彼は、他の偉大な賢人がやることを見よと言っているのです。

彼の言った二つめとは「共食いをさがせ」です。彼の言わんとすることは、自社株を大量に買い戻している会社を注視せよということです。自分自身を食いつぶす様子をとらえて、彼はそのような会社を「共食い」と呼んでいます。

三つめに彼が言ったことは「スピンオフ銘柄をじっくり研究せよ」です。スピンオフについてはジョエル・グリーンブラットも一冊つかって書いています。『You Can Be a Stock Market Genius』[邦訳:グリーンブラット投資法]です。それら3つの特性に焦点をしぼった投資をすればよりよい成績をおさめられるといった類のことをチャーリーが話すのを聞いて、これは興味ぶかいことだと感じました。

And with Charlie, I think he's also been a tremendous -- I would just say clarity of thought. I think one time I was having dinner with Charlie, and he mentioned that if an investor did just three things -- and I don't think Charlie's talked about this publicly -- but he said if an investor just did three things, the end results would be vastly better than the rest. And he said one is carefully look at what the other great investors have done. So, in fact, Charlie was endorsing copying off the 13Fs, right? So he said look at what other great minds are doing.

And the second thing he said is, look at the cannibals. And what he meant by "look at the cannibals" is, look carefully at the businesses that are buying back huge amounts of their stock. Because they're eating themselves away, so he called them the cannibals.

And the third is, he said, carefully study spinoffs. Of course, you know Joel Greenblatt has a whole book on spinoffs: You Can Be a Stock Market Genius Too. And so I found it interesting that Charlie basically said that investment operation that focused on these three attributes would do exceedingly well.


パブライさん、どうもありがとう。

2013年8月14日水曜日

レス・シュワブ・タイヤが成功した理由(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の12回目です。前回だされたレス・シュワブ・タイヤの問題に対する答えです。(日本語は拙訳)

シュワブ氏には乗れる波があったでしょうか。このように質問を考えることで、答えがでてきます。日本人は、タイヤの商売を一から始めて巨大になりました。ですからこの御仁も、早い段階のどこかでその波に乗ったにちがいありません。それにつづいてゆっくりと成功をおさめていく間は、他にも理由があったはずです。たぶんまちがいないでしょうが、この人は正しいことを山ほどやったのでしょう。その中でもきっとやったと思われるのが、マンキューが言うところの「動機づけがもたらす強力な原動力」を組み合わせることです。きわめて巧妙な動機づけのしくみを使って、自分の会社の人たちを扱っていたことでしょう。たくみな人材登用のシステムがあったり、宣伝が上手だったのでしょう。彼は芸術的な才能を持っていたのですね。だから、日本製タイヤが攻めてくる波に乗る必要がありました。彼らと同じように、日本人も成功していたからです。才能あふれる人が熱狂的なまでに正しいことを次々と行い、賢明な仕組みによって従業員をうまく使ったのです。このように、答えはそれほどむずかしいものではありません。際立った成功の原因となるものが他に考えられるものでしょうか。

ビジネススクールの卒業生を雇っても、みなさんほどにはこの手の問題にうまく対処できません。彼らをあまり雇わないのも、たぶんそのせいだと思います。

Is there some wave that Schwab could have caught? The minute you ask the question, the answer pops in. The Japanese had a zero position in tires, and they got big. So this guy must have ridden that wave some in the early times. Then, the slow following success has to have some other causes. And what probably happened here, obviously, is this guy did one hell of a lot of things right. And among the things that he must have done right is he must have harnessed what Mankiw calls the superpower of incentives. He must have a very clever incentive structure driving his people. And a clever personnel selection system, etc. And he must be pretty good at advertising. Which he is. He's an artist. So, he had to get a wave in Japanese tire invasion, the Japanese being as successful as they were. And then a talented fanatic had to get a hell of a lot of things right and keep them right with clever systems. Again, not that hard of an answer. But what else would be a likely cause of the peculiar success?

We hire business school graduates, and they're no better at these problems than you were. Maybe that's the reason we hire so few of them.


なにげない文章ですが、ビジネスで成功する上での重要なことをチャーリーは示していると思います。それは自助努力だけでなく、「波に乗る」とか「てこの力を借りる」といった他者の力をうまく利用することの大切さです。チャーリーは伝記を読むことを勧めているので、ジョン・D・ロックフェラーやアンドリュー・カーネギー、ベンジャミン・フランクリンといった成功者の伝記を以前に読んでみました。大物になる前の彼らは、別の成功者とめぐりあうきっかけを育て、他人から与えられたチャンスを逃すことなく、次の大きな成功へうまくつなげていると感じました。

「波に乗る」とはいい言葉だと思います。波をつかむ技量や才覚や度胸も必要ですが、波がこなければ始まらないという運の要素が含まれていて、現実を冷徹にとらえていると思います。

2013年8月12日月曜日

もうひとつのミクロ経済的な問題(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の11回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

今回もチャーリーから問題が出されています。つづきの文章は次回にご紹介します。

今度はもう少しむずかしい問題です。北西部にあるタイヤ販売のチェーン店レス・シュワブ・タイヤは、50年間かけてゆっくりと発展してきました。まさに一歩ずつの前進でした。同社は創業のころから、グッドイヤーのようなあらゆる種類のタイヤを製造する大企業が経営する店と競争してきました。自社製品を優先する以上、そういった企業の系列タイヤ店にはコスト面で大きな優位がありました。その後レス・シュワブ社は、コストコやサムズ・クラブ[ウォルマート]といった激安店、昔はシアーズ・ローバックなどが有名だった業界ですが、それらとの競争に打ち勝っていきます。そして現在のシュワブ社は、何十億ドルもの売り上げをあげるようになりました。今では80歳代となった[創業者の]レス・シュワブ氏は正規の教育を受けなかったものの、すべてのことを成しとげてきたのです。さて彼はどうやったのでしょう(一時中断)。答えがひらめく人はそれほど多くはいませんでしたが、ではミクロ経済的にすいすいと考えていきましょう。

Now I'll give you a harder problem. There's a tire store chain in the Northwest that has slowly succeeded over fifty years, the Les Schwab tire store chain. It just ground ahead. It started competing with the stores that were owned by the big tire companies that made all the tires, the Goodyears and so forth. And, of course, the manufacturers favored their own stores. Their “tied stores” had a big cost advantage. Later, Les Schwab rose in competition with the huge price discounters like Costco and Sam's Club and before that Sears, Roebuck and so forth. And yet, here is Schwab now, with hundreds of millions of dollars in sales. And here's Les Schwab in his eighties, with no education, having done the whole thing. How did he do it? (Pause). I don't see a whole lot of people looking like a light bulb has come on. Well, let's think about it with some microeconomic fluency.

2013年8月10日土曜日

投資におけるリスクの性質(セス・クラーマン)

ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』からご紹介です。今回はリスクについて、ひきつづき第7章「バリュー投資思想の本質をなすもの」(At the Root of a Value-Investment Philosophy)から引用します。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

リスクの性質

投資におけるリスクとは、損失の生じる確率および損失の潜在的な大きさによって表現される。投資上のリスクは、裏目に出てしまう確率ということになるが、対象の性質に帰するところがある。バイオテクノロジー関連の研究に投じられた資金は、用役設備(ユーティリティー設備)を購入するのに使われる場合とくらべて、リスクの大きな投資である。前者は損失におわる可能性が大きい上に、投資を占めるずっと大きな割合がリスクにさらされるからだ。

しかしながら金融市場では、売買される証券とその根底にあるビジネスが明快な関係をもっているわけではない。証券投資家にとっては、さまざまな結末がもたらす損得の原因は、根底にあるビジネスだけではなく、市場で決められた価格を支払ったことにもあるからだ。リスクとは投資対象の性質とその市場価格の両方によって決まるとする見方は、(次節でとりあげる)ベータによって描かれる見方とは大きく異なっている。

証券アナリストは投資におけるリスクとリターンを正確にとらえようとするが、実際にそれができるのは「できごと」そのものだけである。投資から得られる利益の金額は通常、満期や売却後でないとはっきりしない。購入時にリターンをはっきりさせられるのはもっとも安全な投資だけで、たとえば1年物の財務省短期証券6%を買えば1年後には6%のリターンが得られるという場合だ。よりリスクの大きい投資ならば、結果が出てからでないとリターンを計算できない。たとえばクライスラーの株式を100株購入する場合、リターンのほとんどすべては売却するときの価格によって決まる。そのあとになってから、リターンが計算できるようになる。

一方のリスクはリターンとは違って、投資する前よりも投資を終えた後のほうが測りやすいというものではない。リスクとはひとつの数値で表せるものではないからだ。リスクは投資案件ごとに異なるというのは、直観的に理解できるだろう。たとえば、国債はハイテク株よりもリスクが小さいというように。しかし投資におけるリスクに関する情報は、食品の包装に栄養成分の情報が記載されているようには提供されていない。

リスクというものはむしろ、それぞれの投資家が投資から生じる損失の発生確率および潜在的な損失規模を分析したものをいかにとらえたかを示している。原油の調査井が失敗とわかれば、それはリスキーとみられるし、債券がデフォルトしたり、株価が下落すれば、これもリスキーだと言われる。しかし油井から原油が噴出したり、債券が無事に満期をむかえたり、株価が大幅に上昇したからといって、「投資に踏みきった段階からリスクが小さかったのですよ」などと言えるだろうか。そんなことはない。つまりほとんどの場合において、投資に踏みきった時よりも投資が終わった後のほうがリスクをもっと把握できるということにはならないのだ。

リスクに備えるために投資家ができることは限定されている。適度に分散し、適切ならばヘッジし、安全余裕を以って投資する。安い値段で投資したいと手を尽くしても投資先のあらゆるリスクを把握しているわけではないし、そもそも無理な相談だ。だからこそ、そのような手段をとる必要がある。そして「割安で買う」という部分が、悪い目が出たときにクッションの役割を果たしてくれる。(p.111)

The Nature of Risk

The risk of an investment is described by both the probability and the potential amount of loss. The risk of an investment - the probability of an adverse outcome - is partly inherent in its very nature. A dollar spent on biotechnology research is a riskier investment than a dollar used to purchase utility equipment. The former has both a greater probability of loss and a greater percentage of the investment at stake.

In the financial markets, however, the connection between a marketable security and the underlying business is not as clear-cut. For investors in a marketable security the gain or loss associated with the various outcomes is not totally inherent in the underlying business; it also depends on the price paid, which is established by the marketplace. The view that risk is dependent on both the nature of investments and on their market price is very different from that described by beta (which is considered in the next section).

While security analysts attempt to determine with precision the risk and return of investments, events alone accomplish that. For most investments the amount of profit earned can be known only after maturity or sale. Only for the safest of investments is return knowable at the time of purchase: a one-year 6 percent T-bill returns 6 percent at the end of one year. For riskier investments the outcome must be known before the return can be calculated. If you buy one hundred shares of Chrysler Corporation, for example, your return depends almost entirely on the price at which it is trading when you sell. Only then can the return be calculated.

Unlike return, however, risk is no more quantifiable at the end of an investment than it was at its beginning. Risk simply cannot be described by a single number. Intuitively we understand that risk varies from investment to investment: a government bond is not as risky as the stock of a high-technology company. But investments do not provide information about their risks the way food packages provide nutritional data.

Rather, risk is a perception in each investor's mind that results from analysis of the probability and amount of potential loss from an investment. If an exploratory oil well proves to be a dry hole, it is called risky. If a bond defaults or a stock plunges in price, they are called risky. But if the well is a gusher, the bond matures on schedule, and the stock rallies strongly, can we say they weren't risky when the investment was made? Not at all. The point is, in most cases no more is known about the risk of an investment after it is concluded than was known when it was made.

There are only a few things investors can do to counteract risk: diversify adequately, hedge when appropriate, and invest with a margin of safety. It is precisely because we do not and cannot know all the risks of an investment that we strive to invest at a discount. The bargain element helps to provide a cushion for when things go wrong.

2013年8月8日木曜日

たったこれだけ(物理学者西成活裕)

チャーリー・マンガーの「砂金掘り」に関連する話題で、先日読んだ本に興味をひいた箇所がひとつあったので、引用してご紹介します。本の題名は『とんでもなく面白い 仕事に役立つ数学』です。

もう一つ、数理科学的アプローチに欠かせない考え方があります。それは、「勇気を持って単純化できるかどうか」。これもまた、学会で言い争いになった例をお話ししましょう。

テーマは血管の成長。ある研究者は、数理科学的アプローチを用いて、「よく使われる部分の血管は太くなる」と仮定してモデル化をしました。よく使われる部分は流れが多いだろうから太くなるだろう。たったこれだけ。ものすごく単純です。

ここでもYesと言う人とNoと言う人がいました。「きっとそうだ。検証してみよう」という肯定派と、「血管が成長するメカニズムはものすごく複雑だ。そんな単純なわけがない」という否定派です。後者は、単純化に対して、ものすごく抵抗がある人たち。だから、いろんな反応機構をスーパーコンピュータに入れてガーッと計算して…とやりたがるわけです。

現実は複雑。確かにその通りです。(数理科学的アプローチを採用する)こっちだって、そんなことは百も承知です。でも、そう言っていては、一生かかっても実社会の仕組みを解明することができません。頭の柔軟性を残すこと。これがとても大切なんです。

ちなみにこの数年後、その単純化をした研究者が正しかったことが卵細胞の血管ネットワークの研究で証明されたそうです。(p.22)

2013年8月6日火曜日

米国GDP成長の守護者(ボブ・ロドリゲス)

わたしの好きなファンド・マネージャー、ボブ・ロドリゲス氏のFPA Capital Fundが第2四半期の報告書を公開していました。米国でのGDPや企業業績、株価水準にふれた箇所を引用してご紹介します。同氏の慎重な姿勢は前回の第1四半期同様、変わっていません。(日本語は拙訳)

FPA Capital Fund, Inc. Quarterly Commentary (June 30, 2013) (PDFファイル)

たとえば第1四半期のGDPは先日、前期比1.8%増へ下方修正されました。エコノミストが初期のころに発表していた見通しでは、第2四半期のGDP成長率は3.0%に到達するとの観測もありましたが、いまやその実現性はかなり低いと思われます。さらに米国会計基準(GAAP)に基づいた6月までのS&P500全体の純利益は、前年比で成長していませんでした。実際のところ、GAAP基準でみたS&P500の利益はこの1年間で0.5%減少しています。金融関連情報会社Factsetによれば、2013年第2四半期のEPS見通しをこれまでに87社が下方修正しており、それに対して上方修正は21社となっています。いいかえれば、直近でのEPS予想修正の80%以上が下方修正だったことになります。

ただしGDP成長について心配する必要はありません。ワシントンの役人がGDPの推計手法に手を加えてくれるからです。わが国の経済規模を計算する統計に対して、帳尻合わせの得意な人たちが新たな項目を追加してくれています。2013年7月からは次のものが適用されます。研究開発費用、芸術芸能作品に関する権利、そして確定給付年金の発生主義に基づく支出分です。これらの影響を一括調整することによって、はいどうぞ、5,000億ドルつまりGDPの3%相当が一夜にして増加することになります。

低調なGDP成長や、GAAP基準でみたときの利益の小幅減少、EPSの下方修正といった状況にもかかわらず、S&P500はこの1年間で20%超、年初比で13%超上昇しました。Russell2500は25%超と15%超上昇です。S&P社および雑誌Barron'sによれば、PERは15.7倍から18.7倍つまり約20倍へと上昇したものの、一方の利益成長は基本的に横ばいとしています。これは、過去1年間におけるS&P500の上昇分のすべてが、GAAP基準の利益成長とは反対にPERの倍率が増加したおかげとも言えます。

この1年間に出席したさまざまな資産運用に関する会合で、ほかの投資家の見解を聞く機会がありました。「利益が成長しないのに株式市場が上昇するのはなぜでしょうか」。判を押したように返ってくるのは、「FRBの金融政策のおかげで、株式市場へ資金が流入している」という答えでした。ノルウェー最大の銀行のグローバル証券部門でトップを務めているマグナス・ピーネ(Magnus Piene)は、顧客に対して次のように警告しています。「この潤沢な資金のおかげで、本来やるべきでないことをしているのが現在の状況です」。(後略) (p.3)

First quarter GDP growth, for example, was recently revised downwards to just 1.8%, and earlier estimates for the second quarter's GDP of as high as 3.0% by some economists now seem highly unlikely. Moreover, applying Generally Accepted Accounting Principles (GAAP), earnings for the S&P 500, in aggregate, did not grow year-over-year through the month of June. Actually, based on U.S. GAAP, earnings for the S&P 500 declined about a half of one percent over the past year. According to Factset, a financial data firm, 87 companies have thus far issued negative EPS guidance for Q2 2013 versus 21 that have issued positive EPS guidance. In other words, more than 80% of the recent corporate EPS guidance was negative.

But there is no need to worry about increasing GDP; the bureaucrats in Washington are changing how GDP is measured. Starting in July, 2013, the green eyeshade people will include research & development expenses, rights to entertainment programs, and accrual expenditures for defined benefit pension plans in their new statistics for calculating the size of our economy. These one-time adjustments will, voila, boost GDP by roughly $500 billion, or 3%, overnight.

Despite weak GDP growth, a slight decline in GAAP earnings, and negative EPS guidance, the S&P 500 and the Russell 2500 appreciated more than 20% and 25% over the past year and more than 13% and 15%, respectively, year-to-date. According to Standard & Poor's and Barron's, the P/E ratio for the S&P 500 increased from 15.7x to 18.7x, or roughly 20%, over the past year, while earnings were essentially flat. In other words, 100% of the return for the S&P 500 over the past year was due to P/E multiple expansion as opposed to GAAP earnings growth.

While attending various investment conferences over the past year, we have had the opportunity to ask other investors why they think the stock market is going up if earnings are not growing. The consensus answer is that the market is rising because of the Federal Reserve's monetary policy is facilitating capital flows into the equity markets. Magnus Piene, head of global securities for Norway's largest bank, warned his clients that “all this liquidity is pushing people to do things they should not be doing.” (omitted)

現在の状況のように株式市場が割高だと私どもが考える時期が、高値をつけたあとに株式の評価がどのように推移したか、少し前にさかのぼって調べてみました(下図参照)。たとえば2000年の中ごろには、FPA Capitalファンドの評価額は[投資先企業の]純利益の14.7倍でしたが、Russell2500とS&P500はどちらも25倍以上で売買されていました。その後の数年間をかけて、市場は40%以上下落しました。また2008年半ばにはRussell2500は純利益の20倍、S&P500は16倍超で取引されていました。このときも株式市場は翌年に40%以上と大幅に下落しました。ここでご理解いただきたいのは、そういった過去と同じように株式市場が大幅に下落すると予想しているわけではありません。そうではなく私どもの見解、つまり現在のように株式市場が高くなった主たる理由はFRBの政策にあることを、ここでは示しているだけです。(p.4)


We reviewed other contemporary periods of time (see the table below) when equity markets were, in our opinion, expensive - similar to the current environment - and then how equity markets performed subsequent to those high valuation periods. For example, in the middle of 2000 the FPA Capital Fund was trading at just 14.7x earnings. However, the Russell 2500 and S&P 500 were both trading above 25x earnings, and the markets then declined over 40% during the following couple of years. In the middle of 2008 the Russell 2500 was trading at 20x earnings while the S&P 500 was trading at over 16x. Again, the equity markets experienced a sharp decline of greater than 40% the following year. We want to be clear, we are not forecasting a decline in the equity markets of the magnitude exhibited during those two prior periods. We are merely pointing out that the equity markets today are rich and being driven principally by Fed policy, in our opinion.

備考です。米国商務省経済分析局のWebサイトの資料をあたったところ、GDP見直し項目や影響度が記載されていました。上記の内容はたしかに公式発表と一致しています。新聞を読まないので今まで知らなかったのですが、アメリカのGDP推計手法の見直しは大事のようですね。

Briefing: Results of the 2013 NIPA Comprehensive Revision (Bureau of Economic Analysis) (PDFファイル)

2013年8月4日日曜日

(再考)世知入門(チャーリー・マンガー)

以前にご紹介したチャーリー・マンガーの講演「世知入門」には、続編にあたるものがあります。前回とは場所を変えて、今回はスタンフォード大学で講演したものです。この新シリーズでは同講演のトランスクリプトから、抜粋の形でご紹介していきます。(日本語は拙訳)

引用元はいつもの『Poor Charlie's Almanack』です。本講演については、編集者のピーター・カウフマン氏(Peter Kaufman)が他講演と重複する内容を適宜編集しています。

(再考)世知入門
スタンフォード・ロースクール
1996年4月19日

本日ここでやりたいと考えているのは、2年前にUSC[南カリフォルニア大学]のビジネススクールで講演した内容を押しひろげることです。そのときのトランスクリプトが配布されていると思います。今日は当時お話ししたことはくりかえしませんが、そのときの話題をもっと展開したいと思います。

もしウォーレン・バフェットがコロンビア大学のビジネススクールを卒業してから新しいことをなにも学ばなかったとしたら、バークシャーは現在とくらべるとずっと存在感のない会社だったはずです。これはもう絶対にそのとおりです。もちろんウォーレンは金持ちにはなっていたと思います。ベン・グレアムがコロンビアで教えたことをわかっていれば、だれでも金持ちになれますから。しかし学びつづけることを怠っていたら、ウォーレンはバークシャーを今のような会社には築き上げられなかったでしょう。

では、世知を身に付けるにはどうすればよいのか。基礎的ながらも実際的な知恵という点において世界でもひと握りの位置まで登りつめるには、どのようなやりかたをすればよいのでしょうか。

私はかねてから、あるやりかたをとればほとんどの人よりもずっとうまくやれると確信してきました。これは頭のいい人だったら、まず習得できるものです。USCのビジネススクールで前に話しましたが、どういうことかというと、頭の中にメンタル・モデル用の格子枠を用意するのです。そして経験したり、本を読んだりして学んだ重要なことを、この格子に組みこんでいきます。そういうものがあれば物事がだんだんうまく結びつくようになり、認識力が増していきます。

A Lesson on Elementary, Worldly Wisdom, Revisited
Stanford Law School
April 19, 1996

What I'm going to try to do today is to extend the remarks I made two years ago at the U.S.C. Business School.... You were assigned a transcript of my U.S.C talk. And there's nothing I said then that I wouldn't repeat today. But I want to amplify what I said then.

[It's] perfectly clear … that if Warren Buffett had never learned anything new after graduating from the Columbia Business School, Berkshire would be a pale shadow of its present self. Warren would have gotten rich - because what he learned from Ben Graham at Columbia was enough to make anybody rich. But he wouldn't have the kind of enterprise Berkshire Hathaway is if he hadn't kept learning.

How do you get worldly wisdom? What system do you use to rise into the tiny top percentage of the world in terms of having sort of an elementary practical wisdom?

I've long believed that a certain system - which almost any intelligent person can learn - works way better than the systems that most people use. As I said at the U.S.C. Business School, what you need is a latticework of mental models in your head. And you hang your actual experience and your vicarious experience (that you get from reading and so forth) on this latticework of powerful models. And, with that system, things gradually get to fit together in a way that enhances cognition.

2013年8月2日金曜日

他人をしのぐというものではない(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その4です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

驚異的なほどのIQの持ち主を必要とするビジネスは、それほどありません。かといって、フォレスト・ガンプ[うすのろの意]を探しているわけでもありませんでした。しかし、その12名のIQは十分なほどでした。また他人をひっぱる力も十分でした。毎日12時間働いてもまだやれる、そんな人たちでしたので情熱という意味でも問題はありませんでした。そのどちらも及第点だったので、まさしく重要だったのは、もっともすばらしい人格をもった人物がだれかということでした。着任した後にわたしの頭に銃を突きつけられるのはごめんでした。というのは、だれに決まろうが首にする気はなかったですし、1週間や2週間、あるいは1か月たってきつい状況になってもわたしを見捨ててほしくなかったのです。もう一度同じようなことがおきれば、それが会社の幕引きになると考えていました。ですから忠実な人をえらぶという意味で、見誤るわけにはいかなかったのです。またものすごいプレッシャーがかかりますから、感情的な面で耐えられるか確かめる必要もありました。

わたしが選んだその人物は、報酬をいくらもらえるのか聞いてきませんでした。1週間たっても、1か月たってもそうでした。基本的に彼は戦地昇進を受けた者で[代わりになる者がいないの意]、彼自身もそのように振る舞っていました。ですからわたしのところにきて、こう言ってもよかったのです。「ゴールドマン・サックスへ移ろうかとも考えているのですが、今度の仕事はかなりきつそうなので、今年の報酬の1.5倍を頂けますか」。彼はそんなことは一言も口にしませんでした。実際のところ初年度はまさにお手本となる身の処遇で、彼は自分の報酬を減額したのです。直前に東京オフィスを率いていたときの報酬よりも、会社全体を率いることになった初年度のほうが少ない金額で働いてくれました。また、会社が失敗したら起こされるであろう訴訟によって被る被害を補償することも、彼は要求しませんでした。ことが悪化して利害関係者の行く末がどうなるか言えない事態になれば、世界中から訴えられることになるでしょう。ただソロモンが破綻ともなれば、補償金は焼け石に水かもしれませんでした。

ですから、その人物がこう要求するのはまったくもって筋が通っていたのです。「この仕事をお受けしますが、これからどうなるのかはわかりません。もしことがおきれば、ソロモンによってよくないことでしょう。ではなぜバークシャー・ハサウェイやあなたご自身が、私を訴訟から保護してくれないのでしょうか。もしうまくいかなければ、わたしもこれでおしまいになるわけですから」。彼はそんな言葉をなにひとつこぼしませんでした。頭がにぶくて、そう質問できなかったわけではありません。彼はただ、当時の状況でそのようなことはすべきでないと感じていたのです。そしてとうとうわたしは、傑出した人間だと感じたその人を選びました。彼はわたしを落胆させませんでした。翌日から仕事に就いてくれたのです。われわれ一同は午後3時の取締役会に出席しました。12名が揃う中、彼のとなりまで歩み、わたしは声をかけました。「きみにお願いしますよ」。そしてわたしたちはエレベーターで下に降りて、数百人の報道陣と対面しました。日曜日の午後だったので、彼らの多くは非友好的な雰囲気をそれぞれのやりかたで醸し出していました。彼とわたしは演壇へ上がり、3時間にわたる質疑応答をこなしました。そしてわたしは正しい選択をしたとわかったのです。

さて、この人選で興味ぶかいことは、わたしをひきつけた彼の特質が別の人にも体現できるということです。7フィートもジャンプできたり、フットボールを60ヤード先へ放り投げられる必要はありませんでした。去年対戦した時のコントラクトブリッジのハンドを逐一覚えているといったことも不要でしたし、特別な知性のようなものもいりませんでした。彼がよかったのは、忠実さと誠実さの点ですばらしいものを持っていたことです。彼は悪いニュースを話してくれるものとわかりました。これは、わたしが一緒に働く人にいつもお願いしている点です。よいニュースを伝えてくれる必要はなく、悪いほうのニュースを聞きたいだけなのです。彼は何かを決める際に自分のエゴを通さないこともわかりました。また妬んだり、欲を出したり、他人を不愉快にさせるようなことは何もしないだろうとも。そして動かしがたいのは、わたしの選んだ仲間デリック・モーンが示した特質は、他の人でも同じように持つことができるという点です。これは他人をしのぐというものではありません。それよりはむしろ、自分が何をすべきか、どんな種類の人間になりたいかを決めるだけの問題だと思います。

Most businesses do not require somebody with a staggering IQ. I wasn't looking for Forrest Gump, either. But, the dozen or so had all the IQ necessary; they had all the drive necessary. These are people who were used to working twelve hour days and had lots of push. So, it was not a question of energy. It was a question of who, in my view, with both of those qualities already a given, really was the highest quality individual. It was the person who would not stick a gun to my head after he took the job, because I couldn't afford to fire whoever came in and I couldn't afford to have him quit on me when the going got tough a week or two weeks or month later, because with one more event like that, it would have been curtains. So, I really had to be sure of the steadfastness of the individual. I had to be sure he was up to it temperamentally, because the pressures would be enormous.

The person I decided on never asked me then; he never asked me a week later; he never asked me a month later, what the pay was. Basically, he was a battlefield promotion and he behaved like he was a battlefield promotion. He could have come to me and said, "Look, I could go over to Goldman Sachs and make 'X' this year and this is going to be much tougher so I want 150% of 'X' from you". He never said a word about that. As a matter a fact, in the first year, just to set an example, he reduced his pay, running the whole place for less than he had made running the Tokyo office the year before. He never asked me to indemnify him against the lawsuits that would be forthcoming if the place failed. If things had gone bad, and you couldn't tell whether they would or not, we were going to get sued by everybody in the world. And, if Salomon had gone under, its indemnification would have been no good.

So, it would have been perfectly reasonable for this person to say, “Well look, I'll take this job but who knows what's going to happen and if it happens, Salomon isn't going to be good for it. So why doesn't Berkshire Hathaway or why don't you personally indemnify me against the lawsuits I'll be facing the rest of my life if this goes sour?" He never said a word about it. It wasn't because he was dumb and didn't know enough to ask that. He just felt it was not the right thing to do under those circumstances. So, in the end, I picked out individual there who I felt was an outstanding human being. He never let me down. He took on that job the next day. We came out of a directors' meeting at three in the afternoon. And, there were these twelve people out there and I just walked up to him and said to him, "You're it, pal". And, we went right from there down the elevator to meet a couple hundred reporters who had come in on a Sunday afternoon and who were plenty hostile in some ways. He set up there on the stage with me and answered questions for three hours. And, I knew then I had made the right choice.

Now, the interesting thing about that choice is that the qualities that attracted me to him were not impossible for anyone to achieve. He didn't have to be able to jump seven feet. He didn't have to be able to throw a football sixty yard. He didn't have to be able to remember every bridge hand he played the previous year or something of the sort. There was no feat of intellect or something like that. What he did was bring qualities like steadfastness and honesty. I knew he would tell me the bad news. I always worry about that with people who work for me. They don't need to tell me the good news. I just want to hear the bad news. I knew he would not get his ego involved in decisions. I knew he would not be envious or greedy or all of those things that make people unattractive. And, the truth is, that anybody can have those same qualities that Deryck Maughan, the fellow I picked, exhibited. They are not feats that are beyond anyone. They are simply a matter of deciding what you are going to do and what kind of person you are going to make out of yourself, and than doing it.

会見当時のお二人の写真です。

(オリジナル写真の出所: Corbis)