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2015年6月30日火曜日

2015年バークシャー株主総会;アメックスについて

5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、今回はウォーレン・バフェットがアメックスについて語ります。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> アメリカン・エキスプレスは、モバイル端末決済による影響や顧客のコストコを失ったなかで、競争上の優位性をどのようにして守っていくのでしょうか。

<バフェット> アメリカン・エキスプレスは多くのイノベーションやさまざまな形の攻撃にさらされていくと思います。同社は非常に特別な企業です。たとえばCEOのケン・シュノールトは変化が起こることを予期して、異なる市場へと会社を導いてきました。またアメックスのカードを持つ人たちからは、大きな支持を集めています。同社へ投資していることにすごく満足しています。株価が下がるのはうれしいですよ。同社が自社株を安く買えますから。

<マンガー> 競争が厳しくなければ、アメックスのことをもう少しうまく好きになれるのですがね。しかしこれが人生というものです。

<バフェット> アメックスが変化に適合してきた歴史は見事なものです。カードの保有者に対して同社は良い印象を確立してきました。数々の挑戦に立ち向かうという点で、非常に迅速ですし、賢明にやっています。同社の15%をわたしたちが保有していて、大いに満足しています。

When asked how American Express will protect its competitive moat given the impact of mobile payments and the loss of Costco as a customer, Buffett said American Express will be subject to lots of innovation and various modes of attack. It's a very special company. Ken Chenault, the CEO, has anticipated changes and guided the company into different markets. There's a lot of loyalty with American Express cardholders. Buffett is very happy with American Express. He is happy when the stock price goes down, so American Express can buy back shares more cheaply.

Charlie added, "I liked American Express a little better when they had less competition, but that is life."

Buffett described Berkshire's history in owning American Express, noting they did wonders for Berkshire back in the 1960s. American Express has an incredible history of adapting to change. They established a better image for cardholders. They are very nimble and very smart in terms of meeting challenges. Buffett concluded, "I'm delighted we own 15% of the company."

2015年6月28日日曜日

2015年デイリー・ジャーナル株主総会(7)アメックスについて

デイリー・ジャーナル社の株主総会の記事から、チャーリー・マンガーがアメックスに関する質問に答えます。前回分投稿のポスコの話題と主題が重なります。なお引用元の記事は本シリーズの5回目の投稿と同じです。(日本語は拙訳)

<質問> アメリカン・エキスプレスについておうかがいしたいのですが、近年になって同社のmoat[経済的な優位性]が狭まったとお考えですか。

<マンガー> コストコの契約を失ったのはよくなかったと思いますね。資本主義というものがいかに厳しいか、この件ももうひとつの事例です。他のどこかが喜んで安値を提示したにちがいありません。現代の資本主義社会では鉄壁の守りとみられる位置を占めるのがどれだけ厳しいか、まさに示しています。あらゆるものがむずかしくなっていくわけです。

すでにある程度儲けた人にとっては、まあそういうものだと思いますよ。アメリカン・エキスプレスは長期にわたって途方もない業績をあげて大きく成長しましたし、これからもますます繁栄するでしょう。しかし、かつてほどには楽ではありません。同社の大将は「ずっと大変だった」と言うと思います。たしかに彼は奮闘してきましたが、我々だってこの業界で懸命に漕ぎつづけました。デイリー・ジャーナル社の出版事業に対して、その頑張りがどれだけ役に立ったでしょうか。そうでしょう、ゲリー。狂ったように漕ぎましたよね。

<CEOのジェラルド・ソルツマン氏> はい、そう努めてきました。大変でした。

<マンガー> そうでしょう。それでどうなったかと言えば、縮小しっぱなしです。世の中というのは甘くないですよ。

Q: I'd like to get your thoughts on American Express [AMEX]. Do you think its moat has narrowed recently?

Mr. Munger: I don't think it was desirable that it lost its contract with Costco [COST]. Again, that's an example of what tough capitalism is. Obviously, other people are willing to do it cheaper. It just shows how tough a position that looks impregnable can be in modern capitalism. It's what makes everything difficult.

To those who already have some money, I think that's just the way it is, and American Express has had a long period of very extreme achievement and prosperity. I think they'll have a lot of prosperity in the future, but it doesn't look quite as easy as it once did. Now, the head guy would say it's always been hard, he's been battling hard, but we paddled hard here too, and what good did it do us in Daily Journal's print business? We paddled like crazy, didn't we Gerry?

Mr. Salzman: We tried. It was hard.

Mr. Munger: Yeah, what happened is you just keep receding and receding. Welcome to adult life.

備考です。コストコがアメックスとの提携をやめる件は、次のニュース記事が示しているもののようですね。VisaとCitiに変更とのことです。

Costco is replacing American Express with Visa and Citi (Business Insider)

2015年6月26日金曜日

2015年バークシャー株主総会;エクソンモービル等への投資について

5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、エクソンモービルやコノコフィリップス株を売却した話題です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> エネルギー関連の投資、つまりコノコフィリップスやエクソンモービルへの投資で、バークシャーは損失を出しましたか。循環的な事業ですから、エネルギー関連へ今後投資する際にはバークシャー・ハサウェイ・エナジー社(BHE)でCEOをしているグレッグ・アベルが担当したほうがよいのでしょうか。

<バフェット> BHEは社名にエネジーと付いていますが、実際はコノコフィリップスやエクソンとは別の業種です。BHEでは多額の資金を投じる機会を求めていますが、いずれは実現するでしょう。1995年にミッドアメリカン社(BHEの旧社名)に買収をもちかけたときは、1株当たり35ドルを提示しました。「提示金額は変えませんよ」と言ったのですが、その後厳しい交渉が続いて、もう少し出すように要求されました。合意した金額は1株あたり35.05ドルでした。「わたしから最後の1円まで搾り取ったと公言できますね」と言っておきましたよ。現在のBHE社は1株当たり30ドルの利益をあげています。それが35.05ドルになるにはそれほど時間がかからないでしょう。

BHEは、それらエネルギー関連の2社への投資にたとえられるものではありません。バークシャーがコノコフィリップスへ投資した事実を記載しましたが、これは規制当局がそのように義務付けているからです。その投資では利益が若干出ましたし、エクソンモービルでも同じでした。バークシャーが石油ガス関連の銘柄を買うことはそれほどありませんし、石油ガス銘柄の投資についてわたしたちは第一人者にはなりませんでした。しかし今後も機会がないかさがして、買うかどうかを決断するでしょうが、心変わりすることもあると思います。石油ガス銘柄では利益が少し出ました。また、もっと利益が出たかもしれない別のひとつふたつの投資も引き上げました。

<マンガー> これほどの低金利ですから、現金で持っておく代わりとしてエクソンモービル株は悪くない投資でしたよ。(p.18)

A shareholder noted that Berkshire has lost money on several energy investments such as ConocoPhillips and ExxonMobil. These are cyclical businesses. The shareholder asked whether future energy investments should be done by Greg Abel, CEO of Berkshire Hathaway Energy (BHE).

Buffett said BHE has energy in their name, but they are really in a different business than ConocoPhillips or Exxon. BHE is looking for an opportunity to spend big money on energy and will do so in the future. When Buffett offered to buy MidAmerican in 1995 for $35 per share, he told them he didn't change his offer prices. They continued to negotiate hard and said you have to give us something. Buffett agreed to pay $35.05 per share and told them they could say they got the last nickel out of him. Today, BHE earns $30 per share, and it will earn $35.05 per share before too long.

BHE is not at all analogous to the other two energy investments. Berkshire wrote the ConocoPhillips investment down, because auditing rules required them to do so. Berkshire actually made a little money on the investment as well as on ExxonMobil. Berkshire will not very often buy oil and gas stocks and has not distinguished themselves on oil and gas stock investments. Buffett will look at available opportunities and make decisions on buying something and sometimes he will change his mind. Berkshire has made a little money on oil and gas stocks and has passed up one or two other opportunities where they could have made a lot of money.

Charlie added that the ExxonMobil investment was not a bad cash substitute with interest rates so low.

別の話題ですが、バークシャーの株主総会でウォーレンが「貯蓄に勤しむ良き習慣をみなさんのお子さんへ一連のマンガを通じて楽しめる形で示す」と発言したのを1カ月ほど前の投稿でとりあげました。そのときは具体的になにを指しているのか把握できないまま訳したのですが、どうやら最近話題になっている以下のサイトがそれだったようです。

Secret Millionaires Club with Warren Buffett

2015年6月24日水曜日

裁きのときがやってきた(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の11回目、最終回です。ラストではチャーリーらしいひねりが加えられています。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかし権威ある職業に向けられた敵意は、会計士や経済学者や法律家にとどまりませんでした。技術者のように常に良き仕事をしてきた職業でも、それまでに受けていたさまざまな敬意が逆に剥がされる結果となりました。そういった職業人たちは、おのれの国で伝統的に要求されてきた金融詐欺を理解していなかったのです。

そしていよいよ最後には、この国にとって良きことや将来の幸福に必要な多くのものが、愚かしくも広く憎まれることとなりました。

事態がここに至ったことで、尊き世界で動きがありました。神、すなわちすべてを知ろしめすお方が裁きのときを変更し、2003年に起きた巨大金融不祥事という悲しい事件を俎上に載せたのです。あのお方は刑事局長を呼びつけて、「スミスよ、厳正なる裁決を下すために、このおぞましい結末の責を負うべきもっとも堕落した者を連れてきなさい」と指示しました。

ところがスミスが連行してきたのは、証券アナリストたちでした。クァント・テック社の株式を長きにわたって批判せずにもてはやした人たちです。偉大なる審判者は満足しませんでした。「スミスよ、低い水準に位置する認知上の誤りに対して厳罰を下すことはできないのだ。そういったものの多くは、この世のよくある動機づけの仕組みによって無意識のうちに生じるのだよ」

つづいてスミスが連れてきた者は、SEC[証券取引委員会]の委員や権勢をふるった政治家一行でした。「ああ、これも違う」と大審判者は言いました。「その者らは、望ましからぬ権力という巨大な渦の中で力を行使しているのだ。そなたが強制したいと考える行動基準に従わせるのは、期待できぬであろう」

それをきいた刑事局長は思い当たるところがあり、連れてきたのがクァント・テック社の経営者たちでした。同社において、彼らのやりかたで「現代的な金融工学」を実行した者たちです。「うむ、近づいてはいる」と大審判者殿は言いました。「だが私が連れてこいと命じているのは、それ以上に堕落した輩だ。むろんそやつらは会社の重役として大がかりな詐欺を働き、偉大な技術者が築いた栄光を維持管理する仕事を忌避した。その重い罪は償うことになる。しかしここに引き立ててほしいのは、今すぐ地獄の底へと送り込むことになる悪党どもだ。やつばらには、この大惨劇全体を苦もなく防げたのだからな」

刑事局長にもようやく理解できました。地獄の最下層は裏切り者のために取り置かれていることを彼は思い出したのです。そこで彼は煉獄から年配の者たちをひき連れてきました。この世で生きていた頃には、大手の会計事務所でパートナーとして幅を利かせていた人たちです。「裏切り者らを連れてまいりました」と刑事局長が言いました。「この者たちは、従業員向けストックオプションに関して誤った会計慣行を採用しました。彼らが就いていた職業は、正しい規則を制定することで社会が正しく機能するように仕向けるのが仕事で、まるであなたさまのようにもっとも高貴な職業でした。さらには、その職業において高い地位を占めておりました。非常に賢い上に安泰の地位にいたものの、明らかに予見可能なすべての虚偽や不正を意図して招きました。このことに釈明の余地はありません。自分たちのしていることは破壊的なまでにまちがったことだ、と彼らにはよくわかっていました。それでもそうしたのです。あなたさまは法治体制を遂行する上で多大な重圧を負っていらっしゃるわけですから、最初のときは誤って軽い処罰で済まされました。しかし今度は彼の者どもを地獄の底へ送り込めます」

確信に満ちた激しい口調に、偉大なる審判者は驚いて静止しました。そして静かに言いました。「忠実で懸命なるしもべよ、よくやってくれた」

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この報告は、2003年を予言することを意図したものではなく、フィクションとして書いたものです。ガルブレイスのくだりを除くと、現存の人物や企業と類似している点があれば、いずれも偶然のものです。本報告は、現在行われているある種の行動や信念のシステムに対して、ためになると思われる注意を集めようとして書きました。

(おわり)

But the hostility to established professions did not stop with accountants, economists and lawyers. There were many adverse "rub-off" effects on reputations of professionals that had always performed well, like engineers, who did not understand the financial fraud that their country had made a conventional requirement.

In the end, much that was good about the country, and needed for its future felicity, was widely and unwisely hated.

At this point, action came from a Higher Realm. God himself, who reviews all, changed His decision schedule to bring to the fore the sad case of the Great Financial Scandal of 2003. He called in his chief detective and said, "Smith, bring in for harsh but fair judgment the most depraved of those responsible for this horrible outcome."

But when Smith brought in a group of security analysts who had long and uncritically touted the stock of Quant Tech, the Great Judge was displeased. "Smith," he said, "I can't come down hardest on low-level cognitive error, much of it subconsciously caused by the standard incentive systems of the world."

Next, Smith brought in a group of SEC commissioners and powerful politicians. "No, no," said the Great Judge, "These people operate in a virtual maelstrom of regrettable forces and can't reasonably be expected to meet the behavioral standard you seek to impose."

Now the chief detective thought he had gotten the point. He next brought in the corporate officers who had practiced their version of "modern financial engineering" at Quant Tech. "You are getting close," said the Great Judge, "but I told you to bring in the most depraved. These officers will, of course, get strong punishment for their massive fraud and disgusting stewardship of the great engineer's legacy. But I want you to bring in the miscreants who will soon be in the lowest circle in Hell, the ones who so easily could have prevented all this calamity."

At last, the chief detective truly understood. He remembered that the lowest circle of Hell was reserved for traitors. And so he now brought in from Purgatory a group of elderly persons who, in their days on earth, had been prominent partners in major accounting firms. "Here are your traitors," said the chief detective. "They adopted the false accounting convention for employee stock options. They occupied high positions in one of the noblest professions, which, like yours, helps make society work right by laying down the right rules. They were very smart and securely placed, and it is inexcusable that they deliberately caused all this lying and cheating that was so obviously predictable. They well knew what they were doing was disastrously wrong, yet they did it anyway.

Owing to press of business in Your Judicial System, you made a mistake at first in punishing them so lightly. But now you can send them into the lowest circle in Hell."

Startled by the vehemence and presumption, the Great Judge paused. Then He quietly said: "Well done, my good and faithful servant."

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This account is not an implied prediction about 2003. It is a work of fiction. Except in the case of Professor Galbraith, any resemblances to real persons or companies is accidental. It was written in an attempt to focus possibly useful attention on certain modern behaviors and belief systems.

2015年6月22日月曜日

歴史から得られる本物の教訓(ハワード・マークス)

オークツリーの会長ハワード・マークスが少し前にレターを公開していました。今回の題名は"Risk Revisited Again"です。今回は書下ろしではなく、何回か前に発表した文章を改訂した文章(過去記事など)になっています。投資におけるリスク管理の手引きとしていっそう質を高めたエッセイだと思います。また基本的に同じ文章をくりかえしたことは、彼が自分の見解を強調したいゆえにとった手段だとうけとめました。今回は、改訂元のレターに対して追加された部分から一部を引用します。(日本語は拙訳)

Risk Revisited Again [PDF] (Oaktree Capital Management)

リスクとは未来にのみ存在するものですが、なにが将来起こるのか確信をもって知ることはできません。過去に起こったできごとをもとに予想を立てることがよくあります。しかし過去のできごとをあまり当てにするべきではないでしょう。過去をふりかえる場合、当然ながらそこに不確実なものはありません。起きたことしか起こっていないからです。しかしそれが絶対確実だからといって、「結果を生み出すプロセスが明瞭かつ信頼できるものである」とは言えません。過去の時点では、さまざまなことが起こり得る可能性がありました。そしてそのなかで実際に起こるのはひとつにすぎないという事実が、存在していた多様な潜在的可能性を矮小化しています。ここで申し上げたいのは(ナシーム・ニコラス・タレブの『まぐれ』に影響されて)、事実として生じた歴史とは、起こり得たことのたったひとつの姿に過ぎない点です。このことを受け入れるとすれば、歴史と将来との関連性は多くの人が妥当だと信じるよりもずっと限定的なものとなります。(ピーター・バーンスタインがこれと同様なことを2001年11月のニュースレターで次のように書いています。「長期的な予測を正当化しようとする際には、歴史に頼りたがるものだ。しかし、予期しなかったり想定外の事態になるのは常であって異常ではないことを、歴史は繰り返し教えてくれる。これは歴史から得られる本物の教訓である」)。(p.9)

Risk exists only in the future, and it's impossible to know for sure what the future holds. Expectations are often formulated on the basis of what happened in the past, but the events of the past must be taken with a substantial grain of salt. No ambiguity is evident when we view the past. Only the things that happened happened. But that definiteness doesn't mean the process that creates outcomes is clear-cut and dependable. Many things could have happened in each case in the past, and the fact that only one did happen understates the potential for variability that existed. What I mean to say (inspired by Nicolas Nassim Taleb’s Fooled by Randomness) is that the history that took place is only one version of what it could have been. If you accept this, then the relevance of history to the future is much more limited than many believe to be the case. [Along these same lines, Peter Bernstein wrote the following in his November 2001 newsletter: We like to rely on history to justify our forecasts of the long run, but history tells us over and over again that the unexpected and the unthinkable are the norm, not an anomaly. That is the real lesson of history.]

リスクをはかる能力や、リスクが発現した時の挙動を一度も見たことがないのに理解できる能力を、自分はどれだけ持っているのか。人間はそれを過大評価するものです。人間と他の種を区別する理由のひとつとして、人間には危険なことを経験せずに把握できる能力があります。つまり熱いストーブの上に座るべきでないとわかるために、ヤケドする必要はありません。しかし強気な時期になると、人間はそのように振舞わなくなる傾向があります。将来のリスクを認識しようとするかわりに、金融上の新たな発明がだいじょうぶなのか判断する能力を過大評価して行動しがちになるのです。(p.10)

People overestimate their ability to gauge risk and understand mechanisms they've never before seen in operation. In theory, one thing that distinguishes humans from other species is that we can figure out that something's dangerous without experiencing it. We don’t have to burn ourselves to know we shouldn't sit on a hot stove. But in bullish times, people tend not to perform this function. Rather than recognize risk ahead, they tend to overestimate their ability to understand how new financial inventions will work.

2015年6月20日土曜日

(解答)いいアイディアを生み出す方法(『149人の美しいセオリー』)

前回の投稿でとりあげた問題に対する解答の文章です。

エレガントなやり方はこうだ。小魚の群れが出てきたら、一飲みにするかわりに、海底を泳いでお腹で泥をならし、逃げ込む巣穴をふさいでしまう。これで食べ放題だ。

ここから何を学べるだろうか。いいアイディアを思いつくには、ダメなアイディアは捨てることだ。秘訣は、簡単で明白だが非効率なやり方を封印して、よりよい解決法が降りてくるようにすること。これがはるか昔、突然変異と自然淘汰の何らかの作用を通じて、大きな魚に起きたことなのだ。早く食べるとか、一口を大きくするといった、当たり前の発想をこねくり回すのはやめて、プランAを捨てれば、プランBが浮かんでくる。あなたが人間なら、二つ目の解決法もうまくいかなければ、それも封印して待ってみよう。三つ目が意識下に現われ、そのまた次が現われ、やがては難攻不落の課題も解決できる。たとえその過程で、直感的に明らかな前提のほとんどを封印しなければいけないとしても。

素人目には、いいアイディアはまるで魔法、稲妻のごとき知的跳躍のように映る。けれどもそれは、先述のようなプロセスの繰り返しの結果であり、魅力的だがミスリーディングな前提を捨てる経験を十分に積んだ結果である可能性が高い。非凡な発想は、実は平凡な発想の中から徐々に姿を現すものなのだ。(中略)

最高の頭脳を持つ者たちが何十年、何百年と挑み続けても古典的課題を解決できないのは、彼らが文化的にあまりに根深い前提に囚われていて、それを覆すことを思いつきもしないか、あるいはそもそも前提の存在にすら気づかないからだろう。だが、文化的文脈は変化する。昨日まで当たり前に思えたことが、今日や明日には、控えめに言っても疑わしく見えてくる。遅かれ早かれ、先人と比べて決して才能に恵まれているわけではないが、根本的に間違った前提という枷を持たない誰かが、あっけなく解決法を思いつくだろう。(p.381)

2015年6月18日木曜日

(問題)いいアイディアを生み出す方法(『149人の美しいセオリー』)

今年の早いうちに読んだ本『知のトップランナー149人の美しいセオリー』は、「あなたのお気に入りの、深遠で、エレガントで、美しい説明は何ですか?」という題目に対して寄せられたエッセイ集です。学術界で活躍する人たちが主に筆をとっているので、本質的な内容自体は勉強になります。しかしむずかしい主題を短い字数にまとめ、そこから翻訳された日本語を読むわけですから、明瞭明快な文章とは言いにくいところがあります。そうではあるものの、興味の範囲を広げる水先案内としては有用な一冊だと思います(ちなみに、創発についても取りあげられていました)。

今回引用するのは、ニュースクール大学の教授マーセル・キンズボーン氏が書いたエッセイです。解答の部分は次回の投稿でご紹介します。

いいアイディアを生み出すのに、人間である必要はない。あなたが魚でもかまわない。

ミクロネシアの浅い海域に、小魚を食べる大きな魚がいる。小魚は泥の中の巣穴に住んでいるが、餌を食べるときにはわらわらと出てくる。大きな魚は小魚を1匹ずつ平らげようとするが、食べ始めたとたん、小魚たちはさっさと巣穴に戻ってしまう。さて、どうしたものか。

私はもう何年も授業でこの問題を出しているが、私の記憶が確かなら、大きな魚と同じ名案を考え出した学生はたった1人しかいない。(p.381)

蛇足ですが、わたしの出した答えは自己採点で20点といったところでした。

2015年6月16日火曜日

2015年バークシャー株主総会;テレダイン社のシングルトン氏について

少し前の投稿でご紹介した本『破天荒な経営者たち』に登場していたテレダイン社の元CEOヘンリー・シングルトンのことが、5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会でも話題になっていました。その箇所をご紹介します。なお、このシリーズの前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> コングロマリットだったテレダイン社がほぐれたことから学んだことはありますか。

<バフェット> テレダインのCEOだったヘンリー・シングルトンを観察することで、いろんなことを学びました。

<マンガー> シングルトンは我々よりもずっと頭のいい人物でしたよ。彼は目隠しでチェスを指すことができました。しかし投資の面ではバフェットのほうがシングルトンよりうまくやりました。いつも証券のことを考えていたからですね。(笑いながら)シングルトンとくらべると知能指数はかなり劣っていましたが、ウォーレンはうまくやってこられたのです。シングルトンは主要な重役たちを動機づけるのに非常に巧妙なやりかたをしました。ところが最後には3つの事業部がスキャンダルを起こしてしまいました。まちがった動機づけをしたせいで、政府との取引で度が過ぎたのです。

<バフェット> 動機づけが大きな力を持つことをわたしたちは信じています。ですが、隠れた動機づけによってまちがった行動を導くことがないように気をつけています。良識のある人物が誤った行動を起こしてしまう例を一度ならず見てきました。CEOに忠義立てして、数字を達成しようとしたせいです。「金銭的な報酬やエゴを満足させようとして誤った行動をとってしまう」、バークシャーではそうさせる誘因を撲滅するように努めています。

<マンガー> ヘンリーはバークシャーの株式と引き換えにテレダインを売却したがっていましたよ。(含み笑いをしながら)彼はとことん賢明だったわけです。(後略)

Buffett was asked what he learned from the unwinding of the Teledyne conglomerate. Buffett said he learned a lot from watching Henry Singleton, the CEO of Teledyne.

Charlie added that Singleton was a lot smarter than either of them. He played chess blindfolded. However, Buffett did better than Singleton in investing as Buffett was always thinking about securities. Charlie laughed, "Warren was able to get by with his horrible deficit in IQ to Singleton." Singleton had very clever incentives for key executives. In the end, he had three different departments get into scandals. They went too far in dealing with the government due to the wrong incentives being put into place.

Buffett added that they believe in the power of incentives. However, they try to avoid hidden incentives that make people misbehave. He noted that they have seen more than once really decent people misbehave because they felt there was a loyalty to their CEO to deliver certain numbers. At Berkshire, they try to eliminate incentives that would cause people to misbehave for financial rewards or ego satisfaction.

Charlie noted at the end, Henry wanted to sell Teledyne to Berkshire for Berkshire stock. He chuckled, "He was smart to the end."

2015年6月14日日曜日

創発とは(『わたしはどこにあるのか』)

読了したばかりの本『〈わたし〉はどこにあるのか: ガザニガ脳科学講義』は「人間の意識」とはどのようなものなのか、科学的な説明を試みている著作です。そのなかで説明されていた「創発」という概念をはじめて知りました。チャーリー・マンガーが主張する「とびっきり効果」(Lollapalooza effect)と似ており、印象に残りました(参考記事の例)。今回は創発を説明した箇所を引用します。

創発とはミクロレベルの複雑系において、平衡からはほど遠い状態(無作為の事象が増幅される)で、自己組織化(創造的かつ自然発生的な順応志向のふるまい)が行なわれた結果、それまで存在しなかった新しい性質を持つ構造が出現し、マクロレベルで新しい秩序が形成されることだ。創発には「弱い創発」と「強い創発」の2種類がある。弱い創発とは、元素レベルの相互作用の結果、新しい性質が出現すること。創発された性質は個々の要素に還元できる。つまりレベルが進んでいった段階を把握できるわけで、決定論的な立場と言える。これに対して強い創発では、新たに出現した性質は部分の総和以上なので還元できない。無作為の事象が拡大していくので、基礎的な理論や、別レベルの構造を支配する法則を理解したところで、性質の法則性が予測できない。(p.155)

こちらはおまけで、物理学者ファインマンの発言です。

物理学者が尻尾を巻き、決定論の裏口からこっそり逃げ出したのは、カオス理論も一因だが、量子力学と創発によるところが大きい。リチャード・ファインマンが、1961年にカリフォルニア工科大学の新入生を前に行った講演の中で、こう宣言したのは有名な話だ。「その通り!物理学は降参した。特定の状況で何が起こるのか、予測する術を我々は持たないし、そんなことは不可能だと分かった―予測できるのは異なる事象ごとの確率だけだ。自然界を理解したいという物理学の理想が削られたと言わざるを得ない。ある意味後退でもあるが、それを避ける方法を誰も見つけられなかった……だから当面は、確率計算に専念するとしよう。『当面』といったものの、永遠に続きそうな気がしてならない。この謎を解明するのは不可能であり、これが自然の真の姿なのだ」(p.158)

2015年6月12日金曜日

2015年デイリー・ジャーナル株主総会(6)ポスコ社について

デイリー・ジャーナル社の株主総会の記事から、チャーリー・マンガーの質疑応答です。前回分と同様にPart2の記事から引用します。(日本語は拙訳)

<質問> デイリー・ジャーナル社が保有するポスコ社の株式についてどう考えておられるのか、お聞かせください。

<マンガー> 非常に興味深い事例ですよ。世界がいかに厳しいところなのか、実際に現われていますね。ポスコは世界中で最も効率的な製鉄会社です。非常に長い期間にわたって、自国内の市場をほぼ独占してきました。にもかかわらず、世界中のどこも持たない非常に重要な製鉄技術を有するにもかかわらず、ふつうの一般的な製鉄会社と同じようにポスコは製品を販売しているのです。

激しい競争がつづく現代の社会では、コモディティー化を避けるのは非常に難しいことです。ダウ・ケミカル社のようなところでもそうでした。博士号を有する化学者を何千人と擁していたものの、彼らが生み出した複雑な化学製品はすべてコモディティーと化してしまいました。ポスコを築いた人たちと同様に有能かつ明晰だった人たちが直面したのは、低調な市場や好ましくない価格といったことだったのです。

コモディティー化したビジネスで儲けを出すことがどれだけ難しくて危険か。また、巨大な優位性があると考えたもののうち、どれだけ多くの事業がコモディティー化しうるのか。この件はそういったことを示していますね。ポスコの例をあげたことで、あなたはこの会合に対してすばらしい貢献を果たしましたよ。どれだけ難しいことなのか、ポスコの秀逸な事例はまさに示しています。これはだれにとっても、考える材料になりますね。

Q: Would you give us your thoughts on the Posco [PKX] position in the Daily Journal Portfolio?

Mr. Munger: It's a very interesting example, as a matter of fact, that shows how hard the world is. That is the most efficient steel company in the world, and it had pretty close to a local monopoly of a whole country for a long, long time. In spite of that, in spite of having some very important steel technology they have that nobody else in the world has, Posco is selling like an ordinary commoditized steel company.

It's very hard to avoid being commoditized in high powered competition in the modern world. In places like Dow Chemical [DOW], have all our complex chemical products commoditized in spite of the fact they've got thousands of PhD chemists, and people as talented and brilliant as the people who created Posco just find the markets low and the prices bad and so forth.

It shows how hard and dangerous it is to make money in a commoditized business, and how many businesses that you formerly thought were hugely advantaged can be commoditized. So, you've done a wonderful service to this meeting by raising the case of Posco. Posco's an excellent example for everybody to think about. It really shows how hard it is.

チャーリー・マンガーに対して「日本のことを不勉強だ」と、以前の投稿で書いたことがあります。今回の質疑応答でもその一面が現われているように思えてなりません。ただし、製鉄業界やポスコ社や新日鉄について調べたことがほとんどないので、わたしのほうが事実を正しく把握できていないのかもしれません。そうだとすれば、すなおに謝りたいと思います。

ミクロな点でチャーリーに異議申し立てしましたが、マクロな視点でとらえれば今回もチャーリーの見解は的確だと思います。有用な科学技術や知識は、歴史上のあらゆる場所で分析・移転・流用・盗用されてきたはずです。「製品自体あるいは製造プロセスの優位性によって、いつまでも勝ち続けることはむずかしい」、この重要な忠告を忘れないようにしたいと改めて感じました。

2015年6月10日水曜日

2015年バークシャー株主総会;インフレにまつわるジレットの話

5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、インフレについてです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> インフレ環境下で保有するのは何が一番よいですか。

<バフェット> いちばんなのは、一度買ったらそれっきり追加の資本投資がいらないビジネスです。不動産一般がその好例です。55年前に家を自分で建てたり買ったりした出費は一度きりで、それからはインフレーションによって価値が増大したのです。公益関連や鉄道といった事業では、インフレの間は減価償却額に釣り合わないほど資金を食いつづけます。概して言えば、大量の資本投資が必要などんな事業も、得てして儲からないものです。一方、インフレの間に保有するものとしてブランドはすばらしいです。シーズ・キャンディー社はずっと昔にブランドを築きました。インフレ期間中にブランドの価値は増加します。強いブランド力のある製品がことごとくそうなるのと同じです。ジレット社は1939年に全ワールド・シリーズのラジオ放送権を10万ドルで買いました。ヤンキース対レッズを放送した年です。その後何十年もつづいたシリーズによって、ジレット製品に対する印象が形作られました。1939年当時のドルで投資したものが、1960年代から80年代のドルで利益をあげてくれたのです。しかし、何百万という人たちに同じような印象を持ってもらうには、今となってはとても高くつきます。

<マンガー> たしかにそうですけれど、インフレーションが完全に制御不能になってしまうと、最後にどうなるかは誰にもわからないですよ。大恐慌の前にあった2回の大インフレがヒトラーを生みだしたのです。シーズ・キャンディーに望ましいからといって、インフレは望みませんね。

A related question asked which businesses are the best to own in an inflationary environment. Buffett responded the best business is one that you buy once and subsequently do not have to keep making capital investments. Real estate in general is a good example. If you built your own house or bought one 55 years ago, it was a one-time outlay. You then get an inflationary expansion in value. At businesses such as utilities or railroads, they keep eating up more money with depreciation charges inadequate during inflationary times. Any business with a heavy capital investment tends to be a poor business generally. A brand is a wonderful thing to own during inflation. See's Candies built their brand years ago. The value of a brand increases during inflation, as do any strongly branded goods. Gillette bought the entire radio rights to the World Series in 1939 for $100,000 when they broadcast the Yankees vs. Reds. Impressions of Gillette products were made during the Series that lasted for decades. A great investment that was made in 1939 dollars paid off in 1960-1980 dollars. Similar impressions on millions of minds now would cost a fortune.

Charlie agreed but said if inflation ever gets completely out of control, we have no idea how it would end up. The twosome of great inflation followed by the Depression brought us Hitler. He stated, "We don't want inflation because it's good for See's Candies."

2015年6月8日月曜日

肉屋とレジ打ちと法律家とパンケーキ(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の10回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

巨大不祥事を招いた専門家らに対して、公衆は激しい反感を抱きました。当然ながら会計業界がもっとも非難されました。会計原則をさだめる団体の略称は、昔から「FASB」[ファズビー]と呼ばれてきました。しかし今やほとんどの人は「いまだにインキチ会計報告(Financial Accounts Still Bogus)」と解釈しています。

経済学者に対しても大きな批判がむけられました。あやまった会計に対して注意をださず、またそのやりかたが広く使われることでマクロ経済的な悪しき影響が不可避となるのをきちんと警告しなかった、それらに対する批判です。伝統的な経済学者に対する失望があまりに大きかったため、ハーバード大学のジョン・ケネス・ガルブレイスが[俗に言う]ノーベル経済学賞を受賞することになりました。つまるところ彼は以前に、「企業において大規模な横領行為が露見しないまま続くことで、ありがたくも経済を刺激する影響をもたらす」と予言していたのです(参考記事)。2003年に先立つ年に起きたことは、ガルブレイスがかつて予言した内容と非常に近いできごとでした。そしてそれが原因のひとつとなって大きな景気後退が生じました。今となればどちらも理解できると思います。

議会や証券取引委員会が大勢の法律家を使い、その法律家が多大な労力を費やして開示対象の会計文書をとりまとめました。今ではそれがインチキとみられており、「法律家」に関する新たな冗談が一週間ごとに生まれました。一例をあげておきましょう。肉屋が「法律家の評判は見事なまでに外れちまったね」と言うと、レジ係がこう答えたとさ。「で、飛んでくるパンケーキをどれだけ見事に外せたわけ?」

There was huge public antipathy to professions following the Great Scandal. The accounting profession, of course, got the most blame. The rule-making body for accountants had long borne the acronym "F.A.S.B." And now, nearly everyone said this stood for "Financial Accounts Still Bogus".

Economics professors, likewise, drew much criticism for failing to blow the whistle on false accounting and for not sufficiently warning about eventual bad macroeconomic effects of widespread false accounting. So great was the disappointment with conventional economists that Harvard's John Kenneth Galbraith received the Nobel Prize in economics. After all, he had once predicted that massive, undetected corporate embezzlement would have a wonderfully stimulating effect on the economy. And people could now see that something very close to what Galbraith had predicted had actually happened in the years preceding 2003 and had thereafter helped create a big, reactive recession.

With Congress and the SEC so heavily peopled by lawyers, and with lawyers having been so heavily involved in drafting financial disclosure documents now seen as bogus, there was a new "lawyer" joke every week. One such was: "The butcher says ‘The reputation of lawyers has fallen dramatically', and the check-out clerk replies, 'How do you fall dramatically off a pancake?'"

2015年6月6日土曜日

見ざる、聞かざる(スティーブン・ローミック)

少し前の投稿で取りあげたファンド・マネージャーのスティーブン・ローミックが、好調な他のファンドはどうかとそわそわする顧客をなだめるような文章を書いていました(共著)。一部を引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

The Importance of Full Market Cycle Returns [PDF] (FPA)

「市場サイクルの全期間」とは「ある頂点を起点として、そこから15%以上下落したあとに反転し、新高値となる次の頂点に至るまでの期間」と定義することもできます。刊行物やデータ提供業者が市場サイクル全期間あたりのリターンについて、注目しないのは当然としても、発表すらしないことがほとんどです。しかしそれらを理解しておけば、長期的にみたポートフォリオのリターンに寄与しうる、とわたしたちは確信しています。

バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットは、2013年度版のレターでこう書いています。「2007年末から2013年末に至る株式市場のサイクルにおいて、当社はS&P500を凌駕しました。今後あらわれる幾多の市場サイクルでも、同じことができればと思っております。それができなければ、そのときのわたしどもは報酬を受けとっていないことでしょう。結局のところ、インデックス・ファンドはいつでも保有できるわけで、そうすればS&P500の成果が保証されるのですから」。

(中略)

2000年あるいは2007年の直前3年間や5年間にめざましい成績をあげた多くのポートフォリオ・マネージャーは、その後の弱気相場でみずからの成績(そしてもっと大切なのは顧客の資本)が大幅に縮小するのをながめることになりました。それとは別に、厳しい環境下で投資元本をうまく護ったポートフォリオ・マネージャーもいました。しかし彼らは市場が割安になったときに資本を適切に投じなかったため、その顧客は市場サイクル全期間でみたリターンが平均以下の成績にとどまってしまいました。

長期志向の投資家にとって、市場の頂点同士のあいまに起こることは単なる雑音にすぎないのかもしれません。そうだとしたら次の図をみてください。そして、ひとつ前の市場サイクル(2000-2007年)でS&P500がどうなったのか、2007年以降つづいている現在の市場サイクルでも同じように考えてみてください。すぐれた企業の株式を保有しているか、あるいは有能な運用者に投資を任せているかしていれば、緑の丸印の間で上下している最中は耳を(ときには目も)覆っていたほうがよかったことがわかると思います。


A full market cycle can be defined as a peak-to-peak period that contains a price decline of at least 15% from the previous market peak, followed by a rebound that establishes a new, higher peak. Few publications or data providers publish, let alone highlight, full market cycle returns, yet we believe understanding them can help the return of your portfolio over the long-term.

Warren Buffett, in Berkshire Hathaway's 2013 Chairman's Letter, wrote "Over the stock market cycle between year ends 2007 and 2013, we overperformed the S&P. Through full cycles in future years, we expect to do that again. If we fail to do so, we will not have earned our pay. After all, you could always own an index fund and be assured of S&P results."

(skipped)

Many portfolio managers with strong trailing three- and five-year performances in 2000 and 2007 saw their records (and, more importantly, their clients' capital) decimated by subsequent bear markets. There are other portfolio managers, however, who successfully protect principal in a weak environment yet fail to adequately commit capital when markets are inexpensive, leaving their clients with a sub-par return over the full cycle.

If you are a long-term investor, what happens in between market peaks may be nothing more than noise. Consider both the current market cycle (2007- to the most recent quarter-end peak), as well as the preceding market cycle (2000-2007) for the S&P 500 in the chart on the following page. If you owned shares in good businesses or invested with capable managers, you were better off covering your ears (and sometimes eyes) through the volatility between the green dots.

2015年6月4日木曜日

2015年バークシャー株主総会;すぐれた企業の特徴とは

5月2日に開催されたバークシャー・ハサウェイの年次株主総会から、企業分析についてです。ここでも何度か取りあげているおなじみの話題ですが(参考記事)、うっかりするとおざなりにしてしまう大切なことです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> 自信をもって今後10年間の利益を予測できる企業について、特徴が5つあるとすればどんなものがありますか。

<マンガー> 万能のやりかたなど知りませんね。業界というのはそれぞれ違いますから。我々は今も学習し続けています。だから10年前よりはうまくありたいと思いますよ。これだという公式は示せません。

<バフェット> 事業を購入する前にはさまざまな項目を検討します。ほぼそういったフィルターによって、買うのをやめにしています。事業が異なれば、適用するフィルターも非常に異なってきます。ですが5年から10年後にその事業がどうなるのか、それを考えるのに適切な程度は用意するように努めています。いつでも同じ質問が5つということはありません。ただし、「本当にこの事業の経営陣をパートナーにしたいのか」という質問は同じです。その答えが「いいえ」のときは、たとえどんなものでもそれ以上は検討しません。(笑いながら)5つの質問一式などはありません。あったとしてもチャーリーは隠して、わたしには教えてくれませんよ。

A shareholder asked if there were five characteristics of a company that gives one confidence to predict its earnings 10 years out in the future?

Charlie responded, “We don't have a one-size fits all. Every industry is different. We keep learning. What we did 10 years ago, we hope we are doing better now. We can't give you a formula.”

Buffett added that many items are considered before making a purchase. Most of their filters stop them from buying a business. Very different filters apply to different business, but they try to get a reasonable fix on what the business will look like in 5-10 years. It's not the same five questions. However, one question is, “Do we really want to be in a partnership with the management of this business?” If not, that will stop any further consideration. Buffett laughed, “We don't have a list of five. If we do, Charlie has kept it from me.”

2015年6月2日火曜日

まやかしはいつまでも続かない(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講演「2003年に露呈した巨大金融不祥事について」の9回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

人間が望むあらゆる等比数列において高い公比を選ぶのであれば、この世界が有限である以上、最後には悲しい結末が待っています。また人間が成す社会という仕組みは結局はまともであり、大規模な不正のほぼすべてがいずれは恥辱をさらすことになります。2003年になってクァント・テック社はそのどちらにも陥りました。

売上高成長率が年率4%に低下したことで、クァント・テックの真の利益力は2003年になるまでに4%しか成長できなくなっていました。大半が機関投資家だった株主は大きく失望しましたが、もはや同社にはそれを逃れる術はありませんでした。この失望がきっかけとなり、同社の株価は衝撃的なまでに下落しました。いきなり50%下落したのです。株価が暴落したことで、クァント・テック社が会計報告上とっていた慣行が精査されるようになりました。そしてようやく、同社が報告した利益のうち非常に大きな部分が以前から「まやかし」であり、大規模かつ意図してなされた不適切な報告を非常に長期間続けてきたことが、ほぼだれの目にも明白となりました。これがさらなる株価下落を招き、2013年の中盤までに同社の時価総額はわずか1,400億ドルとなりました。半年ほど前に頂点を付けたときとくらべて、90%下落したのです。

過去には株式が広く保有され、そして讃えられた重要な企業の株価があっというまに90%も下落したわけです。市場価値にして1兆3,000億ドルが消えたことで、人々は強烈な痛みを感じました。当然ながら世間や政界は、非難を受けるに値する同社に対して激しい憎しみと嫌悪の念を向けるようになりました。称賛されるに足る同社の技術者が、今でも国内最高の発電所を設計しているとしてもです。

憎しみと嫌悪の向け先はクァント・テック社にとどまらず、すぐに他の企業へと広がりました。その中には、すなわちクァント・テックとは程度が異なるものの、好ましくない会計文化を持つ企業も含まれていました。大衆や政界から生じた憎悪は、それをひき起こした振舞いと同じようにすぐに限度を大きく超え、憎悪が憎悪を招きつづけました。この金融的惨状は投資家を超えて大きく広がり、深刻な景気後退をもたらしました。これは、欠陥のある会計基準が長くつづいた後に日本で起こった1990年代の不況と似たものでした。

However, all man's desired geometric progressions, if a high rate of growth is chosen, at last come to grief on a finite earth. And the social system for man on earth is fair enough, eventually, that almost all massive cheating ends in disgrace. And in 2003 Quant Tech failed in both ways.

By 2003, Quant Tech's real earning power was growing at only four percent per year after sales growth had slowed to four percent. There was now no way for Quant Tech to escape causing a big disappointment for its shareholders, now largely consisting of institutional investors. This disappointment triggered a shocking decline in the price of Quant Tech stock, which went down suddenly by fifty percent. This price decline, in turn, triggered a careful examination of Quant Tech's financial reporting practices, which, at long last, convinced nearly everyone that a very large majority of Quant Tech's reported earnings had long been phony earnings and that massive and deliberate misreporting had gone on for a great many years. This triggered even more price decline for Quant Tech stock until in mid-2003 the market capitalization of Quant Tech was only $140 billion, down ninety percent from its peak only six months earlier.

A quick ninety percent decline in the price of the stock of such an important company that was previously so widely owned and admired caused immense human suffering, considering the $1.3 trillion in market value that had disappeared. And naturally, with Quant Tech's deserved disgrace, the public and political reaction included intense hatred and revulsion directed at Quant Tech, even though its admirable engineers were still designing the nation's best power plants.

Moreover, the hatred and revulsion did not stop with Quant Tech. It soon spread to other corporations, some of which plainly had undesirable financial cultures different from Quant Tech's only in degree. The public and political hatred, like the behavior that had caused it, soon went to gross excess and fed upon itself. Financial misery spread far beyond investors into a serious recession like that of Japan in the 1990s following the long period of false Japanese accounting.