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2018年3月28日水曜日

私が勧めるメンタル・モデル(エドワード・ソープ)

Twitterのほうでご紹介しましたが、ギャンブラーとしても有名な天才数学者エドワード・ソープのインタビュー記事が、米投資雑誌バロンズのサイトに掲載されていました。短い記事ですが、個人的には再読したい文章ばかりです。今回ご紹介するのは、本サイトで主要な話題として取り上げている「メンタル・モデル」の話題です。(日本語は拙訳)

なお、下記リンク先は購読者のみのアクセス制限付きです。無料で読みたい方は、たとえばTwitterの投稿でご紹介したGoogle検索経由などの方法でアクセスしてください。

Why Edward Thorp Owns Only Berkshire Hathaway (Barron's)

<質問> あなたの新刊『どんな市場でも闘える男』[未訳; 原題はA Man for All Markets]から、どのような教訓を得てほしいとお考えですか。

<ソープ> 己のためにできる最高のこととは、「みずからを教育して、明確かつ合理的にものごとを考えられるようにすること」です。数学や科学、論理的思考を身につけるのに役立つでしょう。その次に大切なのは、広い分野にわたって、書物を読んだり興味をいだくことです。もしそうできれば、道具として使えるものを増やすことができます。(バークシャー・ハサウェイの副会長である)チャーリー・マンガーは多種多様なメンタル・モデルの持ち主ですが、それらはものごとを考える上での短縮法といえるものです。私自身も手持ちがありますが、お気に入りのひとつに「外部性を理解せよ」というものがあります(他者の経済活動から生じる波及効果)。

たとえば、私が自宅に火災保険をかけたとしましょう。すると、となりに住むご家族は若干安全になります。これが「正の外部性」です。一方、環境性能の低いガソリン車に乗って大気を汚染させるにもかかわらず、なんの対価も支払わない人がいるとすれば、それが「負の外部性」です。もうひとつの例として「銃」があげられます。客が銃を買っていったことで、販売業者は大儲けをします。しかしその客が他人を殺せば、社会が大きな費用を支払うことになります。一方で、銃の販売業者は何も支払いません。

さまざまな問題を分析しようとする際に、「外部性」を考えるのは有効なやりかたです。もし「負の外部性」をもたらす人に対して、その責任をとらせるようにすれば、多くの問題が解消されます。単刀直入な解決例をあげてみましょう。自動車は年間3万5千人の命を奪っています。もし自動車を運転したければ、免許証が必要ですし、訓練もそうですし、損害を与えたときのために保険も必要です。それと同じように、銃の場合も保有者に責任を持たせるべきです。たとえば、紛失した際にはその旨を報告しなければなりません。銃の場合でも同じようにすれば、何千もの銃器を保有することはできなくなるでしょう。それを引き受ける保険会社など考えられないですから。AR-15[半自動ライフル銃]に必要な保険料はいくらになると思いますか。おそらくは相当な金額になるでしょう。

Q: What lessons do you want people to come away with from A Man for All Markets?

A: That the best thing you can do for yourself is to educate yourself to think clearly and rationally. It helps to have math or science or logical training. The next is to be widely read and curious. If you are that way, you have so much more to use in terms of tools. [Berkshire Hathaway Vice Chairman] Charlie Munger has a collection of multiple mental models—shorthand ways to think of things. I also have my own, and one of my favorites is to understand externalities [spillover effects from other economic activity].

For example, if I buy fire insurance for my house, my neighbor is a little safer. That’s an externality benefit. If someone drives a polluting gasoline car and uses the atmosphere as a waste dump without paying any consequences, that’s a negative externality. Another one is guns. Gun dealers make a lot of money, their clients go out and kill people, and society pays huge costs. Gun dealers don’t.

Externalities are a good way to start analyzing problems. A lot of problems go away if you make people who distribute negative externalities pay the consequences. There’s a neat solution. Automobiles kill about 35,000 people a year. If you want to drive a car, you need a license, some training, and also insurance if your car does damage. People have to be accountable for their guns, just like cars. If your car is stolen, you are expected to report it. [What if it were the] same with guns? People wouldn’t be able to accumulate thousands of guns, because what insurance company will insure it? What do you think the insurance would be for an AR-15? It would be very high.

2018年3月24日土曜日

2017年度バフェットからの手紙(8)資本主義を育むところ

2017年度「バフェットからの手紙」から、ちょっとした話題をひろい集めました。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

バークシャー子会社における買収について。
最後になりますが、買収によって成長してきた[子会社の]プレシジョン・キャストパーツ社が、防食材やパイプ関連のシステム及びコンポーネントを製造しているドイツのヴィルヘルム・シュルツ社を買収しました。ただし、これ以上の説明はご勘弁ください。不動産仲介や建築会社やトラック・ステーションの活動について疎いように、生産現場のこともわたし自身がよく知らないからです。

ありがたいことに、この件で知識を並べ立てる必要はありません。プレシジョン社のCEOを務めるマーク・ドネガンは製造会社における卓越した経営者で、配下のあらゆる事業をうまくいくように仕立てあげているからです。ときに「現物」に賭けるよりも「人物」に賭けたほうが、確かなことがあります。(PDFファイル5ページ目)

Finally, Precision Castparts, a company built through acquisitions, bought Wilhelm Schulz GmbH, a German maker of corrosion resistant fittings, piping systems and components. Please allow me to skip a further explanation. I don’t understand manufacturing operations as well as I do the activities of real estate brokers, home builders or truck stops.

Fortunately, I don’t need in this instance to bring knowledge to the table: Mark Donegan, CEO of Precision, is an extraordinary manufacturing executive, and any business in his domain is slated to do well. Betting on people can sometimes be more certain than betting on physical assets.

年次株主総会おなじみの卓球仲間について。
友人のアリエル・シンが、日曜日にモールのほうにも参加して卓球の勝負を挑む人を待っています。アリエルにお会いしたのは彼女が9歳の時でしたが、そのときすでに彼女から1点も取れませんでした。アリエルは2012年のオリンピックで米国の代表選手を務めました。物おじしない方はぜひ、彼女に挑戦して腕前を試してみてください。開始時刻は午後1時です。昨年はビル・ゲイツがけっこういい勝負をしましたので、今年も挑むと思います(でもアリエルに賭けたほうがいいですよ)。わたし自身は、助言者として参加するにとどめておきます。(PDFファイル14ページ目)

My friend, Ariel Hsing, will be in the mall as well on Sunday, taking on challengers at table tennis. I met Ariel when she was nine, and even then I was unable to score a point against her. Ariel represented the United States in the 2012 Olympics. If you don’t mind embarrassing yourself, test your skills against her, beginning at 1 p.m. Bill Gates did pretty well playing Ariel last year, so he may be ready to again challenge her. (My advice: Bet on Ariel.) I will participate on an advisory basis only.

年次株主総会における質疑応答について。
上述したように、少なくとも54件の質問を受けるつもりです。アナリストやジャーナリスト各氏からは6件ずつ、そして聴衆のみなさんからは18件分です。それ以降、聴衆のみなさんからさらに質問があればお受けします。過去には、チャーリーとわたしで60件以上の質問を受けたことが何度もあります。質疑応答の終了時刻は3時半です。(PDFファイル15ページ目)

All told, we expect at least 54 questions, which will allow for six from each analyst and journalist and for 18 from the audience. After the 54th, all questions come from the audience. Charlie and I have often tackled more than 60 by 3:30.

総数が10数名の本社スタッフについて。
本社に務める仲間は相変わらずの素晴らしい人ばかりです。SECなどの当局に必要な数多くの用件を効率よくさばき、連邦所得税の申告では32,700ページにわたる文書を提出し、州税の申告3,935件を監督し、株主やメディアから寄せられる止むことのない要求に対応し、年次報告書を送付し、この国最大の年次株主総会にむけた準備にいそしみ、取締役会の活動を調整し、このレターに含まれる事実確認を行う、そのような作業の項目は延々と続きます。

彼らは事業上のあらゆる作業を快く受けてくれ、信じられないほど効率的に処理し、容易で快適な日常をわたしが過ごせるように手助けしてくれます。彼らの活動は、バークシャーだけに限定されるものではありません。たとえば、わたしとの質疑対話のためにオマハを訪問しに来る大学生たちが、昨年は200件の申し出のなかから40件が選ばれましたが、それらを対応してくれました。またわたしが受けるあらゆる要請にも応じてくれますし、旅行の準備や、さらには昼食時にハンバーガーとフレンチ・フライ(もちろん、ハインツ・ケチャップがたっぷり)も持ってきてくれます。また年次総会においては、こうあってほしいと願うあらゆるやりかたを以って、快く尽くしてくれます。彼らはバークシャーで働くことを誇りにしてくれますが、そんな彼らと働けることをわたしも誇らしく思います。(PDFファイル15ページ目)

We continue to have a wonderful group at headquarters. This team efficiently deals with a multitude of SEC and other regulatory requirements, files a 32,700-page Federal income tax return, oversees the filing of 3,935 state tax returns, responds to countless shareholder and media inquiries, gets out the annual report, prepares for the country’s largest annual meeting, coordinates the Board’s activities, fact-checks this letter - and the list goes on and on.

They handle all of these business tasks cheerfully and with unbelievable efficiency, making my life easy and pleasant. Their efforts go beyond activities strictly related to Berkshire: Last year, for example, they dealt with the 40 universities (selected from 200 applicants) who sent students to Omaha for a Q&A day with me. They also handle all kinds of requests that I receive, arrange my travel, and even get me hamburgers and French fries (smothered in Heinz ketchup, of course) for lunch. In addition, they cheerfully pitch in to help at the annual meeting in whatever way they are needed. They are proud to work for Berkshire, and I am proud of them.

ウォーレンやチャーリー亡き後の、バークシャーの経営陣について。
最後に最高の話題を。バークシャーの取締役会は2018年初に、新たな取締役としてアジート・ジェインとグレッグ・アベルを選出し、さらには両名を副会長に任命しました。今ではアジートが保険事業を、そしてグレッグがその他の事業を統括しています。チャーリーとわたしは、投資及び資産配分の職務に専念していきます。

アジートとグレッグが当社のために働いてくれているのは、わたしのみならず、株主のみなさんにとっても実に幸運なことだと思います。長らく当社と共にあった両名には、バークシャーという名の血潮が通っています。彼らの性格は才能と合致しており、そのことがすべてを語っています。

5月5日には、ぜひオマハへいらしてください。バークシャーは資本主義を育むところ、その一同が総出でお迎えします。(PDFファイル16ページ目)

I’ve saved the best for last. Early in 2018, Berkshire’s board elected Ajit Jain and Greg Abel as directors of Berkshire and also designated each as Vice Chairman. Ajit is now responsible for insurance operations, and Greg oversees the rest of our businesses. Charlie and I will focus on investments and capital allocation.

You and I are lucky to have Ajit and Greg working for us. Each has been with Berkshire for decades, and Berkshire’s blood flows through their veins. The character of each man matches his talents. And that says it all.

Come to Omaha - the cradle of capitalism - on May 5th and meet the Berkshire Bunch. All of us look forward to your visit.

株式市場が大幅に下落して、さらには円高が進むようであれば、そのときこそ日本人にとってバークシャー株を買う好機だと思います。はたしてその日がやって来るのか、今は成り行きに任せるばかりです。

2018年3月20日火曜日

企業の成長、自社株買い、株価について(ウォーリー・ワイツ)

バリュー志向のマネージャーであるウォーリー・ワイツのインタビュー記事から、さらに引用します。オーソドックスな内容ですが、銘柄選択及び購入価格に関する大切な側面が簡潔に語られています。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問> 企業は、いつ配当を支払うべきですか。あるいはいつ自社株買いをすべきでしょうか。

<ワイツ> [投資先の]企業には、1株当たり事業価値の長期的成長に焦点を置いた資本配分を実施してほしいと考えています。その中で筆頭に挙げたいのが、「高いリターンの得られる機会があれば、その事業に再投資する」という選択肢です。また自社株買いもよいと思います。ただし本源的な事業価値よりもずっと安い値段で株が売買されている場合の話です。反対に、株価が本源的価値よりも高いのであれば、資金の下手な使いかたです。過去を振り返れば、高値のときに熱狂的に買う一方で、安値のときに多く買えなかった経営陣がたくさんいました。しかしその足跡はお粗末の連続だったにもかかわらず、継続株主にとってみれば、自社株買いは1株当たりの価値を増加させる上で非常に効果的な手段になり得ます。そして配当ですが、これは多くの株主にとって魅力的かもしれません。しかし現在の低金利環境では、「利回りを追求する」動きゆえに保証なき株価高騰を招いた例が、数多くみられます。

JR: When should a company pay a dividend or repurchase stock?

WW: We want companies’ capital allocation decisions to be focused on long-term growth in business value per share. Our first choice is reinvestment in the business if the company has high return opportunities to do so. Stock buybacks are great if the stock sells well below its intrinsic business value and terrible if the stock price is above intrinsic value. Historically, many managements have bought enthusiastically at high prices and failed to buy much at cheap prices. However, despite a history of poor execution, buybacks can be very effective in increasing the value per share for remaining shareholders. Dividends can be an attraction for many shareholders, but in this low interest rate environment, it appears that “chasing yield” has resulted in unwarranted stock price inflation in many cases.

<質問> 低成長率の現代において、利益をともなった成長ができる企業に投資するのは、どれほど大切なのでしょうか。

<ワイツ> 成長は、事業の価値を算出するのに重要な要素です。しかし私たちにとって問題なのは、事業価値に対する株価であって、成長率そのものではありません。近年では、将来の見通しが立つ成長というものが稀になってきています。また[余剰の]価値がとぼしくなってきたせいで、代金を支払いすぎた投資家が多くいるに違いありません。そのような見方をとってきたことが、近年における私たちの相対的成績に、影響を及ぼしてきました。しかし「たとえ素晴らしい企業だとしても、払い過ぎるのは投機的である」と強く思います。

JR: How important is it to invest in companies that can grow profitably in this low-growth world?

WW: Growth is an important factor in calculating business value. What matters to us, though, is stock price relative to business value, not a growth rate, per se. Predictable growth has been rare in recent years, and we believe that many investors have been over-paying because of its scarcity value. This opinion has impacted our relative performance in recent years, but we believe that over-paying for even a great business is speculating.

備考です。自社株買いと事業拡大のどちらを優先すべきかについては、ウォーレン・バフェットが昨年書いたレターでも取り上げられていました。

2016年度バフェットからの手紙(1)自社株買いについて

2018年3月16日金曜日

割引率について(ウォーレン・バフェット)

バリュー投資サイトのGuruFocusで、ウォーレン・バフェットが過去にインタビューで語った内容を取り上げている記事がありましたのでご紹介します(原典は、バリュー投資家にとっておなじみのOID誌です;Outstanding Investor Digest)。今回の文章は短いですが、前2回つづけた投稿(過去記事1, 2)のカギとなるものです。(日本語は拙訳)

Buffett and Munger on Discount Rates and How They Read Annual Reports (Grahamites氏の記事、GuruFocus)

<バフェット> 将来における現金の収支を見積もることができたら、それらの数字を現在価値へと引き直すために、割引率をいくつにすればよいかが問題になります。わたしの感覚では、ほとんどの資産においておそらく長期国債[おそらく30年債]の利回りが最適な数字だと思います。ただしわたしだけでなくチャーリーもそうですが、「金利が低い側にある」という印象を持っているときは、おそらく長期国債の利回りそのものを使おうとは考えないと思います。そのようなときには、ふつう1ポイントか2ポイント追加するかもしれません。しかし、この一連の説明を聞いた方は、長期国債の利回りを使ってみたくなるでしょう。そうだとしたら、株式と債券における経済的な面での違いは事実上なくなります。違っているのは、債券の場合は将来どれだけのキャッシュフローが得られるのか知り得るのに対して、株式の場合は自分でそれを見積もらなければならない点です。これは骨の折れる仕事ですが、ずっと大きな見返りが得られる可能性を秘めています。それゆえ、仮想的な収入には関わりたくないのでしたら、農地やアパートやそういったものを見積もったほうがいいでしょう。少なくとも、わたしたちはそうしています。

Buffett: And once you’ve estimated future cash inflows and outflows, what interest rate do you use to discount that number back to arrive at a present value? My own feeling is that the long-term government rate is probably the most appropriate figure for most assets. And when Charlie and I felt subjectively that interest rates were on the low side – we’d probably be less inclined to be willing to sign up for that long-term government rate. We might add a point or two just generally. But the logic would drive you to use the long-term government rate. If you do that, there is no difference in economic reality between a stock and a bond. The difference is that the bond may tell you what the future cash flows are going to be in the future – whereas with a stock, you have to estimate it. That’s a harder job, but it’s potentially a much more rewarding job. Logically, if you leave out psychic income, that should be the way you evaluate a farm, an apartment house or whatever. And in a general way, Charlie and I do that.

2018年3月12日月曜日

ウォーレン・バフェットの株式投資入門:金利と債券と株式について

「バフェットからの手紙」を公開したウォーレン・バフェットが、恒例となっているベッキー・クイックのインタビューを受けていました。そのなかから、昨年後半にも話題になっていた金利に関する質疑応答を引用してご紹介します。なお長文の段落は、意味段落で適宜改行しました。(日本語は拙訳)

FULL TRANSCRIPT: BILLIONAIRE INVESTOR WARREN BUFFETT SPEAKS WITH CNBC’S BECKY QUICK ON "SQUAWK BOX" TODAY (CNBC)

<質問者: ベッキー・クイック> 株式に強気で来た理由として、現時点では金利の状況もそうだとのご意見ですが、たしか以前に「金利は株価に作用する重力であり、十分に低ければ株価は必ずや上昇する」と言われていましたね。しかし市場では実に奇妙なことが起こっています。雇用に関する報告が良好だといううれしいニュースが出たとたん、突如として不安が漂うようになりました。金利が上昇し、連銀が予想以上に上昇率を高めるのではないかと、みんな心配性になっています。朝起きて確かめる度に、10年物の国債利回りが3%へと戻りつつあります。このことで投資家は、いえ「少なくともトレーダーは」と言うべきですね、何が起きているのだろうと気がかりになっています。この件をどんなふうに捉えていますか。

<ウォーレン・バフェット> そうですね、ベッキー、もし30年物の米国債を買ったとしますよ。するとすべてのクーポンが付いてきます。今は電子的になりましたが、昔はそうだったのです。とにかくクーポンが全部付いてきます。クーポン毎に3%などが支払われるとします。今から30年後までずっとですよ。そして最後になると、額面分の金額を返してくれます。

それでは株式はどうなのかと言いますと。それと同じようなものです。クーポンがたくさん付いてきます。ただし、数字は印刷されていません。その数字を印刷することが、株式を買う投資家のやるべきことなのです。数字が10%だとしましょうか。ほとんどの米国企業は、有形資本比で10%以上の利益をあげています。この債券[的にとらえることのできる株式]が10%だとすれば、3%と書かれている債券よりも、ずっと高い価値があります。しかし米国債が10%であれば、あなたが買った債券[風の株式]の価値は変わります。GMやバークシャー・ハサウェイなどの一部を[株式として]買うということは、現金の形で徐々に戻ってくるわけです。バークシャーの場合はずっと先になりますが、大きな金額になるでしょう。それらがクーポンなのです。そのクーポンをどう考えればいいのか投資家として決断するのは、買うのは自分だからですし、価値を割り引いた金額で買うからです。しかし物差しとしての米国債の利回りが高くなれば、ほかの債券[=株式など]の価値は魅力が薄れます。これが[この手の話題についての]経済的な理屈です。

1982年や83年には長期米国債の利回りが15%になりました。当時ROEが15%だった企業は、そのような環境では簿価分の価値しかありませんでした。30年物のストリップス[=割引債]を買えば、年率15%を確実にできたからです。当時12%の利益を得ていた企業は水準以下だったことになります。しかし現在のように米国債の利回りが3%であれば、12%の利益をあげる企業はすごく素晴らしいと言えます。ですから、そういった企業には法外な値段がついているわけです。

<質問> だから以前に、「3%は15%からほど遠い」とおっしゃったのですね。

<バフェット> そのとおりです。ただし、3%から15%へ上昇した様子を目にしたことはありますが。

<質問> たしかに。その途中で「なんと、2.4%から2.9%へ上がったのね。これは大きな違いだわ」と感じる変曲点がありますか。

<バフェット> その数字はそれほどではないですね。そんなに大きくはないです。

<質問> 過去を振り返れば、まだ...

<バフェット> そのとおりです。

<質問> ...絶対的な意味で大きく変化しておらず、パーセンテージもそれほど上昇していない、と受け止めるべき段階ですか。

<バフェット> ROE12%をあげている企業が再投資をしているのと比べれば、2.4から2.9%へ上昇した数字にはそれほど意味はありません。S&P[500]の数字はそれこそ云十年分もありますが、有形資本比でみてもっと高い数字をあげてきました。ですから、もっと高い値段になっていくわけです。

<質問> その途上で転換点があるのですか。それともそういったものは徐々に減少するのですか。

<バフェット> それはだれにもわかりません。ただし、重力として働きます。つまり「債券の利回りが来年には15%になる」と教えてくれれば、今にも手放したい株がいろいろありますし、15%の債券をたくさん買いたいところです。1982年にそうしていればと思ったりしますが、実際には買いませんでした。

<質問> それでは、もし「来年の長期債は4.5から5%で売買される」と私からお伝えしたら、どうなりますか。

<バフェット> それはたしかに違いますね。しかし例のときに長期債を保有するのは愚かでしたよ。この件は年次報告書で触れていますが、まさしく愚かなことでした[過去記事]。巨大な公的年金基金やその手の機関投資家が、座して債券を保有していました。4%あるいは5%近辺で買ったのかもしれません。しかし3%前後になると、額面以上の価格で売り買いしています。そのような考えかたでは、非常にバカげた行動をとることになります。

BECKY QUICK: And part of the reason that you've been so bullish on equities for many years at this point is the interest rate environment. You've looked at interest rates and said, "Interest rates are gravity on stock prices. And when interest rates are so low, stock prices inevitably are going to climb." There's been this really weird thing that's been happening in the markets. Where all of a sudden, good news that we got from a good jobs report made people start to worry that interest rates were going to climb and that the Fed was going to raise rates more than anticipated. People got really nervous around that. You can still see it every time we get up on the ten year back towards 3%. It gives investors, or at least traders I should say, some concerns about what's happening. How do you kind of gauge all of that?

WARREN BUFFETT: Becky, a bond, if you buy a 30-year government bond, it has a whole bunch of coupons attached. In the old days it does, now it's all electronic. But it has a whole bunch of coupons. And the coupon pays 3%, or whatever it may say. And you know that's what you're going to get between now and 30 years from now. And then they're going to give you the money back.

What is a stock? A stock is the same sort of thing. It has a bunch of coupons. It's just they haven't printed the numbers on them yet. And it's your job as an investor to print those numbers on it. If those numbers say 10% and most American businesses earn over 10% on tangible equity. If they say 10%, that bond is worth a hell of a lot more money than a bond that says 3% on it. But if that government bond goes to 10%, it changes the value of this equity bond that, in effect, you're buying. When you buy an interest in General Motors or Berkshire Hathaway or anything, you are buying something that, over time, is going to return cash to you. Maybe a long time in terms of Berkshire, but it'll be bigger numbers. And those are the coupons. And your job as an investor to decide what you think those coupons will be because that's what you're buying. And you're buying the discounted value. And the higher the yardstick goes, and the yardstick is government bonds, the less attractive these other bonds look. That's just fundamental economics.

So in 1982 or '83, when the long government bond got to 15%, a company that was earning 15% on equity was worth no more than book value under those circumstances because you could buy a 30-year strip of bonds and guarantee yourself for 15% a year. And a business that earned 12%, it was a sub-par business then. But a business that earns 12% when the government bond is 3% is one hell of a business now. And that's why they sell for very fancy prices.

BECKY QUICK: So 3% is a long way from 15% that you were just talking about.

WARREN BUFFETT: Absolutely. But I watched it go from 3-15% though, too.

BECKY QUICK: Right. Is there an inflection point on that way because people think, "Oh my gosh, we've gone from 2.4% to 2.9% and that is a big difference."

WARREN BUFFETT: It isn't much. That's not much.

BECKY QUICK: Historically speaking, that's still the way we should be measuring these things

WARREN BUFFETT: Absolutely.

BECKY QUICK: Not on the absolute movement or the percentage gain movement over time?

WARREN BUFFETT: 2.4-2.9% is nothing if you're comparing it with businesses that earn 12% on equity and reinvest. And the S&P, you can just look at the figures for decades, has earned on tangible equity, it's earned a lot more than that. And it translates into more, higher prices than it should.

BECKY QUICK: Is there a tipping point along the way, or is it a gradual decline in terms of these things?

WARREN BUFFETT: Nobody knows. Yeah. But it is gravity. I mean, if you told me interest rates were going to be 15% next year on bonds, you know, there's a lot of equities I wouldn't want to own now. And I would buy a lot of governments at 15%, and I kind of wish I had in 1982, but I didn't.

BECKY QUICK: If I told you that the long bond was going to trade at 4.5-5% next year, what would you (think)?

WARREN BUFFETT: It makes a difference. But it's been idiotic to own long bonds during the last, you know, I talk about this in the report. It's just been idiotic. And big, public pension funds and all that, they sat there and they owned bonds. Now, they may have bought them on a 4% or 5% basis. But if they go to a 3% basis, they're selling way above par. The way people think about it is that they do some very silly things.

2018年3月8日木曜日

割引率および割安度について(ウォーリー・ワイツ)

バリュー・ファンドのマネージャーであるウォーリー・ワイツのインタビュー記事をひきつづき引用します(前回分の投稿はこちら)。今回の話題はDCF法で使う「割引率」と、適正価格からどれだけ割安であれば購入に踏み切るのかの「割安度」の話です。オーソドックスな内容ですが、取り組む上での工夫や具体的な数字に触れていて、参考になります。(日本語は拙訳)

<質問> 調査対象の企業に対しては、どれも同じ割引率を使いますか。それともリスクや他の要因にもとづいて必要なリターン率を決めますか[=つまり割引率を適宜調整するか]。

<ワイツ> 同じ割引率を使って[評価]モデルを作成しています。現在適用しているのは9%です。しかし各企業には「事業の質」を評価した異なった点数を与えますから、モデル中で正当化された「残存倍率」[残存価値を算出する方法で使われる乗数]にそれが影響してきます。また、将来の予想キャッシュフローがどれだけ正確なのか、その信頼性は企業によって異なります。そのため、ポートフォリオ・マネージャーが「価値」からどれだけ割り引くかは、各々異なってきます。他の人たちも、そういったものと同様の要因を調整する際に、それぞれの割引率を使っているはずだと思います。ただし、企業分析中の異なった段階においてですが。

<質問> すばらしい企業には妥当な金額を出すのですか。そうでなければ、少なくとも安全余裕をどの程度とりますか。

<ワイツ> チャーリー・マンガーが示してきた「素晴らしい企業をそこそこの値段で買う」とする見識を、ウォーレン・バフェットは確信していますね。その「素晴らしい」企業と、それよりもずっと普通の企業に違いはありますが、もし価値を正しく測ることができるのであれば、その違いは評価プロセスにおいてひとまとめにすべきです。評価額から安全をみるための余裕率(私たちの標準としては最低でも30%)を妥協すべきではありません。

しかし、あらゆる株が高く、絶対的な意味で安いものがないようなときは、相対的価値という考えがしのびこんできます。手元に現金が残っていても私たちのように気にかけない運用者は、数少ないと思います(現金比率が20から25%になることもあります)。しかし今日の市場では、実のところ私たちががっちり保有している株式に、購入時の決まりとして価格対価値比を70%とした制限をずっと超えたものがあります。「70%以上の値段でもポジションを取り始めたり買い増ししたりするのか」、わたしたちもそう見られるようになってしまいました。そういった数字に何か特別な意味合いはないのですが、しかし安値で買ったときのほうが(それが安全余裕です)、良いリターンを達成する確率が高いことはわかっています。

JR: Do you use the same discount rate for every business you are researching or do you adjust your required rate of return based on risk and/or other factors?

WW: We use the same discount rate, currently 9%, for each of our models. However, we use varying “business quality” scores for different companies and this impacts the warranted “terminal multiple” in the model. Also, our confidence in the accuracy of the estimates of future cash flows will vary from company to company, and the portfolio manager will vary their required (price) discount from “value” accordingly. We believe that others who use varying discount rates are adjusting for these same factors, but at a different stage of the analysis.

JR: Will you pay a fair price for a great business? If not, what is the minimum margin of safety you require?

WW: Warren Buffett credits Charlie Munger with convincing him of the wisdom of “paying a fair price for a great business.” The differences between a “great” business and a more ordinary one should be incorporated in the valuation process so if value (V) is measured correctly, we shouldn’t have to compromise on the discount from full value that we seek (generally at least a 30% discount).

However, when all stocks seem expensive and nothing seems cheap in absolute terms, the concept of relative value creeps in. We are willing to hold more in cash reserves than most managers (sometimes as much as 20-25%), but in today’s market, we find ourselves holding onto stocks with price-to-value (P/V) ratios well above our 70% threshold for buying. We have even been known to pay over 70% to initiate or add to a position. There is nothing magic about any of these numbers, but we know that the odds of earning high returns are better when we buy at a cheaper price (the margin of safety).

2018年3月4日日曜日

2017年度バフェットからの手紙(7)CEOの心強い味方、Excel

2017年度「バフェットからの手紙」から、今回は企業買収に関する節のうち、一般向けの話題を引用します。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

買収について

バークシャーの価値を高める構成要素として、次の4点が挙げられます。ひとつめが、十分な規模を有した単体型の企業買収。ふたつめが、当社がすでに保有している事業に合致した拡張型の買収。3つめが、多岐にわたる既存事業での増収及び利益率の改善。最後の4つめが、株式及び債券に投資している巨額のポートフォリオから得られる投資利益、です。この節では2017年に行った買収についてご説明します。

単体型の新しい案件をさがす際には、主要な資質として次の点を求めています。今後も持続しうる競争力を有していること、有能かつ良質な経営陣がいること、事業運営上不可欠な純有形資産に比して優れたリターンをあげていること、魅力的なリターンが期待できる内部成長の機会があること、そして買収価格が適切であること、です。

2017年に検討した実質的にすべての案件が、上に述べた最後の要件を越えられませんでした。「まばゆい」からは程遠いものの「満足できる」程度の事業であっても、その値段は過去最高を記録していたのです。実際のところ楽観的な買収者勢にとっても、買収価格は納得できないも同然だったと思います。

しかし、なぜ買収側は暴挙に出るのでしょうか。その理由のひとつは、CEOという役職が「大丈夫うまくいきます」という種類の人間を、またもや指名するからです。ウォール街のアナリストや取締役会が、CEOという役職者に対して買収を検討するよう要請するのは、成熟期にある十代の子供に対して、あたかも「ちゃんとセックスするんだぞ」と念を押すかのように思えます。

案件を切望しはじめたCEOは、買収を正当化した将来の見通しを出すはずです。部下たちは声援を送るとともに、事業領域の拡大ぶりや、企業規模に応じて増加しがちな報酬の水準を描いてくれるものです。多額の手数料をかぎつけた投資銀行家も、同じように褒め上げるでしょう(「髪を切ったほうがいいかな」とは床屋に訊ねないように)。買収先の業績推移では買収を正当化するのに不足がある場合、大幅な「シナジー」[重複部門の削減など]が業績予想に盛り込まれます。[Excelなどの]スプレッドシートが残念な数字を出すことはありません。

破格の安価で借入れできる機会が2017年には潤沢にあったことで、買収活動に拍車がかかりました。割高な買収をしようとも、借入金によって資金を調達していれば、結局のところ一株当たり利益は増加するのが常ですから。対照的にバークシャーでは、買収案件を評価する際には増資を前提にしています。全額借入れは好みませんし、多額の借入金を特定の事業に割り当てるのは、概して見当違いです(ある種の例外は別とします。たとえばクレイトン社が有する貸付ポートフォリオ用の債務や、当局の規制を受けている公益事業での固定資産に関する債務)。さらにシナジーは考慮に入れませんし、実際にそれが発揮された例もあまりみかけません。

借入れを避けてきたことで、当社のリターンは何年にもわたって抑えられてきました。しかしチャーリーもわたしも、夜にはぐっすり眠れています。「必要のないものを手にいれるために、手元の必要なものを危険にさらす」、そんなことをするのは正気を失っているに違いない、と二人とも思っています。50年前から、そう考えていました。信頼してくれる若干の友人や親族の資金を元に、それぞれが投資パートナーシップを運営していた頃です。そして100万名になる「パートナー」がバークシャーに加わった今日も、同じように考えています。

このところの買収日照りにもかかわらず、「非常に大きな買収ができる機会が、やがてはいくつかあらわれる」とわたしたちは信じています。それまでの間は、次の単純な決めごとに従うばかりです。「慎重さに欠けた行動を他人がとるほどに、わたしたちはますます慎重に身を処すること」。(PDFファイル3ページ目)

Acquisitions

There are four building blocks that add value to Berkshire: (1) sizable stand-alone acquisitions; (2) bolt-on acquisitions that fit with businesses we already own; (3) internal sales growth and margin improvement at our many and varied businesses; and (4) investment earnings from our huge portfolio of stocks and bonds. In this section, we will review 2017 acquisition activity.

In our search for new stand-alone businesses, the key qualities we seek are durable competitive strengths; able and high-grade management; good returns on the net tangible assets required to operate the business; opportunities for internal growth at attractive returns; and, finally, a sensible purchase price.

That last requirement proved a barrier to virtually all deals we reviewed in 2017, as prices for decent, but far from spectacular, businesses hit an all-time high. Indeed, price seemed almost irrelevant to an army of optimistic purchasers.

Why the purchasing frenzy? In part, it’s because the CEO job self-selects for “can-do” types. If Wall Street analysts or board members urge that brand of CEO to consider possible acquisitions, it’s a bit like telling your ripening teenager to be sure to have a normal sex life.

Once a CEO hungers for a deal, he or she will never lack for forecasts that justify the purchase. Subordinates will be cheering, envisioning enlarged domains and the compensation levels that typically increase with corporate size. Investment bankers, smelling huge fees, will be applauding as well. (Don’t ask the barber whether you need a haircut.) If the historical performance of the target falls short of validating its acquisition, large “synergies” will be forecast. Spreadsheets never disappoint.

The ample availability of extraordinarily cheap debt in 2017 further fueled purchase activity. After all, even a high-priced deal will usually boost per-share earnings if it is debt-financed. At Berkshire, in contrast, we evaluate acquisitions on an all-equity basis, knowing that our taste for overall debt is very low and that to assign a large portion of our debt to any individual business would generally be fallacious (leaving aside certain exceptions, such as debt dedicated to Clayton’s lending portfolio or to the fixed-asset commitments at our regulated utilities). We also never factor in, nor do we often find, synergies.

Our aversion to leverage has dampened our returns over the years. But Charlie and I sleep well. Both of us believe it is insane to risk what you have and need in order to obtain what you don’t need. We held this view 50 years ago when we each ran an investment partnership, funded by a few friends and relatives who trusted us. We also hold it today after a million or so “partners” have joined us at Berkshire.

Despite our recent drought of acquisitions, Charlie and I believe that from time to time Berkshire will have opportunities to make very large purchases. In the meantime, we will stick with our simple guideline: The less the prudence with which others conduct their affairs, the greater the prudence with which we must conduct our own.

今回までの投稿で、一般向けの話題はひととおりご紹介できたかと思います。これにて本シリーズは終わりとなります。ただし「保険事業」に関する節から文章を適宜切り出して、改めて取り上げるかもしれません。

もうひとつ、こちらはおまけです。今回の文章でウォーレンは「非常に大きな買収ができる機会」としていましたが、もう一歩具体的な情報が入った話を、昨年の株主総会で発言していました。あくまでもトランスクリプトでの確認で、買収とも株式投資とも言ってはいませんでしたが。

2018年3月3日土曜日

2017年度バフェットからの手紙(6)大暴落が待っている

2017年度「バフェットからの手紙」から、前回につづく文章です。(日本語は拙訳)

短期でみたときに価格が無秩序に変動するせいで、長期的な価値の成長ぶりを覆い隠す鮮明な例が、バークシャー自身にもあります。この53年間において当社は利益を再投資し、複利が持つ魔法の力を利かせつづけることで、会社の価値を高めてきました。年を追うごとに前進してきました。しかしバークシャー株のほうは、実に激しい下落を4回経験しました。その惨状ぶりは次のとおりです。

期間高値安値下落率
1973年3月~1975年1月9338-59.1%
1987年10月2日~1987年10月27日4,2502,675-37.1%
1998年6月19日~2000年3月10日80,90041,300-48.9%
2008年9月19日~2009年3月5日147,00072,400-50.7%

「借入金に頼って株を保有してはならない」、その理由を説明するために、わたしにはこれ以上のものを取りそろえることはできません。短期的には、株価がどれだけ下落するのか言い当てる術はありません。借入れた金額が少なく、下落市場によって持ち株が即座には脅かされなくても、おぞましい見出しや絶句するような解説に触れれば、心中穏やかではいられないかもしれません。平静を保てなければ、適切な判断は下せないものです。

当社(や他社)の株式はこれからの53年間に、上の表と同じような下落に見舞われることでしょう。しかし、それがいつ起こるのかは誰にもわかりません。いつであろうと信号機が黄色を飛ばして、青から赤に変わるかもしれないからです。

しかし大幅な下落が生じたときに、債務に縛られていない者の手にはめったにない機会がやってきます。そのときこそ、[文筆家の]キップリングが詩作『もしもー』にしたためた文章を噛みしめるときです。

もしも、どんな君のことにも周りが心乱しても、落ち着いていられれば、
もしも、辛抱強い君がずっと飽きずに待っていられれば、
もしも、君の頭で考えられて、それ自体を目的と取り違えなければ、
もしも、だれからも疑われるときに己を信じていられれば、
世界は君のものであり、すべてはそこにあるのだから。

(PDFファイル9ページ目。この節、おわり)

Berkshire, itself, provides some vivid examples of how price randomness in the short term can obscure long-term growth in value. For the last 53 years, the company has built value by reinvesting its earnings and letting compound interest work its magic. Year by year, we have moved forward. Yet Berkshire shares have suffered four truly major dips. Here are the gory details:

Period High Low Percentage Decrease
March 1973-January 1975 93 38 (59.1%)
10/2/87-10/27/87 4,250 2,675 (37.1%)
6/19/98-3/10/2000 80,900 41,300 (48.9%)
9/19/08-3/5/09 147,000 72,400 (50.7%)

This table offers the strongest argument I can muster against ever using borrowed money to own stocks. There is simply no telling how far stocks can fall in a short period. Even if your borrowings are small and your positions aren’t immediately threatened by the plunging market, your mind may well become rattled by scary headlines and breathless commentary. And an unsettled mind will not make good decisions.

In the next 53 years our shares (and others) will experience declines resembling those in the table. No one can tell you when these will happen. The light can at any time go from green to red without pausing at yellow.

When major declines occur, however, they offer extraordinary opportunities to those who are not handicapped by debt. That’s the time to heed these lines from Kipling’s If:

“If you can keep your head when all about you are losing theirs . . .
If you can wait and not be tired by waiting . . .
If you can think - and not make thoughts your aim . . .
If you can trust yourself when all men doubt you . . .
Yours is the Earth and everything that’s in it.”

備考です。今回の「バークシャー株暴落」の話題は、昨年開催されたデイリー・ジャーナル社の株主総会で、チャーリー・マンガーも口にしていました(過去記事)。この経験は彼らにとって錨(いかり)のような役割を果たしているのかもしれませんね。

もうひとつ、こちらは蛇足です。上の文中で暴落時の日付が記されていたので、自分の売買記録を確認してみました。バークシャーのB株、2009年3月5日に購入していました。分割前の株価で2,339.75ドルでした。ただし、その数日後の3月9日に買った株のほうが安かったです。こちらは2,302.9ドルでした。ウォーレンの日付と若干ずれているのは、B株だったからか、それとも取引時間中だったからか。どちらにせよ、「バイ・アメリカン」と宣言したウォーレンが正しかったと認められるのは、まだ先のことでした。

2018年3月2日金曜日

2017年度バフェットからの手紙(5)定番の教え:株式投資の捉えかた

2017年度「バフェットからの手紙」から、バークシャーが手がけている投資について触れた節をご紹介します。今回分の後半はウォーレンの主張としておなじみの内容ですが、読むたびに姿勢を正される気がします。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

投資の状況について

以下の表は、当社が投資した普通株のうち、年末時点で市場評価額が大きかった15件を並べたものです。ただしクラフト・ハインツ社の3億2,544万2,152株は含んでいません。バークシャーは同社の支配会社に名を連ねているので、「持分」法によって会計報告することになっているからです。貸借対照表上にはクラフト・ハインツ社の株式分として、GAAP準拠の数字で176億ドルを計上しています。一方でその市場価格は253億ドル、取得原価は98億ドルでした。



* バークシャーの子会社各社が設立している年金基金が保有する株式は除きます。
** この数字は実際の購入価格であり、税額計算時の基礎となるものです。一方、GAAP上の「費用」はいくつかの点で異なっています。GAAPの規則では減損が要求されているからです。

上記の銘柄の中には、トッド・コームズあるいはテッド・ウェシュラーが手掛けているものも複数含まれています。彼らはわたしと共にバークシャーにおける投資業務を担当しています。二人ともわたしから独立しており、おのおのが120億ドル以上の資産を運用しています。毎月出してくれるポートフォリオの概略をみてから、彼らが下した決定を知ることもよくあります。彼らの運用資産は合算すると250億ドルですが、そのなかにはバークシャーの一部の子会社が設立している年金からの受託分、80億ドル超が含まれています。上述したように、年金における投資分はバークシャーの持ち株を示した上の表には含まれていません。

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チャーリーとわたしは、バークシャーが保有している普通株のことを、市場で取引されているものではありますが、発行元企業の所有権だとみなしています。「株価チャート」の形状や、アナリストが発表する「目標」株価や、メディアに登場する解説者の意見、そういったものに基づいて売買するための「単なる銘柄コード」、とは考えていません。そうではなく、投資先の事業が成功を収めれば(ほとんどはそうなると信じていますが)、わたしたちがした投資も同じように成功を収める、と確信しているだけです。その見返りがそこそこで終わることもあるでしょう。逆に、キャッシュ・レジスターが鳴り響いて止まないこともあるでしょう。あるいは、手痛い失敗をすることもあると思います。しかし全体としてみれば、いずれはかなりの成果を手にできるはずです。米国では、株式に投資する者には追い風が吹いているのです。

当社の株式ポートフォリオ、これを「さまざまな公開企業に分散させた『少数株主としての所有権』」と称しますが、そこからバークシャーが2017年に受け取った配当金は37億ドルになりました。この数字はGAAP準拠の報告値に含まれていますし、四半期及び年次報告で言及している「営業利益」にも含まれています。

しかしその配当金の金額では、当社の保有株式から生まれ出る「真の」利益を十全にはとらえていません。「株主に関する事業上の原則」を何十年にもわたって掲載してきましたが(年次報告書19ページ)、その原則6で次のように記しています。「投資先企業があげた利益のうち内部留保されたものは、少なくとも同じ金額がキャピタル・ゲインの形で将来還元されることを期待する」と。

GAAPで定められた新たな規則によって、未実現損益を毎回の会計報告に記載するように強制されたこともあり、当社における譲渡益(及び損失)の認識額には波が生じると思います。しかし当社の投資先が留保する利益は、それらをひとまとまりとして捉えれば、いずれはそれ相応のキャピタル・ゲインの形でバークシャーに還元される、と確信しています。

上述してきた「価値の蓄積」と「留保利益」のつながりは、短期的には感知できないと思います。株価とは、年ごとに蓄積される本来的な価値にはどうやら縛られずに、騰落するものです。しかしやがては、度々引用されてきたベン・グレアムの格言が、真実だったとわかる日がきます。「短期でみれば、市場とは投票機である。しかし長期になれば、秤量機に変わる」日が。

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(この節、次回につづく)

Investments

Below we list our fifteen common stock investments that at yearend had the largest market value. We exclude our Kraft Heinz holding - 325,442,152 shares - because Berkshire is part of a control group and therefore must account for this investment on the “equity” method. On its balance sheet, Berkshire carries its Kraft Heinz holding at a GAAP figure of $17.6 billion. The shares had a yearend market value of $25.3 billion, and a cost basis of $9.8 billion.

[The table is omitted by the blog author.]

* Excludes shares held by pension funds of Berkshire subsidiaries.
** This is our actual purchase price and also our tax basis; GAAP “cost” differs in a few cases because of write-downs that have been required under GAAP rules.

Some of the stocks in the table are the responsibility of either Todd Combs or Ted Weschler, who work with me in managing Berkshire’s investments. Each, independently of me, manages more than $12 billion; I usually learn about decisions they have made by looking at monthly portfolio summaries. Included in the $25 billion that the two manage is more than $8 billion of pension trust assets of certain Berkshire subsidiaries. As noted, pension investments are not included in the preceding tabulation of Berkshire holdings.

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Charlie and I view the marketable common stocks that Berkshire owns as interests in businesses, not as ticker symbols to be bought or sold based on their “chart” patterns, the “target” prices of analysts or the opinions of media pundits. Instead, we simply believe that if the businesses of the investees are successful (as we believe most will be) our investments will be successful as well. Sometimes the payoffs to us will be modest; occasionally the cash register will ring loudly. And sometimes I will make expensive mistakes. Overall - and over time - we should get decent results. In America, equity investors have the wind at their back.

From our stock portfolio - call our holdings “minority interests” in a diversified group of publicly-owned businesses - Berkshire received $3.7 billion of dividends in 2017. That’s the number included in our GAAP figures, as well as in the “operating earnings” we reference in our quarterly and annual reports.

That dividend figure, however, far understates the “true” earnings emanating from our stock holdings. For decades, we have stated in Principle 6 of our “Owner-Related Business Principles” (page 19) that we expect undistributed earnings of our investees to deliver us at least equivalent earnings by way of subsequent capital gains.

Our recognition of capital gains (and losses) will be lumpy, particularly as we conform with the new GAAP rule requiring us to constantly record unrealized gains or losses in our earnings. I feel confident, however, that the earnings retained by our investees will over time, and with our investees viewed as a group, translate into commensurate capital gains for Berkshire.

The connection of value-building to retained earnings that I’ve just described will be impossible to detect in the short term. Stocks surge and swoon, seemingly untethered to any year-to-year buildup in their underlying value. Over time, however, Ben Graham’s oft-quoted maxim proves true: “In the short run, the market is a voting machine; in the long run, however, it becomes a weighing machine.”

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2018年3月1日木曜日

2017年度バフェットからの手紙(4)バフェットらしいあざやかな教訓

2017年度「バフェットからの手紙」から、「賭け」の話題は今回でおわりです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

投資という行動には、「将来になってからもっと多くの消費ができるように、今日の消費を辛抱すること」が含まれます。「リスク」とは、この目的が達成できない可能性を指す言葉です。

その基準に従えば、「無リスク」とされていた長期債へ2012年の時点で投資するのは、普通株に長期投資するよりもずっとリスキーな選択でした。2012年から2017年にかけてのインフレ率が年間1%だとしても、プロテジェとわたしが手放した米国債の購買力は減っていたでしょう。

ただし早々に申し上げておきたいのですが、「明日や来週、あるいは来年であってさえも、短期の国内債券とくらべると株式のほうがリスキーである」ことは、たしかにそのとおりです。はるかにリスキーです。しかし投資期間が長期になるにつれ、米国株からなる分散されたポートフォリオのリスクは、債券よりも累進的に小さくなっていきます。ただし、「その時点での金利と比較して妥当な株価収益率で株式を買うこと」という条件が付きます。

長期的視野に基づいている投資家、たとえば年金基金や大学基金、倹約派の個人投資家は、投資上の「リスク」を量るために、ポートフォリオにおける債券対株式の比率を使うのは、たいへんな間違いです。ポートフォリオに含まれた質の高い債券でさえ、リスクを増加させることがしばしばあります。

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さて、わたしたちの果たした「賭け」から得られた最後の教訓になります。それは「大局的で『易しい』判断に付き従い、行動を慎むこと」です。10年にわたる賭けの間、[プロテジェ側が選択した]200名を超すヘッジ・ファンドのマネージャー諸氏が何万回と売買を繰り返したのは、ほぼ間違いないと思います。彼らのほとんどは判断を下す際に熟考し、どれもうまい一手だと信じていたのは、疑うところがないでしょう。投資の判断を下す前には、10-K[有価証券報告書]から学んだり、経営陣と対話したり、業界紙を読んだり、ウォール街のアナリストと意見交換をしたことでしょう。

一方プロテジェとわたしのほうは、調査や識見や才気のいずれに頼ることもなく、10年間でただ一度だけ、投資上の決定を下しました。保有していた債券を、100倍超になる利益倍率で(売却金額/利回り = 95.7/0.88)、売却すると決めただけでした。なおその際の「利益」とは、残りの5年間にわたって増加することのない値です。

売却後に手にする両者の資金は、バークシャーという名の単一の証券へと移ります。それはすなわち、多岐にわたる堅実な事業を保有したことになります。利益の留保分が使えるのですから、バークシャーの価値が年率8%に満たない成長にとどまるとは思えませんでした。たとえ景気がそこそこ程度だとしてもです。

このように幼稚園程度の分析が済んだところで、プロテジェとわたしは債券から株式への交換を実行し、一息つきました。いずれ8%が0.88%を上回るのは確実だろうと思っていました。それも「大幅に」ですよ。

(この節、おわり)

Investing is an activity in which consumption today is foregone in an attempt to allow greater consumption at a later date. “Risk” is the possibility that this objective won’t be attained.

By that standard, purportedly “risk-free” long-term bonds in 2012 were a far riskier investment than a long-term investment in common stocks. At that time, even a 1% annual rate of inflation between 2012 and 2017 would have decreased the purchasing-power of the government bond that Protege and I sold.

I want to quickly acknowledge that in any upcoming day, week or even year, stocks will be riskier - far riskier - than short-term U.S. bonds. As an investor’s investment horizon lengthens, however, a diversified portfolio of U.S. equities becomes progressively less risky than bonds, assuming that the stocks are purchased at a sensible multiple of earnings relative to then-prevailing interest rates.

It is a terrible mistake for investors with long-term horizons - among them, pension funds, college endowments and savings-minded individuals - to measure their investment “risk” by their portfolio’s ratio of bonds to stocks. Often, high-grade bonds in an investment portfolio increase its risk.

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A final lesson from our bet: Stick with big, “easy” decisions and eschew activity. During the ten-year bet, the 200-plus hedge-fund managers that were involved almost certainly made tens of thousands of buy and sell decisions. Most of those managers undoubtedly thought hard about their decisions, each of which they believed would prove advantageous. In the process of investing, they studied 10-Ks, interviewed managements, read trade journals and conferred with Wall Street analysts.

Protege and I, meanwhile, leaning neither on research, insights nor brilliance, made only one investment decision during the ten years. We simply decided to sell our bond investment at a price of more than 100 times earnings (95.7 sale price/.88 yield), those being “earnings” that could not increase during the ensuing five years.

We made the sale in order to move our money into a single security - Berkshire - that, in turn, owned a diversified group of solid businesses. Fueled by retained earnings, Berkshire’s growth in value was unlikely to be less than 8% annually, even if we were to experience a so-so economy.

After that kindergarten-like analysis, Protege and I made the switch and relaxed, confident that, over time, 8% was certain to beat .88%. By a lot.

最初の印象で「あっさり」と書きましたが、表面的な読み方ゆえの感想でした。くりかえし読むほどに、教訓や人生哲学やさまざまな教えが読み取れ、あいかわらず勉強になる文章だと感じるようになりました。なお、他の節もひきつづき取り上げるつもりです。