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2012年5月30日水曜日

現金豊富な日本株の問題なところ(FPA)

ボブ・ロドリゲス率いるファンド会社FPAで国際投資を行っているマネージャーが、モーニングスターのインタビューに応じていたのでご紹介します。話題は割安な日本株についてです。引用元のインタビュー映像(とトランスクリプト)は、A Two-Pronged Approach to Investing in European Stocksです。(日本語は拙訳)

<質問> オークマーク[ファンド]にいたときはアジアの企業をいろいろ対象にされていましたが、FPA International Valueファンドに移ってからはあまり多くは投資していませんね。金融関連の企業と同じように、これも投資に踏み切らない理由が何かあるのでしょうか。

<回答> なるほど、確かにそうですね。アジア株は何年間か追いかけていましたし、日本企業もずっと対象にしていました。日本株はPBRやEV/EBIT倍率がかなり低く、価値の面からみればとても魅力的です。しかしそういった指標が低いのも当然で、かせいだ利益を留保するばかりで、現金が貸借対照表にたまりつづけているからなのです。

経営陣や取締役といった面々と株主の向いている方向が違っているので、割安だと考えて投資するのは問題かもしれません。なぜ現金を寝かしておくかというと理由は単純で、経営陣が株主のために価値を生み出そうとする気がないからです。世界的にみても有力な企業が数多くあるにもかかわらず、経営陣が価値を創出できるかという観点でみると、我々の投資基準には届いていません。資本配分が上手な企業はいくつかはみつかりましたが、あまり割安ではないので、今のところは見送っています。ですが、中期的にはそれらの企業に投資する姿をおみせできるかもしれません。

Davis: In addition to financials, one thing that I do know that when you were at Oakmark, you covered a lot of Asian stocks, but when you look at the [FPA International Value] portfolio, there's not much at all in Asia. So that's an area you're saying no to, as well?

Bokota: That's true; that's interesting. I did spend a number of years covering Asia and a lot of time covering Japan. From a valuation perspective, Japan looks very attractive as it sells at low multiples of price to book value and low multiples of enterprise value to earnings before interest and taxes. And really the commonality there is that the reason these multiples are depressed is because cash has piled up on the balance sheet as companies have not distributed their retained earnings.

The problem that we have with investing in these companies despite their apparently attractive valuations is the lack of alignment between management/board of directors and shareholders. The problem is that management is simply not incentivized to take actions to create value for shareholders, which is why you've seen the cash pile up. So, while there's a lot of well-positioned companies that have globally competitive positions, they don't meet our standards of having management teams which create value. That said, we have identified several high-quality businesses in Japan, which do run the business well from a capital-allocation standpoint. Sadly, they are not cheap enough for us to buy at this time, but it's possible you could see us become invested over the medium term.


個人的には余剰の現預金が多い会社に目がいくほうで、上の指摘は厳しいながら、ごもっともと感じています。それでも自分なりにいくつかの点に気をつけて、そのような会社に投資しています。1点目は、経営者に株主本位の姿勢があるか。具体的には経営者がそれなりに株式を保有しており、自社株買いや増配で株主に報いているかどうかです。株式の保有比率は、過半数を超えていないのが望ましいと考えています。2点目は、留保された資金を有効に使って、会社が着実に成長しているかどうか。細かくはわからないので、過去の経営成績をふりかえって大雑把に判断しています。もちろん、資金を使わないで成長してくれるのであれば、それは一向にかまわないのですが。

蛇足ですが、上記のインタビュー映像に出てくるお二人の対比ぶりが、なんというかほほえましいですね。

2012年5月29日火曜日

誤判断の心理学(10)値段が高けりゃ、品質も一番(チャーリー・マンガー)

今回ご紹介するのは、「頭で連想したことが、行動を引き起こしてしまう」という、人の持つ傾向です。(日本語は拙訳)

まずは商売に関する話です。

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その10)単なる連想に動かされる傾向
Influence-from-Mere-Association Tendency

心理学者のスキナーが研究した一般的な条件反射のひとつに、昔に経験した良いできごとがきっかけとなって行動を引き起こすものがあります。たとえば、あるブランドのクリームを使って靴を磨いた人が、その靴をはいて出かけたときに何かうれしいことがあったとしましょう。すると、それが報酬となり、靴用クリームが次に必要になったときにも同じものを買い求めるのです。

しかし、単に連想したことが条件反射的にそのまま行動に結びつくこともあります。たとえば、同じような商品が並んでいると、値段が最も高いものが品質も一番だと考えてしまう人はけっこういるはずです。前もそうだったから、という連想ですね。これに乗じて、平凡な製品を扱う業者でも、商売を大げさに見せることでかなり高い値段をつけてくることがあります。品質を重視する顧客ならば、値段が高いのはそれなりの理由があると考えるだろう、というわけです。産業界ではこのやりかたが売上につながり、利益を大きく押し上げてきました。たとえば電動工具業界では、長期間にわたって高値販売が成功してきました。油井の深部で使われる高価なポンプは、これからもうまくいくでしょう。高級品業界では、このやりかたが特段の効果を発揮しています。高価な商品を買えるということは、製品の風合いを楽しめるだけでなく、それだけのお金が払えるところを他人に見せることができます。つまり、商品を買った人は二重の意味でステータスを誇示できるのです。

In the standard conditioned reflexes studied by Skinner and most common in the world, responsive behavior, creating a new habit, is directly triggered by rewards previously bestowed. For instance, a man buys a can of branded shoe polish, has a good experience with it when shining his shoes, and because of this “reward,” buys the same shoe polish when he needs another can.

But there is another type of conditioned reflex wherein mere association triggers a response. For instance, consider the case of many men who have been trained by their previous experience in life to believe that when several similar items are presented for purchase, the one with the highest price will have the highest quality. Knowing this, some seller of an ordinary industrial product will often change his product's trade dress and raise its price significantly hoping that quality-seeking buyers will be tricked into becoming purchasers by mere association of his product and its high price. This industrial practice frequently is effective in driving up sales and even more so in driving up profits. For instance, it worked wonderfully with high-priced power tools for a long time. And it would work better yet with high-priced pumps at the bottom of oil wells. With luxury goods, the process works with a special boost because buyers who pay high prices often gain extra status from thus demonstrating both their good taste and their ability to pay.


今回は触れませんでしたが、広告業者もこの傾向を巧みに使っている、とチャーリー・マンガーは指摘していました。

次に、この落とし穴を避けるためにどうしたらよいか、助言を述べています。

昔の成功事例を思いおこすところがあるからといって進んでしまうと、道を誤るかもしれません。この失敗を避けたければ、次の話を覚えておくといいでしょう。ナポレオンとヒトラーはいずれもロシアに侵攻しましたが、それは他の戦線で大勝利をおさめた後のことでした[ロシア侵攻はどちらも歴史的な大惨敗に終わり、その後の戦況を変えた]。同じような結末をたどった例も山ほどあります。たとえば、よせばいいのにカジノでギャンブルをしてたまたま勝ってしまった人、こういう人はそもそも因果関係なぞないのに、再三再四カジノへと足を運んでしまうのです。もちろん、待っている先は散々な結末です。同じように、ダメな知り合いに誘われて勝ち目の薄い勝負をしたところ、ひょんな拍子に幸運をつかんでしまう。この場合も、前と同じことを繰り返し、最後はひどい結末で終わります。

過去の成功に酔っておろかな道を進まないようにするにはどうしたらよいか。まずはそれらの成功を導いた要因を洗い出し、そもそも関係なかった偶然が働いていないか調べるのです。そういうものがあると、これからやろうとしていることの勝ち目を検討する際に目を曇らせてしまうからです。次に、過去の成功時には起きたけれど今度は期待できないことを挙げ、その中に危険につながるものがないか調べます。

To avoid being misled by the mere association of some fact with past success, use this memory clue. Think of napoleon and Hitler when they invaded Russia after using their armies with much success elsewhere. And there are plenty of mundane examples of results like those of Napoleon and Hitler. For instance, a man foolishly gambles in a casino and yet wins. This unlikely correlation causes him to try the casino again, or again and again, to his horrid detriment. Or a man gets lucky in an odds-against venture headed by an untalented friend. So influenced, he tries again what worked before - with terrible results.

The proper antidotes to being made such a patsy by past success are (1) to carefully examine each past success, looking for accidental, non-causative factors associated with such success that will tend to mislead as one appraises odds implicit in a proposed new undertaking and (2) to look for dangerous aspects of the new undertaking that were not present when past success occurred.


株式投資でも日常的に連想が働いているものです。たとえば株価が急落すれば、何か悪いことが起きたのかと疑います。あるいは、来期の業績予想が低くでると、成長が鈍ったものと短絡的に判断しがちです。これこそ、世知入門の記事でご紹介したような、チャーリー・マンガーいうところの「存在しないものが見えてしまう」典型ではないでしょうか。そういうときにこそ適切な行動がとれるように、判断力や勇気や余裕資金を持っていたいものです。

2012年5月27日日曜日

習慣を変えると連鎖反応がうまれる

雑誌The Economist 2012/4/7号の書評で興味深いものがありましたので、一部をご紹介します。本の題名は『The Power of Habit』、習慣がもたらす影響力を取り上げたものです。(日本語は拙訳)

第二編では組織の話題が取り上げられている。著者のダヒッグ氏は、かなめとなる習慣をいくつか変えたことによって、経営陣が会社全体を変革できた例を紹介している。アルミ最大手のアルコアでは、ポール・オニールがゼロ災害を徹底させたことから始まり、同社を変革した。またスターバックスのハワード・シュルツは従業員に対して顧客サービスに注力するようにしむけたことで、同社は喫茶店業界の巨人となった。このように、かなめとなる習慣を変えると連鎖反応がうまれ、新たな習慣が組織全体へ波及するのみならず、他の習慣をも変えていくのである。

The second part of the book concentrates on organisations. Mr Duhigg shows how managers can change entire firms by changing a handful of “keystone habits”. Paul O’Neill transformed Alcoa, an aluminium giant, by aiming to establish a perfect safety record. Howard Schultz turned Starbucks into a coffee superpower by focusing his employees on customer service. Changing these “keystone habits” creates a chain reaction, with the new habits rippling through the organisation and changing other habits as they go.

成功している企業をみると、クセが強く感じられるところもあります。たとえば、ファナック、キーエンス、京セラといった企業はわかりやすいですね。しかし、そのクセはまぎれもなく企業文化にしみこみ、さまざまな習慣を生み出していることでしょう。そしてクセが強いほど他社は模倣しにくく、競争優位の源泉にもなっているのかもしれません(過去記事)。

「強いクセは、すなわちニッチである」と捉えれば、その企業が生き残るのかどうかを判断する材料にも使えそうです。

*

前回記事であげた問題の回答は「厚生労働省が推定に用いた数量はドッグフードの消費量であった」でした。引用元の本は『いかにして問題をとくか・実践活用編』です(p.82)。そういえば、我が家で猫を飼っていた頃にはペットショップにせっせと通い、サイエンス・ダイエットを買い求めていました。

2012年5月26日土曜日

(問題)国内で飼われている犬の数は?

ある本を読んでいたところ、次のような問題がでていました。

21世紀になって間もない頃、日本には約1000万匹のワンちゃんがいるという推定結果を厚生労働省が発表した。当然、その算出方法に目を向けたが、ペットショップで売買した犬の総数から求めたのではない。近所で生まれた子犬をもらったり、捨て犬を育てたりする場合なども多分に考えられるので、そのような数では実際の数は把握できない。厚生労働省が推定に用いた数量は×××であった。


さて、いかがでしょうか。わたしの場合、考える前に回答が目に入ってしまったのですが、ヒントは「逆向きに考える」です。答えは次回にご紹介します。なお、インターネットで検索するとあっというまに回答がでてきますので、ご注意ください。

2012年5月25日金曜日

金融史を読みましょう(ウォーレン・バフェット)

今回も、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会での質疑応答からです(前回分はこちらです)。あやまちをできるだけ減らすにはどうしたらよいかという質問に対して、チャーリー・マンガーはおなじみの「他人の過ちから学ぶこと」と答えています(過去記事)。それを受けて、ウォーレン・バフェットは次のように発言しています。

金融に関する歴史を読むようにしています。混乱の時期のことは好んで読んでいました。そのおかげで、数学を得意とする人[金融エンジニアなどの専門家]たちよりも優位に立てたと思います。彼らは人間というものを理解していないのですね。わたしどもは他人の過ちから学ぶよう心がけていますが、いろいろ役に立っています。

WB: Reading financial history. I’ve always been absorbed at reading about disasters. This gave us advantage over others with a lot of math. They didn’t understand other humans. We have been a student of other’s folly, and it has served us well.

個人的には、お金のことも歴史もどちらも興味があるので、この手の本はよく読んでいます。得た知識をうまく活かせていないあたりは、まだまだですが。けっこう前に読んだ本では、キンドルバーガーやピーター・バーンスタインが楽しめました。『熱狂、恐慌、崩壊―金融恐慌の歴史』『経済大国興亡史 1500-1990』(原書評価は五つ星)、『リスク―神々への反逆』といったあたりは印象に残っています。

2012年5月23日水曜日

今度は勝てそうな気がします(ウォーレン・バフェット)

ビル・ゲイツのWebサイトThe Gates Notesに、バークシャー・ハサウェイ年次株主総会でのイベントの様子が載っていました。

連戦連敗の宿敵との戦いに、ウォーレンが持ち出したものはなんと、








ゲイツによれば、それでも負けたそうです。ギャラリーも楽しんでいて、こういう爽やかなジョーク、個人的には好きです。

2012年5月22日火曜日

パニックのどん底で(チャーリー・マンガー)

少し前の投稿の続きで、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会での質疑応答から引用します。まずはウォーレン・バフェットがマクロの捉え方を語りますが、途中でチャーリー・マンガーが投資のタイミングについてさらっと発言しています。

<質問者> よっぱらい相手のこの市場ですので、市場全体に関わる問題を警戒して取引を控えるようなことがありますか。

<バフェット> 意外に思われるかもしれませんが、チャーリーとマクロの話題をするときは、ビジネスを売り買いする話はしないのです。ビジネスを買うのは、よくわかっているビジネスがみつかって、気に入ったときですね。世の中にはよいニュースも悪いニュースもありますが、そのときのムードとかも関係しています。そういうのは世の常だと思います。わたしが初めて株を買った頃を思い出すと、1942年の6月ですね、ミッドウェー海戦で[日本に]負けるだろうと思われていた頃です。敗戦が続き、次々と軍艦を建造していたので、年上の友人たちは街を去っていきました。2008年の10月に寄稿した例の文章[Buy American]はもう少しあとのほうがよかったですが、当時も株は十分安かったのです。

<マンガー> パニックのどん底になったときに使えるように、我々は流動性を確保しておいたのですよ。

<バフェット> そこそこ十分な金額でしたね。つまり忘れてはならないのは、明日も市場に参加できるように備えておくことです。チャーリーはデイリー・ジャーナルという小さな会社の経営者ですが、2008年になって彼は会社の余剰資金を使っていくつかの会社の株を買いました。お金は寝かせておくのではなく、使う時期だったからです。

<マンガー> こほん(咳払い)。

<バフェット> チャーリー、どこの会社の株だったのですか。ああ、そういえば彼に聞いても何も出てこないのでしたね(笑)。

Q20 - Cliff Gallant: In this drunken market, have systemic fears ever made you pause?

WB: You’ll probably find this interesting. CM and I have never had a discussion on buying or selling a business where we have talked about macro affairs. If we find a business we understand and we like it we buy it. There will always be good and bad news, it depends on moods, etc. There is a ton of that. I bought my first stock in June of 1942. We were losing the war, Battle of Midway. My older friends had disappeared, we were building battleships and we were losing. In Oct 2008 I wrote that article, should have been a few months later, but stocks were cheap.

CM: We kept liquid reserves at bottom of panic that could have been spent.

WB: A fair amount of liquid reserves. First rule is to be able to play tomorrow. Charlie runs a little company called the Daily Journal, and when 2008 came along, he bought a few stocks, that was the time to use the money not sit on it.

CM: [Cough]

WB: Was that the name of a stock Charlie? You don’t get anything out of him. [laughter]

ちなみに、デイリー・ジャーナルが投資した企業の一つは、ウェルズ・ファーゴ(WFC)ではないかと噂されています。JPモルガン・チェースがこけている今、アメリカで最良とみなされている銀行です。

余談ですが、2009年の春に同社の株価が10ドル以下に下がったので「そろそろWFCの勉強でもして、少し投資してみるか」と考えたことがありました。しかし、のんきにかまえていたせいで、あっというまに20ドル強まで値を戻してしまい、結局は買えずじまいでした。チャーリーは「備えよ、常に」と説いています。そういう反省もあり、自分の興味から外れた企業のことも勉強したいと感じるようになりました(過去記事)。

2012年5月21日月曜日

安くなくても、まあいいでしょう(マイケル・ポーター)

企業戦略を分析する上でマイケル・ポーターの「5つの競争要因」は使いやすいフレームワークです。投資先の弱点探しをする際には、わたしも頻繁に使っています。詳しい説明がなされている同氏の著書『競争の戦略』は企業戦略の定番教科書ですが、投資家にとっても役立つものです。先日取り上げた『企業戦略論 競争優位の構築と持続』でも、大きく取り上げられていました。

要約すると5つの競争要因とは、企業の生き残りを考える際には次の5つの観点で考えるとよい、というものです。
  1. 既存企業同士の競争
  2. 新規参入者の脅威
  3. サプライヤーの交渉力
  4. 買い手の交渉力
  5. 代替品や代替サービスの脅威
少し前のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌を読んでいて、同書の入門的な記事がありましたので、ご紹介します。2011年6月号に掲載されているポーター自身の論文「[改訂]競争の戦略」です。今回はその文章から「買い手の価格感度」の話題を引用します。

まずは、企業が高い収益性を保つ要因のいくつかについて。
先端技術やイノベーションは、それだけで業界構造を魅力的(または魅力に乏しいもの)にするわけではない。ありふれたローテク業界でも、買い手の価格感度が低い、スイッチング・コストが高い、あるいは規模の経済のために参入障壁が高い場合には、ソフトウェア業界やインターネット業界などライバルたちを呼び寄せる魅力度の高い業界よりも、よほど収益性が高い。(p.47)

スイッチング・コストや規模の経済は、以前に本ブログでも軽く取り上げています(過去記事1過去記事2)。もうひとつ、「買い手の価格感度が低い」という表現が登場していますが、これは買う側のほうが、うるさく値下げを迫らなかったり、そのままの値段で買ってくれたり、さらには値上げを容認してくれるといった意味ですね。ありがたいお客さまです。以下では、その具体的な傾向を説明しています。
製品が買い手の原価構造や支出において取るに足らない程度であれば、一般的に買い手の価格感度は低くなる。

儲かっており、現金も潤沢な買い手は、一般的に価格感度が低い。

調達する製品しだいで品質に大きな影響を生じる場合、買い手は通常あまり価格にこだわらない。たとえば、大手映画制作会社が撮影用の高品質カメラを購入またはレンタルする場合、価格は気にせず、最新機能付きで信頼性の高いものを選ぶ。

その業界の製品やサービスが、パフォーマンスの向上あるいは人件費や原材料費などのコスト削減によって、通常の何倍も儲かる場合には、買い手はたいてい価格よりも品質に関心があるといえる。たとえば投資銀行業務など、パフォーマンスが低いとコスト高や面倒な事態を招きかねないサービスには、価格にこだわらない傾向がある。(p.42)

個人的には、価格感度の低さは投資候補企業のMoat(経済的堀)をはかる上で重要視している要因です。この要因は、スイッチング・コストやチャーリー・マンガー言うところの心理学的な傾向と合わさることによって、相乗効果を発揮するものと捉えています。

2012年5月19日土曜日

心理学的な落とし穴を避ける考え方(チャーリー・マンガー)

人が判断を誤る心理学的な要因を、チャーリー・マンガーは「誤判断の心理学」と銘打って説明しています(過去記事)。そして、それらの注意点を自分自身の考え方に組み込むには、ものごとを2段階で分析するのがよいと説いています。今回ご紹介する一説は短いですが、個人的にはとても重要なものと捉えています。(日本語は拙訳)

まず考えるのは、ある対象に興味をもつことになった本当の理由は何かということです。それは興味と関係するもので、かつ理にかなっている必要があります。そして次に、潜在意識下で何が影響を及ぼしているのかを考えます。これは、脳が無意識のうちに働いて起こることで、たいていは役に立っているのですが、間違えていることもよくあります。

First, what are the factors that really govern the interests involved, rationally considered? And second, what are the subconscious influences where the brain at a subconscious level is automatically doing these things ? which, by and large, are useful but which often misfunction?


具体的な例で考えてみます。興味の対象は、わたしが最近注目している銘柄、任天堂の株価です。同社の株価は現在10,000円を下回っています(5/18(金)終値が9,360円)。

では、初めの分析です。同社の株価に注目しているのはなぜでしょうか。その理由は次の2つの観点でみて割安と考えているからです。簿価の観点、それから収益還元法の観点です。簿価のほうは客観的な数字で表せますが、将来の収益予測は恣意的な判断に任され、不確実なものです。

次に潜在意識下の影響を分析します。なぜ株価10,000円が割安だと感じているのでしょうか。是非はともかく、自分の心の底をさらってみます。
  1. 同社に関するさまざまな情報を読み、理解したつもりでおり、新製品はそれなりに売れるだろうと考えているから。
  2. 岩田社長の人当たりのよい対応に好印象を抱いているから。
  3. ここ1年以上にわたって株価を監視してきた間に、半値まで下落したから。
  4. 最高値70,000円とくらべて、株価が大きく下落したから。
  5. Yahooの掲示板や世間の評価が否定的で、それらを逆張り指標と考えているから。
ここまで進めば、最後は逆ひねりの出番です(過去記事)。潜在意識が考えたことに誤りや落ち度がないか、検証します。上に挙げた1.と2.は心理学的な落とし穴かもしれず、判断を誤らせているかもしれません。そこで、客観的なデータなどで正当性を示す必要があります。3.から5.の要因は、最初の分析とは合理的な因果関係がないようです。単に、同社の株を買いたい気持ちを助長しているように思えます。これらの影響を割り引くにはどうすればいいのか。この場合もキーワードは「客観視」や「合理的」でしょうが、なかなか悩みどころです。

しかし、潜在意識をさぐるというのは自分自身のことだからか、難しいものですね。

2012年5月18日金曜日

御社の強みはなんですか

前々回は『企業戦略論 競争優位の構築と持続』から「製品差別化」の源泉の話題を取り上げましたが、今回はそれより上位概念の「競争優位」の源泉について引用します。

1つの戦略を実行するコストを相対的に理解しようとする際、一般に企業は2つの誤りを犯す可能性がある。1つは、自社のコントロールする経営資源の独自性を過大評価してしまうことである。たしかに個々の企業の歴史はすべて独自のものであり、まったく同じマネジメント・チームは2つとして存在しない。だが、これをもってその企業の保有する経営資源やケイパビリティが稀少であるとはならない。似たような業界で似たような歴史を経験してきている企業は、多くの場合同じようなものを醸成してきているものだ。もしも企業が自社の経営資源やケイパビリティの稀少性を過大評価してしまうと、その企業は自社の競争優位を獲得する能力も過大評価してしまうことになる。

たとえば、自社の競争優位の最も重要な源泉は何かと問われて、多くの企業は、そのトップ経営陣の質の高さ、保有する技術の質の高さ、そして自社の企業活動のすべてにわたって最高を追求するコミットメントの強さなどを列挙するだろう。だが、それらの企業が今度は競合他社のほうはどうか、と聞かれれば、競合も同じように質の高いマネジメント・チームや、質の高い技術や、最高を求めるコミットメントを持っていると認めるだろう。つまり、これら3つの属性は競争均衡の源泉とはなり得ても、競争優位の源泉とはなり得ないのである。(上巻 p.284)

決算説明会などの資料で自社の強みを謳っているのを読むことがありますが、個人的には「なるほど、そういうものなのか」と鵜呑みにしがちです。あれは営業トークのようなもの、と冷静に捉えるべきなのですね。本当のところは何が強みなのか、それは長持ちするだろうか、といった疑問をいだき、客観的に自答できるよう訓練していきたいものです。

2012年5月16日水曜日

存在しないものでも見える(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる世知の続きです。今回は心理学についてです。具体的な内容は「誤判断の心理学」でご紹介中ですが、ここでは心理学を重要視するさわりが説明されています。(日本語は拙訳)

脳に入りきる回路の数は限られているため、人の感覚器には近道ができています。そのため、近道を逆手にとって脳に誤った知覚をさせれば、存在しないものをあたかも存在するかのようにみせることができます。

また、感覚と似ている別の機能として「認識」がありますが、これにも同じことがいえます。実際には感覚以上に間違いやすいといっていいでしょう。繰り返しますが、脳内における容量の限界などの理由で、いろんなこまごまとした近道が自動的に使われるようになっています。

何らかの形で状況がそろってきているようなときは、よくある例としては知り合いの誰かが手品師よろしく誤った認識をさせようとしてきたら、カモとして狙われているのでご注意を。

道具を使うときはその限界がわかってなければいけません。それと同じで、人はある仕組みをとおして認識している以上、その限界を知っておくべきです。それがわかっていれば、他人を動かしたり、やる気をださせるのにも使えます。

心理学の中にはとても現実的で使えるところがありますが、それらはとびぬけて重要です。知性のある人が教わるには、1週間もあれば十分な内容です。しかし、わたしのときは誰も教えてくれなかったので、人生をとおしてひとつずつ学んでいくしかありませんでした。けっこう苦労しましたよ。でも、ひととおり終わってみると実は基本的なことだったので、自分はなんという間抜けなのかと感じたものでした。

わたしはカルテックとハーバード・ロースクールに行ってましたが、そういった名高いところは間違った教育をしていますね。

心理学のうちの基本的な部分、これは学ぶべき価値のある重要なことです。わたしはこれを「誤判断の心理学」と呼んでいますが、学ぶべき原理の数は20種類ちょっとです。

それらは相互に関連すると若干複雑になりますが、基本的な考えだけでも押さえておいてください。すごく大切なことですから。

And the reason why is that the perceptual apparatus of man has shortcuts in it. The brain cannot have unlimited circuitry. So someone who knows how to take advantage of those shortcuts and cause the brain to miscalculate in certain ways can cause you to see things that aren't there.

Now you get into the cognitive function as distinguished from the perceptual function. And there, you are equally - more than equally in fact - likely to be misled. Again, your brain has a shortage of circuitry and so forth - and it's taking all kinds of little automatic shortcuts.

So when circumstances combine in certain ways - or more commonly your fellow man starts acting like the magician and manipulates you on purpose by causing you cognitive dysfunction - you're a patsy.

And so just as a man working with a tool has to know its limitations, a man working with his cognitive apparatus has to know its limitations. And this knowledge, by the way, can be used to control and motivate other people.

So the most useful and practical part of psychology - which I personally think can be taught to any intelligent person in a week - is ungodly important. And nobody taught it to me, by the way, I had to learn it later in life, one piece at a time. And it was fairly laborious. It's so elementary though that, when it was all over, I just felt like a total horse's ass.

And yeah, I'd been educated at Caltech and the Harvard Law School and so forth. So very eminent places miseducated people like you and me.

The elementary part of psychology - the psychology of misjudgment, as I call it - is a terribly important thing to learn. There are about twenty little principles.

And they interact, so it gets slightly complicated. But the guts of it is unbelievably important.

2012年5月15日火曜日

製品差別化戦略と模倣コスト

少し古い本ですが『企業戦略論 競争優位の構築と持続』(3分冊)を読んでいます。邦訳では副題にまわっていますが、原書のほうのタイトルは『Gaining and Sustaining Competitive Advantage』と投資家好みの直球です。また原書は第4版まで改訂されていますが、かなりいい値段がついています。

さて、今回は中巻から「製品差別化」について引用します。

まずは、製品やサービスを差別化する利点と注意点です。
製品差別化戦略を実行することにより、企業は自社の製品やサービスに対し、平均総コストを上回る価格を付与でき、それによって経済価値を生み出すことができる。製品の差別化に成功した企業は、外部環境のさまざまな脅威を減らし、かつ外部環境に存在する機会を活用することができる。しかし、ある戦略がその企業に単に経済価値をもたらすのみならず、持続的競争優位を生じさせるには、その戦略が稀少で模倣コストの大きな内部組織上の強みと弱みに裏打ちされていなければならない。
(p.138)

次に、製品やサービスを差別化する代表例です。他社がそれらを模倣しようとするときの難易度を3つの観点で評価しています。(*マークが多いほど、模倣コストが高くなる傾向)。

#製品差別化の源泉歴史的経路依存性因果関係不明性社会的複雑性
1製品の特徴や機能---
2製品の品揃え***
3他企業との連携*-**
4製品のカスタマイゼーション*-**
5製品の複雑性*-*
6消費者マーケティング-**-
7機能横断的なリンケージ****
8タイミング****-
9ロケーション***--
10評判********
11流通チャネル*****
12アフターサービスとサポート****

3つの観点の説明は、次のとおりです。
  • 歴史的経路依存性
    企業がたどってきた歴史的経緯に独自のものがあり、模倣コストに影響すること。
  • 因果関係不明性
    因果関係はよくわからないが、競争優位に関係すること。
  • 社会的複雑性
    企業がシステマチックに管理したりコントロールしたりする能力の限界を超えているようなこと。たとえば、企業内におけるマネジャーたちの相互コミュニケーション能力、企業文化、サプライヤーや顧客の間での自社の評判などである。

模倣コストが高くつくと評価されているものの中に、8.タイミングと10.評判が含まれているのが興味ぶかいです。「タイミング」は先行者有利の好例ですし、一方の「評判」は時間をかけて築くものです。大成功している企業を思い浮かべると、そのどちらも兼ね備えているように思えてきます。

2012年5月13日日曜日

べろんべろんの酔っぱらい(ウォーレン・バフェット)

前回に続いて、バークシャーの年次株主総会での質疑応答からご紹介します。おなじみのミスター・マーケットが新しい横顔で登場します。さりげない一言ですが重要な示唆と思える箇所があったので、赤字で強調しました。文末のチャーリー・マンガーの発言もあいかわらず素晴らしいです。引用元はScribdのSheerazRaza氏のものです。(日本語は拙訳)

<質問者>
ここにきている95%の人がバークシャーの株価は割安だと考えていると思いますが、どうお考えですか。

<バフェット>
[バークシャーを率いてから]45年以上になりますが、株が大幅に割安になったことが何度かありました。ほんの短い間ですが、半値になったこともあります。トム・マーフィーは、かつてもっとも成功した会社[GM]を経営していましたが、1970年代の初期の時価総額は同社の資産の1/3までになっていました。2001年のバークシャーの株価もかなり低かったですね。株式のいいところは、ときに信じられないような値段で取引されることです。そのおかげで、わたしどもはお金持ちになれました。ベン・グレアムの『証券分析』の第8章と第20章、それだけ読めば十分です。株式市場ではミスター・マーケットが相手をしてくれていると考えてください。ただし、売り買いの相手はしてくれますが、助言はしてくれません。というのも、彼はべろんべろんの酔っぱらいなのです。ですから、毎日提示してくる値段の中にはまちがいもたくさんあります。ときには彼の願いをかなえてやってください。つまるところ、株式市場というところは株にまちがった値段がつくようにできているわけです。バークシャー株はこの40年間以上、たいていの会社よりも本源的な価値に近い値段で取引されてきました。株価の変動も少なかったものです。バークシャー株は今後も割高になったり、割安になったりするでしょうが、いつどうなるのかはわたしにはわかりません。大切なのは、ビジネスの価値に基づいて買うかどうかを決めることです。自分が評価できるビジネスだけに目を向けていれば、株式では成功できます。何もしないでいてもお金を稼げるのですから、このすばらしいゲームができる株式市場は、なんともありがたいところですね。正体をなくすまで飲みすぎた人のような行動をとらなければ、ルールも自分に有利なものばかりです。

<マンガー>
我々は売るためにではなく、ずっと保有し続けるためにビジネスを買ってきました。これこそ、まさに前向きな生き方ですよ。さあ急いで、みなさんも我々と同じようにすれば、いい人生が待ってますから(笑)。

Q19 - Carol Loomis: Buffett Rule, he suspects 95% of people in arena believe stock undervalued. If not undervalued by Buffett rule, then why?

WB: Over 45 years, there have been several times when stock significantly undervalued, and at times it cut in half over fairly short time frames. Tom Murphy ran one of most successful companies ever, in early 1970s selling for 1/3rd the price of selling the properties. Berkshire in 2001 was selling at a very low price. The beauty of stocks is that they sell at silly prices from time to time. That is how we got rich. Chapter 8 and Chapter 20 in Security Analysis is all you need. In the stock market you have partner named Mr. Market, and he is a psychotic drunk, and he is there to serve you not to advise you. There are thousands of prices - and he is making lots of mistakes every day. Occasionally you have to oblige him. So it is built into the system that stocks get mispriced. Generally speaking Berkshire has come close to selling at intrinsic more than most companies over 40 years. Our stock fluctuates somewhat less than most. Berkshire will be significantly overvalued and sometimes undervalued. I don’t know in which order and times. But make decisions based on what business worth. Stick with businesses that you can value, you will do well in stocks. Stock market is most obliging place to make money because you don’t have to do anything. It is a marvelous game and rules stacked in your favor as long as you don’t start behaving like drunken psychotic.

CM: We bought businesses to hold instead of resell. It is an enormously constructive life. The faster you can work yourself into our position the better you’ll be. [laughter]

2012年5月12日土曜日

ウォーレン・バフェットが苦々しい(チャーリー・マンガー)

バークシャー・ハサウェイの年次株主総会が、先週の5月5日(土)に行われました。質疑応答のトランスクリプトが各所で公開されています。私が見たものの中では、Scribdに公開されているSheerazRaza氏のファイルが、よく網羅されていました。今回は同ファイルから、チャーリー・マンガーのジョークをお楽しみください。(日本語は拙訳)

<質問者>
体調のほうはいかがですか?

<バフェット>
ええ、ずっと調子がいいです。好きな人と仕事をしてますし、毎日楽しんでやってます。免疫系がしっかりしているようです。食生活はご覧の通りですが、ちゃんと食べてます。4人のお医者さんにお世話になってまして、バークシャーの株主もおられますが、2週間ほど前に妻と娘といっしょに彼らの話をうかがいました。おすすめの選択肢をいくつか挙げてもらいましたが、入院なし、仕事を休む必要もなし、今後10年間の生存率は99.5%ということでした。どうやらわたしの命運が尽きるのは、嫉妬に駆られた亭主に撃たれるときになりそうです[長生きするの意]。今回は、たいしたことのない一件です。

<マンガー>
これほどまでにウォーレンは注目され、同情を集めていますが、わたしには苦々しいですね。たぶん、わたしのほうが前立腺がんが進んでますよ。まあ、検査していないのでよくわかりませんがね。とにかく、わたしにも同情してほしいものですな。

Q16 - Andrew Serwer: How are you feeling?

WB: I feel terrific. I always feel terrific. I love what I do. I work with people I love. It is more fun every day. I have a good immune system. My diet is such, as any fool can see, I am eating properly. [laughter] I have four doctors. A few own Berkshire Hathaway. My wife and my daughter and I listened to four of them two weeks ago. They described various alternatives - the ones they recommend - not a day of hospitalization, not a day off from work, survival numbers are 99.5% in 10 yrs. Maybe I’ll get shot by a jealous husband. This is a really minor event.

CM: I resent all this attention and sympathy Warren is getting. I probably have more prostate cancer than he does. I don’t know because I don’t let them test for it. At any rate, I want the sympathy.

2012年5月11日金曜日

売り時がもっとも難しい(セス・クラーマン)

前回に続いて、今回はセス・クラーマンによる「売り時」についてです。著書『Margin of Safety』からご紹介します。一節を丸ごと引用しているので、少し長めです。(日本語は拙訳)

買い時の面ではこれはお買い得だとわかる人は多いですが、いつが売り時かとなると一転して難しくなります。投資対象の価値を正確に知るのが難しいことも、その理由の一つです。投資家は、投資対象が持つ価値を幅を持って捉えた上で、ある程度の安全余裕をみた値段で買うものです。しかし、価格が上がってしまうと安全余裕が狭まり、潜在的なリターンも減少し、下落リスクが大きくなります。投資対象の正確な価値がわからないがゆえに、買ったときと同様に売るときにも自分の判断に自信を持てないというのは、まあ理解できることです。

売り時をなかなか判断できないので、PBRやPERを基準にして決まりをつくる投資家がいます。また何%か値上がりしたら売るといった、含み益の割合を基準とする人もいます。さらには、買ったときに売値を決めてしまう人もいます。まるでこれからおきる出来事は、売り時を決めるにはまったく関係しないかのようです。このような決め事にはあまり納得できません。実際のところ、売り時に関する妥当な規則はただひとつしかないのです。それは「適切な値段で売ること」です。

売り時を決める際には、買うときと同じように、ビジネスの価値に基づいていなければなりません。そして、まさに売買すべきかどうかは、他によい乗り換え先があるかにもよります。一つの例で考えてみましょう。株価がどれぐらい価値に見合った金額になるまで保有すべきでしょうか。市場には多くの掘り出し物がでているのに、株価が価値に見合うまでもう少しあるので、少ししか含み益がのっていない株を売りたくない、というのはおかしいでしょう。また反対に、他によいお買い得がないときに、まだ大安売り状態にもかかわらず、株を売って利益を確定し、税金を払うようなことはしたくないものです。

買値よりも少し下の値段で株を売るようにストップロスの注文をいれる人もいます。価格が上昇すれば注文は実行されませんが、大きく下げると思われるようなときに価格が少し下がった時点で実行されます。この戦略は下落リスクをおさえる効果的な方法だと思われるかもしれませんが、なんともまずいやりかたです。市場が価格を下げてくれたおかげで持分を増やせる好機なのに、その機会を利用せず、投資先の利点のことは自分よりも市場のほうがよく知っている、と言わんばかりだからです。

売りを考えるときには、流動性に気を配ることも大切です。多くの証券では、気配値だけでなく取引の大きさも考慮しなければなりません。買いたいという人がいなければ売れないので、どれだけの買い手が見込めるのか考える必要があります。そういえば、流動性の低いOTC株[店頭銘柄]を専門に扱う、ある小さな会社の社長が、こう話してくれました。「ひなが腹をすかせていたら、食わせてあげないとな」

バリュー投資の思想を重んじる人には、これでもまだ売りが難しいと感じているかもしれません。それでは反語的に申し上げましょう。価値に基づかないで買ったとしたら、どのように売り時を決めますか。あるいは、価値以上の対価を払った証券で一勝負しているとしたら、利益あるいは損失をいつ確定させますか。「あの人たちはこんな風にやっているようだから」というのは別にして(実際のところ、それは指針ではないのですが)、なにか指針を持っていますか。

Many investors are able to spot a bargain but have a harder time knowing when to sell. One reason is the difficulty of knowing precisely what an investment is worth. An investor buys with a range of value in mind at a price that provides a considerable margin of safety. As the market price appreciates, however, that safety margin decreases; the potential return diminishes and the downside risk increases. Not knowing the exact value of the investment, it is understandable that an investor cannot be as confident in the sell decision as he or she was in the purchase decision.

To deal with the difficulty of knowing when to sell, some investors create rules for selling based on specific price-to-book value or price-to-earnings multiples. Others have rules based on percentage gain thresholds; once they have made X percent, they sell. Still others set sale price targets as the time of purchase, as if nothing that took place in the interim could influence the decision to sell. None of these rules makes good sense. Indeed, there is only one valid rule for selling: all investments are for sale at the right price.

Decisions to sell, like decisions to buy, must be based upon underlying business value. Exactly when to sell - or buy - depends on the alternative opportunities that are available. Should you hold for partial or complete value realization, for example? It would be foolish to hold out for an extra fraction of a point of gain in a stock selling just below underlying value when the market offers many bargains. By contrast, you would not want to sell a stock at a gain (and pay taxes on it) if it were still significantly undervalued and if there were no better bargains available.

Some investors place stop-loss orders to sell securities at specific prices, usually marginally below their cost. If prices rise, the orders are not executed. If the prices decline a bit, presumably on the way to a steeper fall, the stop-loss orders are executed. Although this strategy may seem an effective way to limit downside risk, it is, in fact, crazy. Instead of taking advantage of market dips to increase one's holdings, a user of this technique acts as if the market knows the merits of a particular investment better than he or she does.

Liquidity considerations are also important in the decision to sell. For many securities the depth of the market as well as the quoted price is an important consideration. You cannot sell, after all, in the absence of a willing buyer; the likely presence of a buyer must therefore be a factor in the decision to sell. As the president of a small firm specializing in trading illiquid over-the-counter (pink-sheet) stocks once told me: “You have to feed the birdies when they are hungry.”

if selling still seems difficult for investors who follow a value-investment philosophy, I offer the following rhetorical questions: If you haven't bought based upon underlying value, how do you decide when to sell? If you are speculating in securities trading above underlying value, when do you take a profit or cut your losses? Do you have any guide other than “how they are acting,” which is really no guide at all?


大投資家のフィル・フィッシャーは、著書『「超」成長株投資』で名言を残しています。「どれだけ割高であっても有望な成長株を売ってはならない」「正しく選び抜いて買った株には、売り時などほぼ存在しない」(p.191)。ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーもその教えに従っており、売る必要のない企業の株を買うことを勧めています。しかし、そうはいいながらもそれなりに売却することもあります。主に、乗り換えや企業の状況が変化したときです。そのような場合には、我々としては上記のようなクラーマンのテクニックが参考になるのではないでしょうか。

2012年5月9日水曜日

なすすべもなく見守る(セス・クラーマン)

気に入った銘柄の「株価が下がったら買い増しする」というのは、ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーもとっている方針です(過去記事)。ヘッジ・ファンドのマネージャー、セス・クラーマンも同様のことを著書『Margin of Safety』で取り上げていますので、ご紹介します。(日本語は拙訳)

売買の際にもっとも肝心な点は、価格の変動に対して適切に応じることです。価格が下落し続けるとパニックになりがちですが、こういうときにこわがらない術を身につけなければなりません。反対に、価格が上昇しているときには浮かれて欲をださないように自制すべきです。それでは売買について学ぶべきこと、まずは前半の買い方です。わたしの考えでは、ある証券に投じる予定の資金満額を使って一度に買ってしまうやりかたは、基本的にはとるべきではありません。そうしないと、買った後に価格下落が続き、予備の資金がないまま、なすすべもなく見守ることになるかもしれないからです。一部だけを買うようにすれば、株価が下がっても残りの資金を使って平均購入単価を下げられます。

The single most crucial factor in trading is developing the appropriate reaction to price fluctuations. Investors must learn to resist fear, the tendency to panic when prices are falling, and greed, the tendency to become overly enthusiastic when prices are rising. One half of trading involves learning how to buy. In my view, investors should usually refrain from purchasing a “full position” (the maximum dollar commitment they intend to make) in a given security all at once. Those who fail to heed this advice may be compelled to watch a subsequent price decline helplessly, with no buying power in reserve. Buying a partial position leaves reserves that permit investors to “average down,” lowering their average cost per share, if prices decline.

2012年5月8日火曜日

急いでお金持ちになりたい人は(ウォーレン・バフェット)

前回の続きで、学生の問いかけに答えるウォーレン・バフェットです。今回はバリュー投資についてです。

<質問>
優れたバリュー投資家になるにはどうしたらいいのでしょうか。またバリュー投資家が他のプロの投資家とは何が違うのでしょうか。

<バフェット>
バリュー投資家は長期的な視点で考えるようにしています。ですから、よりうまく考えたいと思いますし、明日にでも儲かることを考えるのではなく、10年先を考えるようにしています。

バリュー投資家は明日にでもお金持ちになれるとは考えていません。急いでお金持ちになろうとする人は、けっきょくはお金持ちになれないのです。時間をかけてお金持ちになるのは、ちっとも悪いことではありません。

わたしもみなさんと同じ布団で寝ていますし、同じ食べ物を食べてますよ。

いつだっていろんなことを楽しむようにすれば、何でもかんでも買うことはできなくても、人生はすばらしいものになります。金銭的には裕福でなくても幸せに暮らしている人ならば、たくさん知っています。反対に、お金持ちなのに幸せでない人たちも知っています。

<Q>
What makes a good value investor and how different are value investors from other professional investors?

<A>
Value investors always take a long-term perspective, we want to think we are superior and are not concerned about getting rich tomorrow but over a period of ten-years instead.

Value investors are not concerned with getting rich tomorrow. People who want to get rich quickly, will not get rich at all. There is nothing wrong with getting rich slowly.

Remember we both sleep on the same mattress and eat the same food

Always remember to have a lot of fun, you may not be able to buy as much, but your life will be pleasant. I know lots of people who are not rich in financial terms but they are still happy. I know plenty of unhappy rich people.


5月5日の年次株主総会でのウォーレンの様子。子会社の出店で新聞投げのイベントを楽しんでいます。あいかわらずのナイス・スローイングです。



こちらは投げ方を指導中。ビル・ゲイツも列に並んでいます。



2012年5月6日日曜日

成功するのに必要なこと(ウォーレン・バフェット)

バークシャー・ハサウェイの年次株主総会も終わり、各所に投稿されたレポートを読み始めています。ウォーレン・バフェットもチャーリー・マンガーも健在で、まずは何よりです。それらのレポートの中から近日中にご紹介したいと考えておりますが、今回は少し前の3月30日に行われたウォーレンと学生の会合でのやりとりから引用します。引用元は、西オンタリオ大学のビジネススクールのサイトに掲載されているインタビューノートです。(日本語は拙訳)

<質問>
あなたが初期の頃に手がけていたのは、情報の格差を利用したアービトラージ[サヤ取り]だったと存じます。今では世の中も変わり、情報はそれこそ光の速さでいきわたっています。どうすればすばらしい成功をおさめ続けられるでしょうか。

<バフェット>
今の時代は情報の面ではよくなりましたが、人がとる行動は非合理的なままですね。

わたしが最初の仕事として証券アナリストについたころは、公開株に関する情報は2つしかありませんでした。ムーディーズかS&Pのマニュアルです。ですから私が文字どおり一日中やっていたのは、その本を1ページずつ読みすすめて、割安なものがないか探すことでした。

あるとき、1株当たりの純利益が13ドルの会社が、株価22ドルで取引されているのをみつけました。PERが2倍、すごいお買い得ですね。ところが株主は全部で400名ぐらいだったので、買おうにも買えなかったのです。そこでわたしはその会社の本社がある町へでかけて新聞広告をだしました。「株、買います」。

よい取引をするには、少しぐらいは一生懸命にやらなければならないこともあります。ここ最近も、韓国株のマニュアルを読んで同じようなお買い得をみつけました。ですが、成功をおさめるのに本当に必要なのは、情緒が安定していること、これに尽きると思います。

お金持ちになるには、知能指数が高い必要はないのです。

<Q>
The key to your early career was essential information arbitrage. Given the changes in the world and that information now moves at the speed of light, how do you continue to have such great successes?

<A>
People have better information now, but they still act irrationally.

When I took my first job as a security analyst there were only two sources of information on public equities; the Moody’s manual or the S&P manual. So I would literally spend all day looking through this book page by page, looking for undervalued securities.

I found a company with around $13/share in earnings, and was trading at $22. So at a 2 times P/E it was a great buy. But there were only 400 shareholders and I couldn’t actually buy a piece of it. So I went to the town where the company was headquartered and ran an ad in the newspaper to buy shares.

Sometimes you have to work a little bit hard to get the good deals. And looking through the Korean stock manuals I’ve found some of these same opportunities today. But ultimately, the key to success is emotional stability.

You don’t need a high IQ to get rich.

2012年5月5日土曜日

誤判断の心理学(9)お返しする傾向(チャーリー・マンガー)

今回は、心理学者のロバート・チャルディーニによる実験が紹介されています。人間の持つ心理学的傾向を逆手にとった、見事な実験です。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その9)お返しする傾向
Reciprocation Tendency

反射的にお返しをしたり、しかえしをするのは行き過ぎることもある、と考えられてきました。実のところ、類人猿、猿、 犬、あるいはもう少し知性の劣る動物も同じように振舞うのです。この傾向は一丸となって協力するのが望ましい場合に役立つので、その点では[アリのような]社会的昆虫の持つ遺伝的な性質から多くを借りています。

The automatic tendency of humans to reciprocate both favors and disfavors has long been noticed as extreme, as it is in apes, monkeys, dogs, and many less cognitively gifted animals. The tendency clearly facilitates group cooperation for the benefit of members. In this respect, it mimics much genetic programming of the social insects.


次は、この傾向がうみだす望ましい側面です。

近代社会は商業交易のおかげで繁栄をむかえましたが、そこでは人間が生来持つ「お返しをする」傾向が大きな役割を果たしています。交易の場では、お互いの返報を期待しつつ自己利益を追求する、といった聡明なやりかたが建設的な取引につながります。結婚生活における日々のやりとりでも、この返報する傾向が役に立っています。この傾向がなければ、よき関係はかなり喪われてしまうでしょう。

It is obvious that commercial trade, a fundamental cause of modern prosperity, is enormously facilitated by man's innate tendency to reciprocate favors. In trade, enlightened self-interest joining with Reciprocation Tendency results in constructive conduct. Daily interchange in marriage is also assisted by Reciprocation Tendency, without which marriage would lose much of its allure.


今度は、この傾向を使って他人をあやつる例です。

心理学者のチャルディーニが行った有名な心理学の実験は見事なもので、実験者による見えざる影響力をつかって、被験者の潜在意識下にある返報傾向を呼び起こすように誘導しています。

この実験でチャルディーニは、実験者に対してキャンパスを歩き回り、めぼしい人をみつけたら保護観察中の若者たちを動物園へ引率してほしい、とお願いするように指示しました。かなりの数の被験者が得られましたが、同意してくれたのは6人に1人でした。この実験結果をまとめた後、チャルディーニは今度は別の実験を行うことにしました。実験者がキャンパスでつかまえた人に対して、今後2年間にわたって保護観察中の若者を監督するのに毎週それなりの時間をあててほしいと依頼したのです。こんなとんでもない要求に応じる人は皆無でした。しかし重要なのは、実験者がこのあとすかさず出した次のお願いです。「それではせめて1回でかまいませんので、例の若者たちを動物園へ連れて行って頂けないでしょうか」。これが効果てきめんで、応じてくれた人の割合は2人に1人までになりました。実に3倍に増えています。

チャルディーニが実験者をつかってやったのは、相手からちょっとした譲歩を引き出したものです。それも正面ではなく、裏口からです。潜在意識を刺激して、譲歩という形でお返しをさせたことで、保護観察の若者を動物園へ連れて行く人の割合を増やしたのです。このような実験を考え出せるような教授は、それがすごく重要なことだと言い表わせれば、広く世間で評価されるでしょう。実際、チャルディーニの衣鉢を継いでいる大学からは高く評価されています。

In a famous psychology experiment, Cialdini brilliantly demonstrated the power of “compliance practitioners” to mislead people by triggering their subconscious Reciprocation Tendency.

Carrying out this experiment, Cialdini caused his “compliance practitioners” to wander around his campus and ask strangers to supervise a bunch of juvenile delinquents on a trip to a zoo. Because this happed on a campus, one person in six out of a large sample actually agreed to do this. After accumulating this one-in-six statistic, Cialdini changed his procedure. His practitioners next wandered around the campus asking strangers to devote a big chunk of time every week for two years to the supervision of juvenile delinquents. This ridiculous request got him a one hundred percent rejection rate. But the practitioner had a follow-up question: “Will you at least spend one afternoon taking juvenile delinquents to a zoo?” This raised Cialdini's former acceptance rate of 1/6 to 1/2 a tripling.

What Cialdini's “compliance practitioners” had done was make a small concession, which was reciprocated by a small concession from the other side. This subconscious reciprocation of a concession by Cialdini's experimental subjects actually caused a much increased percentage of them to end up irrationally agreeing to go to a zoo with juvenile delinquents. Now, a professor who can invent an experiment like that, which so powerfully demonstrates something so important, deserves much recognition in the wider world, which he indeed got to the credit of many universities that learned a great deal from Cialdini.


ロバート・チャルディーニの実験は、当人の著書『影響力の武器』から引用されたものです。この本は心理学の世界や顧客獲得に励む営業部隊では必読書に指定されているのではないでしょうか。チャーリーは本書を読んで感激し、バークシャー・ハサウェイのA株を著者チャルディーニへ贈ったとされています。現在のA株の価格は、約1,000万円です。

蛇足ですが、私も仕事の様々な局面でチャルディーニの心理学的なアイデアをお借りしました。華々しいということはなかったですが、たいていはその通りに働いて、小さな成功をおさめられました。マネージャーに限らず、交渉に悩むみなさんにお勧めの一冊です。もちろん本書はチャーリーの推薦図書です。

2012年5月4日金曜日

競争優位性をさぐる例(ウォーレン・バフェット)

いよいよ明日5/5(土)はウッドストック音楽祭ならぬ、バークシャー・ハサウェイの年次株主総会です。最近では、質疑応答の様子があっというまにトランスクリプトに起こされてインターネットに公開されるので、ありがたく読んでいます。とはいっても株主のはしくれとして、いつかはオマハ詣でをしたいと考えてはいるのですが、もたもたしていると時間切れになってしまうかもしれません。

今回は昨年の年次総会の質疑応答から、ウォーレンがMoat(経済的な堀、転じて長続きする競争優位性)を探るくだりについてご紹介します。ファンドマネージャーでもあるiluvbabyb女史が作成したトランスクリプトから引用させて頂きました。(日本語は拙訳)

デイヴィッド・ソコルがバフェットにルーブリゾールへ投資したらどうかと紹介したとき、バフェットは皆目見当もつかないビジネスだと答えた。[同社製品の]潤滑油添加剤のことは化学的な観点では理解できないだろうが、それは必須というほどではない。重要なのは業界における経済的な力関係を理解することだ。競争力の点でMoatがあるか。業界には容易に他社が参入できるのか。バフェットは、石油のことはチャーリーのほうがうまく判断できるから彼にきいてみる、とソコルに答えた。数日後にチャーリーと話したが、彼もそのビジネスのことはわかっていないと返事をした。

When David Sokol mentioned Lubrizol to Buffett as an investment idea, Buffett said it struck him as a business he didn't know anything about initially. He said he would never understand the chemistry of petroleum additives, but that's not necessarily vital. What is important is that he understands the economic dynamics of the industry. Is there a competitive moat? Is there ease of entry into the industry? Buffett suggested to Sokol that he contact Charlie with the idea since Charlie is a lot smarter about oil than Buffett felt he was. When Buffett talked to Charlie a few days later, Charlie said he didn’t understand the business either.

その後、ウォーレンはルーブリゾールの経営陣と話をして、「Moatがある」と判断しています。
「かれらは特許を山ほど保有していますが、それ以上なのが顧客と密な関係を保っている点です。たとえば顧客が新型のエンジンを開発しているときには共に働き、適切な添加剤を開発するのです。そのような話をしているうちに、化学のことはいっこうに理解が深まっていなかったのですが、ビジネスの経済的な側面については合点のいくところがありました。イスカル社の人と話をしたときと同じような感じです。そのときも、採掘したタングステンを精錬した原料から、炭化タングステンの小型超硬工具をつくって、といったことが競争優位として長続きするのではという話になりました。最終的にはもう少し調べた上で、イスカルは持続する競争優位を有しているだろうと判断しました」

They've got lots and lots of patents, but more than that they have a connection with customers. They work with customers when new engines come along to develop the right kind of additive. So I felt that I had an understanding --didn't understand one thing more about chemistry than when I started, but I felt I had an understanding of the economics of the business, the same way I felt when the Iscar people talked to me. I mean, who would think you can take some Tungsten out of the ground and shine it and put it in little carbide tools and that you could have some durable competitive advantage, but I decided Iscar had some durable competitive advantage after looking at it for a while.

2012年5月2日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度決算説明会)

当社のことを1月下旬に取り上げたときは、株価が10,000円に近づいていました(過去記事)。その後、市場の回復と共に株価は上昇しましたが、ここにきて10,000円近辺に戻ってきました。来期の業績予想がもうひとつだったからとのことですが、個人的には第一四半期もWii買い控えによる低迷が続くものと予想しています。

今回は、2011年度決算説明会での岩田社長の質疑応答から、マーケット・セグメンテーションの話題を引用します。チャーリー・マンガーも指摘する心理学的傾向のひとつが登場しています(過去記事)。

<A7 岩田社長>
新しいお客様を獲得しようとして重視した点と、ゲームを趣味としてお楽しみいただいているお客様に満足していただくために重視した点において、少し偏りがあり過ぎたために、「Wiiというゲーム機は自分たちのものではない」と感じられ、「少々魅力的なソフトが出ても遊んでみる気になれない」というムードをつくってしまったことも事実だと思います。今回、過去のニンテンドーDSやWiiの時と比べて、ニンテンドー3DSでは、いわゆるユーザー拡大型のソフトウェア展開が遅いように見えているということについては、ある程度考えてやっていることでもあります。最初にお客様が、「この機械は自分たちのものではない」と受けとめられた場合、後からその認知を変えることはとても難しいということを私たちは学んでいます。そのため、まず私たちは「幅の広さと深さを両立させたい」と申し上げてニンテンドー3DSやWii Uを展開し、ニンテンドーDSやWiiの時には幅の広さについては多くの方にご評価いただきましたが、奥の深さという点でみなさんに満足いただけたとは言い切れませんので、今度は奥の深さでも、幅でも満足していただきたいと考えています。そのためには、まず深さから始めようということがあり、今のニンテンドー3DSのソフト展開となっていますので、今後についてはこれから変わっていきます。この幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームでより幅広いお客様に満足していただけるようにしたいと思います。Wii Uで考えていることも基本的に同じです。そういうことを継続していった時に、世帯当たりのプレイ人数も多くなり、ユーザー人口の増加とともに、持続力のあるマーケットをつくることができるのではないかと思っています。今申し上げたような形でニンテンドー3DSやWii Uが今後どうなっていくのか、これからお目にかけたいと思います。

個人的には、Wii Uは戦略的にもっとも重要な製品として位置づけられている、と受けとめています。6月に開催されるE3での続報が楽しみですが、現在の株価にも少し魅力を感じます。10,000円は、やや割安と捉えています。

2012年5月1日火曜日

わたしがお手本としている人(ウォーレン・バフェット)

今回ご紹介するのは、ウォーレン・バフェットによる2002年度「株主のみなさんへ」での、わたしが好きな一節です。バークシャー・ハサウェイが買収した子会社の経営は以前からの経営陣に任せるのが常ですが、ここではその理由を説明しています。この手のちょっとおもしろい話で楽しませてくれるだけでなく、要所をきちんとおさえているところが、ウォーレンの魅力のひとつですね。(日本語は拙訳)

経営の上でわたしがお手本としている人物をご紹介しましょう。バットボーイをしていたエディー・バネット氏です。1919年に19歳だった[16歳の誤りか?]エディーは、シカゴ・ホワイトソックスで仕事を始めました。その年のシカゴは[リーグ優勝し]、ワールド・シリーズへの出場を果たしました。翌年、エディーがブルックリン・ドジャースに移ったところ、これまたリーグ優勝の成績をおさめています。ところがわれらがヒーロー氏は何かをかぎとったのでしょうか、1921年には別の区のチーム、ヤンキースに加わりました。なんと、またもや早々にチーム史上初のリーグ優勝です。そこでエディーは腰をおちつけ、チームの行く末を見守ることにしました。これが賢明な判断で、ヤンキースはそれからの7年間で5回のアメリカン・リーグ優勝を果たしたのでした。

この話から経営者はどんな教訓をえられるでしょうか。そう、簡単ですね、「自分が勝ちたければ、勝者とともに働きなさい」ということです。例えば1927年にエディーは、ワールドシリーズ後のボーナスとして700ドルが支給されました。当時のヤンキースはルースとゲーリックがいた伝説的な時代で、優勝チームのメンバーに対するボーナス満額の1/8が彼に認められていたのです。ヤンキースは負けなしの4連勝だったので、このボーナスをもらうのにエディーが働いたのは、わずか4日間。これは、普通のチームで働く当時のバットボーイが1シーズン働いて得る収入とだいたい同じぐらいの金額でした。

いかにバットをせっせと運ぼうが、それは全然重要でない。エディーにはわかっていたのです。肝心なのは、最上の選手たちがいるところで働くことだ、と。エディーからの教訓どおり、アメリカビジネス界でも猛打者ぞろいのバークシャーで、わたしは毎日バットを手渡しています。

My managerial model is Eddie Bennett, who was a batboy. In 1919, at age 19, Eddie began his work with the Chicago White Sox, who that year went to the World Series. The next year, Eddie switched to the Brooklyn Dodgers, and they, too, won their league title. Our hero, however, smelled trouble. Changing boroughs, he joined the Yankees in 1921, and they promptly won their first pennant in history. Now Eddie settled in, shrewdly seeing what was coming. In the next seven years, the Yankees won five American League titles.

What does this have to do with management? It’s simple - to be a winner, work with winners. In 1927, for example, Eddie received $700 for the 1/8th World Series share voted him by the legendary Yankee team of Ruth and Gehrig. This sum, which Eddie earned by working only four days (because New York swept the Series) was roughly equal to the full-year pay then earned by batboys who worked with ordinary associates.

Eddie understood that how he lugged bats was unimportant; what counted instead was hooking up with the cream of those on the playing field. I’ve learned from Eddie. At Berkshire, I regularly hand bats to many of the heaviest hitters in American business.


エディー・バネットのことは、Wikipedia(英語版)のこちらにも投稿されていました。