ot

2013年1月31日木曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(マイクロソフト)

前回に続いて3件目の企業です。

<当社の概要>
当社の主力製品WindowsやOfficeは日常的に使われているものなので、細かくはとりあげません。ここでは事業部門ごとの営業利益の推移をみておきます。事業部門は5つあります。Windows、サーバー及び開発ツール、ビジネス向けシステム、娯楽(Xbox)及びデバイス(Phone)、オンライン広告(Bing, MSN)です。


要約すると、Windowsは横ばい、サーバーやビジネス向けシステムは成長中、娯楽はKinectのヒットで浸透し累積損失を取り戻している段階、オンライン広告は赤字継続の上に巨額の買収評価損を計上、となります。

<投資に至った背景>
本ブログで何度か取り上げているファンド・マネージャーに、アーノルド・ヴァンデンバーグという方がいます。読みごたえのある彼のレターは、何年か前から目を通してきました。当社に興味を持ったのは、最近の彼の文章を読んだのがきっかけです。大企業にはあまり投資しない時期が続いていたので、当社の経営状況を確認したのは初めてでした。PERが10倍前後で配当率が3%強と、単純に割安だと感じました。当社の利益の伸び率を調べてみると、グーグルやアップルからは離されていますが、2006年度から2011年度の5年間でEPSは倍増しています(2012年度は多額の評価損があったので対象から外しました)。当社の株式が不人気なのは、人気企業とくらべて低調だからか、それとも将来を見越したせいなのか。どちらにせよ、調べて考える価値のある企業だと判断しました。

当社の業績動向をみるさいに、さきに挙げた5つの事業分野ではなく、顧客種別に分けて考えてみます。消費者向けと企業向けの2つです。

消費者向け部門: Windows、娯楽(Xbox)、オンライン広告(Bing, MSN)
企業向け部門: Windows、サーバー及び開発ツール、ビジネス向けシステム(Office等)、デバイス(Phone)

当社の将来において実現性が高いと考えられるシナリオは、「消費者向け事業は伸び悩むが、企業向け事業は成長する」ものと考えます。この組み合わせであっても、一定の利益を株主に還元してくれるだろうと判断しました。当社が大きく成長したきっかけはMS-DOSやWindows、Officeといった企業向け製品であり、企業向けの商売には強みがあります。反対に、消費者に対するマーケティングや政策は、競合他社とくらべて優れているとは言えません。生え抜きの経営者が指揮をとる間は当社のDNAは変わらず、この傾向は今後もつづくものと予想します。

企業向けの需要が期待できる理由はいくつかあります。第一に、企業におけるIT化は米国で大きく進展していますが、他の国でも同様の道をたどる可能性は高く、マーケットは今後も拡大するものと考えます。当初は低コストの類似製品を選ぶかもしれませんが、組織の規模が大きくなり、対外的な取引が多くなるにつれ、当社製品のようなデファクト・スタンダード的なITシステムに移行するとみます。新興国が先進国を追いかける際にITの利用は梃子として働くため、教育水準の高い国のマーケットはいっそう期待できます。

第二に、当社の製品戦略がITツールの進展やデータ増大の潮流に乗っていることです。主要顧客である大企業や大規模な組織には、規模の大きさが持つ利点があります。IT武装化によって生産性を向上できることも、そのひとつです。規模の経済が効く上にネットワーク効果が働くことで、大きな組織ほど統一的にIT化することで利益を享受できます。当社は先駆者的な製品を開発販売するのではなく、社会的にある程度認知された情報ツールを企業向けに製品化してきました。過去数年分の10-Kを読むと、LyncやSharepointといった企業向けの情報インフラ的製品が売れていることが示されています。これらのシステムの裏側ではデータベース製品SQL Serverが稼働しており、これも毎年のように売上が増加しています。これらに付随して、サーバーOS製品Windows Serverやシステム管理製品System Centerも売れています。とどめはサポートサービスで、これも前述の売上増に従う形で伸長しています。このように、芋づる式に売上をあげられる製品構成がとられています。最後に、これらの製品間あるいはメール製品Exchangeとは連携的に機能しており、他社製品への乗り換えを難しくしています。

その他の増収の機会としては、以下のようなものが考えられます。
・サブスクリプションやライセンス料金の値上げ
・違法コピーから正規品への移行

<リスク>
1. 消費者向けWindowsのシェア低下
各種タブレットが出現したことで、消費者のWindows離れが進みました。この流れが継続し、一定の地点までシェアを失うリスクがあります。すでにWebブラウザーIEのシェアは大幅に低下しており、消費者向けOSの将来を暗示しています。Windowsは企業向けを強く意識した製品なので、守勢に回ると消費者にアピールしにくい側面があります。当社が消費者向け市場で戦い続ける当面の戦略は、タブレットPCを強く推し進め、キラーアプリケーションを開発したり、自陣営にひきつけることと考えます。また当社の持ち味である長期戦を戦いぬき、相手のミスをねばりづよく待つことも必要でしょう。しかし、ITツールに慣れた消費者の移り気を考えると、このマーケットでOSを独占できる時代は終わったようにみえます。さらに当社は、IT業界を席巻した時期に悪いイメージを確立してしまい、消費者に好かれていない歴史を背負っています。本丸である企業向けOSのシェアをある程度守ることができれば、後退もやむを得ないと考えます。

2. ビジネス向けシステムのシェア低下
グーグルにOfficeの顧客をとられ、またクラウドシステムのシェアも獲得できない。このようなシナリオを想定することはできますが、現段階では大きなリスクには至っていません。その理由の筆頭にあげられるのは、よく言われるように、取引上の都合を考えると自社だけが別システムに移行するのは難しい点です。第二に、一般的に企業はITシステムの乗り換えには消極的な点です。製品の印象やマーケティングに反応しやすい消費者とは違って、移行にかかる工数やコストやそれに伴う機会費用、運用開始後のリスクを重視するからです。また従業員(すなわち被雇用者)の立場からみても同様で、たとえば自分の作成したファイルやノウハウから離れたくないといった心理的傾向が働きます。第三に、同等の製品やサービスを当社も提供できることです。なおOfficeの売上の多くは企業向けで、消費者向けは小さな規模にとどまっています。

3. 新市場参入の逸失から始まる、既存事業への脅威
過去をふりかえると、グーグルやアップルといった勢いのある企業は、適切な戦略にもとづいて攻勢をかけてきました。つまり、強者に対して正面から戦うのではなく、周縁を切り崩しながら中央に向けて進出するやりかたです。アップルがWindows向けにもiTunesソフトを無料配布したのはトロイの木馬的な戦略で、消費者向けの新市場を攻略する礎となりました。グーグルはIT技術の進展によって得られた果実を活かして消費者向け市場を身軽に攻め、Web検索や強力な電子メールサービスといった領域を短期間で席巻しました。いずれも、かつて当社が飛躍しはじめた頃の姿と重なるものがあります。一方の当社は守る立場で、周縁で戦うゆえに地力をいかせず、身重なままの戦いを強いられてきました。従業員の質も、相対的に劣ってきているのかもしれません。当社がこのような問題に再び直面するリスクは、ほぼ間違いないでしょう。

<売買記録>
大半は2011年に購入しましたが、2012年の後半にも少し買い増ししました。平均購入単価は26.5$で、現在の株価は28$です。


<おわりに>
当社に投資する理由を書き連ねてきたものの、当社の競争優位性がどこまでつづくのか、確信はもっていません。隆盛を極めたIBMが波から落ちるまでの期間をふりかえると、当社が衰退しはじめる時期もそれほど遠くないかもしれない、という想いはあります。テクノロジー業界ではいつまでも独走できない。当社に向けられた市場の評価は、このような不安が積み重なったものだと思います。

2013年1月27日日曜日

人は水でできている(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講話『実用的な考え方を実際に考えてみると?』の第3回目です。前回の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

私がグロッツさんを説得するのでしたら、次のようにやります。ただし説明で使うのは、さきに話した有用なるアイデアと、聡明な人が大学の2年生ともなれば知っておくべきことだけです。

それではグロッツさん、出された課題を楽に考えるために、肝心でわかりきったことからとりかかりましょう。2兆ドルの価値を持つものを創造するには、無印の飲み物のままでは絶対に無理です。そこで、まずはお望みの「コカ・コーラ」という名前を商標登録し、法的に守られた堅固なものとしておきます。次に我らが飲み物を売ることで2兆ドルを目指すにしても、アトランタを手始めにして、国内全体、そこから一気に全世界へと広めていくほかはありません。それには、我々の製品が幅広く受け入れられるよう開発する必要があります。この狙いにむけて、根源的かつ強力な力を活かしていくのです。そういった力は、基礎的な教科の中で主要な話題として取り上げられているものから借りてくるのが適切でしょう。

では、我々の目標がどのような意味を持っているのか、数字を駆使してわかりやすくしてみます。飲料を買って飲む人が2034年には世界中で何人ぐらいいるか見積もると、80億人程度だと合理的に予測できます。1884年とくらべると、平均的にみれば実質ベースでも余裕ができているでしょう。ところで人間の体はほとんどが水で構成されているので、1日あたり約1.8リットルの水分を摂取しなければなりません。1回250ミリリットルとすれば、飲み物をとる回数は8回になります。人が摂取すべき水分の25%を風味のつけられた飲料、つまり我が社の新製品や他の類似製品を飲むことでまかない、さらには新たに登場する世界的な飲料市場のうちの半分でも獲得できれば、2034年には1杯250ミリリットルの飲料を2兆9,200億杯売ることができます。1杯あたりの利益を4セントと考えると、1,170億ドルもの利益です。我々の事業がずっとよい調子で成長できれば、2兆ドルの企業価値は容易に達成できる水準でしょう。

もちろんですが、そもそも2034年時点での妥当な利益目標として1杯あたり4セントでいいのか、という疑問があります。世界的に人気の高い飲み物を生み出せるのであれば、それで大丈夫です。150年間というのは長い年月です。ローマ時代の通貨ドラクマと同じようにドルが減価するのはまちがいないですし、それと並行して、飲料を買ってくれる世界中の平均的な消費者の実質購買力は上がるでしょう。安価なものを買うことは生活に満足をうみだし、飲み物の需要もまずまずの調子で増えていくでしょう。他方で、我々の単純な製品を生産するコストは技術が進歩する恩恵をうけて、恒常購買力ベースでみて低下するでしょう。これらの4つの要因があわさって働き、1杯あたり4セントの利益目標にむけて追い風を送ってくれます。世界全体でみた時の飲料に関する購買力は、ドルベースでみると150年間で少なくとも40倍にはなると思われます。逆に考えれば、1杯あたりの利益目標は、1884年の段階では4セントの40分の1、つまり0.1セントにすぎません。我々の新製品が幅広く受け入れられるものであれば、創業まもない段階でも容易に達成できる数字です。

Here is my solution, my pitch to Glotz, using only the helpful notions and what every bright college sophomore should know.

Well, Glotz, the big “no-brainer” decisions that, to simplify our problem, should be made first are as follows: First, we are never going to create something worth $2 trillion by selling some generic beverage. Therefore, we must make your name, “Coca-Cola,” into a strong, legally protected trademark. Second, we can get to $2 trillion only by starting in Atlanta, then succeeding in the rest of the United States, then rapidly succeeding with our new beverage all over the world. This will require developing a product having universal appeal because it harnesses powerful elemental forces. And the right place to find such powerful elemental forces is in the subject matter of elementary academic courses.

We will next use numerical fluency to ascertain what our target implies. We can guess reasonably that by 2034 there will be about eight billion beverage consumers in the world. On average, each of these consumers will be much more prosperous in real terms than the average consumer of 1884. Each consumer is composed mostly of water and must ingest about sixty-four ounces of water per day. This is eight, eight-ounce serving. Thus, if our new beverage, and other imitative beverages in our new market, can flavor and otherwise improve only twenty-five percent of ingested water worldwide, and we can occupy half of the new world market, we can sell 2.92 trillion eight-ounce serving in 2034. And if we can then net four cents per serving, we will earn $117 billion. This will be enough, if our business is still growing at a good rate, to make it easily worth $2trillion.

A big question, of course, is whether four cents per serving is a reasonable profit target for 2034. And the answer is yes if we can create a beverage with strong universal appeal. One hundred fifty years is a long time. The dollar, like the Roman drachma, will almost surely suffer monetary depreciation. Concurrently, real purchasing power of the average beverage consumer in the world will go way up. His proclivity to inexpensively improve his experience while ingesting water will go up considerably faster. Meanwhile, as technology improves, the cost of our simple product, in units of constant purchasing power, will go down. All four factors will work together in favor of our four-cents-per-serving profit target. Worldwide beverage-purchasing power in dollars will probably multiply by a factor of at least forty over 150 years. Thinking in reverse, this makes our profit-per-serving target, under 1884 conditions, a mere one fortieth of four cents or one tenth of a cent per serving. This is an easy-to-exceed target as we start out if our new product has universal appeal.

2013年1月25日金曜日

ウォルター・シュロス、再訪

昨年亡くなったウォルター・シュロス氏のパートナーシップの成績は以前にも取り上げましたが(過去記事)、2002年までのものがアップロードされていたのでご紹介します。

Walter Schloss Returns (Mr. Market Blog)

(このリンクは、いつもお世話になっている掲示板で取り上げられていたものです)

以下は、以前にとりあげたときのグラフを更新したものです。2000年から2002年にご注目ください。ITバブル後の下げ相場の時期です。


余談ですが、当時のわたしは株式投資を始めたころで、投資成績はS&P500と似たようなものでした。

2013年1月23日水曜日

一族のひとりに迎えたい人なのに(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによるハーヴァード・ウェストレイク高校での講話、その3です。前回から続いています。(日本語は拙訳)

いずれにせよ、こういったばかげた考えは学術界が考え出したことです。ただし工学や芸術や科学の分野からではなく、すべて社会科学の分野が生んだものです。経済学には芸術や科学を連想させる片鱗がみられることもありますが、私としては、その学問は社会科学の範疇に含めたいと考えます。

経済学の教科書で教えているグレシャムの法則は、「悪貨は良貨を駆逐する」というものです。しかし現代では悪貨を集めてもたいした額にはなりません。硬貨の素材には、溶解すれば高い価値のある貴金属は今では使われていないので、25セント硬貨を溶かすと10セント硬貨の価値とくらべてどうなるか、などと考える人はいないでしょう。グレシャムの法則は、現代社会を語る際の第一歩ではなくなったのです。悪貨は良貨を駆逐しますが、経済学的にみるとまぎれもなく重要なのは、新しい形のグレシャムの法則のほうです。それは貯蓄貸付組合の危機の際に、「悪しき貸出しは良き貸出しを駆逐する」という形で露呈しました、このモデルがいかに強力か、あらゆる人にふりかかった災厄を考えてみてください。たとえば小さな金融機関をやっていて、もはや信用を失った建設業者に対して融資しているとしましょう。普通の人がやるようなおろかなことには手を出しませんでしたが、あるとき某ペテ・ジョンソンのほうがバカなことをたくらみ[空手形を切られるの意]、これが大事となってしまい、愛するビジネスを縮小するはめになりました。経歴をかけて信頼してくれた人たちを解雇することにもなるでしょう。さもなければ、多額のおろかな貸出しをするかです。そのようなときにバークシャー・ハサウェイでは、縮小の道を選びました。ただし誰ひとり、首にはしませんでした、職場から出てゴルフにでも行くように伝えたのです。おろかな貸出しをしようとは全く考えていませんでした。しかしそのような選択をするのは、なかなか難しいことです。社会で指導的な立場にある人が、解雇される人の就職を手助けしたり、奥さんや子供さんと顔を合わせたりするわけですから。それゆえに、悪い貸出しは良い貸出しを駆逐してしまうのです。

悪い貸出しだけにとどまりません。悪しきモラルも良きモラルを駆逐します。大都市の下町で小切手を換金する事業を営んでいれば、100%以上の利益をあげるのは、契約面で相手をだます場合だけです。取引相手をだますつもりがなければ、それらの人はマイノリティーのことが多いですが、100%以上もの利益は得られないはずです。その事業が相続したものだったり、バカな義理の息子に経営を任せていたりすれば、他になにが起きているのか知らないでしょう。これが私が言うところの「大人の問題」で、ほとんどの人は「大人のやり方」で対応しています。つまり、ごまかしを黙認することを学ぶのです。しかし、充実した良き人生を謳歌したい人にとっては、このやりかたをとるべきではありません。これこそ、ある種のグレシャムの法則、新グレシャムの法則です。経済学の講義では教えていないので、ぜひ教えるべきです。この問題は真剣にとらえなければなりません。経済危機を引き起こした原因とも深くかかわっています。「この人だったら、婿や嫁として一族に迎えたい」、そう思えるような人たちでさえも、新グレシャムの法則の影響のもとで悔やみきれないようなことをしでかすからです。

At any rate, these ridiculous ideas came out of academia. This wasn’t true in engineering and arts and science by the way. The idiotic ideas are all from the social science department and I would put economics in the social sciences department although it has some tinges of reality that remind you of arts and science.

In economics textbooks they teach you Gresham’s Law: Bad money drives out good. But we don’t have any bad money that amounts to anything. We don’t have any coins that are worth a lot, that have precious metals that you can melt down. Nobody cares what the melt-down value of the quarter is in relationship to the dime, so Gresham’s Law is a non-starter in the modern world. Bad money drives out good. But the new form of Gresham’s Law is ungodly important. The new form of Gresham’s Law is brought into play - in economic thought, anyway - in the savings and loans crisis, when it was perfectly obvious that bad lending drives out good. Think of how powerful that model is. Think of the disaster that it creates for everybody. You sit there in your little institution. All of the builders [are not good credits anymore], and you are in the business of lending money to builders. Unless you do the same idiotic thing [as] Joe Blow is doing down the street. Pete Johnson up the street wants to do something a little dumber and the thing just goes to a mighty tide. You’ve got to shrink the business that you love and maybe lay off the employees who have trusted you their careers and so forth or [make] a lot of dumb loans. At Berkshire Hathaway we try and let the place shrink. We never fire anybody, we tell them to go out and play golf. We sure as hell don’t want to make any dumb loans. But that is very hard to do if you sit in a leadership position in society with people you helped recruit, you meet their wives and children and so forth. The bad loans drive out the good.

It isn’t just bad loans. Bad morals drive out the good. If you want to run a check-cashing agency in [a] downtown big city, more than 100 percent of all the profit you could possibly earn can only be earned by flim-flamming people on the finance contracts. So if you aren’t willing to cheat people - basically minorities - more than 100 percent of the profit can’t be earned. Well, if you inherited the business or your idiot son-in-law is in it, you don’t know what else to do. This is what I would call an adult problem and most people solve it in the adult fashion: They learn to tolerate the cheating. But that is not the right answer to people who want to live a larger and better life. But it is a form of Greshem’s Law, the new Gresham’s Law. One that is not taught in economics courses and should be. It is a really serious problem and, of course, it relates deeply to what happened to create the economic crisis. All kinds of people who you would be glad to have marry into your family compared to what you are otherwise going to get did things that were very regrettable under these pressures from the new Gresham’s Law.

2013年1月20日日曜日

水に沈めたビーチボール(ドナルド・ヤクトマン)

少し前ですが、ファンド・マネージャーのドナルド・ヤクトマンの記事がForbesに掲載されていました。一部をご紹介します。(日本語は拙訳)

Best Ideas 2013: Yacktman Favors Cash Cows Like P&G And Contrarian Picks Too (Forbes 2012/11/26)

不振の年でもそうだったように、ヤクトマンはこれからも自分の立てた計画を固守していくとみるべきだろう。彼のファンドがあげた今年の成績は、ヤクトマン・ファンドが9.3%、ヤクトマン・フォーカス・ファンドが8.6%の上昇にとどまった。一方、市場は14.3%上昇し、同業者の9割がたはヤクトマンの成績を上回った。このことを彼は案じていないが、それもそうだろう。自分自身の成績だけでなく、買いを検討した銘柄の成績をふりかえる際には、10年単位でながめるようにしているからだ。

「ほとんどの人はじっと辛抱していられないようですな。これも最近の投資ビジネスにおける課題のひとつですよ」。つづけて彼は言った。「平均的にみれば、市場は1年の間に安値から高値まで50%変動しています。そのうえ、取引手数料がどんどん安くなっている。こういうことが投機をうながす原因になっていると思いますね」

ヤクトマンが探すのはROAの高い企業だ。そのようなビジネスは多くの資産を必要としないし、マーケットシェアが大きく、市場がどうであれそのままやっていける力がある。ヤクトマンが選ぶのは、煌々と輝いていても早々に弱まり得る星ではなく、予想のしやすいビジネスのほうだろう。「短期的にみればアップルを選好する人が大当たりを引けるかもしれません。しかし10年経ってわたしの携帯電話がどうなっているかは、なんとも予想がつきません」

「ところが10年後でもアメリカで買われている洗剤は、Tideがほとんどでしょう。これは870億ドルの売上をあげているP&Gの製品のひとつです。同社は他にもおむつのパンパースやペットフードのアイムスのような日用品を扱っているコングロマリットです。この会社なら買いですね」とヤクトマンは言う。「さらに言えば、P&Gは莫大な現金を還元してきましたが、まだ44億ドルの現金を有しています。これはP&Gがビジネスに再投資したり、株を買い戻したり、あるいは配当として払うこともできる証しです」。

[配当]利回りは、ヤクトマンが銘柄を選択する際の主要な要因だ。たとえばP&Gは3.3%だが、ベンチマークである10年物米国債のほぼ2倍に達している。「現在は、ペプシコやP&GがトリプルAの債券と同等の位置にある状況です。そんな時分に、本物のトリプルAやダブルAの債券を買っても、十分には報われないでしょう」。このように利回りに着目はするものの、不動産や工業、公共株には注意を払わない。1.76ドルの年間配当があったことで今年は人気を博したAT&Tのことを質問すると、ヤクトマンは異議を唱えた。「多額の固定資産を必要とするビジネスには魅了されません」。

もちろん、ヤクトマンがもっとも楽しんでおり、かつ秀でているのは、あまりある上昇の可能性を秘めているが人気のない株をすくいあげることだ。たとえばエイボン、CHロビンソン、ヒューレット・パッカードやリサーチ・イン・モーションといった逆張り銘柄にも投資してきた。「水中に沈めたビーチボールのような、そんな理想的なビジネスをさがし当てたいのです。水面が上昇しつづけても、そこはじっと我慢の子です。おさえている時間が長いほど、圧力がとれたときのはね返りも大きくなりますからね」。

Going forward, investors should expect Yacktman to stick to his plan, as well as some mediocre years. Like this one. The Yacktman Fund this year is up only 9.3%, and Yacktman Focused has gained 8.6%. By contrast, the broader market is up 14.3%. Some 90% of peers are beating Yacktman. Understandably, he's not worried. He prefers a 10-year horizon when assessing performance - both when looking at his own and when considering whether to buy a stock.

"Most people just aren't that patient. That's one of the challenges in the investment business today," he says. "The average stock market fluctuates about 50% from low to high in 12 months, and lower and lower transaction costs encourage speculation."

Yacktman looks for stocks with high returns on assets. This means businesses with low capital requirements, large market share and an ability to keep up in any market. So, Yacktman will opt for a more predictable business than a bright star that might fade soon. "In the short term, someone like Apple can shoot the lights out, but I can't tell you in 10 years what my cell phone will look like."

A decade from now, though, Yacktman says, most of America will probably still buying Tide detergent. That makes Procter & Gamble, the $87 billion (by sales) conglomerate with pantry staples like Pampers diapers and Iams pet chow, a buy, Yacktman says. Plus, P&G throws off enormous amounts of cash and has $4.4 billion in cash on the balance sheet, a sign P&G can reinvest in its businesses and also share by buying stock or paying dividends.

Yield is a major factor in Yacktman's picks. P&G pays 3.3%, for example, nearly double what the benchmark 10-year U.S. treasury yields. "We are in an environment where PepsiCo and Procter are like AAA bonds, and the world is not rewarding you enough to go to actual AAA or AA bonds." Even with this focus on yield, little attention goes toward real estate, industrials or utilities. And when asked about AT&T, a popular stock this year because of a $1.76 annual dividend, Yacktman demurred. "We're not enamored with a business that has enormous amounts of fixed capital."

Of course, what Yacktman enjoys - and excels - most at is scooping up unloved stocks, ones offering plentiful upside potential. This has included some contrarian choices of Avon and CH Robinson, as well as Hewlett-Packard and Research In Motion. "What we try to do is to find the ideal business, which is like a beachball being pushed under the water, and the water is rising. Then, all you have to do is have patience. Eventually the pressure will come off, but the longer it takes, the bigger the pop when it finally does happen."

ヤクトマン・フォーカス・ファンドの持ち株上位10社は、以下のとおりです(2012年12月31日時点)。P&Gはポートフォリオの10%超を占めています。

2013年1月18日金曜日

コカ・コーラ、私の心に響いた名前(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの講話『実用的な考え方を実際に考えてみると?』の第2回目です。前回分はこちらになります。(日本語は拙訳)

それでは、実際的な問題について具体的に説明しましょう。

アトランタは1884年のこと。あなたは20名ばかりの似たような人たちとともに、アトランタの一市民であるグロッツ氏の前に連れられてきました。裕福ながらも変わり者で知られたグロッツさんには、あなたと共通する点が2つありました。ひとつめは、5つの有用なるアイデアをふだんから使いこなして問題を解決していること。もうひとつは、[この講話が行われた]1996年時点に大学の全教養科目で教えられているあらゆる基礎的な概念を知っていることです。ただし、それらの基礎的概念を発見した人や具体的な事例は、いずれも1884年以前のものであり、それよりあとのことは二人とも何も知らないことになります。

さて、そのグロッツさんが次のような提案をしてきました。2百万ドル(1884年当時の金額)の資金を投資したいと考えている。株式の半分は私の慈善基金の財団で所有させてもらうが、アルコール以外の飲料事業を営む会社をつくってほしい。その事業一本で永久にやっていくつもりだ。会社の名前は「コカ・コーラ」としてほしい。どういうわけか、この名前を気にいってしまったのだ。

みなさんには自分の事業計画を説明してもらいたい。150年後の2034年になったときに、私の財団の持ち分がそのときの金額で1兆ドル以上になることをいちばんうまく説得してくれた人には、新会社の残り半分の株式を進呈しよう。ただし条件がひとつある。利益の大部分は配当として毎年支払うこと。つまり、何十億ドルもの配当を出したあとでも、新会社全体の価値が2兆ドルに達していなければならない。

さあ、あなたの出番まで15分間あります。自説を披露してグロッツさんを説得するには、どうすればよいでしょうか。

It is now time to present my practical problem. And here is the problem:

It is 1884 in Atlanta. You are brought, along with twenty others like you, before a rich and eccentric Atlanta citizen named Glotz. Both you and Glotz share two characteristics: First, you routinely use in problem solving the five helpful notions, and, second, you know all the elementary ideas in all the basic college courses, as taught in 1996. however, all discoverers and all examples demonstrating these elementary ideas come from dates before 1884. Neither you nor Glotz knows anything about anything that has happened after 1884.

Glotz offers to invest two million 1884 dollars, yet take only half the equity, for a Glotz Charitable Foundation, in a new corporation organized to go into the non-alcoholic beverage business and remain in that business only, forever. Glotz wants to use a name that has somehow charmed him: Coca-Cola.

The other half of the new corporation's equity will go to the man who most plausibly demonstrates that his business plan will cause Glotz's foundation to be more a trillion dollars 150 years later, in the money of that later time, 2034, despite paying out a large part of its earnings each year as a dividend. This will make the whole new corporation worth $2 trillion, even after paying out many billions of dollars in dividends.

You have fifteen minutes to make your pitch. What do you say to Glotz?

2013年1月16日水曜日

進んでお縄にかかる者(ハワード・マークス)

Oaktreeの会長ハワード・マークスが新しいメモDittoを公開していました。今回の話題は強気と弱気のサイクルについてです。これは他でもよくみかける話題ですが、彼の文章は地に足がついているだけでなく、読ませる構成になっています。今回はその中から、投資家が現状のリスクをどのようにとらえているか描写した箇所を引用します。(日本語は拙訳)

「投資家が自信に満ちているときはリスクが大きく、おびえているときはリスクが小さい」。ここまでの8ページはまぎれもなく、このことをわかってもらいたいがために書いたものです。今日の状況は言うまでもないでしょう。遅々として進まない景気回復や不均衡なままの財政、機能不全となったアメリカの政治情勢、それ以下のヨーロッパ、成長できない日本、中国の減速、新興国市場における派生的な問題、そして地政学的な緊張状態と、不確実な要素があることを投資家はよく認識しています。リスクに対して無知だったことがグローバル危機を招いた主犯だったと私は確信していますが、リスクのことをわかっているかという点では、今日の状況は心配無用でありましょう。

投資家が慎重な姿勢をとるのであれば、良ききざしとみるべきです。というのは、普通の状況であれば彼ら自身が資産価格を魅力的な水準まで引き下げると予想されるからです。しかし今日の状況には問題があります。強気に考えている人はほとんどいないにもかかわらず、多くの人が強気な行動をとっています。そのようにリスクをとっていれば、たとえリスクを望むと考えていなくても、市場に対しておきまりの悪い影響を及ぼすことでしょう。ここ数ヶ月の間、私はこの矛盾についてますます考えるようになりました、これこそ、投資家が現時点で対処すべきもっとも重要なことだと思います。

では、考えていることと行動していることが矛盾しているのは、一体なにゆえでしょうか。単純なことです、買いたいから買っているのではなく、買わねばならないと感じているから買っているのです。過去に同じことがあった際に、私はこう表現しました。「進んでお縄にかかる者」と。

Arguably the eight pages of this memo leading up to this point are there for the sole purpose of establishing that when investors are sanguine risk is high, and when investors are afraid risk is low. Today there's no question about it: investors are highly aware of the uncertainties attaching to the sluggish recovery, fiscal imbalance and political dysfunction in the U.S.; the same or worse in Europe; lack of growth in Japan; slowdown in China; resulting problems in the emerging markets; and geopolitical tensions. If the global crisis was largely the product of obliviousness to risk - as I'm sure it was - it's reassuring that there is little risk obliviousness today.

Sober attitudes on the part of investors should be a source of comfort, since in normal times we would expect them to bring down asset prices to the point where they're attractive. The problem, however, is that while few people are thinking bullish today, many are acting bullish. Their pro-risk behavior is having its normal dangerous impact on the markets, even in the absence of pro-risk thinking. I've become increasingly conscious of this inconsistency in recent months, and I think it is the most important issue that today's investors have to confront.

What's the reason for this seeming inconsistency between thoughts and actions? The answer is simple. These people aren't buying because they want to, but because the feel they have to. In the past I've referred to them as "handcuff volunteers."

2013年1月14日月曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(任天堂)

前回に続いて2件目の企業です。

■任天堂(6157) (当社Webサイト)

<当社の概要>
事業内容は説明するには及びませんので、ここでは事業の現状を自分なりに概括します。

前期(2011年度)は450億円の損失を出しました。新型据置機Wii U発売発表にともなうWiiの失速と、新型携帯機3DSのマーケティング上の失策(価格設定および当初のソフト展開)が重なった結果ですが、大幅値下げを敢行したため、片肺どころか片方のエンジンが逆噴射したともいえる状況でした。

今期(2012年度)ですが、3DSはマスマーケット向けソフト「どうぶつの森」シリーズ新作を日本で発売したことで、国内市場ではハードの普及が軌道にのりました。一方、Wii Uはこの年末から販売を開始しました。先代のWiiには水をあけられていますが、一般的な水準からみれば、そこそこの出だしです。全体的にみれば、業績回復に向けて評価できる一歩を踏み出しています。

来期(2013年度)の目標としては、次の2点が予想されます。第一に、日本以外の市場における3DSの浸透です。もうひとつのマス向けソフト「ポケモン」シリーズ新作を10月に発売すると先日発表しており、今年にかける意気込みを感じさせます。第二に、Wii Uの主戦場である北米において、コアゲーマーへの普及を拡大させ、サードパーティーの参入意欲を維持向上させることです。これは当社の戦略にしたがうもので、次の展示会E3にむけて何らかの策を準備していると思われます。決算説明会で岩田社長が「お金の使い方」について述べていたコメントが思い返されます(過去記事)。

<投資に至った理由>
当社の中長期的な成長性が見通せたわけではなく、単に株価とくらべて企業価値が割安に思えたことが理由です。時価総額1兆2,800億円(株価10,000円)に対して、前期末(2012/3)の負債控除後の純現金有価証券9,000億円弱(一株当たり7,000円弱)を比べると、割安にみえました。およそ4,000億円で当社を買えることになるからです。このような、資産面から値踏みするやりかたはバリュー・トラップにおちいる可能性を秘めていますが、それなりに業績が回復することを前提にしています。確率的に大きくないとみますが、今後2年間ぐらいで一定の業績回復が果たせなければ、資金をひきあげるつもりです。なお長期保有(10年超)の対象としては、評価するのがむずかしい企業と感じています。

売上成長の手段や機会としては、少なくとも次の3点は期待できるとみています。
・市場の拡大(新興国)
・新たなIP(ソフトの新シリーズ)の創出
・インフレに追随した値上げや、競合動向を見据えた上での価格設定

Wiiが登場した2007年3月期以降の累積でみると、純利益合計が約1兆円に対して配当合計が約6,000億円と、利益の過半は株主に還元されています。一方、貸借対照表では土地建物等の有形固定資産や繰延税金資産(純額)が1,000億円ほど増加しています。差額分の資産がどうなったかは、追いきれませんでした。この期間にドルが120円から90円に下がっていますので、外貨建資産の評価減が大きいかもしれません。 このように、少なくともWii時代をみると、得られた利益は株主に還元されたり、目減りした外貨建資産となり、大規模な再投資には回っていません。買収をしてのれんを大きく増やすようなことはしておらず、財務は健全なままですが、投資家として当社を評価する際には、利益の推移が事業の成長とどうかかわるのか、見誤らないように注意する必要を感じます。なお従業員数は、連結ベースで50%増となっています。

<リスク>

・Wii Uの失敗
3,4年先を考慮すれば新型機Wii Uはそこそこ普及していることを期待していますが、Wiiに迫るのは難しいと想像します。あたかも、当社のイノベーションと消費者が製品を受け入れる心情には長期的な共振サイクルがあるかのようです。波に乗っていないと感じる例としては、たとえばWii Uの特徴であるタブレット型コントローラーはiPadなどを連想させて一見わかりやすい面がありますが、逆にiPadを持っているので十分だと思われてしまう位置づけにあることも、そのひとつです。

ただしこの件は、事業上というよりも投資家が企業価値を判断する際のリスクかもしれません。長期的な事業継続を考えるならば、短期的な大成功を追うよりも、たとえばコアゲーマーを取り込んで当社顧客層の厚みを増すといった地道な積み重ねのほうが、正しい道筋かもしれないからです。

・ゲームソフトに対する価格意識の下方方向への変化
岩田社長が指摘したように(岩田聡GDC講演内容の7-8ページ目)、スマートフォンやタブレット端末では無料や安価なゲームをオンラインで気軽に入手できるので、既存ゲームに対する消費者の価格意識が変化するのではと危惧するものです。思い浮かべやすい例としては、100円ショップが登場したことで、日用品に対する品質意識が後退した事例があげられます。

この件は致命傷には至らないのでは、と予想しています。当社製品の主要ユーザーである子供にとっては、テレビゲームはクリスマスのプレゼントやお年玉の使い道として認知されています。それゆえ、「安くない値段とそれを裏付ける品質」にはそれなりの対価を払う価値があるとみなされ、値崩れしにくい傾向が今後も続くものと考えるからです。

・競合他社の拡大
汎用モバイル機器やネットワーク技術の進展によって、ハードの優位性やサービスの独自性が打ち出しにくくなってきました。差別化しようとしても無駄な努力におわるだけでなく、自社の得意な領域から逸れやすくなるリスクがあります。当社は求心力を持続できる企業のほうですが、たとえば業績が思うように回復しない時期に脱線する可能性は否定できません。なお、この件について逆からみると、ハードウェアコストの低下を見込める可能性があります。

・優れた経営者への依存
当社の事業は明らかに水商売的な性格が強いものですが、その反面、たくさんの消費者に認知されている知的消耗品を取り扱うことで、強力な支持を集めています。この競争優位性を表現すれば「強いが脆い」といったところで、経営者の手綱さばきにも細心の注意が求められます。当社は先代の山内氏、現任の岩田氏と、能力の高い経営者のもとで成功をおさめてきました。またゲームクリエイターの「神様」宮本専務も非常に大きな役割を果たしています。このような稀少な人材が次世代にも維持されるかどうかは、顕在化する可能性の大きいリスク要因とみています。

<売買記録>
2012年の5月と7月に買い、平均購入単価は8,930円です。現在の株価は9,070円ですが、その前日には8,590円でした。市場の見方は、まだ懐疑的なようです。

2013年1月11日金曜日

企業戦略を成功に導くには(ルイス・ガースナー)

いまさらですが、IBM再生の立役者ルイス・ガースナーの自伝『巨象も踊る』を読んでいます。少し前の投稿で、低迷した企業が復活できる例をウォーレン・バフェットが挙げていますが、当社の場合は「ど真ん中」の本業が苦しんだことから、ウォーレンの事例とは異なる部類だと捉えています。

経営者に関する本はたまに手に取りますが、かざらない文章にひきこまれました。本書には印象に残る文章がいろいろありますが、「こういうのを待っていた」ともっとも感じたものを、今回はご紹介します。世の経営者に対してだけでなく、自分自身の日常を叱咤するようにも聞こえました。

実行能力、つまり物事をやりとげ、実現する能力は、すぐれた経営者の能力のなかで、もっとも評価されていない部分だ。わたしは経営コンサルタントだったころ、数多くの企業の数多くの戦略の策定に加わった。ここで、経営コンサルタント業界の小さな暗い秘密をお教えしよう。ある企業のために独自の戦略を策定するのは極端にむずかしいし、業界の他社の動きとはまったく違う戦略を策定した場合、それはおそらくきわめてリスクの高いものなのだ。その理由はこうだ。どの業界も経済モデル、顧客が表明する期待、競争構造によって枠組みが決まっており、これらの要因は周知のことだし、短期間に変えることはできない。

したがって、独自の戦略を開発するのはきわめてむずかしいし、開発できたとしても、それを他社に真似されないようにするのはさらにむずかしい。たしかに、コスト構造や特許で、他社の追随を許さない強みをもつ企業がないわけではない。ブランド力も競争上の強力な武器になり、競合他社はこの面で業界のリーダーに追いつこうと必死になっている。しかし、これらの優位が他社にとって永遠に越えられない壁になることはめったにない。

結局のところ、どの競争相手も基本的におなじ武器で戦っていることが多い。ほとんどの業界で、業績向上の原動力になる要因、成功をもたらす要因を5つから6つ指摘できる。たとえば、小売り業界でマーチャンダイジング、ブランド・イメージ、不動産コストが決定的な要因であることはだれでも知っている。この業界で成功するための新たな道筋を見つけ出すのは、不可能ではないまでも、きわめてむずかしい。ドット・コム小売り企業の華々しい失敗は、業界の基礎的要因を棚上げにできないことを示す好例である。

したがって実行こそが、成功に導く戦略のなかで決定的な部分なのだ。やり遂げること、正しくやりとげること、競争相手よりうまくやりとげることが、将来の新しいビジョンを夢想するより、はるかに重要である。

世界の偉大な企業はいずれも、日々の実行で競争相手に差をつけている。市場で、工場で、物流で、在庫管理で、その他もろもろのすべての点で差をつけている。偉大な企業が競争相手との激闘を避けられるほど、真似のできない強みをもっているケースはめったにない。(p.302)


もうひとつ、こちらはおまけです。RJRナビスコの経営者だったルーがIBMに移ることが決まって、勤務前に同社の会議に出席したときの追憶です。

大きな会議室に案内されて、本社経営会議に出席した。本社の経営幹部が50人ほど集まっていた。女性が何を着ていたかは覚えていないが、会議に出席していた男性が全員、白いシャツを着ていたのが印象的だった。例外がひとりいた。わたしだけ、ブルーのシャツを着ていた。IBMの経営幹部としては、常識を大きく逸脱する服装だったのだ。(何週間か経って、同じ会議があった。わたしだけが白いシャツで、他の全員が色物のシャツだった)。(p.39)

2013年1月9日水曜日

一文で済ませていいのですか(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによるハーヴァード・ウェストレイク高校での講話、その2です。前回から続く文章です。(日本語は拙訳)

経済学に端を発したこれらの概念は企業財務の世界へと進み、資本資産価格モデルをつくりあげました。これまた、たわごとに過ぎないものです。しかし我々の子供の代ではみんな教わってますし、ロースクールでもとりあげています。たとえ理解していない人でも、仏教のマントラのように繰り返せたものです。これを覚えて試験の時にそのまま反復できた人には、Aなどの成績が与えられました。ご察しのとおり、こういう人たちが社会に出ると、良識や思慮ある考え方を脅かすものです。しかし、ハーヴァード大学などでこの件に関わっている人は、誰もそんなことを気にかけたりしませんでした。頭のいい人たちがそのようなひどく馬鹿げたことをするのは何ゆえと思いますか。

無理やりひねりだすことはありません。生きていれば、そういった重要な教訓を含んだ非常識な事例が度々とびだしてきて、驚かせてくれるものですから。ポール・サミュエルソンと共に取り組んでいたのも、ものすごく頭のいい人たちですよ。アラン・グリーンスパンも、ポール・サミュエルソンほどではないですが、ずば抜けていました。その後、彼らは他のアイデアもいろいろ考えだして経済学の世界に広めました。しかし良いアイデアだったものの、概して言えば十分な影響は及ぼしませんでした。15年ほど前の私はそういったアイデアを知らなかったため、経済学の入門レベルの教科書で有名なものを3冊通読しました。経済学の単位はひとつも履修したことがなかったのです。サミュエルソンの本の後継たる、かの有名なグレゴリー・マンキューの本では「賢明な人は機会費用によって意思決定する」と20ページ目に書かれています。しかし1000ページにわたる中で機会費用に触れられているのは、これっきりでした。ここで是が非でも申し上げておきたいのですが、いろいろ取り上げられている他のたわごとと比べたら、機会費用という考えには一文では済まされないほどの価値があると思います。

バークシャー・ハサウェイでは常々[音声不明瞭]考えがでてきても、2秒ちょうどで足蹴にしてきました。すでに手にしている機会のほうが新たにきたものより良いとわかっていたら、新しいほうを検討するのに2秒も費やしたいと思いますか。ここにいるみなさんは、そんなことはしないところから来られた方ばかりと承知しています。馬とうさぎと何かもうひとつ手に入れたら、あとはうさぎが手持ちの機会費用をくらべてどれを即座に除外したらよいか考えてくれるでしょう。しかし、責任範囲の違うところが考えることですから、分散しておいてもらう等が必要です。機会などどうでもいいと考えるのは楽ですが、ひとつに限るのではなく、よりよい結果を得るための異なる手段をいくつもさがすことが大切です。

現実の生活において正しく意思決定する方法は、機会費用に基づいて行うことです。結婚しようとするならば、かなうかぎりの最善の配偶者をむかえるべきです。人生の他のことについてもまったく同じです。実りある人生をおくりたいならばそれらを見極めなければなりませんし、そうしたくなければ、よき成果を得ないように努めねばなりません。売込み上手な人ならば、うまく手にいれられるでしょう。

Then these ideas from economics drifted into corporate finance, and they got the capital asset pricing model -- also pure drivel. They taught it to all of our children and the law schools picked it up. They didn't understand it, but they could repeat it like a mantra from Buddhism, and people would learn it and regurgitate it on the examinations and they'd get As and so forth. Of course, they got out into the real world and they were menaces to decency and sound thinking. That didn't bother the people at Harvard [University] or any of the people that were doing it. And you say, how can smart people do such immensely dumb things?

You don't have to make this stuff up. Life will constantly surprise you with these ridiculous examples which teach important lessons. These are seriously smart people who took up with Paul Samuelson. Alan Greenspan is a seriously smart person although not as smart as Paul Samuelson. Then they got other ideas and these spread, and the good ideas that are buried in economics by and large weren't emphasized enough. I don't know, 15 years ago or so, I rifled through the three leading textbooks in introductory economics - I'd never taken a course in the subject - and I read through them. About the 20th page of Mankiw's famous book, which succeeded Samuelson's famous book, the guy says smart people make their decisions based on opportunity costs. Well, that was the last time opportunity cost was discussed in 1,000 pages. I want to tell you that compared to the other drivel that was discussed, opportunity cost deserves more than one sentence.

Berkshire Hathaway is constantly kicking off ideas [audio unintelligible] in about two seconds flat. We know we've got opportunity X, which is better than the new opportunity. Why do we want to waste two seconds thinking about the new opportunity? Many of you come from places that don't do that. You've got to have one horse, one rabbit, one something or rather, and that rabbit is going to be thinking about something which would be ruled out immediately by an opportunity cost available generally to the place ? but, it's a different department. You have to be diversified and so on and so on. It's easy to drift into this idea that opportunities don't matter, you've got so many different ways of doing things that are better. It isn't better.

The right way to make decisions in practical life is based on your opportunity cost. When you get married, you have to choose the best [spouse] you can find that will have you. The rest of life is the same damn way. You have to figure these things out if you want good results in life, and if you don't, well, you have to pretend that you can get good results in life. If you have enough sales ability, maybe you can get by with it.


文中にでてくるマンキューの本とは『マンキュー経済学』と思われます。日本版はミクロ編とマクロ編の二分冊になっていますが、機会費用は基本原理のひとつとして紹介されているため、どちらにも同じ文章が載せられています。ミクロ編ではp.7に第2原理として書かれています。

「あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である」


なおチャーリーが読んだものが第何版なのか不明ですが、日本版の第2版ではミクロ編p.76にも比較優位の話題とともに機会費用が登場しています。

2013年1月7日月曜日

ピュグマリオンとなりたい(ウォーレン・バフェット)

個人的な話ですが、市場全体が上昇傾向のときには、株価が低迷していたり大きく下落している銘柄ばかり気になる傾向があります。今年の自戒の意味も込めて、今回はウォーレン・バフェットの1980年度「株主へのみなさんへ」から「再起を図る企業」の話題を引用します。おなじみの文章が登場していますし、少し前に取り上げたチャーリー・マンガーの文章とも重なっています(過去記事)。(日本語は拙訳)

わたしどもは過去の報告書で、再起をかけたビジネスを買収して経営しても、たいていは残念な結果に終わることを記してきました。幾多の産業に文字どおり何百もの再起をはかる案件があるとは、以前から申し上げてきたとおりです。そのような案件に参画したり傍観してきましたが、得られた成果は期待にこたえるものではありませんでした。結局のところ、すばらしい才能で評判を博している経営者が、根本的な経済性がよろしくないと知れているビジネスに取り組んでも、ごくわずかの例外を除けば評判が変わらないのはビジネスのほうだ、と考えるに至りました。

1976年に破産の背戸際から再起したことを鑑みれば、GEICO(ガイコ)社は例外のひとつに挙げられるかと思います。たしかに同社を蘇生させるには、すぐれた経営手腕が欠かせませんでした。その年に加わったジャック・バーンによって、やるべき仕事が数多くなされています。

しかし、GEICOが享受してきた事業自体の持つ本質的な優位性、すなわち同社が驚嘆すべき成功をおさめてきた理由そのものは、財務や経営上の問題の海に沈みながらも、いまだ変わらずに会社の中に残されていました。GEICOは、広大な自動車保険の市場において低コストで営業できるしくみになっていました。一方、他の大半の企業では環境に順応しようとしても、マーケティング上の構造自体が足をひっぱっていたのです。GEICOは持ち前の力を発揮することで、顧客に対して通常ならぬ価値を提供できました。同時に、会社としても通常ならぬ利益をあげることができました。同社では何十年にもわたって、このようにやってきたのです。70年代中盤にトラブルに陥ったのは、この根本的な経済的特性が縮小したり消失したせいではありませんでした。

この問題によって当時のGEICOは、あたかもアメリカン・エキスプレスが1964年のサラダ・オイルの不祥事の後に陥ったような状況をむかえました。両社とも財務面で大穴を開けてしまったことで、当惑させられる類いの企業とみられていたのです。しかし、会社に内在されている卓越した経済性はなくなっていませんでした。抜きんでたフランチャイズを有する事業に部分切除可能な腫瘍が付いている、GEICOとアメリカン・エキスプレスの状況とはそういうものだったのです。手練れの外科医を必要としていたのはたしかですが、経営陣が企業版ピュグマリオンとして成就するのを希求しているような真の「再起」案件とは、区別すべきものでした。

We have written in past reports about the disappointments that usually result from purchase and operation of "turnaround" businesses. Literally hundreds of turnaround possibilities in dozens of industries have been described to us over the years and, either as participants or as observers, we have tracked performance against expectations. Our conclusion is that, with few exceptions, when a management with a reputation for brilliance tackles a business with a reputation for poor fundamental economics, it is the reputation of the business that remains intact.

GEICO may appear to be an exception, having been turned around from the very edge of bankruptcy in 1976. It certainly is true that managerial brilliance was needed for its resuscitation, and that Jack Byrne, upon arrival in that year, supplied that ingredient in abundance.

But it also is true that the fundamental business advantage that GEICO had enjoyed ‐ an advantage that previously had produced staggering success ‐ was still intact within the company, although submerged in a sea of financial and operating troubles. GEICO was designed to be the low‐cost operation in an enormous marketplace (auto insurance) populated largely by companies whose marketing structures restricted adaptation. Run as designed, it could offer unusual value to its customers while earning unusual returns for itself. For decades it had been run in just this manner. Its troubles in the mid‐70s were not produced by any diminution or disappearance of this essential economic advantage.

GEICO's problems at that time put it in a position analogous to that of American Express in 1964 following the salad oil scandal. Both were one-of-a-kind companies, temporarily reeling from the effects of a fiscal blow that did not destroy their exceptional underlying economics. The GEICO and American Express situations, extraordinary business franchises with a localized excisable cancer (needing, to be sure, a skilled surgeon), should be distinguished from the true "turnaround" situation in which the managers expect - and need - to pull off a corporate Pygmalion.

2013年1月5日土曜日

これを聞いただけでもダボスに来た甲斐があった(ダニエル・カーネマン)

心理学者ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』からもうひとつだけ、今回は下巻から引用します(前回の引用はこちら)。自信過剰を抑える工夫の一例です。

自信過剰からくる楽観主義をトレーニングによって克服できるだろうか。この点に関して、私は楽観的にはなれない。自分の判断の不正確さを考慮して数字を見積もる訓練などが行われているが、さしたる効果は上がっていない。

よく挙げられる例に、ロイヤルダッチ・シェル社の地質調査技師のケースがある。すでに結果の判明している過去の探査例を学習させたところ、技師たちは自分の判断に過剰な自信を抱かなくなったという。このほか、裁判官に対立する仮説も考慮するよう指導した結果、自信過剰がいくらか抑えられた(しかしなくなったわけではない)という報告もある。だが、自信過剰はシステム1の本来的な性質に由来するのであり、いくらか手なずけることはできても、完全に支配することはできない。問題なのは、判断の裏付けとなる情報の質や量がどうあれ、自分がこしらえ上げたストーリーが首尾一貫していさえすれば、主観的な自信が形成されることである。

組織であれば、楽観主義をうまく抑えられるかもしれない。また個人の集団よりは一人の個人のほうが抑えやすいだろう。そのために一番よいと考えられるのは、私の「敵対的な共同研究者」ゲーリー・クラインが考え出した方法である。やり方は簡単で、何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に公表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、「いまが1年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、5-10分でその経過を簡単にまとめてください」と頼む。クラインはこの方法を「死亡前死因分析(premortem)」と名付けている。

クラインのこのアイデアには、たいていの人が感嘆する。ダボス会議の場で私がこれを話題にしたところ、後ろにいた誰かが「これを聞いただけでもダボスに来た甲斐があった」と呟いたものである(あとになって、その人は国際的な大企業のCEOであることがわかった)。死亡前死因分析には、大きなメリットが2つある。一つは、決定の方向性がはっきりしてくると多くのチームは集団志向に陥りがちになるが、それを克服できることである。もう一つは、事情をよく知っている人の想像力を望ましい方向に解放できることである。

チームがある決定に収束するにつれ、その方向性に対する疑念は次第に表明しにくくなり、しまいにはチームやリーダーに対する忠誠心の欠如とみなされるようになる。とりわけリーダーが、無思慮に自分の意向を明らかにした場合がそうだ。こうして懐疑的な見方が排除されると、集団内に自信過剰が生まれ、その決定の支持者だけが声高に意見を言うようになる。死亡前死因分析のよいところは、懐疑的な見方に正統性を与えることだ。さらに、その決定の支持者にも、それまで見落としていた要因がありうると考えさせる効果がある。死亡前死因分析は万能薬ではないし、予想外の不快な事態を完全に防げるわけでもない。だが少なくとも、「見たものがすべて」という思い込みと無批判の楽観主義というバイアスのかかった計画から、いくらかは損害を減らす役に立つことだろう。(p.52)


以前とり上げた『Seeking Wisdom』のフィルター6でも、同様のアイデアが使われています(過去記事)。

2013年1月4日金曜日

実用的な考え方を実際に考えてみると?(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの伝記『投資参謀マンガー』を読んだのは10年ぐらい前のことです。当時は節約生活にも慣れてきて、この本を読むために隣町の図書館まで自転車をこいで行ったものです。チャーリーのことは「ウォーレン・バフェットの右腕」ぐらいとしか知らなかったのですが、「実はすごい人」らしき文章をどこかで読み、この本にも目を通しておきたいと考えました。急いでページを繰ったので図書館で読み終えましたが、帰宅の時刻が迫ってきたころに読んだ文章が、チャーリーの講演"Practical Thought About Practical Thought?"の翻訳でした。これはコカ・コーラ社をモデルにして、巨大企業を一から作り上げるにはどうしたらよいか思考実験したものです。読了直後には文章の価値をまったく理解できず、「チャーリー・マンガーとは、こじつけめいた話をする人なんだな」と感じました。

それから10年たちました。理解はとぼとぼ、実践はまだまだ、の調子ですが、この文章は自分なりに翻訳してみたいと想いつづけてきました。今回が第1回目のこのシリーズでは、"Practical Thought About Practical Thought?"を何回かにわけて翻訳します。参考にすべき同書が手元にないので誤訳や珍訳が続出するかと思いますが、ご勘弁ください。

実用的な考え方を実際に考えてみると?
非公式な講話 1996年7月20日

Practical Thought About Practical Thought?
An Informal Talk, July 20, 1996

今回お話しする話題は「実用的な考え方を実際に考えてみるとどうなるか?」、そうです、疑問文としています。私はこれまでずっと経験を積んできた中で、すごく単純ながら問題解決に役に立つ普遍的なアイデアをいろいろと習得してきました。今日はまず、そのうちの5つをお話しして、そのあとにスケールの大きな課題をとりあげます。あらかじめ話しておきますと、この課題は2百万ドルの元手を2兆ドルに増やそうとするものです。実際になしとげようとする成果としては、十分なものでしょう。この課題に取り組む上で、先に話す有用なる普遍的アイデアを使っていきます。この話題では、ものごとを考える方法としてどのようなものが優れているのか探っていきますが、今日の狙いは教育的なことにあるので、この事例に含まれている重要な教訓を最後に示し、話をしめくくりたいと思います。

さて最初の有用なアイデアは、「問題を楽に考えるには、たいていの場合、肝心でわかりきった疑問からとりかかるのが最良のやりかたである」ということです。

次の有用なアイデアは、ガリレオが到達した結論をまねることです。「科学によって現実を解き明かそうとすると、往々にして数学の力に頼らざるを得ないものだ。まるで、数学とは神の言語であるかのように」。ガリレオが抱いていたこの心持ちは、現実的な俗世間でもうまく働きます。我らの暮らす社会では、数字が苦手のままでいると、目隠しして百人一首大会に出場するような局面がみられるものです。

3番目の有用なアイデアは、「問題を考える際には順方向にやるだけではダメで、逆方向からも考えなければならない」ということです。純朴そうな人がこう言うように、やるべきです。「おいらがどこで死ぬのか教えてくれ。そこには絶対に行かねえからさ」。現実問題として、順方向に考えるだけでは解けない問題はたくさんあります。だからこそ偉大なる代数学者のカール・ヤコビは、ことあるごとに言ったのです。「逆だ、いつでも逆からやるんだ」と。ピタゴラス学派の教徒は逆に考えることで、「2の平方根は無理数である」ことを証明しました。[背理法のこと]

4番目の有用なアイデアは、こうです。「学問によって説明される根本的な知恵こそ、最良かつ最も実用的な知恵である」。これを使うにあたっては、きわめて重要な制約があります。それは学際的に考えなければならないことです。そして、あらゆる基礎的科目の初級段階で容易に習得できる概念のすべてを、日常的に使わなければなりません。そういった根本的なアイデアを使って問題解決を試みる際には、学術界や官僚主義のはびこる様々なビジネスの場でみられるような、限定して取り組むやりかたはいけません。こういった世界では、分野そのまた分野へとひどく細分化され、自分の領域を超えた企てはどんなものでも、厳しくご法度とされているからです。そうではなく、ベン・フランクリンが『プーア・リチャードの暦』で示した処方箋をふまえて、学際的に考えるべきです。「うまくやりたければ自分でやること。それがいやなら、人にやってもらうこと」。

時としてプロの助言を買うことがあるように、何かを考える際に他人に頼りっぱなしだと、自分のわかるわずかな範囲を超えてしまえば、様々な災難を背負いこむ羽目になるでしょう。こみいった調整が困難なだけではありません。劇作家ジョージ・バーナード・ショーの作品に登場する人物のせりふを思い起こさせるような事態にも直面します。「結局のところ、あらゆる職業は部外者に対して仕組まれた陰謀なのだ」。実のところ、この登場人物はショーが毛嫌いしていたものを、そのときは控えめにみていたのです。たいていの場合、特定の領域のプロが助言者として、不正な行為を意識的に行うわけではありません。そうではなく、無意識にバイアスが働くことによって問題を生じさせています。彼の経済的な動機付けは顧客のものとは異なっているので、 顧客の目的を達成するという意味で、正しく認識できなくなってしまうのです。また次の警句が示している心理的な欠陥も、のしかかってくるでしょう。「手持ちの道具がかなづちだけだと、あらゆるものが釘に見える」。

5番目の有用なアイデアは、「まさに甚大なる効果、すなわち『とびっきり』な効果を生み出すには、通常いくつもの要因を組み合わせなければならない」ということです。たとえば結核は、少なくとも以前には、3種類の薬を定期的に併用することしか抑える術がありませんでした。ほかの「とびっきり」効果についても、飛行機が飛ぶのと同じように、同様のパターンを踏襲しています。

The title of my talk is “Practical Thought About Practical Thought?” - with a question mark at the end. In a long career, I have assimilated various ultrasimple general notions that I find helpful in solving problems. Five of these helpful notions I will now describe. After that, I will present to you a problem of extreme scale. Indeed, the problem will involve turning start-up capital of $2 million into $2 trillion, a sum large enough to represent a practical achievement. Then, I will try to solve the problem, assisted by my helpful general notions. Following that, I will suggest that there are important educational implications in my demonstration. I will so finish because my objective is educational, my game today being a search for better methods of thought.

The first helpful notion is that it is usually best to simplify problems by deciding big “no-brainer” questions first.

The second helpful notion mimics Galileo's conclusion that scientific reality is often revealed only by math as if math was the language of God. Galileo's attitude also works well in messy, practical life. Without numerical fluency, in the part of life most of us inhabit, you are like a one-legged man in an ass-kicking contest.

The third helpful notion is that it is not enough to think problems through forward. You must also think in reverse, much like the rustic who wanted to know where he was going to die so that he'd never go there. Indeed, many problems can't be solved forward. And that is why the great algebraist Carl Jacobi so often said, “Invert, always invert.” And why the Pythagorean thought in reverse to prove that the square root of two was irrational number.

The fourth helpful notion is that the best and most practical wisdom is elementary academic wisdom. But there is one extremely important qualification: You must think in a multidisciplinary manner. You must routinely use all the easy-to-learn concepts from the freshman course in every basic subject. Where elementary ideas will serve, your problem solving must not be limited, as academia and many business bureaucracies are limited, by extreme balkanization into disciplines and subdisciplines, with strong taboos against any venture outside assigned territory. Instead, you must do your multidisciplinary thinking in accord with Ben Franklin's prescription in Poor Richard: “If you want it done, go. If not, send.”

If, in your thinking, you rely entirely on others, often through purchase of professional advice, whenever outside a small territory of your own, you will suffer much calamity. And it is not just difficulties in complex coordination that will do you in. you will also suffer from the reality evoked by the Shavian character who said, “In the last analysis, every profession is a conspiracy against the laity.” Indeed, a Shavian character, for once, understated the horrors of something Shaw didn't like. It is not usually the conscious malfeasance of your narrow professional adviser that does you in. Instead, your troubles come from his subconscious bias. His cognition will often be impaired, for your purposes, by financial incentives different from yours. And he will also suffer from the psychological defect caught by the proverb: “To a man with a hammer, every problem looks like a nail.”

The fifth helpful notion is that really big effects, lollapalooza effects, will often come only from large combinations of factors. For instance, tuberculosis was tamed, at least for a long time, only by routine, combined use in each case of three different drugs. And other lollapalooza effects, like the flight of an airplane, follow a similar pattern.

2013年1月1日火曜日

2012年の投資をふりかえって(3)新規・追加投資編(日進工具)

一昨年(2011年)や昨年(2012年)は、主力の投資先が収穫期に入ってきたこともあり、株価上昇とともに少しずつ売却し、以下のような新規投資先へ資金を向けてきました。バイ・アンド・ホールドを理想としてはいますが、目の前の割安さにひかれる弱さがあります。

投資の基本的な方向性としては、循環的な銘柄を中心にしたいと考えました。その種の銘柄の株価が割安だったことと、将来の景気回復期に向けた投資をしたかったのが大きな理由です。投資先の業界は、自分がそれなりに理解できるものに限定しています。購入ペースはそれほど急いでいないため、投資金額は主力投資先ほどには達していません。株価が下落すれば、適宜買い増しするつもりです。

具体的な投資先企業は、次の5社でした。

・日進工具(6157)
・任天堂(7974)
・マイクロソフト(MSFT)
・クラレ(3405)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)

何回かにわけて、各投資先について簡単に触れます。なお記載順序は、投資評価額の大きなものからとしています。

■日進工具(6157) (当社Webサイト)

<当社の概要>
当社は、超精密加工用の超硬工具(マイクロエンドミル)を製造しています。主なユーザーの業種はエレクトロニクスや自動車関連で、金型の製作だけでなく、部品加工にも使われています。同セグメントにおけるシェアは30%強でトップに位置しており、前期は売上高57億円に対して純利益5.3億円と、高い利益率を維持しています。

<投資に至った理由>
当社のことは数年前から継続的に監視してきましたが、PERが低く、余剰現金資産が豊富なことから割安だとみていました。ただし、株式購入までは至りませんでした。

当社の事業展開は、微細加工用の工具に注力しているのが特徴です。スマートフォンに代表されるように、エレクトロニクスの分野では軽薄短小が進展しており、その方向性は継続するものと考えられます。市場環境という面で、当社は追い風に乗っているとみています。

小さな消耗品を作って高く売れているという商売には、いくつかの参入障壁が隠れていると考えています。第一に、市場規模があまり大きくないことで、大企業の本格的な参入時期を遅らせること。第二に、製品の優位性が製造プロセスにも依存するため、組立系の製造業とは異なって容易には模倣しにくいこと。第三として、製品固有の特性や性能がものをいうため、顧客が離れにくい傾向があることです。このような優位性は、医療用の精密消耗器具を製造販売しているマニーや朝日インテックといった企業のものと似ていると感じています。

またよくあることですが、技術の極限を追求する企業には最新の需要情報が集まりやすく、新製品開発を推し進める好循環が当社でも働いているのではないかと推測します。この好循環はチャーリー・マンガーが言うところの自触媒反応的に進み、ユーザー拡大の「波に乗りつづける」原動力になると考えられます。

投資に踏み切る理由として上記のようなものを漠然と考えていたのですが、どこかひっかかるものがあり、二の足を踏んできました。それを覆したのが、2011年の大地震後の当社の対応でした。具体的には、生産再開までの復旧が早かったことと、顧客からの要望を受けてその後は安全在庫を積み増したことの2点です。これによって自分なりに悟りが得られたように感じ、株式購入に踏み切ることにしました。

<リスク>
第一に、主力の製造拠点が仙台1か所のみに集中していることが挙げられます。火災等の災害に見舞われると、バックアップする拠点がありません。小さな企業が生き残るには運が大きく左右するものですが、拠点リスクはその典型かと思います。ただし当社の場合は現金資産が豊富なため、何かがおきても、ある程度までは再起可能とみています。ただしその場合、企業価値が大きく毀損するのは避けられないでしょう。

第二に、他社が本格的に参入することで価格競争を招き、利益水準が低下する恐れがあります。また当社の製品は物理的に接触させて加工する切削工具ですが、他の方式(化学的、電気的、光学的)の技術が大きく進展することで、中長期的に要素技術が切り替わる恐れがあります。個人的な予想ですが、これらのリスクは顕在化するにしても、それほど直近ではなく、5年や10年以上先のことではないかとみています。

第三に、マーケットの限界を個人的に理解できていない点です。微細化というマーケットにどれだけの深みがあるのか、自分の洞察力に自信がありません。

第四は、株式の流動性リスクです。

<売買記録>
以下のチャートのように、震災対応がおちついた2011年秋から買い始め、2012年に何度か買い増ししました。ふだんはあまりしないのですが、当社については買い上がっています。平均購入単価は1,200円弱で(分割調整済)、現在の株価は1,462円、予想PERは7.7倍です。