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2017年12月30日土曜日

2017年投稿分から、おすすめの言葉三選

今年は投稿数が少なかったこともあり、心にとどめておきたい言葉を3つ取りあげて、年の締めくくりといたします。いずれも、未来予測に関する同じ話題へ焦点を当てており、かき混ぜるとひとつに溶け合いそうな文章です。

予測に関する5つの警句(ハワード・マークス)より、
未来を予測する者たちは、2つの種族に分けられる。物事をわかっていない者たちと、自分が物事をわかっていないことを理解していない者たちだ。
(ジョン・ケネス・ガルブレイス[経済学者])

予測というものは、未来よりも予測者について語ってくれることが多い。
(ウォーレン・バフェット)

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)より、
人は自分がわかっていないことをわかっていないというだけでなく、自分たちの無知を判断材料として考慮しようとしないのだ。

2017年12月28日木曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(4)投資した資産が半減した経験

デイリー・ジャーナル社2017年株主総会でのチャーリー・マンガーに対する質疑応答から、彼が過去に経験した資産価格下落の話題です。なおチャーリーの語る後半部は、以前に投稿した内容の再掲になります。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問28> 1973年から1974年にかけて運営されていた投資パートナーシップの資産が半減したときには、何が起こったのですか。

<チャーリー> そう、すごく単純なことですよ。簡単そのものです。いい質問ですね、あれは教訓になりますから。私が運営していたパートナーシップの資産価値が、1年の間に50%下落したのです。市場としては40%程度下落しました。あのときの景気後退は30年に一度のものでしたよ。「市場を独占していた新聞社が、純利益の3,4倍で売られていた」ほどですからね。おっしゃるとおり、どん底のときには頂点から50%落ちましたよ。保有したバークシャー株がそれだけ下落したのは過去に3回ありましたね。

私からすれば、市場の下落は人生に付き物だと考えますね。長期にわたってこのゲームに関わるつもりならば、そうする必要がでてきます。値段が半分まで下落したときでも、やたらと思い悩まずにやり過ごせますよ。より良い生き方を心がけていれば、資産半減の事態となっても、沈着冷静・端麗優雅に受け流せるでしょう。下落を回避しようとは試みないように。結局はやって来ることです(拍手)。「自分には来ない」と言う人は、十分果敢に投資していないからですよ。

Question 28: What happened 1973 and 1974 when your investment firm lost over half?

Charlie: Oh, that’s very simple. That’s very easy. That’s a good lesson. That’s a good question. What happened is the value of my partnership where I was running, went down by 50% in one year. Now the market went down by 40% or something. It was a once in 30 year recession. I mean monopoly newspapers are selling at 3 or 4 times earnings. At the bottom tick, I was down from the peak, 50%. You’re right about that. That has happened to me 3 times in my Berkshire stock.

so I regard it as part of manhood. If you’re going to be in this game for the long pull, which is the way to do it, you better be able to handle a 50% decline without fussing too much about it. And so my lesson to all of you is conduct your life so that you can handle the 50% decline with aplomb and grace. Don’t try to avoid it. (applause) It will come. In fact I would say if it doesn’t come, you’re not being aggressive enough.

備考です。バークシャー株の価格が半減した3回の時期は、株価チャートで確認したところ、おそらく2007-2009年、1998年-2000年、1973-1974年かと思われます。また1987年のブラック・マンデーの時期にも、4割弱の下落があったようです。このことから、よく言われる「10年周期」がバークシャー株によっても確認できますね。

2017年12月24日日曜日

問題解決の技法(4)一般化せよ(クロード・シャノン)

数学者クロード・シャノンが行った問題解決に関する講演について、4回目の投稿です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

研究活動を行う際に役立つ思考上の工夫としては、他には一般化があると思います。特に数学上の研究では威力を発揮します。「隔絶した特殊な結果を証明する」、そのような形で発展した代表的理論、とりわけ定理に取り組む人は、まず一般化から始めるものです。N次元で考える前には2次元で試すでしょうし、ある種の代数の問題であれば、普遍代数学の領域で考えるものです。実数の領域に関することであれば、普遍代数やその類の領域へ移って考えるでしょう。このことさえ忘れずに実行すれば、実際はたやすく取り組めます。なにか答えを見つけたときには、ただちに「もっと一般化できないか」と自問することです。「より多くを含んだ広範な記述ができないだろうか」と。思うに、工学の分野でも同じように留意されるべきです。賢明な方法で何かを達成した人があらわれたら、それをみて次のように自問するのがよいでしょう。「同じ原則をもっと一般的な形で適用できないだろうか。この巧妙なアイデアを同じように使って、もっと幅広い範疇のさまざまな問題を解決できないだろうか。この特定のことを使える領域が、どこか他にないだろうか」と。

Another mental gimmick for aid in research work, I think, is the idea of generalization. This is very powerful in mathematical research. The typical mathematical theory developed in the following way to prove a very isolated, special result, particular theorem - someone always will come along and start generalization it. He will leave it where it was in two dimensions before he will do it in N dimensions; or if it was in some kind of algebra, he will work in a general algebraic field; if it was in the field of real numbers, he will change it to a general algebraic field or something of that sort. This is actually quite easy to do if you only remember to do it. If the minute you’ve found an answer to something, the next thing to do is to ask yourself if you can generalize this anymore - can I make the same, make a broader statement which includes more - there, I think, in terms of engineering, the same thing should be kept in mind. As you see, if somebody comes along with a clever way of doing something, one should ask oneself "Can I apply the same principle in more general ways? Can I use this same clever idea represented here to solve a larger class of problems? Is there any place else that I can use this particular thing?"

「一般化」というアイデアをチャーリー・マンガーの言葉に置き換えるとすれば、「ハードサイエンスにおけるエートス」がうってつけのように思います。(過去記事1, 過去記事2)

2017年12月20日水曜日

投資家トッド・コームズの仕事量

バークシャー・ハサウェイのトッド・コームズと言えば、ウォーレン・バフェットが次の世代を見すえて運用を任せているマネー・マネージャーの一人です(もうひとりは、テッド・ウェシュラー)。半年以上前のものですが、彼がどのように仕事に取り組んでいるのか触れた記事がありましたので、ご紹介します。同様の話題について過去にも投稿しましたが、補完する内容が語られています。(日本語は拙訳)

EXCLUSIVE: Warren Buffett's money managers, Todd Combs and Ted Weschler, speak (Yahoo! Finance)

「朝は7時か8時にオフィスに着いて、夜の7時か8時まで読み物をしていますね」、彼は笑いながらそう答えた。「家に帰って家族と会った後は、眠りに就くまでベッドの中でさらに1,2時間読んでいます。想像がつくと思いますが、1週間にかかってくる電話はほんの3,4件ほどですから、仕事に割込みが入ることはごくわずかです。ついてくれているアシスタントの女性がすばらしく、私の読むものについて熟知していますし、ある程度はなんでも用意してくれます。私が印をつけて彼女に戻す、といった若干のやり取りをするわけです。ファイリングなどは、きちんとした決まりを定めてあります。しかし文字通り1日に12時間、あらゆるものについて読んでいます」。

(中略)

「ええ、読む対象もあらゆる範囲にわたっています。当然なのは、まず新聞です。それから、250社前後の公開企業を毎四半期監視しているので、各社の四半期報告書には目を通しています。さらにはSEC[証券取引委員会]に提出された各種報告書も数多く読みます。また[業績発表説明会の]トランスクリプトも多々読んでいます。聴くよりも読んだほうが速いですし、会話で出てくる双方の小競り合いも飛ばせますから」。

「SECへの提出資料をいろいろ読むほかに、業界誌もいろいろと数十誌購読しています。それから、相談できるすばらしいアナリストが一人いて、チャネルの現状を調べる際に手伝ってくれます。たとえば、顧客や供給者や元従業員などと話ができるわけです。実のところ、「実際にそうだったらどうなのか」という見方をするように心がけています。どの証券を調べる際にも、『企業全体を保有していたらどうなるだろうか』という感覚で取り組むようにしています」。

“I get in around 7 or 8, and I read until about 7 or 8 at night,” he says with a laugh. “And I go home, and see my family, and then I’ll read for another hour or two in bed at night. And you know, there might only be three to four phone calls the entire week. So there are very, very few interruptions. I have a great assistant who knows everything that I read, and she kinda provides everything, and there’s a back and forth between us where I’ll mark it up, and give it back to her. And we have a system for filing and so forth. But it’s literally just reading about 12 hours a day of everything I just mentioned.”

*

“Well it runs the gamut as well. I would say certainly newspapers. I follow about 250 public companies every quarter. And so I go through, for each quarter each one of those companies, their quarterly reports. So a lot of S.E.C. filings. A lotta transcripts. I can read a transcript much faster than I can listen to the conference call. And you weed out some of the friction there as well.

“So a lot of S.E.C. filings. A lotta trade magazines. There are a couple dozen of those that I subscribe to. And then I have a wonderful analyst who helps me with channel checks where we talk to customers, suppliers, ex-employees and so forth. We’re really trying to get a view of what it would be like - every security that we look at, we’re really trying to get a sense of what it would be like to own the entire business.”

トッドの仕事ぶりは、まさしくGEICO時代のルー・シンプソンを思い出させますね(参考記事)。

2017年12月16日土曜日

パッシブはアクティブである(GMO)

ジェレミー・グランサムのファンドGMOのサイトに掲載されていた「S&P500の価値評価」の文書から、もう少し引用します。なお同文書が読者として想定しているのは、機関投資家だと思われます。そのため、投資を生業としていない一般の個人投資家には当てはめにくい指摘があります。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

パッシブの道を選ぶことはアクティブな判断である
人間には、ここしばらくに起きたできごとを延長して将来を予想する性質があります。絶対的および相対的基準のどちらにおいても、米国株式が著しい成績をあげてきたことで、多くの人によって「米国株こそ保有すべき唯一の資産であり、それをパッシブに保有するやりかたがもっとも安あがりだ」と推奨される理由が、容易にうかがえます。

そうだとしてもパッシブを選んだ判断は、アクティブに決めた結果だと言えます。そして現在の投資家が十分な注意を向けていない重大なリスクがそこに存在するのではないか、と私たちは考えています。多くの投資家がパッシブ運用をますます強要するにつれて、アクティブ運用による各種の投資機会が増加しています。S&P500指数に連動したパッシブ運用へ資産を配分すると決めることは、長期的リターンを決定づけるものとして私たちが最も重要だと信じている要因、すなわち価値評価水準(valuation)を無視することを意味しています。そこに至っては、みずからを「投資家である」と語る資格はありません。「投機家」と名乗ることはできますが、「投資家」ではありません。パッシブ運用を選ぶことは、アクティブ投資家が持つある能力を排除することになります。それは、「指数を構成する証券の中で、とんでもなく割高な銘柄の割合を減らす」能力です(当然ながら私たちの好みは株式の銘柄選択においても同様で、価値評価に基づいたやりかたです)。史上3番目に割高な米国株市場に際して、パッシブな指数における構成比率と同じ配分をすることは、いずれは非常に高くつく決定だと私たちは考えています。それにもかかわらず、パッシブ投資は今もなお人気のある選択肢です。米国株市場におけるパッシブなインデックス投資の占める割合は、30%前後に至っています。(p. 8)

(中略)

絶対的な面からみると、投資機会は乏しくきわめて困難な状況です。しかしながら、現在のように資産価格が完璧と言える状況であれば、資産への値付けを大きく変動させても、失望を招くことはほとんどないでしょう。そうであれば私たちからは、現金的な短期性資産を大量に保有することをお勧めします(私たちの資産配分方針も同様です)。クマのプーさんが語った不滅の忠告を思い返してみてください。「なにもしないことのありがたさはバカにできないよ」。お好みであれば、次のように覚えておくのもよいでしょう。「することが何もなければ、何もするな」[過去記事1, 過去記事2]。(p. 111)

Going passive is an active decision
Human nature is to extrapolate the recent past. It is easy to see, given the strong performance of US equities in both absolute and relative terms, why many are suggesting they are the only asset you need to own. And the cheapest way of owning them is passively.

However, the decision to be passive is still an active decision - and we would suggest one with important risks that investors are not paying adequate attention to today. As more and more investors turn to passively-managed mandates, the opportunity set for active management increases. A decision to allocate to a passive S&P 500 index is to say that you are ignoring what we believe is the most important determinant of long-term returns: valuation. At this point, you are no longer entitled to refer to yourself as an investor. You may call yourself a speculator, but not an investor. Going passive eliminates the ability of an active investor to underweight the most egregiously overpriced securities in the index (we obviously prefer a valuation-based approach for stock selection as well). When faced with the third most expensive US equity market of all time, maintaining a normal weight in a passive index seems to us to be a decision that will likely be very costly. Yet despite this, it remains a popular path, with around 30% of all assets in the US equity market in the hands of passive indexers (see Exhibit 9).

*

In absolute terms, the opportunity set is extremely challenging. However, when assets are priced for perfection as they currently are, it takes very little disappointment to lead to significant shifts in the pricing of assets. Hence our advice (and positioning) is to hold significant amounts of dry powder, recalling the immortal advice of Winnie-the-Pooh, “Never underestimate the value of doing nothing”or, if you prefer, remember - when there is nothing to do, do nothing.

2017年12月12日火曜日

問題解決の技法(3)異なる観点から見つめよ(クロード・シャノン)

数学者クロード・シャノンが行った問題解決に関する講演について、3回目の投稿です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

対象となっている問題に迫る方法として他に考えられるのは、できるだけ異なった形式でその問題を記述しなおしてみることです。たとえば言葉を変えてみたり、視点を移動させたり、可能な限りあらゆる角度から見つめたりします。そうすることで複数の角度から同時に、問題を凝視できるようになります。それによって、その問題における本当に基本的な部分が見通せるようになり、重要な諸要因を結びつけることで解を導き出せるでしょう。このやりかたを実行するのは実のところむずかしいのですが、大切なことです。もしそうしなければ、思考の轍(わだち)へと容易にはまってしまうからです。問題に取り組み始めた地点から円周上をずっと回ってきて、ここまでたどり着けさえすれば、先が見通せるようになるかもしれません。しかしそれでは、「問題をみつめる際のある種のやりかた」に縛りつける思考上の障害物から離れられません。それがために、当該の問題に関する新参者があらわれたときに、先に述べたようなやりかたで解を見つけてしまう例が非常によくみられます。一方で問題に取り組んでいた本人は、何か月にもわたる苦労の末に解を見出した次第です。新人のほうはその問題を新鮮な視点からみつめたのに対して、本人のほうは思考の轍へとはまっていたのです。

Another approach for a given problem is to try to restate it in just as many different forms as you can. Change the words. Change the viewpoint. Look at it from every possible angle. After you’ve done that, you can try to look at it from several angles at the same time and perhaps you can get an insight into the real basic issues of the problem, so that you can correlate the important factors and come out with the solution. It’s difficult really to do this, but it is important that you do. If you don’t, it is very easy to get into ruts of mental thinking. You start with a problem here and you go around a circle here and if you could only get over to this point, perhaps you would see your way clear; but you can’t break loose from certain mental blocks which are holding you in certain ways of looking at a problem. That is the reason why very frequently someone who is quite green to a problem will sometimes come in and look at it and find the solution like that, while you have been laboring for months over it. You’ve got set into some ruts here of mental thinking and someone else comes in and sees it from a fresh viewpoint.

今回の説明は、今さらながら合点のいく文章でした。「問題とは、手持ちの道具では容易に解決できないもののことである。だからこそ問題を解決するには、両者の関係性を変えることが有効的だ」、個人的にはそう受けとめました。問題のほうを取り換える方法としては、第1回目の説明であったように単純化したり、今回の説明のように違う視点でとらえるやりかたが考えられます。他方、手持ちの道具を取り換えるためには、他の領域や分野から道具を借りてくることになるでしょう(参考記事1, 参考記事2)。

クロード・シャノン氏のこの講演は気軽に訳し始めたので、これほど楽しめるとは思いもしませんでした。チャーリー・マンガーの教えと照らし合わせながら読み込んだことで、これまで気づけなかったものごとの本質を浮かび上がらせてくれました。

2017年12月8日金曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(3)無駄な1年を過ごさないために

デイリー・ジャーナル社2017年株主総会でのチャーリー・マンガーに対する質疑応答から、3つめの引用です。今回もおなじみの話題ではありますが(過去記事1,2など)、話題がいろいろな方向へと展開していて、楽しんで読めました。なお文中で登場する言葉「アイデア」は日本語に訳さずにそのまま使っていますが、あえて訳せば「持論・自説・意見・見解・哲学・姿勢・信条」といった言葉になるかと思います。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳。また意味段落にて適宜改行を追加)

The hardest idea you have ever destroyed? (Youtube)

<質問20> 以前に、「愛してやまないアイデアのひとつも葬っていない1年は、無為に過ごしただけの1年だ」とおっしゃっていました。また「質の追求」へと転身するのが困難だったウォーレン・バフェットを誘導された、という話も有名です。それでは、ご自身にとって捨て去るのがもっとも難しかったアイデアのことをご説明頂けますでしょうか。

<チャーリー> それはもう、愚かしいことを散々やらかしてきましたよ。そういったまずいアイデアを今も抱えているからこそ、それらを葬るのに忙しいわけです(笑)。数あるうちから一つに絞り込むのはむずかしいですね。しかし悪しきアイデアを葬り去るのは、実のところ楽しみながらやっていますよ。まあ言ってみれば、「元からのアイデアを葬ることは、我が定めだ」と考えているからです。古いアイデアのせいで新たな優れたアイデアを取り込めないことが、人生における主たる問題となっている人たちが実にたくさんいます。これぞ、人の世におけるお決まりの成り行きですね。ドイツの言い習わしに、「少年老い易く、学成り難し」というものがあります。これはだれもが直面する問題ですよ。「学成り難し」なのは、身についてしまった愚かなアイデアを取り除けないからです。

一方で、その問題を抱えていたほうがうまいこともあります。婚姻ですね。つまり婚姻関係を安定させるには、古いアイデアにこだわったほうが好ましいかもしれないわけです(軽笑)。しかしほとんどの領域では、身についた古いアイデアを除去したいと望むでしょう。それが良き習慣となれば、世にある競争の激しい分野において、他人がひどくつたないのに反して大幅な優位をもたらしてくれますよ。そういった悪しきアイデアのことを盛大に語りながら、同時にそのアイデアを叩くわけです。結局のところ、手にしたアイデアに対して意見をぶつけ合ったり、語ったりするのですよ。ただし言うまでもないですが、説得しなければならない人物とは、そのアイデアを身につけた自分自身です。そういったアイデアを激しく叩くわけです。そのこともあって私はこの世界のことを、たとえば「FRBがどのようにふるまうべきか」といった持論をあまり話さないわけです。ものごとをどのように運営すべきか他人に話すことを考えている間にも、そのアイデアを自分にも教え込もうとしていますから。みなさんも、物事を考える上でのさまざまな習慣を身に付けたほうがいいですよ。

若者があらゆる問題の原因などを盲信しているというのは、よくないと思いますね。なんでも知っていると自認する17歳の若者には、中絶や中東における外交政策などについてどうすべきかを世界中に教え授けたいと考える者もいます。しかし確信していることを滔々と論ずる彼らのしていることは、すでに有したアイデアを叩いているだけですよ。多くのことを学んで身に付け始めたときとしては、そのやりかたは実に愚かしいアイデアですね。

ですから、愚かなアイデアを取り除こうとする習慣は非常に大切です。私は愚かしいアイデアを葬るたびに、「よくやった」と自分自身を褒めてやっていますよ。「自分自身の良き振る舞いを、本当に強化できるのか」と問われるかもしれません。ええ、できますとも。他人が褒めてくれなくとも、自分で自分を褒めることはできます。「自分のことを褒めてやる」、私にはそのような重要な仕組みが備わっています(笑)。こよなく愛でるアイデアを葬るたびに、自分を褒めたたえるのです。くりかえし褒めてやることもあります(笑)。諸君も同じ考え方を習慣づけたほうがいいですよ。「新しいアイデアを受け入れられるようになる」、そのために支払う対価は実に高額です。実際問題として、新たなアイデアを取り入れられないゆえに多くの人が命を落とすわけですから。

Question 20: You’ve said, “any year in which you don’t destroy one of your best loved ideas is a wasted year.” It’s well known that you helped coached Warren towards quality which was a difficult transition for him. I was wondering if you could speak to the hardest idea that you’ve ever destroyed.

Charlie: Well I’ve done so many dumb things. That I’m very busy destroying bad ideas because I keep having them. So it’s hard for me to just single out from such a multitude. But I actually like it when I destroy a bad idea because I think I’m on the…I think it’s my duty to destroy old ideas. I know so many people whose main problem of life, is that the old ideas displace the entry of new ideas that are better. That is the absolute standard outcome in life. There’s an old German folk saying, “We’re too soon old and too late smart.” That’s everybody’s problem. And the reason we’re too late smart is that the stupid ideas we already have, we can’t get rid of!

Now it’s a good thing that we have that problem, in marriage that may be good for the stability of marriage that we stick with our old ideas. But in most fields you want to get rid of your old ideas. It’s a good habit and it gives you a big advantage in the competitive game of life…other people are so very bad at it. What happens is, as you spout ideas out, what you’re doing is you’re pounding them in. So you get these ideas and then you start agitating them and saying them and so forth. And of course, the person you’re really convincing is you who already had the ideas. You’re just pounding them in harder and harder. One of the reasons I don’t spend much time telling the world what I think about how the federal reserve system should behave and so forth. Because I know that I’m just pounding the ideas into my own head when I think I’m telling the other people how to run things. So I think you have to have mental habits…

I don’t like it when young people get violently convinced on every damn cause or something. They think they know everything. Some 17 year old who wants to tell the whole world what ought to be done about abortion or foreign policy in the middle east or something. All he’s doing when he or she spouts about what he deeply believes is pounding the ideas he already has in, which is a very dumb idea when you’re just starting and have a lot to learn.

So it’s very important that habit of getting rid of the dumb ideas. One of things I do is pat myself on the back every time I get rid of the dumb idea. You could say, ‘could you really reinforce your own good behavior?’ Yeah, you can. When other people won’t praise you, you can praise yourself. I have a big system of patting myself on the back. Every time I get rid of a much beloved idea I pat myself on the back. Sometime several times. And I recommend the same mental habit to all of you. The price we pay for being able to accept a new idea is just awesomely large. Indeed a lot of people die because they can’t get new ideas through their head.

2017年12月4日月曜日

S&P500に対する価値評価(GMO)

今回は、ジェレミー・グランサム氏のファンドGMOのWebサイトで公開されている文書から、S&P500の価値評価(valuation)の状況について触れた文章を一部ご紹介します。(日本語は拙訳)

The S&P 500: Just Say No (Matt Kadnar and James Montier; GMO White Paper) [PDF]

S&P500に対する価値評価

我々が行うあらゆることの基盤となるものが、価値評価です。ですから、まずは現在のS&P500が受けている評価の状況に対して受託者スミス氏[説明省略]が抱いている悩みから始めましょう。はじめに独自のフレームワークを用いることで、我々が実施している価値評価を見て回ります。次に、リターンに寄与する要因を理解していきます。

どのような証券市場においても、発生するリターンは4つの要素に分解できます。長期的にみた場合、リターンは配当(成長及び利回り)によってのみ、ほとんどが説明できます。株式の保有者は「企業が長期的成長のために費やせるように」と資本を提供しているのですから、報酬を受ける必要があります。その報酬は、企業がリスキーな投資から生み出すキャッシュフローから利益や配当の形でまかなわれます。

証券という資産クラスを保有することで儲けをあげる際に、寄与する要因として他に考えられるものは、株価倍率(PER)そして利益率上昇の2つです(これらを合わせて「価値評価要素」と我々は呼んでいます)。それら4つの要素はひとつの個性を形成しています。つまり、リターンは常に4つの要素へと(事後的に)分解できるという性格です。図表1では、西暦1970年以降におけるS&P500のリターン[黒]を4要素(利益[青]、配当[黄]、利益率[えんじ]、PER[緑])に分解しています。利益率[えんじ]とPER[緑]は非常に長期にわたって、基本的に横ばいに推移してきました。前述したように長期間でみると、生じたリターンの多くは配当がもたらしています。


これと同じ分割手法を直近7年間に当てはめてみると、図表2に示すように異なった展開があらわれます。予想されるとおり、利益と配当は成長しています。しかし大幅に拡大したPER[緑]と利益率[えんじ]が4つの中で最も強く押し上げたことで、リターンに対して著しく寄与しています。これは短期間にみられるよくある例であり、価値評価要素の移り変わりがリターンの変動性を司っています。


もし利益と配当が見事なまでに安定していれば(現在はそのとおりですが)、「この7年間に味わったすばらしいリターンをS&P500が今後ももたらし続ける」と信じるのは、「この7年間と同じように、PERと利益率が今後も拡大し続ける」と信じるのと同じことになります。歴史を振り返ると、この仮定が存在した記録は、慎ましく言っても極めてわずかしか残されていません。「直近の状況が際限なく継続する」と仮定するのはおどろくほど容易なことですが、資産を扱う市場においてそのような仮定をするのは、この上なく危険です。おそらく現在のS&P500がそうであるように、割高な市場においては特にそうだと言えます。(p. 1)

Valuation of the S&P 500

The bedrock of everything we do is valuation, so let’s begin addressing Trustee Smith’s concerns with a look at the current valuation of the S&P 500. We will start our tour of valuation by examining our own framework. This in turn starts by understanding the drivers of return.

For any equity market, the return achieved can be broken down into four component parts. In the long term, the return is almost exclusively driven by dividends (growth and yield). Equity owners need to be compensated for providing capital to companies to help fund their long-term investments. That compensation comes from the cash flows the companies generate from their risky investments via earnings and dividends.

The two other ways to make money from owning an equity asset class are from multiple (P/E) or margin expansion (collectively we call these elements the valuation components). Together these four components make an identity - we can (ex post) always decompose returns into these factors. In Exhibit 1, we show a return decomposition for the S&P 500 since 1970 based on these four factors (earnings, dividends, margins, and P/Es). Margins and P/Es are basically flat over this very long time period. As we stated above, over the long term, the returns achieved have been delivered largely by dividends.

Using this same decomposition over the last seven years, we see quite a different story in Exhibit 2. Earnings and dividends have grown as one would expect, but P/E and margin expansion have significantly contributed to returns with multiple expansion actually providing the biggest boost of the four. This is typical of short-term periods, where the volatility of returns is dominated by shifts in the valuation components.

If earnings and dividends are remarkably stable (and they are), to believe that the S&P will continue delivering the wonderful returns we have experienced over the last seven years is to believe that P/Es and margins will continue to expand just as they have over the last seven years. The historical record for this assumption is quite thin, to put it kindly. It is remarkably easy to assume that the recent past should continue indefinitely but it is an extremely dangerous assumption when it comes to asset markets. Particularly expensive ones, as the S&P 500 appears to be.

2017年11月28日火曜日

ウォーレン・バフェットの時間管理術(GuruFocus記事より)

投資関連の記事を掲載しているサイトGuruFocusで、「ウォーレン・バフェットから学んだ時間管理術」に関する記事が投稿されていました。取りあげられている5つの話題のうち、個人的に感心したのが最初にあげられた「2リスト・ストラテジー」です。以前どこかで似た文章を読んだような気もしますが、改めて学ぶ価値のある教訓だと感じました。(日本語は拙訳)

Life-Changing Time Management Lessons I've Learned From Warren Buffett (GuruFocus)

2リスト・ストラテジー

マイク・フリント氏は、バフェット専属の航空機パイロットを10年間務めていた人物である(同氏は4人の米国大統領のパイロットだったこともあるので、すぐれた腕の持ち主だと言っても言い過ぎではないと思う)。フリント氏によれば、職業人生上の優先順位のことをバフェットと話していたときに、3段階の手順を踏んでほしいと言われたそうだ。

具体的な手順は次のとおりである。

<その1> はじめにバフェットはフリント氏に対して、職歴上の目標のうち上位25件を書きだしてほしいと言った。フリントは少し時間をかけて、それらを書き下した。(注: みなさんも短時間でこの作業を完了できるだろう。たとえば、今週中に達成したい25件を書きだすわけだ)

<その2> つづいてバフェットはフリントに対して、その一覧にある目標を読み直し、重要なもの5件に丸印を付けてほしいと頼んだ。今度もフリント氏はいくばくか時間をかけて一覧を読み進め、もっとも重要な目標5件を選んだ。

(注: これを自宅でやっているのであれば、読み進めるのをいったんやめて、その3に進む前に上記の2つを実行してほしい)

<その3> この時点でフリント氏は2つの一覧を手にしていた。一覧Aには丸印を付けた5件があり、一覧Bには丸印の付いていない20件があった。

上位5件の目標はただちに取り組める、とフリント氏は認めた。そのときバフェットが2つめの一覧のことをたずねてきた。「丸印を付けなかったほうはどうなっていますか」。

フリント氏は答えた。「ええ、上位5件はわたしがまず集中すべきことですが、他の20件も次点級ながら遠からずのものですね。それなりに重要ですから、折に触れて少しずつ取り組むつもりです。急ぎの課題ではありませんが、しっかりやるように計画します」。

しかしバフェットは次のように返答した。「いや、ちがいますよ、マイク。丸印を付けなかった項目は、すなわち『是が非でも回避すべき課題一式』なのです。そういった課題が何であれ、上位5件を終わらせるまでは関心を向けてはいけませんよ」。

The “two-list” strategy.

Mike Flint was Buffett's personal airplane pilot for 10 years. (Flint has also flown four US Presidents, so I think we can safely say he is good at his job.) According to Flint, he was talking about his career priorities with Buffett when his boss asked the pilot to go through a 3-step exercise.

Here's how it works…

STEP 1: Buffett started by asking Flint to write down his top 25 career goals. So, Flint took some time and wrote them down. (Note: you could also complete this exercise with goals for a shorter timeline. For example, write down the top 25 things you want to accomplish this week.)

STEP 2: Then, Buffett asked Flint to review his list and circle his top 5 goals. Again, Flint took some time, made his way through the list, and eventually decided on his 5 most important goals.

Note: If you're following along at home, pause right now and do these first two steps before moving on to Step 3.

STEP 3: At this point, Flint had two lists. The 5 items he had circled were List A and the 20 items he had not circled were List B.

Flint confirmed that he would start working on his top 5 goals right away. And that's when Buffett asked him about the second list, “And what about the ones you didn't circle?”

Flint replied, “Well, the top 5 are my primary focus, but the other 20 come in a close second. They are still important so I’ll work on those intermittently as I see fit. They are not as urgent, but I still plan to give them a dedicated effort.”

To which Buffett replied, “No. You’ve got it wrong, Mike. Everything you didn’t circle just became your Avoid-At-All-Cost list. No matter what, these things get no attention from you until you’ve succeeded with your top 5.”

2017年11月24日金曜日

問題解決の技法(2)よく似た問題をさがせ(クロード・シャノン)

数学者クロード・シャノンが行った問題解決に関する講演について、2回目の投稿です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

(前項と)非常によく似た手順ですが、似たような既知の問題を探るやりかたもあります。これは、次のように図式的に言い表せると思います。まず、自分の抱えている問題Pに対して、おそらく未発見の解Sがあるとします。その領域に携わり経験を積んでいれば、ある程度似ている問題P'とそれに対する発見済の解S'について、見聞きしたことがあるでしょう。そうとなれば、あとはP'とPの間にある類似性を見つけた上で、同じ類似性をS'とSの間に見出し、取り組んでいる問題に対する解へと立ち戻ればよいだけです。そもそも成すべきことはそれだけなのかもしれません。経験を積んでいれば、すでに求められた何千もの解を知っているものです。当該領域における経験が必要なのは、それがためなのです。頭の中にP'やらS'やらが散り散りとであれ満たされていれば、取り組んでいる問題Pに対してある程度近いものを見つけられますし、つづいて解Sに似たS'へと向きを変え、やがてはSへと立ち戻れるわけです。どのような類の思索をめぐらす場合でも、大きな跳躍を1回果たすよりは、小さな跳躍を2回重ねるほうがずっと容易だと思います。

A very similar device is seeking similar known problems. I think I could illustrate this schematically in this way. You have a problem P here and there is a solution S which you do not know yet perhaps over here. If you have experience in the field represented, that you are working in, you may perhaps know of a somewhat similar problem, call it P', which has already been solved and which has a solution, S', all you need to do - all you may have to do is find the analogy from P' here to P and the same analogy from S' to S in order to get back to the solution of the given problem. This is the reason why experience in a field is so important that if you are experienced in a field, you will know thousands of problems that have been solved. Your mental matrix will be filled with P's and S's unconnected here and you can find one which is tolerably close to the P that you are trying to solve and go over to the corresponding S' in order to go back to the S you’re after. It seems to be much easier to make two small jumps than the one big jump in any kind of mental thinking.

今回の話題は昨今の表現で言うところの「パターンの再利用」であり、わかりやすい話題だったかと思います。一方、この手の話が登場すると即座に思い返されるのが、チャーリー・マンガーの説く「学際的メンタル・モデル」です(過去記事多数)。上の文章では類似性を見つける際に「特定の領域」と限定していますが、チャーリーの場合は領域を超えた類似性の存在に焦点を当てています。おそらくシャノン氏は聞き手にとって理解しやすい水準に話題を設定したものと思われますが、スケール(規模)の面でチャーリーの主張と補完的なところがおもしろいと感じました。シャノン氏の主張は同程度のスケールでみられる類似性の水平的繰り返しと読める一方で、チャーリーの主張は異分野すなわち別のスケールに対して適用すべき垂直的繰り返し(フラクタル)と受けとめることもできます。単なる個人的解釈にすぎませんが、チャーリーの哲学をまた一歩理解できたような気がしました。

2017年11月20日月曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(2)「とびっきり効果」の発見

デイリー・ジャーナル社の2017年株主総会でチャーリー・マンガーが交わした質疑応答から、二つめの引用です。今回は、チャーリーが残した指折りの知的成果である「とびっきり効果」(Lollapalooza effect)についてです。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問13> 現在起こっているできごとで、気にかかっていることは何ですか。またそれらを特定するために、とびっきり効果のような学際的アプローチをどのように使っておられますか。

<チャーリー・マンガー> かつて私は、心理学のことを何もわかっていなかったものです。しかしそれは自分の手抜かりだと気づき、心理学の主要な初級教科書を3冊買って通読しました。私が「とびっきり効果」という用語を生みだしたのは、その時分でした。もちろんですが、まるでなっていない心理学者よりも、チャーリー・マンガーたる自分のほうがうまくやれると考えましたよ。とびっきり効果はどの本にも書いておらず、みずから思いついたアイデアのひとつです。これは、3つや4つの動向が同一の状況下で同時に働いたときに生じます。線形ではない働きをみせたとき、とびっきりな効果が生じたと言えるわけですね。[参考記事]

ところが心理学の研究者たちは、4つや5つの物事が同時に発生する実験を行うことができませんでした。彼らにしてみれば、実に複雑だったからですね。論文も出せませんでした。それゆえ彼らは、己の専門領域における最も重要なことを無視し通したわけです。もちろんながら、重要なことは他にもありましたよ。心理学を他のあらゆるものと総合する仕事です。ところが心理学の専門家である彼らは、「ほかのあらゆる物事」についてまるでわかっていなかったのです。これはやっかいですね。他の物事を知らずして、わかっている物事と総合するなどできませんよ。だから私がとびっきりな問題へ達することになったわけです。まあ実際のところ、その後も私は一人ぼっちでしたがね(笑)。彼の領域で名が通っているわけでもないですし。さはさりながら、私の考えは正当無欠なものですよ。[参考記事12]

Question 13: Question about Lollapalooza effects. What current event is causing you concern and how can you use that inter-disciplinary approach to spot them?

Charlie: Well, I coined that term the “Lollapalooza effect” because when I realized I didn't know any psychology and that was a mistake on my part, I bought the three main text books for introductory psychology and I read through them. And of course being Charlie Munger, I decided that the psychologists were doing it all wrong and I could do it better. And one of the ideas that I came up with which wasn't in any of the books was that the Lollapalooza effects came when 3 or 4 of the tendencies were operating at once in the same situation. I could see that it wasn't linear, you've got Lollapalooza effects.

But the psychology people couldn't do experiments that were 4 or 5 things happening at once because it got too complicated for them and they couldn't publish. So they were ignoring the most important thing in their own profession. And of course the other thing that was important was to synthesize psychology with all else. And the trouble with the psychology profession is that they don't know anything about ‘all else'. And you can't synthesize one thing you know with something you don't if you don't know the other thing. So that's why I came up with that Lollapalooza stuff. And by the way, I've been lonely ever since. (laughter) I'm not making any ground there. And by the way, I'm totally right.

2017年11月16日木曜日

経済予測のおもな役割(ジョン・ケネス・ガルブレイス)

Clipper Fundという名のバリュー志向のファンドがあります。一昔前にその動向を追いかけていたのですが、2006年にマネージャーが変更になると公表されてからは遠ざかっていました。最近になって何とはなしにWebサイトにアクセスしたところ、現マネージャーの名前に不意を突かれました。その名もクリストファー・デービス氏、『デービス王朝 知られざる偉大な投資家一族』で取り上げられている一族の3代目でした。

例によって同書の内容はきれいさっぱり忘れましたが、好印象だけは残っていました。そこでClipperのサイトに掲載されている文章を読んでみたところ、なるほどと感じる部分がありました。ポートフォリオ構成(上位からバークシャー、アルファベット、アマゾン)や現金比率をみると、バリュー志向派の代表格であるFPAファンドやセス・クラーマンとは対極的な位置づけにあるように思えます。しかし競争優位性や複利成長を長期的視点でとらえて資金を投じているとすれば、バリューに焦点を当てて投資しているとも考えられます。きちんと読み込んではいませんが、おそらくそこにデービス家の投資哲学があるのでしょう。

(個人的には、いわゆるバリュー対グロースという対比はしていません。よく言われるように、「バリュー投資」という言葉自体が同義語反復だと受けとめています。看板に掲げているのはご容赦ください)

さて今回は、同氏が書いた第二四半期のレビューから一部を引用してご紹介します(日本語は拙訳)。なお邦題のセンスから予想がつくと思いますが、上記翻訳書の出版元はパンローリング社です。

SEMI-ANNUAL REVIEW 2017 (Clipper Fund) [PDF]

投資の見通し

- 短期的予測へ応じるのではなく、長期的な観点に立ったポートフォリオを構築すること。今日の市場でみられるリスク要因には、利益率が頂点に達した企業、長期債、割高な配当銘柄がある。-

偶像破壊的な経済学者として知られたジョン・ケネス・ガルブレイスが示した風刺に、次のような有名なものがあります。「経済予測の主たる役割とは、『占星術は敬服すべきものだ』と思わせることである」。下図において[掲載省略]、ウォール街の選りすぐりのストラテジストが予測する株式市場の年次リターン率を実績値と対比していますが、そこにはガルブレイスの持つ見識の深慮さが示されています。図をみれば楽観的すぎる予測の年もあれば、悲観的すぎる年もあります。しかし予測が正しかったことは一度もありませんでした。

これと同じように、金利が動く方向や通貨の変動動向、経済指標や地政学上のできごとといった短期的予測の多くにおいても、予測というものが不可能なことが当てはまります。成功をめざす投資家は将来起こり得る幅広い可能性に備えるべきで、そういった役に立たない予測に反応すべきではありません。それゆえに、長期的視点に立ったポートフォリオを運用することは、大洋航海向けの船舶を建造することと似ていると言えるでしょう。各種の状況は予測不能であるからにして、免れぬ嵐に耐える強さを有しながら、目的地へ到着できるに足る船速を兼ね備えねばなりません。私たちは無意味な予測ではなく有意義な備えをすることに力を注いできました。そうすることで、投資家の財産を何十年間にもわたって築き上げてきました。

投資先セクターや経済、市場、資産クラスは、長期的な周期を通じて変動するものがほとんどですから、現在はそのどこに位置するのか把握することが投資家の取るべき最初の一歩になります。周期における好ましい部分の大半において、熱に浮かされた投資家によって価格がバブルへと向かいがちです。他方で周期の谷にやってくると投資家は悲観的になり、価格は割安の色を深めます。長期投資家にとってみれば、周期上の頂点とはリスクを意味するものですが、周期上の深部では好機が訪れてくるものです。

その周期構成のリスク側において頂点に達しようとする3つの領域が、今日ではみられます。ひとつめは、8年以上続いてきた景気拡大のおかげで企業の利益率が過去最高に達した点です。平均的な企業における利益成長や株価にとっては、この潮流はすばらしい追い風となってきました。逆に、周期の反対側に回る頃には、多くの企業において利益が減少するでしょうし、株価もそれに伴うでしょう。私たちはポートフォリオを構成する上でこのリスクを踏まえ、利益率の面で好ましい見通しを有している企業を入念に選択し、他方で利益率低下がいっそう見込まれる大多数の企業を避けるように注力しています。

ふたつめは、昨年に何度か上昇したものの、金利が50年来の低水準を保ちつづけている点です。その結果、多くの投資家が債券を「安全」なものとみなし、いつの日か利率が上昇する際には債券価格が下落することを忘れてしまいました。現実問題として、上昇率が1%という比較的小さな幅であっても、長期債の価格は20%以上切り落とされるでしょう。下図に示すように[掲載省略]、今日の債券の評価額には株式と比較するとかなりの昂ぶりが織り込まれています。そのため、株式は今後何十年にもわたって債券よりも大幅に良好なリターンをあげると思われます。

最後となる3つめは、現在の株式市場において投資家が配当利回りに熱をあげている点です。その結果、いわゆる「配当夢中株」が大幅に過大評価されている例が数多く見られます。たとえば、もっとも広範に保有されている配当重視型の投資信託及びETFにおいて、最大規模の構成銘柄は実にPER25倍で現在売買されています。しかしそれらの企業では、配当金を賄うために利益の83%が費やされているのです。衝撃的なのは、そういった企業の売上高が、この5年間にわたって年率1.2%ずつ減少してきた事実です。このように、企業における利益率、金利、そして「配当夢中株」は、周期上の極端な地点へ接近していると思われます。それらの3点は、私たちがポートフォリオに持ち込まないよう慎重に対処しているリスクの典型たるものです。

Investment Outlook

- Avoid reacting to short-term forecasts; instead build a portfolio for the long term. Risks in today’s market include companies with peak profit margins, long-term bonds and overvalued dividend darlings. -

The iconoclastic economist John Kenneth Galbraith famously quipped the “primary function of economic forecasting is to make astrology look respectable.” By contrasting the predictions of Wall Street’s top strategists for annual stock market returns with what actually happened, the chart below shows the wisdom of Galbraith’s insight. In some years, the predictions proved too optimistic and in others too pessimistic. But at no point, did the forecasts get it right.

The same unpredictability applies to many short-term forecasts including those related to the direction of interest rates, currency moves, economic indicators, and geopolitical events. Instead of reacting to such useless forecasts, successful investors must be prepared for a wide range of possible outcomes. In this way, managing a portfolio for the long term is similar to building a ship for an ocean crossing. Because conditions may be unpredictable, investors must balance the strength needed to endure the inevitable storms with the speed required to reach their destination. By focusing on sensible preparation rather than worthless predictions we have built wealth for our investors over decades.

Since most sectors, economies, markets, and asset classes move through long cycles, the first step for investors is understanding where they are in the cycle. In the most favorable parts of cycles, prices tend toward bubbles as investors become euphoric. In the troughs of cycles, prices move toward bargain levels as investors become pessimistic. For long-term investors, cyclical peaks represent risk and cyclical troughs present opportunities.

Today, on the risk side of the equation, three areas appear to be approaching cyclical peaks. First, following more than eight years of economic expansion, corporate profit margins have reached an all-time high. This trend has provided a wonderful tailwind for the average company’s earnings growth and stock price. The other side of this cycle could lead to lower earnings at many companies with their share prices likely to follow suit. Recognizing this risk, we have focused our Portfolio on carefully selected companies with a favorable outlook for profit margins while avoiding the majority of companies where we believe margin compression is more likely.

Second, despite some uptick over the last year, interest rates remain near 50 year lows. As a result, many investors have come to view bonds as “safe,” forgetting that when interest rates eventually rise, bond prices will fall. In fact, a relatively modest 1% increase in interest rates would lop more than 20% off the price of a long-term bond. As shown in the chart below, bond valuations today reflect considerable euphoria compared to stocks. As a result, stocks are likely to produce far better returns than bonds in the decades ahead.

Third, within the stock market, investors have become infatuated by current dividend yield. As a result many of the so-called dividend darlings seem significantly overvalued. For example, the largest positions in the most widely held dividend mutual funds and exchange traded funds (ETFs) currently trade at a heady 25 times earnings while paying out 83% of earnings to cover their dividends. Shockingly, over the last five years, the revenue at these companies has actually declined at a rate of 1.2% per year. As with profit margins and interest rates, these dividend darlings seem to be approaching a cyclical extreme and therefore represent a risk we are careful to avoid in our Portfolio.

2017年11月12日日曜日

問題解決の技法(1)単純化せよ(クロード・シャノン)

クロード・シャノンという人物の名前は、ITや工学を専門としている方であれば見聞きしたことがあるかと思います。彼がどの領域で業績を残したのか、私自身はその程度しか知りませんでしたが、たまたま彼の講演記事を目にして興味を持つようになりました。今年の夏に刊行された伝記『A Mind at Play』が好評のようで、その流れで彼の業績や発言が見直され、めぐりめぐってここに至ったことになります。

今回からの一連の投稿では、その講演で取り上げられた「問題解決に使える考え方」の各々について、拙訳付きでご紹介します。なお原文テキストは、以下のサイトを参照しました。

Creative Thinking (Claude Shannon at Bell Lab. March 20, 1952)

まずはじめにお話ししたいのは、「単純化」という考え方です。解決すべき問題はどのような種類のものでもかまいません。たとえば、機器の設計や物理学上の理論構築、数学における定理の証明といった種類のものが挙げられます。「そういった問題からあらゆることを排除しつつ、本質となる部分だけを残すように努める」やりかたが、きわめて有効的だと思います。つまり、大きさを切り詰めるわけです。取りくむ問題がなんであっても、本質的でないあらゆるたぐいのデータがある程度つきまとい、混乱のもととなっていることがほとんどです。そこで、その問題をいくつかの主たる論点へと落とし込めれば、何をやろうとしているのかいっそう明確に理解できるようになり、おそらくは解をみつけられることでしょう。それがために、追究していた問題を剥ぎとることになるかもしれません。当初とりくんでいた問題とは似つかない場所にまで単純化するかもしれません。しかし多くの場合において、単純な問題の解を出せたことで、最初に取りくんでいた問題に対する解に到達するまで、解を洗練させていくことができるものです。

The first one that I might speak of is the idea of simplification. Suppose that you are given a problem to solve, I don’t care what kind of a problem - a machine to design, or a physical theory to develop, or a mathematical theorem to prove, or something of that kind - probably a very powerful approach to this is to attempt to eliminate everything from the problem except the essentials; that is, cut it down to size. Almost every problem that you come across is befuddled with all kinds of extraneous data of one sort or another; and if you can bring this problem down into the main issues, you can see more clearly what you’re trying to do and perhaps find a solution. Now, in so doing, you may have stripped away the problem that you’re after. You may have simplified it to a point that it doesn’t even resemble the problem that you started with; but very often if you can solve this simple problem, you can add refinements to the solution of this until you get back to the solution of the one you started with.

この手の話題は本ブログでくりかえし取り上げています。言うまでもないかもしれませんが、そこには二つのねらいがあります。第一に、卓越した人物が共通して取りあげる話題はなおさら重要だ、と再認識すること。第二に、重要なことはそらで言えるようになり、日常的に使いこなせること(過去記事の例1例2)。個人的には、第二のほうが「言うは易く行うは難し」のままです。

2017年11月8日水曜日

歩き出せば口実は浮かぶ(『かくて行動経済学は生まれり』)

先日取り上げた『かくて行動経済学は生まれり』から、今回は「逃げる」話題について2点ご紹介します。ひとつめは「日常生活における逃げ」についてです。エイモス・トヴェルスキーに関する話です。

ものを頼まれたら(パーティーに行く、スピーチをする、何かを手伝うなど)、たとえそのときは承諾しようと思っても、すぐに返事をするべきではないと、エイモスはよく言っていた。考える時間を1日とるだけで、前の日には引き受けようと思っていた誘いの多くを断りたくなることに、きっと驚くはずだ。これと一緒に編み出したのが、ある場所から逃げ出すための方法だ。退屈な会議やカクテルパーティーにつかまってしまって、そこから逃げ出す口実が思い浮かばないことはよくある。だがエイモスは、どんな集まりであれ、帰りたいと思ったら立ち上がり、そこから離れることをルールとしていた。歩き始めてしまえばいくらでもアイデアは浮かび、口実がすらすらと出てくると彼は言う。(p. 221)

もうひとつは、本ブログで何度か取り上げているテーマ「虐殺からの逃亡」についてです。こちらはダニエル・カーネマンが子供だった頃の逸話です。

その後、彼らは命を守るためにまた町を離れ、コートダジュールのカーニュ・シュル・メールへ向かった。そこはあるフランス軍の大佐が所有している場所だった。それから数か月間、ダニエルはその狭い地域から出ることはなかった。彼は本とともに時間を過ごした。『80日間世界一周』を何度も何度も読み、イギリスのすべてのもの、特に主人公のフィリアス・フォッグに夢中になった。フランス人大佐が残していった本棚には、ヴェルダンの塹壕戦についてのレポートがぎっしり詰まっていて、ダニエルはそれもすべて読んだ。(中略)

ヴィシー政府と、報奨金目当ての人々の協力で、ドイツは前より簡単にユダヤ人狩りができるようになった。ダニエルの父は糖尿病を患っていたが、治療を受けるほうが、病気を放置するよりも危険だった。そしてふたたび彼らは逃亡した。はじめはホテルに滞在していたが、とうとう鶏舎に逃げ込んだ。その鶏舎は、リモージュ郊外の小さな村の酒場の裏にあった。そこにはドイツ兵はいなかった。いたのは民兵団だけだ。彼らはドイツに協力してユダヤ人を捕まえ、フランスのレジスタンスを根絶やしにするのに手を貸していた。

父親がどうやってその場所を見つけたのかダニエルにはわからなかったが、ロレアルの創始者が関わっていたのは間違いないだろう。会社から食料がずっと送られていたからだ。両親は部屋の真ん中に仕切りを立て、ダニエルと姉が多少のプライバシーを保てるようにしてくれたが、鶏舎はそもそも人が住むところではない。冬が寒さが厳しく、ドアが凍って開かなくなった。姉はコンロの上で寝ようとして服を焦がした。(p. 57)

2017年11月4日土曜日

2017年デイリー・ジャーナル株主総会(1)チャーリー・マンガーかく語りき

バークシャー・ハサウェイの株主総会では、チャーリー・マンガーはウォーレン・バフェットの引き立て役としておとなしくしていますが、チャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナルの総会ではかなりの別人ぶりで、堂々とした独り舞台をみせています。距離が狭いこともあるせいか、参列者からの笑い声も頻繁にあがり、米国で一番楽しい総会かもしれません。


と、そのようなことを書けるのも、Youtubeに投稿されている映像を自宅で観られるからです。こちらのリンク先映像では投稿者の方が質疑項目ごとの目次を作成されており、ありがたいばかりです。(参列者爆笑シーンの一例は23分過ぎ)

Billionaire Charlie Munger: Advice for Business and Life (2017) (Youtube)

また別の方のサイトにはトランスクリプトがあります。

Charlie Munger: Full Transcript of Daily Journal Annual Meeting 2017 (HTML)

今回からの投稿では、今年の2月に開催された株主総会での質疑応答の様子を、上記の資料からご紹介します。今回の話題は、「ウォーレンが学び続けたことがバークシャー成功の要因だった」とする質疑の後半部分です(上記トランスクリプトのQ14)。バークシャーが2006年にイスカル社を買収したときの価格水準の話題と、航空会社への投資の話題です。(日本語は拙訳)

<チャーリー・マンガー> ベン・グレアムならば、イスカル社を買うようなことはしませんでしたよ。簿価の5倍になる金額を支払うのは、グレアムのやりかたではなかったですからね。ウォーレンはグレアムのもとで学びましたが、その後もずっとうまく学んだわけです。私自身も上手に学んできました。このゲームのいいところは、際限なく学び続けられる点ですね。実際のところ、今でもそうしていますから。

今や我々は、「突如として航空会社株を買うようになったのか」と報道されているのですよ。航空会社という商売について過去に我々がなんと発言していたか、覚えていますか。「そこまでひどいビジネスがあるとは、ご冗談でしょう」と考えていたのです。それが今では、航空会社関連の持ち株すべてを合わせると、中小の航空会社を1社分保有していることになります。我々は同じことを鉄道会社でもやりました。「鉄道なんてちっとも良かないね。事業者が多すぎて、トラックとの競争もあるし...」と言ったものです。80年間にわたってひどいビジネスだったことはたしかです。しかし彼の業界にはとうとう4つの大会社しか残っておらず、うまいビジネスへと変わりました。それと似たようなことが航空会社でも起きているわけですよ。

Ben Graham would have never bought Iscar. He paid 5 times book or something for Iscar. It wasn’t in the Graham play. And Warren who learned under Graham, just, he learned better over time. And I’ve learned better. The nice thing about the game we’re in, is that you can keep learning. And we’re still doing it.

Imagine we’re in the press…for all of a sudden (buying) airline stocks? What have we said about the airline business? We thought it was a joke it was such a terrible business. And now if you put all of those stocks together we own one minor airline. We did the same thing in railroads, we said “railroads are no damn good, you know there’s too many of them, truck competition…” And we were right it was a terrible business for about 80 years. But finally they got down to four big railroads and it was a better business. And something similar is happening in the airline business.

工具メーカーのイスカルに対して簿価の5倍を払ったという事実は、初見あるいは見逃していました。あくまでも個人的な見積もりですが、簿価5倍の買収水準はPER25倍から30倍になったとも考えられます。ウォーレンであれば出し渋りそうな金額です。しかし、うろ覚えですがイスカルの買収はチャーリーが熱を入れていたと記憶しています。そうだとすれば、ある程度の高値は納得できます。元から非公開企業だったのでイスカルの経営実態はよくわからないままですが、バークシャーの年次報告書によれば従業員数がこの10年間でほぼ倍増しており、着実に成長している様子がうかがえます。

2017年10月28日土曜日

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)

『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスの新しい翻訳書『かくて行動経済学は生まれり』を読みました。『マネー・ボール』でデータに基づく意思決定を取り上げた彼は、本書では人間が意思決定を行う際の矛盾に焦点を移し、昨今よく取りあげられている行動経済学の大家ダニエル・カーネマン(過去記事)と、その研究パートナーだった人物エイモス・トヴェルスキーが歩んだ学者人生や兵役生活、研究成果などをたどっています。

おもしろさという点ではマネー・ボールのほうが上をいくと思いますが、本書には評価したい側面があります。「二人の天才を取りあげたこと」は言うまでもありませんが、「天才同士の協調がどのように進められるのかを描いたこと」がそうです。「天才同士が協調して物事にあたる過程や、そこから生まれるもの」については大いに興味がありました。その典型が、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの協調によってバークシャー・ハサウェイが大きく発展した件です。その意味で本書は、予想外のうれしい一冊でした。

今回は、これからお読みになる方の楽しみを損なわない程度に、一部をご紹介します。最初に引用するのは、エイモス・トヴェルスキーの天才ぶりに触れた箇所です。

「(前略)彼は物理学のことを何も知らないのに、道端で物理学者に出会って30分話すだけで、物理学について、その物理学者が知らないことを話すことができた。わたしは最初、彼をきわめて底の浅い人物だと思った。つまり表面をごまかしてとりつくろっているだけなのだと。でもそれは間違いだった。ごまかしなんかじゃなかったんだ」(p. 111)

*

エイモスの科学のあり方は、少しずつ積み上げていくというものではなかった」とリッチ・ゴンザレスは言う。「一気に飛躍して進む。既存の理論的枠組みを見つけ、その一般命題を見つける。そしてそれをぶち壊すんだ。彼自身も否定的なスタイルで科学をしていると思っていた。実際、彼は否定的という言葉をよく使った」。それがエイモスのやり方だった。他人の間違いを指摘してやり直す。そしてそのうちに、他にも間違いがあったことがわかるのだ。(p. 127)

次の引用は、さまざまなヒューリスティック(代表性や利用可能性といった、経験を踏まえて判断すること)によって、人があやまった予測をする過程を取り上げた箇所です。この種の話題は、本ブログでも何度か取り上げています。

どんな状況でも、不確実性の程度を判断するさい、人は"無言のうちに憶測"をすると彼らは述べている。「たとえばある企業の利益を予測するときは、その会社がふつうの操業状態であることを前提として推測をする」と、彼らのメモにある。「人はその条件が戦争やサボタージュ、不況、あるいはライバル会社の倒産などで、劇的に変化する可能性を考えない」。ここには明らかに、もう一つの間違いの原因がある。人は自分がわかっていないことをわかっていないというだけでなく、自分たちの無知を判断材料として考慮しようとしないのだ。(p. 216)

*

現実の生活で遭遇する多くの複雑な問題、たとえばエジプトがイスラエルに侵攻するかどうか、あるいは夫が他の女のもとに走るかどうかといった問題を前にしたとき、人は頭の中でシナリオを組み立てる。そしてわたしたちが記憶をもとにつくりあげた物語が、確率の計算に取って代わってしまうのだ。「説得力のあるシナリオができると、将来を予測する思考が制限される可能性が高い」と、ダニエルとエイモスは書いている。「不確実な状況がいったんある形で知覚、解釈されると、他の形で見ることは難しくなる」

しかし自分でつくりあげた物語は、材料の利用可能性によってバイアスがかけられている。彼らは「未来のイメージは過去の経験からつくられる」と書いた。これは歴史の重要性についてのサンタヤーナの有名な言葉、「過去を覚えていられない者は、それを繰り返すそしりを受ける」の逆をいくものだ。過去についての記憶が、将来についての判断を歪めかねないと、彼らは言っているのだ。「われわれはよく、ある結果が生じる可能性はほとんど、あるいは絶対にないという判断をくだすが、それはその結果を引き起こす原因となる一連の出来事を想像できないからだ。欠陥は、わたしたちの想像力にある」(p. 219)

備考です。ナシーム・ニコラス・タレブは、想像力を発揮して未来を予測することの難しさについて触れていました。そして、エクスポージャーを予測するほうが容易だとしています(過去記事)。カーネマンのような先達がみつけた知見を踏まえた上での洞察でしょうから、参考にすべき見解だと受け止めています。

2017年10月24日火曜日

いずれ来たる下落を見やった投資家3名の言葉

今回は、バリュー志向のマネージャーが市場の下落について最近触れていた文章を3つご紹介します。(日本語は拙訳)

はじめは、バリュー・ファンドFPAクレセントのマネージャーとしてよく取り上げているスティーブン・ローミック氏の文章です。彼が書いた第3四半期の顧客向けレター[PDF]から引用します。

たいていの場合、わたしたちが株価を追いかけるのは下落しているときだけです。しかし資金があふれ返っている現在の世界は、喜んで金額を上積みする投資家ばかりの状況です。そのようなわけでわたしたちは、クレセント・ファンドが旨とする保守的な姿勢を維持する道を選んでいるわけです。

「辛抱強く書き物を読み、経営者と対話し、きちんと考える」、これが取り得る最良の道だと確信します。[先日亡くなった]トム・ペティが書いたように、そして私たちもちょうど1年前の結びで書いたように、「待っている間がいちばんつらい」ものです。

We typically only chase price when it is falling. Today though, a world awash in capital has found investors willing to pay ever higher prices. We, therefore, prefer to maintain Crescent’s conservative posture.

We believe the best course is to patiently read, speak to business managers, and just think. As Mr. Petty wrote and as we closed exactly a year ago, “The waiting is the hardest part.”

次はウォーリー・ワイツ氏の文章です。「オマハのバリュー・マネージャー」として知られる人物で、彼についても何度か取り上げたことがあります。こちらも第3四半期の顧客向けレターからの引用です。

投資の世界では、こんな古いジョークがあります。新しく登場した巨大なビジネスの盛衰過程において、成長が鈍化して楽観的過ぎた見通しが実現不可能だったとわかると、成長株投資家は持ち株をGARP投資家(Growth At a Reasonable Price; 成長株を妥当な金額で買う)へ売却します。つづいてその株はバリュー投資家へ売られ、最終的にはどん底バリューを待ち受けていた連中の手にわたる、という筋書きです。それぞれの段階において買い手となる者は、「失望は一時的にすぎない、あるいは株価が下落したおかげで十分に割安になっている」と評価します。その際に、深刻な問題を抱えた「落下するナイフ」と、一時的に誤解されている割安な証券とを判別できること、それが決め手となります。

There is an old joke in the investment business that in the life cycle of a great new business, as growth slows and overly optimistic projections fail to materialize, growth investors sell to GARP (growth at a reasonable price) buyers, who sell to value investors, with the shares ultimately ending up in the hands of the deep value crowd. At each stage, the new buyers are making the assessment that the disappointment is temporary or that the stock price has declined enough to create a bargain. The trick is to be able to distinguish between the seriously troubled “falling knife” and the temporarily misunderstood undervalued security.

最後がチャーリー・マンガーです。今年の2月に開催されたデイリー・ジャーナル社の株主総会で彼が発言した内容です。

私からすれば、市場の下落は人生に付き物だと考えますね。長期にわたってこのゲームに関わるつもりならば、そうする必要がでてきます。値段が半分まで下落したときでも、やたらと思い悩まずにやり過ごせますよ。より良い生き方を心がけていれば、資産半減の事態となっても、沈着冷静・端麗優雅に受け流せるでしょう。下落を回避しようとは試みないように。結局はやって来ることです。「自分には来ない」と言う人は、十分果敢に投資していないからですよ。

I regard it as a part of manhood. If you’re going to be in this game for the long haul which is the way to do it. You better be able to handle a 50% decline without fussing too much. Conduct your life so you can handle a 50% decline with aplomb and grace. Don’t try to avoid it. It will come. And if it doesn’t come I’d say your not being aggressive enough”.

2017年10月20日金曜日

2017年バークシャー株主総会(8)バフェットにも矛盾点はある

バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、生産性向上に関する話題です。この話題はおなじみとなっており、たとえば2015年度の「バフェットからの手紙」で大きく取り上げていました。(日本語は拙訳)

3Gキャピタル社における極端なコスト削減策について

<質問> バークシャーは3Gキャピタル社と提携して取引に参加していますが、彼らが極端なまでにコスト削減をして、何千人もの職を減らしている件について、どのようにお考えですか。

<ウォーレン・バフェット> 3G社の経営陣はかなり近い距離から見てきました。基本的に彼らは、「保有する会社は可能な限り生産的であるべし」との信念を持っています。もちろんですが、この会場におられるみなさんにとっても、オマハの人にとっても、アメリカ中の人にとっても、社会全体の発展は生産性の上昇によってもたらされています。もし生産性に変化がなかったとしたら、現代人の生活は1776年の建国当時の人たちと同じままだったでしょう。3Gの人たちは、そのことをすごい速さで実行しているわけです。彼らの取り組みは非常に巧みで、以前よりも少ない人数で運営することによって生産性を高めています。鉄鋼業界であれ、自動車業界であれ、あらゆる産業でそのような取り組みがなされてきました。そのおかげで、今のように生活水準が向上したわけです。

ちなみにバークシャーが買収する際には、すでに効率的に運営されている企業が望ましいと考えています。率直に言って、わたしどもは生産性を高めるプロセスをまるで楽しめません。心地よく感じられないのです。しかし、そういった取り組みは会社を発展させるためのものです。ひとりの人が消費できる量を2倍に増やそうとしても、一人当たりの生産性を改善させるなんらかの方法がなければ、手の打ちようがありません。「政治的な成り行きが事業に影響しかねない」という理由で、そちらの面から悩みそうだと考えているのでしたら、賢明かどうかはともかくとして、うまいご質問だと思います。そのものずばりの答えなのかわかりませんが、彼らは生産性に焦点を当てて非常に賢明なやりかたで取り組んでいるだけではなく、製品の改善やイノベーションや経営陣に対する様々な要望についても相当なまでに注力していることは、申し上げられます。昼食の際にクラフト・ハインツのチーズケーキを食べてみてください。3Gが抱く基本戦術では、生産性向上と同様に、製品の改良やイノベーションがまさしく大きな部分を占めているという点で、同意してくださると思います。

個人的な話をしますと、何千人もの従業員がいた織物事業に携わっていたころに、ある程度の時間をかけて事業から撤退したことがあります。雇用を増やす事業にくらべると、雇用を減らす事業は楽しくないものです。たしかチャーリーと相談して、「実際に人員を削減して生産性を向上させることを主たる利得とする企業は、バークシャーの買収対象から外す」ことを決めたと覚えています。しかし生産性向上を検討することは、社会全体からすれば望ましいことだと思いますし、3Gの人たちの仕事ぶりも見事だと思います。

<チャーリー・マンガー> 生産性を向上させることに、悪いところは何もないですよ。その一方で、「正しいからといって、即実行することにはつながらない」と理屈づけ、非生産的な意見を表明する例がいろいろと見受けられますね。

<ウォーレン・バフェット> その通りだと思います。

(PDFファイルのp. 27。Yahoo! Finance映像では4:24:20)

3G CAPITAL’S EXTREME COST CUTTING

Q. Berkshire partners with 3G Capital on deals. What do you think of their extreme cost cutting and elimination of thousands of jobs?

Warren Buffett: Essentially, 3G management - I’ve watched them very close - is basically they believe in having a company as productive as possible, and of course, the gains in this world for the people in this room and the people in Omaha and the people throughout America have come from gains through productivity. If there had been no change in productivity, we would be living the same life as people lived in 1776. The 3G people do it very fast, and they’re very good making a business productive with fewer people than operated it before. We’ve been doing that in every industry whether it’s steel or cars. That’s why we live as well as we do.

We at Berkshire prefer to buy companies that are already run efficiently. Frankly, we don’t enjoy the process at all of getting more productive. It’s not pleasant, but it is what enabled the company to progress. Nobody has figured a way to double people’s consumption per capita without in some way improving productivity per capita. It’s a good question, and whether it’s smart overall if you think you’re going to suffer politically because political consequences do hit businesses. I don’t know that I can answer the question categorically, but I can tell you they not only focus on productivity and do it in a very intelligent way but also focus to a terrific degree on product improvement, innovation and all of the other things that you want a management to focus on. At lunchtime if you had the Kraft Heinz cheesecake, you will agree with me that product improvement and innovation is just as much a part of the 3G playbook as productivity.

Personally, we have been through the process of being in a textile business that employed a couple thousand people and went out of business over a period of time. It’s just not as much fun to be in a business that cuts jobs rather than a business that adds jobs. Charlie and I would probably forgo having Berkshire buy businesses where the main benefits would come from increasing productivity by actually having fewer workers. I think it is pro social to think in terms of improving productivity, and I think the people at 3G do a very good job.

Charlie Munger: I don’t see anything wrong with increasing productivity. On the other hand, there’s a lot of counter-productivity publicity to doing it. Just because you’re right doesn’t mean you should always do it.

Warren Buffett: I agree with that.

2017年10月16日月曜日

現在の株高を説明する2つの要因(ジェレミー・グランサム)

資産運用会社GMOのジェレミー・グランサム氏は、慎重派のマネージャーとして何度か取り上げてきました。しかし昨年後半あたりからの彼は警戒的な主張を弱め、市場の続伸を是認(あるいは諦観)するような見解を述べています。今回は、GMOが四半期ごとに公表しているレターから引用します。統計好きの彼らしく、「2つの指標が市場参加者の心理をあたため続けてきたことが、株高を導いている」と説明しています。(日本語は拙訳)

Why Are Stock Market Prices So High? (GMO Quarterly Letter 2Q 2017) [PDF]

投資や経済の世界では、この20年の間にほぼすべてのことが変化したものの、不変だったものがひとつあります。それは「人間の性質」です。私たちはそのことを多かれ少なかれ証明できますし、少なくとも株式市場における場合はそうだと言えます。

15年前に[同僚の]ベン・インカーと共に、S&P500のPER水準がどのように遷移するかを説明しようと考えて単純なモデルを構築しましたが、最近になって変更を加えました。ただしそのモデルは、PERの水準が理にかなっていることや相応であることを正当化したり、あるいは将来の株価を予測したりすることを狙ったものではありません。影響を及ぼす主たる要因に対して、市場がどのような典型的反応を示してきたのか、その傾向を表すだけのものです。モデルに含まれる要因のうち、格別に重要なものが2つあります。ひとつめが利益率で、高い値のほうが望ましいです。もうひとつがインフレーションで、こちらは安定的かつ低い値が望まれますが、低すぎる場合は除きます。(中略)

直近20年間で生じた大きな変化を理解するために試みてきたことから飛躍すると、まったくもって行動的な取り組みだけとなりました。妥当か否かはともかくとして、投資家は高い利益率にご執心ですし、微々たるものであっても安定した成長を好みます。その反対にインフレーションを嫌います。1925年から1997年の間、投資家の考えはずっとそうでした。そして新たな時代である1997年から2017年の間にも、まったく同じ考えを抱いてきました。つまり投資家の振る舞いという意味からすれば、「新たな時代に入った」とは到底言えません。相関係数にして0.9と、高い精度で以前と同じことを繰り返しています。1929年そして1965年に生じた市場の頂点では、どちらにおいても非常に短い期間でしたが、利益率とインフレの両方が好ましい数字でした。それとは対照的に、1997年から2017年に至るまでのほぼすべての期間において、投資家にとって好ましい状況がつづきました。ただし範疇外として、市場が下落した非常に短い期間が二度ありましたが。

市場とはこれほど容易に説明できるものなのでしょうか。まあ、実に92年分ありますからね。それでは私たち投資家は、この情報をもとに何ができるのか考えてみましょう。まずひとつ言えるのは、もし利益率やインフレ率が従来の標準的水準に戻る時期がやってくるとすれば、市場のPERも従来の平均へと実際に回帰するでしょう。反対にそのような期間がめぐってこないのであれば、PERはおそらく高いままでしょう。またそれとは別にわかることとして、市場の暴落を期待するのであれば、(2008年から2009年に起こったように)利益率が大幅に下落するか、(1979年から81年当時のように)インフレ率が劇的に上昇し続けるか、あるいはそれらの強力な組み合わせが起こるのを待つべきです。当然ながらそのいずれも起こる可能性はありますが、たぶん起こらないと思われますし、少なくともここしばらくはないと思います。

PERの遷移を説明するために私たちがとった行動的アプローチは、過去に試みてきた「各種要因のごった煮」よりも単純な公式で済みます。しかし少し前に書いたレター「鳴動ならんや、さめざめと」[原題はNot With A Bang But A Whimper。T.S.エリオットの詩の一部]のパート1やパート2で触れた論議と著しく似ています。どちらのアプローチにおいても支配的なのが、利益率の役割です。利益率が上昇することで利益の額を直接増加させるのみならず、利益額に適用されるPER倍率も上昇させます。同様にインフレも、どちらのアプローチでも2番目に強力な要因です。もちろんながら低インフレは金利を低下させ、「ごった煮」に含まれる重要な要素になると思われます。(PDFファイル10ページ)

In an investing and economic world in which almost everything seems to have changed in the last 20 years, one thing has remained constant: human nature. And, we can more or less prove it. At least in the case of the stock market.

Ben Inker and I designed a simple model 15 years ago to explain the shifts in P/E levels of the S&P 500. Recently we updated it. Our model does not attempt to justify the P/E levels as logical or deserved, nor does it attempt to predict future prices. It just shows what has tended to be the market’s typical response over the years to major market factors. By far, the two most important of these are profit margins, the higher the better, and inflation, where stable and lower is better, except not too low.

Now, cutting across that previous attempt to understand these major changes in our new 20-year era, comes an entirely behavioral approach. Whether sensibly or not, investors love high margins and like stable growth even if it’s modest, and hate inflation. They felt this way from 1925 to 1997 and they felt exactly the same way in our new era of 1997 to 2017. So, behaviorally it is absolutely not a new era. It is precisely - to a 0.90 correlation - the same ole same ole. The peaks of 1929 and 1965 delivered favorable margins and inflation inputs but for a very short while in both cases. In contrast, the period of 1997 to 2017 has delivered to investors their preferred conditions almost the entire time, with only two very quick time-outs for market breaks.

Can the market really be this easy to explain? Well, it has been for 92 years! And what can we investors do with this information? It tells us that if we re-enter a period of old normal profits and old normal inflation, the market’s P/E will indeed mean revert to its old average. And if we don’t re-enter such a period, the P/Es are likely to stay high. It tells us separately that if we expect a market crash, we should also expect to have a crash in margins (as we did in 2008-09) or a truly dramatic rise in sustained inflation (as we did in 1979-81) or some powerful combination. All of which is possible of course, but I think improbable, at least in the near term.

This behavioral approach to explaining shifts in P/Es is certainly a much simpler equation than my previous stew-of-factors approach. But it does have some powerful similarities to my earlier arguments found in Parts 1 and 2 of “Not With A Bang But A Whimper." In both approaches, the role of profit margins is dominant. Improved margins not only move the earnings up directly, but also the P/E multiplier applied to those earnings. Inflation is also a strong secondary factor in both approaches, for low inflation, of course, drives down the interest rates, which appear to be an important ingredient in the stew.

直近2回の暴落(2000年からのITバブル崩壊と2007年からの世界金融危機)を「非常に短い下落期間」とまとめるあたりは、さすがに投資界の重鎮です。長期的にみればたしかにその通りですが、思い切った投資ができるのは個人的にはそのような時期しかないので、「非常に短い期間」に備えて流動性に気を遣うこのごろです。

2017年10月12日木曜日

高田式、企業と自分の育て方(『伝えることから始めよう』)

前回の投稿につづいて、今回はジャパネットたかたの高田明さんが書いた『伝えることから始めよう』から2か所ほど引用します。と言っても、高田さんが若かったころの話題は興味深く読める文章ばかりですので、お楽しみを損なわないように、短めのご紹介にとどめておきます。最初の引用は、ヨーロッパ駐在から帰ってきて、実家のカメラ店を手伝い始めたころの話です。

平戸のホテル全部と契約していましたから、毎晩いくつも宴会があって、こっちで500人、あっちで700人って、一晩で1,500枚、2,000枚の写真を撮ってプリントするんです。翌朝、売りに行く場所も十数ヵ所もあるんですよ。社員やアルバイトを十数人雇って、家族全員総出のフル稼働でした。

当時は3色刷りでしたから、1枚プリントするのに3回の手間がかかるから大変でした。現像機は1台しかありませんから、写真は晩ご飯が終わってから兄妹で交代で焼きました。できあがるのは午前4時ごろです。ホテルの朝食は朝6時ぐらいから始まりますから、毎日2,3時間ぐらいしか寝られないんですよ。

手伝えと言われたからやり始めた仕事でしたけれど、私のいいところは、自分でいいなんて言うのはおかしいですけど、過去のことはすぐに忘れて、目の前にあることに夢中になって、全力投球できるところなんですね。手伝いで撮影に行ったら、その時点でもう写真に夢中になっているんですよ。そんな性格に生んでもらって、私はつくづく幸せだと思います。(p. 21)

次にご紹介するのは、ジャパネットを経営するにあたってどのような基本方針を抱いていたのかを説明した文章です。

ジャパネットたかたの経営を振り返ってみると、「長期的なビジョンを持たない積み上げ経営」だったと思います。「長期計画のない経営」「目標を持たない経営」というテーマで講演したこともあります。計画性はほとんどなかったんです。

私は5年先、10年先の自分や会社の姿を思い描いたり、目標を立てたりして、それを達成するために今なすべきことを考えるという方法はとりません。そもそも5年先に何をしたいのか、どうなっていたいのか、ということすらあまり考えません。半年先、1年先のことも考えないんです。

軸足を置いていたのは、とにかく「今」です。今できることに最善を尽くす。そこから、次のステップが見えてくる。最善を尽くす中で次のステップが見えてきたら、スモールステップで次に進む。その繰り返しで成長を続けてきました。目標と呼べるようなものがあったとしたら、それは、とにかく昨日よりも今日、今日よりも明日、今年よりも来年と売上を伸ばし、成長していくという強い想いでした。

家業のカメラ店を手伝い始めてから、ジャパネットたかたを設立するに至った経緯はお話ししたとおりです。今を一生懸命に生きて、見えてきた課題を一つずつ克服し、すべてスモールステップを積み上げてきただけでした。

マーケティングでもそうですが、過去の事例があって数字があると、「こういうデータがあるから、こう動くだろう」と人間は考えてしまいがちです。しかし、それはあくまで過去の数字です。参考にはすべきですが、それにとらわれてはいけないと思います。数字から直近の変化をどう読み取るのかが重要なのであって、数字やデータに縛られると変化に対応できなくなります。今日売れたものが、明日は売れないということはよくあります。長期の目標だけにとらわれてしまうと、そこに危機が潜んでいるということもあると思うのです。

実際のところ、例えば、10年後に売上を10倍にする、などという目標を掲げたところで、10年後のことはだれにも予測がつきません。あまりに高い目標で、具体的に今、何をしたらいいかもわからない。無理な販売戦略を作ってしまうかもしれません。

数値目標を掲げてしまうと、数字を達成しようとして背伸びしがちです。とにかく売ろうとして、無理をして価格を安くしたり品質を落としてしまったりしてしまう。私はそういうことが好きではありません。

また、短い期間で売上を伸ばしたところで長くは続きません。どこかにひずみが出て、結果的に事業に悪影響を与えます。売上を伸ばすために、商品やサービスの品質が落ちてしまっては本末転倒だと思います。

目標を掲げること自体は悪いとは思いませんが、実力とかけ離れた目標を立ててしまうとよいことはありません。プレッシャーになるだけですよ。目標や数字にばかり気を取られ、身の丈に合わないことをしようとしたり、事業のミッションを忘れたりしてしまいます。それでは、事業をやること自体の意味を失ってしまうと思うんです。(中略)

目標は持たない経営に徹してきた私ですが、自分自身が向上する、会社を成長させるということについては強い意識を持ってきました。しかも、大きな向上を常に目指す。そんなことはできないと思われるようなことでも、成功する姿をイメージして挑戦してきました。(中略)

一流を目指す人は、「できない」なんて決めつけません。「できない」と思うようなことに果敢にぶつかっていきますよね。一流になりたいと願う人はたくさんいますが、本当になりたいなら、本気で行動しなければいけません。大きな向上を目指さないと、一流には近づいていけないと思うのです。(中略)

もうこれでいい、と思った瞬間に、その人の成長は止まってしまいます。自分を高めるという意識は、常に自分でしっかり持っていなければいけない。そして、自分を高めることができれば、結果もついてきます。(中略)

他者との比較がモチベーションになる人もいるようです。が、私はそうではありませんでした。比べるのは常に自分自身の過去でした。周囲のだれかと自分を比べて、優越感や劣等感を持ってもなんの得にもなりません。しかし、昨日の自分と比べると、自分の成長につながります。他の人に勝つことより、常に自分史上最高を目指せばいいと思うのです。(p. 231)

高田さんの抱く考え方は、いろいろな点でウォーレン・バフェットと似ていると感じました。うろ覚えになりますが、ウォーレン率いるバークシャー・ハサウェイは固定的な戦略を持たない主義で知られています(たとえば過去記事)。また、他人の目よりも自己評価を大切にする人ですし(過去記事)、「もうこれでいい」とは考えずに「死ぬまで現役」の人です。大きな向上をめざしてきたのは言うまでもありません。「似た者同士」はウォーレンが望むところですので、非公開企業のジャパネットさんには、事業継承でお悩みの際には、終の棲家としてバークシャーをご検討いただきたいものです(過去記事)。

2017年10月8日日曜日

ジャパネットたかた創業者、高田明さんの講演を聴きました

少し前のことですが、ジャパネットたかたの創業者社長だった高田明さんの講演会に出席しました。

我が家ではテレビなしの生活がずいぶん続いているので、高田さんの番組自体をみたことがなく、どこかで何かの折に短いシーンをみかけた程度でした。しかし、かん高い声で話す高田さんのことは引退以前から気になっていました。月並みですが、どのような経営によって会社を育てたのか、知りたかったからです。今回たまたま講演を聴ける機会がやってきたときには、素直によろこびました。

講演会に先立って、彼が今年出していた著書『伝えることから始めよう』を読んでおいたほうがよいか迷いました。結局、本を読むのは講演の後にしましたが、それで正解でした。当たり前ですが、内容は本のほうが充実しています。しかし心をつかんだのは、高田さんご本人がその場で差し出してくださる、あらゆるもののほうでした。まず講演に感激したことで高田さんの話しぶりが頭に残りました。その状態で読書することで、講演での臨場感をよみがえらせながら、より詳細な話を味わうことができました。

今回の投稿では、講演会でわたしがメモした内容(実際はタイプした内容)をご紹介します。そして続きとなる投稿では、いつものように高田さんの同書から一部を引用・ご紹介します。

<講演での様子>

・「今日の講演のために、ハワイから1日早く帰ってきました」

高田さんはきれいに日焼けした顔で登場しました。ハワイ行きの理由は聞き漏らしましたが、著書によれば、ジャパネットではサービスの一環として顧客をハワイへ招待しているとのことです。

・「普通の講演では、聴衆は経営者のことが多いですね。講演活動は300回ぐらいやってきましたが、今回は一番緊張しています」

今回のおもな聴衆は中高生(が少数)及びその保護者等(が多数)だったので、いつもとは若干ちがう心構えを持たれていたのもしれません。なお講演会場はほぼ満席で、聴講者の総数は1,000名弱程度だったと思います。

・自分が話した内容に対して聴衆が適宜拍手を返す、という形式で終始進められました。

「時間と空間を聞き手と共有するために講演会に来た」と言われていたとおり、気持ちのやり取りや場の雰囲気の流れを大切にしていたようです。出だしのころは聴衆の拍手がなかなか揃わなかったのですが、しだいに間合いがとれてきて、高田さんの話と聴衆の拍手の掛け合いが自然につながるようになりました。

・開演当初は演台の横に立って、片手は縁を軽くつかみ、片手はマイクを握って話していました。時間が進むと適宜ゆっくりと移動し、演壇上を広く使っていました。話の流れに沿った自然な所作でした。

・話がのってくると、だんだん声の調子が高くなってきました。話の途中でご本人もそのことを認めておられました。

・講演時間は1時間強。ハンカチで汗をぬぐったのは2回程度でした。ちなみに途中で水分をとることはなかったと記憶しています。


<若い頃の外国での経験について>

・「大学では英会話をよく勉強しました。ある企業に入社し、23歳のときにドイツのデュッセルドルフに駐在しました。ヨーロッパでは東側の国以外はほとんど行きました。この英語力が人生を変えたんですね」。聴衆である生徒の親御さんに対して、「いちばんやりたいことを伸ばしてあげることが大事です」

・「英語の勉強では電子辞書を使うといいですよ。ジャパネットでは1週間で150万台売れました。おそらく日本で一番の売上台数です」

著書でも書かれていますが、リンカーンの演説(の一部)を披露してくれました。淀みなく流れるフレーズには、聴衆から軽いどよめきと拍手があがりました。

・ドイツ語、フランス語、イタリア語などでも、短いフレーズを流暢に披露してくれました。歌も上手、低い声も麗しいです。

これらの件に限らず、高田さんはよく勉強なさっていて、教養も芸も兼ね備え、商売上手で人当たりはよく、仕事熱心で情熱は尽きず、といった印象を強く受けました。

・「イタリアの料理はおいしかったですね。語学力を使ってその国の文化を学ぶことで、人生を豊かにしていけるんです。学問も絶対に大事ですけれど、そういったことにも取り組んでほしいですね」


<手がけてきた事業について>

・「勤めていた会社を25歳でやめて平戸に帰りました。27歳で結婚して、(実家の商売である)カメラは平戸で5年間、佐世保で10年間やりました」

・「ホテルの宴会場で写真を撮る仕事もありましたが、どこの県の人が写真をどのように買うのか学びました。これはマーケティングですね」

・「どんな仕事でも一生懸命やっている人はその中に価値を見出すんですよ。それを学びましたね。つまり、ミッションを発見すること。そしてミッションを一番大事にすること。利益や売上はその次です。たとえば、写真はうつりがいいことが一番ですね。相手の立場で考えていく人が一番です。業界の常識は消費者の常識ではないんですよ」

・「25歳当時の売上は年間3,000万円でした。一方、ジャパネットの今年の売上高は1,900億円です」

・「5分間のラジオ番組に出て(通販をやって)、おもしろいと感じました。長崎でこれだけ売れるのならばと考えて、全国ネットワークを3,4年間で作ったんです。どんなことでも、自分が率先してやる必要があります。39度の熱があるときでも、布団の中からやりましたよ」

・「ラジオ通販では『赤色』と話しても、目で確かめられないので聞き手は想像するしかありません。そのため、わかりやすく伝えることに気を付けたんです。そのおかげか、ラジオ通販の返品率はテレビ通販よりも低かったです」

・「寒冷地であるポーランドの水鳥で作った羽毛布団は最高です。現地で働いている人の苦労話などをしたら、通販ですごく売れました」

・「常に新しいことをやっていかないと、お客さんが慣れてしまってついてきません。シュンペーターが言ったように、なにかを付け加えることで新しいものになるんです」

・「良いものだけれど眠っているものが、全国にはたくさんあります。ですが、伝える力が弱くて広まっていません」


<生きる姿勢について>

・「未来のことを悩む人が多いですね。すると、現在がおろそかになります。今という瞬間をどれだけ大事にするか、一生懸命生きるか。それが夢を達成するために必要なことです。それで明日が変わるんですよ

・「過去にとらわれると、行動を縛られてしまいます。過去は変えられないですが、未来は変えられるんです」

・「しかし、『がんばっているつもり』では人生は変えられません。そのことはテレビショッピングで学びました。売れないものは何度やっても売れない。なぜならば、『伝わったつもり』になっていたからです」

・たとえば「小説家であれば『むずかしいことをやさしく、やさしいことをもっとかんたんに』書くのがいいですね」

・「高い声でくり返し伝えることです。オバマ大統領もキング牧師もそうでした。そしてそれよりももっと大事なのは、間(ま)をもって言葉を発することです。『間は次の有を生み出す無である』。間を取って話してくれると、お互いがつながるんですね」

なにかを伝えたいときには、自分は「声が自然と高くなる」とのことでした。

・なにかを伝えたいときには、「言葉よりも大事なことがあります。『マイクが軽い』と口で言うだけでなく、指で指してものを動かすとそれに注目してくれるんです。さらに表情をもって説明する、つまり喜怒哀楽をもって示すこと。体全体で表現することです」

・「日々取り組んでいることは無駄にはなりません。大事なのは、それを継続していくことです。そして自分の幸せは二の次と考え、まわりの人を幸せにしてほしいですね」

・「人生で失敗はないんです。一生懸命やった場合は失敗ではなく、『試練』だったと考えています

・「謙虚に生きていくことですね」

・「ものをほとんど買わないので、時計もしていません」

・「喜怒哀楽は人間だけがもっている宝物です。なにかをがんばって、そのとき仲間に囲まれていれば、なおいいですね。ひとりでは限られているので、同じ価値を持った仲間と走るのがいいです。それから、人の縁を大事にしたいですね」

・「がんばっている夫婦の子供には、そのがんばりが受け継がれていくものです」

家族のことは、著書でもいろいろと語られています。高田家の生き方や信条が描かれており、興味深く読めます。

・「いい大学に進学するのはすばらしいことです。ただ、それはあくまでもひとつの要素です。そこに人間性を加えていくことが大切ですよ」


<おすすめの本>

・「エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・チョイス』。彼の本はほとんど読んでいます。今の世の中は、問題を複雑にしすぎているんです。頭の中でそれほどたくさんは解決できません。そうではなく、一番の問題を解決していけば、それにつれてあとのものも解決されることがあります。だから優先順位を考えて、1番目・2番目をつぶしていくのがいいと思います」

・「世阿弥の本を読んでほしいですね。650年ぐらい前の本で、(ものごとを)150年続かせるにはどうしたらよいか書いてあります。NHKから100ページぐらいの本が出ています。我見とか離見という言葉がありますね。相手の気持ちを考えて話すことが大事ですよ。日本の電機産業は優秀ですが、他の国に負けています。消費者がなにを求めているかを考えずに売るのでは、相手のことを考えていないですね。世阿弥の本を読んで、『離れて客観的に俯瞰してみつめる心』が必要だと感じました」

紹介された本は、おそらく『NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』だと思われます。


<現在取り組んでいること>

・「会社(ジャパネット)はきっぱりと辞めました。会議には出ていないですし、座席もないです」

・「生き生きとした世の中にしたいですね」ということで、現在はジャパネットが子会社化したサッカー・チームであるV・ファーレン長崎(ヴィ・ファーレン)の社長を務めておられます。

・ヴィ・ファーレンを知っている者が聴衆の中にわずかしかいなかったので、「知っている人がこんなに少ない講演会は、はじめて」と呆れて笑っていました。「チームの現在の成績はJ2の2位です。選手の気持ちが変わったことで、2位になっています。ただしサッカーで勝つことは手段であって、長崎をよくすることの役に立ちたいですね」

・長崎の活気はなにかという生徒からの質問に対して、「歴史が大きい街だからだと思いますよ。ヴィ・ファーレンは平和を発信するチームにしていきたいです」

・「来年には70歳になります。最高齢を考えると、あと49年生きたいです。そう考えると、自分の人生にはまだたくさんの時間があります。そして49年後に、(講演をおこなった)ここに戻ってきたいですね」

2017年10月4日水曜日

2017年バークシャー株主総会(7)事業をうまく評価できるようになるには

バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、事業の評価基準に関する話題です。ウォーレン・バフェットからの助言(赤字で強調した箇所)は、おそらく多くの人にとって福音になることと思います。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

価値評価の方法

<質問> さきほどマンガーさんが中国市場と米国市場をくらべた話をされていましたが、その際の評価方法としては、株式市場時価総額をGDPで割る方法[バフェット指標]と、CAPEを使う方法[シラーP/E; 景気循環調整後PER]のどちらが適しているとお考えですか。

<バフェット> お話しにあったどちらの基準も、わたしどもが証券の価値を評価する上で最上というわけではありません。将来にわたって事業が稼ぎ得る現金の現在価値は、事業を評価するうえで重要な要因です。しかし世間では絶えず公式を求めていますが、究極の公式というものはありません。なにが変数に関わっているのか、わからないからです。もちろん、それぞれの数値にはそれなりの意味があります。しかし事業の評価とは、「実際に変数の値を完璧に設定できる公式」へと単純化できるものではありません。お話しに挙げられたどちらの数も話題にされることが多いですが、それがとても重要なこともあるでしょうし、無意味同然のこともあると思います。ひとつやふたつの公式で済むほど単純ではありません。

将来の金利がどうなるか、これがいちばん重要です。「取り得る最良のやりかただ」として、現在の利率を当てはめる例がよくあります。30年物債券の利率をみてください。資金を30年間出しておいて、30年後には損も得もなしに無リスクで戻ってほしいと考える人が、どれだけの金利を期待しているかがうかがえるでしょう。その数字について良い予想ができるかと聞かれても何とも申し上げられませんが、だからといって現在の値を使うという意味ではありません。チャーリーのほうも、「お話しに挙げられた2つの基準を物差しにして、中国市場と米国市場を比較評価することはできない」と答えると思います。

<マンガー> 私からは、「釣りをする上での規則その1、魚のいるところで釣れ」と言っただけですよ。腕の良い釣り師にとっては、今なら中国のほうがもっと魚をみつけられるでしょう。私が言ったのはそれだけです。楽しさひとしおの釣場ですよ。

<バフェット> 投資家として事業をもっとうまく評価できるようになりたい方は、ダメな事業をしばらくのあいだ運営する手だてをぜひ見つけるべきです。すぐれた会社に入って失敗させようもない良好な事業から学ぶよりも、ひどい事業に携わって実際に数年間ほど奮闘してみれば、ビジネスについて実にたくさんのことを学べます。わたしどもにとっても、実体験として学んできたことの大きな部分を占めています。良い事業に関わるという意味からすれば、悪い事業に実際に何度か関わって目の当たりにしたことの割合はもっと大きかったと思います。

<マンガー> いや、実にひどいものでしたよ。

<バフェット> どれほどひどいものなのか、どれだけ自分が非力なのか、どれほど優れたIQを以てしても問題を解決できないのか。そういったことも理解できる有意義な経験になると思います。まあ、非常に強くまではお勧めしませんが。

<マンガー> 我々にとっては非常に有益でした。学びたいのであれば、個々人が厳しい経験をするのが一番ですよ。当然ながら我々も、それなりに経験しましたがね。

(PDFファイルのp. 38。Yahoo! Finance映像では5:34:30)

VALUATION METHODS

Q. In looking at the Chinese market vs the U.S. market, what is the best valuation method, market cap divided by GDP or the Cyclically Adjusted P/E (CAPE) method?

Warren Buffett: Both of the standards you mention are not paramount at all in our valuation of securities. The present value of the future cash that can be taken out of the business is the important factor in valuing a business. People are always looking for a formula. There’s not an ultimate formula. You don’t know what to stick in for the variables. Every number has some degree of meaning. Valuation of a business - it is not reducible to any formula where you can actually put in the variables perfectly. Both of the things you mentioned get themselves bandied around a lot. Sometimes they can be very important. Sometimes they can be almost totally unimportant. It’s not quite as simple as having one or two formulas.

The most important thing is future interest rates. People frequently plug in the current interest rate saying that’s the best they can do. The 30-year bond rate should tell you what people who are willing to put out money for 30 years and have no risk of dollar gain or dollar loss at the end of the 30-year period expect to earn. I’m not sure I can come up with a better figure. That doesn’t mean I’m going to use the current figure either. I’d say - I think Charlie’s answer is he does not come up with China vs the US market valuations based on what you’ve mentioned as yardsticks.

Charlie Munger: All I said before is the first rule of fishing is to fish where the fish are. A good fisherman can find more fish in China now. That’s all I meant. It’s a happier hunting ground.

Warren Buffett: If you want to be a good evaluator of businesses, as an investor, you really ought to figure out a way to run a lousy business for awhile. You learn a whole lot more about business by actually struggling with a terrible business for a couple of years than you learn by getting into a very good one where the business is so good you can’t mess it up. It was a big part of our learning experience, and I think a bigger part in the sense of being involved in a good business was actually being involved in some bad businesses and seeing -

Charlie Munger: -how awful it was.

Warren Buffett: How awful it is and how little you can do about it and how IQ does not solve the problem. It’s a useful experience, but I wouldn’t advise too much of it.

Charlie Munger: It was very useful to us. There’s nothing like a personal, painful experience if you want to learn, and we certainly had our share of it.

2017年10月2日月曜日

カモになりたきゃ、ニュースを聴け(ナシーム・ニコラス・タレブ)

ナシーム・ニコラス・タレブの『反脆弱性』から、これが最後の引用です。シグナルとノイズの話題です。

科学では、ノイズとは実際の「音」以外にも使われる一般的な概念であり、求めている情報を理解するために取り除く必要のある、何の役にも立たないランダムな情報を指す。(中略)

ビジネスや経済の意思決定では、データ依存は強烈な副作用をもたらす。現代では、縦横無尽なネットワークのおかげでデータは山ほどある。そして、データ漬けになればなるほど、偽の情報の割合も大きくなる。めったに話題にならないが、データにはひとつの性質がある。大量なデータは有害なのだ。いや、ほどほどの量でも。(中略)

データに触れれば触れるほど、「信号」と呼ばれる貴重な情報よりも、ノイズに触れる可能性は不釣り合いに高まっていく。ノイズ対信号比が高くなるわけだ。それに、心理的な混乱ではなく、データそのものに潜む混乱もある。たとえば、情報を年1回確認するとしよう。株価でも、義父の工場の肥料の売上でも、ウラジオストクのインフレ指数でもいい。仮に、年単位でみると、情報の信号対ノイズ比がおよそ1対1(ノイズと信号が半分ずつ)だとする。つまり、変化のおよそ半分は本当の改善や悪化で、残りの半分はランダムな変化ということだ。年1回の観察ではこの比率だが、同じデータを日単位で見ると、ノイズが95パーセントで信号が5パーセントになる。さらに、ニュースや市場価格の動向のように、1時間単位でデータを観察すると、ノイズが99.5パーセントで信号が0.5パーセントになってしまう。ノイズが信号の200倍もあるわけだ。よって、(大事件でもない)ニュースを一生懸命聴いている人たちは、カモの一歩手前なのだ。(上巻p. 212)

信号(シグナル)とノイズについて取り上げた本としては、過去記事「これから坂を下る人」で取り上げた『シグナル&ノイズ』が楽しめました。

ノイズに触れる機会を減らすように説いた文章としては、ウォーレン・バフェットの過去記事「2013年度バフェットからの手紙 - 投資に関するわたしからの助言(1)」が参考になります。

「ニュースに触れていなかった間に株価が下がるのは困る」というのであれば、ジョン・テンプルトンの教え「(ルールその10)狼狽するな」に従うのはどうでしょうか。

問題なのは、「ごく少数の事件のせいで、企業価値が激減する」場合です。これこそ前々回のタレブの話題にでてきた「脆い」企業の典型です。このような企業への投資を検討する際には、リスク管理を重んじる必要があると思います。私見になりますが、そもそも投資しないか、リスク影響度(リスク・エクスポージャー)を吸収できる以上の割安な値段で買うか、ポートフォリオ全体に占める比率を小さく抑えるか、といった選択肢のなかから意思決定するのがよいと思われます。

2017年9月28日木曜日

暴落という名の浄化(ナシーム・ニコラス・タレブ)

何回か前の投稿で取り上げたナシーム・ニコラス・タレブの『反脆弱性』から、市場の暴落に関わる話題を引用します。

変動には浄化の働きもある。小さな山火事が定期的に発生することで、とても燃えやすい物質が一掃されるので、蓄積せずにすむ。"安全のため"に山火事を体系的に防ごうとすると、大火事が起きたときの被害はいっそうひどくなる。同じような理由で、安定は経済にとってよくない。後退することもなく、ずっと安定して成長を続けている企業は、非常に脆弱になる。そして、隠れた脆弱性が水面下で蓄積しつづける。だから、危機を先送りにするのはあまりよくない。同じように、市場に変動性がないと、罰を免れた潜在的リスクが膨らんでいく。市場が打撃を受けていない期間が長ければ長いほど、いったん混乱が発生したときの被害は大きくなるのだ。

この安定性がもたらす逆効果を科学的にモデル化するのは簡単だ。でも、私はトレーダーになったころ、ベテラン中のベテランだけが使っているヒューリスティック(経験則)を教わった。市場が"新安値"に達すると、つまり長い間経験していなかった水準まで下落すると、人々が出口に殺到し、"大量の血"が飛び散るのだ。金を失うことに慣れていない人々は、大きな損失を食らい、苦痛をこうむる。たとえば、その市場価格が2年ぶりの水準なら、「2年来の安値」と呼ばれ、1年来の安値よりも大きな被害をもたらす。うまいことに、この現象は「クリーンアップ(浄化)」と呼ばれている。"弱いプレーヤー"を追い出すという意味だ。"弱いプレーヤー"というのはもちろん、自分が脆いことに気づいておらず、誤った安心感に惑わされている連中のことだ。弱いプレーヤーがいっせいに出口に殺到すれば、全体を崩壊に導く。変動性のある市場では、長い間リスクの"クリーンアップ"が起こらないことはありえないので、こういう市場の崩壊を避けることができる。

ラテン語の言い回しを借りるなら、「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」ということだ。(上巻p. 175)

2017年9月24日日曜日

オークツリー式の投資手法(ハワード・マークス)

Oaktreeのハワード・マークスが書いたメモから、2つ目の引用です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

メディアが示した反応(より一部を抜粋)

新刊を執筆するにあたって、投資家が平均以上の成績を達成するためにできることを、大きく2つに分類しました。

・「選択」、つまりよい成果が得られるものをより多く保有し、悪い成果になるものをなるべく減らすように努めること。

・「サイクルに応じた調整」、つまり市場が上昇する際にリスク・エクスポージャー(リスク資産の度合い)を増やし、下落する際にその度合いを減らすように努めること。

[席を共にしていた評論家が言ったように]「良い時期も悪い時期もない」と甘受するのは、つまり上述した後者を放棄することを意味します。実に見事な成績をあげてきたバフェットが、「他人が強欲なときには恐れるべし。他人が恐れるときには強欲たるべし」と教えてくれたにも関わらず、その評論家はどうやら次のように言いたいようです。「いついかなるときも、足並みそろえて欲深くあれ(あるいは足並みそろえて恐れをなせ)」と。

「保有資産を市場の状況に合わせて調整することで、投資成績を向上させられる」と私は痛切に感じていますし、オークツリーではそうすることができました。2005-06年には注意に注意を重ねましたし、1990-91年や2001-02年そして2008年にリーマン・ブラザーズ社が破産を申請した直後の時期には、積極果敢に行動しました。それというのも、以下の観点において論理的な判断を下しておいたからです。

・市場における振る舞い
・評価水準の度合い
・リスキーな資金の調達しやすさ
・投資家の心理や行動の状態
・強欲ならびに恐れの出現状況
・通常のマーケットサイクルでみたときの、市場が現在位置する段階

そのような取り組みと「マクロ的な予測は、オークツリーが実践する投資のカギではない」とする投資哲学上の原則とは相反するのではないかと問い質されても、「否」であると明言できます。重要なのは、それらを評価するには現状を注視することだけが必要であり、「ある将来像」を凝視する必要はない点です。

「行く末がどちらなのかわからなくとも、今どこに居るのかは是が非でも知るべき」とは、常々申し上げている言葉です。投資対象がどのように値踏みされているのか、また投資家がどのように行動しているのかを観察したところで、明日に何が起こるのか知り得るものではありません。しかしそのことは、「現在はどこにいて、それゆえに少し先までの未来を支配する勝算」について多くを語ってくれます。もっと積極的になるべきか、あるいは守備的になるべきかを読み取ることもできます。ただし「常に正確である」とは期待できませんし、当然ながら「知るや否や正しい」わけでもありません。

私と共にテレビ番組に出演していた人物が、「良い時期も悪い時期もない」と発言していました。この弁については反論の余地があります。彼が言わんとしていたことは、「現状はどの位置にあるのか判断する能力を大多数の人は欠いているので、先に述べた件は挑戦しないほうがよい」というものでした。

それが困難であるという意見には賛成です。上昇と下降から成るサイクルでは、たいていはファンダメンタル面の変化が発端となっています。また揺れ動く感情が極端な地点へと押しやります。ファンダメンタルに関する情報や感情面における影響は、だれもが同じように受けます。もしそれらに対して典型的な反応を示せば、その人のとる行動も典型的なものとなります。サイクルに従い、極端に際しては痛ましいあやまちを犯します。それとは反対にうまく対応するには、すなわち逆張りかつサイクルと逆に動くことで成功するには、第一に市場サイクルを理解することが必要です。これは、経験を積むか歴史を学ぶことを通して身に付けられます。第二に、外部からの刺激に対する感情的な反応を統制できることが必要です。これはあきらかに容易なことではありません。平均的な投資家(一例として、サイクルを極端へと駆動する人たち)がそうできれば、そこまで極端な高低には振れないはずです。しかし投資家たるもの、試みるべきです。正真正銘の逆張り派にはなれない、つまり極端に際して逆向きに行動できないのであれば(難しいのは認めますが)、それでは群衆に付き従うのを拒否してみるのはどうでしょうか。(p. 2)

Media Reaction

In working on my new book, I divided the things an investor can do to achieve above average performance into two general categories:

- selection: trying to hold more of the things that will do better and less of the things that will do worse, and

- cycle adjustment: trying to have more risk exposure when markets rise and less when they fall.

Accepting that “there is no better or worse time” simply means giving up on the latter. Whereas Buffett tells us to “be fearful when others are greedy and greedy when others are fearful” - and he’s got a pretty good track record - this commentator seems to be saying we should be equally greedy (and equally fearful) all the time.

I feel strongly that it’s possible to improve investment results by adjusting your positioning to fit the market, and Oaktree was able to do so by turning highly cautious in 2005-06 and highly aggressive in 1990-91, 2001-02 and immediately after the Lehman bankruptcy filing in 2008. This was done on the basis of reasoned judgments concerning:

- how markets have been acting,
- the level of valuations,
- the ease of executing risky financings,
- the status of investor psychology and behavior,
- the presence of greed versus fear, and
- where the markets stand in their usual cycle.

Is this effort in conflict with the tenet of Oaktree’s investment philosophy that says macro-forecasting isn’t key to our investing? My answer is an emphatic “no.” Importantly, assessing these things only requires observations regarding the present, not a single forecast.

As I say regularly, “We may not know where we’re going, but we sure as heck ought to know where we stand.” Observations regarding valuation and investor behavior can’t tell you what’ll happen tomorrow, but they say a lot about where we stand today, and thus about the odds that will govern the intermediate term. They can tell you whether to be more aggressive or more defensive; they just can’t be expected to always be correct, and certainly not correct right away.

The person who said “there is no better or worse time” was on TV with me, giving me a chance to push back. What he meant, he said, was that the vast majority of people lack the ability to discern where we stand in this regard, so they might as well not try.

I agree that it’s hard. Up-and-down cycles are usually triggered by changes in fundamentals and pushed to their extremes by swings in emotion. Everyone is exposed to the same fundamental information and emotional influences, and if you respond to them in a typical fashion, your behavior will be typical: pro-cyclical and painfully wrong at the extremes. To do better - to succeed at being contrarian and anti-cyclical - you have to (a) have an understanding of cycles, which can be gained through either experience or studying history, and (b) be able to control your emotional reaction to external stimuli. Clearly this isn’t easy, and if average investors (i.e., the people who drive cycles to extremes) could do it, the extremes wouldn’t be as high and low as they are. But investors should still try. If they can’t be explicitly contrarian - doing the opposite at the extremes (which admittedly is hard) - how about just refusing to go along with the herd?

少数厳選主義のチャーリー・マンガーは、短期的な市場の変動には目を向けずに超然とした株主でありつづけるタイプです。一方で彼の高弟ともいえるハワード・マークスは、債券や苦境にある(distressed)企業などへの投資を扱っているせいか、オーソドックスな「安く買って、高く売る」原則に従っているようです。同氏は優れた常識感覚の持ち主ですし、そのうえで今回のようなさまざまな観点から現状を診断して行動につなげることで、リターンの上積みや下落リスクの管理を図っているものと受けとめました。彼が示すように、強力な基本原則を軸として堅実な肉付けをしたり工夫を積み重ねたりすることでも、投資の世界では十分な成功をあげられるのだろうと感じました。

2017年9月20日水曜日

2017年バークシャー株主総会(6)高IQすなわち儲け上手とはならない

バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、おなじみの話題「資本配分」についてです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

資本配分能力について

<質問> 資本配分に関するアイデアを交わし合うのは、これからも長く続くのでしょうか。

<マンガー> ずっと続くことはありえないですね(笑)。

<バフェット> チャーリー、負け犬根性はいけませんよ(笑)。

バークシャーの取締役会一同が抱く考えだけでなく、現在の場合であればわたしたちがいなくなったあとのためにチャーリーやわたしが推薦する面でも、当社で仕事に就く後継者にとって「資本配分の技量が一定の評価を得ていること」が最重要であるのは確かです。バークシャーでは資本配分がおどろくほどに大切だからです。

現在の株主資本は2,800か2,900億ドルほどになります。次の10年だけをとれば、だれも正確には予測できませんが、現在の償却費が年間70億ドル程度の水準ですから、次のマネージャーが10年間に配分しなければならない資金は、おそらく4,000億ドル程度になるでしょう。今から10年後のバークシャーは、過去に生じたすべてよりも多くの資金を10年間で受け入れた事業集合体になっていると思います。バークシャーのCEOという仕事には、とても理性的な資本配分者が必要です。いずれはその人物を得るでしょう。

しかし、資本配分が得手ではないかもしれない人物に任せるのは、とんでもない間違いです。かなり得意な人でないといけません。そのことがどれだけ大切か理解しているからこそ、わたしたちバークシャーには優位があります。そこに焦点を当てているのです。非常に多くの会社では能力や売り上げ実績に基づいてトップの座につく人を決めますが、それらはどれも事業を進める上での異なった側面です。自らの手に資本配分といったものが任された彼らは、経営戦略部門を設立したり、投資銀行家の話をきいたりするでしょう。しかし自分でやるほうがうまくできるものです。

資本配分の経験がないまま別の経歴を歩んできた人は、バイオリンを演奏するつもりでカーネギー・ホールへ行って、ステージに歩んだところでピアノへと導かれるようなものです。他の領域については多くの能力があっても、資本配分をする能力は実のところ持っていない人にバークシャーを任せても、うまく運営することはできません。わたしはその力を「金儲け思考」[原文ではmoney mind]と呼んでいます。

IQテストなどで120とか140といった成績をとれる人たちがいるとします。そういった人たちのなかには、「ある種類のことは得意ながらも、他はそれなりの能力」という人がいるものです。すごく頭が良いものの「金儲け思考」で考えることができず、そのせいでとても愚かしい決定をくだしてしまう人たちを知っています。ほとんどの人間ができないあらゆることをこなせるのに、彼らの脳はそのようには働けないのです。他方でそこまでは賢くなくても、SATのテストは良くできていますが、金勘定でおろかな決断を下したことがまったくない人たちも知っています。たくさんの才能を持った人がバークシャーのCEOになってほしいとは望みますが、「金儲け思考」ができない人はまったく望んでいません。

<マンガー> 株式を買うという選択肢もありますが、それならばお手上げというほどの問題ではないでしょう。いずれにせよ、何かしら賢明なことをするでしょうから。

<バフェット> 「金儲け思考」のできる人には、「株を買う上で、妥当なときとそうでないとき」がわかります。実のところ「株の購入についてどう考えているか」と問うのは、経営面での能力を試す上でかなりすぐれたテストになります。その手の主題を真正面から考えたりする際に、それほど複雑な方程式は出てきません。人によって考え方はちがうと思います。しかし他のことでは飛びぬけてすぐれていると思われる人が、株の買いどきがわりとはっきりしている話題で、なんともバカバカしいことを言うわけです。

(PDFファイルのp.23。Yahoo! Finance映像では2:54:00)

CAPITAL ALLOCATION ABILITIES

Q. Will bouncing ideas off one another on capital allocation continue long into the future?

Charlie Munger: It can’t continue very long.

Warren Buffett: Don’t get defeatish, Charlie.

Any successor that is put in at Berkshire - proven capital allocation abilities are certain to be uppermost in the Board’s mind, in the current case, in terms of my recommendation and Charlie’s recommendation, for what happens after we are not around. Capital allocation is incredibly important at Berkshire.

Right now we have $280 or $290 billion of shareholders’ equity. If you take the next decade alone, nobody can make accurate predictions on it, but in the next ten years, if you take - appreciation [misheard "depreciation?"] right now is another $7 billion a year, or something on that order. The next manager during the decade will have to allocate maybe $400 billion or something like that. Ten years from now, Berkshire will be an aggregation of businesses where more money has been put in in that decade than everything that took place ahead of time - you need a very sensible capital allocator in the job of being CEO of Berkshire. We will have one.

It would be a terrible mistake to have someone in this job where capital allocation will not be their main talent - it should be very close to their main talent. We have an advantage at Berkshire in that we do know how important that is. There is that focus on it. Many people get to the top through ability and sales, all different sides of business. They then have capital allocation sort of put in their hands. They may establish strategic thinking divisions and listen to investment bankers, but they better be able to do it themselves.

Charlie Munger: If they come from a different background and haven’t done it…

Warren Buffett: It’s like getting to Carnegie Hall by playing the violin. You then walk on stage and they hand you a piano. Berkshire would not do well if somebody was put in who had a lot of skills in other areas but really didn’t have an ability for capital allocation. I call it a money mind.

People can have 120 or 140 IQs, very similar scoring abilities in terms of intelligence tests. Some of them have minds that are good at one type of thing and some at others. I’ve known very bright people that do not have money minds, and they can make very unintelligent decisions. They can do all kind of other things that most mortals can’t do, but it isn’t the way their wiring works. I’ve known other people that are not that brilliant - they do fine on an SAT test - but they never made a dumb money decision in their life. We do want somebody - hopefully, they’ve got a lot of talents, but we certainly don’t want somebody if they lack a money mind.

Charlie Munger: There’s the option of buying in stock, which isn’t like it’s some hopeless problem. One way or another something intelligent will be done.

Warren Buffett: A money mind will recognize when it makes sense to buy a stock and when it doesn’t. In fact, it’s a pretty good test for some people in terms of managements of how they think about something in terms of buying stock. It’s not a very complicated equation if you sort of think straight about that sort of a subject. Some people think that way and some don’t, and they’d probably be miles better at something else, but they say some very silly things when you get to something that seems so clear as to when buying stock makes sense.

2017年9月16日土曜日

反脆いシステムとは(ナシーム・ニコラス・タレブ)

『ブラック・スワン』で有名なナシーム・ニコラス・タレブが書いた新刊の邦訳『反脆弱性』を、少し前に読了しました。実は数年前に原書のペーパーバックをある方から頂いており、いつでも読む機会はあったのですが、もたもたしているうちに翻訳版が出版されてしまいました。

「反脆さ」(Antifragile。名詞形Antifragilityの訳語は反脆弱性)という言葉はタレブ自身による造語で、「脆さ」とは逆に機能する性質を示す概念です。短い文章で表現すれば、「変化に際して、以前よりも強くなる」といった意味かと思います。本書では著者が経験したり学んだりした「反脆い」事例が列挙されており、読み進めることでその概念をよりよく理解できるようになります。

著者タレブが主張する論理や哲学は完全無欠からは遠いと思いますし、例によって侮蔑的な文章もそれなりに紙面を費やしています。しかしそれらを大きく割り引いたとしても、本書に目を通して彼が築いた「反脆弱性」の概念になじむ価値は大きいと思います。たとえばリスク管理やシステム分析のツールとして有用だからです。さらに言えば、メンタル・モデルのひとつとして位置づけるにふさわしい概念だからです。

今回は同書から「反脆い」物事の一例として「反脆いシステム」に関する部分を引用してご紹介します。まずは、どのようなシステムが「反脆い」のかを説明した文章です。

工学者であり工学の歴史家でもあるヘンリー・ペトロスキーは、見事な点を衝いている。タイタニック号があのような致命的な事故を起こさなければ、私たちはどんどん大きな客船を造りつづけ、次の災害はさらなる大惨事になっていただろう。つまり、あの事故で亡くなった人々は、より大きな善のために犠牲になったのだ。間違いなく、亡くなった人数よりも多くの人命を救っている。タイタニック号のエピソードは、システム全体の利と個々の害との違いを物語っている。

同じことはフクシマの事故についても当てはまる。間違いなく言えるのは、この事故によって私たちは原子炉(や微小な確率)の問題点に気づき、もっと大きな災害を防ぐことができたということだ(ちなみに、ストレス・テストの甘さやリスク・モデルへの誤った依存は、もともと明らかだった。だが、経済危機と同じで、誰も聞く耳を持たなかったのだ)。[過去記事1, 2]

飛行機の墜落事故が起きるたびに、安全性は増し、システムは改良され、次のフライトが安全になっていく。亡くなった人たちは、残りの人々の安全全体に寄与しているのだ。スイス航空111便、トランスワールド航空800便、エールフランス航空447便の事故は、航空システムの改善につながった。だが、こういったシステムが失敗を教訓にできるのは、システムが反脆く、小さな失敗を活かすようにできているからだ。

一方で、経済の崩壊については同じことは言えない。現在の経済システムは反脆くないからだ。なぜか? 飛行機は1日に何十万便と運航されているが、ひとつの飛行機が墜落しても、ほかの飛行機を巻きこむわけではない。そのため、失敗は制限されていて、大きな教訓になる。一方、グローバル化した経済システムはひとつとして機能している。失敗は広がり、複雑化する。

重要なので繰り返すが、ここで話しているのは全体的ではなく部分的な失敗だ。深刻で致命的な失敗ではなく、小さな失敗だ。よいシステムと悪いシステムの違いはここにある。航空業界のようなよいシステムは、失敗が起こるにしても小さく、互いに独立している。失敗によって将来の失敗の確率が減るので、いわば失敗同士が負の相関関係を持っている。この考え方は、反脆い環境(航空業界)と脆い環境(縦横無尽につながりあった"フラット化する世界"的な現代の経済生活)を区別するひとつの方法だ。(p. 128)

次は、「反脆い」システムを築き上げる際に重要な特性についてです。

脆さや反脆さを見極める(または、このあとの数章でデブのトニーが実演してくれるように、嗅ぎ分ける)のは、事象の構造を予測したり理解したりするよりもずっと簡単だ。したがって、私たちがしなければならないのは、予測ミスによる損失を最小化し、利得を最大化する方法を考えることだけだ。つまり、私たちが間違いを犯しても崩壊しない(さらには崩壊を逆手に取るような)システムを築くことが大事だ。

(中略)

事象が起きたあと、私たちが反省すべきなのは、事象(たとえば津波、アラブの春や暴動、地震、戦争、金融危機など)そのものを予測できなかったことではなく、脆さや反脆さを理解していなかったことについてだ。「どうして私たちはこの種の事象にこれほど脆いシステムを作ってしまったのか?」と考えるべきなのだ。津波や経済危機を予見できないのは仕方がない。でも、津波や経済危機に対して脆いシステムを作るのは罪だ。(p. 228)

上の文章を読むだけでも、「反脆いシステムにはなんらかの冗長性が要求される」ことが読みとれます(原発で大失敗をした日本をコケにしていることも読みとれます)。ちなみに本書では、冗長さの必要性が繰り返し説かれています。

そして次の文章では、崩壊を逆手に取った一例が示されています。バークシャーの再保険事業が思い起こされます。

自分自身の失敗を歓迎する企業もある。たとえば、壊滅的なリスクに保険をかける(または保険会社が分散不可能なリスクを"再保険"するために利用する)再保険会社は、会社に大打撃を与える災害やテールの事象を経験すると、かえって業績がアップしたりする。会社が破綻を免れ、万が一の事態に備えていれば(こういう緊急時のための計画を立てられる企業はほとんどないが)、保険料を不釣り合いに吊り上げて、損を埋めあわせることができる。顧客は過剰反応し、今までより高い保険料を支払うからだ。再保険会社は再保険の公正価格(つまり適正な価格)なんてわからないと言うが、不穏な時代に保険料が高騰するということは間違いなく知っている。それだけでも、長期的な儲けを得るには十分だ。会社に必要なのは、生き残れるように失敗を小さく抑えることだけだ。(p. 130)

最後におまけです。タレブらしさがよくでている哲学的な文章です。

いちども罪を犯したことのない人間は、いちどだけ罪を犯した人間よりも信頼できない。そして、何度も間違いを犯した人間のほうが、いちども間違いを犯したことのない人間よりはまだ信頼できる。ただし、同じ間違いを2回以上犯していなければの話だが。(p. 131)

2017年9月12日火曜日

風船の空気について(ハワード・マークス)

前回のメモは過去最大の反響を呼んだということで、ハワード・マークスが返歌に相当するメモを早々に公開していました。そのなかからいくつかの部分を訳付きでご紹介します。

今回とりあげる文章は、「現在の市場がどのような状況なのか」を簡潔にまとめた箇所です。最後の一言は結論の一面を見事に表現しており、文筆家としての腕前も巧妙だと感じました。(日本語は拙訳)

memo from Howard Marks: Yet Again? [PDF] (Oaktree Capital Management)

市場の状況

市場がどのように上昇してきたか私の考えを示したことに対して、多くの議論が生じました。私を指して「超弱気筋」と評する人には、強く反論しました。このメモの中で示したように、端的に言えば市場が「愚かしいほどのバブルではないが、まさに割高で、それゆえにリスキーである」ことは確実だと思います。

今日の全般的な投資環境を描写するに際して、「バブル」という言葉を使うつもりはありません。バブルが形成されて破裂した直近の2回は、1998年から2002年までと、2005年から2009年まででした。だからといって、あらゆる価格上昇はバブルまで達し、それゆえに続けて暴落がやってくることを意味するものではありません。

・現段階の市場心理を指して、「熱狂」や「有頂天」と描写することはできません。現在ただよっている不確実性や、好調な時期が次々と永遠に来るわけではないという事実を、ほとんどの人は承知しています。

・今回の回復局面では景気が過熱しなかったため、大きな不況がくる必要もありません。

・2007年に諸銀行の負債比率が到達した水準によってメルトダウンが引き起こされた様子を、私たちは目撃しました。しかし現在の水準は、その当時の一部分ほどにとどまっています。

・重要なのは、サブプライム・モーゲージやサブプライム・ローン担保証券がカギとなる要因だったことです。それらが道を誤ったことで、世界金融危機が引き起こされました。しかし影響の大きさと疑わしい程度のどちらにおいても、当時のそれらに相当するものは、今日では見当たりません。

先に記したように、現在は注意が必要な時期であって、全面的退避の時期ではありません。暴落を予期する理由はまったくありません。ただし、つらい価格訂正が訪れる可能性はあります。あるいはいつからか長期間にわたって、市場の論理に沿うことで今よりも妥当な水準へと単に下落したり、利益増の業績にもかかわらず現状維持のままであったりするかもしれません(しかしながら、我がパートナーのシェルドン・ストーンが言うように、ほとんどの場合において「風船の空気は抜けるときのほうが速い」ものです)。(p. 9)

The State of the Market

There has been a lot of discussion about how elevated I think the market is. I’ve pushed back strongly against people who describe me as “super-bearish.” In short, as I wrote in the memo, I believe the market is “not a nonsensical bubble - just high and therefore risky.”

I wouldn’t use the word “bubble” to describe today’s general investment environment. It happens that our last two experiences were bubble-crash (1998-2002) and bubble-crash (2005-09). But that doesn’t mean every advance will become a bubble, or that by definition it will be followed by a crash.

- Current psychology cannot be described as “euphoric” or “over-the-moon.” Most people seem to be aware of the uncertainties that are present and of the fact that the good times won’t roll on forever.

- Since there hasn’t been an economic boom in this recovery, there doesn’t have to be a major bust.

- Leverage at the banks is a fraction of the levels reached in 2007, and it was those levels that gave rise to the meltdowns we witnessed.

- Importantly, sub-prime mortgages and sub-prime-based mortgage backed securities were the key ingredient whose failure directly caused the Global Financial Crisis, and I see no analog to them today, either in magnitude or degree of dubiousness.

It’s time for caution, as I wrote in the memo, not a full-scale exodus. There is absolutely no reason to expect a crash. There may be a painful correction, or in theory the markets could simply drift down to more reasonable levels - or stay flat as earnings increase - over a long period (although most of the time, as my partner Sheldon Stone says, “the air goes out of the balloon much faster than it went in”).

2017年9月8日金曜日

2017年バークシャー株主総会(5)オマハの大御所、アップル社を語る

バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答のつづきです。今年はテクノロジー業界の話題が何度も登場しましたが、今回もそのひとつです。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

「よく知っている企業の株を買うこと」について

<質問> 投資上の助言として、「自分が知るものを買うこと」といつもおっしゃっていました。バフェットさんはテクノロジー通として有名ではありませんが、今ではテクノロジー企業に投資されていますし、たびたび話題にもあげられています。しかし、ツィートした件数はこの4年間で9件だけです(笑)。

<バフェット> あのツィートのほかは、僧院に通って修行していたものですから(笑)。

<質問> 「オマハの賢人」が「オマハのテクノロジー大御所」となったのはなぜですか。

<バフェット> (笑いながら)テクノロジー業界について、それほどは語っていないと思います。IBMには大きな投資をしましたが、うまくいきませんでした。資金を失ってはいませんが、強気相場だったことを考えると、大幅におくれをとりました。少し前からですが、アップル社の株を大量に保有しています。ある種の経済的特性の面で、同社は消費財を扱うほうの企業としてとらえています。同社の製品でできることや、他の人たちがある面において追い越そうと前進している可能性からすれば、同社にはテクノロジーに関する莫大な部分があります。保証はできませんが、2打数0安打でなくて1安打はできると思います。いずれわかることでしょう。

しかし「テクノロジーに興味を持っている15歳の若者と同じ水準の知識がある」と言い張るつもりはさらさらありません。消費者行動という点である程度は読めるかもしれない、と考えているだけです。その点についてはたしかに多くの情報を手に入れられますし、それに基づいて消費者が将来とる行動がどうなるのか成り行きを描いてみることができます。

証券投資の分野では、これからも失敗をやらかすと思います。過去にはテクノロジー業界以外で失敗を出してきました。どの業界に取り組もうとも、10割の打率はあげられません。保険業界のことはかなり知っておりますが、過去には保険株で1,2回損を出したことがあります。10割を打つことはできません。しかし、うまれてこのかたテクノロジーに関する実際の知識は、実のところまったく身につけたことがありません(笑)。

<マンガー> アップルの株を買ったのは、非常に良い兆候だと思いますよ。「正気でなくなった」か、「学習している」のどちらかを示していますね(笑)。私としては、「学習している」とする理由のほうを取りたいですが。

<バフェット> ええ、わたしもそちらですよ(笑)。

(PDFファイルのp.34。Yahoo! Finance映像では5:10:30)

BUY WHAT YOU KNOW

Q. Your investment advice has always been to buy what you know. You are not known for being a tech guy, but you are now investing and talking more about tech companies. You’ve only tweeted nine times in the last four years.

Warren Buffett: It was either that or go to a monastery. I don’t think I’ve talked that much about tech companies. I made a large investment in IBM, which has not turned out that well. We haven’t lost money. In terms of the bull market we’ve been in, it has been a significant laggard. Fairly recently, we took a large position in Apple, which I do regard more as a consumer goods company in terms of certain economic characteristics. It has a huge tech component in terms of what that product can do or what other people might come along to do to leapfrog it in some way. I think I’ll end up being one for two instead of 0 for 2, but we will find out.

I make no pretense whatsoever of being on the intellectual level of some 15-year old that has an interest in tech. I may have some insights into consumer behavior. I certainly can get a lot of information on consumer behavior and then try to draw inferences as to what consumer behavior is likely to be in the future.

I will make some mistakes on marketable securities. I’ve made them in other areas other than tech. You will not bat 1000 no matter what industries you try to stick with. I know insurance pretty well, but I think I’ve lost money on insurance stocks once or twice over the years. You don’t bat 1000, but I’ve gained no real knowledge about tech since I was born actually.

Charlie Munger: I think it’s a very good sign that you bought Apple. It shows either one of two things. Either you’ve gone crazy or you’re learning. I prefer the learning explanation.

Warren Buffett: So do I, actually.