能力のパラドックスに際して、どうすればよいのか
プロ野球の世界で再び4割打者にお目にかかれることはないかもしれない。スティーブン・ジェイ・グールドの言う「優秀さの広まり」が反映されたのだから、それで良しとしよう。能力が向上することで結果を形成する際に運の役割がいっそう大切になってくるのを、みなさんもさまざまな場所で目撃するだろう。では、それに際してどうすればよいだろうか。以下は私からの3つの提案である。
・能力の大きなばらつきが未だにある領域を見つけること。能力の幅が広い領域において競争するならば、上手な人は下手な人を犠牲にして勝つことができるだろう。
投資はこの例に当てはまる。成熟した市場では、事情に通じた大規模な機関投資家が取引の場を独占している。そこでは有能な参加者がしのぎをけずっており、他に先んじるのはむずかしい。一方、新興の市場では大規模な機関投資家が事情に疎い個人投資家と競い合っている。研究結果が示すところでは、平均してみれば機関投資家が個人投資家を犠牲にして超過利益を得ている。参加者として自分がもっとも有能なのか、いつでも容易に気がつくものではない。バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOである著名な投資家ウォーレン・バフェットは、ポーカーになぞらえて指摘している。「ポーカーをやり始めて30分、カモがだれかわからなければ、そういうあなたがカモなのです」。
・絶対的ではなく、相対的に考えること。能力のパラドックスにおいて不可欠なことは、向上した度合いを測定するには絶対的な水準か、あるいは競合と比較するやりかたのどちらでもできるという考えである。たとえば100メートル走のように[他者との]直接的な働きかけがなかったり、運の要素が入らないときは、絶対的な能力こそが問題になる。しかしそうでない場合は相対的な能力で測るべきだ。その重要性は、次のビジネスの例でわかると思う。企業の能力を改善させるために単純な公式を示すベストセラー本は、山ほどある。しかしそれらが的はずれなのは、競合がとりうる行動を考慮していないことだ。ビジネスの結果とは、自己とライバルがとる行動の組み合わせである。もしあらゆる企業が同じ歩調で良くなっていけば、有利になっていく企業など存在しないことになる。
・結果ではなく、プロセスに焦点をあてること。世界的なバイオリン奏者やチェス選手になりたいならば、そういった領域では運がほとんど関与しないので、入念な練習をおよそ1万時間つづける必要がある。ここで決定的なのは、改善後にでてくる結果が自己の能力を示す上で信頼できる指標になることだ。それらの世界でなされるフィードバックが明確であいまいさがないのは、そのためかもしれない。一方、運が役割を果たす領域で競争するのであれば、プロセスつまり意思決定のやりかたに対していっそう焦点をあてるべきで、短期的な成績はそれほど信頼すべきではない。なぜなら、能力と結果をむすぶ直接的な関係が運の良し悪しによって破られるからだ。有能なのにお粗末な結果だったり、能力がないのによい結果となりうるわけだ。カジノでブラックジャックをやる例を考えてほしい。基本戦略では、配られたカードが17のときはヒットせずにスタンドすべしとしている。これは望ましいプロセスで、長い目で見れば最善であることが保証されている。しかしヒットしてディーラーのめくったカードが4だったら、まずいプロセスにもかかわらずその手で勝ちになる。つまり、結果からは能力を明かすことができない。それをできるのはプロセスだけで、だからこそプロセスに焦点をあてるのだ。
最後にもう一言。能力のパラドックスという考えをいったん受け入れたら、運勢に対して冷静でいることが適切だとわかるだろう。勝てるための最善を尽くしたなら、結果がどうであれば納得すべきだ。運が良ければ期待を越える結果になることもあるし、悪ければがっかりな結果におわることもあるだろう。そのようなときにいちばんよいのは、気を取り直して過去のことは忘れてしまい、明日からまた挑戦する心構えをもつことだと思う。
What To Do About the Paradox of Skill
We may never see another .400 hitter in professional baseball. That's alright. It reflects "the spread of excellence," using Stephen Jay Gould's phrase. You'll see skill increasing and luck becoming more important in shaping results in many places that you look. So, what should you do about it? Here are three suggestions:
-> Find realms where the variance of skill is still wide. If you compete in a field where the range of skill is wide, the more skillful will succeed at the expense of the less skillful.
Investing is a good case in point. In developed markets, large and sophisticated institutional investors dominate the trading scene. The skillful players compete with one another and it's hard to gain an edge. In some developing markets, by contrast, large institutions compete with less sophisticated individuals. Research shows that, on average, the institutions earn excess returns at the expense of the individuals. But it's not always easy to know if you're the most skillful player. Warren Buffett, the famous investor and chairman and CEO of Berkshire Hathaway, makes the point in the context of poker: "If you've been playing poker for half an hour and you still don't know who the patsy is, you're the patsy."
-> Think relative, not absolute. Essential to the paradox of skill is the idea that you can measure improvement in skill either on an absolute scale or relative to competitors. In activities where there is no direct interaction or luck - say, a 100-meter dash - absolute skill is all that matters. But when there is interaction and luck, you have to measure relative performance. Here's why this is so important, using business as an example. There are a slew of best-selling books that offer a simple formula for corporate performance improvement. These miss the mark because they fail to consider what competitors may do. Results are a combination of your actions with those of your rivals. If all companies are getting better in lockstep, no company is gaining an edge.
-> Focus on process, not outcome. If you want to become world-class as a violinist or a chess player, areas where little luck is involved, you need roughly 10,000 hours of deliberate practice. What's crucial is that your results, as you improve, will be a reliable indicator of your skill. As a result, feedback in these domains can be clear and unequivocal. If you compete in a field where luck plays a role, you should focus more on the process of how you make decisions and rely less on the short-term outcomes. The reason is that luck breaks the direct link between skill and results - you can be skillful and have a poor outcome and unskillful and have a good outcome. Think of playing blackjack at a casino. Basic strategy says that you should stand - not ask for a hit - if you are dealt a 17. That's the proper process, and ensures that you'll do the best over the long haul. But if you ask for a hit and the dealer flips a 4, you'll have won the hand despite a poor process. The point is that the outcome didn't reveal the skill of the player, only the process did. So focus on process.
One final thought. Once you've embraced the paradox of skill, you'll see that it's appropriate to have an attitude of equanimity toward luck. If you've done everything you can to put yourself in a position to succeed, you should accept whatever results appear. Some days you'll be lucky, and the results will exceed your expectations. Some days the results will be disappointing because of bad luck. The best plan will be to pick yourself up, dust yourself off, and get ready to do it again tomorrow.
「結果ではなく、プロセスに焦点をあてる」、この文章をご紹介したくて今回の話題をとりあげてきました。2013年という1年間を顧みるにふさわしい文章だと、個人的には感じています。
== プロセス ==
返信削除「結果ではなく、プロセスに焦点をあてる」に賛同です。
投資というものは私たちが考える以上に運に大きく左右されるため深く考えてもまったく考えなくてもうまくできてしまう、それが故に結果重視・プロセス軽視に走りがちになるのではないかと考えます。(深く考えなくてもうまくできるというのは本当にやっかいです。)
私はプロセスを重視するために、
・投資は私たちが考える以上に運に大きく左右される。
・原因と結果の関係は明確ではなく、うまくいかなくても判断ミスのせいとは限らず、うまくいっても自らの能力や実力のおかげとは限らない。
・投資が運に大きく左右されるからといってすべてを運任せにするわけではなく、多くの選択肢や可能性を拾い上げ、その蓋然性を検討したうえで意思決定をし、いったん意思決定をしたらその結果は熱意や忍耐ですべてが決まるかのように取り組む。
を投資に対する心構えにしています。
== No title ==
返信削除確かに2013年にふさわしい文章ですワン!
ご紹介ありがとうございますワン。
ポチは、「短期の結果ではなく、長期の結果に焦点をあてる」
ことで、運による要素をできるだけ排除して考えられるように
したいと思っていますワン。
結局は正しいプロセスを踏む、というところに帰結するのですがワン。
今年も有用な記事をたくさんご紹介くださいましてありがとうございますワン!
== No title ==
返信削除今年も有益な記事をありがとうございました。
来年もブログを拝見させていただきます^^
== みなさん、コメントありがとうございます ==
返信削除御三方からコメントを頂きまして、どうもありがとうございました。
ブロンコさん>
いつものように骨太なご見解をありがとうございます。ご自分の資金でご自分の哲学にしたがってずっと投資なさってきたブロンコさんのご意見ですから、メディアでみかける俗な心構えよりも実績をともなった重みを感じました。
柴犬ポチさん>
「名犬」ポチさん、とお呼びすべきでしょうか。はじめまして。時折とりあげてくださっているのに当方からはごあいさつせず、失礼致しました。「短期の結果ではなく、長期の結果に焦点をあてる」とありますが、ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーのような投資家の発言と同じ主旨で、おっしゃるとおりと存じます。そうありたいと思いつつも心を乱されることがよくあり(特に短期的に運が良い局面で)、改めて反省しました。これからもどうぞよろしくお願いします。
Maoさん>
お久しぶりです。ひきつづき本ブログをお読みくださり、どうもありがとうございます。また、一言でもコメントを頂けるのはうれしいことです。お役に立てるような投稿ができるよう、努めてまいります。
それでは失礼致します。
== 1年間ありがとうございました!! ==
返信削除今年後半にこちらのブログを知り、毎日拝見しておりました。
色々と勉強になりました!
プロセスに対するフォーカス、大賛成です!
ちょうど自分のブログの記事で”能力への回帰”という記事を書いたところでした。
以下抜粋です
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投資家は自身のリターンに目を捕らわれますが、リターンはあくまで結果であり副次的なものです。また、マーケット動向や運も絡んできます。リターンの向上よりも、能力の向上に専念した方が、長期的に優れたリターンを獲得できると思います。
株価が実態価値に収斂していくのと同じで、運用成績も最終的には能力に収斂していきます。一時的な幸運や不運は長期的には打ち消され、能力だけが残るのです。
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??014年も検証と研究、読書、こちらのブログでの学習などを通じて、コアとなる能力を高めたく思います。来年もよろしくお願いいたします。
== さっかくさんへ ==
返信削除さっかくさん、こんにちは。「共食いをさがせ」でコメントを頂いたかと存じます。その後もご覧くださっていたということで、どうもありがとうございました。「能力への回帰」に関する文章をお書きになっていますが、本質を見事に要約されていると感じました。こちらこそ勉強になりました。
どうぞ、またよろしくお願いします。それでは失礼致します。