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2015年6月22日月曜日

歴史から得られる本物の教訓(ハワード・マークス)

オークツリーの会長ハワード・マークスが少し前にレターを公開していました。今回の題名は"Risk Revisited Again"です。今回は書下ろしではなく、何回か前に発表した文章を改訂した文章(過去記事など)になっています。投資におけるリスク管理の手引きとしていっそう質を高めたエッセイだと思います。また基本的に同じ文章をくりかえしたことは、彼が自分の見解を強調したいゆえにとった手段だとうけとめました。今回は、改訂元のレターに対して追加された部分から一部を引用します。(日本語は拙訳)

Risk Revisited Again [PDF] (Oaktree Capital Management)

リスクとは未来にのみ存在するものですが、なにが将来起こるのか確信をもって知ることはできません。過去に起こったできごとをもとに予想を立てることがよくあります。しかし過去のできごとをあまり当てにするべきではないでしょう。過去をふりかえる場合、当然ながらそこに不確実なものはありません。起きたことしか起こっていないからです。しかしそれが絶対確実だからといって、「結果を生み出すプロセスが明瞭かつ信頼できるものである」とは言えません。過去の時点では、さまざまなことが起こり得る可能性がありました。そしてそのなかで実際に起こるのはひとつにすぎないという事実が、存在していた多様な潜在的可能性を矮小化しています。ここで申し上げたいのは(ナシーム・ニコラス・タレブの『まぐれ』に影響されて)、事実として生じた歴史とは、起こり得たことのたったひとつの姿に過ぎない点です。このことを受け入れるとすれば、歴史と将来との関連性は多くの人が妥当だと信じるよりもずっと限定的なものとなります。(ピーター・バーンスタインがこれと同様なことを2001年11月のニュースレターで次のように書いています。「長期的な予測を正当化しようとする際には、歴史に頼りたがるものだ。しかし、予期しなかったり想定外の事態になるのは常であって異常ではないことを、歴史は繰り返し教えてくれる。これは歴史から得られる本物の教訓である」)。(p.9)

Risk exists only in the future, and it's impossible to know for sure what the future holds. Expectations are often formulated on the basis of what happened in the past, but the events of the past must be taken with a substantial grain of salt. No ambiguity is evident when we view the past. Only the things that happened happened. But that definiteness doesn't mean the process that creates outcomes is clear-cut and dependable. Many things could have happened in each case in the past, and the fact that only one did happen understates the potential for variability that existed. What I mean to say (inspired by Nicolas Nassim Taleb’s Fooled by Randomness) is that the history that took place is only one version of what it could have been. If you accept this, then the relevance of history to the future is much more limited than many believe to be the case. [Along these same lines, Peter Bernstein wrote the following in his November 2001 newsletter: We like to rely on history to justify our forecasts of the long run, but history tells us over and over again that the unexpected and the unthinkable are the norm, not an anomaly. That is the real lesson of history.]

リスクをはかる能力や、リスクが発現した時の挙動を一度も見たことがないのに理解できる能力を、自分はどれだけ持っているのか。人間はそれを過大評価するものです。人間と他の種を区別する理由のひとつとして、人間には危険なことを経験せずに把握できる能力があります。つまり熱いストーブの上に座るべきでないとわかるために、ヤケドする必要はありません。しかし強気な時期になると、人間はそのように振舞わなくなる傾向があります。将来のリスクを認識しようとするかわりに、金融上の新たな発明がだいじょうぶなのか判断する能力を過大評価して行動しがちになるのです。(p.10)

People overestimate their ability to gauge risk and understand mechanisms they've never before seen in operation. In theory, one thing that distinguishes humans from other species is that we can figure out that something's dangerous without experiencing it. We don’t have to burn ourselves to know we shouldn't sit on a hot stove. But in bullish times, people tend not to perform this function. Rather than recognize risk ahead, they tend to overestimate their ability to understand how new financial inventions will work.

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