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2015年3月2日月曜日

2014年度バフェットからの手紙(1)これから50年間のバークシャー(前)

バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットが、2014年度のいわゆる「バフェットからの手紙」を公開しました。少し前に触れたように今回は2大付録が付いており、次のような3部構成になっています。

(第1部)業績に関する説明や所見(筆者:ウォーレン)
(第2部)バークシャー・ハサウェイの過去・現在・未来(筆者:ウォーレン)
(第3部)過去および未来に関する副会長の見解(筆者:チャーリー・マンガー)

昨年の2013年度版は一般的な投資家にも通じやすい内容でしたが、今回はいつもどおりバークシャーの株主を意識したものになっています。そうではあるものの、バークシャー株主以外の投資家にとっても有益な内容ばかりです。

SHAREHOLDER LETTER 2014 [PDF] (Berkshire Hathaway)

今回から始まるこのシリーズでは、上にあげた第2部と第3部を中心に拙訳を投稿していきます。ウォーレンが書いた第2部では、過去・現在・未来に5ページずつが費やされています。最初に取り上げるのは「第2部のバークシャー未来編」で、今回はその前半部です。(日本語は拙訳)

今後50年間のバークシャー

それではここからは、行く末に目を向けてみましょう。ただし留意して頂きたいのは、50年前にも同じように将来を占っていたら、ある部分は大きく外していたと思われる点です。それを踏まえた上で、バークシャーの将来がどうなるかと家族から聞かれた場合に現時点で答える内容を、みなさんにもお伝えします。

・はじめに、なによりも肝心なことについて。辛抱強いバークシャーの株主が当社に投じた資本から恒久的な損失を出す確率は、個別の企業各社へと投資する場合と同程度に低いことはまちがいないと思います。当社の1株当たりの本源的な事業価値が時と共に増加するのは、ほぼまちがいないからです。

しかしながら、この喜ばしい予測には重要な注意が伴います。著しく株価が高いときにバークシャー株を買ってしまうと、利益を得られるまでに長時間かかるかもしれないことです。たとえば簿価の2倍に近づいている時期で、かつてそのような水準に達したことがあります。言いかえると、上昇した価格で買ってしまえば、好ましい投資先であっても軽率な投機に変わりうるということです。バークシャーもこの真実と無縁ではありません。

しかし当社が自社株買いをする値段よりもほどほど高いところでバークシャー株を買うのであれば、妥当な期間のうちに利益をものにできるようになるでしょう。当社の取締役が自社株買いを承認するのは、バークシャー株の価格水準が会社の本源的価値をかなり下回っている、と確信できるときだけです。(このことは他社の経営者がしばしば無視していますが、自社株買いにおける最低条件だとわたしどもは考えています)

ただし、株を買った後に1年や2年で売りたいと考えている投資家には、買った金額がどうであろうとわたしからはなにも保証することはできません。投資の結果を決めようにも、そのような微々たる期間では株式市場の全般的な動向のほうがはるかに重要であり、みなさんが買ったバークシャー株の本源的価値に付随した変化のほうではないからです。何十年も前にベン・グレアムがこう言っています。「短期的にみれば市場とは投票装置である。しかし長期になれば秤量機のように振舞う」。アマチュアかプロかは問わず、投資家が投じた票によって狂気寸前の結果につながることもあります。

市場の動向を確度高く予測する術は、わたしにはありません。ですから最低でも5年間は保有する覚悟があるときだけ、バークシャー株を買うのがよいと思います。短期的な利益を得たい人は、よそを当たるべきでしょう。

もうひとつ警告です。バークシャー株を買う際には借入れを使うべきではありません。株価が高値の半分程度まで下落したことが1965年以降に3回ありました。その種の下落はいつの日かまた起こるでしょうが、それがいつなのかはだれにもわかりません。「投資家」にとって、バークシャー株はほぼまちがいなく満足のいく銘柄になると思います。しかし借入金で投機をする人にとっては、なおさら破滅的な選択かもしれません。

・あるできごとのせいでバークシャーが金融的な問題に見舞われる確率は、基本的にはゼロだと確信しています。わたしどもは1,000年に一度の洪水に備え続けていきますし、実際にそうなれば、無防備だった人たちに救命胴衣を売ることでしょう。2008年から2009年に底が抜け落ちた際には、バークシャーは「真っ先に返事をかえす相談先」として重要な役割を果たしました。当社の資産構成や利益を生み出す能力は、当時とくらべて2倍以上に強化されました。みなさんが保有する当社はアメリカ実業界にとってのジブラルタルであり[難攻堅牢の意]、これからもそうありつづけるでしょう。

金融的な面で持ちこたえていくためには、いかなる環境においても次の強靭さを維持することが要求されます。第一に巨額な利益が安定して得られること、第二に多大な流動資産を有すること、第三に重大な規模の現金が直近で必要とならないことです。3番目の大切さを無視すると、たいていは予期せぬ問題に直面することになります。儲かっている企業のCEOが、「返済時期の迫る債務が巨額だろうと、いつでも借り換えできるものだ」と感じることがよくあります。その考え方がいかに危険なものとなりうるか、2008年から2009年に多くの経営者が学びました。

ここで、わたしたちが基本方針として今後も取り組みつづける3つの点を挙げます。第一に、当社が得ている利益は莫大で、多岐にわたる事業があげている点です。株主たるみなさんは、容易には消えない競争優位を持つさまざまな大企業を今では保有しています。今度もさらに買収していくでしょう。また、破滅的事態が生じてかつてなかったほどの巨額の保険損失を招いたとしても、事業が分散されていることでバークシャーの収益性が継続することを保証しています。

2番目に挙げられるのが現金です。健康な状況のビジネスにおいては、現金は最小化すべきものと考えられることがあります。資本利益率などの指標を引き下げる非生産的な資産としてみなされるわけです。しかし事業における現金とは、人間である個々人にとっての酸素のようなものです。存在するときには思い巡らさず、欠乏したときになって思い出されるものです。

アメリカ実業界は2008年にその事例を見せてくれました。その年の9月になって唐突に、長期にわたって繁栄してきた多くの企業が、数日のうちに小切手が引出し不能になるのではと悩み始めました。資金という面での酸素が一夜にして消失したのです。

そのときバークシャーの「呼吸」は途絶えることがありませんでした。実際には9月下旬から10月下旬にわたる3週間のうちに、当社からアメリカ実業界に対して活気に満ちた156億ドルの資金を供給しました。

当社がそうできたのも、最低でも200億ドル、ふつうはそれ以上の現金等価物を日ごろから保持していたからです。つまり財務省短期証券のことです。それ以外の現金相当物ではありません。それらは要求に応じて流動性を提供され、実際そうなりますが、ただし本当に必要なときはそうならない類いのものです。支払期限がきたときに法的に認められた支払手段は現金だけです。出かけるときは忘れずに。[バークシャーはアメックスの最大株主]

最後の3番目ですが、当社は不意に多額の資金が要求されうる事業運営や投資には絶対に携わりません。つまりこれは、大規模な短期債務の償還にバークシャーをさらすことはないですし、巨額の担保が差押えされる可能性のあるデリバティブ契約やその他の事業取引にも参画しない、という意味です。

数年前に結んだデリバティブ契約の各案件では、付けられていた値段が大幅にまちがっていた一方で、わずかな担保しか要求されませんでした。のちにそれらの取引はかなりの利益になることがわかりました。しかし最近になってからは、新規のデリバティブ契約では満額の担保が要求されるようになりました。それで、潜在的な利益が大きくてもデリバティブには興味がなくなりました。[鉄道やエネルギーの]公益事業で業務上の目的で必要な案件を除けば、当社では数年にわたってデリバティブ契約を締結していません。

さらに当社では、被保険者に対して現金を引き出す権利を付与する特約のある保険契約は締結していません。多くの生命保険商品には償還する権利が含まれていますが、極端なパニックが起きたときに「逃げ出す」能力を与えてしまいます。当社が生存している損保業界には、その種の契約は存在しません。保険料収入が縮小すれば、当社のフロート[=保険料として前受けした余剰資金]も減少します。ただし、非常にゆっくりとしたペースにしかならないでしょう。

わたしどもが保守的にやっているのは、極端だと感じる人がいるかもしれませんが、人間とはときにパニックを起こすことが完璧に予想できるからです。ただし、いつ起こるかはまったく予想できません。事実上毎日が比較的変哲のない日々ですが、明日どうなるかはいつもわかりません(1941年12月6日[真珠湾]や2001年9月10日を特別に恐れるわけではありません)。明日どうなるのかわからないとすれば、何が起こってもいいように備えておくべきです。

64歳になる企業のCEOが、65歳で引退しようと考えているとします。独自の計算によって、これから1年間にリスクが具現化する確率はわずかなものだと判断しているかもしれません。彼は99%の確率で正しいかもしれません。しかしその確率は、わたしどもの気を惹くものではありません。みなさんから託された資金を使って、わたしどもがそのような金融版ロシアン・ルーレットを行うことは絶対ありません。比喩としての拳銃に100発装てんできる薬室があって、弾丸が1発しか装てんされていなくてもです。「単に欲しいだけのものを追求している際に、不可欠なものを失うリスクを負う」ことは、わたしどもからみれば狂っています。

・わたしどものやりかたが保守的であるにもかかわらず、1株当たりでみた当社の本質的な収益力は毎年高めることができると思います。これは事業上の利益が毎年増加するという意味ではありません。そこからはほど遠いものです。米国の経済は行きつ戻りつするでしょう。寄せ波のときがほとんどでしょうが、波が弱まるときには当社の利益もそうなります。それでもわたしたちは内部的に成長したり、拡張的な買収をしたり、新たな領域へと乗り出しつづけるでしょう。ですからバークシャーが年ごとに本質的な収益力を増していくのはまちがいないと思います。

当社が大きく前進する年もあるでしょうし、わずかにとどまる年もあるかと思います。市場や競争の状況そして幸運によって、当社の前に機会があらわれる時が定められます。しかしあらゆる状況において、バークシャーはこれまでに獲得した堅実な事業や将来獲得するであろう新たな企業を並び立て、さらに前進し続けるでしょう。加えてこの国の経済は、ほぼ毎年のように強力な追い風をビジネスへ送ってくれます。われらの本拠地が米国であることは、わたしたちにとっての恵みです。

・残念なお知らせとして、バークシャーが長期的にあげてきた成長は、それはパーセントの意味であって金額ではありませんが、もう劇的ではなく、過去50年間に達成してきた数字に近づくこともできないと思います。数字が大きすぎたからです。平均的なアメリカ企業よりは高いと思いますが、差ができるとしても大きな差にはならないと思います。

やがては、おそらく10年から12年後の間に、経営陣が全利益を賢明に再投資できなくなる水準までバークシャーの利益や資本が到達すると思います。その時点で当社の取締役は、超過利益を配分する最善の手段は何か、配当か自社株買いか、あるいはその両方か、を決定する必要が出てくるでしょう。バークシャー株が本源的な事業価値を下回る金額で売買されていれば、自社株買いを大量にやるのがほぼまちがいなく最善の選択です。みなさんの取締役が正しい決定をくだすでしょうから、どうぞ安心していてください。(PDFファイル33ページ目)

The Next 50 Years at Berkshire

Now let's take a look at the road ahead. Bear in mind that if I had attempted 50 years ago to gauge what was coming, certain of my predictions would have been far off the mark. With that warning, I will tell you what I would say to my family today if they asked me about Berkshire's future.

・First and definitely foremost, I believe that the chance of permanent capital loss for patient Berkshire shareholders is as low as can be found among single-company investments. That's because our per-share intrinsic business value is almost certain to advance over time.

This cheery prediction comes, however, with an important caution: If an investor's entry point into Berkshire stock is unusually high - at a price, say, approaching double book value, which Berkshire shares have occasionally reached - it may well be many years before the investor can realize a profit. In other words, a sound investment can morph into a rash speculation if it is bought at an elevated price. Berkshire is not exempt from this truth.

Purchases of Berkshire that investors make at a price modestly above the level at which the company would repurchase its shares, however, should produce gains within a reasonable period of time. Berkshire's directors will only authorize repurchases at a price they believe to be well below intrinsic value. (In our view, that is an essential criterion for repurchases that is often ignored by other managements.)

For those investors who plan to sell within a year or two after their purchase, I can offer no assurances, whatever the entry price. Movements of the general stock market during such abbreviated periods will likely be far more important in determining your results than the concomitant change in the intrinsic value of your Berkshire shares. As Ben Graham said many decades ago: "In the short-term the market is a voting machine; in the long-run it acts as a weighing machine." Occasionally, the voting decisions of investors - amateurs and professionals alike - border on lunacy.

Since I know of no way to reliably predict market movements, I recommend that you purchase Berkshire shares only if you expect to hold them for at least five years. Those who seek short-term profits should look elsewhere.

Another warning: Berkshire shares should not be purchased with borrowed money. There have been three times since 1965 when our stock has fallen about 50% from its high point. Someday, something close to this kind of drop will happen again, and no one knows when. Berkshire will almost certainly be a satisfactory holding for investors. But it could well be a disastrous choice for speculators employing leverage.

・I believe the chance of any event causing Berkshire to experience financial problems is essentially zero. We will always be prepared for the thousand-year flood; in fact, if it occurs we will be selling life jackets to the unprepared. Berkshire played an important role as a "first responder" during the 2008-2009 meltdown, and we have since more than doubled the strength of our balance sheet and our earnings potential. Your company is the Gibraltar of American business and will remain so.

Financial staying power requires a company to maintain three strengths under all circumstances: (1) a large and reliable stream of earnings; (2) massive liquid assets and (3) no significant near-term cash requirements. Ignoring that last necessity is what usually leads companies to experience unexpected problems: Too often, CEOs of profitable companies feel they will always be able to refund maturing obligations, however large these are. In 2008-2009, many managements learned how perilous that mindset can be.

Here's how we will always stand on the three essentials. First, our earnings stream is huge and comes from a vast array of businesses. Our shareholders now own many large companies that have durable competitive advantages, and we will acquire more of those in the future. Our diversification assures Berkshire's continued profitability, even if a catastrophe causes insurance losses that far exceed any previously experienced.

Next up is cash. At a healthy business, cash is sometimes thought of as something to be minimized - as an unproductive asset that acts as a drag on such markers as return on equity. Cash, though, is to a business as oxygen is to an individual: never thought about when it is present, the only thing in mind when it is absent.

American business provided a case study of that in 2008. In September of that year, many long-prosperous companies suddenly wondered whether their checks would bounce in the days ahead. Overnight, their financial oxygen disappeared.

At Berkshire, our "breathing" went uninterrupted. Indeed, in a three-week period spanning late September and early October, we supplied $15.6 billion of fresh money to American businesses.

We could do that because we always maintain at least $20 billion - and usually far more - in cash equivalents. And by that we mean U.S. Treasury bills, not other substitutes for cash that are claimed to deliver liquidity and actually do so, except when it is truly needed. When bills come due, only cash is legal tender. Don't leave home without it.

Finally - getting to our third point - we will never engage in operating or investment practices that can result in sudden demands for large sums. That means we will not expose Berkshire to short-term debt maturities of size nor enter into derivative contracts or other business arrangements that could require large collateral calls.

Some years ago, we became a party to certain derivative contracts that we believed were significantly mispriced and that had only minor collateral requirements. These have proved to be quite profitable. Recently, however, newly-written derivative contracts have required full collateralization. And that ended our interest in derivatives, regardless of what profit potential they might offer. We have not, for some years, written these contracts, except for a few needed for operational purposes at our utility businesses.

Moreover, we will not write insurance contracts that give policyholders the right to cash out at their option. Many life insurance products contain redemption features that make them susceptible to a "run" in times of extreme panic. Contracts of that sort, however, do not exist in the property-casualty world that we inhabit. If our premium volume should shrink, our float would decline - but only at a very slow pace.

The reason for our conservatism, which may impress some people as extreme, is that it is entirely predictable that people will occasionally panic, but not at all predictable when this will happen. Though practically all days are relatively uneventful, tomorrow is always uncertain. (I felt no special apprehension on December 6, 1941 or September 10, 2001.) And if you can't predict what tomorrow will bring, you must be prepared for whatever it does.

A CEO who is 64 and plans to retire at 65 may have his own special calculus in evaluating risks that have only a tiny chance of happening in a given year. He may, in fact, be "right" 99% of the time. Those odds, however, hold no appeal for us. We will never play financial Russian roulette with the funds you've entrusted to us, even if the metaphorical gun has 100 chambers and only one bullet. In our view, it is madness to risk losing what you need in pursuing what you simply desire.

・Despite our conservatism, I think we will be able every year to build the underlying per-share earning power of Berkshire. That does not mean operating earnings will increase each year - far from it. The U.S. economy will ebb and flow - though mostly flow - and, when it weakens, so will our current earnings. But we will continue to achieve organic gains, make bolt-on acquisitions and enter new fields. I believe, therefore, that Berkshire will annually add to its underlying earning power.

In some years the gains will be substantial, and at other times they will be minor. Markets, competition, and chance will determine when opportunities come our way. Through it all, Berkshire will keep moving forward, powered by the array of solid businesses we now possess and the new companies we will purchase. In most years, moreover, our country's economy will provide a strong tailwind for business. We are blessed to have the United States as our home field.

・The bad news is that Berkshire's long-term gains - measured by percentages, not by dollars - cannot be dramatic and will not come close to those achieved in the past 50 years. The numbers have become too big. I think Berkshire will outperform the average American company, but our advantage, if any, won't be great.

Eventually - probably between ten and twenty years from now - Berkshire's earnings and capital resources will reach a level that will not allow management to intelligently reinvest all of the company's earnings. At that time our directors will need to determine whether the best method to distribute the excess earnings is through dividends, share repurchases or both. If Berkshire shares are selling below intrinsic business value, massive repurchases will almost certainly be the best choice. You can be comfortable that your directors will make the right decision.

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