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2014年8月24日日曜日

ハードサイエンスにおけるエートス(詳解)(チャーリー・マンガー)

1998年に行われたチャーリー・マンガーの講演「学際的能力の重要性」の8回目です。秀逸な文章として先に取り上げた3回目と対になる内容で、今回も「チャーリー・マンガー的知恵」の核心となる話題です。なお、前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

結局のところ、ハードサイエンスは次の2つで大差をつけて見事な実績を残しています。ひとつめは単一学問主義という愚行を避けてきたこと。ふたつめは、広い学際的領域を使いやすい形で築いたこと。このことは、物理学者のリチャード・ファインマンがみせたような優れた成果を度々もたらしています。たとえば、我らが誇るスペースシャトルの事故を起こした原因が凍結したOリング(円型リング)にあったことを、彼は早々に発見しています。そのエートスを適用する対象をもっとやわらかな素材へと広げた試みは、過去において成功をおさめてきました。たとえば生物学は150年前に始まっています。しかし当時は、深い理論とあまりつながりのない混乱した記述がされていました。しかし次第に「根源的なものを体系化するエートス」を吸収し、すばらしい成果をあげました。そのように変わったのは新しい世代がより優れた思考方法を使うようになってからで、そこには「なぜ?という質問に回答する」モデルを含んでいます。「ハードサイエンスのエートスは、生物学よりも根源的ではない学問分野の助けにはならない」、そのように断じる明確な理由は見当たりません。それではここで、私の語る「根源的なものを体系化するエートス」を自分なりに解釈した形で説明しましょう。

1) 学問分野を根源性の観点によって順序付け、なおかつその順序にしたがって使うこと。

2) 好き嫌いに関わらず、4つの根源的学問分野すべてにおける真に基礎的な部分を、流暢に使いこなせるまで実際に練習し、そして日常的に使うこと。自分が学んだものよりも根源的な学問には、なおさら注意を向けること。

3) 学問分野を超えてアイデアを統合する際には、引用してきた帰属先を必ず明記すること。さらに、「自分あるいは他の分野に含まれるいっそう根源的な素材を使って説明できるのであれば、それ以外の方法で説明してはいけない」としている「経済学の原理」から離れてはならない。

4) しかし手順3)のやりかたをしても有用で新たな洞察が得られないのであれば、何か新しい原理を仮定し、それを立証できるか試すのがよい。その際には、かつて成功裏に原理を生み出せたときと同様のやりかたをとるのが一般的である。しかし既存の原理が真実でないことを現在証明できなければ、新たな原理を既存のものと矛盾させなくてもよい。

かなり現代的なソフトサイエンスのやりかたと比較しても、ハードサイエンスにおける「根源的なものを体系化するエートス」のほうがずっと厳しいことがわかるでしょう。これはパイロット訓練法のひとつを思い起こさせますが、たまたまそうなったわけではありません。「現実とは、耳を傾ける者に聴こえる」ものだからです。パイロット訓練と同じように、このハードサイエンスのエートスが要求しているのは「欲するものをつかめ」ではありません。「好き嫌いはともかく、うまくなるまで全て学べ」です。学際的な知識にもとづいて合理的に活動する組織では、以下のことを必須要件として定めています。第一に、学問領域を超えて何かを採用するときには、本来の帰属先を完全に明記すること。第二に、もっとも根源的な説明こそが最優先されること。

この単純なアイデアはわかりきったことなので役に立たない、と思うかもしれません。しかし昔ながらの2段階規則を使えば、ビジネスや科学など何においても顕著な効果を得られることが多分にあります。その規則とは「はじめに、単純で基本的なルールを作ること。次に、それを徹底すること」です。「根源的なものを体系化するエートス」を徹底して取り組むことが有意義である証拠として、私自身の経験を示しておきましょう。

After all, hard science has, by a wide margin, the best record for both (1) avoiding unidisciplinary folly and (2) making user-friendly a big patch of multidisciplinary domain, with frequent, good results like those of physicist Richard Feynman when he so quickly found in cold O-rings the cause of our greatest space shuttle disaster. And previous extensions of the ethos into softer fare have worked well. For instance, biology, starting 150 years ago with a descriptive mess not much related to deep theory, has gradually absorbed the fundamental organizing ethos with marvelous results as new generations have come to use better thinking methods, containing models that answer the question: why? And there is no clear reason why the ethos of hard science can't also help in disciplines far less fundamental than biology. Here, as I interpret it, is this fundamental organizing ethos I am talking about:

1) You must both rank and use disciplines in order of fundamentalness.

2) You must, like it or nor, master to tested fluency and routinely use the truly essential parts of all four constituents of the fundamental four-discipline combination, with particularly intense attention given to disciplines more fundamental than your own.

3) You may never practice either cross-disciplinary absorption without attribution or departure from a "principle of economy" that forbids explaining in any other way anything readily explainable from more fundamental material in your own or any other discipline.

4) But when the step (3) approach doesn't produce much new and useful insight, you should hypothesize and test to establishment new principles, ordinarily by using methods similar to those that created successful old principles. But you may not use any new principle inconsistent with an old one unless you can now prove that the old principle is not true.

You will note that, compared with much current practice in soft science, the fundamental organizing ethos of hard science is more severe. This reminds one of pilot training, and this outcome is not a coincidence. Reality is talking to anyone who will listen. Like pilot training, the ethos of hard science does not say "take what you wish" but "learn it all to fluency, like it or not." And rational organization of multidisciplinary knowledge is forced by making mandatory (1) full attribution for cross-disciplinary takings and (2) mandatory preference for the most fundamental explanation.

This simple idea may appear too obvious to be useful, but there is an old two-part rule that often works wonders in business, science, and elsewhere: (1) Take a simple, basic idea and (2) take it very seriously. And, as some evidence for the value of taking very seriously the fundamental organizing ethos, I offer the example of my own life.


2段階規則の部分を読んで思い出した方も多いと思います。ウォーレン・バフェットが説く、投資の原則です。

(その1) 資金を決して失わないこと。
(その2) 原則(その1)を忘れないこと。

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