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2014年8月12日火曜日

最悪の状況下における合理的投資家について(1)(セス・クラーマン)

セス・クラーマン氏はボストンを拠点とするヘッジファンドBaupost(バウポスト)の創設者で、現在も活躍中です。Wikipediaによれば、2012年当時の預かり資産評価額は3兆円弱とされています。彼はおもてに出てこない性分のようで、一般的な投資家にはあまり知られていない名前だと思います。しかしこれは優れたバリュー投資家によく見られる傾向だと、個人的には感じています。

(写真の借用元: Smarter Investing)

本ブログでは彼の著作『安全余裕(Margin of Safety)』(1991年)の文章を継続的にご紹介していますが、固い印象を受けたり、あるいは少し年代がかった風合いを感じられているかもしれません。そこで今回から数回に分けて、彼がバリュー投資について書いた比較的近年(2005年)の文章をご紹介します。基本的な思想は彼の書いた本と変わっていません。しかし2000年代中盤の株価上昇期に書かれたことや、ちょっとした逸話やたとえ話も楽しめるので、目を通す価値がある文章だと思います。原文は5ページの文章なので難なく読める長さです。いつものように日本語訳もご紹介します。

A Response to Lowenstein’s Searching for Rational Investors In a Perfect Storm
[PDF] (掲載サイト: アイオワ大学法学部)

ローウェンスティーンの論文「最悪の状況下で合理的に行動した投資家とは」に対する意見

セス・A・クラーマン

「株式市場における効率性」は、現実世界とはごく限定された類似点しか持たないことを自認した優雅な仮説である。ベンジャミン・グレアムすなわち「知性面におけるバリュー投資の父」に習った弟子たちは半世紀にわたって、効率的市場が言うところの「存在するはずのない」割安株を買うことで大きな利益をあげてきた。彼らは、短期的かつ相対的な成績を志向する他の投資家をうまく利用している。つまり絶対的価値を指針とし(相対的ではない)、価格のあやまちから辛抱強く利益を引き出し、一方で人気者や流行りものには払い過ぎないようにしている。彼らの多くはリスクを集中させることを厭わない。わずかな最上のアイデアのほうが100個もある最高のうちの一つよりも優ることを理解しており、どちらがどちらなのかを示す自らの能力に自信を持っているからだ。

バリュー投資家が大きな成功をおさめているのは、(金融理論が示すような)大きなリスクを負っているからではない。識別したリスクをよく熟慮した上で、回避したりヘッジすることでもたらされているのだ。市場効率理論の信奉者は株式のリスクを決定するためにベータを算出するよう要求する。しかしバリュー投資家は、ベータなど計算したことがない人がほとんどである。市場効率理論は保有するポートフォリオを効率的フロンティアの近傍へと移動させることを説く。一方ほとんどのバリュー投資家は、それが何なのか、あるいは具体的にどうやればそう移動させたことになるのか、わからないと言う。金融市場理論が優雅だからこそ、そうなるのかもしれない。しかし成功をおさめられる投資戦略を形成する上で、それらは特段有用なものではない。

効率的市場理論を掲げる学術界に影響力がないとしたら、その欠陥を伴った見方が生み出す違いはわずかなものにとどまるだろう。しかし現実には、彼らの考えは主流となっている。何百万もの投資家が、価値評価や分析結果の如何にかかわらず、保有する株式は安全で妥当だという仮定に基づいて判断をくだしている。学術界は毎年何十万人という学生を教育し、その多くはウォール街に進んだり、それらの信念を抱く企業の経営管理者に加わっている。多くの人が、「市場をしのぐことは不可能であり、株式の価格は常に適正かつ効率的なものである」と教えられてきた。そのため投資家は目の前にあって把握できる戦略を選ばず、それよりもリスキーでいて見返りの少ないことがやがては明らかになる戦略のほうをますます採用するようになっている。

近年における大きな潮流のひとつにインデックス投資がある。これは、市場効率性を信じることから直接うまれたものだ。「市場が効率的だとしたら、なぜそれを超えようと努力するのか。販売手数料や管理費に支払う費用を最小限に抑えることで、そうでない人よりも2歩先に進むことになる」とする考えだ。しかし市場が効率的であれば十分に妥当な考えだが、もし効率的でないとしたらどうなるだろうか。

A Response to Lowenstein’s Searching for Rational Investors In a Perfect Storm

Seth A. Klarman

Stock market efficiency is an elegant hypothesis that bears quite limited resemblance to the real world. For over half a century, disciples of Benjamin Graham, the intellectual father of value investing, have prospered buying bargains that efficient market theory says should not exist. They take advantage of the short-term, relative performance orientation of other investors. They employ an absolute (not relative) valuation compass, patiently exploiting mispricings while avoiding overpaying for what is popular and trendy. Many are willing to concentrate their exposures, knowing that their few best ideas are better than their hundredth best, and confident in their ability to tell which is which.

Value investors thrive not by incurring high risk (as financial theory would suggest), but by deliberately avoiding or hedging the risks they identify. While efficient market theorists tell you to calculate the beta of a stock to determine its riskiness, most value investors have never calculated a beta. Efficient market theory advocates moving a portfolio of holdings closer to the efficient frontier. Most value investors have no idea what this is or how they might accomplish such a move. This is because financial market theory may be elegant, but it is not particularly useful in formulating a successful investment strategy.

If academics espousing the efficient market theory had no influence, their flawed views would make little difference. But, in fact, their thinking is mainstream and millions of investors make their decisions based on the supposition that owning stocks, regardless of valuation and analysis, is safe and reasonable. Academics train hundreds of thousands of students each year, many of whom go to Wall Street and corporate suites espousing these beliefs. Because so many have been taught that outperforming the market is impossible and that stocks are always fairly and efficiently priced, investors have increasingly adopted strategies that eventually will prove both riskier and far less rewarding than they are currently able to comprehend.

One of the biggest trends in recent years, indexing, emanates directly from a belief in market efficiency. If the markets are efficient, why try to outperform? Paying minimal commissions and minuscule management fees puts investors two steps ahead of everyone else. Reasonable enough if the market is efficient, but what if it is not?

備考です。セス・クラーマンがこの文章を書くきっかけになった元の論文も、同じWebサイトにアップロードされています。こちらのページ数は21ページです。

Searching for Rational Investors In a Perfect Storm [PDF]
(著者: ルイス・ローウェンスティーン、掲載サイト: アイオワ大学法学部)

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