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2013年3月11日月曜日

ニュートンとバブル

バブルの本家といえば、18世紀のイングランドでおきた南海泡沫事件です。その騒ぎの中で科学者アイザック・ニュートンも投機に失敗したとされる話は、よく知られているかと思います。今回ご紹介するのは最近読んだ本『ニュートンと贋金づくり』からで、ニュートンが具体的にどれぐらい損をしたのか描かれた箇所です。

1720年1月、噂の流布からバブルが始まった。出どころは、市場のご他聞に洩れず社内の消息筋で、南海会社の株価が上がりそうだという内容だった。エクスチェンジ・アレイが、それにしっかりと食いついた。南海会社の株価は1か月で128ポンドから175ポンドに上昇し、同社がさらに国債を引き受けると発表されると、3月末には330ポンドに跳ね上がった。

だが、それはまだほんの序章だった。あぶく銭が簡単に手に入るという感覚が、投機ブームを煽った。5月には、株価は550ポンドとなり、その1か月後には、夏に10パーセントの配当が出るという告知によって1,050ポンドに達した。

しかしその後、株価はあっけなく暴落した。初めはともかくも、終わりの頃には南海会社はネズミ講同然で、後から投資した者の金に報酬がついて先に投資した者の利益になるという、できすぎた仕組みになっていた。やがて新しく投資する者がいなくなり、その仕組みは破綻した。同社の株価は7月に下落し始め、8月にはまだ800ポンドの値を保っていたものの、その後急落した。そして、1か月もたたないうちに175ポンドとなり、わずか数週間前には絶対に枯れるはずがなさそうに見えた金の成る木に飛びついていた大勢の投資家が、ほぼ完全に姿を消した。

その最後に飛び乗り、最初に打撃をこうむった投資家の一人が、アイザック・ニュートンだった。彼は、そもそも初期に南海会社に投資した、理論上は最も傷の少ない投資家だった。記録を見ると、1713年頃には彼の所有財産のなかに同社の株式がかなり含まれているが、その一部は1720年4月の株価上昇の折に首尾よく売っている。だが、同社の株価がその後も上昇を続けたため、元手をさらに膨らませようとする大胆なプレーヤーのように機を待ったニュートンは、2度目の賭けに出た。6月、株価が最高値を記録した頃、彼は取次ぎ業者に指示して、1,000ポンド分の株を購入した。そして1か月後、株価が下落し始めたときにも、さらに買い足した。その後の暴落によって、彼は2万ポンドにおよぶ損失を被ったと、姪のキャサリン・コンデュイットは記している。彼の造幣局監事の基本給に換算すると、およそ40年分の額だった。(p.264)


損失は間違いなく身に堪えていたものの、ニュートンの全財産が泡と消えたわけではなかった。東インド会社の大株主の一人であることに変わりはなく、1万1000ポンドという同社への投資は、1724年当時としては非常に安定した事業だといえた。また、彼の所有する不動産の評価額はその数年後に最高値となり、リンカンシャーの所有地を除いても3万2000ポンドであった。つまり、彼はどこから見ても、やはり裕福な男だった。しかし、最悪の失敗の記憶は彼を苛み、自分に聞こえるところで誰かが南海会社の話をするのを嫌がったといわれている。彼がそれほどいら立ったのは、大損をしたせいだけではないかもしれない。理性にかけるただの愚か者と同じように、自分もだまされたと思えて腹立たしかったのではないだろうか。投機熱が最高潮に達していた頃の南海会社株の魅力的な値上がりに関する話が出たとき、彼はラドナー卿に「大衆の熱狂を計算することはできない」と言ったという。

後悔はしていたにせよ、友人たちの記憶にあるニュートンの晩年は、おおむね満ち足りていて、知的で獰猛なファイターであった若かりし日よりも、ずっと温和になっていた。裕福であったにもかかわらず暮らしぶりは控えめで、朝食にはバターを塗ったパンを食べ、ワインを飲むのは夕食時だけだった。彼の姪によれば、彼は動物に辛くあたるのを嫌い、古くからの友人を大切にし、かつてはよそよそしく他人行儀だったものの、親戚の者たちに対して家長らしい振る舞いを見せるようになった。結婚式には必ず出席し、「いつもの生真面目さはどこかにしまって、自由に、楽しげに、くつろいでいた」。しかも、家族にとってはさらに嬉しいことに、「彼はたいてい、花嫁には100ポンドを贈り、花婿には商売や仕事の面倒を見てやった」。(p.265)


「彼は2万ポンドにおよぶ損失を被った」とありますが、当時の1ポンドが現在の日本円で25,000円の価値とすると、5億円に相当する損失になります。なおイギリスポンドのインフレ換算は、以下のサイトをお借りして計算しました(1751年までさかのぼれます)。

Historical UK Inflation And Price Conversion

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