まずは、著者からみた売掛金の位置づけです。
私が企業のバランスシートを見るときは、真っ先に、売掛債権と買掛債務の項目に注意して、その企業の問題点をそこからえぐり出そうとするのが常である。なぜなら、キャッシュフローを大きく変動させる要因の主なものが流動資産で、その中でも最大なものは、売掛債権と在庫の残高だからである。
私の考えでは、この売掛債権は最も重要な要素であるにもかかわらず、経営者が最も軽く見ているものである。言い換えれば、今回の不況に生き残るには、売掛債権を減らすことによって流動資産を圧縮し続けることが重要である。さもないと回転差(期間差)資金がなくなって、資金繰りが急速に悪化してしまうからだ。売掛債権とは本物のカネではない。そういう意味で、経営者は「現金」というものが経営にとって、とても意味の深いものだということを肝に銘じる必要がある。
そして、私が売掛金にこだわるのは、あくまでも売上の性格をつかまえたいからである。もちろん売上が立たないと、利益は出ない。しかし、売上が増えたとしても、利益が増えるとは限らないことに注目せねばならない。
無理に売上を増やそうとすると、大幅な値引き販売になったり、売上の回収期間が長くなったり、金利負担が増えたり、あるいは取引先が倒産して焦げ付いたりすることがある。これはお客の顔色を見ながら、二割引、三割引と売値を割り引いていく日本の伝統商法ではよくあることだ。とくに、この長い不況の中で、販売条件をさらに悪くしてでも、売上を取ろうとする企業が多い。
しかし、こういう商売をやっていると、次第に本当の利益がわからなくなってくる。
いわゆる、骨折り損のくたびれ儲けになって、忙しそうにみんな働いているが、働けば働くほど、知らぬうちに損が累積していく。こういう会社が資金繰りに苦しめば、たちどころに倒産してしまう。(p.109)
次は、売掛金の質を向上させる管理会計の一例です。
医薬品卸大手の東邦薬品・故松谷義範会長は、売掛債権のコントロールに長けた名経営者であった。これまでの医薬品卸業界は、得意先である医師へ売り込むために、極端な増量サービスや長期の手形決済などで対応するのが常であった。
業界ではプロパーと呼ばれる営業マンは、自社の薬品をなんとか買ってもらおうと、他社との増量競争や手形の延長競争に走り、利益なき繁忙を続けていたのである。
そこで、松谷会長は、売掛債権の回収期間の適正水準を設け、水準を超える債権については、独自の金利をかけ、予定粗利益額から金利分を差し引く仕組みをつくったのである。回収の遅い売上について名目上では多少の利益が出ていても、金利を引かれると赤字になる。
それによって、給料やボーナスにまで反映させる仕組みだから、たちどころに営業マンの意識を変えることに成功したのである。
不況が深刻になればなるほど、営業マンは目先の売上を取るために、法外な値引きや回収の長期化に走りがちになる。ここで経営者が、売上のもつ恐ろしい性格を知っていれば、利益の出ない売上や回収できそうもない売上をいかに減らすかに腐心するはずだ。(p.111)
ところで、引用元の本は定価が約10,000円と、いい値段がつけられています。図書館向きの本です。この手の本が高価なのは、たとえばセミナーの場で販売するからでしょうかね。
== No title ==
返信削除取り上げていただいてありがとうございます!!
正直なところ,流動資産>流動負債×1.5倍
であればいいのかと,単純に考えていました.(賢明なる投資家の投資基準)
??私はまだまだ勉強が必要です)
「今回の不況に生き残るには、売掛債権を減らすことによって流動資産を圧縮し続けることが重要である。」の部分.
[太字]勘定あって,銭足らず[/太字]
に陥るのを防ぐには,何としても債権を早く回収しなければいけないですよね.
??回収のできそうもない債権ほど恐ろしいものはない気がする...)
経営者の目線で財務状態を把握できたら,もっと投資も楽しくなるんだろうな!
と思いました.
勉強になります!!
ありがとうございます!!!
== 勘定あって,銭足らず ==
返信削除投資男さん、こちらの話題にもお越しくださり、ありがとうございます。
「勘定あって,銭足らず」、おっしゃるとおりです。売掛金に限らず、決算上の利益はある程度操作できるので、投資家としては間違いさがしが楽しめるところです。
ところで、ブログで書かれていたNHKの集金人は言いえて妙ですね。『1Q84』を思い起こしてしまいましたが。
それでは失礼致します。