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2012年5月21日月曜日

安くなくても、まあいいでしょう(マイケル・ポーター)

企業戦略を分析する上でマイケル・ポーターの「5つの競争要因」は使いやすいフレームワークです。投資先の弱点探しをする際には、わたしも頻繁に使っています。詳しい説明がなされている同氏の著書『競争の戦略』は企業戦略の定番教科書ですが、投資家にとっても役立つものです。先日取り上げた『企業戦略論 競争優位の構築と持続』でも、大きく取り上げられていました。

要約すると5つの競争要因とは、企業の生き残りを考える際には次の5つの観点で考えるとよい、というものです。
  1. 既存企業同士の競争
  2. 新規参入者の脅威
  3. サプライヤーの交渉力
  4. 買い手の交渉力
  5. 代替品や代替サービスの脅威
少し前のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー誌を読んでいて、同書の入門的な記事がありましたので、ご紹介します。2011年6月号に掲載されているポーター自身の論文「[改訂]競争の戦略」です。今回はその文章から「買い手の価格感度」の話題を引用します。

まずは、企業が高い収益性を保つ要因のいくつかについて。
先端技術やイノベーションは、それだけで業界構造を魅力的(または魅力に乏しいもの)にするわけではない。ありふれたローテク業界でも、買い手の価格感度が低い、スイッチング・コストが高い、あるいは規模の経済のために参入障壁が高い場合には、ソフトウェア業界やインターネット業界などライバルたちを呼び寄せる魅力度の高い業界よりも、よほど収益性が高い。(p.47)

スイッチング・コストや規模の経済は、以前に本ブログでも軽く取り上げています(過去記事1過去記事2)。もうひとつ、「買い手の価格感度が低い」という表現が登場していますが、これは買う側のほうが、うるさく値下げを迫らなかったり、そのままの値段で買ってくれたり、さらには値上げを容認してくれるといった意味ですね。ありがたいお客さまです。以下では、その具体的な傾向を説明しています。
製品が買い手の原価構造や支出において取るに足らない程度であれば、一般的に買い手の価格感度は低くなる。

儲かっており、現金も潤沢な買い手は、一般的に価格感度が低い。

調達する製品しだいで品質に大きな影響を生じる場合、買い手は通常あまり価格にこだわらない。たとえば、大手映画制作会社が撮影用の高品質カメラを購入またはレンタルする場合、価格は気にせず、最新機能付きで信頼性の高いものを選ぶ。

その業界の製品やサービスが、パフォーマンスの向上あるいは人件費や原材料費などのコスト削減によって、通常の何倍も儲かる場合には、買い手はたいてい価格よりも品質に関心があるといえる。たとえば投資銀行業務など、パフォーマンスが低いとコスト高や面倒な事態を招きかねないサービスには、価格にこだわらない傾向がある。(p.42)

個人的には、価格感度の低さは投資候補企業のMoat(経済的堀)をはかる上で重要視している要因です。この要因は、スイッチング・コストやチャーリー・マンガー言うところの心理学的な傾向と合わさることによって、相乗効果を発揮するものと捉えています。

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