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2012年5月29日火曜日

誤判断の心理学(10)値段が高けりゃ、品質も一番(チャーリー・マンガー)

今回ご紹介するのは、「頭で連想したことが、行動を引き起こしてしまう」という、人の持つ傾向です。(日本語は拙訳)

まずは商売に関する話です。

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その10)単なる連想に動かされる傾向
Influence-from-Mere-Association Tendency

心理学者のスキナーが研究した一般的な条件反射のひとつに、昔に経験した良いできごとがきっかけとなって行動を引き起こすものがあります。たとえば、あるブランドのクリームを使って靴を磨いた人が、その靴をはいて出かけたときに何かうれしいことがあったとしましょう。すると、それが報酬となり、靴用クリームが次に必要になったときにも同じものを買い求めるのです。

しかし、単に連想したことが条件反射的にそのまま行動に結びつくこともあります。たとえば、同じような商品が並んでいると、値段が最も高いものが品質も一番だと考えてしまう人はけっこういるはずです。前もそうだったから、という連想ですね。これに乗じて、平凡な製品を扱う業者でも、商売を大げさに見せることでかなり高い値段をつけてくることがあります。品質を重視する顧客ならば、値段が高いのはそれなりの理由があると考えるだろう、というわけです。産業界ではこのやりかたが売上につながり、利益を大きく押し上げてきました。たとえば電動工具業界では、長期間にわたって高値販売が成功してきました。油井の深部で使われる高価なポンプは、これからもうまくいくでしょう。高級品業界では、このやりかたが特段の効果を発揮しています。高価な商品を買えるということは、製品の風合いを楽しめるだけでなく、それだけのお金が払えるところを他人に見せることができます。つまり、商品を買った人は二重の意味でステータスを誇示できるのです。

In the standard conditioned reflexes studied by Skinner and most common in the world, responsive behavior, creating a new habit, is directly triggered by rewards previously bestowed. For instance, a man buys a can of branded shoe polish, has a good experience with it when shining his shoes, and because of this “reward,” buys the same shoe polish when he needs another can.

But there is another type of conditioned reflex wherein mere association triggers a response. For instance, consider the case of many men who have been trained by their previous experience in life to believe that when several similar items are presented for purchase, the one with the highest price will have the highest quality. Knowing this, some seller of an ordinary industrial product will often change his product's trade dress and raise its price significantly hoping that quality-seeking buyers will be tricked into becoming purchasers by mere association of his product and its high price. This industrial practice frequently is effective in driving up sales and even more so in driving up profits. For instance, it worked wonderfully with high-priced power tools for a long time. And it would work better yet with high-priced pumps at the bottom of oil wells. With luxury goods, the process works with a special boost because buyers who pay high prices often gain extra status from thus demonstrating both their good taste and their ability to pay.


今回は触れませんでしたが、広告業者もこの傾向を巧みに使っている、とチャーリー・マンガーは指摘していました。

次に、この落とし穴を避けるためにどうしたらよいか、助言を述べています。

昔の成功事例を思いおこすところがあるからといって進んでしまうと、道を誤るかもしれません。この失敗を避けたければ、次の話を覚えておくといいでしょう。ナポレオンとヒトラーはいずれもロシアに侵攻しましたが、それは他の戦線で大勝利をおさめた後のことでした[ロシア侵攻はどちらも歴史的な大惨敗に終わり、その後の戦況を変えた]。同じような結末をたどった例も山ほどあります。たとえば、よせばいいのにカジノでギャンブルをしてたまたま勝ってしまった人、こういう人はそもそも因果関係なぞないのに、再三再四カジノへと足を運んでしまうのです。もちろん、待っている先は散々な結末です。同じように、ダメな知り合いに誘われて勝ち目の薄い勝負をしたところ、ひょんな拍子に幸運をつかんでしまう。この場合も、前と同じことを繰り返し、最後はひどい結末で終わります。

過去の成功に酔っておろかな道を進まないようにするにはどうしたらよいか。まずはそれらの成功を導いた要因を洗い出し、そもそも関係なかった偶然が働いていないか調べるのです。そういうものがあると、これからやろうとしていることの勝ち目を検討する際に目を曇らせてしまうからです。次に、過去の成功時には起きたけれど今度は期待できないことを挙げ、その中に危険につながるものがないか調べます。

To avoid being misled by the mere association of some fact with past success, use this memory clue. Think of napoleon and Hitler when they invaded Russia after using their armies with much success elsewhere. And there are plenty of mundane examples of results like those of Napoleon and Hitler. For instance, a man foolishly gambles in a casino and yet wins. This unlikely correlation causes him to try the casino again, or again and again, to his horrid detriment. Or a man gets lucky in an odds-against venture headed by an untalented friend. So influenced, he tries again what worked before - with terrible results.

The proper antidotes to being made such a patsy by past success are (1) to carefully examine each past success, looking for accidental, non-causative factors associated with such success that will tend to mislead as one appraises odds implicit in a proposed new undertaking and (2) to look for dangerous aspects of the new undertaking that were not present when past success occurred.


株式投資でも日常的に連想が働いているものです。たとえば株価が急落すれば、何か悪いことが起きたのかと疑います。あるいは、来期の業績予想が低くでると、成長が鈍ったものと短絡的に判断しがちです。これこそ、世知入門の記事でご紹介したような、チャーリー・マンガーいうところの「存在しないものが見えてしまう」典型ではないでしょうか。そういうときにこそ適切な行動がとれるように、判断力や勇気や余裕資金を持っていたいものです。

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