ot

2012年4月18日水曜日

ぱっと考える、じっくり考える(セス・クラーマン)

今回ご紹介するのは、ヘッジファンド・マネージャーのセス・クラーマンが投資家に向けて書いた2011年度の年次報告からで、おなじみの主題「判断の誤り」についてです。(日本語は拙訳)

心理学者のダニエル・カーネマンは経済学の分野で活躍しており、人の判断や意思決定における合理的モデルを開拓した業績に対して[俗に言う]ノーベル経済学賞を受賞しました。さらに研究を進めた彼が最近になって出版した作品も、注目に値するものです。題名は『ぱっと考える、じっくり考える』[邦訳は未刊行]。自分たちは常に合理的に行動していると考えている人が本書を読むと、がっかりさせられるかもしれません。ですが、カーネマンは人間を非合理な生き物だと決めつけているのではなく、人は常に合理的だと考えるのは現実には即していないと言っているだけです。カーネマンはこう考えています。「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、日常的に入ってくる何百万もの情報に対して自動的に反応する。この反応はぱっとでてくるが、そこそこ信頼できるものだ。このシステムは友人と敵を見分けたり、無害な食べ物と有害なものを選り分けたりする。いつも使う道路を運転する際にも働いており、目的地に着いたときには何をどう運転してきたのか思い出せないぐらいだ。そう、システムその1は世の中で生きていくには欠かせないものなのだ。一方、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている。システムその1は特に計算せずに2 + 2 = 4のような答えを出せるが、17 * 24のような問題にはシステムその2が必要になる。落ち着いて考えなければ解けないからだ」。

Daniel Kahneman, a psychologist who won the Nobel Prize in Economic Sciences for his work that challenged a rational model of judgment and decision-making, recently published a remarkable account of his intellectual journey: Thinking, Fast and Slow. The implications for those who believe that we are always rational actors are quite disheartening. Kahneman does not, by the way, brand people as irrational; he simply believes that the idea that we are always rational actors does not hold water. Kahneman thinks of the human brain as operating on two systems simultaneously. System One, the fast brain, is mostly on autopilot-responding to millions of inputs on a daily basis, forming quick and mostly reliable impressions. System One helps us discern friend from foe, or edible from poisonous. It controls our driving on a familiar highway, so that when we arrive at our destination, we hardly remember how we got there. We need System One to navigate the world. System Two is slow. System One knows that two plus two is, four without doing the math. System Two is needed to know what 17 times 24 equals', We have to slow down and think.


続いて、セス・クラーマンは、システムその1を使う場合の危険性に触れています。

システムその1を使って、簡単な問いではなく難解な問いに答えようとすると、失敗しやすくなります。物事を単純化しすぎることの危うさを示す例として、コリン・キャメラーという学者が最初に注目した「競合動向の軽視」という概念を紹介しましょう。これは、ある会社が自分たちの強みばかりに目がいってしまうと、実は競合他社も同じような力をつけていて、顧客をうばいとってきたり、いい商売の機会をみつけようと動くのを見逃しかねない、というものです。もうけ話が眠っているニッチをみつけるには、自分の能力を正しく見極めるだけではなく、競争相手の能力や意図のほうも考えることが不可欠なのです。これはビジネスでも投資でも同じことです。

When System One substitutes an easier question for a harder one, it is easy to make mistakes. Colin Camerer coined the concept of "competition neglect," which illustrates one of the dangers of oversimplification. When a business only focuses inward on its own strengths, it can miss the fact that its competitors may be equally strong and pursuing the same customers and business opportunities. Figuring out profitable niches to exploit-in business or in investing--depends not only on correct identification of your own capabilities, but also the capabilities and intentions of your competitors.


ダニエル・カーネマンは行動経済学の大家で、その手の本を読むたびにお目にかかる名前です。今回の引用で出てくる『Thinking, Fast and Slow』は遠からず翻訳されるでしょうから、楽しみに待つことにします。なお、題名の『ぱっと考える、じっくり考える』は私の勝手訳です。

0 件のコメント:

コメントを投稿