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2012年4月15日日曜日

飢えた犬が骨に食らいつくような光景

最近読んだ本『ハイパーインフレの悪夢』は、その時代に生きた人々の思いや世相が伝わってくる一冊です。インフレが高じたメカニズムを解明する類の本ではありませんが、歴史から何かを学ぼうとする人にとっては一読に値する本だと思います。

今回は同書からの引用で、1923年11月6日ごろに、あるイギリス人実業家がベルリンで見た光景です。第一次世界大戦でドイツが敗れ、1919年6月にヴェルサイユ条約を受諾した時点での為替レートは、1ポンド=20マルクでした。一方、この文章が書かれたのはハイパーインフレの末期で、1ポンド=3100億マルクまで減価していました。

わたしは自分が目にした光景に気分が悪くなりました。たまたま、フリードリヒシュトラッセとウンターデンリンデンのあいだのアーケードを通りかかったのです。するとその狭い空間に、ほとんど死にかけた3人の女がいました。肺病か飢餓の最終段階にあるようでした。おそらく飢餓のほうでしょう。女たちには施しを求める力さえありませんでしたが、わたしが無価値なドイツの札をひと束与えると、必死になってそれをつかもうとしました--飢えた犬が骨に食らいつくように。それを見て、わたしは衝撃を受けました。わたしはドイツびいきではありませんが、休戦から5年が経つ今、わたしたちがこのような事態を容認しているとは驚きです。ああいう惨めなものを見たことがない人たちに、ここの実情がほんとうに理解できるのか、疑問に思わざるをえません。(中略)もちろんベルリンでは、自動車や、ぜいたくに暮らす裕福な人々も見かけます。しかし貧しい地区で何が起こっているか、ご存知ですか?食糧を求める長い行列を見れば、説明は無用でしょう。(p.245)

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