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2015年5月12日火曜日

CEOに必要な資質とは(『破天荒な経営者たち』)

数回前の投稿でご紹介した著書『破天荒な経営者たち』からもう1点ご紹介します。今回引用するのは、ラルストン・ピュリーナ社のCEOだったビル・スティーリッツ氏の話題です。なおペットフード会社の同社は、2001年にネスレに買収されました。

買収に関しては節約志向で、大型入札で株価がつり上がるよりも機を見て市場で買うことを好んだ。そして、常にPER(株価収益率)が周期的な安値を付けたときに買収を行った。(中略)

スティーリッツは、自社株買いのリターンがほかの資本投資、特に買収を判断するときの基準になると考えていた。長年彼の補佐役を務めたパット・モケイヒーによれば、「投資判断には、常に自社株買いのリターンというハードルが使われました。もし、買収によってある程度の精度でこのリターンを上回ることができそうならば、それは実行する価値があると判断されました」。(中略)

スティーリッツは、控えめに見ても魅力的なリターンを生みそうな会社のみを買うべきだと考えていた。彼は、詳細な金融モデルなど当てにせず、いくつかの重要な変数――市場成長率、競争、業務改善が可能か、そしてもちろん現金を生み出すカ――のみを考慮して判断を下していた。彼によれば「私はいくつかの重要な想定のみに注目して判断を下していました。まず調べるのは、市場の潜在的なトレンドの成長率と競争状況です」。(p.216)

スティーリッツは独立心が強く、外部からの助言はまったく受け入れなかった。彼は、CEOの資質としてカリスマ性は過大評価されていると考えていた。必要なのは分析力と独立的思考で、「それがなければ、CEOは銀行とCFO(最高財務責任者)の言うなりです」。彼は、多くのCEOがこのような分析力が必要ない部門(法務、マーケティング、製造、販売など)の出身だということを理解していた。しかしそのうえで、この能力がなければCEOとしては非常に不利だと考えていた。彼の信条は単純で、「リーダーシップとは分析力です」。(p.220)

4 件のコメント:

  1. 『破天荒な経営者たち』はとてもいい本ですね。以前は、なぜバフェットがほとんど純利益の出ていないリバティグローバル株を買ったのか理解できなかったのですが、この本を読んで疑問が氷解しました。また、フリーキャッシュフローを最大化するといった点も『企業価値評価』の内容と相関していたので、非常に多くの知識を得られました。

    ただ、一点だけわからなかったのは本書中で多用されている「リターン」という表現についてです。他社の買収に関しては買収によって利益が増えるという意味で理解しやすかったのですが、自社株買いによって発生する「リターン」というのがどういったものなのかいまだに判然としません。

    betseldomさんは自社株買いのリターンについてはどのように理解されていますか?

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    1. リュウジさん、お久しぶりです。コメントをありがとうございました。

      『破天荒な経営者たち』をお読みになったとのことで、同じような想いを抱いてくださってよかったです。世間一般の経営者とくらべると、同書に登場する人物のほうが合理的な判断をくだしている傾向が強いのですが、それが啓蒙書となっている事実は、我々人類が進化的に未熟なことをよく表していると感じています。

      さて「自社株買いのリターンをどのように理解しているか」との話題ですが、リュウジさんが書かれていた「他社の買収に関しては買収によって利益が増える」と同じことだと理解しています。つまり自社を2分割し、つまり「残存株主で構成される自社A」と「株を売却する意図を持った株主で構成される自社B」とみなして、自社Bを本源的価値以下で安く買えば利益が得られる、と捉えています。

      単純な具体例を以下に記します。筋書きが稚拙な点はご容赦ください。

      (具体例、ここから開始)

      リュウジさんとわたしで、資金を拠出して会社を設立したとします。拠出額は以下のように同じ金額としておきます。会社に対するそれぞれの持ち分は50%ずつになります。

      リュウジさん: 100万円
      わたし: 100万円

      会社の総資産は200万円となります。この資金を使って営利活動をしていきますが、リュウジさんが早々に投資候補をみつけてきました。180万円を使って某国の1年物国債(円建て)を買おうとする案件です。中途換金できない制約があるために利回りが高く、年率が2%でした。わたしのほうは気乗りしなかったのですが、リュウジさんに説得されて投資に踏み切ることになりました。

      (総資産)200万円 = (現金)20万円 + (債券)180万円

      さて債券を買った翌日になって、急にわたしのほうで現金が必要になりました。1円でも多く即金で用意しなければならず、会社の保有する債券が償還されるまで待っていられません。リュウジさんは「会社の現金が20万円あるから、それを貸しましょうか」と提案しましたが、わたしのほうは前日の投資判断を逆恨みしていました(もう1日待っていれば、現金が全部残っていたのに)。共同で設立した会社から金など借りたくない。むしろ20万円でもいいから現金すべてを出して、自分が保有する持ち分を買い取ってほしい、と言い返しました。

      そこで会社はわたしの持ち分を買い取る対価として、わたしに現金20万円を支払いました。わたしは舞台から消え、リュウジさんが会社を100%保有することになりました。会社の財務状況は次のようになりました。

      (総資産)180万円 = (債券)180万円

      100万円を投じたリュウジさんが1年後になって実質的に保有できる現金は、180万円+債券の利子となります。悪くない投資です。

      (具体例、ここでおわり)

      ふだんから漠然と考えていたことを文章にしたので、盲点があるかもしれません。ご指摘いただければ、ありがたく存じます。また、リュウジさんが望まれていた視点から外れていたかもしれませんが、ご了承ください。

      有意義な話題を提示してくださり、どうもありがとうございました。
      またよろしくお願いします。

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  2. 丁寧なご回答をいただきありがとうございます。

    なるほど。具体例のように、合理的な価格で自社株を取得できれば保有し続けている人間の持ち分が増える、つまりこの増えたパーセンテージ分の一株当たりの価値のことをリターンというのですね。
    確かに投下した100万円が180万円+利子になるのは悪くない投資です。betseldomさんの信頼と引き換えになったのは悩ましいところですが(笑)


    私も本書の登場人物のような経営者が稀であるという事実については複雑な想いですが、反面、彼らのような存在が稀であればあるほど、信念を持った合理的な投資家でいようとすることへのインセンティブが高まるように思います。信頼のできる経営者に率いられた優れた企業の株を適切な価格で取得し、経営者と同じ目線に立って、その企業の本質的価値が毀損されない限り株を持ち続ければ、十分に満足のいくリターンを得ることができるのですから。

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    1. リュウジさん、ご返信ありがとうございました。

      自社株買いのリターンとは、リュウジさんが明記してくださった「増えたパーセンテージ分の一株当たりの価値のことをリターンという」とおりだと考えています。

      もう一点お書きになっていた「信頼のできる経営者に率いられた優れた企業の株を適切な価格で取得し、経営者と同じ目線に立って、その企業の本質的価値が毀損されない限り株を持ち続ければ、十分に満足のいくリターンを得る」ことは、全面的に賛成です。投資を検討する際に欠かせないさまざまな要因が凝縮された表現だと思います。

      短いですが、これにて失礼します。

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