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2015年5月24日日曜日

最低賃金の引き上げよりもすぐれた政策(ウォーレン・バフェット)

ウォーレン・バフェットがめずらしくTweetしていました(今回で7件目)。政治と経済に関わる話題を、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)へ寄稿したとのことです。今回は同記事から一部を引用します。(日本語は拙訳)


Better Than Raising the Minimum Wage (WSJ)

この国の経済政策では大きな目標として次の2つを掲げるべきだ、とわたしは考えています。ひとつめは、わたしたちのような裕福な社会では、働きたいと望むあらゆる人が十分な生活をおくれるだけの収入を得られるように目指すことです。もうひとつは、そのための施策がどうであろうと、この国の市場システムをゆがめてはならないことです。それは成長や繁栄をみちびく大切な要素だからです。

ところが最低賃金をそれなりに引き上げるとする案が出てくると、ふたつめの目標は打ち砕かれてしまいます。どんな仕事だろうと、最低でも時給150ドル(=約1800円)がもらえればいいとは思います。しかしそのような最低額では、雇用が大幅に減少するのはほぼまちがいありません。基礎的な技能しか持たないたくさんの勤労者を直撃するでしょう。一方で小幅な増加にとどまれば、もちろんうれしいことはたしかですが、多くの勤勉なアメリカ人が貧困から抜け出せないままだと思います。

もっと良い解決案があります。それは、給付付き勤労所得税額控除制度(EITC)を大幅かつ慎重に形成拡張することです。現在その制度は数百万人の低所得勤労者が利用しています。請求者たる勤労者の収入が増えれば支給額は減額されますが、やる気を削ぐことにはなりません。賃金が増えれば収入全体は増えるからです。制度の使い方はかんたんです。まず確定申告をします。すると政府が小切手を送ってきてくれます。

給付付き勤労所得税額控除制度の本質は、労働に対して報酬を出し、勤労者が自分の技能を向上させるよう仕向けることです。それとあわせて重要なことがあります。市場力学をゆがめないので、雇用を最大化させることができます。

In my mind, the country's economic policies should have two main objectives. First, we should wish, in our rich society, for every person who is willing to work to receive income that will provide him or her a decent lifestyle. Second, any plan to do that should not distort our market system, the key element required for growth and prosperity.

That second goal crumbles in the face of any plan to sizably increase the minimum wage. I may wish to have all jobs pay at least $15 an hour. But that minimum would almost certainly reduce employment in a major way, crushing many workers possessing only basic skills. Smaller increases, though obviously welcome, will still leave many hardworking Americans mired in poverty.

The better answer is a major and carefully crafted expansion of the Earned Income Tax Credit (EITC), which currently goes to millions of low-income workers. Payments to eligible workers diminish as their earnings increase. But there is no disincentive effect: A gain in wages always produces a gain in overall income. The process is simple: You file a tax return, and the government sends you a check.

In essence, the EITC rewards work and provides an incentive for workers to improve their skills. Equally important, it does not distort market forces, thereby maximizing employment.

4 件のコメント:

  1. 何時も貴重な記事を有難うございます。
    前にもコメントさせて頂いたことが有りますが、私はBRKBの株主でもあります。
    本件のWBの意見は全くその通りだと思います。

    私の尊敬する最高の投資家はWBで、最高の経済学者はミルトン・フリ-ドマンです。

    WBと同じ趣旨の意見を、ミルトン・フリ-ドマンが彼の著書「政府からの自由」(昭和59年2月10日発行)のP.349-355に「負の所得税」として、明快且つ詳細に述べています。
    betseldom様は既読かもしれませんが。

    この書物は同じフリ-ドマンの一般向け書物「資本主義と自由」「選択の自由」と同じ趣旨の内容ですが、何しろ「政府からの自由」の巻頭には例の「プレイボ-イ」のインタヴュウ記事が載せられています。この記事が実に秀逸。
    私は、彼の大ファンの一人です、アメリカの「ばら撒き政治」に対する彼の正当な、辛辣な意見表示の信奉者です。日本のばら撒き政治に対して、ミルトン・フリ-ドマンに相当する日本の経済学者は誰でしょうか?

    それでは失礼します。

    betseldom様の過去のブログは内容が豊富で密度が濃いので、中々読み切れません。
    日々読むのを楽しみにしています。

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    1. 匿名さん、こんにちは。いつもコメントをいただき、はげみになります。また過去の投稿もお読みくださり、こちらもありがとうございます。

      高名な経済学者ミルトン・フリードマンは名前を知るだけで著作を読んだことはありません。ほかの経済学者についても同様に、読んだことのある経済書はわずかです。経済学のことは初歩的な内容しか理解していません。そのような前提ですが、個人的におもうところを少し書いてみます。匿名さんの書かれた主題からかなり脱線していますが、お許しください。

      中心的な考えとして個人的に抱いているのは、「ほとんどの統治機構には貨幣価値を減価させる動機がビルトインされている」とする考えです。チャーリー・マンガーもたびたび主張していたかと思いますが、過去の歴史をふりかえれば拡張繁栄した国家や帝国で同じことが繰り返されています。投入したエネルギーや付加価値の対価として得た貨幣価値を毀損することは、端的には支配者層によるゆるやかな搾取と言い換えることもできます。隷従している側の一員として、そのような政策や統治姿勢には反対します。(その一方で、不換紙幣以外の資産を保有する者や債務保有者が相対的に有利となることも理解しています)

      そうは言いながらも、状況によっては「ばらまき政治」を認めざるを得ない時期もあると思います。たとえば日本で90年代以降に実施された財政政策を擁護するリチャード・クーの主張は正当だと感じています。つまり民間部門が投資をせずに貯蓄を志向する状況では、政府部門が反対の行動をとってバランスを維持しなけば量的な成長を達成できない点です。(ただし彼の主張が常に正しいとは思いませんし、量的成長が必達だとも思いません)

      金融の例では、2008年に金融危機が生じて絶体絶命の局面がきたときにバーナンキがとった金融緩和政策を、ウォーレン・バフェットは支持しました。特定局面における応急策としては合理的だと考えたのではないでしょうか。 これら2つの例は、「価値のあるリアルオプションであれば、それを買って時間を稼ぐほうがよい」とする見方だとうけとめています。

      そこまでは容認するとしても、マネー・マネージャーのボブ・ロドリゲスなどは、政府が本質的な解決を先延ばしにしている点を問題視しています。その見方も賛成です。米国では財政再建という課題を政争の道具に使っていますし、日本は統治機構全体が幼稚な行動原理に支配されています。どちらも繁栄を味わったことのある者ゆえに、内向きで危機感が弱いように思えます。それでも、世界を牛耳る米国には大きな優位性がありますが。

      ウォーレンやチャーリーは現在の経済状況を、「考えられなかったことが実際に起きている」と表現しました。経済というシステムが持つ許容能力の大きさはシステムの複雑さが持つ別の側面だと、個人的にはとらえています。自然界や生態系と同じようなものです。そうだとすれば、システムの限界を試すような行動はとるべきでないと思います。やがて大きく増幅されたしっぺ返しがくるかもしれないですから。

      まとまりのない文章となり、申し訳ございません。
      匿名さんには、敬うに足る諸氏が書かれた本文のほうをお楽しみ頂ければと存じます。

      またよろしくお願い致します。

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  2. 5月27日付けの丁寧な御返答有難う御座いました。
    各論ともbetseldom様の思考の深さと広さの一端を見せて頂いた気がします。
    大変参考になりました。
    今後とも宜しくお願い致します。

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    1. 匿名さん、こんにちは。つまらぬ文章にわざわざご返信くださり、どうもありがとうございました。

      ご参考までに、先日開催されたバークシャー株主総会のメモには、チャーリー・マンガーは米国がマネーの量を増やしすぎていることを心配しているとあります。(以下の投稿で示したPDFファイルのp.11、"DOLLAR AS A RESERVE CURRENCY"にあります)

      http://betseldom.blogspot.com/2015/05/sugar-is-an-enormously-helpful.html

      またよろしくお願い致します。

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