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2013年9月4日水曜日

脳のなかの近道(神経科学者V・S・ラマチャンドラン)

心理学者ダニエル・カーネマンが著書『ファスト&スロー』で、人間が持つ2つの思考機能について説明していることを、以前の投稿でとりあげました。その主張を解剖学的な観点から説明する文章をみかけましたので、ご紹介します。最近読んだ本『脳のなかの天使』からの引用です。おそらくカーネマンも、そのような知見を参考に持論を展開したと思われます。

上の2つの本における用語の対応関係ですが、以下の文章に登場する「経路1」と「経路2」が「スロー」な思考に、そして「経路3」が「ファスト」に対応しています。

経路1と経路2に加えて、もう一つ、対象物に対する情報的反応に関与する、より反射的な別の経路もあるらしい。私はそれを経路3と呼んでいる。経路1と2が「いかに(How)」と「何(What)」の流れだとすれば、経路3は「それで(So What)」の流れと考えることができる。この経路では、目、食べ物、顔の表情、生命のある動き(たとえばだれかの歩きぶりや身ぶり)といった生物学的に突出性のある刺激が、紡錘状回から側頭葉の上側頭溝(STS)と呼ばれる領域に向かい、そこを通って扁桃体に直行する。言いかえれば経路3は、高次の対象認知(と経路2を通して呼び起こされる関連のさまざまなものごと)をバイパスして近道をとり、情動の中核をなす辺縁系への入り口である扁桃体に、すみやかに到達する。この近道はおそらく、生得的であるか後天的に学習されたものであるかにかかわらず、重要度の高い状況に対するすばやい反応を促進するために進化したものと思われる。

扁桃体は過去に貯蔵された記憶や辺縁系のほかの構造体と協同して、あなたが見ているものの情動的な意味や重要性を評価する。それは友だちか、敵か、配偶相手か? 食べ物か、水か、危険か? それともどうということのないものか? もしそれが重要ではないものだったら--ただの丸太や、糸くずや、風に鳴っている木だったら--あなたはそれに対して何も感じず、おそらくそれを無視するだろう。しかしそれが重要なものだったら、ただちに何かを感じる。そしてそれが強い感情だったら、扁桃体から出る信号が視床下部にも流れこむ。視床下部はホルモンの放出を調整しているほかに、自律神経系を活性化させて、摂食、闘争、逃走、求愛など、状況に応じた適切な行動をするための準備態勢をとらせる。そうした自立反応には、心拍数の増加、浅く速い呼吸、発汗など、強い情動をあらわすさまざまな生理的徴候がともなう。人間の場合は扁桃体が前頭葉とも結びついており、それが基本的な情動の混合に微妙な趣(おもむき)を加味するので、単なる怒りや欲望や恐怖だけではなく、傲慢、プライド、警戒、あこがれ、闊達さなども生じる。(p.100)


本ブログではこの種の話題をたびたびとりあげていますが、個人的には「人間はまちがえるようにできている」と考えるようになりました。これは、「人間が進化的にあやまった種だ」という意味ではなく、「現代の特定の局面では、人間の持つ機能はあやまちを導きやすい」という意味です。チャーリー・マンガーはその宿命を回避する鍵を示しているようにみえます。たとえばウォーレン・バフェットとコンビを組むことで意思決定のあやまちを減らしたり、物事を探求するお手本としてチャールズ・ダーウィンのやりかたを説きつづけています(過去記事の例)。

なお脳神経からとらえた投資の本としては、ジェイソン・ツヴァイクが書いた『あなたのお金と投資脳の秘密』を以前にご紹介しました(過去記事)。今となってはよく知られている話題も少なくないですが、総じておもしろく読めた一冊でした。

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