ot

2014年9月10日水曜日

リスクについて再び考える(2)(ハワード・マークス)

ハワード・マークスの新しいメモ"Risk Revisited"より、さらに引用します。原文(PDFファイル)のリンク先は、前回の投稿で示してあります。(日本語は拙訳)

2006年にリスクについて書いた元のメモで、ある重要な考えをはじめて思いつきました。「事前[アプリオリ、先験的]のことは忘れよ」というものです。もしリスクの定義を価格変動幅以外のものとしたら、事実が生じた後でもそれを測定することはできません。たとえば10ドルで買ったものを1年後に20ドルで売った場合、それはリスキーでしょうか、ちがうでしょうか。初心者であれば「利益の出たことが安全の証拠」と言うでしょうし、学術界は「1年間で100%の利益を上げるには、大きなリスクをとるしかない」ので、明らかにリスキーだと言うでしょう。私であれば、こう述べます。「倍増すること請け合いの、見事で安全な投資だったかもしれません。あるいは、リスキーなダーツ投げで幸運を射止めただけかもしれません」と。

2012年に投資した資金を2014年に確かめてみるとしましょう。(どれだけ)失われたかどうかはわかりますが、その投資がリスキーだったのかどうかは判断できません。損失を出す可能性とは、投資した時点での問題だからです。たとえ話を続けると、たとえば明日の天気は雨かもしれないし、ちがうかもしれない。しかし明日の天気が雨の確率は今日の時点でどの程度かは、明日になって起こることが教えてくれるわけではありません。この降雨リスクのたとえ話は、損失リスクを語る上でもってこいの相似だと思います(完全なものではないことはよくわかっていますが)。 (p.2)

While writing the original memo on risk in 2006, an important thought came to me for the first time. Forget about a priori; if you define risk as anything other than volatility, it can't be measured even after the fact. If you buy something for $10 and sell it a year later for $20, was it risky or not? The novice would say the profit proves it was safe, while the academic would say it was clearly risky, since the only way to make 100% in a year is by taking a lot of risk. I'd say it might have been a brilliant, safe investment that was sure to double or a risky dart throw that got lucky.

If you make an investment in 2012, you'll know in 2014 whether you lost money (and how much), but you won't know whether it was a risky investment - that is, what the probability of loss was at the time you made it. To continue the analogy, it may rain tomorrow, or it may not, but nothing that happens tomorrow will tell you what the probability of rain was as of today. And the risk of rain is a very good analogue (although I'm sure not perfect) for the risk of loss.


その一方で、未来を事前に知ることはできないと私は強く確信しています。次の発言をしたジョン・ケネス・ガルブレイスに共感します。「予測家には2種類いる。ひとつは未来がわからぬ者たちで、もうひとつは未来がわからぬ自分自身をわかっていない者たちだ」。予測ができない理由はいくつかあげられます。

・将来のできごとに影響しうる要因が数多くあることは、だれもが重々承知しています。政策の実施や、個人消費における意思決定、商品(コモディティー)価格の変化などです。しかしそれらを予測するのは困難です。ですから、それらすべての要因を含めた上で検討できる人がいるとは、とても思えません。(この分類は、ドナルド・ラムズフェルドが言い表した「無知の知」に相当すると言われたことがあります。知らぬを知る、ということですね) (p.2)

On the other hand, I'm solidly convinced the future isn't knowable. I side with John Kenneth Galbraith who said, "We have two classes of forecasters: Those who don't know - and those who don't know they don't know." There are several reasons for this inability to predict:

・We're well aware of many factors that can influence future events, such as governmental actions, individuals' spending decisions and changes in commodity prices. But these things are hard to predict, and I doubt anyone is capable of taking all of them into account at once. (People have suggested a parallel between this categorization and that of Donald Rumsfeld, who might have called these things "known unknown": the things we know we don't know.)


最後の項目[未訳; 因果関係の弱さ]は検討に値するものです。物理学は科学ですので、だから電気のエンジニアは、このスイッチを入れればあの灯りが毎回付くことを保証できるわけです。しかし経済学には「お粗末な科学」と呼ばれるだけの理由があります。事実、立派な科学とは言えないものです。この数年間のうちに、次のような現象を観察する機会がありました。金利水準がほぼ0%になっても、GDPは力強く反転しなかったこと。また連銀も債券買入れを減らしたものの、金利上昇にはつながらなかったこと。これらは、ほぼ一致した見方には沿わない結果でした。経済学や投資では人間の行動がカギとなる役割を果たすので、自然科学のように「ああすれば、こうなる」と言い切ることはできません。原因とそれがもたらす影響の関係性が弱いので、結果は不確かなものとなります。言いかえると、そこにリスクが生じるわけです。

将来に影響を及ぼす要因はほぼ無限にありますし、多数の事象はランダムに生じます。そしてつながりの弱さを考えると、「将来のできごとを一貫して予測することはどうやってもかなわない」というのが私の強く信じるところです。特にトレンドと平均の重大な乖離を、有用な水準まで正確に予測することは、いかなる方法を以ってしてもできないと考えます。 (p.2)

That last point deserves discussion. Physics is a science, and for that reason an electrical engineer can guarantee you that if you flip a switch over here, a light will go on over there... every time. But there's good reason why economics is called "the dismal science," and in fact it isn't much of a science at all. In just the last few years we've had opportunity to see - contrary to nearly unanimous expectations - that interest rates near zero can fail to produce a strong rebound in GDP, and that a reduction of bond buying on the part of the Fed can fail to bring on higher interest rates. In economics and investments, because of the key role played by human behavior, you just can't say for sure that "if A, then B," as you can in real science. The weakness of the connection between cause and effect makes outcomes uncertain. In other words, it introduces risk.

Given the near-infinite number of factors that influence the future, the great deal of randomness present, and the weakness of the linkages, it's my solid belief that future events cannot be predicted with any consistency. In particular, predictions of important divergences from trends and norms can't be made with anything approaching the accuracy required for them to be helpful.

4 件のコメント:

  1. == ハワード・マークス ==
    ごぶさたしております。
    この数日(2カ月くらいでしょうか)、石油・天然ガスビジネスについて自分なりにかなり勉強しておりました。専門書のようなものも数冊は読みました。そのおかげか業界に以前よりも詳しくなったかと思います。石油・天然ガスについて勉強をすれば、業界の将来予測が正確にできるようになり、それによって投資リターンを引き上げることができる・・・と思いたいところですが、それが無理なことはハワード・マークスやその他の賢者が多くの事例を使って示してくれているところです。
    先日、ハワード・マークスの著書「投資で一番大切な20の教え」を購入しました。このブログがなければハワード・マークスのことを深く知ることも、このようなすばらしく洞察力にあふれた本と出会うことも恐らくなかったと思います。このブログでハワード・マークスをご紹介いただき本当にありがとうございました。

    返信削除
  2. == ハワード・マークス(ブロンコさんへ) ==
    ブロンコさん、こんにちは。
    わたしもたまたま原油関係のビジネスを調べていたところです。今回だけでなくブロンコさんのコメントからは蓋然性を重視することを教えて頂いていますが、現在検討している投資先でも、その枠組みをなるべく意識し続けるように努めています。この件はわたしのほうからブロンコさんへお礼を申し上げるべきです。どうもありがとうございます。
    ウォーレン・バフェットがチャーリー・マンガーに夢中でいるように、ハワード・マークスからも同じ雰囲気を感じます。さらに、ウォーレンと同じように常識的な視点やバランスの取れた姿勢がうかがわれ、個人的には惹きつけられる人物です。彼の文章を翻訳の形でご紹介するのは、楽しみのひとつです。拙い訳文ですが、お読みくださってありがとうございます。
    それではまたよろしくお願いします。

    返信削除
  3. == 石油・天然ガスビジネス ==
    石油・天然ガスビジネスで私が保有・注目しているのは次のとおりです。
    保有
    ・ナショナル・オイルウェル・バーコ(NOV)
    "No Other Vendor""Number One Vendor"とも呼ばれる掘削機器業界リーダー。リグを製造・運用するためには避けて通ることが不可能な企業。
    ・キンダーモーガン(KMI)
    米国最大の天然ガスパイプラインオペレーター。鉄道に押され気味の石油パイプラインより天然ガスパイプラインを私は好みます(天然ガスパイプラインには液化コストという代替輸送手段を寄せ付けない壁があります)。
    ・ナウ(DNOW)
    NOVの輸送・配送部門がスピンオフし、割れ当てられました。
    ・トランスオーシャン(RIG)
    海洋掘削請負業者世界最大手。最近の株価の大幅下落により実体価値を大きく下回ったと見て購入。高い配当利回りですが、配当に対する税率の高いスイスの企業であるため、税引後利回りは税引前の約半分になります。
    注目
    コア・ラボラトリーズ(CLB)
    貯留層の分析や評価を行う石油サービス会社。この業界で価格交渉力が強いのはCLBやシュルンベルジェ(SLB)などのサービス会社のようです。
    オーシャニアリング・インターナショナル(OII)
    海底遠隔作業ロボットの製造。大水深掘削の関連企業は今後も有望と見ています。
    コスモス・エナジー(KOS)
    新興の石油オペレーター。将来有望な西アフリカの海洋に特化してビジネスを行う。現在の株価が私のはじいた価値を大きく下回っているため近々購入する予定。

    返信削除
  4. == RIGなど(ブロンコさんへ) ==
    ブロンコさん、
    各種銘柄をご紹介くださり、ありがとうございます。聞いたこともない企業もあるので、参考にさせて頂きます。
    NOV(+DNOW)は、著名なバリュー志向のマネージャーの多くが買っていたので、気にはなっていました。バークシャーもそうですね。
    わたしが現在調べているのは、RIGの属する海洋掘削業界です。最近のday rate低下傾向に加えて、IEAの悲観的なニュースがでたせいか、昨日も株価が大きく下がっていましたね。興味があるのはRIGではない別の企業ですが、各社の10-K等を順次読み進めてRIGも自分なりに理解したいと考えています。この業界はコモディティー色が強くて競合比較がしやすいと思っています。企業分析・業界分析のいい訓練になると個人的には考えています。
    それでは失礼します。

    返信削除