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2014年3月26日水曜日

これから坂を下る人(『シグナル&ノイズ』)

読むのを楽しみにしていた本『シグナル&ノイズ』を読了しました。期待にたがわず、十分楽しめ、そして学ぶものがありました。本書では将来予測に関する世の中のさまざまな課題を取りあげています。過去の投稿で『異端の統計学 ベイズ』をご紹介した流れで本書のことに触れましたが、この本でもベイズ統計学的なアプローチや不確実性が重視されています。著者ネイト・シルバー氏が携わる本業や経験したことに関する話題は読ませる文章で、自然と引き込まれました。しかしそれにとどまらず、全般的に文章の構成・展開がこなれており、最後まで読み手を引っぱってくれる本だと思います。お勧めできる本です。

今回ご紹介するのは同書からの引用で、「結果とプロセス」の話題です。この話題は少し前に取り上げています(マイケル・モーブッサンの回)。

私たちアメリカ人は、結果が重視される社会に生きている。金持ちや有名人、あるいは美しい人を見ると、その人たちがそうなるのにふさわしい人だと考える傾向がある。こうした考え方は、自らを取り巻く状況をさらに強める性質をもっている。金を儲ける人はさらに儲ける機会を生み出し、有名人はさらに名声を高める方法を手にし、美の基準はハリウッドスターの容貌を変えるかもしれない。

別に政治的な意図はないし、富の再分配について議論するつもりもない。しかし、経験的に言って、成功というのは、ハードワーク、才能、そして機会と環境の組み合わせで決まる。ノイズとシグナルの組み合わせと言っていいかもしれない。私たちはたいていシグナルの要素を重視するが、うまくいかないときには運のせいにする傾向がある。世の中では、家の大きさが成功の大きさを意味し、そこにたどり着くまでに乗り越えてきたハードルについては誰も深く考えない。

予測に関して言えば、とにかく結果が重視される。株式相場の底を言い当てた投資家は天才扱いだ(欠陥だらけの統計モデルがたまたま当てたとしても)。ワールドシリーズで優勝したチームのゼネラル・マネージャーは、なにはともあれ、ほかのチームのゼネラル・マネージャーより優秀だとみなされる。そこに至るプロセスなど問題にされない。これはポーカーにも当てはまる。クリス・マネーメーカーも「幸運のカードをつかんだ素人ギャンブラー」という宣伝文句だったら、これほど話題になることはなかっただろう。

ときとして私たちは、運というものを予測が外れたことの言い訳に使おうとする。金融危機が表面化した際の格付会社のように。けれども、予測が外れた本当の理由は、現実に存在する以上のシグナルをキャッチしようとしたことにある。

この問題を解決する1つの方法は、もっと厳しく予測を評価することだ。結果を評価することで、安定的に正しく予測できるようになる分野もあるだろう。もう1つは、結果ではなくプロセスを重視する方法だ。データにノイズが非常に多いときにはこの方法しかないだろう。ノイズが多すぎて、どの予測が正しいのかわからないときは、予測者の姿勢や適性に注目しよう。それらは予測の結果と相関があるはずだ(ある意味、私たちは予測者がどのくらい正確な予測をするかを予測していると言える)。

ポーカーのプレーヤーは、こういうことを普通の人よりよく理解している。理屈抜きの浮き沈みを体験しているからだ。ドワンのように高い賭け金でプレーする人は、株の投資家が一生をかけて経験するような変動を1ゲームで経験することもある。いいプレーをして勝つ。いいプレーをして負ける。まずいプレーをして負ける。まずいプレーをして勝つ。ポーカーのプレーヤーなら誰でも、これらの状況を何度も経験するので、プロセスと結果は違うものだらけだということがわかっている。

一流のプレーヤーと話せばわかるが、彼らは自分の成功を当然のこととは思っていない。常に自分を改善しようとしている。ドワンは言った。「もう十分に上達した、ポーカーはわかった、と言う人はこれから坂を下る人だ」(p.360)


もうひとつ、おまけです。この手の文章は時折目にしますが、仮に半分割り引いたとしても、個別銘柄をさがす個人投資家にとっては大いなる福音だと感じています。

ブロジェット[元アナリストで、現在はBusiness Insiderを主宰]はこう語ってくれた。「トレーダーやファンド・マネージャーと話してみればわかると思うが、彼らは翌週か翌月、あるいは四半期先くらいのことしか考えていない。長期的な視点なんてものはない。ライバルと比較して、自分のパフォーマンスはどうか、という視点しかない。90日間で成果を出さなければ、クライアントは自分を切る。メディアにもこきおろされ、恥ずかしい思いをして、成績が地の底まで落ちる。こんな状況でファンダメンタルズなんて何の役にも立たないよ」(p.390)

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