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2014年3月16日日曜日

いつか来た道(セス・クラーマン)

ヘッジファンドBaupostのボスであるセス・クラーマンが、ファンドの投資家向けに昨年度のレターを出していました。彼の文章がおもてに出てくることは少ないのですが、今回は以下のサイトで一部が引用されていました。そのうちのさらに一部(文章全体の末尾の箇所)をご紹介します。(日本語は拙訳)

Seth Klarman 2013 Letter To Investors: The Truman Show (Outlier Allocators)

「やがて、いつの日か」

いつの日か金融市場は再び下降するでしょう。いつの日か株式や債券市場が上昇することは政府の政策ではなくなるでしょう。今日や明日でないにしても、たぶんいつかやってきます。いつの日かQE(量的緩和政策)は終わりを告げ、現金が無料ではなくなるでしょう。いつの日か企業破たんが認められるようになり、いつの日か経済は再び縮小するでしょう。投資家はいつかどこかで何らかの形で資金を失い、投機よりも資産を保全することがふたたび好まれるようになるでしょう。いつの日か金利は上昇し、債券価格は下落するでしょう。そして固定金利の金融商品を保有することで期待されるリターンは、ほぼリスクに見合ったものへと立ち返るでしょう。

いつの日かプロの投資家が仕事に出てきたときに恐怖が市場を襲い、野火のように広がっていくでしょう。悪いニュースが流れ込み、市場は厳しく下落するでしょう。

「いつか来た道」

市場が反転すれば、投資家が見聞きしていたあらゆる物事は上下が逆転し、表裏が反転するでしょう。「下落は買いどき」は「何をねぼけていたのだ」に置き換わり、もうこれ以上悪くならないと投資家が確信するときに、まさにそこから悪くなっていくでしょう。あのころならいつでもリスクを回避できたのにとか、投資で儲けたことによるどんな喜びよりも損失を出す痛みのほうがずっと不愉快なことを、苦々しくも思い返すでしょう。買うほうが売るよりも易しかったとか、弱気相場ではゴキブリホイホイへと変わる投資があまりにも多いこと、つまり「入口はあっても出口はない」ことを知らしめてくれるでしょう。いつもは相関しないはずの投資が、一時的ながらも著しく連動するようになるでしょう。弱気相場になると投資家は常に試されるようになり、その上でさらに試されます。貧弱なポジションをとっていて準備のできていない者はだれでも、下落の道は長くつづくと感じるでしょう。無傷で切り抜けられる者はほとんどおらず、いたとしてもわずかにとどまるでしょう。

6年前には身のほどを知らない投資家がたくさんいました。賢さを鼻にかけたものの試練にさらされていなかった仕組商品が焦げ付き崩壊したことで、巨大金融機関はひざを屈することとなりました。金融機関や機関投資家は危機的な損失に苦しみました。そして生き残った者は、これからはもっと慎重にやって、おごることなく、短期的に考えないようにとみずからに誓いを立てました。

しかしここにふたたび熱狂的な環境へと足を踏み入れたことで、あらゆる理屈を超えて価格が上昇する証券が出てきました。借り入れの姿が戻ってきた市場や資産クラスが増えて、注意を払うことは一般的でないとみられる一方で、リスクをとるほうがより慎重な道のりとみなされるようになりました。2008年に学んだ教訓が一時的でしかなかったのも当然です。傲慢と恐れ、そして天井とどん底は避けがたく繰り返していきます。この上昇が終わるのはいつなのか、それはわかりません。しかしいつかは終わります。そして終わりがくれば流れが逆転することはたしかです。その心構えができている人はわずかでしょうし、実際に用意ができている人もわずかでしょう。

"Someday…"

Someday, financial markets will again decline. Someday, rising stock and bond markets will no longer be government policy - maybe not today or tomorrow, but someday. Someday, QE will end and money won't be free. Someday, corporate failure will be permitted. Someday, the economy will turn down again, and someday, somewhere, somehow, investors will lose money and once again come to favor capital preservation over speculation. Someday, interest rates will be higher, bond prices lower, and the prospective return from owning fixed-income instruments will again be roughly commensurate with the risk.

Someday, professional investors will come to work and fear will have come to the markets and that fear will spread like wildfire. The news flow will be bad, and the markets will be tumbling.

"Here We Are Again"

When the markets reverse, everything investors thought they knew will be turned upside down and inside out. "Buy the dips" will be replaced with "what was I thinking?" Just when investors become convinced that it can't get any worse, it will. They will be painfully reminded of why it's always a good time to be risk-averse, and that the pain of investment loss is considerably more unpleasant than the pleasure from any gain. They will be reminded that it's easier to buy than to sell, and that in bear markets, all too many investments turn into roach motels: "You can get in but you can't get out." Correlations of otherwise uncorrelated investments will temporarily be extremely high. Investors in bear markets are always tested and retested. Anyone who is poorly positioned and ill-prepared will find there's a long way to fall. Few, if any, will escape unscathed.

Six years ago, many investors were way out over their skis. Giant financial institutions were brought to their knees when untested structured products that were too-clever-by-half turned toxic and collapsed. Financial institutions and institutional investors suffered grievous losses. The survivors pledged to themselves that they would forever be more careful, less greedy, less short-term oriented.

But here we are again, mired in a euphoric environment in which some securities have risen in price beyond all reason, where leverage is returning to many markets and asset classes, and where caution seems radical and risk-taking the more prudent course. Not surprisingly, lessons learned in 2008 were only learned temporarily. These are the inevitable cycles of greed and fear, of peaks and troughs. Can we say when it will end? No. Can we say that it will end? Yes. And when it ends and the trend reverses, here is what we can say for sure. Few will be ready. Few will be prepared.


蛇足その1です。おとといの3/14(金)に市場全体が下落しました(TOPIXで-3.22%)。その際に、新規の銘柄へ若干ながら投資しました。常々考えている買値の基準とくらべて2割は高かったのですが、自分自身に対する言い訳はともかく、セス・クラーマンの言うとおり「買いは易し」だと実感しました。

蛇足その2です。セス・クラーマンの書く原文には印象に残るリズムがよく登場します。彼に限らず、著名なマネージャーの書く文章には工夫が凝らされており、顧客をうまく惹きつけていると思います。セス・クラーマンの文章では簡潔で清潔感のあるレトリックが使われており、わたしがよく読む書き手の中ではもっとも詩的な匂いが感じられる文章です。

蛇足その3です。今回の原文記事では映画"The Truman Show"の話題が登場しています。1998年に公開された同作品は、わたしも劇場で鑑賞しました。映画『マスク』が公開されたときにジム・キャリーのファンになってから、彼がシリアスな作品に登場するのを待っていたときの一本でした。その年観た封切作品の中で3本指に入るお気に入りでした。いい作品です。

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