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2014年2月6日木曜日

2013年の投資をふりかえって(9)新規投資銘柄:インテル

インテル (INTC)

<投資に至った背景>
2011-2012年にマイクロソフトに投資しはじめたころ、当社の株価も同じように低迷していました。しかしマイクロソフトとくらべると当社は設備投資額が大きく、資本効率が良くないことから、はじめは投資対象とみていませんでした。しかしマイクロソフトに投資するリスクのひとつとして消費者向け部門が低迷する可能性を考慮するうちに、当社のことを考えるようになりました。マイクロソフトの業績とは連動せずに、当社独自に成長する機会があるのではないかと。このように、マイクロソフトへの投資を部分的にヘッジできないか考えたのが当社に興味を持ちはじめたきっかけでした。

<事業の状況>
当社の主力製品はよく知られているようにコンピューターの中心部であるCPU(=プロセッサー)です。当社は経営管理上、プロセッサー事業を3つのグループに分けています。

・PCクライアントグループ: デスクトップPCやノートPCのプロセッサー等
・データセンターグループ: サーバー用プロセッサーやストレージ(データ記憶装置)等
・その他のIAグループ: 組込み用や通信用プロセッサー、タブレットやスマートフォン用プロセッサー等

またプロセッサー以外の主要な事業としては、次の2つがあります。

・ソフトウェア及びサービス事業: セキュリティーソフト(旧マカフィー)や組込み用OS等
・フラッシュメモリー事業

FY2013の業績(単位:百万$)は売上高が52,708、粗利益が31,521、営業利益が12,291、純利益が9,620でした。EPSは1.89$です。また以下の図は事業別の業績です。前年とくらべて増益だったのがデータセンターとソフトウェア及びサービスで、減益だったのがPCクライアント、その他のIAグループ(スマートフォンやタブレット含む)、それ以外でした。


<株価の状況>
年初は20.62$で年末は25.96$でした。上昇率は25.9%で、インデックスとくらべると低迷しました。


参考までに、以下の株価チャートは1997年以来のものです。配当は別として、見事な横線です。


<投資方針>
2013年の3月と4月に何度かに分けて購入しました(上図の赤矢印)。平均購入単価は21$強でした。ポートフォリオに影響を与えられる規模までは買いたいと考えています。現在の株価23.5$(実績PERで12.5倍前後)は買い増ししても不都合はないのですが、下落するのを待っています。なお配当利回りは3%台後半です。

投資するにあたって当社を評価している点は、主に2つです。前者は以前から考えていましたが、後者は最近になって加わったものです。

1. 他社に先行して微細化の進んだ製品を研究・開発し、製造できる技術力
コンピューターを代表とする電子製品は年々性能が向上する傾向がありますが、それというのも当社を含む電子機器業界に携わるみなさんが営々と技術革新を進めることで実現されています。そのような潮流の中で当社は技術的な優位性が大きく、それゆえに行使できる影響力も相まって、大きな経済的な見返りを受けてきたと捉えています。

CPUなどのプロセッサーを製造する半導体企業は、「小さなものを作る」すなわち微細化技術を推し進めることで、以下のような利益を享受してきました。

・高付加価値化
以前の製品に匹敵する性能をより小さな面積で実現できるようになるため、余剰な領域が生じます。小型化した形で製品化してもよいですし、余剰領域を使ってさらに高集積化して性能を向上させたり、別の周辺回路を取り込んで多機能化することができます。いずれにしても付加価値を高めることになり、売上増ひいては利益増につながります。

・コスト面の優位
製品の主な原材料であるシリコンウエハーの所要面積が小さくなるとともに、無駄になる領域の割合が減少するため、製品1つあたりの材料費が削減できます。また生産能力が実質的に増加するため、増産することができれば固定費の割合を下げることにつながり、さらなる原価低減を実現できます。

・Moat(経済的な堀)の強化
製品の微細化を進めるには、半導体製造装置においてもいっそう高度な性能が要求されます。ますますむずかしい技術的要求に対応するには、製造装置を製作する費用も高額になります。このことは、相対的に経営基盤の弱い当社の競合企業にとっては余力がなくて設備投資できなかったり、経営上の大きなリスクとなります。賭け金が大きくなると、勝負から降りる人が多くなるのと同じ原理です。そのため自社製造から撤退する企業が増え、現時点での有力企業は3社となりました。メモリー生産に強いサムスン電子、受託生産(ファウンドリー)の台湾TSMC、そしてプロセッサーやフラッシュメモリーを開発生産する当社です。

サムスンは総合力で圧倒的な存在です。TSMCはアップルから受注するなど、受託生産の駆け込み寺となっています。法人税が低いのも強力な追い風です。そして当社は最先端の技術力を有しています。興味深いのは、それぞれ独自のMoatを築いている点です。当社への投資を考え直すとすれば、これらの特徴がもたらす影響を考え直すことにあるかもしれません。

2. プロセッサー分野における全方位戦略
昨年春に当社のCEOが交代しました。先代のポール・オッテリーニが辞任したのは業績停滞がつづき、現在の状況を打開するには不適当と指摘されたからではないでしょうか。新CEOのブライアン・クルザニッチは先代とは違って理科系の教育を受けて技術畑を歩んできました。そのため、当社のコア・コンピタンスをよく理解しているはずです。その彼が最近になって明確な戦略を打ち出しました。「計算するなら何であろうと、インテル製品が一番だ」(If it Computes, it does it BEST with Intel)。これはあらゆるプロセッサー市場で勝ちにいくことを宣言しています。PCやサーバーだけでなく、タブレットやスマートフォン、ウェアラブル端末、車載などの組込み用、そして他社製品の受託生産と、プロセッサーできちんと儲けがでるならそれこそインテルの仕事だと謳っているように聞こえます。個人的にはこの戦略を評価しています。どこにも隙を残さないという姿勢を明らかにし、そして実際に行動することは、他社からは脅威として映ります。戦線が拡大して中途半端になるリスクは大きいですが、経営資源の配分の強弱は走りながら変化するでしょうから、結局は現実的に対応するだろうと想像します。先日クルザニッチは準備中だったインターネットTV事業を売却しました。そのような多角化を進めるよりも、プロセッサーに専念するほうがずっと理にかなった選択だと思います。

<リスク>
ここ数年間の業績は横ばいになり、大きな成長が見込めないことが、当社の株価低迷につながっているように見受けられます。市場が次のような不安をいただいていると考えます。

1. クライアントPC市場における売上のさらなる減少
広く報道されているように、消費者向けPCの市場が縮小しています。最近のスマートフォンやタブレット端末に満足している消費者は、古くなったパソコンを買い替える必要がないのでしょう。企業向けのPC需要はそれほど落ち込まないでしょうが、消費者向け市場ではある水準まで市場が縮小すると予想します。市場がこのリスクを警戒するのは妥当な見方だと思います。

クライアントPC市場の縮小は落ち着きをみせつつありますが、完全に底を打ったのかどうかはまだわかりません。仮にこの市場での売上がさらに2割減少した場合、EPSが現在の1.89$からたとえば1.2$に減少します。それを現在の株価水準24$とくらべると、割高ではあるものの高すぎるほどでもありません。成長しているデータセンターグループの利益増を考慮すれば、もう少し妥当なPER水準に落ち着きます。市場はこのような見通しにもとづいて当社の企業価値を算出しているのかもしれません。

2. スマートフォン及びタブレット市場における市場シェア低迷
スマートフォンやタブレット市場は、ここ数年間で大きく成長しています。代表的な製品にはスマートフォン(iPhoneやGalaxyなど)やタブレット(iPadやGalaxy、kindle fire、Nexusなど)がありますが、それらの端末では当社のプロセッサーは事実上使われておらず、シェアもほとんどゼロです。上述したクライアントPCの売上減少をこの市場で補うことが期待されていますが、現在の当社はそれを実現できていません。

スマートフォンとタブレット市場は個別に分けてながめると、少し違う様相がみえてきます。どちらの市場においても従来(昨年中盤まで)の当社製品は技術的にもうひとつで、端末メーカーに受け入れられていませんでした。しかしタブレット市場向けの製品は当社にとっては技術的なハードルが低く、現段階では競合製品と比肩あるいは上回る製品を出荷しています(Bay Trail)。昨年末から当社製プロセッサーを搭載したタブレット端末が実際に販売されるようになり、ユーザーからも少しずつ評価を得ています。タブレット向け製品は、当社製品の中で今年もっとも成長するものと予想します。

一方のスマートフォン向け製品では、まだ他社製品のほうが技術的に優位です。当社製品は特にLTE等の通信モジュールとの統合や、グラフィックス性能の面で遅れています。スマートフォン向けの製品開発を本格的に始めたのが遅かったため、追いつくまでまだ距離があります。当社のシェアは現時点でゼロに近く、端末メーカーから技術的に評価されない点が残されている以上、横綱を土俵に送ることができるのはもう少し先になります。そのような状況なので株式市場は全般として、当社がスマートフォン市場で一定のシェア(たとえば30%)を確保するのはむずかしいだろう、とみているのかもしれません。

この件は個人的には(控えめながらも)楽観的にみています。技術的な課題は解決され、当社がやがて優位に立つと予想するからです。他社にできたものは当社にもできる、というのが個人的な見立てです。一方で、2強メーカーであるアップルとサムスンがどうなるかは非常に大きな課題です。またプロセッサー・メーカーの強敵クアルコムは無線通信の分野ですばらしい位置を占めています。この領域で当社が勢力を伸ばすには少なくとも3年以上はかかるでしょうし、5年や10年かかるかもしれません。しかしクルザニッチも定年までは10年以上残されています。

なお当社はスマートフォン全盛の船に乗り遅れた印象がありますが、一概にそうとは言えません。当社はデータセンター市場におけるAMD等との争いを優先させ、スマートフォンで採用される省電力型のプロセッサーには注力していませんでした。しかしスマートフォン市場の成長がもたらす果実をデータセンター市場で得る、とする考えは容易に思いつきます。スマートフォンやタブレットのような軽量端末文化を支えるには、「クラウド」という名のサーバー機器が不可欠だからです。ユーザー各人が有する端末台数には限りがありますが、クラウドサービスは有用なものであればいくらあっても困りません。実体が見えないものに対しては、際限なく拡大していくのが人間の欲望です。インターネットの利用がますます進む世界において、成長期待の大きいサーバー事業を先に攻略するとした戦略はまちがいではなかったと思います。

3. サーバー市場における市場シェア低下
スマートフォンで採用されているプロセッサーのほとんどは、当社のライバルメーカーARMのライセンスを受けて設計されたものです。このARMベースのプロセッサーが、今度はサーバー市場に進出する話題がよく登場します。また当社の得意先であるグーグル社がARMベースのプロセッサーを設計し、自社用サーバーに採用する動きをみせているとも伝えられています。このような動きが実現すれば、当社が高い粗利益をあげているサーバー用プロセッサーが価格競争にさらされるとする見方があります。しかしこれは限定的と考えます。第一に、顧客やパートナーがサーバー上で展開しているコンピューター資産はマイクロソフトや当社製品に依存する部分もあり、当社に対して正面から対抗するのはスイッチングコストの観点からむずかしいと思われるからです。さらにこの市場では当社もすばやく低電力消費型の製品開発に着手し、すでに第一弾を出荷しています(Avoton)。この製品は高度な機能や性能が要求されないシステムを稼働させる際に適したものです。

ただし、グーグルが自社内で独自に開発するような動きは実現するかもしれません。損得抜きで選ぶのであれば仕方のないことです。しかし経済的な合理性を考えると、本格的な採用規模には達しないだろうと予想します。自社の要求事項をプロトタイプ検証する程度の規模なのかもしれません。

4. 技術革新の限界
半導体の進歩の歴史を振り返ると、物理的な限界について度々指摘されてきました。しかし当社にはそれらを乗り越えてきた実績があります。むずかしさが増しているのは事実で、次も同じようにうまくいく保証はありません。しかし、業界をリードする技術革新をつづけていくことはほぼ確かだと思います。

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