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2018年3月4日日曜日

2017年度バフェットからの手紙(7)CEOの心強い味方、Excel

2017年度「バフェットからの手紙」から、今回は企業買収に関する節のうち、一般向けの話題を引用します。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

買収について

バークシャーの価値を高める構成要素として、次の4点が挙げられます。ひとつめが、十分な規模を有した単体型の企業買収。ふたつめが、当社がすでに保有している事業に合致した拡張型の買収。3つめが、多岐にわたる既存事業での増収及び利益率の改善。最後の4つめが、株式及び債券に投資している巨額のポートフォリオから得られる投資利益、です。この節では2017年に行った買収についてご説明します。

単体型の新しい案件をさがす際には、主要な資質として次の点を求めています。今後も持続しうる競争力を有していること、有能かつ良質な経営陣がいること、事業運営上不可欠な純有形資産に比して優れたリターンをあげていること、魅力的なリターンが期待できる内部成長の機会があること、そして買収価格が適切であること、です。

2017年に検討した実質的にすべての案件が、上に述べた最後の要件を越えられませんでした。「まばゆい」からは程遠いものの「満足できる」程度の事業であっても、その値段は過去最高を記録していたのです。実際のところ楽観的な買収者勢にとっても、買収価格は納得できないも同然だったと思います。

しかし、なぜ買収側は暴挙に出るのでしょうか。その理由のひとつは、CEOという役職が「大丈夫うまくいきます」という種類の人間を、またもや指名するからです。ウォール街のアナリストや取締役会が、CEOという役職者に対して買収を検討するよう要請するのは、成熟期にある十代の子供に対して、あたかも「ちゃんとセックスするんだぞ」と念を押すかのように思えます。

案件を切望しはじめたCEOは、買収を正当化した将来の見通しを出すはずです。部下たちは声援を送るとともに、事業領域の拡大ぶりや、企業規模に応じて増加しがちな報酬の水準を描いてくれるものです。多額の手数料をかぎつけた投資銀行家も、同じように褒め上げるでしょう(「髪を切ったほうがいいかな」とは床屋に訊ねないように)。買収先の業績推移では買収を正当化するのに不足がある場合、大幅な「シナジー」[重複部門の削減など]が業績予想に盛り込まれます。[Excelなどの]スプレッドシートが残念な数字を出すことはありません。

破格の安価で借入れできる機会が2017年には潤沢にあったことで、買収活動に拍車がかかりました。割高な買収をしようとも、借入金によって資金を調達していれば、結局のところ一株当たり利益は増加するのが常ですから。対照的にバークシャーでは、買収案件を評価する際には増資を前提にしています。全額借入れは好みませんし、多額の借入金を特定の事業に割り当てるのは、概して見当違いです(ある種の例外は別とします。たとえばクレイトン社が有する貸付ポートフォリオ用の債務や、当局の規制を受けている公益事業での固定資産に関する債務)。さらにシナジーは考慮に入れませんし、実際にそれが発揮された例もあまりみかけません。

借入れを避けてきたことで、当社のリターンは何年にもわたって抑えられてきました。しかしチャーリーもわたしも、夜にはぐっすり眠れています。「必要のないものを手にいれるために、手元の必要なものを危険にさらす」、そんなことをするのは正気を失っているに違いない、と二人とも思っています。50年前から、そう考えていました。信頼してくれる若干の友人や親族の資金を元に、それぞれが投資パートナーシップを運営していた頃です。そして100万名になる「パートナー」がバークシャーに加わった今日も、同じように考えています。

このところの買収日照りにもかかわらず、「非常に大きな買収ができる機会が、やがてはいくつかあらわれる」とわたしたちは信じています。それまでの間は、次の単純な決めごとに従うばかりです。「慎重さに欠けた行動を他人がとるほどに、わたしたちはますます慎重に身を処すること」。(PDFファイル3ページ目)

Acquisitions

There are four building blocks that add value to Berkshire: (1) sizable stand-alone acquisitions; (2) bolt-on acquisitions that fit with businesses we already own; (3) internal sales growth and margin improvement at our many and varied businesses; and (4) investment earnings from our huge portfolio of stocks and bonds. In this section, we will review 2017 acquisition activity.

In our search for new stand-alone businesses, the key qualities we seek are durable competitive strengths; able and high-grade management; good returns on the net tangible assets required to operate the business; opportunities for internal growth at attractive returns; and, finally, a sensible purchase price.

That last requirement proved a barrier to virtually all deals we reviewed in 2017, as prices for decent, but far from spectacular, businesses hit an all-time high. Indeed, price seemed almost irrelevant to an army of optimistic purchasers.

Why the purchasing frenzy? In part, it’s because the CEO job self-selects for “can-do” types. If Wall Street analysts or board members urge that brand of CEO to consider possible acquisitions, it’s a bit like telling your ripening teenager to be sure to have a normal sex life.

Once a CEO hungers for a deal, he or she will never lack for forecasts that justify the purchase. Subordinates will be cheering, envisioning enlarged domains and the compensation levels that typically increase with corporate size. Investment bankers, smelling huge fees, will be applauding as well. (Don’t ask the barber whether you need a haircut.) If the historical performance of the target falls short of validating its acquisition, large “synergies” will be forecast. Spreadsheets never disappoint.

The ample availability of extraordinarily cheap debt in 2017 further fueled purchase activity. After all, even a high-priced deal will usually boost per-share earnings if it is debt-financed. At Berkshire, in contrast, we evaluate acquisitions on an all-equity basis, knowing that our taste for overall debt is very low and that to assign a large portion of our debt to any individual business would generally be fallacious (leaving aside certain exceptions, such as debt dedicated to Clayton’s lending portfolio or to the fixed-asset commitments at our regulated utilities). We also never factor in, nor do we often find, synergies.

Our aversion to leverage has dampened our returns over the years. But Charlie and I sleep well. Both of us believe it is insane to risk what you have and need in order to obtain what you don’t need. We held this view 50 years ago when we each ran an investment partnership, funded by a few friends and relatives who trusted us. We also hold it today after a million or so “partners” have joined us at Berkshire.

Despite our recent drought of acquisitions, Charlie and I believe that from time to time Berkshire will have opportunities to make very large purchases. In the meantime, we will stick with our simple guideline: The less the prudence with which others conduct their affairs, the greater the prudence with which we must conduct our own.

今回までの投稿で、一般向けの話題はひととおりご紹介できたかと思います。これにて本シリーズは終わりとなります。ただし「保険事業」に関する節から文章を適宜切り出して、改めて取り上げるかもしれません。

もうひとつ、こちらはおまけです。今回の文章でウォーレンは「非常に大きな買収ができる機会」としていましたが、もう一歩具体的な情報が入った話を、昨年の株主総会で発言していました。あくまでもトランスクリプトでの確認で、買収とも株式投資とも言ってはいませんでしたが。

2 件のコメント:

リュウジ さんのコメント...

今年もこの季節がやってきましたね。ウォーレンの叡智とbetseldomさんの翻訳に触れるたびに、新年度に向けて気持ちが新たになるのを感じます。

ところで、今年のレターでは昨今世界を賑わせていた仮想通貨の話題は出ませんでしたね。理解できないことには言及しないということなのか、単純に間に合わなかっただけなのか。今後どのようなスタンスで言及してくるのか気になるところですね。

betseldom さんのコメント...

リュウジさん、お久しぶりです。コメントをありがとうございます。ウォーレンのレターを読み終わると、少しずつ寒さもやわらいできて、新しい季節を心身ともに感じますね。

暗号通貨の話題は、ウォーレンもチャーリーもインタビューなどで少し触れているので(もちろん否定的です)、5月の株主総会で改めてだれかが質問してくれないかと期待しています。チャーリーだったら、「むやみにエントロピーを増大させるだけで(=暗号生成の計算処理)、それに価値を見出すとは何ごとか」と非難しそうですね。

またよろしくお願いします。