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2015年7月2日木曜日

なにもかも知る必要はない(スティーブン・ローミック)

バリュー志向のファンド・マネージャーであるスティーブン・ローミック氏は、個人的に尊敬しているマネージャーのひとりです。彼が最近講演した内容がファンドのWebサイトに掲載されていたので一読しました。楽しんで読め、全編が参考になりました。徹底したバリュー投資家である彼のファンドでは現金比率を高めており、同業者やインデックスとの比較という意味で厳しい時期のようです。しかし、みずからの方針に疑念を抱かぬ彼がふたたび称賛される日がやってくる可能性は高いと思います。

今回は同文書から2か所を引用します(図表も同じ文書から引用)。ひとつめが米国の債務に関する話題で、もうひとつは彼の投資スタイルについてです。(日本語は拙訳)

Don't Be Surprised - Steven Romick's speech to CFA Society of Chicago [PDF] (FPA)

2008年以来、米国での家計及び金融部門における債務の減少幅は3兆3千億ドルでした。しかし政府部門の債務は6兆7千億ドル増加し、政府と民間を合計した全債務の22%を占めています。6年前とくらべると10ポイント増加しています。

政府自身が輪転機を保有しているので、債務返済の面で個人や企業と同じ原理には拘束されていません。しかし10年前には量的緩和という言葉を聞いたことはなかったのですが、現在の中央銀行はあらゆるものが釘であるかのように、そのかなづちを振るっています。わたしが想像したいと考える以上に、このゲームは長期間つづくかもしれません。その間には通貨価値が潜在的に減価していく影響を伴うでしょう。(PDFファイル11ページ目)


Since 2008, total U.S. household and financial sector debt declined $3.3 trillion but government debt has increased $6.7 trillion and now represents 22% of total public and private debt, up ten percentage points from 6 years ago.

Since governments own printing presses, they are not bound by the same debt repayment principles as individuals and corporations. I hadn't heard of quantitative easing a decade ago and now central bankers are using that hammer as if everything is a nail. So, the game can be afoot for longer than I care to imagine, with a potential long-term impact of undermining currencies.

そのためわたしたちは、すばらしい企業をまずまずの値段で、あるいはそこそこの企業を破格の値段で買える機会をみつけることに力を尽くしたいと考えます。その際には単純にやっていきたいと思います。打ち明けますと、いつでもそうしてきたわけではないです。初期の頃には、かなり深入りしていました。企業やその業界のことは全部知っていないと済まない性質でした。そこから学んだことがあります。たくさん知らなくても大丈夫だということ、つまりその会社を動かしているものを一つから三つ特定できればいい、ということです。精確さを追求しても得られるものは少ないと強く感じています。それよりも、結果のとりうる範囲を見極めるほうをえらびます。厳密にやってまちがえるよりも、正しい方角を向いていたいと考えます。

わたしたちは次のような問いに答えるために、多くの時間を費やしています。「この事業はいかにして動いているのか」「なぜこの機会が存在するのか」、その上で「もしそうだとしたらどうなるのか」。投資で成功するには、勝者をみつけるのと同じように敗者を避けることも大切です。それがわかったことでわたしたちは、「好ましい主張を逆転させて、薄暗い色のメガネでみつめる」やりかたをとるようにしました。喜ばしいことにそういったすべてが、寝耳に水のありがたくない事態を減らしてくれるのです。

株式に付けられている値段がちがうと、問いかけられる質問もちがうものになります。値段が高いときとくらべると安いときのほうが、答えるべき質問は少ない数で済みます。たとえばコンテナ船を擁する会社に対して、所有する船団をスクラップにした価値しか考慮しない値段がついているとします。そのときには二つ三つの問いに答えれば十分です。「市場が反転するまでに現金がどれだけ費消されうるのか」「財務の状況はそれを支えられるのか」といった質問です。反対に、同じコンテナ船会社のキャッシュフローが現在良好だとします。デイ・レート[1日当たりの傭船料]が高く、簿価の2倍の株価で取引されているとします。その場合にはデイ・レートの水準がどれだけ継続するかにかかってくるでしょう。そしてさらに問われるのが「経営陣がフリー・キャッシュフローを賢明に使うかどうか」です。先にあげた例では、資本配分の意思決定についてはあまり気にする必要がありませんでした。フリー・キャッシュフローと資金的な柔軟性のどちらも欠けていたからです。

今日わたしたちが目を通している価値評価基準のどれもが、企業がいっそう高いほうへ取引されていることを示しています。つまり、さらにむずかしい質問が増えて、その答えをみつけるのにもっと奮闘しなければならないことを意味しています。(PDFファイル12ページ目)

1998年のスティーブン・ローミック氏(当時34歳)、Money誌の表紙に。

We will therefore continue to focus our energies on the search for great businesses at good prices or decent businesses at great prices. We try and keep it simple. I confess that I didn't always operate this way. In my early years, I ended up too much in the weeds. I had to know everything about a company and its industry. I've since learned that knowing less is okay as long as you have identified the one to three things that will drive the company. We believe exactness offers little so we prefer to establish a potential range of outcomes instead. We'd rather be directionally right rather than precisely wrong.

We spend a lot of time asking such questions as: "How does the business work?" "Why does this opportunity exist?" And then, "What if?" Knowing that successful investing is as much about finding winners as it is about avoiding losers, we invert a favorable thesis so as to see it through less rose-colored lenses, all of which hopefully limits negative surprises.

Stocks ask you different questions at different prices. One needs fewer answers at a low price versus a high price. For example, a container ship company priced as if its vessels are worth just scrap value requires only a couple of questions like, "How much cash might be burned before the market rebounds?" and "Can its balance sheet support that?" Whereas if you bought that same container ship company with good current cash flow but day rates are at highs and its stock is trading at two times book value, you'd be far more dependent on the sustainability of the day rate. You'd then have to ask whether or not the management team would spend their free cash flow wisely. In the first case, you'd worry less about their capital allocation decisions because they'd be lacking free cash flow and financial flexibility.

Today, every valuation measure we see points to companies trading on the more expensive side. That means a lot more difficult questions and more of a struggle to find the answers.

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