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2013年10月22日火曜日

結論を急ぐバイアス(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の6回目です。おなじみですが、今回は心理学の話題です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

ですから、心理学の先生が教えてくれるやりかたでは心理学を学ぶことはできません。教わったことを全部学ぶのは当然ですが、それ以外の教わっていないことをいろいろ学ばなければなりません。心理学の先生方が自分たちの教科を適切には扱えていないからです。

現在の心理学がどのように組織されているか、私からみれば電磁気学で言うところの「ファラデー以後・マックスウェル以前」の段階だと思います。多くのことが発見されたものの、それらすべてを適切な形にまとめあげようとする人がいません。これはものすごく大切なことですが、それほどむずかしい仕事ではありません。ですから、ぜひ成し遂げられるべきです。

心理学の教科書をひらいて目次の中から「妬み」をさがしてみてください。妬みとは十戒のうちのひとつ、あるいは二、三を占めるものです。モーセは妬みのことを熟知していました。いにしえのユダヤ人は羊飼いだったころから妬みのことをよくわかっていました。心理学の先生だけが妬みのことを理解していないのです。

心理学の講義で使う分厚い教科書だというのに、妬みのことも、単なる心理的逃避も、動機づけによるバイアスも載っていないのは、いったいどういうことでしょう。

さらに、心理学の教科書では要因を組み合わせることについて適切に扱えていません。「とびっきりな効果」に注意するよう、先に話しましたね。二、三あるいはそれ以上の力が同じ方向に向けてはたらくときに生じる現象です。

これまでに行われた心理学の実験でもっともよく知られているのが、ミルグラム実験です。この実験では、罪を犯していない人たちに対して強い電流を流して苦痛をあたえるよう、協力者に対して依頼しました。つまり誠実なボランティアの人たちを操作して、拷問をするように仕向けたのです。

ミルグラムが実験することになった以前に、ヒトラーの命令によって、たくさんのルター派やカトリックなどの信者たちが道理に反することをしていました。それはあやまちだと承知しておくべきことでした。ミルグラムは上等な人たちを操作して、明らかにひどいことをさせるには権威による圧力がどれだけ必要なのか、見極めようとしたわけです。

彼は非常に劇的な結果を得ました。上等な人たちにひどいことをずいぶんやらせるのに成功したのです。

この実験は心理学の本の中で何年間にもわたって、人にひどいことをさせる際に権威というものがどのように使われるのかを示す題材として取り上げられてきました。

しかし、それではただの「結論を急ぎすぎるバイアス」です。完全でもないし、正しくもない説明です。権威は答えの一部にすぎません。それ以外にも他の心理的な原理がはたらいています。すべての原理が同じ方向へとはたらき、まさに「とびっきりな」効果をうみだしています、なぜなら実験参加者は、共に同じ目標へと向かう影響のもとで行動していたからです。

このことは、次第に理解されてきてはいます。スタンフォードのようなところで最近の心理学の教科書を読めば、3分の2ぐらいは正しくなってきました。しかし心理学全体を通じてなお、この実験が主要なものとして扱われています。そのうえスタンフォードでさえも、ミルグラムの実験結果のうち重要な原因のいくつかを未だ示すことができていません。

頭のいい人がそこまでまちがいをおかすのはなぜでしょうか。「こうしなさい」と私からみなさんに言っていることをしていないからです。複雑なシステムから生じる現象を調べる際には、心理学でのあらゆる重要なモデルをとりそろえ、チェックリスト方式で使うことです。

どんなパイロットでも、離陸する前には項目の並んだチェックリストを確認します。ブリッジのプレイヤーがあと2つトリックが必要なときには、自分のチェックリストをかならず思い出して確認し、それを実行する方法を見つけようとします。

しかし心理学の先生は、賢い自分にはチェックリストは不要と考えています。しかし、それは違いますね。賢い人はほんのひとにぎり、いや皆無といっていいでしょう。

もしチェックリストを使っていれば、ミルグラム実験では6つの心理的原理が撚り合わさっていたことがわかったはずです。少なくとも、3つということはありません。ですから何を見逃したのか、チェックリストを見直して確認すべきです。

それと同じです。主要なモデルを用意し、それらを複数組み合わせて使うことです。そのやり方ができなければ、同じ失敗を何度も何度もくりかえすでしょう。

So you can't learn psychology the way your professors teach it. You've got to learn everything they teach. But you've got to learn a lot more that they don't teach - because they don't handle their own subject correctly.

Psychology to me, as currently organized, is like electromagnetism after Faraday, but before Maxwell - a lot has been discovered, but no one mind has put it all together in proper form. And it should be done because it wouldn't be that hard to do - and it's enormously important.

Just open a psychology text, turn to the index, and look up envy. Well, envy made it into one or two or three of the Ten Commandments. Moses knew all about envy. The old Jews, when they were herding sheep, knew all about envy. It's just that psychology professors don't know about envy.

Books that thick are teaching a psychology course without envy?! And with no simple psychological denial?! And no incentive-caused bias?!

And psychological texts don't deal adequately with combinations of factors. I told you earlier to be aware of the lollapalooza effect when two or three or more forces are operating in the same direction.

Well, the single most publicized psychology experiment ever done is the Milgram experiment - where they asked people to apply what they had every reason to believe was heavy electrical torture on innocent fellow human beings. And they manipulated most of these decent volunteers into doing the torture.

Milgram performed the experiment right after Hitler had gotten a bunch of believing Lutherans, Catholics, and so forth to perform unholy acts they should have known were wrong. He was trying to find out how much authority could be used to manipulate high-grade people into doing things that were clearly and grossly wrong.

And he got a very dramatic effect. He managed to get high-grade people to do many awful things.

But for years, it was in the psychology books as a demonstration of authority - how authority could be used to persuade people to do awful things.

Of course, that's mere first-conclusion bias. That's not the complete and correct explanation. Authority is part of it. However, there were also quite a few other psychological principles, all operating in the same direction, that achieved that lollapalooza effect precisely because they acted in combination toward the same end.

People have gradually figured that out. And if you read the recent psychology texts at a place like Stanford, you'll see that they've now managed to get it about two-thirds right. However, here's the main experiment in all of psychology. And even at Stanford, they still leave out some of the important causes of Milgram's results.

How can smart people be so wrong? Well, the answer is that they don't do what I'm telling you to do - which is to take all the main models from psychology and use them as a checklist in reviewing outcomes in complex systems.

No pilot takes off without going through his checklist: A, B, C, D.... And no bridge player who needs two extra tricks plays a hand without going down his checklist and figuring out how to do it.

But these psychology professors think they're so smart that they don't need a checklist. But they aren't that smart. Almost nobody is. Or, maybe, nobody is.

If they used a checklist, they'd realize the Milgram experiment harnesses six psychological principles, at least - not three. All they'd have to do is to go down the checklist to see the ones that they missed.

Similarly, without this system of getting the main models and using them together in a multi modular way, you'll screw up time after time after time, too.


今回の話題は何度も登場しているものですが、それがチャーリーのねらいです。彼は「重要なことは何度でも繰り返す」のですが、「それを聞いても、実際に行動している人は少ない」ことをわかっています。だからこそ、まだ見ぬ機会に対して楽観的に待てるのだと思います。

ミルグラム実験は、チャーリーの推薦図書『影響力の武器』でも登場しています。またチェックリストについては『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』が楽しんで読めました。どちらの本も、これまでにご紹介したものと思います。

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