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2012年12月26日水曜日

自信を持つなど言語道断である(心理学者ダニエル・カーネマン)

以前とりあげた心理学者ダニエル・カーネマンの新刊『ファスト&スロー』が翻訳されていました。過去記事では、題名の訳を『ぱっと考える、じっくり考える』としてご紹介したものです。現在は上巻を読み終えた段階ですが、内容の充実ぶりに圧倒されています。一般向けの心理学の本は少しずつ読むようにしていますが、本書はチャーリー・マンガーの推薦書『影響力の武器』にならぶバイブル級の一冊になると思います。

重要な意思決定をしなければならない人にとって、参考になるところが多い作品です。投資家のみなさんにも、一読されることを強くおすすめします。

今回は同書から、自信や信念に関する話題を引用します。

あなたはどうしても、手持ちの限られた情報を過大評価し、ほかに知っておくべきことはないと考えてしまう。そして手元の情報だけで考えうる最善のストーリーを組み立て、それが心地よい筋書きであれば、すっかり信じ込む。逆説的に聞こえるが、知っていることが少なく、パズルにはめ込むピースが少ないときほど、つじつまの合ったストーリーをこしらえやすい。世界は必ず筋道が通っているという心楽しい信念は、盤石の土台に支えられている。その土台とは、自分の無知を棚に上げることにかけて私たちはほとんど無限の能力を備えている、という事実である。(p.293)


システム1[瞬発的に判断する機能]は、ごくわずかな情報から結論に飛躍し、しかも飛躍の幅がどの程度かがわからないようにできている。「見たものがすべて」なので、手元にある情報しか問題にしない。それに基づく結論のつじつまが合っていさえすれば、自信が生まれる。私たちが自分の意見に対して抱く主観的な自信は、システム1とシステム2[熟考する機能]がこしらえ上げたストーリーの一貫性に裏付けられているのである。情報は少ないほうがつじつま合わせをしやすいので、情報の量と質はほとんど考慮されない。私たちは、人生で信じていることのうち最も重要ないくつかについては、何の証拠も持ち合わせていない。ただ愛する人や信頼する人がそう信じている、ということだけが拠りどころになっている。自信を持つことはたしかに大切ではあるが、私たちが知っていることがいかに少ないかを考えたら、自分の意見に自信を持つなど言語道断といわねばならない。(p.304)


自信は感覚であり、自信があるのは、情報に整合性があって情報処理が認知的に容易であるからにすぎない。必要なのは、不確実性の存在を認め、重大に受け止めることである。自信を高らかに表明するのは、頭の中でつじつまの合うストーリーを作りました、と宣言するのと同じことであって、そのストーリーが真実だということにはならない。(p.309)


蛇足ですが、字数が多くてうれしいと感じた本は久しぶりでした。

4 件のコメント:

  1. == No title ==
    聞けば聞くほど、正確に考えるというのは難しいと思いました。
    意思決定を間違えないようにする方法論を会得したいところですが、もっと現実的には、意思決定を間違えてもなんとかなるように、戦略、行動体系を持ちたいものだと思いました。

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  2. == フィルターを思い出しました ==
    bfさん、こんにちは。コメントをありがとうございます。
    「意思決定を間違えてもなんとかなるように」という箇所を拝見して、Seeking wisdomのPeter Bevelinが書いたルールを思い出しました。
    10秒ください(ウォーレン・バフェット)
    http://betseldom.blogspot.com/2012/01/mf-2910.html
    フィルター5 反論してみる[自分の論理をたたく]
    フィルター6 判断が間違っていたら、どんな結末をむかえるか。
    賢明なるご指摘を、いつもありがとうございます。
    それでは、失礼します。

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  3. == ファスト&スロー ==
    ブログでもご紹介のあったファスト&スローを遅ればせながら読んでいます。(図書館にリクエストして買ってもらいました。)
    上巻を読み終えたところですが、存在しないことを証明したわけではなく、存在することが証明できないから存在しないと結論づけた事例や若干言い方を変えることで自らの主張に箔をつけようとしている事例が少しあり気にはなったものの、多くの事柄を発見・再確認することができ大変勉強になる一冊でした。
    ハロー効果のところで出てきたフィリップ・ローゼンツワイグの著書「ビジネス書はなぜ間違うのか」は私が過去にそのタイトルのおもしろさからシステム2を使うことなく買ってしまった本でもあります。私の行動はさておき、この本もファスト&スローに匹敵するくらいの内容ですのでご紹介させていただきます。

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  4. == ブロンコさんへ ==
    ブロンコさん、こんにちは。
    考え直してみれば、『ファスト&スロー』はブロンコさんのご関心をひきそうな著作でした。この本をわたしが知ったのはセス・クラーマンの文章からですが、彼もカーネマンの主張すべてに同意してはいませんでした。「その認識は違うのでは」と書いていたのを読んだ記憶があります。
    「なぜビジネス書は間違うのか」は、書店で題名を目にして気になっていました。ご推薦くださり、どうもありがとうございます。amazon.co.jpの書評も力強いものばかりですね。いずれ手にとるようにします。
    それでは失礼致します。

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