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2012年9月20日木曜日

景気循環型企業の経営者が考えること

少し前に取り上げた『企業価値評価』第4版の下巻では、景気などの周期的変動による影響が大きい企業を評価するやりかたにも触れています。このような循環型の企業は、消耗品を扱う「質の高い」企業と違って年次ごとの利益が変動しやすく、企業価値が測りにくいものです。これは投資家にかぎらず、企業を経営する側にも同じことがいえるかもしれません。今回は、そういった企業の経営者が留意すべきだと本書の著者が主張する箇所を引用します。

企業の経営者は、業界の周期的変動の幅を減らす、ないしは、うまく利用できないだろうか。筆者の経験によると、残念ながら経営者はむしろ誤って変動の幅を大きくしてしまっていることが多い。(中略)汎用化学企業は、全体でみると、価格や収益性が高いときに巨額の投資をしていることがわかる。それによって生産能力が大幅に拡大するため、稼働率が急に下がり、結果として価格の低下やROICの低下を引き起こす。このような周期的な生産能力拡大への投資が、周期的な利益変動を起こす原因となっている。顧客の需要の変動が利益変動の原因ではなく、生産者の供給量の変化がその原因なのである。

自社の製品市場に関し、詳細な情報を把握している経営者は、資本市場よりも周期をよく理解し、適切なアクションがとれるはずである。しかし、実際には、それができないのはなぜだろうか。経営者らと議論してみると、このような行動には3つの要因があることがわかった。第1に、価格が高いときは手元に資金があるため、投資がしやすい。第2に、高い利益を生み出しているときほど、投資に対する取締役会の承認を得やすい。最後に、競合が自社よりも速いスピードで成長しているかどうかが問題である(投資はマーケットシェアを維持するための方策の1つなのである)。

このような行動は、資本市場にも紛らわしいシグナルを送ることになる。価格が高いときに事業を拡大すれば、資本市場は将来の見通しが明るいと考えるだろう。また、これは、業績が下降周期に入る直前に起きることが多い。反対に、業績が上昇に転じる直前の、悲観的なシグナルも、同様に市場を混乱させる。資本市場が周期的な変動のある企業の価値評価に苦労しているのは、驚くべきことではないのかもしれない。

経営者は、業界の周期についての理解をどうビジネスに生かせるのだろうか。最もわかりやすいのは、設備投資のタイミングをはかることである。加えて、ピークで新株発行を行い、谷の局面では自社株の買戻しを行うなど、財務戦略にも利用できる。

しかしより積極的な経営者であれば、もう一歩進んで谷の局面では買収を行い、ピークで資産売却を行うであろう。(中略)

しかし企業は、本当にこのとおりに行動できるのだろうか。実際には、業界の見通しが悪くて競合が業容を縮小しているなかで、自社だけ拡大すべく、取締役や銀行を説得する、あるいは競合が周期のピークで投資を増大させるなかで自社は投資を切りつめる、というように逆を行うのは非常に難しい。そこで、周期的な変動をより悪化させてしまうことが多いのだ。周期を断ち切ることは可能だが、それができるCEOは非常に少ない。(p.321)


「価格や収益性が高いときに巨額の投資をしている」の一文は、昨今の薄型テレビを思い起こさせるものです(過去記事)。また「経営者が適切なアクションをとれない」のくだりでは建前の発言が書かれていますが、実際には以下のような心理学的傾向が働いていたのではないでしょうか。
ウォーレン・バフェットが言うように経営者の人となりを把握したり、また業界や企業風土を把握することも投資家にとっては重要な仕事ですね。

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