早々に小さな驚きだったのが、出生や学歴といった両者の基本プロファイルがよく似ている点です。出身地は北日本で、理系の学部を卒業されています。岩田社長曰く「コンピューターに没頭していたので学業はそこそこだった」、また手代木社長曰く「あまりいい学生ではなかった」とのことですが、お二人ともに学生時代には自社で中核をなす専門分野を学修しています。
手代木功さん(塩野義) | 岩田聡さん(故人、任天堂) | |
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生年月日 | 1959年12月12日 | 1959年12月6日 |
出身地 | 宮城県仙台市 | 北海道札幌市 |
出身校 | 東京大学薬学部 | 東京工業大学工学部 |
社長就任時期 | 2008年 | 2002年 |
次に、両者の能力や振る舞いや実績において似ている点をあげます。3番目以降の項目については他の経営者も備えていることがありますが、項目1と2は稀な能力や実績だと考えます。
- 温厚誠実公正で、他人を尊重する姿勢
- 低迷期の会社を立て直したこと
- 事業上の大失敗をしたこと
- 自己の能力にはそれなりに自負あり
- ハードワークをいとわない姿勢
- 合理的でアイデアに富んだ思考
- プレゼン上手
・トップの源流 #55
・トップの源流 #56
お二人が率いる両社の経営成績や財務も、よく似た傾向を示しています。(以下のデータは前期末連結のもの)
塩野義製薬 | 任天堂 | |
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本社の所在地 | 大阪府 | 京都府 |
創業年 | 1878年 | 1947年 |
従業員数 | 約5,000名 | 約7,700名 |
売上高 | 4,100億円 | 16,700億円 |
営業利益 | 1,500億円 | 5,200億円 |
純利益 | 1,600億円 | 4,900億円 |
ROE | 14% | 20% |
余剰な流動資産 | 約6,000億円 | 2兆円強 |
コーポレートカラー | 赤色 | 赤色 |
製薬会社とくに巨大化した企業は製品ポートフォリオを維持拡大するために、ベンチャー企業を買収したり、他社の有望な新薬候補を導入する傾向が強く見られます。これは大きな資金を投じることができる、ある種の「規模の経済」に頼っているともいえます。一方で塩野義製薬は「自社創薬」の方針を掲げています。つまり、自社の資源をつかって製品を研究開発上市することを重視しています。顧客の幸せを第一とし、それに寄与する競争優位性を「自社による研究力・開発力」に求めています。
おもな事業領域は、塩野義製薬が医療用医薬品(特に感染症)、任天堂がテレビゲームです。一見すると別物ですが、見方によっては類似点があげられます。
第一に、市場が感染によって拡大する点です。感染症用医薬品であれば、病原体が拡散感染することで市場(=患者)が広まります。ゲームであれば、楽しさが感染することで市場(=ユーザー)が広まります。(もちろん、感染の倫理的な意味合いは異なります)
第二に、市場は基本的に国内外が対象になる点です。国外販売のために手間はかかるものの、地理的な障壁が高すぎることはありません。
第三に、市場全体をカバーするのに共通の製品を投入すればよい点です。基本的に、市場に合わせる形で個別にカスタマイズする必要性は相対的に小さいものです。
第四に、ユーザーの年齢層が比較的限定されにくい点です。医薬品は年長者、ゲームは年少者に偏る傾向はあるものの、たとえばインフルエンザあるいはポケモンのように広く感染する例もあります。
要約すれば、「世界的に通用するマス・マーケット向け製品」を扱っているといえます。逆にいえば、ブームがこなければ会社が成り立たない大きなリスクを背負っています。
出入り業者(HAL研究所)の社長だった岩田さんを任天堂へ招き入れて後継社長に抜擢したのは、創業者一族の山内社長でした。のちに「組長」とあだ名される人物が、外様の岩田さんには嬉々と対応されていました。
現在の任天堂は隆盛期を謳歌していますが、道半ばで亡くなった岩田社長が大きな貢献を果たしたことはまちがいないと思います。そして手代木社長率いる塩野義製薬が、これから特に海外へと発展することを期待しています。
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