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2024年7月11日木曜日

塩野義製薬と任天堂


最近は塩野義製薬に再注目しています。株式をはじめて買ったのは数年前ですが(過去記事)、このところ株価が低迷しているので、買い増しする機会かどうかを判断するために、踏み込んで調べてみました。その一環として同社のトップである手代木功(てしろぎ・いさお)社長兼会長の発言を読んだり、映像を視聴しました。「なるほど、こういう社長だったのか」と不勉強を痛感しました。国内では珍しいタイプの社長でした。似たような人物をあげてみれば、任天堂の岩田聡社長(いわた・さとる、故人)しか思い浮かびません。


その任天堂には現在も継続投資中ですが、投資のきっかけとなったのは岩田社長の映像をはじめて視聴して心をつかまれたときでした(過去記事あたりの時期)。人当たりが柔和なだけでなく、実力があって、そのうえ第一線で実績や功績をあげてきた人物です。手代木社長には、その岩田社長の印象を重ねたくなってしまい、両者の似ている点は他にもないか、しらべてみました。


<両者の基本プロファイル>
早々に小さな驚きだったのが、出生や学歴といった両者の基本プロファイルがよく似ている点です。出身地は北日本で、理系の学部を卒業されています。岩田社長曰く「コンピューターに没頭していたので学業はそこそこだった」、また手代木社長曰く「あまりいい学生ではなかった」とのことですが、お二人ともに学生時代には自社で中核をなす専門分野を学修しています。


手代木功さん(塩野義) 岩田聡さん(故人、任天堂)
生年月日 1959年12月12日 1959年12月6日
出身地 宮城県仙台市 北海道札幌市
出身校 東京大学薬学部 東京工業大学工学部
社長就任時期 2008年 2002年


<両者の能力や振る舞い>
次に、両者の能力や振る舞いや実績において似ている点をあげます。3番目以降の項目については他の経営者も備えていることがありますが、項目1と2は稀な能力や実績だと考えます。
  1. 温厚誠実公正で、他人を尊重する姿勢
  2. 低迷期の会社を立て直したこと
  3. 事業上の大失敗をしたこと
  4. 自己の能力にはそれなりに自負あり
  5. ハードワークをいとわない姿勢
  6. 合理的でアイデアに富んだ思考
  7. プレゼン上手
これらを挙げる際に参考にした資料は、岩田社長についてはご本人や周辺の発言をまとめた書籍、任天堂webサイトで公開していた映像や文書、また手代木社長については以下のリンク(3点)や塩野義製薬webサイト上のIR文書です。


「チェンジ・メーカーズに聞く」(28) 手代木功・塩野義製薬社長 2018.11.21
トップの源流 #55
トップの源流 #56


<両社の財務や経営成績>
お二人が率いる両社の経営成績や財務も、よく似た傾向を示しています。(以下のデータは前期末連結のもの)



塩野義製薬 任天堂
本社の所在地 大阪府 京都府
創業年 1878年 1947年
従業員数 約5,000名 約7,700名
売上高 4,100億円 16,700億円
営業利益 1,500億円 5,200億円
純利益 1,600億円 4,900億円
ROE 14% 20%
余剰な流動資産 約6,000億円 2兆円強
コーポレートカラー 赤色 赤色


<両社の経営方針>
製薬会社とくに巨大化した企業は製品ポートフォリオを維持拡大するために、ベンチャー企業を買収したり、他社の有望な新薬候補を導入する傾向が強く見られます。これは大きな資金を投じることができる、ある種の「規模の経済」に頼っているともいえます。一方で塩野義製薬は「自社創薬」の方針を掲げています。つまり、自社の資源をつかって製品を研究開発上市することを重視しています。顧客の幸せを第一とし、それに寄与する競争優位性を「自社による研究力・開発力」に求めています。


一方の任天堂が掲げる方針は「独創(娯楽は他と違うからこそ価値がある) 」です。具体的には、近年や少し過去の製品を振り返れば容易に確認できます。2画面スクリーン(タッチパネル兼用)のDS、振りかざして遊ぶゲームコントローラーのWii、そして携帯/据置モードを切り替えられるSwitch。これらの製品は競合製品と比較して独自性が強く、市場から受け入れられないリスクもあります(低迷したWii Uがその一例)。しかし任天堂は顧客の喜びや驚きや信頼を第一とし、それにつながる製品やサービスを生み出す社内文化に磨きをかけつづけてきました。つまり、競争優位性は「自社による企画力・開発力」にあるといえます。


<両社の事業領域>
おもな事業領域は、塩野義製薬が医療用医薬品(特に感染症)、任天堂がテレビゲームです。一見すると別物ですが、見方によっては類似点があげられます。

第一に、市場が感染によって拡大する点です。感染症用医薬品であれば、病原体が拡散感染することで市場(=患者)が広まります。ゲームであれば、楽しさが感染することで市場(=ユーザー)が広まります。(もちろん、感染の倫理的な意味合いは異なります)

第二に、市場は基本的に国内外が対象になる点です。国外販売のために手間はかかるものの、地理的な障壁が高すぎることはありません。

第三に、市場全体をカバーするのに共通の製品を投入すればよい点です。基本的に、市場に合わせる形で個別にカスタマイズする必要性は相対的に小さいものです。

第四に、ユーザーの年齢層が比較的限定されにくい点です。医薬品は年長者、ゲームは年少者に偏る傾向はあるものの、たとえばインフルエンザあるいはポケモンのように広く感染する例もあります。

要約すれば、「世界的に通用するマス・マーケット向け製品」を扱っているといえます。逆にいえば、ブームがこなければ会社が成り立たない大きなリスクを背負っています。


<両社がとった社長抜擢>
出入り業者(HAL研究所)の社長だった岩田さんを任天堂へ招き入れて後継社長に抜擢したのは、創業者一族の山内社長でした。のちに「組長」とあだ名される人物が、外様の岩田さんには嬉々と対応されていました。


一方の手代木社長は、アメリカの子会社へ出向を命じられて腐り気味だったことがありました。しかしそれでも現地でマネージャーとして幅広く精進した経歴が、結局は創業家の塩野社長に評価され、後継者として会社再建を任されることになりました。


両社(そして両者)を要約一般化すると、「成功経験があって独自路線を是とする、関西系企業の創業家社長」が「朴訥とした外見や語り口ながらも、実績十分で優秀聡明、誠実公正な北日本出身の中堅管理者/経営者」を次期社長として指名し、会社の将来を託したことになります。


*


ここにあげた類似点には単なる符合が混じっていたり、あるいは反対に相違する点もほかにはあるでしょう(たとえば外部から招聘された岩田社長に対して、社内で各部門の経歴を積んできた手代木社長)。しかし投資候補となる企業を調べる上で、ここに記した見方(経営者*企業の相乗関係の類似性)はひとつの視点になるかと思います。

現在の任天堂は隆盛期を謳歌していますが、道半ばで亡くなった岩田社長が大きな貢献を果たしたことはまちがいないと思います。そして手代木社長率いる塩野義製薬が、これから特に海外へと発展することを期待しています。

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