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2019年2月12日火曜日

政治と経済が衝突するところ(ハワード・マークス)

オークツリーのハワード・マークス会長が、新しい顧客向けメモを公開していました(1月30日付)。今回のテーマは、経済界に対する政治の介入についてです。最初の話題はトランプ大統領による関税引き上げについてで、つづく本題が、民主党左派や左派寄りのエリザベス・ウォーレン議員が掲げる、富裕層に対する課税強化や企業統治の社会主義化といった話題になります。今回引用するのは、政治家からのそういった介入に対する、経済人としてのハワード・マークスの反論です。(日本語は拙訳)

Political Reality Meets Economic Reality [PDF] (Oaktree Capital Management)

多数派が富裕層に対して没収的重税を課すことの長期的な波及効果を、[民主党]左派の方々は理解しているのでしょうか。本当にそうすべきだと考えているのでしょうか。さらなる蓄財をめざす意欲に水を差すことが(あるいは成功をおさめた米国人が外国籍への変更に魅力を感じるようになることが)、大多数の人たちにとっての生活向上につながるのでしょうか。概して言えば、米国人は累進課税制度を容認しています。しかしその制度が懲罰的であったり、意欲を損なうものであってはなりません。たとえば2015年には、納税額でみた上位5%の人が(所得額全体の37%分を得て)全所得税の60%分を支払いました。上位1%に至っては(所得額全体の21%分を得て)39%分の支払いでした。左派の政治家諸氏にうかがいますが、それらの税率が「公正」なものだと言えるのでしょうか。そして税率をさらに上げることで、まだなお公正だと言えるのでしょうか。

(ここで個人的な見解をはっきりさせておきますが、最高額の所得を得ている人たちに対する税率を上げる余地は、明らかにまだ残されていると考えています。第一に、現在の最高税率37%は、106年間になる米国所得税史上を通じて最低の水準にあります。第二に、配当及び譲渡所得に関しては、かなり低い税率にとどまっています。「あらゆる種類の所得は、同じように課税されるべきだ」とする議論は、なされて然るべきかもしれません)

[社会という]システムを改善するにはいくつもの方法があります。しかし「資本主義は悪しきものである」と吹聴する際に、その利点を認識していないのは問題だと思います。資本主義体制を批判する政治家が、(自分のiPhoneから)ツイッターやフェイスブックといった媒体を使っている姿は皮肉なものです。政治集会に駆け付ける際には航空機や乗用車を使い(おそらくウーバーのような相乗りサービスを活用していることでしょう)、スターバックス・コーヒーの店先で会合を開き、そういった模様はケーブルテレビ会社のニュース網を通じて報道されています。それらはどれもイノベーションです。「事業が成功すれば、企業保有者としての報酬を収穫できる」という前提にもとづいた上で、「大きなリスクをとって起業しようとする人を奨励するシステム」から生まれたものなのです。

もし彼らがそのことを考えていたら、人々がそれなしでは生活できないと思うもの、たとえば医薬品から始まり、日用品、サービス、テクノロジーといったイノベーションの羅列は、まちがいなくずっと長くなるでしょう。もし利益目的や富の蓄積につながる可能性がないとしたら、今日の私たちはそれらのうちのどれだけを手にできていたでしょうか。また、そういった利益獲得が期待できないとしたら、これから将来のイノベーションは一体だれがもたらしてくれるのでしょうか。この件について非資本主義国家は、どのような実績を残してきたでしょうか。ソ連やキューバ、ベネズエラといった国家がです。

米国で生じた経済的発展の大半が、生産増加や生活向上を果たそうと考える人々によって成し遂げられてきました。それらを除外してしまえば、一体なにが残るでしょうか。下層に位置する人たちが手にできるものは、彼らが憤慨を向ける多くの上層の人たちよりも少なくなるでしょう。しかし上をめざす人たちの尽力がなければ、だれであろうと享受できるものは減ってしまいます(参考になると思う文章を付録に載せました[未訳])。そのようなわけで、資本主義に対する否定的な感情が高まり、そのもとで成功をおさめる人たちに対する反感が強まることを、私は憂慮しています。(p. 11)

Does the left understand the long-term consequences of the majority imposing confiscatory taxes on the rich, and do they really want them? Will reducing the incentive to earn more (or incentivizing successful Americans to transfer their citizenship to other nations) really result in the betterment of most people? Americans generally accept the concept of progressive tax rates. But they must not be punitive and de-motivating. Note in this regard that in 2015, the top 5% of taxpayers (with 37% of all income) paid 60% of all income taxes, and the top 1% (with 21% of income) paid 39%. To the political left: are those proportions of taxes paid “fair”? And would it still be fair if they were much higher?

(I want to make clear that I believe room does exist for increases in tax rates on the biggest earners since (a) today’s top rate of 37% is one of the lowest in the 106-year history of the U.S. income tax and (b) dividends and capital gains are taxed at rates that are far lower still. It could be argued that all forms of income should be taxed the same.)

While there are ways in which the system can be improved, I consider it problematic when people denounce capitalism without acknowledging its benefits. It’s ironic to think of politicians criticizing the capitalist system via platforms like Twitter and Facebook (accessed on their iPhones); at rallies reached via airlines and cars (perhaps employing ride-sharing services such as Uber); in meetings over a Starbucks coffee; and via cable news networks. All of these are innovations that came out of a system that encourages people to take significant risks to start companies on the premise that they’ll reap the rewards of ownership if their businesses succeed.

I'm sure if they thought about it, the list of innovations these people wouldn’t want to live without – ranging from drugs to consumer products, to services, to technology – would be a long one. Which of those would we have today if not for the profit motive and the possibility of ending up with accumulated wealth? And in the absence of those expectations, to whom would we look for the innovations of the future? How’s the record of non-capitalist countries such as the U.S.S.R., Cuba and Venezuela in this regard?

A great deal of America’s economic progress has resulted from people’s aspiration to make more and live better. Take that away and what do we have? The people at the bottom won’t have as many at the top to resent. But without the contributions of those who aim for the top, everyone will have less to enjoy (see the appendix for an informative parable). This is why I worry about the rise of negative sentiment toward capitalism and antipathy toward those who succeed under it.

2 件のコメント:

  1. 訳文の範囲内では、すべてオーストリア学派の論客が普段からなす主張です。(参考:木村貴氏など)
    取り立てて目新しさは感じませんでしたが、自分もこちらよりの立場ですので、まあそうだよなと思いつつ目を通しました。
    他のパートも読んでみたいと思います。翻訳ありがとうございます。

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    1. 匿名さん、こんにちは。

      オーストリア学派とのご指摘をどうもありがとうございました。ミーゼスに関する本を1冊読んだきりで、この領域についても不勉強だったので、参考になりました。一方のハワード・マークスのほうは、学生時代の専攻がファイナンスだったようなので、経済学は学んでいたはずです。彼がオーストリア学派の影響を受けていた可能性は考えられます。

      ここからは個人的な見解になります。ハワード・マークスの文章を読むことの価値は、文章自体の一義的な内容にとどまらず、教育的な枠組みにあると解釈しています。たとえば今回のエリザベス・ウォーレン女史ら左派に対する反論の内容には、一読者としていろいろ納得するものがありました。しかしそれは「釣った魚」を頂戴したにすぎず、彼が文章を書く狙いの一部しか受けとめていないと感じています。

      彼の文章を読むことのさらなる価値は、「魚の釣りかた」を学べることにあると思います。少なくとも2つ考えられますが、ここではわかりやすいほうを記します。

      それは、「二次的さらには高次的影響を具体的に検討展開するやりかたが学べる」点です。たとえば今回取り上げた文章では、高額納税者(あるいは経済活動の主要人物)の離反がやがて社会の衰退を招く可能性を示唆しています。またトランプ関税の話題では、多岐にわたる影響をあげて、それゆえに帰結を見通すむずかしさを示しています。「高次的思考」の重要性をたびたび強調してきた彼がそういった文章を都度書いてくれるわけですから、そのスキルを身につける上で恰好の学習材料になります。

      (参考過去記事)想像力の欠如(ハワード・マークス)
      https://betseldom.blogspot.com/2015/01/lessons-of-oil.html

      彼の師匠ともいえるチャーリー・マンガーであれば、ここまで気前よくはしてくれません。ハワード・マークスは商売人ゆえにそうしてくれるかもしれませんし、師匠とは色合いのちがうやりかたで知恵を伝えていきたいと考えているのかもしれません。いずれにせよ、ビジネスの最前線に近い場所にいる人物から釣りのやりかたを学べるというのは、貴重な機会だと感じています。

      例によって、自分の考えを整理する機会をつくってくださり、ありがとうございました。またよろしくお願いします。

      以上になります。

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