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2017年7月20日木曜日

『日進工具のニッチトップ戦略』(元会長、後藤勇氏(故人))

震災後の2011年から投資している企業に、日進工具(6157)という小さな会社があります(過去記事の一例はこちら)。同社の会長だった後藤勇氏は、先月開催された株主総会の直前に69才でお亡くなりになりました。過去に一度総会に参加した際に、細々とした質問にも気軽に答えてくださったことを覚えています。「カラッとした陽気な性格の、たたき上げの創業者一族経営者」という印象の方でした。

同氏は2年前に『日進工具のニッチトップ戦略』という本を出版されていました。その中から印象に残った箇所をご紹介します。ひとつめの引用は、製造を担当していた同氏が営業の最前線も担当することになった頃の話です。

飛び込み営業を始めた初期においては、訪問先から「エンドミルは大手メーカーのもので間に合っているから、テストカットなどしなくてよい」とか、「今、忙しいから、帰れ」-など、罵声に近い言い方を何度もされた。

"営業担当として、訪問先からのお断りをいかにして乗り越えるか"-追い詰められていた私は、いろいろ考えた。

こうした局面においては、他社の営業担当は、サンプル品を置いて、後日、再訪問して売り込むケースが見られた。お客様からも「サンプルを置いていけ」とよく言われた。

私はこれをやらず、訪問先から材料と機械を借りて、私が自ら段取りを行い、切削加工してみせた。すると、お客様は関心を示し、加工で困っていることなどを話し始めてくれた。入社以来、地道に製造に携わり、培ってきた知識とノウハウが役立ったのだ。嬉しかった。いわゆる"実演販売"である。

同時に、大切なことを学んだ。それは、顧客は製品の価値を理解して購入して下さるのだから、絶対に、大幅な値引き販売、安易なサンプル品提供などは行わないことである。あわせて、常に、顧客のニーズを探求し、これをベースに製品開発する重要性も学んだ。これを怠ると、他社製品との差別化が進まず、過当競争を招き、その結果、価格の維持が困難になる。大事なことは、使い手と作り手双方に利益をもたらす"価値の等価交換"である。(p. 29)

"実演販売"の部分は心理的なうまいやりかたが何重にも組み込まれていて、つくづく感心しました。

もうひとつは株式投資家にはおなじみの概念、「逆張り」についてです。

中小企業にとって、優秀な人材を確保することは、至難の業に近い。このため、私は、常に、世の中が不景気な時に、意欲的に、社員を採用するようにしている。不景気になると、大企業は採用を必要最小限に止める。この時こそ、中小企業にとってはチャンスとなる。

また、機械を設備する時も同様で、不景気の時に行うようにしている。不景気になると、売り手市場から買い手市場になるので、納期が早まり、手間の掛かる特別仕様に対しても柔軟に対応してくれる。それに、価格交渉も有利となる。

工場用地の取得や工場建設に関しても、事情は同じ。土地の価格交渉でも有利だし、建設資材は値下がりし、工期も早まる。

私は、こうした不景気での対応を"逆張り経営"と称し、これを実践してきた。この結果、大きな成果を生み出すことができた。

ただし、常に、思い切った"勇気"と"決断"を要した。社内では、「人は不足していないのに、なぜ、不景気な時に社員を採用するのか」といった反対の声が聞かれた。機械を設備する時も同じで、「今は間に合っているのだから、わざわざ、不景気な時に設備することはない」など、ブーイングに近い声が私の耳に届いた。

そうした時、私は、「責任はすべて社長にある」とし、信念を持って、実行した。(p. 155)

よくあるエピソードなのかもしれませんが、厳しい時期に投資に踏み切れる経営者こそ、視点を共有できるという意味で投資家が探すべき経営者だと思います。

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