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2012年11月9日金曜日

EPSより大切な指標(ウォーレン・バフェット)

<追記>2017/7/17(月)

コメント欄で「匿名」さんからご指摘を受けたように、本記事では主題に関わる翻訳ミスがあったと判断しました。訂正箇所を具体的にまとめると、「ウォーレン・バフェットが主張した指標は"ROE的なもの"であって、当初の訳文にあげた"ROCE"ではない」となります。

本来であれば、訂正した訳文だけを残してその他の筋ちがいな文章(ROCEの説明など)を抹消すべきだとは思います。一方で、訂正に至るまでの経緯が見て取れることにも何らかの意味があると考え、ひとまずは翻訳ミスの言葉(抹消線付き)や当初の文章を残すこととしました。

企業分析の指標の一つとして、以前にROIC(投下資産利益率)をとりあげましたが(過去記事)、今回はそれと似ているようで少し違うROE(自己資本利益率)ROCE(使用資本利益率)の話題です。ウォーレン・バフェットの1979年度「株主のみなさんへ」から引用します。(日本語は拙訳)

なおウォーレンが営業上の成績をみるときには、以下の訳では「営業利益率」としていますが、保有証券を簿価評価した上で、期初の純資産を分母とする方式をあげています。これによって、証券の時価が変動するのを無視しています。

この基準によれば、1979年度の営業利益率は年初の純資産ベースで18.6%と、1978年度ほどではありませんが、十分な成績を収められました。EPSも20%ほど増加しましたが、この指標は注目すべきものではないとわたしどもは捉えています。1978年とくらべて1979年には使用できる資産が大幅に増加しました。しかしEPSは増加した一方で、資産を活かすという観点では前年ほどの成果は挙げられませんでした。EPSというものは、固定金利の利息を生む休眠口座や貯蓄債券ならば着実にあがります。得られた「利益」(ここでは利率)が継続的に元本に組み込まれて再投資されるからです。そのため「壊れた時計」でさえ、低配当率の成長株のようにみえてくるのです。

経営成績をはかる上で一番重要なのは、株主資本に対して高い利益率[ROE的な指標]高いROCE[使用資本利益率]が達成されていることであって(過度な借入や会計操作などは除きます)、EPSが一貫して上昇していくことではありません。もし経営者や金融アナリストが、EPSやその年次変化ばかりを気にする姿勢を変えれば、株主だけでなく一般の人にも、いろんなビジネスのことをうまく理解してもらえるだろう、とわたしどもは考えています。

On this basis, we had a reasonably good operating performance in 1979 ‐ but not quite as good as that of 1978 ‐ with operating earnings amounting to 18.6% of beginning net worth. Earnings per share, of course, increased somewhat (about 20%) but we regard this as an improper figure upon which to focus. We had substantially more capital to work within 1979 than in 1978, and our performance in utilizing that capital fell short of the earlier year, even though per‐share earnings rose. “Earnings per share” will rise constantly on a dormant savings account or on a U.S. Savings Bond bearing a fixed rate of return simply because “earnings” (the stated interest rate) are continuously plowed back and added to the capital base. Thus, even a “stopped clock” can look like a growth stock if the dividend payout ratio is low.

The primary test of managerial economic performance is the achievement of a high earnings rate on equity capital employed (without undue leverage, accounting gimmickry, etc.) and not the achievement of consistent gains in earnings per share. In our view, many businesses would be better understood by their shareholder owners, as well as the general public, if managements and financial analysts modified the primary emphasis they place upon earnings per share, and upon yearly changes in that figure.


ROICとROCEの計算式は、分子はほぼ共通の(営業利益) - (各種税金)ですが、分母が以下のように異なっています。(引用元: Wikipedia)

ROIC; (有利子負債) + (株主資本) - (業務上、余剰な現金及び資産) (2012/11/11訂正)
ROIC; (総資産) - (業務上、余剰な現金及び資産)
ROCE; (総資産) - (流動負債) ≒ (固定負債) + (株主資本)

固定負債が少ない企業では、ROCEはROEに収束していくことになります。一方、ROEを向上させようとして株主資本の代わりに固定負債を増やしても、ROCEの値は変わりません。この2点については、ROCEはよくできた指標だと思います。ただし自己株式の取得が絡む場合、ひと工夫する必要があるかと思います。ROCEも、万能の指標というわけではありませんね。蛇足ですが、個人的にはROICとROCEを同じものだと思い込んでいました。

7 件のコメント:

  1. はじめまして。いつも楽しく拝見しております。

    巷によくある「バフェットの投資法」といったような本や記事では、「一貫して上昇しているEPS」が重要な指標として挙げられていることが多いですが、当のバフェット本人はそれを真っ向から否定しているというのはおもしろいですね。
    ただ、いわゆるバフェット銘柄のほとんどは実際にEPSが一貫して上昇していたこと、ROICとROCEが一般的にそれほど馴染みのある指標ではないといった事情もあるのでしょうが。

    ところで、以前紹介されていた『企業価値評価』ですが、第5版を書店で見かけたので立ち読みしてみました。マッキンゼーの名前に(勝手に?)威圧されてましたが、濃密な内容が意外なほど丁寧に書かれていたので、これは良い本に出会えたなという印象です。少し値は張りますが・・・

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    1. リュウジさん、はじめまして。

      コメントを頂き、どうもありがとうございます。昔の記事ながらも焦点となる話題をとりあげてくださり、うれしく感じております。またマッキンゼーの『企業価値評価』は手堅い本だと思います。しかし値段のほうは手強く、図書館のお世話になっています。

      EPSは雑音に左右されたり自社株買いによってある程度制御できるので、ビジネスや経営の本質に迫ったROCEをウォーレンが重視するのは理解できます。人工的な匂いのするEPSよりも、実事業の発展改善を少し長い目で確認するほうが、投資家として適切な道なのでしょうね。ただし最近の彼はROCEではなく、"earnings on unleveraged net tangible assets"を持ち出しているようです。

      リュウジさんはお詳しいようなので蛇足かもしれませんが、別の方が読まれることもあると思い、もう少しつづけます。たとえばバークシャーの2014年度アニュアル・レポートのp.15で、次のような文章があります(毎年同じ文章を使っているので、試験に出そうな部分です)

      ----------
      Some of this sector's businesses, measured by earnings on unleveraged net tangible assets, enjoy terrific economics, producing profits that run from 25% after-tax to far more than 100%.
      ----------

      また以下の過去記事でも上記の箇所を含んだ訳文がありました。

      <過去記事> 今年も反省します(ウォーレン・バフェット)
      http://betseldom.blogspot.com/2012/02/mf-27.html

      Net Tangible Assets(NTA)は個人的には「純有形資産」と訳していますが、その定義は「有形資産 - 負債総額」です。たとえば以下のサイトでわかりやすく説明されています。

      Net Tangible Assets (Value Investing Basics)
      http://valueinvestingbasics.com/category/financial-statement-analysis/page/2/

      ウォーレンが毎年この指標をとりあげているということは、彼が日常的に判断材料のひとつとして使っていると想像できます。その数字を使わない手はないと考え、わたしもよく使っています。

      そしてGEICOの元CEOだったルー・シンプソンは資本利益率のことを「これをチェックすると、実にいろいろなことがわかる」と発言しています。

      <過去記事> 企業評価について(ルー・シンプソン)
      http://betseldom.blogspot.com/2012/09/mf-11.html

      さらにチャーリー・マンガーは、「各種のモデルを複合的に当てはめることで、ものごとの理解を深めること」と説いています。

      ここまでお膳立てしてくれるのですから、実にありがたいバークシャー3人衆です。

      ただしウォーレンが助言してくれたように、投資先企業におけるNTAの経年変化を厳密に把握追跡するところまでは、個人的には徹底できていません。この点は修正し、自信をもって投資先企業と長く付き合える投資プロセスを築きたいと考えています。

      大切なことを考え直すきっかけを作ってくださり、どうもありがとうございました。

      これからもどうぞよろしくお願いします。
      それでは失礼致します。

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  2. 返信をいただきありがとうございます。私は三十前の投資歴二年という投資家として駆け出しも駆け出しですが、betseldomさんには本当にたくさんのことを学ばせてもらっております。

    NTAに関しては恥ずかしながら見逃しておりましたので、大変ありがたいです。改めて調べなおしてみたいと思います。

    いずれの指標にしても、高い利益率が達成されていれば流入するキャッシュが増えて自社株買いの原資が生まれ、自社株買いが行われればEPSが上昇するので結局は「EPSの上昇と高いROE」という指標に収斂されていくのでしょうが、ここで単純化してしまうとチャーリーの言う「かなづちを手にした人」「物事を単純化しすぎてはいけない」に接触し、不要なリスクを増やしてしまうことに繋がるのかもしれません。

    一つの対象をいろいろなモデルを使って理解しようとするのは相応のエネルギーを要求され、決して楽ではありませんが、大きな失敗を犯すよりマシだと考え地道に準備をしていこうとbetseldomさんのお話を受け、思い直した次第です。

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    1. リュウジさん、

      たびたびのコメントをありがとうございます。投資歴や年齢とくらべて腰のすわったご意見で、身を引き締める必要性を感じました。リュウジさんと同じように、わたしも次の機会をうかがったり備えたいと思います。

      ご意見や話題などがありましたら、またコメント頂ければと存じます。
      それでは失礼します。

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  3. 「high earnings rate on equity capital employed 」の中に、equityが入っているのが気になります。また、その後も借入などに触れているので、これはROCEというよりROEのことを言っているような気もしますがどうでしょう?

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    1. 匿名さん、こんにちは。

      当方の訳文に関するご指摘をありがとうございます。この件は匿名さんのおっしゃること(ROE)が正しいと思います。話題を余計な方向(ROCE)へ導きたいがために、当方が無意識的に単純な翻訳ミスをしたと考えられます(あるいは単純な力量不足)。本来は訳出する範囲を適切に広げて、ウォーレンの言いたかったことを紹介すべきでした。そうすれば、次のような話題となったはずです。

      「もし単年度の事業成績を測るとすれば、真水の期初株主資本(保有証券評価額は原価ベース)に対して営業利益率がどうだったかをみるのが適切である。過度な借入れに頼ったり、恣意的に会計を触ったり、保有証券評価額の増減を含んだりしたEPS成長ではない」

      (つまりROCEやROICの話題ではなく、それらは別件として取りあげるべきでした)

      なお匿名さん以外のコメントを読まれる方のために追記しますと、ウォーレンはつづけて、長期的な事業成績や評価指標の話題を記しています。そちらでは、保有証券の含み損益や実現損益を考慮に入れています。

      匿名さんにはわざわざお時間を割いてご指摘くださり、どうもありがとうございました。当方自身としては「恥ずかしいミス」で済みますが、ウォーレンとしては心外でしょうから、彼を少しばかり救ってくださって、わたしとしてはホッとしました。訳文ミスを追うとキリがないと思いますが、重大なミスだけでもご指摘いただけますと、とてもありがたいです。今後もどうぞよろしくお願い致します。

      (追伸)訳出ミスの原因をさらに追究すると、"capital employed"に目が行き過ぎて、本質的な意味の中心である"rate on equity"から逸脱したせいだと想像します。原文が1980年ごろに書かれたことを踏まえれば、"equity capital"や"~ employed"という語句を安直に現代的な感覚でとらえたのが直接要因だったと思います。上でも書きましたが、今回のミスは「関心事に引きずられる心理的傾向」と「英語語彙の精査不足」が複合して起こったと言えそうです。前者はともかく、後者は改善しやすい課題だと受けとめています。

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    2. とても紳士なコメントをいただき恐縮です。
      私から見て、とても貴重で素晴らしいサイトである事には一切変わりはありません。
      今後ともよろしくお願いいたします!

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