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2024年2月13日火曜日

2023年の投資をふりかえって(5)新規投資銘柄:ジーエルサイエンス

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ジーエルサイエンス(7705)


(同社の2024年3月期第3四半期決算説明資料より)


化学分析機器の製造会社であるジーエルサイエンス(以下、ジーエル)には、昨年から投資し始めました。その同社は2月9日(金)付の発表で、持ち株会社を設立して(2024年10月1日予定)、そのもとに子会社と経営統合する旨で合意したことをあきらかにしました。ちょうどいい機会なので、今回はこの企業再編をケーススタディとしてとりあげたいと思います。なお子会社は、半導体製造装置関連製品の製造会社であるテクノクオーツ(以下、テクノ。証券コード5217)です。親子ともにスタンダード市場に上場しています。


はじめに触れておくと、「持ち株会社を使った経営統合」という形式をとっていますが、いうまでもなく実態は親会社ジーエルによる子会社テクノの完全子会社化案件です。


昨年投資するに先立って親子両社を調べるうちに、親会社ジーエルが子会社テクノの残り株式を買い取って完全子会社化する好機だと、個人的には強く感じていました。ただし同社の経営陣が実際に行動を起こす可能性は相当低く(たとえば5%以下の確率)、それによる正のエクスポージャーは小さいと判断していました。しかし親会社ジーエルの株価自体がずいぶんと割安だったので、資金をいくらか投じてきました。


<事業の概要と直近の業績>

親会社ジーエルが扱っている主な製品は、さまざまな物質に含まれる成分を分析するための機器や試薬です(島津製作所とは業務提携)。製品の利用される領域は、食品・化成品・医薬・半導体といった産業分野や、公害物質を同定するような環境分野でも広く利用されています。顧客業界が多岐にわたっているとともに消耗品を扱っているため、収益は安定しています。製造拠点は福島県、研究開発拠点は埼玉県にあります。


親会社ジーエルの2023年3月期の連結売上高は386億円、営業利益は60億円、純利益は34億円、EPSは341円でした。経営指標としては、営業利益率が15.5%、純利益率が8.8%となります。現在の株価は2800円弱で、実績PERは8.18倍です。



子会社テクノは親会社ジーエルによって1976年に設立されました。親会社によって保有されている株式の割合は約2/3、正確には65.7%です。子会社テクノが扱っている主な製品は、半導体製造装置内で使われる石英ガラス製の各種部材です。他社から購入したインゴッド材を成形加工するだけではなく、高温熱処理等に耐えられるような特性を付与するために、皮膜処理や表面処理などを施しています。国内の製造拠点は山形県と周辺に集まっており、外国の製造拠点は中国杭州市にあります。


子会社テクノの2023年3月期の連結売上高は200億円、営業利益は40億円、純利益は29億円、EPSは764円でした。経営指標としては、営業利益率が20%、純利益率が14.5%となります。現在の株価は5360円で、実績PERは7.01倍です。


<経営統合における取引条件>

親会社ジーエルおよび子会社テクノの株式は新持ち株会社へ移転されて、両社は上場廃止になります。両社の株主には新持ち株会社の株式が交付されます。親会社ジーエルの株式数は10.2百万株(自己株式を除く)で、同じ数のまま新株に交換されます。また子会社テクノの株主には8.1百万株(自己株式を除く)が割り当てられます。合計すると、新持ち株会社の株式総数は18.3百万株になります。ただし親会社ジーエルは子会社テクノの株式を約2/3保有しているので、それが新株に交換された後にいずれは消却されると仮定すると、持ち株会社の株式総数は12.9百万株(= 10.2 + 2.7)にとどまります。


ここで親会社ジーエルの立場からみると、今回の案件は新株を2.7百万株発行して、それを子会社テクノの少数株主が保有する株式と交換することで、子会社テクノの残り株式1/3を手に入れる構図になります。仮に親会社ジーエルの現在株価2800円をもとにした希薄後株価を2200円として計算すると、約60億円(= 2200 * 2.7百万)の価値を持つ有価証券を提供することで、予想当期利益8億7千万円相当の事業を受けとる帳尻になります。これだけみると、かなり割安に事業を手に入れられる取引条件です。しかし親会社ジーエルの適正株価は現在の2倍はあるといっても言いすぎではないと思いますので、そちらの株価をもとに計算すれば、ほどほど穏当な取引水準に落ち着くことになります(この件は後述)。


<本買収に対する所感>

株式市場で評価が低迷している企業がこのような形で別企業に狙われるのは、必然です。少なくとも、今後は日本でもそのような見方が強まってくると想像します。そして、その狙う側が競合他社や資金力のある投資家ではなくて親会社だったとしても、本質的な構図は同じです。「他人が見逃している機会を、自分がつかむ」。現在の株価によって価値との差を値踏みするのは正当な手段であり、原則的にはだれが使っても咎めることはできません。ただし、経営を支配している親会社が子会社の業績を意図的に低迷させておき、株価が下落した時期をみはからって不当な対価で完全子会社化するのは、子会社の少数株主の利益を損なうことになり、許されないでしょう。しかし今回の件はちがいます。子会社テクノが手がける事業(半導体関連)のほうが親会社ジーエルによる事業(分析機器および自動認識)よりも高い業績をあげてきた事実が、一定の期間にわたって示されていたからです。具体的には、2019年3月期から子会社事業が稼ぎ頭となっていました。そこから4年間以上が経過しており、市場が事業価値を評価するのには十分な時間がありました。その間に、子会社事業の営業利益は2.5倍になっていました。優良な事業を取り込みたいと考えるのは自然な帰結です。「それでも市場が適正に評価しないのであれば、自分たちが動いてもよかろう」と親会社の経営陣が考えるのは道理にかなっています。


子会社テクノの少数株主にとって幸いなのは、親会社ジーエルの株価も低迷していることです。2010年以前の個人的な経験談になりますが、わたしが株式を保有していたある企業も、株価が割安な時期に株式交換によって親会社に完全子会社化されました。そのときは「ひどい扱いをするものだ」と憤慨しましたが、その親会社株を長期間保有しつづけることで、結局は十分なリターンを得ることができました。実は親会社の株価もそれなりに割安だったので、見直される余地がありました。また規模の経済が働くことで、買収行為自体がその後の成長に寄与したこともあります。その事例どおりに物事が進む保証はないですが、傾向としては似ていると思います。


持ち株会社に移行することは、市場が企業価値に対する評価を改める流れにつながると思います。単純に利益水準が上昇するだけでなく、危うさを秘めていた親子上場が解消されることで、アナリストや投資家の目が集まりやすくなることが期待できます。また本質的な成長性の点でも期待度はあがります。余剰資本や各種リソースが集積されることで、有効的に再投資できる機会や規模が拡大するからです。


<新持ち株会社に対する定性的な価値評価>

ただし前回の投稿でひとこと触れたように、新会社ジーエルホールディングス(仮称)の長期的な成長見通しには留意すべき点があると考えています。現在手がけている事業はどこまで成長できるのか(特に急成長してきた半導体石英製品)。現在の事業領域を越えて周辺の領域へと進出し、売上を拡大できるのか。余剰の金融資産を使って効果的な企業買収ができるか。はたまた資本効率を重んじて自社株買いを実行できるか。そして中国における事業展開をどうするのか。個人的な結論としては、今回のスペシャル・シチュエーションが株価水準訂正のきっかけになればうれしいですし(逆に、ニュースが公開されたことで株価が短期的に下がる可能性もありますが)、中長期的(3-8年程度)な成長も期待しています。しかしそれ以上先の見通しは、今のところは判断しかねています。



2024年2月8日木曜日

2023年の投資をふりかえって(4)新規投資銘柄:ナカニシ

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 今回投稿している一連のふりかえりでは、長期的なリターンが大きいと考えている企業から順に取り上げています。ここで取り上げる企業ナカニシとくらべると、残りの国内企業2社アドテックプラズマテクノロジーとジーエルサイエンスは、短い期間(たとえば8年以内)をとれば相対的に割安にみえますが、それ以上の長期的視点にたつと当社のほうが確実性が高いと考えています。


ナカニシ(7716)


<事業の概要>

当社は、歯科を中心とする医療機器の製造販売会社です。おもな製品としては、各種ハンドピース(歯を削るドリルや歯石除去器具)や外科手術時に骨を切削する機器などがあります。中核技術が精密小型モーターとその制御にあるため、それらを中心としたスピンドル等も部品として販売しています。




海外売上高比率は80%と高く、欧米日亜に分散した地域的なバランスも良好です。北米の割合が若干低いものの(22%)、改善すべき地域として認識されており、施策の一環としてここ数年間に出資買収が実施されています。


国内における拠点(本社・開発・生産)は栃木県に集約されており、震災リスクが小さい点に惹かれます。また欧州の企業も買収してきたので、そちらにも製造拠点があります。


なお、当社と同じように栃木県を本拠地とする企業マニーとは、よく似た状況にあります。小型の医療機器を手がけており、利益率が高く、余剰の流動資産を大量に保有し、創業者一族による経営への関与が大きかったことがあげられます。そして両社ともに、品質を極めて競合優位性を維持するために地道な努力を重ねることを良しとする企業です。


<直近の業績>

2022年12月期の売上高は486億円、営業利益は153億円(そのほかに持分法による投資利益が約8億円)、純利益が124億円でした。経営指標で示すと、営業利益率は31.4%、純利益率は25.5%、ROEは14.4%となります。利益率が高いせいか、余剰な流動的金融資産の水準も高くなっています。2023年9月の時点では、負債を差し引いた純流動的金融資産は約300億円となっています。


<将来的な機会>

歯科を中心とした医療機器を事業領域としている性質上、世界的なGDP成長そして生活水準の向上にあわせた市場拡大は、基調として期待できます。また競争上の要因として精密化高品質化が重要である製品を手がけているので、技術発展を伴った買換え需要や他応用分野へのさらなる展開が期待できます。


成長性をみると、純利益が半分の水準だったのは2014年12月期(売上高が309億円、純利益が69億円)でした。倍増するのにかかった期間は8年間です。さらにその半分だったのが2004年ごろで、こちらの倍増は10年間程度でした。今後も同様の歩みが期待できるのであれば、倍増ペースは9年間前後となります。


また現在の配当利回りは約2%ですが、増配も期待できます。過去10年間を振り返ると配当成長率は年率20%強となっています。減配リスクは比較的小さく、前期比で10%減配した期がありましたが、余剰な流動的資産が多いので原資不足が理由ではありません。


M&Aには10年ぐらい前から力を入れ始めました。ここ数年間は複数案件を実施しており、ひとまず収束の感はあります。ただし、さきに実施されたM&A戦略説明会によると、案件のなかった外科事業領域では検討中とのことです。またM&Aの条件として次の3つを挙げています。「コア技術の強化」「製品種類の拡大」「販売力の強化」です。これらに寄与することが買収の条件であり、単なる拡大のための買収(コングロマリット化)は望んでいないと説明しています。少なくとも表面的には堅実な方針であり、納得できます。成長の速さは望めなくても、競合優位性を高めるという点で期待できるので、長期的な投資対象として好ましい方針だと思います。


<リスク>

医療系メーカーにとって製品の品質不良リスクは概して重大視されます。健康や生死にかかわるためですが、当社にとっては深刻な事態(賠償や顧客離れ)には陥りにくいとうけとめています。第一に、医師等専門家自身の判断にもとづいた手技を通じて患部に接するたぐいの機器であり、さらには体内に留置される恐れが小さいこと。第二に、品質不良が発生したとしても、これまでの使用実績を考えれば根本的な問題に起因するものではなく、一時的あるいは局所的な問題にとどまる可能性が高いこと。第三に、医師の手になじんだ機器であるため、代替製品へと乗りかえる障壁が比較的高いことがあげられます。


製品技術や生産技術の流出盗用リスクは、製造業全般で考えられているように考慮すべきリスクです。ただし当社は内製化率(部品点数ベース)が90%とのことで、すり合わせも含めて技術をまるごと盗用するのは現実的ではない試みと思われます。


長期的なリスクとしては、代替製品やソリューションの登場があげられます。「歯や骨を削る」処置に対して有効的な「削らない」処置が登場すれば、置き換わる可能性は大きいはずです。ものごとはより便利で快適な方向へと発展するので、医療の世界では低侵襲な方式へ置き換わるのは必然です。ただし現段階でそのような脅威は台頭していない状況かと思います。


主要拠点の立地という点では、人材採用リスクがあります。本社や工場が栃木県に位置しているので(東京上野にもオフィスあり)、利便性や人口減少の観点で就職先としての魅力が薄れて、望ましい人材を十分に採用できなくなる恐れがあります。財務的には優良企業なので、安定性や各種便益の魅力は漸増するものの、就職に直面する世代(特に、開発生産に従事する理科系の20歳代)に対して訴求できる生活環境なのか、疑問が残ります。ただし当社単体の従業員数は現在のところ漸増傾向にあるので、杞憂かもしれません。


為替リスクについては、あまり重大にはとらえていません。当社は基本的に円建てで取引しており、単体売上高(340億円)は連結売上高の70%を占めているので、円高になれば価格競争力が低下して業績低迷につながり得ます。直近では日米金融政策の動きから円高へ戻る流れが想定されているので、目先の業績は思わしくないかもしれません。しかし円高が定着するのか、あるいは再び円安に向かうのか、期間も方向も判断しきれません。また円高になった時期には当社の資産は相対的に増加するので、経営陣は余剰の金融資産を活用できる好機ととらえて、外国企業を積極的に買収してほしいと考えています。


<株価と価値評価>

現在の株価は2400円前後です。2022年12月期のEPSは145円だったので、実績PERで16-17倍程度となります。2023年9月時点での余剰な純流動的金融資産が1株当たり約340円あるので、これを差し引いて計算すれば実績PERはもっと小さくなります。事業としての質の高さ(利益や配当の安定性や長期的な成長性)を考えると、現在の株価は妥当な水準以下だととらえています。株価が低迷気味なのは、さらなる成長性や北米市場での減収、M&Aの巧拙、資本効率の悪さ(巨額の余剰資産を蓄積)、のれん償却の負担が不安視されているからでしょうか。




2024年1月22日月曜日

2023年の投資をふりかえって(3)新規投資銘柄:ニデック

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 ■ニデック(6594)


モーターの製造会社である当社(旧社名日本電産)は、今ではTOPIXのCore30に選定されているまでの規模に成長しました。はじめて当社に注目した時期は10年以上前のことで、具体的な時期は忘れてしまいました。ただし当時はマブチモーターの株式を買おうか迷っていて、競合である当社に興味が向かなかったことはよく覚えています(つまり教訓として)。永守会長のことを単なる「買収好きの経営者」程度に受けとめていたので、本質的な経営力を評価できていませんでした。その後横目でみてきた期間が長らくつづきましたが、今回初めて投資することになりました。


<事業の概要>

当社はモーターを製造するグループ会社として知られています。1973年の創業当初は精密小型モーターを手がけていましたが、1990年前後から企業買収や資本参加を始めました。現在では各種規模用途のモーターを製造するだけでなく、周辺・関連パーツとして位置づけられる減速機やセンサー、さらには各種の検査計測装置や工作機械も手がける企業グループとなりました。近年は電気自動車の心臓部である一体型駆動モーターに注力しており、その最大市場である中国での事業活動が目立っています。連結ベースでの従業員数は10万名超です。


<直近の業績>

2023年3月期における売上高は2兆2400億円、営業利益は1000億円、純利益は430億円でした。経営指標で示すと、営業利益率は4.4%、純利益率は1.9%、ROEは3.4%となります。この数字が思わしくないことには一過性の理由があります。HDD向け製品不振に伴う人員解雇などの構造改革費用を計上したためです。以下のように、今年度の業績をみれば回帰ぶりが確認できます。


10月に発表された今期の第2四半期業績は、売上高は1兆1600億円、営業利益は1150億円、純利益は1060億円でした。前年通期とくらべると、利益水準は倍増しています。将来の業績を予想する際には、こちらの水準のほうが妥当だと思います。


売上高の観点で成長性をみると、前期業績のまだ半分程度の水準だったのが2016年3月期なので、倍増に要した期間は7年間です。また純利益(実力ベース)の成長率も同程度の割合を示しています。仮にこのペースで売上高10兆円を目指すとしたら、目標達成時期は2030年代終盤となりそうです。当社が掲げている2030年での達成は相当強気な目標だといえます。


<将来的な機会>

伝統的な製品分野ともいえるモーターを手がけながら、当社はこれまで高成長を遂げてきました。それでは今後はどうなるか予想するに、成長面でひきつづき有望な企業だと思います。その大きな理由は2つあります。


第一に「有望な領域の事業を手がけている」点です。モーターやその周辺機器における利用分野拡大や性能向上は、ますます見込めます。ロボットやドローンに代表されるように、社会全体の電動化自動化は進展しつづけ、モーターの市場規模も拡大するでしょう。他方で、電気自動車(EV)の未来に対しては永守会長ほどには楽観視していないものの、長期的には成長が見込めると考えています。現在はとくに二次電池の特性や性能や価格面に問題があるため、市場の成長が低迷する時期がくるかもしれません。しかしそれらが改善向上することで低迷期を乗り越え、さらに広く受け入れられるようになると予想します。


第二に、戦略的かつ実際的な企業買収を、定常的な経営活動として社内に浸透させている点です。長期的な目標を果たす上で自社に欠けている技術的リソースを持つ企業を事前に列挙し、企業価値を定量的に判断し、買収したいと考えている先方企業には永守会長自身が書信をもって接触し、買収する順序を意識し、値ごろの市場価格で取引できる機会を辛抱して待ち続け、買収後には先方での意識改革・経営改革を進めるとともに、内製率向上や補完的買収の追加実施などによってシナジーを起こしてもう一段のコスト競争力を目指す。このような一連の手順は仮に明文化されていないとしても、過去に何度も繰り返されてきたことで経営知として社内で共有実践されていると想像します。具体的な買収件数の累計は2023年12月現在で73社部門に達しており、2010年代以降には毎年のように複数の案件を実現しています。


(METI-RIETI政策シンポジウム
「クロスボーダーM&A:海外企業買収における課題とその克服に向けて」)


上記で紹介した映像の中で、永守会長は当社の成長要因を「既存事業の成長分」と「買収企業の寄与分」が半分ずつだと説明しています。たとえば7年間で売上高を倍増させるには、年率10%の成長率が必要です。それを実現するには、既存事業で5%成長、買収企業による5%寄与が要求されます。永守会長は「買収先企業の取引額規模としては、自社の時価総額に対して最大5%程度」と表現していました(映像11分16秒)。この数字には調整が加わりますが、先の5%寄与と符合するようにもみえます。そしてこれらの数値目標を達成できれば、先に挙げたような未来予想図(売上高10兆円)が実現できます。


現在は79歳の永守会長。日本人男性の同年齢の平均余命は9年間程度なので、現在の売上規模を倍増(売上高5兆円)させるまでは、何らかの形で当社グループの指揮をとり続けてくれる可能性が高いと予想します。


<リスク>

第一の主要リスクは、中国市場に大きくかかわっている点です。非流動資産ベースで20%の資本を投下しており、売上高は25%を占めています。日米欧中へ市場や拠点を分散してきたという意味では妥当な配分にみえますが、現在の国際情勢下では中国への依存度が高いと考えます。もし中国拠点を共産党にすべて接収されるとすれば、企業価値の20-30%が(少なくとも一時的には)失われると見積もれます。当社の株価が現在のPER水準にあるのは、このエクスポージャーを重大ととらえている諸投資家が当社の価値をそのぶん割り引いているからかもしれません。


第二の主要リスクは後継者リスクです。当社がこれまであげてきた実績は、永守会長の持つ能力や性格によるところが大きいのは明らかです。しかし、それにもとづく体制が長期にわたって続いてきたことが構造的な弱みとなり、次世代のトップをうまく据えられない恐れがあります。まず永守会長が自身を鋳型とした人物をかなりの程度まで求めているため、本人を超える素養を持った人物を選びだせない可能性。また「圧倒的な頭脳」に適合したシステムとして当社全体が発展してきたため、別の頭脳とはうまく適合できずに企業体としての能力を、従来のようには発揮できなくなる可能性。そして、仮にそれらを超えることのできる「ミニ永守」的な人物が選任されたとしても、創業者的投資家的な見識や資質も備えている確率は低く、当社の買収戦略における重要な指針である「会社を強くするための買収」を効率的に果たせずに成長性が鈍化する可能性、が考えられます。


財務面では借入金に目を向けると、短長期合わせた借入金が約6700億円に対して、現金などの流動性は約2000億円強にとどまっています。ここで金利水準が仮に4%程度となった場合を考えてみると、純利払い額として約200億円が必要になりますが、現在の純利益水準2000億円がある程度維持されるのであれば、配当金の支払い400億円も合わせて確保できます。つまり金利変動による利払いリスクは許容できると考えます。ただしそのような金利状況になれば、投資家の人気は銀行預金やMMFへと移り、当社に限らず株式市場全体に対する評価は下がることでしょう。


<株価と価値評価>



現在の株価に対応した予想PERは16.5倍程度で大幅に安いとは言えませんが、若干安いあるいは適正水準だととらえています。もう一段の株価下落(20-30%減)を待てれば申し分ないのですが、永守会長が平均以上に長生きして経営に携わる「正のリスク」のほうが大きめだと判断し(参考記事)、現段階のうちに資金をある程度投じることにしました(株式を購入した時期は図中の赤矢印で示しています)


2024年1月5日金曜日

2023年の投資をふりかえって(2)新規投資銘柄:フルヤ金属

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フルヤ金属(7826)


<事業の概要>

当社は白金族を中心とする貴金属を精製加工して販売しています。注力している具体的な素材は、イリジウムやルテニウム、銀、プラチナなどです。主力の製品としては、OLED向けの燐光材、各種スパッタリングターゲット材、単結晶引上げ用のるつぼ、熱電対などがあります。つまり当社製品が最終的に関わる先は、電子製品や精密機械機器といった領域になります。また劣化消耗した製品を顧客から回収し、リサイクルして再生する静脈型の事業も行っています。販売先は国外向けが過半を占めていますが、生産拠点は国内にとどまっています(茨城、北海道)。


<直近の業績>

2023年6月期における売上高は480億円、営業利益は110億円、純利益は94億円でした。経営指標で示すと、営業利益率は23%、純利益率は19.6%、ROEは23.3%でした。


ただし、11月に発表された今期の第1四半期業績は相対的に低調でした。売上高は100億円、営業利益は20億円、純利益は14億円でした。営業利益および純利益は前年比で半減しました。主な要因としては、顧客側の在庫調整やその先の市場低迷によるものと説明されています。


なお、成長性をみるために例えばさらに4期前の2019年6月期の業績をあげると、売上高は210億円、営業利益は44億円、純利益は27億円でした。業績が急上昇したのは2021年で、主要製品の金属価格が急騰した時期と一致しています。


<将来的な機会>

イリジウムやルテニウムといった金属元素は周期表の配置から想像できるように独特な特性を持っています。そのため有用性が高く、先端技術領域において今後も利用分野拡大が期待できます。その具体例としては、グリーン水素を製造するための水電解装置で使われる触媒関連の製品があげられます。


また注力分野以外の金属を扱った製品化も図っています。具体的には、窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)ターゲット材です。これは、携帯電話などの通信端末で使われる電子部品を製造する上で必要となる製品です。自社の得意な技術領域にとどまらず、別の周辺領域へと少しずつ進出するのは、化学系メーカーにとっては事業領域を拡大させる上で絶好の道筋だと思います。


資金面では、新株発行による増資(100億円)が2023年12月6日等に実施されました。使途としては、ほとんどが新規設備投資に充てられており、投資用途や時期は具体化しています。このことから、市場や販売量がそれなりの確度で見込まれていると想像できます。


<リスク>

製品の原料が希少な元素ゆえに高価であり、さらには戦略的な備蓄の狙いもあいまって、総資産に占める棚卸資産の割合が大きくなっています(50%以上、この点は会計監査でも指摘されている)。そのため、金属市場価格下落時の在庫評価損リスクおよび売上高減収リスクがあります。特にイリジウムやルテニウムは2021年に価格が急騰して以来、高値の状態が続いており、どこまで下落回帰するのか、価格の先行きが不透明です。


反対に金属価格が現在よりも大きく上昇すると、顧客側が安価な代替材料へ置き換えるリスクが大きくなります。上昇しないとしても、そもそも高価な材料と認識されているため、代替リスクは漸増していくと考えるのが安全だと思います。


イリジウムやルテニウムの産出元は南アに偏在しており、先述した「戦略的備蓄」につながっています。同国は電力供給問題を抱えており、鉱山の操業停止リスクがあります。


(イリジウム価格の推移)

イリジウム価格の推移


また経営者に関するリスクも小さくないとみています。会社の人員規模から想像できるように(従業員数400名弱)、創業者一族である古屋社長(80歳)が指揮経営していることが事業の成功に大きく寄与しているのはまちがいありません。それゆえ、社長交代後の後継者リスクは少なくとも現段階では考慮せざるを得ないと考えます。現在のように、新規市場を積極的に探しながら、他方では財務に目を向けて戦略的に資金を調達配分することで成長を続ける好循環を維持できなくなるかもしれません。なお、80歳の平均余命は8年程度です。


イリジウムやルテニウムといった金属を精製・加工・リサイクルすることは技術的にむずかしいため、安定的に量産供給している当社の競争優位性は高いと考えます。そのため、他社との競合という点では、大きなリスクは考えにくいと想像します。


<株価と価値評価>




増資後の時価総額は現時点で約800億円です。それに対して5年間平均でみた純利益の水準が60億円程度なので、実績PERは13倍の水準にあります。一方で、売上や利益の増加は基本的に期待できます。さきにあげた増資からまわす設備投資金額90億円は、現在の有形固定資産純額約170億円の50%程度に相当します。それ以外にも毎年の利益から捻出される新規設備投資費用は年間5-10億円の水準にあり、これらの数字からたとえば6年後の期待利益水準を予想できます。そのため、現在の株価9000円前後はリスクを考慮に入れたうえでも割安だと判断します。当社が数年後にダブルプレー銘柄(業績向上 + PER上昇)になることを期待しています。(参考記事)


なお、株式を購入した時期は図中の赤矢印で示しています。


2023年12月31日日曜日

2023年の投資をふりかえって(1)全般

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 2023年は、新規に購入しはじめた投資先が例年以上にありました。昨年の振り返り時には「投資家の心理は減退気味。個別企業の調査検討を本格的に再開する」と書きましたが、その方針にしたがった形になりました。なお、今となっては市場全般が株価上昇の1年間となったものの、個別にみると割安で魅力のある銘柄はそれなりに残っていると感じています。もちろん、為替レートが円高方向へ回帰することを考慮しなければなりませんが。


昨年までは銘柄ごとの売買概況をひととおり列挙していたのですが、現状維持(Hold)の銘柄ばかりとなってきたので、今年は新規購入分と買増し分のみにとどめます。(銘柄コードのリンク先は株価チャート)


<新規購入(New Buy)>

ニデック(6594)

・アドテックプラズマテクノロジー(6668)

ジーエルサイエンス(7705)

ナカニシ(7716)

フルヤ金属(7826)

・Dollar General(DG)


投資先の銘柄数が多く、集中できていないのは、見逃したくない程度には株価が割安になっている一方で、各企業の高いEPS成長率を確信するには至らなかったからです。株価下落に伴う実績PER低下は確固たる数字なので、重大な理由もなしに株価が下落するのであれば、基本的にその銘柄をひきつづき買増ししたいと考えています。


<買増し(Add)>

・クラレ(3405); 2月初めに購入

・参天製薬(4536); 7月中旬に購入



2023年1月9日月曜日

2022年の投資をふりかえって

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2022年はここ数年来と同じように、株式の購入金額よりも売却金額のほうが上回り、手元資金を増した結果となりました。ただし市場全般をみると米国ハイテク株を筆頭に株価の下落率が目立つようになっており、保有銘柄においても割高と思える銘柄数は減少しました。そして景気の見通しは芳しくなく、投資家の心理は減退気味です。今年は個別企業の調査検討を本格的に再開する年になりそうです。


銘柄ごとの売買概況は、以下のとおりです(銘柄コード順。リンク先は株価チャート)。また、昨年度分の投稿はこちらです。


<新規購入(New Buy)>

・参天製薬(4536); 春から夏に購入。


<買増し(Add)>

・日精エー・エス・ビー機械(6284); 4月に購入。

・インテル(INTC); 1年間にわたって都度購入。


<現状維持(Hold)>

・クラレ(3405)

・塩野義製薬(4507)

・メック(4971)

・日進工具(6157)

・マニー(7730)

・任天堂(7974)

・アップル(AAPL)

・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)

・iShares シルバー・トラスト(SLV)

・従来からの銘柄


<一部売却(Reduce)>

・マイクロソフト(MSFT); 都度売却。保有比率はそれなりに縮小。

・従来からの銘柄


<全部売却(Sell)>

・なし


2022年1月3日月曜日

2021年の投資をふりかえって

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 今年度は魅力的な機会をみつけられず、ひとにぎりの銘柄を追加購入しただけでした。一方の売却については、全般的に好調な米国株から2銘柄を売却しました。その結果、昨年と同様に手元資金を純増させています。


銘柄ごとの売買概況は、以下のとおりです(銘柄コード順。リンク先は株価チャート)。また、昨年度分の投稿はこちらです。


<新規購入(New Buy)>

なし。ただし調査検討中の銘柄が1社あり。


<買増し(Add)>

・武田薬品工業(4502); 1年間にわたって都度購入。

・日精エー・エス・ビー機械(6284); 11月に購入。


<現状維持(Hold)>

・クラレ(3405)

・塩野義製薬(4507)

・メック(4971)

・日進工具(6157)

・マニー(7730)

・任天堂(7974)

・アップル(AAPL)

・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)

・インテル(INTC)

・iShares シルバー・トラスト(SLV)

・従来からの銘柄


<一部売却(Reduce)>

・マイクロソフト(MSFT); 夏から秋に売却。ひきつづき、大部分は現状維持。


<全部売却(Sell)>

・モザイク(MOS); 春に売却。

2020年12月30日水曜日

2020年の投資をふりかえって

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今年度は3月に株価が暴落した段階で、株式を五月雨式に購入しました。その後に市場動向が逆転してからは、まとまった買い物をする機会を見つけられず、一方では高値を付けた銘柄を売却したことで、ここ何年間と同様に手元資金を純増させる結果となりました。

日経平均が17,000円前後に達した3月下旬の段階では、株価低迷が長く続くことを覚悟して、金融危機当時の最安値を下回る水準を想定した、漸次的な資金投入計画を立てました。株式を実際に購入する際には、投資候補の株価下落に注目すべきです。しかし個人的には、市場全体の下落ペースも意識しながら資金を投入するようにしているため、そのような計画を規範としました。結局のところ、その時期に株価の底をつけたため、計画は未発動のままです。

銘柄ごとの売買概況は、以下のとおりです(銘柄コード順。リンク先は株価チャート)。また、昨年度分の投稿はこちらです。

<新規購入(New Buy)>
・武田薬品工業(4502); 秋に購入。

<買増し(Add)>
・塩野義製薬(4507); 3月中旬及び秋に購入。
・メック(4971); 3月上旬に購入。
・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B); 3月に購入。
・インテル(INTC); 秋に購入。
・モザイク(MOS); 3月中旬に購入。
・従来からの主力銘柄; 3月中旬及び夏に購入。

<現状維持(Hold)>
・日進工具(6157)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)
・マニー(7730)
・アップル(AAPL)
・従来からの主力銘柄

<一部売却(Reduce)>
・クラレ(3405); 春に売却。
・任天堂(7974); 秋に売却。
・マイクロソフト(MSFT); 春から夏に売却。大部分は現状維持。
・iShares シルバー・トラスト(SLV); 正味では保有数を減らしたものの、3月中旬には購入もあり。残りは継続保有する予定。
・従来からの主力銘柄

2019年12月28日土曜日

2019年の投資をふりかえって

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今年度は企業分析にほとんど時間を費やさなかったこともあり、株式はあまり購入しませんでした。また売却のほうも小さな割合にとどまり、ポートフォリオ構成は昨年度とそれほど変わっていません。ただし、それなりの期間にわたって継続投資してきた企業には、以前とは異なる捉えかたをするようになってきたものもあります。来年度は、そういった企業の現状を見つめ直したいと考えています。

銘柄ごとの売買概況は、以下のとおりです(銘柄コード順)。また昨年度分の同種の投稿はこちらです。

<新規購入(New Buy)>
・塩野義製薬(4507); 夏に購入。

<買増し(Add)>
・メック(4971); 春と夏に購入。
・アップル(AAPL); 以前記載したように、1月に購入。

<現状維持(Hold)>
・日進工具(6157)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)
・マニー(7730)
・任天堂(7974)
・インテル(INTC)
・モザイク(MOS)
・従来からの主力銘柄

<一部売却(Reduce)>
・クラレ(3405)
・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)
・マイクロソフト(MSFT)
・iShares シルバー・トラスト(SLV)
・従来からの主力銘柄

<全部売却(Sell)>
・日東電工(6988)
・しまむら(8227); 春と秋に売却。
・ウィートン・プレシャス・メタルズ(WPM)

2019年2月20日水曜日

2018年の投資をふりかえって(10)買増し銘柄:しまむら(8227),銀ETF(SLV)および新規購入銘柄:アップル(AAPL)

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残りの3銘柄については、簡潔に触れる程度とします。なお、本シリーズの前回分記事はこちらです。

■しまむら(8227)
業績が不調な当社は、不況期に伸長することを期待してヘッジ的な意味で株式を保有しつづけるつもりでした。そのため、株価が下落するにつれて漫然と買い増ししたところがあります。客数減少がいずれ底を打って収益悪化もとまるだろうと、自分に言い聞かせてきた面もあります。しかし経営努力がなかなか実らない現状を辛抱するよりも、損切りをして他社に乗り換えたほうがいいとも感じるようになってきました。どちらの道を選ぶか、経営状況をみながら今年中には判断をくだしたいと考えています。

なお現在の株価は9,200円程度で、今期末のEPSは500円程度と想定されるため、単純にPERであらわすと18倍強になります。

しまむら株価チャート約1年分(赤矢印は購入、青矢印は売却)

■iShares シルバー・トラスト(SLV)
この銘柄も、なかばヘッジ的な意味で保有しています。ただししまむらとは違って単なるコモディティーなので、下落時にはそれなりの確信をもって買い増ししています。そして価格が上昇して損益がプラスにすれば、一部を適宜売却しています。残念ながら中核ポジションは継続保有のままなので、ずいぶんと長期間にわたってまともな利益をあげられないでいます。

SLV株価チャート約1年分(赤矢印は購入)

■アップル(AAPL)
12月と今年の1月に、それぞれ1回ずつ購入しました。今後の株価下落を期待しており、現在の株価では買い増ししないつもりです。

AAPL株価チャート約1年分(赤矢印は購入)

2019年2月18日月曜日

2018年の投資をふりかえって(9)買増し銘柄:日東電工(6988)

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(本シリーズの前回分記事はこちら)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

当社は大阪に本社をおくメーカーです。おもな製品としては、最終製品に組み込まれる材料や作業中に使用される資材を生産しています。たとえば、スマートフォン向けのディスプレイ関連部材や自動車向けのフィルム及びテープがあげられます。近年は核酸医薬品の新薬開発を手がけたり、買収を通じて製造に携わったりしており、電子機器向けに偏重した収益構造の転換を模索しています。

当社の株式はずっと前にほぼ処分し、一口しか手元に残していませんでした。しかし材料関連の企業としては経営姿勢が敏捷だと感じていたため、監視は続けていました。

<現在の株価と売買実績>
現在の株価は5,800円前後で、1年前の半値ほどに下落しました。今期(2019年3月期)の予想EPSは460円で予想PERは13倍程度になりますが、当社も財務が良好なので、PERの数字よりも過小評価されているととらえています。例によって昨秋に株価が下落したため、久しぶりに追加購入しました。

日東電工株価チャート約1年分(赤矢印は購入)

<業績などに対する所感>
今期第3四半期までの業績は、売上高6,300億円、粗利益1,960億円、営業利益840億円、純利益600億円でした。営業利益率は13%、ROEの水準は10%程度です。これは利益額が前年同期比で25%ほど低下した上での数字です。業績悪化のおもな要因は、大黒柱の事業であるスマートフォン向け部材の販売低迷にあります。

当社はおそらく戦略的に、モバイル端末や映像機器そして自動車といった技術発展の著しい業界や分野を事業領域に選んでいると受けとめています。積極的に市場機会を求め、他社をしのぐ速さで競争力のある製品を実現し、見返りとして高い利益率を享受したいと考えているように見えます。これは裏返せば、景気変動や特殊要因の影響を大きく受けやすい収益基盤を招いていますが、当社にはそのリスクをある程度許容できる良好な財務体質があります。厳しい時期がやってきても、研究開発のペースを維持できるでしょうし、機に乗じて他社を買収できる余地もあります。急成長は望めないと思いますが、長期にわたって成長を見守っていきたいと感じさせる企業のひとつです。

2019年2月16日土曜日

2018年の投資をふりかえって(8)買増し銘柄:メック(4971)

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(本シリーズの前回分記事はこちら)

当社は兵庫県を本拠地とする化学薬品会社です。おもな事業としては、たとえばスマートフォンやディスプレイに搭載されるような、電子基板を製造する工程で利用される薬剤を製造販売しています。具体的な製品例としては、基板樹脂と銅配線の密着性を向上させる加工機能を持った薬品(CZシリーズ)があります。

<現在の株価>
現在の株価は1,100円強で、前年度(2018年12月期)の実績EPSは90円強でした。実績PERは約12倍となります。

<株式の売買実績>
昨年の9月いっぱいまでは株価が比較的安定していたものの(2,000円前後)、その後の3か月間で大きく下落して半値になりました。継続して買い増し始めたのは10月中旬ごろからで(その前にも買っています)、年明けまで適宜買いつづけました。なお一昨年(2017年)の段階では、持ち株を一部売却しました。

メック株価チャート約1年分(赤矢印は購入)


<業績などに対する所感>
前年度の業績は、売上高が110億円、営業利益が22億円、純利益が17億円でした。収益性としては、粗利益率が60%強、営業利益率が約20%、ROAが9%強と、高水準です。

市場環境としては、電子機器や部品の軽薄短小化・高性能化が一定の方向に進む間は、当社が扱うような製品がますます要求されるでしょうから、ひきつづき追い風がつづくと予想します。

小さくないリスクとしては、知的資産の流出による売上機会喪失が想定されます。ただし当社製品の付加価値は、研究開発や製造そして顧客に対する導入支援や品質評価の協調によって生じると思われるため、経営陣が職務面での人事制度に留意すれば、リスク軽減は可能だと考えます。

当社製品の関わる最終製品は耐久消費財や資本財であるため、景気変動の影響は当然ながら受けることでしょう。しかし当社に対する投資方針は、さらなる成長を期待して継続保有のままで、株価下落時にはさらに買い増しするつもりです。

2019年2月8日金曜日

2018年の投資をふりかえって(7)現状維持銘柄:クラレ(3405),日精ASB機械(6284),マニー(7730),任天堂(7974),バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)

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(本シリーズの前回分記事はこちら)

■クラレ(3405)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

当社に対する市場からの評価は、もうひとつの状態が続いています。低評価は化学セクター全般でも見られますが、当社のPERは12倍前後、PBRは約1倍にとどまっています。しかし、表面的にはのれん代の償却が足を引いているので、実力は1割高く見積もっていいでしょう。FY2017までの5年間におけるEPS成長率は年率10%強で、十分な水準に達しています。中長期的な成長余地も残されており、たとえば拡大が期待できる領域としては、ビニルアセテートの米州展開やジェネスタそして買収した活性炭部門があげられます。一方で大黒柱の光学用ポバールフィルムでは、現状維持が目標かと思われます。

当社への投資を一言でいうと、「地味すぎてつまらない」といったところでしょうか(ただしプレゼントのカレンダーは秀逸です)。今後の投資方針としては、ある程度の持ち株削減は検討するものの、継続保有していくつもりです。

■日精エー・エス・ビー機械(6284)
(直近の過去記事はこちら)

当社はプラスチック容器を成型する機械を製造販売する会社です。創業家の青木家が経営する当社では、父(大一氏)から子(高太氏)へと社長が交代した時期がありましたが、3年ほど前に父社長体制へと回帰し、現在は会長兼CEOを務められています。交代の理由は知りませんが、業績は現在も拡大傾向にあり、この5年間での利益成長率は約10%と、及第点の業績だと思います。現行の経営体制が継続してほしいと願いますが、現CEOの年齢は70代半ばになるため、CEO交代の時期は遠くなさそうです。

市場環境としては、プラスチック容器が環境問題の大きな要因として取り上げられており、当社にとっては逆風です。しかし容器軽量化には化石燃料削減の利点もあり、プラスチックの利用が大きく減退する時期はまだ先のことと予想します。また当社自身も環境問題を緩和するための取り組みを検討実施しているとのことです(決算説明会資料より)。

当社に対する投資方針は、そもそもの買値が低かったこともあり、継続保有のままです。ただし昨年の株価が高かった時期には、つなぎ売りをしました。

■マニー(7730)
(直近の過去記事はこちら)

当社にはほとんど投資しておらず(過去記事で触れました)、その動向はほぼ監視していません。しかし利益率が高く、市場拡大がまだ期待でき、経営陣がゆるぎない方針にもとづいて指揮をとっている以上、市場評価が高いからと言って当社の株を売り急ぐ必要はないと考えるようになりました。

■任天堂(7974)
(直近の過去記事はこちら)

現在の当社は岩田元社長が蒔いたタネを大きく育てている段階にあり、その背後で利益水準の安定化をめざしていると受けとめています。以下のような施策が並行して講じられているからです。

1. サブスクリプション型オンライン・サービスの導入
2. ソフトウェアのダウンロード販売
3. スマートフォン・ゲームのタイトル拡大
4. ソフトウェア開発体制の効率化(携帯機と据置機の融合)
5. Switchの拡販深耕(世帯当たり複数台の保有)
6. テーマパーク及び映画の展開
7. Microsoft陣営との雪解け

これらを推進するためにやるべき仕事は十分にあり、現段階で盛大な戦略を掲げる必要はないと考えます。そしてある程度の完成形である現行機Switchが一定の成功をおさめた以上、次世代機では大きな冒険をしないだろうと想像します。そうであれば、長期的(-10年)に利益が安定する可能性が、ある程度高まる(50%程度)と予測します。

当社への投資方針は継続保有のままです。現在の株価3万円前後は、個人的には容認できる水準です。

■バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)
(直近の過去記事はこちら)

昨年の12月になって市場全体と同じように、当社の株価も下落しました。そこで久しぶりに当社の株を買おうかと、クリスマス・イブに指値の買い注文を出して床に就きました。翌朝になって箱を開けてみると、プレゼントは届いていませんでした。

2019年2月2日土曜日

2018年の投資をふりかえって(6)一部売却銘柄:ウィートン・プレシャス・メタルズ(WPM)

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(本シリーズの前回分記事はこちら)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

当社が営んでいる事業は、「鉱山会社に対して資金を提供し、その対価として将来産出される銀やゴールド等の鉱産品を、低水準の固定価格で買い取る契約を結ぶ」ものです。端的に言えば、「価格変動を伴う将来キャッシュ・フローに対して、前払いするビジネス」です。

<株式の売買実績と現在の株価>
株価が比較的好調だった時期(年始、春、年央)に一部を売却しました。現在の株価は20$前後です。

WPM株価チャート約1年分(青矢印は売却)

一方でシルバーの価格が年を通じて低迷していたため、ETFのSLVを適宜買い増ししました。個人的に興味を持っている主な対象は、現在でも銀です。そのため以前の投稿でも書いたように、当社とSLVを比較して割安だと思えるほうへ資金を移せるように、適宜売買していく方針です。

<業績などに対する所感>
当社についても2点ほど、大きな話題と小さな話題をとりあげます。

・税務当局との和解
国外子会社との移転価格に関して係争中だったカナダ税務当局と12月に和解し、当初危惧されていた大規模なペナルティーを受けずに済むことになりました。同様の他社事案の動向を受けて少し前から楽観視する流れもありましたが、見事に軟着陸しました。カナダ以外(おもにケイマン子会社)からの収入には課税されないことになり、前納分の追徴課税も還付されます。「ペナルティーを被る確率が高い」と覚悟して個人的には持ち株を減らしていたものの、杞憂におわりました。

ただし移転価格税制が将来厳格に改定される可能性はゼロではないため、当社のような企業に投資する際には、そのリスクはひきつづき念頭におく必要があるかと思います。

・金銀以外を産出する鉱床への投資
当社が設立されたころに事業対象としていたのは、銀を産出する鉱山へのストリーミング案件でした。その後になって事業領域をゴールドにも拡大し、さらにはパラジウムやコバルトへのストリーミングも始めました。コバルトはリチウムイオン電池の正極材材料として使われており、電気自動車時代における重要な鉱物資源のひとつとみなされています。「シルバー・ウィートン」という社名だった当社は、希少鉱物を産する鉱床を対象とした投資会社へと変貌しつつあります。

2019年1月30日水曜日

2018年の投資をふりかえって(5)一部売却銘柄:マイクロソフト(MSFT)

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(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

<株式の売買実績と現在の株価>
年の終盤になって一部を売却したものの、持ち株全体からすると若干絞りこんだ程度でした。当社に対する基本的な投資方針は、継続保有のままです。

直近の株価は105$前後で、実績EPSは2.13$だったものの、当社でもトランプ減税を機に国外利益を本国へ還流させたマイナスの影響があったため、実力は3.5$程度だったでしょうか。いずれにせよ、「株価倍率が割安である」とは言いにくい水準です。

MSFT株価チャート約1年分(青矢印は売却)

<業績などに対する所感>
当社の成長を支える2つの面について記します。1件目は表面的には目立たないものの増収著しい「クラウド事業」について、2件目は華々しい印象を残しながらも収益貢献はそれほどでもない「企業買収」についてです。

・クラウド事業の伸長
サティア・ナデラ氏が現CEOに昇進してから事業展開を加速させたクラウド事業は、ひきつづき急激に成長しています。当社の主力事業のひとつになると思われるAzure(アジュール)の2018年度成長率は、90%前後でした。大きく先行しているアマゾンAWSの市場シェアとは20ポイント程度離れていますが、これから加わる顧客層の性質を考えれば、肉薄できる確率は50%以上あると想像します。そこまで及ばないとしても、寡占をめざすプレーヤーにとって現在のクラウド市場(IaaS, PaaS)は、緊張感がありながらも心地よいビジネスの場であると思われます。イノベーションの継続と市場の拡大が好循環を生み出し、規模の経済へつながっていると想像できるからです。

・企業買収を通じた潜在顧客の囲い込み
当社はさまざまなIT系企業を買収して技術的資産を獲得していますが、近年の買収において金額的に大型だった企業LinkedInやGitHubはそれにとどまるものではありませんでした。サービスの利用者、すなわちコミュニティーの場を買い取る類の案件で、言わば「R&Dよりもマーケティングに重心をおいた」買収でした。会計面における目先の費用対効果は小さいですが、潜在顧客をまとめて手に入れた価値は小さくないと考えます。コミュニティーの熱量を維持していければ、長期的・継続的・伝播的なリターンが期待できます。Office, Dynamics, Azureといったサービスの拡販につながると共に、潜在的な要望をすくいあげて新サービス開発につなげる場としても有用です。当たりはずれがはっきりしやすいソフトウェア資産よりも、毀損されにくい価値を有しているかもしれません。利益の刈取りを急ぎすぎないことを願っています。

2019年1月28日月曜日

2018年の投資をふりかえって(4)一部売却銘柄:モザイク(MOS)

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(本シリーズの前回分記事はこちら)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

当社は3大肥料のうち、主としてリン酸及びカリウムを採掘・生産・販売する米国企業です。

<株式の売買実績と現在の株価>
2018年秋になって株価が高まったので、ある程度の株数を売却しました。現在の株価は30$強で、一方の昨年度実績EPSは-0.31$ですが、今期は為替差損の逆風が大きいなかで、第3四半期までに0.93$の利益を上げています。

MOS株価チャート約1年分(青矢印は売却)

<業績などに対する所感>

米中貿易戦争の影響もあるせいか肥料価格が前年比で上昇しており、当社の売上高増加・利益改善につながっています。また社内における事業の状況としては、年の早い時期にもたついたものの、それ以降は順調に推移してきました。サウジアラビアでのJVはまだ立ち上げ中ですが、買収が完了したヴァーレの肥料部門が収益拡大に大きく寄与しました。またカリウムの新鉱山K3が一部稼働を始めており、中長期的な費用削減の施策が進行中です。さらには、環境対策のうるさいフロリダ州でリン鉱床拡張プロジェクトの許可を得たことで、長期的な資源枯渇リスクを低減しています。

DAP価格の5年間推移(引用元: www.indexmundi.com)


しかし以前にも書いたように、当社への投資方針としては残りの持ち株も株価上昇期に売却し、ひとまず資金を引きあげる予定です。コモディティーである以上、肥料ビジネスの業績は市場価格に左右されます。そして今日まで観察してきた価格変動サイクルを振り返ると、市場価格の動向(特に安値とその期間)を合理的に予想する自信が、以前のようには持てなくなりました。ひいては、当社の企業価値をみつもる自信も減少しました。農業関連の企業に投資することを望んではいましたが、当社のような企業の株式は永続的に保有するよりも「安買高売」したほうが、少なくとも個人的には取り組みやすいと考えるようになりました。

2019年1月20日日曜日

2018年の投資をふりかえって(3)一部売却銘柄:日進工具(6157)、インテル(INTC)

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(本シリーズの前回分記事はこちらです)

■日進工具(6157)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

<株価の状況>
現在の株価は2,400円強で、前年度の実績EPSは150円強でした。そのため、実績PERは16前後となります。

<株式の売買結果>
2月上旬にかけて株価が上昇している間は、持ち株を段階的に売却しました。その後、株価が下落を始めてからは売却をやめて、残りの持ち株を維持しました。

(青矢印は売却)

<業績などに対する所感>
景気拡大に合わせて、当社の業績も続伸しています。電子機器やそれに使われる部品の小型化・高性能化が漸次進んでおり、微細化を追求する当社の事業にとっては、ひきつづき追い風の環境にあると思われます。景気後退局面がくれば、金型や部品の加工に使われる当社製品への需要も減退するでしょうが、その後の回復期になれば市場規模はさらに拡大すると想像します。現在の状況及び株価水準であれば、継続保有したいと考えています。


■インテル(INTC)
(当社をとりあげた直近の過去記事はこちら)

<株価の状況>
現在の株価は49$強で、前年度の実績EPSは2$弱でした。実績PERは24.5前後となります。ただし今期は第3四半期までにEPS3.35$の利益をあげています。

<株式の売買結果>
10月中に何度かに分けて売却しました。振り返ってみると、直近では株価がもっとも低迷していた時期でした。売却した理由は主として個人的な理由によるものですが、当社における技術面での行き詰まりに意気消沈していた部分も、若干ありました。(この技術的問題はその後に好転。後述)

(青矢印は売却)

当社へ投資したそもそもの目的は、マイクロソフトへの投資をヘッジする意味にありました。しかし現在までのところは、逆の位置づけになってしまいました。業績と比較した市場からの評価はマイクロソフトのほうが高く、当社は相対的に低迷しています。ただし企業価値の観点からみれば、現在の市場評価がそれほど正当だとは受けとめていません。

<業績などに対する所感>
当社の現状において注視している点2つを記します。

・10nmノード製品の開発遅延による余波
当社が先だって発表した声明によれば、技術的な問題をともかく解消して、10nmプロセスで製造する実質的に最初の量産製品を、年末にむけて出荷できる見通しが立ったようです。しかし数年にわたる開発遅延によって、微細化実現時期の面で当社が保ってきた優位性は、少なくとも現在においてはほとんどなくなったように思われます。つまり製品の優位性、ひいては価格競争力が低下するリスクが大きくなったと判断します。さらに、当社からの製品供給を重大なリスクと考える顧客が策を講じる傾向が強くなっていくとも想像します。当社の最重要な競争力が損なわれたわけですから、株式市場からの評価が低迷し続けるのも、ある程度は納得できます。

一方で、失敗に終わった今回の技術的挑戦において直面したさまざまな問題から得られた知見も少なくないと想像します。そして「転んでもただでは起きぬ」、その失敗を成功につなげる猶予が残されていると考えます。当社の製品を要望する顧客とのつながりや、実際に製品を製造する有形資産は、依然として健在です。短中期的にはむずかしいでしょうが、中長期的(3-7年程度)には今回の技術的なマイナスをある程度取り返せる可能性があると評価します。現在の株価水準にはその可能性が織り込まれていないように感じられます。

・事業領域の広範囲化
メモリー事業から開始した当社の事業は、その後にPC用CPU等の事業にうつって大成功し、現在はデータ・センター向け製品でも大きな利益をあげています。近年はネットワーク機器や4G/5Gモデムや自動運転車載用デバイス/システム、そして祖業だったメモリー事業にも再び取り組んでいます。これらの取り組みを全体としてとらえれば、自動運転を契機として自動車社会のコンピュータ化およびネットワーク化が急速に進むことを見越した、横断的な収益機会を追求し始めたと見受けられます。

当社IR資料より。2018/11/12開催の
UBS Global Technology Conference

そのような大きな市場において、他社との戦いから逃げずにあらゆる領域を事業の対象とする姿勢は、大切だと思います。自社が手がけない領域があると、そこを制圧した競合他社が事業領域を拡大浸食してくるリスクが大きくなるからです。端末(=自動車)からデータセンターに至るまでのあらゆる処理(センサー、通信、演算、データ保存)を実行する製品を事業対象とする企業戦略は、当社のような規模を持った企業だからこそ可能だと言えます。その一方で、他社からの切り崩しを抑制するために不可欠な戦略だとも思われます。つまり、当社が現状維持あるいは成長を望むのであれば、必然的に進まざるを得ない経営の方向だと受けとめています。

事業領域拡大に伴う大きなリスクとして、社内における官僚主義的体質の悪化が予想されます。当社では新CEOを選定中で、今年中には決定すると思われます。その人物に求められるのは、従来よりも多岐にわたる競争の激しい事業群を束ねることのできる手腕です。新CEOによる実績があらわれてくる時期、少なくとも2,3年後までは安易にはあきらめずに動向を追っていきたいと考えています。

2019年1月12日土曜日

2018年の投資をふりかえって(2)全売却銘柄:クックパッド(2193)

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(本シリーズの前回分記事はこちらです)

<企業の概要>
よく知られているように、当社は家庭料理のレシピを検索・投稿できるサービスを提供しています。主な収益源は2つで、有料会員向けのプレミアム・サービスと、Webやサイネージ等の広告です。サービス提供は国内にとどまらず、国外向けにも展開・拡充しています。ただし買収によって各国のレシピ情報等を自社資産としてきたことで資本投資がかさんだ一方、国外における有料会員や広告の事業はほとんど立ち上げておらず、諸外国からの収益貢献が大きな課題となっています。

<株価動向と売買の概要>

(赤矢印は株式購入、青矢印は売却)

当社への投資を検討し始めたのは2年ほど前からで、投資に踏み切ったのは1年と少しほど前からでした(2017年12月中旬の株価は600円強)。しかし結局のところ、保有期間が1年にも達しないうちに資金を引き揚げることにしました。業績が逐次悪化するとともに株価がかなり下落した時点で失敗を認め、全売却して損失を確定させました(最低売却価格は8月中旬の425円と、当初からの下落率は約30%)。

この投資が失敗につながった原因は少なくとも2つあります。第一に、株式投資の基本方針として株価下落を買い増しの機会としているものの、当社については継続投資する自信が持てなくなった点、つまり自分にとってはそもそも投資すべき対象ではなかったことです。第二に、購入株数を投機的な気持ちで拙速に増やしたこと。これによって傷口を広げました。

現在の株価300円強は、当社の財務面から測ると相当なまでに割安です。これは、滞留させた現金を経営陣がどのように使うのか、その姿勢に対して市場が疑念を抱いている結果だと想像します。そういった状況にある企業の株式は、いつかは再評価されることがあるものです。しかし、だからといって当社のような「一杯に詰まった貯金箱」タイプの投資候補には安易に近寄るべきではない、その哲学を厳守すべきだと改めて感じました(同じような失敗を、以前にも何度か繰り返しています)。

<当社へ投資した理由>
主な理由として次の2点がありました。

・資本効率の高さ
情報を扱う企業であり、また利用者が作成したコンテンツを自社の資源として利用できることから、少なくとも現行事業の利益率は高く、魅力に感じました。さらには、自社に蓄積された利用者の行動データを活用して新規事業につなげる余地が残されている点や、利用者のコミュニティーが形成されている点にも惹かれました。これらは無形資産として働き得ると捉えたからです。

・市場評価額の割安さ
これは現在も変わらず、1株当たり200円超の純現金資産を有しています。

<当社への投資をやめた理由>
一方で、投資を考え直した理由は次のとおりです。

・社員数増加に見合った収益機会の増加が、見通せないこと
当社の業績を監視している間に、従業員数が漸次増加しました。この理由として2方向の要因が考えられます。ひとつはお家騒動で抜けた欠員補充であり、もうひとつは新規事業展開のための要員追加です。しかしいずれであろうと、投資の是非を判断した時点での収益性は定常的ではなかったと言えます。売上高が横ばいあるいは低下する局面において要員コスト増が利益を圧迫する事例はよく見受けられますが、わかったつもりでいながら過小評価していました。この踊り場がいつまで継続するのか、個人的にはうまく判断できません。

・社員(特に技術系)の言葉から利益追求の意識があまり感じられないこと
あくまでも主観的な印象なので、説明は控えます。しかし業績が盤石であればともかく、そうでなければ金儲けやコストに対する意識を企業ぐるみで高めてほしいとは、一般論として感じています。

<教訓>
・企業価値を見積もる際に、「将来提供され得る新規事業」については、利益貢献を見込む以上に費用増加を意識すること。

・余剰資金が多くても有効的に使えていない企業の価値を評価する際には、その稚拙さを割り引いて考えること。

2019年1月4日金曜日

2018年の投資をふりかえって(1)全般について

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全般的にみると、年末近くまでは高値の銘柄を順次売却すると共に、つなぎ売りとその買い戻しに終始しました。しかし年末近くになってからは方針を転換し、証券を少しずつながら購入しました。12月になってから株価が大きく下落したことで苦い感覚が何年かぶりによみがえりましたが、買いの時期が始まったことに対して心躍らせている部分もあります。ふりかえる時期がもっと後であれば、2018年は転換期だったとはっきり言えるのかもしれません。

さて例年と同じように、銘柄ごとの売買概況を以下に列挙します(銘柄コード順)。また昨年度分の同じ話題の記事はこちらです。

<新規購入(New Buy)>
・アップル(AAPL)

<買増し(Add)>
・メック(4971)
・日東電工(6988)
・しまむら(8227)
・iShares シルバー・トラスト(SLV)

<現状維持(Hold)>
・クラレ(3405)
・日精エー・エス・ビー機械(6284)
・マニー(7730)
・任天堂(7974)
・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)
・従来からの主力銘柄

<一部売却(Reduce)>
・日進工具(6157)
・インテル(INTC)
・モザイク(MOS)
・マイクロソフト(MSFT)
・ウィートン・プレシャス・メタルズ(WPM)
・従来からの主力銘柄

<全部売却(Sell)>
・クックパッド(2193)

次回以降の投稿では、各銘柄に対する所感を簡潔ながら記したいと思います。

2018年6月20日水曜日

2018年バークシャー株主総会(9)ウェルズ・ファーゴについて(了)

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バークシャー・ハサウェイ株主総会での質疑応答から、ウェルズ・ファーゴ等の不祥事に関する話題は今回でおわりです。前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<ウォーレン・バフェット> それは、ティノ・デ・アンジェリスという名の人間があらわれたときのことです[詐欺事件の首謀者]。たしかニュージャージー州のベイヨンだったと思いますが...

スキャンダルが発生した後の、1964年に開催されたアメックスの株主総会には、実はわたしも参加しました。その席で、ある参加者が監査人に歩み出るよう要求しました。

具体的な名前は挙げませんが、ある大手会計事務所の一員だった監査人がマイクのところへ足を進めました。そして次のように質問されました。「当社はあなたがたに昨年いくら支払ったのですか」。

その監査人は答えました。質問者はさらに問いただしました。「それでは、ここから15kmほど離れたベイヨンに赴いて、タンクの中に油がどれだけ残っているか調べてきてほしいと言われたら、一体いくらの追加費用をわれわれに要求するのですか」(微笑)。

実はちょっとした出来事がありました。ある人物がベイヨンの酒場から[会社に]連絡してきて、詐欺話が進んでいると知らせてくれていたのです。しかしアメックス側はそのことを聞きたくなかったため、耳を傾けませんでした。[参考サイト]

強大な企業がその後にむかえたのは、彼らいわく「息も絶え絶えの状態」でした。ですから、過ちとはいずれ犯してしまうものなのです。

いつかはバークシャーでも不愉快なニュース沙汰になることは、請け合います。それが何かはわかりません。しかし繰り返しになりますが、その後わたしたちがどのように行動するか、それがいちばん大切です。

そのような状況で尻込みしていたことが、わたしにも何度かあります。そのたびにチャーリーは、「何か行動を起こせ」と小突いてきました。ですから、みなさんが知らないところでチャーリーもいろいろと活躍してきたのです(微笑)。

(この質疑応答は、おわり)

And when some guy named Tino De Angelis in, I think it was Bayonne, New Jersey -

In fact, I went to the annual meeting in 1964 of American Express after the scandal developed, and somebody asked if the auditor would step forward.

And the auditor from one of the big firms, which I won’t mention, came up to the microphone, and somebody said, “How much did we pay you last year?”

And the auditor gave his answer, and then the questioner said, “Well, how much extra would you have charged us to go over to Bayonne, which was ten miles away, and check whether there’s any oil in the tanks?” (Laughs)

So it - you know, here was something - a tiny little operation - some guy was calling him from a bar in Bayonne and telling him this phony stuff was going on, and they didn’t want to hear it. They shut their ears to it.

And then what emerged was one great company after this kind of, what they thought was a near-death experience. So it’s - we’re going to make mistakes.

I will guarantee you that we will get some unpleasant news at Berkshire. I don’t know what it’ll be, you know - the most important thing is we do something about it.

And there have been times when I procrastinated, and Charlie has been the one that jabs me into action. And so he’s performed a lot of services you don’t know about. (Laughter)