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2017年10月28日土曜日

『かくて行動経済学は生まれり』(マイケル・ルイス)

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『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスの新しい翻訳書『かくて行動経済学は生まれり』を読みました。『マネー・ボール』でデータに基づく意思決定を取り上げた彼は、本書では人間が意思決定を行う際の矛盾に焦点を移し、昨今よく取りあげられている行動経済学の大家ダニエル・カーネマン(過去記事)と、その研究パートナーだった人物エイモス・トヴェルスキーが歩んだ学者人生や兵役生活、研究成果などをたどっています。

おもしろさという点ではマネー・ボールのほうが上をいくと思いますが、本書には評価したい側面があります。「二人の天才を取りあげたこと」は言うまでもありませんが、「天才同士の協調がどのように進められるのかを描いたこと」がそうです。「天才同士が協調して物事にあたる過程や、そこから生まれるもの」については大いに興味がありました。その典型が、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーの協調によってバークシャー・ハサウェイが大きく発展した件です。その意味で本書は、予想外のうれしい一冊でした。

今回は、これからお読みになる方の楽しみを損なわない程度に、一部をご紹介します。最初に引用するのは、エイモス・トヴェルスキーの天才ぶりに触れた箇所です。

「(前略)彼は物理学のことを何も知らないのに、道端で物理学者に出会って30分話すだけで、物理学について、その物理学者が知らないことを話すことができた。わたしは最初、彼をきわめて底の浅い人物だと思った。つまり表面をごまかしてとりつくろっているだけなのだと。でもそれは間違いだった。ごまかしなんかじゃなかったんだ」(p. 111)

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エイモスの科学のあり方は、少しずつ積み上げていくというものではなかった」とリッチ・ゴンザレスは言う。「一気に飛躍して進む。既存の理論的枠組みを見つけ、その一般命題を見つける。そしてそれをぶち壊すんだ。彼自身も否定的なスタイルで科学をしていると思っていた。実際、彼は否定的という言葉をよく使った」。それがエイモスのやり方だった。他人の間違いを指摘してやり直す。そしてそのうちに、他にも間違いがあったことがわかるのだ。(p. 127)

次の引用は、さまざまなヒューリスティック(代表性や利用可能性といった、経験を踏まえて判断すること)によって、人があやまった予測をする過程を取り上げた箇所です。この種の話題は、本ブログでも何度か取り上げています。

どんな状況でも、不確実性の程度を判断するさい、人は"無言のうちに憶測"をすると彼らは述べている。「たとえばある企業の利益を予測するときは、その会社がふつうの操業状態であることを前提として推測をする」と、彼らのメモにある。「人はその条件が戦争やサボタージュ、不況、あるいはライバル会社の倒産などで、劇的に変化する可能性を考えない」。ここには明らかに、もう一つの間違いの原因がある。人は自分がわかっていないことをわかっていないというだけでなく、自分たちの無知を判断材料として考慮しようとしないのだ。(p. 216)

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現実の生活で遭遇する多くの複雑な問題、たとえばエジプトがイスラエルに侵攻するかどうか、あるいは夫が他の女のもとに走るかどうかといった問題を前にしたとき、人は頭の中でシナリオを組み立てる。そしてわたしたちが記憶をもとにつくりあげた物語が、確率の計算に取って代わってしまうのだ。「説得力のあるシナリオができると、将来を予測する思考が制限される可能性が高い」と、ダニエルとエイモスは書いている。「不確実な状況がいったんある形で知覚、解釈されると、他の形で見ることは難しくなる」

しかし自分でつくりあげた物語は、材料の利用可能性によってバイアスがかけられている。彼らは「未来のイメージは過去の経験からつくられる」と書いた。これは歴史の重要性についてのサンタヤーナの有名な言葉、「過去を覚えていられない者は、それを繰り返すそしりを受ける」の逆をいくものだ。過去についての記憶が、将来についての判断を歪めかねないと、彼らは言っているのだ。「われわれはよく、ある結果が生じる可能性はほとんど、あるいは絶対にないという判断をくだすが、それはその結果を引き起こす原因となる一連の出来事を想像できないからだ。欠陥は、わたしたちの想像力にある」(p. 219)

備考です。ナシーム・ニコラス・タレブは、想像力を発揮して未来を予測することの難しさについて触れていました。そして、エクスポージャーを予測するほうが容易だとしています(過去記事)。カーネマンのような先達がみつけた知見を踏まえた上での洞察でしょうから、参考にすべき見解だと受け止めています。

2017年10月24日火曜日

いずれ来たる下落を見やった投資家3名の言葉

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今回は、バリュー志向のマネージャーが市場の下落について最近触れていた文章を3つご紹介します。(日本語は拙訳)

はじめは、バリュー・ファンドFPAクレセントのマネージャーとしてよく取り上げているスティーブン・ローミック氏の文章です。彼が書いた第3四半期の顧客向けレター[PDF]から引用します。

たいていの場合、わたしたちが株価を追いかけるのは下落しているときだけです。しかし資金があふれ返っている現在の世界は、喜んで金額を上積みする投資家ばかりの状況です。そのようなわけでわたしたちは、クレセント・ファンドが旨とする保守的な姿勢を維持する道を選んでいるわけです。

「辛抱強く書き物を読み、経営者と対話し、きちんと考える」、これが取り得る最良の道だと確信します。[先日亡くなった]トム・ペティが書いたように、そして私たちもちょうど1年前の結びで書いたように、「待っている間がいちばんつらい」ものです。

We typically only chase price when it is falling. Today though, a world awash in capital has found investors willing to pay ever higher prices. We, therefore, prefer to maintain Crescent’s conservative posture.

We believe the best course is to patiently read, speak to business managers, and just think. As Mr. Petty wrote and as we closed exactly a year ago, “The waiting is the hardest part.”

次はウォーリー・ワイツ氏の文章です。「オマハのバリュー・マネージャー」として知られる人物で、彼についても何度か取り上げたことがあります。こちらも第3四半期の顧客向けレターからの引用です。

投資の世界では、こんな古いジョークがあります。新しく登場した巨大なビジネスの盛衰過程において、成長が鈍化して楽観的過ぎた見通しが実現不可能だったとわかると、成長株投資家は持ち株をGARP投資家(Growth At a Reasonable Price; 成長株を妥当な金額で買う)へ売却します。つづいてその株はバリュー投資家へ売られ、最終的にはどん底バリューを待ち受けていた連中の手にわたる、という筋書きです。それぞれの段階において買い手となる者は、「失望は一時的にすぎない、あるいは株価が下落したおかげで十分に割安になっている」と評価します。その際に、深刻な問題を抱えた「落下するナイフ」と、一時的に誤解されている割安な証券とを判別できること、それが決め手となります。

There is an old joke in the investment business that in the life cycle of a great new business, as growth slows and overly optimistic projections fail to materialize, growth investors sell to GARP (growth at a reasonable price) buyers, who sell to value investors, with the shares ultimately ending up in the hands of the deep value crowd. At each stage, the new buyers are making the assessment that the disappointment is temporary or that the stock price has declined enough to create a bargain. The trick is to be able to distinguish between the seriously troubled “falling knife” and the temporarily misunderstood undervalued security.

最後がチャーリー・マンガーです。今年の2月に開催されたデイリー・ジャーナル社の株主総会で彼が発言した内容です。

私からすれば、市場の下落は人生に付き物だと考えますね。長期にわたってこのゲームに関わるつもりならば、そうする必要がでてきます。値段が半分まで下落したときでも、やたらと思い悩まずにやり過ごせますよ。より良い生き方を心がけていれば、資産半減の事態となっても、沈着冷静・端麗優雅に受け流せるでしょう。下落を回避しようとは試みないように。結局はやって来ることです。「自分には来ない」と言う人は、十分果敢に投資していないからですよ。

I regard it as a part of manhood. If you’re going to be in this game for the long haul which is the way to do it. You better be able to handle a 50% decline without fussing too much. Conduct your life so you can handle a 50% decline with aplomb and grace. Don’t try to avoid it. It will come. And if it doesn’t come I’d say your not being aggressive enough”.

2017年10月20日金曜日

2017年バークシャー株主総会(8)バフェットにも矛盾点はある

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バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、生産性向上に関する話題です。この話題はおなじみとなっており、たとえば2015年度の「バフェットからの手紙」で大きく取り上げていました。(日本語は拙訳)

3Gキャピタル社における極端なコスト削減策について

<質問> バークシャーは3Gキャピタル社と提携して取引に参加していますが、彼らが極端なまでにコスト削減をして、何千人もの職を減らしている件について、どのようにお考えですか。

<ウォーレン・バフェット> 3G社の経営陣はかなり近い距離から見てきました。基本的に彼らは、「保有する会社は可能な限り生産的であるべし」との信念を持っています。もちろんですが、この会場におられるみなさんにとっても、オマハの人にとっても、アメリカ中の人にとっても、社会全体の発展は生産性の上昇によってもたらされています。もし生産性に変化がなかったとしたら、現代人の生活は1776年の建国当時の人たちと同じままだったでしょう。3Gの人たちは、そのことをすごい速さで実行しているわけです。彼らの取り組みは非常に巧みで、以前よりも少ない人数で運営することによって生産性を高めています。鉄鋼業界であれ、自動車業界であれ、あらゆる産業でそのような取り組みがなされてきました。そのおかげで、今のように生活水準が向上したわけです。

ちなみにバークシャーが買収する際には、すでに効率的に運営されている企業が望ましいと考えています。率直に言って、わたしどもは生産性を高めるプロセスをまるで楽しめません。心地よく感じられないのです。しかし、そういった取り組みは会社を発展させるためのものです。ひとりの人が消費できる量を2倍に増やそうとしても、一人当たりの生産性を改善させるなんらかの方法がなければ、手の打ちようがありません。「政治的な成り行きが事業に影響しかねない」という理由で、そちらの面から悩みそうだと考えているのでしたら、賢明かどうかはともかくとして、うまいご質問だと思います。そのものずばりの答えなのかわかりませんが、彼らは生産性に焦点を当てて非常に賢明なやりかたで取り組んでいるだけではなく、製品の改善やイノベーションや経営陣に対する様々な要望についても相当なまでに注力していることは、申し上げられます。昼食の際にクラフト・ハインツのチーズケーキを食べてみてください。3Gが抱く基本戦術では、生産性向上と同様に、製品の改良やイノベーションがまさしく大きな部分を占めているという点で、同意してくださると思います。

個人的な話をしますと、何千人もの従業員がいた織物事業に携わっていたころに、ある程度の時間をかけて事業から撤退したことがあります。雇用を増やす事業にくらべると、雇用を減らす事業は楽しくないものです。たしかチャーリーと相談して、「実際に人員を削減して生産性を向上させることを主たる利得とする企業は、バークシャーの買収対象から外す」ことを決めたと覚えています。しかし生産性向上を検討することは、社会全体からすれば望ましいことだと思いますし、3Gの人たちの仕事ぶりも見事だと思います。

<チャーリー・マンガー> 生産性を向上させることに、悪いところは何もないですよ。その一方で、「正しいからといって、即実行することにはつながらない」と理屈づけ、非生産的な意見を表明する例がいろいろと見受けられますね。

<ウォーレン・バフェット> その通りだと思います。

(PDFファイルのp. 27。Yahoo! Finance映像では4:24:20)

3G CAPITAL’S EXTREME COST CUTTING

Q. Berkshire partners with 3G Capital on deals. What do you think of their extreme cost cutting and elimination of thousands of jobs?

Warren Buffett: Essentially, 3G management - I’ve watched them very close - is basically they believe in having a company as productive as possible, and of course, the gains in this world for the people in this room and the people in Omaha and the people throughout America have come from gains through productivity. If there had been no change in productivity, we would be living the same life as people lived in 1776. The 3G people do it very fast, and they’re very good making a business productive with fewer people than operated it before. We’ve been doing that in every industry whether it’s steel or cars. That’s why we live as well as we do.

We at Berkshire prefer to buy companies that are already run efficiently. Frankly, we don’t enjoy the process at all of getting more productive. It’s not pleasant, but it is what enabled the company to progress. Nobody has figured a way to double people’s consumption per capita without in some way improving productivity per capita. It’s a good question, and whether it’s smart overall if you think you’re going to suffer politically because political consequences do hit businesses. I don’t know that I can answer the question categorically, but I can tell you they not only focus on productivity and do it in a very intelligent way but also focus to a terrific degree on product improvement, innovation and all of the other things that you want a management to focus on. At lunchtime if you had the Kraft Heinz cheesecake, you will agree with me that product improvement and innovation is just as much a part of the 3G playbook as productivity.

Personally, we have been through the process of being in a textile business that employed a couple thousand people and went out of business over a period of time. It’s just not as much fun to be in a business that cuts jobs rather than a business that adds jobs. Charlie and I would probably forgo having Berkshire buy businesses where the main benefits would come from increasing productivity by actually having fewer workers. I think it is pro social to think in terms of improving productivity, and I think the people at 3G do a very good job.

Charlie Munger: I don’t see anything wrong with increasing productivity. On the other hand, there’s a lot of counter-productivity publicity to doing it. Just because you’re right doesn’t mean you should always do it.

Warren Buffett: I agree with that.

2017年10月16日月曜日

現在の株高を説明する2つの要因(ジェレミー・グランサム)

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資産運用会社GMOのジェレミー・グランサム氏は、慎重派のマネージャーとして何度か取り上げてきました。しかし昨年後半あたりからの彼は警戒的な主張を弱め、市場の続伸を是認(あるいは諦観)するような見解を述べています。今回は、GMOが四半期ごとに公表しているレターから引用します。統計好きの彼らしく、「2つの指標が市場参加者の心理をあたため続けてきたことが、株高を導いている」と説明しています。(日本語は拙訳)

Why Are Stock Market Prices So High? (GMO Quarterly Letter 2Q 2017) [PDF]

投資や経済の世界では、この20年の間にほぼすべてのことが変化したものの、不変だったものがひとつあります。それは「人間の性質」です。私たちはそのことを多かれ少なかれ証明できますし、少なくとも株式市場における場合はそうだと言えます。

15年前に[同僚の]ベン・インカーと共に、S&P500のPER水準がどのように遷移するかを説明しようと考えて単純なモデルを構築しましたが、最近になって変更を加えました。ただしそのモデルは、PERの水準が理にかなっていることや相応であることを正当化したり、あるいは将来の株価を予測したりすることを狙ったものではありません。影響を及ぼす主たる要因に対して、市場がどのような典型的反応を示してきたのか、その傾向を表すだけのものです。モデルに含まれる要因のうち、格別に重要なものが2つあります。ひとつめが利益率で、高い値のほうが望ましいです。もうひとつがインフレーションで、こちらは安定的かつ低い値が望まれますが、低すぎる場合は除きます。(中略)

直近20年間で生じた大きな変化を理解するために試みてきたことから飛躍すると、まったくもって行動的な取り組みだけとなりました。妥当か否かはともかくとして、投資家は高い利益率にご執心ですし、微々たるものであっても安定した成長を好みます。その反対にインフレーションを嫌います。1925年から1997年の間、投資家の考えはずっとそうでした。そして新たな時代である1997年から2017年の間にも、まったく同じ考えを抱いてきました。つまり投資家の振る舞いという意味からすれば、「新たな時代に入った」とは到底言えません。相関係数にして0.9と、高い精度で以前と同じことを繰り返しています。1929年そして1965年に生じた市場の頂点では、どちらにおいても非常に短い期間でしたが、利益率とインフレの両方が好ましい数字でした。それとは対照的に、1997年から2017年に至るまでのほぼすべての期間において、投資家にとって好ましい状況がつづきました。ただし範疇外として、市場が下落した非常に短い期間が二度ありましたが。

市場とはこれほど容易に説明できるものなのでしょうか。まあ、実に92年分ありますからね。それでは私たち投資家は、この情報をもとに何ができるのか考えてみましょう。まずひとつ言えるのは、もし利益率やインフレ率が従来の標準的水準に戻る時期がやってくるとすれば、市場のPERも従来の平均へと実際に回帰するでしょう。反対にそのような期間がめぐってこないのであれば、PERはおそらく高いままでしょう。またそれとは別にわかることとして、市場の暴落を期待するのであれば、(2008年から2009年に起こったように)利益率が大幅に下落するか、(1979年から81年当時のように)インフレ率が劇的に上昇し続けるか、あるいはそれらの強力な組み合わせが起こるのを待つべきです。当然ながらそのいずれも起こる可能性はありますが、たぶん起こらないと思われますし、少なくともここしばらくはないと思います。

PERの遷移を説明するために私たちがとった行動的アプローチは、過去に試みてきた「各種要因のごった煮」よりも単純な公式で済みます。しかし少し前に書いたレター「鳴動ならんや、さめざめと」[原題はNot With A Bang But A Whimper。T.S.エリオットの詩の一部]のパート1やパート2で触れた論議と著しく似ています。どちらのアプローチにおいても支配的なのが、利益率の役割です。利益率が上昇することで利益の額を直接増加させるのみならず、利益額に適用されるPER倍率も上昇させます。同様にインフレも、どちらのアプローチでも2番目に強力な要因です。もちろんながら低インフレは金利を低下させ、「ごった煮」に含まれる重要な要素になると思われます。(PDFファイル10ページ)

In an investing and economic world in which almost everything seems to have changed in the last 20 years, one thing has remained constant: human nature. And, we can more or less prove it. At least in the case of the stock market.

Ben Inker and I designed a simple model 15 years ago to explain the shifts in P/E levels of the S&P 500. Recently we updated it. Our model does not attempt to justify the P/E levels as logical or deserved, nor does it attempt to predict future prices. It just shows what has tended to be the market’s typical response over the years to major market factors. By far, the two most important of these are profit margins, the higher the better, and inflation, where stable and lower is better, except not too low.

Now, cutting across that previous attempt to understand these major changes in our new 20-year era, comes an entirely behavioral approach. Whether sensibly or not, investors love high margins and like stable growth even if it’s modest, and hate inflation. They felt this way from 1925 to 1997 and they felt exactly the same way in our new era of 1997 to 2017. So, behaviorally it is absolutely not a new era. It is precisely - to a 0.90 correlation - the same ole same ole. The peaks of 1929 and 1965 delivered favorable margins and inflation inputs but for a very short while in both cases. In contrast, the period of 1997 to 2017 has delivered to investors their preferred conditions almost the entire time, with only two very quick time-outs for market breaks.

Can the market really be this easy to explain? Well, it has been for 92 years! And what can we investors do with this information? It tells us that if we re-enter a period of old normal profits and old normal inflation, the market’s P/E will indeed mean revert to its old average. And if we don’t re-enter such a period, the P/Es are likely to stay high. It tells us separately that if we expect a market crash, we should also expect to have a crash in margins (as we did in 2008-09) or a truly dramatic rise in sustained inflation (as we did in 1979-81) or some powerful combination. All of which is possible of course, but I think improbable, at least in the near term.

This behavioral approach to explaining shifts in P/Es is certainly a much simpler equation than my previous stew-of-factors approach. But it does have some powerful similarities to my earlier arguments found in Parts 1 and 2 of “Not With A Bang But A Whimper." In both approaches, the role of profit margins is dominant. Improved margins not only move the earnings up directly, but also the P/E multiplier applied to those earnings. Inflation is also a strong secondary factor in both approaches, for low inflation, of course, drives down the interest rates, which appear to be an important ingredient in the stew.

直近2回の暴落(2000年からのITバブル崩壊と2007年からの世界金融危機)を「非常に短い下落期間」とまとめるあたりは、さすがに投資界の重鎮です。長期的にみればたしかにその通りですが、思い切った投資ができるのは個人的にはそのような時期しかないので、「非常に短い期間」に備えて流動性に気を遣うこのごろです。

2017年10月12日木曜日

高田式、企業と自分の育て方(『伝えることから始めよう』)

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前回の投稿につづいて、今回はジャパネットたかたの高田明さんが書いた『伝えることから始めよう』から2か所ほど引用します。と言っても、高田さんが若かったころの話題は興味深く読める文章ばかりですので、お楽しみを損なわないように、短めのご紹介にとどめておきます。最初の引用は、ヨーロッパ駐在から帰ってきて、実家のカメラ店を手伝い始めたころの話です。

平戸のホテル全部と契約していましたから、毎晩いくつも宴会があって、こっちで500人、あっちで700人って、一晩で1,500枚、2,000枚の写真を撮ってプリントするんです。翌朝、売りに行く場所も十数ヵ所もあるんですよ。社員やアルバイトを十数人雇って、家族全員総出のフル稼働でした。

当時は3色刷りでしたから、1枚プリントするのに3回の手間がかかるから大変でした。現像機は1台しかありませんから、写真は晩ご飯が終わってから兄妹で交代で焼きました。できあがるのは午前4時ごろです。ホテルの朝食は朝6時ぐらいから始まりますから、毎日2,3時間ぐらいしか寝られないんですよ。

手伝えと言われたからやり始めた仕事でしたけれど、私のいいところは、自分でいいなんて言うのはおかしいですけど、過去のことはすぐに忘れて、目の前にあることに夢中になって、全力投球できるところなんですね。手伝いで撮影に行ったら、その時点でもう写真に夢中になっているんですよ。そんな性格に生んでもらって、私はつくづく幸せだと思います。(p. 21)

次にご紹介するのは、ジャパネットを経営するにあたってどのような基本方針を抱いていたのかを説明した文章です。

ジャパネットたかたの経営を振り返ってみると、「長期的なビジョンを持たない積み上げ経営」だったと思います。「長期計画のない経営」「目標を持たない経営」というテーマで講演したこともあります。計画性はほとんどなかったんです。

私は5年先、10年先の自分や会社の姿を思い描いたり、目標を立てたりして、それを達成するために今なすべきことを考えるという方法はとりません。そもそも5年先に何をしたいのか、どうなっていたいのか、ということすらあまり考えません。半年先、1年先のことも考えないんです。

軸足を置いていたのは、とにかく「今」です。今できることに最善を尽くす。そこから、次のステップが見えてくる。最善を尽くす中で次のステップが見えてきたら、スモールステップで次に進む。その繰り返しで成長を続けてきました。目標と呼べるようなものがあったとしたら、それは、とにかく昨日よりも今日、今日よりも明日、今年よりも来年と売上を伸ばし、成長していくという強い想いでした。

家業のカメラ店を手伝い始めてから、ジャパネットたかたを設立するに至った経緯はお話ししたとおりです。今を一生懸命に生きて、見えてきた課題を一つずつ克服し、すべてスモールステップを積み上げてきただけでした。

マーケティングでもそうですが、過去の事例があって数字があると、「こういうデータがあるから、こう動くだろう」と人間は考えてしまいがちです。しかし、それはあくまで過去の数字です。参考にはすべきですが、それにとらわれてはいけないと思います。数字から直近の変化をどう読み取るのかが重要なのであって、数字やデータに縛られると変化に対応できなくなります。今日売れたものが、明日は売れないということはよくあります。長期の目標だけにとらわれてしまうと、そこに危機が潜んでいるということもあると思うのです。

実際のところ、例えば、10年後に売上を10倍にする、などという目標を掲げたところで、10年後のことはだれにも予測がつきません。あまりに高い目標で、具体的に今、何をしたらいいかもわからない。無理な販売戦略を作ってしまうかもしれません。

数値目標を掲げてしまうと、数字を達成しようとして背伸びしがちです。とにかく売ろうとして、無理をして価格を安くしたり品質を落としてしまったりしてしまう。私はそういうことが好きではありません。

また、短い期間で売上を伸ばしたところで長くは続きません。どこかにひずみが出て、結果的に事業に悪影響を与えます。売上を伸ばすために、商品やサービスの品質が落ちてしまっては本末転倒だと思います。

目標を掲げること自体は悪いとは思いませんが、実力とかけ離れた目標を立ててしまうとよいことはありません。プレッシャーになるだけですよ。目標や数字にばかり気を取られ、身の丈に合わないことをしようとしたり、事業のミッションを忘れたりしてしまいます。それでは、事業をやること自体の意味を失ってしまうと思うんです。(中略)

目標は持たない経営に徹してきた私ですが、自分自身が向上する、会社を成長させるということについては強い意識を持ってきました。しかも、大きな向上を常に目指す。そんなことはできないと思われるようなことでも、成功する姿をイメージして挑戦してきました。(中略)

一流を目指す人は、「できない」なんて決めつけません。「できない」と思うようなことに果敢にぶつかっていきますよね。一流になりたいと願う人はたくさんいますが、本当になりたいなら、本気で行動しなければいけません。大きな向上を目指さないと、一流には近づいていけないと思うのです。(中略)

もうこれでいい、と思った瞬間に、その人の成長は止まってしまいます。自分を高めるという意識は、常に自分でしっかり持っていなければいけない。そして、自分を高めることができれば、結果もついてきます。(中略)

他者との比較がモチベーションになる人もいるようです。が、私はそうではありませんでした。比べるのは常に自分自身の過去でした。周囲のだれかと自分を比べて、優越感や劣等感を持ってもなんの得にもなりません。しかし、昨日の自分と比べると、自分の成長につながります。他の人に勝つことより、常に自分史上最高を目指せばいいと思うのです。(p. 231)

高田さんの抱く考え方は、いろいろな点でウォーレン・バフェットと似ていると感じました。うろ覚えになりますが、ウォーレン率いるバークシャー・ハサウェイは固定的な戦略を持たない主義で知られています(たとえば過去記事)。また、他人の目よりも自己評価を大切にする人ですし(過去記事)、「もうこれでいい」とは考えずに「死ぬまで現役」の人です。大きな向上をめざしてきたのは言うまでもありません。「似た者同士」はウォーレンが望むところですので、非公開企業のジャパネットさんには、事業継承でお悩みの際には、終の棲家としてバークシャーをご検討いただきたいものです(過去記事)。

2017年10月8日日曜日

ジャパネットたかた創業者、高田明さんの講演を聴きました

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少し前のことですが、ジャパネットたかたの創業者社長だった高田明さんの講演会に出席しました。

我が家ではテレビなしの生活がずいぶん続いているので、高田さんの番組自体をみたことがなく、どこかで何かの折に短いシーンをみかけた程度でした。しかし、かん高い声で話す高田さんのことは引退以前から気になっていました。月並みですが、どのような経営によって会社を育てたのか、知りたかったからです。今回たまたま講演を聴ける機会がやってきたときには、素直によろこびました。

講演会に先立って、彼が今年出していた著書『伝えることから始めよう』を読んでおいたほうがよいか迷いました。結局、本を読むのは講演の後にしましたが、それで正解でした。当たり前ですが、内容は本のほうが充実しています。しかし心をつかんだのは、高田さんご本人がその場で差し出してくださる、あらゆるもののほうでした。まず講演に感激したことで高田さんの話しぶりが頭に残りました。その状態で読書することで、講演での臨場感をよみがえらせながら、より詳細な話を味わうことができました。

今回の投稿では、講演会でわたしがメモした内容(実際はタイプした内容)をご紹介します。そして続きとなる投稿では、いつものように高田さんの同書から一部を引用・ご紹介します。

<講演での様子>

・「今日の講演のために、ハワイから1日早く帰ってきました」

高田さんはきれいに日焼けした顔で登場しました。ハワイ行きの理由は聞き漏らしましたが、著書によれば、ジャパネットではサービスの一環として顧客をハワイへ招待しているとのことです。

・「普通の講演では、聴衆は経営者のことが多いですね。講演活動は300回ぐらいやってきましたが、今回は一番緊張しています」

今回のおもな聴衆は中高生(が少数)及びその保護者等(が多数)だったので、いつもとは若干ちがう心構えを持たれていたのもしれません。なお講演会場はほぼ満席で、聴講者の総数は1,000名弱程度だったと思います。

・自分が話した内容に対して聴衆が適宜拍手を返す、という形式で終始進められました。

「時間と空間を聞き手と共有するために講演会に来た」と言われていたとおり、気持ちのやり取りや場の雰囲気の流れを大切にしていたようです。出だしのころは聴衆の拍手がなかなか揃わなかったのですが、しだいに間合いがとれてきて、高田さんの話と聴衆の拍手の掛け合いが自然につながるようになりました。

・開演当初は演台の横に立って、片手は縁を軽くつかみ、片手はマイクを握って話していました。時間が進むと適宜ゆっくりと移動し、演壇上を広く使っていました。話の流れに沿った自然な所作でした。

・話がのってくると、だんだん声の調子が高くなってきました。話の途中でご本人もそのことを認めておられました。

・講演時間は1時間強。ハンカチで汗をぬぐったのは2回程度でした。ちなみに途中で水分をとることはなかったと記憶しています。


<若い頃の外国での経験について>

・「大学では英会話をよく勉強しました。ある企業に入社し、23歳のときにドイツのデュッセルドルフに駐在しました。ヨーロッパでは東側の国以外はほとんど行きました。この英語力が人生を変えたんですね」。聴衆である生徒の親御さんに対して、「いちばんやりたいことを伸ばしてあげることが大事です」

・「英語の勉強では電子辞書を使うといいですよ。ジャパネットでは1週間で150万台売れました。おそらく日本で一番の売上台数です」

著書でも書かれていますが、リンカーンの演説(の一部)を披露してくれました。淀みなく流れるフレーズには、聴衆から軽いどよめきと拍手があがりました。

・ドイツ語、フランス語、イタリア語などでも、短いフレーズを流暢に披露してくれました。歌も上手、低い声も麗しいです。

これらの件に限らず、高田さんはよく勉強なさっていて、教養も芸も兼ね備え、商売上手で人当たりはよく、仕事熱心で情熱は尽きず、といった印象を強く受けました。

・「イタリアの料理はおいしかったですね。語学力を使ってその国の文化を学ぶことで、人生を豊かにしていけるんです。学問も絶対に大事ですけれど、そういったことにも取り組んでほしいですね」


<手がけてきた事業について>

・「勤めていた会社を25歳でやめて平戸に帰りました。27歳で結婚して、(実家の商売である)カメラは平戸で5年間、佐世保で10年間やりました」

・「ホテルの宴会場で写真を撮る仕事もありましたが、どこの県の人が写真をどのように買うのか学びました。これはマーケティングですね」

・「どんな仕事でも一生懸命やっている人はその中に価値を見出すんですよ。それを学びましたね。つまり、ミッションを発見すること。そしてミッションを一番大事にすること。利益や売上はその次です。たとえば、写真はうつりがいいことが一番ですね。相手の立場で考えていく人が一番です。業界の常識は消費者の常識ではないんですよ」

・「25歳当時の売上は年間3,000万円でした。一方、ジャパネットの今年の売上高は1,900億円です」

・「5分間のラジオ番組に出て(通販をやって)、おもしろいと感じました。長崎でこれだけ売れるのならばと考えて、全国ネットワークを3,4年間で作ったんです。どんなことでも、自分が率先してやる必要があります。39度の熱があるときでも、布団の中からやりましたよ」

・「ラジオ通販では『赤色』と話しても、目で確かめられないので聞き手は想像するしかありません。そのため、わかりやすく伝えることに気を付けたんです。そのおかげか、ラジオ通販の返品率はテレビ通販よりも低かったです」

・「寒冷地であるポーランドの水鳥で作った羽毛布団は最高です。現地で働いている人の苦労話などをしたら、通販ですごく売れました」

・「常に新しいことをやっていかないと、お客さんが慣れてしまってついてきません。シュンペーターが言ったように、なにかを付け加えることで新しいものになるんです」

・「良いものだけれど眠っているものが、全国にはたくさんあります。ですが、伝える力が弱くて広まっていません」


<生きる姿勢について>

・「未来のことを悩む人が多いですね。すると、現在がおろそかになります。今という瞬間をどれだけ大事にするか、一生懸命生きるか。それが夢を達成するために必要なことです。それで明日が変わるんですよ

・「過去にとらわれると、行動を縛られてしまいます。過去は変えられないですが、未来は変えられるんです」

・「しかし、『がんばっているつもり』では人生は変えられません。そのことはテレビショッピングで学びました。売れないものは何度やっても売れない。なぜならば、『伝わったつもり』になっていたからです」

・たとえば「小説家であれば『むずかしいことをやさしく、やさしいことをもっとかんたんに』書くのがいいですね」

・「高い声でくり返し伝えることです。オバマ大統領もキング牧師もそうでした。そしてそれよりももっと大事なのは、間(ま)をもって言葉を発することです。『間は次の有を生み出す無である』。間を取って話してくれると、お互いがつながるんですね」

なにかを伝えたいときには、自分は「声が自然と高くなる」とのことでした。

・なにかを伝えたいときには、「言葉よりも大事なことがあります。『マイクが軽い』と口で言うだけでなく、指で指してものを動かすとそれに注目してくれるんです。さらに表情をもって説明する、つまり喜怒哀楽をもって示すこと。体全体で表現することです」

・「日々取り組んでいることは無駄にはなりません。大事なのは、それを継続していくことです。そして自分の幸せは二の次と考え、まわりの人を幸せにしてほしいですね」

・「人生で失敗はないんです。一生懸命やった場合は失敗ではなく、『試練』だったと考えています

・「謙虚に生きていくことですね」

・「ものをほとんど買わないので、時計もしていません」

・「喜怒哀楽は人間だけがもっている宝物です。なにかをがんばって、そのとき仲間に囲まれていれば、なおいいですね。ひとりでは限られているので、同じ価値を持った仲間と走るのがいいです。それから、人の縁を大事にしたいですね」

・「がんばっている夫婦の子供には、そのがんばりが受け継がれていくものです」

家族のことは、著書でもいろいろと語られています。高田家の生き方や信条が描かれており、興味深く読めます。

・「いい大学に進学するのはすばらしいことです。ただ、それはあくまでもひとつの要素です。そこに人間性を加えていくことが大切ですよ」


<おすすめの本>

・「エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・チョイス』。彼の本はほとんど読んでいます。今の世の中は、問題を複雑にしすぎているんです。頭の中でそれほどたくさんは解決できません。そうではなく、一番の問題を解決していけば、それにつれてあとのものも解決されることがあります。だから優先順位を考えて、1番目・2番目をつぶしていくのがいいと思います」

・「世阿弥の本を読んでほしいですね。650年ぐらい前の本で、(ものごとを)150年続かせるにはどうしたらよいか書いてあります。NHKから100ページぐらいの本が出ています。我見とか離見という言葉がありますね。相手の気持ちを考えて話すことが大事ですよ。日本の電機産業は優秀ですが、他の国に負けています。消費者がなにを求めているかを考えずに売るのでは、相手のことを考えていないですね。世阿弥の本を読んで、『離れて客観的に俯瞰してみつめる心』が必要だと感じました」

紹介された本は、おそらく『NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』だと思われます。


<現在取り組んでいること>

・「会社(ジャパネット)はきっぱりと辞めました。会議には出ていないですし、座席もないです」

・「生き生きとした世の中にしたいですね」ということで、現在はジャパネットが子会社化したサッカー・チームであるV・ファーレン長崎(ヴィ・ファーレン)の社長を務めておられます。

・ヴィ・ファーレンを知っている者が聴衆の中にわずかしかいなかったので、「知っている人がこんなに少ない講演会は、はじめて」と呆れて笑っていました。「チームの現在の成績はJ2の2位です。選手の気持ちが変わったことで、2位になっています。ただしサッカーで勝つことは手段であって、長崎をよくすることの役に立ちたいですね」

・長崎の活気はなにかという生徒からの質問に対して、「歴史が大きい街だからだと思いますよ。ヴィ・ファーレンは平和を発信するチームにしていきたいです」

・「来年には70歳になります。最高齢を考えると、あと49年生きたいです。そう考えると、自分の人生にはまだたくさんの時間があります。そして49年後に、(講演をおこなった)ここに戻ってきたいですね」

2017年10月4日水曜日

2017年バークシャー株主総会(7)事業をうまく評価できるようになるには

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バークシャー・ハサウェイ年次株主総会の質疑応答から、事業の評価基準に関する話題です。ウォーレン・バフェットからの助言(赤字で強調した箇所)は、おそらく多くの人にとって福音になることと思います。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

価値評価の方法

<質問> さきほどマンガーさんが中国市場と米国市場をくらべた話をされていましたが、その際の評価方法としては、株式市場時価総額をGDPで割る方法[バフェット指標]と、CAPEを使う方法[シラーP/E; 景気循環調整後PER]のどちらが適しているとお考えですか。

<バフェット> お話しにあったどちらの基準も、わたしどもが証券の価値を評価する上で最上というわけではありません。将来にわたって事業が稼ぎ得る現金の現在価値は、事業を評価するうえで重要な要因です。しかし世間では絶えず公式を求めていますが、究極の公式というものはありません。なにが変数に関わっているのか、わからないからです。もちろん、それぞれの数値にはそれなりの意味があります。しかし事業の評価とは、「実際に変数の値を完璧に設定できる公式」へと単純化できるものではありません。お話しに挙げられたどちらの数も話題にされることが多いですが、それがとても重要なこともあるでしょうし、無意味同然のこともあると思います。ひとつやふたつの公式で済むほど単純ではありません。

将来の金利がどうなるか、これがいちばん重要です。「取り得る最良のやりかただ」として、現在の利率を当てはめる例がよくあります。30年物債券の利率をみてください。資金を30年間出しておいて、30年後には損も得もなしに無リスクで戻ってほしいと考える人が、どれだけの金利を期待しているかがうかがえるでしょう。その数字について良い予想ができるかと聞かれても何とも申し上げられませんが、だからといって現在の値を使うという意味ではありません。チャーリーのほうも、「お話しに挙げられた2つの基準を物差しにして、中国市場と米国市場を比較評価することはできない」と答えると思います。

<マンガー> 私からは、「釣りをする上での規則その1、魚のいるところで釣れ」と言っただけですよ。腕の良い釣り師にとっては、今なら中国のほうがもっと魚をみつけられるでしょう。私が言ったのはそれだけです。楽しさひとしおの釣場ですよ。

<バフェット> 投資家として事業をもっとうまく評価できるようになりたい方は、ダメな事業をしばらくのあいだ運営する手だてをぜひ見つけるべきです。すぐれた会社に入って失敗させようもない良好な事業から学ぶよりも、ひどい事業に携わって実際に数年間ほど奮闘してみれば、ビジネスについて実にたくさんのことを学べます。わたしどもにとっても、実体験として学んできたことの大きな部分を占めています。良い事業に関わるという意味からすれば、悪い事業に実際に何度か関わって目の当たりにしたことの割合はもっと大きかったと思います。

<マンガー> いや、実にひどいものでしたよ。

<バフェット> どれほどひどいものなのか、どれだけ自分が非力なのか、どれほど優れたIQを以てしても問題を解決できないのか。そういったことも理解できる有意義な経験になると思います。まあ、非常に強くまではお勧めしませんが。

<マンガー> 我々にとっては非常に有益でした。学びたいのであれば、個々人が厳しい経験をするのが一番ですよ。当然ながら我々も、それなりに経験しましたがね。

(PDFファイルのp. 38。Yahoo! Finance映像では5:34:30)

VALUATION METHODS

Q. In looking at the Chinese market vs the U.S. market, what is the best valuation method, market cap divided by GDP or the Cyclically Adjusted P/E (CAPE) method?

Warren Buffett: Both of the standards you mention are not paramount at all in our valuation of securities. The present value of the future cash that can be taken out of the business is the important factor in valuing a business. People are always looking for a formula. There’s not an ultimate formula. You don’t know what to stick in for the variables. Every number has some degree of meaning. Valuation of a business - it is not reducible to any formula where you can actually put in the variables perfectly. Both of the things you mentioned get themselves bandied around a lot. Sometimes they can be very important. Sometimes they can be almost totally unimportant. It’s not quite as simple as having one or two formulas.

The most important thing is future interest rates. People frequently plug in the current interest rate saying that’s the best they can do. The 30-year bond rate should tell you what people who are willing to put out money for 30 years and have no risk of dollar gain or dollar loss at the end of the 30-year period expect to earn. I’m not sure I can come up with a better figure. That doesn’t mean I’m going to use the current figure either. I’d say - I think Charlie’s answer is he does not come up with China vs the US market valuations based on what you’ve mentioned as yardsticks.

Charlie Munger: All I said before is the first rule of fishing is to fish where the fish are. A good fisherman can find more fish in China now. That’s all I meant. It’s a happier hunting ground.

Warren Buffett: If you want to be a good evaluator of businesses, as an investor, you really ought to figure out a way to run a lousy business for awhile. You learn a whole lot more about business by actually struggling with a terrible business for a couple of years than you learn by getting into a very good one where the business is so good you can’t mess it up. It was a big part of our learning experience, and I think a bigger part in the sense of being involved in a good business was actually being involved in some bad businesses and seeing -

Charlie Munger: -how awful it was.

Warren Buffett: How awful it is and how little you can do about it and how IQ does not solve the problem. It’s a useful experience, but I wouldn’t advise too much of it.

Charlie Munger: It was very useful to us. There’s nothing like a personal, painful experience if you want to learn, and we certainly had our share of it.

2017年10月2日月曜日

カモになりたきゃ、ニュースを聴け(ナシーム・ニコラス・タレブ)

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ナシーム・ニコラス・タレブの『反脆弱性』から、これが最後の引用です。シグナルとノイズの話題です。

科学では、ノイズとは実際の「音」以外にも使われる一般的な概念であり、求めている情報を理解するために取り除く必要のある、何の役にも立たないランダムな情報を指す。(中略)

ビジネスや経済の意思決定では、データ依存は強烈な副作用をもたらす。現代では、縦横無尽なネットワークのおかげでデータは山ほどある。そして、データ漬けになればなるほど、偽の情報の割合も大きくなる。めったに話題にならないが、データにはひとつの性質がある。大量なデータは有害なのだ。いや、ほどほどの量でも。(中略)

データに触れれば触れるほど、「信号」と呼ばれる貴重な情報よりも、ノイズに触れる可能性は不釣り合いに高まっていく。ノイズ対信号比が高くなるわけだ。それに、心理的な混乱ではなく、データそのものに潜む混乱もある。たとえば、情報を年1回確認するとしよう。株価でも、義父の工場の肥料の売上でも、ウラジオストクのインフレ指数でもいい。仮に、年単位でみると、情報の信号対ノイズ比がおよそ1対1(ノイズと信号が半分ずつ)だとする。つまり、変化のおよそ半分は本当の改善や悪化で、残りの半分はランダムな変化ということだ。年1回の観察ではこの比率だが、同じデータを日単位で見ると、ノイズが95パーセントで信号が5パーセントになる。さらに、ニュースや市場価格の動向のように、1時間単位でデータを観察すると、ノイズが99.5パーセントで信号が0.5パーセントになってしまう。ノイズが信号の200倍もあるわけだ。よって、(大事件でもない)ニュースを一生懸命聴いている人たちは、カモの一歩手前なのだ。(上巻p. 212)

信号(シグナル)とノイズについて取り上げた本としては、過去記事「これから坂を下る人」で取り上げた『シグナル&ノイズ』が楽しめました。

ノイズに触れる機会を減らすように説いた文章としては、ウォーレン・バフェットの過去記事「2013年度バフェットからの手紙 - 投資に関するわたしからの助言(1)」が参考になります。

「ニュースに触れていなかった間に株価が下がるのは困る」というのであれば、ジョン・テンプルトンの教え「(ルールその10)狼狽するな」に従うのはどうでしょうか。

問題なのは、「ごく少数の事件のせいで、企業価値が激減する」場合です。これこそ前々回のタレブの話題にでてきた「脆い」企業の典型です。このような企業への投資を検討する際には、リスク管理を重んじる必要があると思います。私見になりますが、そもそも投資しないか、リスク影響度(リスク・エクスポージャー)を吸収できる以上の割安な値段で買うか、ポートフォリオ全体に占める比率を小さく抑えるか、といった選択肢のなかから意思決定するのがよいと思われます。