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2018年3月28日水曜日

私が勧めるメンタル・モデル(エドワード・ソープ)

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Twitterのほうでご紹介しましたが、ギャンブラーとしても有名な天才数学者エドワード・ソープのインタビュー記事が、米投資雑誌バロンズのサイトに掲載されていました。短い記事ですが、個人的には再読したい文章ばかりです。今回ご紹介するのは、本サイトで主要な話題として取り上げている「メンタル・モデル」の話題です。(日本語は拙訳)

なお、下記リンク先は購読者のみのアクセス制限付きです。無料で読みたい方は、たとえばTwitterの投稿でご紹介したGoogle検索経由などの方法でアクセスしてください。

Why Edward Thorp Owns Only Berkshire Hathaway (Barron's)

<質問> あなたの新刊『どんな市場でも闘える男』[未訳; 原題はA Man for All Markets]から、どのような教訓を得てほしいとお考えですか。

<ソープ> 己のためにできる最高のこととは、「みずからを教育して、明確かつ合理的にものごとを考えられるようにすること」です。数学や科学、論理的思考を身につけるのに役立つでしょう。その次に大切なのは、広い分野にわたって、書物を読んだり興味をいだくことです。もしそうできれば、道具として使えるものを増やすことができます。(バークシャー・ハサウェイの副会長である)チャーリー・マンガーは多種多様なメンタル・モデルの持ち主ですが、それらはものごとを考える上での短縮法といえるものです。私自身も手持ちがありますが、お気に入りのひとつに「外部性を理解せよ」というものがあります(他者の経済活動から生じる波及効果)。

たとえば、私が自宅に火災保険をかけたとしましょう。すると、となりに住むご家族は若干安全になります。これが「正の外部性」です。一方、環境性能の低いガソリン車に乗って大気を汚染させるにもかかわらず、なんの対価も支払わない人がいるとすれば、それが「負の外部性」です。もうひとつの例として「銃」があげられます。客が銃を買っていったことで、販売業者は大儲けをします。しかしその客が他人を殺せば、社会が大きな費用を支払うことになります。一方で、銃の販売業者は何も支払いません。

さまざまな問題を分析しようとする際に、「外部性」を考えるのは有効なやりかたです。もし「負の外部性」をもたらす人に対して、その責任をとらせるようにすれば、多くの問題が解消されます。単刀直入な解決例をあげてみましょう。自動車は年間3万5千人の命を奪っています。もし自動車を運転したければ、免許証が必要ですし、訓練もそうですし、損害を与えたときのために保険も必要です。それと同じように、銃の場合も保有者に責任を持たせるべきです。たとえば、紛失した際にはその旨を報告しなければなりません。銃の場合でも同じようにすれば、何千もの銃器を保有することはできなくなるでしょう。それを引き受ける保険会社など考えられないですから。AR-15[半自動ライフル銃]に必要な保険料はいくらになると思いますか。おそらくは相当な金額になるでしょう。

Q: What lessons do you want people to come away with from A Man for All Markets?

A: That the best thing you can do for yourself is to educate yourself to think clearly and rationally. It helps to have math or science or logical training. The next is to be widely read and curious. If you are that way, you have so much more to use in terms of tools. [Berkshire Hathaway Vice Chairman] Charlie Munger has a collection of multiple mental models—shorthand ways to think of things. I also have my own, and one of my favorites is to understand externalities [spillover effects from other economic activity].

For example, if I buy fire insurance for my house, my neighbor is a little safer. That’s an externality benefit. If someone drives a polluting gasoline car and uses the atmosphere as a waste dump without paying any consequences, that’s a negative externality. Another one is guns. Gun dealers make a lot of money, their clients go out and kill people, and society pays huge costs. Gun dealers don’t.

Externalities are a good way to start analyzing problems. A lot of problems go away if you make people who distribute negative externalities pay the consequences. There’s a neat solution. Automobiles kill about 35,000 people a year. If you want to drive a car, you need a license, some training, and also insurance if your car does damage. People have to be accountable for their guns, just like cars. If your car is stolen, you are expected to report it. [What if it were the] same with guns? People wouldn’t be able to accumulate thousands of guns, because what insurance company will insure it? What do you think the insurance would be for an AR-15? It would be very high.

2017年11月28日火曜日

ウォーレン・バフェットの時間管理術(GuruFocus記事より)

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投資関連の記事を掲載しているサイトGuruFocusで、「ウォーレン・バフェットから学んだ時間管理術」に関する記事が投稿されていました。取りあげられている5つの話題のうち、個人的に感心したのが最初にあげられた「2リスト・ストラテジー」です。以前どこかで似た文章を読んだような気もしますが、改めて学ぶ価値のある教訓だと感じました。(日本語は拙訳)

Life-Changing Time Management Lessons I've Learned From Warren Buffett (GuruFocus)

2リスト・ストラテジー

マイク・フリント氏は、バフェット専属の航空機パイロットを10年間務めていた人物である(同氏は4人の米国大統領のパイロットだったこともあるので、すぐれた腕の持ち主だと言っても言い過ぎではないと思う)。フリント氏によれば、職業人生上の優先順位のことをバフェットと話していたときに、3段階の手順を踏んでほしいと言われたそうだ。

具体的な手順は次のとおりである。

<その1> はじめにバフェットはフリント氏に対して、職歴上の目標のうち上位25件を書きだしてほしいと言った。フリントは少し時間をかけて、それらを書き下した。(注: みなさんも短時間でこの作業を完了できるだろう。たとえば、今週中に達成したい25件を書きだすわけだ)

<その2> つづいてバフェットはフリントに対して、その一覧にある目標を読み直し、重要なもの5件に丸印を付けてほしいと頼んだ。今度もフリント氏はいくばくか時間をかけて一覧を読み進め、もっとも重要な目標5件を選んだ。

(注: これを自宅でやっているのであれば、読み進めるのをいったんやめて、その3に進む前に上記の2つを実行してほしい)

<その3> この時点でフリント氏は2つの一覧を手にしていた。一覧Aには丸印を付けた5件があり、一覧Bには丸印の付いていない20件があった。

上位5件の目標はただちに取り組める、とフリント氏は認めた。そのときバフェットが2つめの一覧のことをたずねてきた。「丸印を付けなかったほうはどうなっていますか」。

フリント氏は答えた。「ええ、上位5件はわたしがまず集中すべきことですが、他の20件も次点級ながら遠からずのものですね。それなりに重要ですから、折に触れて少しずつ取り組むつもりです。急ぎの課題ではありませんが、しっかりやるように計画します」。

しかしバフェットは次のように返答した。「いや、ちがいますよ、マイク。丸印を付けなかった項目は、すなわち『是が非でも回避すべき課題一式』なのです。そういった課題が何であれ、上位5件を終わらせるまでは関心を向けてはいけませんよ」。

The “two-list” strategy.

Mike Flint was Buffett's personal airplane pilot for 10 years. (Flint has also flown four US Presidents, so I think we can safely say he is good at his job.) According to Flint, he was talking about his career priorities with Buffett when his boss asked the pilot to go through a 3-step exercise.

Here's how it works…

STEP 1: Buffett started by asking Flint to write down his top 25 career goals. So, Flint took some time and wrote them down. (Note: you could also complete this exercise with goals for a shorter timeline. For example, write down the top 25 things you want to accomplish this week.)

STEP 2: Then, Buffett asked Flint to review his list and circle his top 5 goals. Again, Flint took some time, made his way through the list, and eventually decided on his 5 most important goals.

Note: If you're following along at home, pause right now and do these first two steps before moving on to Step 3.

STEP 3: At this point, Flint had two lists. The 5 items he had circled were List A and the 20 items he had not circled were List B.

Flint confirmed that he would start working on his top 5 goals right away. And that's when Buffett asked him about the second list, “And what about the ones you didn't circle?”

Flint replied, “Well, the top 5 are my primary focus, but the other 20 come in a close second. They are still important so I’ll work on those intermittently as I see fit. They are not as urgent, but I still plan to give them a dedicated effort.”

To which Buffett replied, “No. You’ve got it wrong, Mike. Everything you didn’t circle just became your Avoid-At-All-Cost list. No matter what, these things get no attention from you until you’ve succeeded with your top 5.”

2017年10月8日日曜日

ジャパネットたかた創業者、高田明さんの講演を聴きました

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少し前のことですが、ジャパネットたかたの創業者社長だった高田明さんの講演会に出席しました。

我が家ではテレビなしの生活がずいぶん続いているので、高田さんの番組自体をみたことがなく、どこかで何かの折に短いシーンをみかけた程度でした。しかし、かん高い声で話す高田さんのことは引退以前から気になっていました。月並みですが、どのような経営によって会社を育てたのか、知りたかったからです。今回たまたま講演を聴ける機会がやってきたときには、素直によろこびました。

講演会に先立って、彼が今年出していた著書『伝えることから始めよう』を読んでおいたほうがよいか迷いました。結局、本を読むのは講演の後にしましたが、それで正解でした。当たり前ですが、内容は本のほうが充実しています。しかし心をつかんだのは、高田さんご本人がその場で差し出してくださる、あらゆるもののほうでした。まず講演に感激したことで高田さんの話しぶりが頭に残りました。その状態で読書することで、講演での臨場感をよみがえらせながら、より詳細な話を味わうことができました。

今回の投稿では、講演会でわたしがメモした内容(実際はタイプした内容)をご紹介します。そして続きとなる投稿では、いつものように高田さんの同書から一部を引用・ご紹介します。

<講演での様子>

・「今日の講演のために、ハワイから1日早く帰ってきました」

高田さんはきれいに日焼けした顔で登場しました。ハワイ行きの理由は聞き漏らしましたが、著書によれば、ジャパネットではサービスの一環として顧客をハワイへ招待しているとのことです。

・「普通の講演では、聴衆は経営者のことが多いですね。講演活動は300回ぐらいやってきましたが、今回は一番緊張しています」

今回のおもな聴衆は中高生(が少数)及びその保護者等(が多数)だったので、いつもとは若干ちがう心構えを持たれていたのもしれません。なお講演会場はほぼ満席で、聴講者の総数は1,000名弱程度だったと思います。

・自分が話した内容に対して聴衆が適宜拍手を返す、という形式で終始進められました。

「時間と空間を聞き手と共有するために講演会に来た」と言われていたとおり、気持ちのやり取りや場の雰囲気の流れを大切にしていたようです。出だしのころは聴衆の拍手がなかなか揃わなかったのですが、しだいに間合いがとれてきて、高田さんの話と聴衆の拍手の掛け合いが自然につながるようになりました。

・開演当初は演台の横に立って、片手は縁を軽くつかみ、片手はマイクを握って話していました。時間が進むと適宜ゆっくりと移動し、演壇上を広く使っていました。話の流れに沿った自然な所作でした。

・話がのってくると、だんだん声の調子が高くなってきました。話の途中でご本人もそのことを認めておられました。

・講演時間は1時間強。ハンカチで汗をぬぐったのは2回程度でした。ちなみに途中で水分をとることはなかったと記憶しています。


<若い頃の外国での経験について>

・「大学では英会話をよく勉強しました。ある企業に入社し、23歳のときにドイツのデュッセルドルフに駐在しました。ヨーロッパでは東側の国以外はほとんど行きました。この英語力が人生を変えたんですね」。聴衆である生徒の親御さんに対して、「いちばんやりたいことを伸ばしてあげることが大事です」

・「英語の勉強では電子辞書を使うといいですよ。ジャパネットでは1週間で150万台売れました。おそらく日本で一番の売上台数です」

著書でも書かれていますが、リンカーンの演説(の一部)を披露してくれました。淀みなく流れるフレーズには、聴衆から軽いどよめきと拍手があがりました。

・ドイツ語、フランス語、イタリア語などでも、短いフレーズを流暢に披露してくれました。歌も上手、低い声も麗しいです。

これらの件に限らず、高田さんはよく勉強なさっていて、教養も芸も兼ね備え、商売上手で人当たりはよく、仕事熱心で情熱は尽きず、といった印象を強く受けました。

・「イタリアの料理はおいしかったですね。語学力を使ってその国の文化を学ぶことで、人生を豊かにしていけるんです。学問も絶対に大事ですけれど、そういったことにも取り組んでほしいですね」


<手がけてきた事業について>

・「勤めていた会社を25歳でやめて平戸に帰りました。27歳で結婚して、(実家の商売である)カメラは平戸で5年間、佐世保で10年間やりました」

・「ホテルの宴会場で写真を撮る仕事もありましたが、どこの県の人が写真をどのように買うのか学びました。これはマーケティングですね」

・「どんな仕事でも一生懸命やっている人はその中に価値を見出すんですよ。それを学びましたね。つまり、ミッションを発見すること。そしてミッションを一番大事にすること。利益や売上はその次です。たとえば、写真はうつりがいいことが一番ですね。相手の立場で考えていく人が一番です。業界の常識は消費者の常識ではないんですよ」

・「25歳当時の売上は年間3,000万円でした。一方、ジャパネットの今年の売上高は1,900億円です」

・「5分間のラジオ番組に出て(通販をやって)、おもしろいと感じました。長崎でこれだけ売れるのならばと考えて、全国ネットワークを3,4年間で作ったんです。どんなことでも、自分が率先してやる必要があります。39度の熱があるときでも、布団の中からやりましたよ」

・「ラジオ通販では『赤色』と話しても、目で確かめられないので聞き手は想像するしかありません。そのため、わかりやすく伝えることに気を付けたんです。そのおかげか、ラジオ通販の返品率はテレビ通販よりも低かったです」

・「寒冷地であるポーランドの水鳥で作った羽毛布団は最高です。現地で働いている人の苦労話などをしたら、通販ですごく売れました」

・「常に新しいことをやっていかないと、お客さんが慣れてしまってついてきません。シュンペーターが言ったように、なにかを付け加えることで新しいものになるんです」

・「良いものだけれど眠っているものが、全国にはたくさんあります。ですが、伝える力が弱くて広まっていません」


<生きる姿勢について>

・「未来のことを悩む人が多いですね。すると、現在がおろそかになります。今という瞬間をどれだけ大事にするか、一生懸命生きるか。それが夢を達成するために必要なことです。それで明日が変わるんですよ

・「過去にとらわれると、行動を縛られてしまいます。過去は変えられないですが、未来は変えられるんです」

・「しかし、『がんばっているつもり』では人生は変えられません。そのことはテレビショッピングで学びました。売れないものは何度やっても売れない。なぜならば、『伝わったつもり』になっていたからです」

・たとえば「小説家であれば『むずかしいことをやさしく、やさしいことをもっとかんたんに』書くのがいいですね」

・「高い声でくり返し伝えることです。オバマ大統領もキング牧師もそうでした。そしてそれよりももっと大事なのは、間(ま)をもって言葉を発することです。『間は次の有を生み出す無である』。間を取って話してくれると、お互いがつながるんですね」

なにかを伝えたいときには、自分は「声が自然と高くなる」とのことでした。

・なにかを伝えたいときには、「言葉よりも大事なことがあります。『マイクが軽い』と口で言うだけでなく、指で指してものを動かすとそれに注目してくれるんです。さらに表情をもって説明する、つまり喜怒哀楽をもって示すこと。体全体で表現することです」

・「日々取り組んでいることは無駄にはなりません。大事なのは、それを継続していくことです。そして自分の幸せは二の次と考え、まわりの人を幸せにしてほしいですね」

・「人生で失敗はないんです。一生懸命やった場合は失敗ではなく、『試練』だったと考えています

・「謙虚に生きていくことですね」

・「ものをほとんど買わないので、時計もしていません」

・「喜怒哀楽は人間だけがもっている宝物です。なにかをがんばって、そのとき仲間に囲まれていれば、なおいいですね。ひとりでは限られているので、同じ価値を持った仲間と走るのがいいです。それから、人の縁を大事にしたいですね」

・「がんばっている夫婦の子供には、そのがんばりが受け継がれていくものです」

家族のことは、著書でもいろいろと語られています。高田家の生き方や信条が描かれており、興味深く読めます。

・「いい大学に進学するのはすばらしいことです。ただ、それはあくまでもひとつの要素です。そこに人間性を加えていくことが大切ですよ」


<おすすめの本>

・「エリヤフ・ゴールドラットの『ザ・チョイス』。彼の本はほとんど読んでいます。今の世の中は、問題を複雑にしすぎているんです。頭の中でそれほどたくさんは解決できません。そうではなく、一番の問題を解決していけば、それにつれてあとのものも解決されることがあります。だから優先順位を考えて、1番目・2番目をつぶしていくのがいいと思います」

・「世阿弥の本を読んでほしいですね。650年ぐらい前の本で、(ものごとを)150年続かせるにはどうしたらよいか書いてあります。NHKから100ページぐらいの本が出ています。我見とか離見という言葉がありますね。相手の気持ちを考えて話すことが大事ですよ。日本の電機産業は優秀ですが、他の国に負けています。消費者がなにを求めているかを考えずに売るのでは、相手のことを考えていないですね。世阿弥の本を読んで、『離れて客観的に俯瞰してみつめる心』が必要だと感じました」

紹介された本は、おそらく『NHK「100分de名著」ブックス 世阿弥 風姿花伝』だと思われます。


<現在取り組んでいること>

・「会社(ジャパネット)はきっぱりと辞めました。会議には出ていないですし、座席もないです」

・「生き生きとした世の中にしたいですね」ということで、現在はジャパネットが子会社化したサッカー・チームであるV・ファーレン長崎(ヴィ・ファーレン)の社長を務めておられます。

・ヴィ・ファーレンを知っている者が聴衆の中にわずかしかいなかったので、「知っている人がこんなに少ない講演会は、はじめて」と呆れて笑っていました。「チームの現在の成績はJ2の2位です。選手の気持ちが変わったことで、2位になっています。ただしサッカーで勝つことは手段であって、長崎をよくすることの役に立ちたいですね」

・長崎の活気はなにかという生徒からの質問に対して、「歴史が大きい街だからだと思いますよ。ヴィ・ファーレンは平和を発信するチームにしていきたいです」

・「来年には70歳になります。最高齢を考えると、あと49年生きたいです。そう考えると、自分の人生にはまだたくさんの時間があります。そして49年後に、(講演をおこなった)ここに戻ってきたいですね」

2017年10月2日月曜日

カモになりたきゃ、ニュースを聴け(ナシーム・ニコラス・タレブ)

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ナシーム・ニコラス・タレブの『反脆弱性』から、これが最後の引用です。シグナルとノイズの話題です。

科学では、ノイズとは実際の「音」以外にも使われる一般的な概念であり、求めている情報を理解するために取り除く必要のある、何の役にも立たないランダムな情報を指す。(中略)

ビジネスや経済の意思決定では、データ依存は強烈な副作用をもたらす。現代では、縦横無尽なネットワークのおかげでデータは山ほどある。そして、データ漬けになればなるほど、偽の情報の割合も大きくなる。めったに話題にならないが、データにはひとつの性質がある。大量なデータは有害なのだ。いや、ほどほどの量でも。(中略)

データに触れれば触れるほど、「信号」と呼ばれる貴重な情報よりも、ノイズに触れる可能性は不釣り合いに高まっていく。ノイズ対信号比が高くなるわけだ。それに、心理的な混乱ではなく、データそのものに潜む混乱もある。たとえば、情報を年1回確認するとしよう。株価でも、義父の工場の肥料の売上でも、ウラジオストクのインフレ指数でもいい。仮に、年単位でみると、情報の信号対ノイズ比がおよそ1対1(ノイズと信号が半分ずつ)だとする。つまり、変化のおよそ半分は本当の改善や悪化で、残りの半分はランダムな変化ということだ。年1回の観察ではこの比率だが、同じデータを日単位で見ると、ノイズが95パーセントで信号が5パーセントになる。さらに、ニュースや市場価格の動向のように、1時間単位でデータを観察すると、ノイズが99.5パーセントで信号が0.5パーセントになってしまう。ノイズが信号の200倍もあるわけだ。よって、(大事件でもない)ニュースを一生懸命聴いている人たちは、カモの一歩手前なのだ。(上巻p. 212)

信号(シグナル)とノイズについて取り上げた本としては、過去記事「これから坂を下る人」で取り上げた『シグナル&ノイズ』が楽しめました。

ノイズに触れる機会を減らすように説いた文章としては、ウォーレン・バフェットの過去記事「2013年度バフェットからの手紙 - 投資に関するわたしからの助言(1)」が参考になります。

「ニュースに触れていなかった間に株価が下がるのは困る」というのであれば、ジョン・テンプルトンの教え「(ルールその10)狼狽するな」に従うのはどうでしょうか。

問題なのは、「ごく少数の事件のせいで、企業価値が激減する」場合です。これこそ前々回のタレブの話題にでてきた「脆い」企業の典型です。このような企業への投資を検討する際には、リスク管理を重んじる必要があると思います。私見になりますが、そもそも投資しないか、リスク影響度(リスク・エクスポージャー)を吸収できる以上の割安な値段で買うか、ポートフォリオ全体に占める比率を小さく抑えるか、といった選択肢のなかから意思決定するのがよいと思われます。

2017年9月28日木曜日

暴落という名の浄化(ナシーム・ニコラス・タレブ)

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何回か前の投稿で取り上げたナシーム・ニコラス・タレブの『反脆弱性』から、市場の暴落に関わる話題を引用します。

変動には浄化の働きもある。小さな山火事が定期的に発生することで、とても燃えやすい物質が一掃されるので、蓄積せずにすむ。"安全のため"に山火事を体系的に防ごうとすると、大火事が起きたときの被害はいっそうひどくなる。同じような理由で、安定は経済にとってよくない。後退することもなく、ずっと安定して成長を続けている企業は、非常に脆弱になる。そして、隠れた脆弱性が水面下で蓄積しつづける。だから、危機を先送りにするのはあまりよくない。同じように、市場に変動性がないと、罰を免れた潜在的リスクが膨らんでいく。市場が打撃を受けていない期間が長ければ長いほど、いったん混乱が発生したときの被害は大きくなるのだ。

この安定性がもたらす逆効果を科学的にモデル化するのは簡単だ。でも、私はトレーダーになったころ、ベテラン中のベテランだけが使っているヒューリスティック(経験則)を教わった。市場が"新安値"に達すると、つまり長い間経験していなかった水準まで下落すると、人々が出口に殺到し、"大量の血"が飛び散るのだ。金を失うことに慣れていない人々は、大きな損失を食らい、苦痛をこうむる。たとえば、その市場価格が2年ぶりの水準なら、「2年来の安値」と呼ばれ、1年来の安値よりも大きな被害をもたらす。うまいことに、この現象は「クリーンアップ(浄化)」と呼ばれている。"弱いプレーヤー"を追い出すという意味だ。"弱いプレーヤー"というのはもちろん、自分が脆いことに気づいておらず、誤った安心感に惑わされている連中のことだ。弱いプレーヤーがいっせいに出口に殺到すれば、全体を崩壊に導く。変動性のある市場では、長い間リスクの"クリーンアップ"が起こらないことはありえないので、こういう市場の崩壊を避けることができる。

ラテン語の言い回しを借りるなら、「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」ということだ。(上巻p. 175)

2017年9月24日日曜日

オークツリー式の投資手法(ハワード・マークス)

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Oaktreeのハワード・マークスが書いたメモから、2つ目の引用です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

メディアが示した反応(より一部を抜粋)

新刊を執筆するにあたって、投資家が平均以上の成績を達成するためにできることを、大きく2つに分類しました。

・「選択」、つまりよい成果が得られるものをより多く保有し、悪い成果になるものをなるべく減らすように努めること。

・「サイクルに応じた調整」、つまり市場が上昇する際にリスク・エクスポージャー(リスク資産の度合い)を増やし、下落する際にその度合いを減らすように努めること。

[席を共にしていた評論家が言ったように]「良い時期も悪い時期もない」と甘受するのは、つまり上述した後者を放棄することを意味します。実に見事な成績をあげてきたバフェットが、「他人が強欲なときには恐れるべし。他人が恐れるときには強欲たるべし」と教えてくれたにも関わらず、その評論家はどうやら次のように言いたいようです。「いついかなるときも、足並みそろえて欲深くあれ(あるいは足並みそろえて恐れをなせ)」と。

「保有資産を市場の状況に合わせて調整することで、投資成績を向上させられる」と私は痛切に感じていますし、オークツリーではそうすることができました。2005-06年には注意に注意を重ねましたし、1990-91年や2001-02年そして2008年にリーマン・ブラザーズ社が破産を申請した直後の時期には、積極果敢に行動しました。それというのも、以下の観点において論理的な判断を下しておいたからです。

・市場における振る舞い
・評価水準の度合い
・リスキーな資金の調達しやすさ
・投資家の心理や行動の状態
・強欲ならびに恐れの出現状況
・通常のマーケットサイクルでみたときの、市場が現在位置する段階

そのような取り組みと「マクロ的な予測は、オークツリーが実践する投資のカギではない」とする投資哲学上の原則とは相反するのではないかと問い質されても、「否」であると明言できます。重要なのは、それらを評価するには現状を注視することだけが必要であり、「ある将来像」を凝視する必要はない点です。

「行く末がどちらなのかわからなくとも、今どこに居るのかは是が非でも知るべき」とは、常々申し上げている言葉です。投資対象がどのように値踏みされているのか、また投資家がどのように行動しているのかを観察したところで、明日に何が起こるのか知り得るものではありません。しかしそのことは、「現在はどこにいて、それゆえに少し先までの未来を支配する勝算」について多くを語ってくれます。もっと積極的になるべきか、あるいは守備的になるべきかを読み取ることもできます。ただし「常に正確である」とは期待できませんし、当然ながら「知るや否や正しい」わけでもありません。

私と共にテレビ番組に出演していた人物が、「良い時期も悪い時期もない」と発言していました。この弁については反論の余地があります。彼が言わんとしていたことは、「現状はどの位置にあるのか判断する能力を大多数の人は欠いているので、先に述べた件は挑戦しないほうがよい」というものでした。

それが困難であるという意見には賛成です。上昇と下降から成るサイクルでは、たいていはファンダメンタル面の変化が発端となっています。また揺れ動く感情が極端な地点へと押しやります。ファンダメンタルに関する情報や感情面における影響は、だれもが同じように受けます。もしそれらに対して典型的な反応を示せば、その人のとる行動も典型的なものとなります。サイクルに従い、極端に際しては痛ましいあやまちを犯します。それとは反対にうまく対応するには、すなわち逆張りかつサイクルと逆に動くことで成功するには、第一に市場サイクルを理解することが必要です。これは、経験を積むか歴史を学ぶことを通して身に付けられます。第二に、外部からの刺激に対する感情的な反応を統制できることが必要です。これはあきらかに容易なことではありません。平均的な投資家(一例として、サイクルを極端へと駆動する人たち)がそうできれば、そこまで極端な高低には振れないはずです。しかし投資家たるもの、試みるべきです。正真正銘の逆張り派にはなれない、つまり極端に際して逆向きに行動できないのであれば(難しいのは認めますが)、それでは群衆に付き従うのを拒否してみるのはどうでしょうか。(p. 2)

Media Reaction

In working on my new book, I divided the things an investor can do to achieve above average performance into two general categories:

- selection: trying to hold more of the things that will do better and less of the things that will do worse, and

- cycle adjustment: trying to have more risk exposure when markets rise and less when they fall.

Accepting that “there is no better or worse time” simply means giving up on the latter. Whereas Buffett tells us to “be fearful when others are greedy and greedy when others are fearful” - and he’s got a pretty good track record - this commentator seems to be saying we should be equally greedy (and equally fearful) all the time.

I feel strongly that it’s possible to improve investment results by adjusting your positioning to fit the market, and Oaktree was able to do so by turning highly cautious in 2005-06 and highly aggressive in 1990-91, 2001-02 and immediately after the Lehman bankruptcy filing in 2008. This was done on the basis of reasoned judgments concerning:

- how markets have been acting,
- the level of valuations,
- the ease of executing risky financings,
- the status of investor psychology and behavior,
- the presence of greed versus fear, and
- where the markets stand in their usual cycle.

Is this effort in conflict with the tenet of Oaktree’s investment philosophy that says macro-forecasting isn’t key to our investing? My answer is an emphatic “no.” Importantly, assessing these things only requires observations regarding the present, not a single forecast.

As I say regularly, “We may not know where we’re going, but we sure as heck ought to know where we stand.” Observations regarding valuation and investor behavior can’t tell you what’ll happen tomorrow, but they say a lot about where we stand today, and thus about the odds that will govern the intermediate term. They can tell you whether to be more aggressive or more defensive; they just can’t be expected to always be correct, and certainly not correct right away.

The person who said “there is no better or worse time” was on TV with me, giving me a chance to push back. What he meant, he said, was that the vast majority of people lack the ability to discern where we stand in this regard, so they might as well not try.

I agree that it’s hard. Up-and-down cycles are usually triggered by changes in fundamentals and pushed to their extremes by swings in emotion. Everyone is exposed to the same fundamental information and emotional influences, and if you respond to them in a typical fashion, your behavior will be typical: pro-cyclical and painfully wrong at the extremes. To do better - to succeed at being contrarian and anti-cyclical - you have to (a) have an understanding of cycles, which can be gained through either experience or studying history, and (b) be able to control your emotional reaction to external stimuli. Clearly this isn’t easy, and if average investors (i.e., the people who drive cycles to extremes) could do it, the extremes wouldn’t be as high and low as they are. But investors should still try. If they can’t be explicitly contrarian - doing the opposite at the extremes (which admittedly is hard) - how about just refusing to go along with the herd?

少数厳選主義のチャーリー・マンガーは、短期的な市場の変動には目を向けずに超然とした株主でありつづけるタイプです。一方で彼の高弟ともいえるハワード・マークスは、債券や苦境にある(distressed)企業などへの投資を扱っているせいか、オーソドックスな「安く買って、高く売る」原則に従っているようです。同氏は優れた常識感覚の持ち主ですし、そのうえで今回のようなさまざまな観点から現状を診断して行動につなげることで、リターンの上積みや下落リスクの管理を図っているものと受けとめました。彼が示すように、強力な基本原則を軸として堅実な肉付けをしたり工夫を積み重ねたりすることでも、投資の世界では十分な成功をあげられるのだろうと感じました。

2017年9月16日土曜日

反脆いシステムとは(ナシーム・ニコラス・タレブ)

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『ブラック・スワン』で有名なナシーム・ニコラス・タレブが書いた新刊の邦訳『反脆弱性』を、少し前に読了しました。実は数年前に原書のペーパーバックをある方から頂いており、いつでも読む機会はあったのですが、もたもたしているうちに翻訳版が出版されてしまいました。

「反脆さ」(Antifragile。名詞形Antifragilityの訳語は反脆弱性)という言葉はタレブ自身による造語で、「脆さ」とは逆に機能する性質を示す概念です。短い文章で表現すれば、「変化に際して、以前よりも強くなる」といった意味かと思います。本書では著者が経験したり学んだりした「反脆い」事例が列挙されており、読み進めることでその概念をよりよく理解できるようになります。

著者タレブが主張する論理や哲学は完全無欠からは遠いと思いますし、例によって侮蔑的な文章もそれなりに紙面を費やしています。しかしそれらを大きく割り引いたとしても、本書に目を通して彼が築いた「反脆弱性」の概念になじむ価値は大きいと思います。たとえばリスク管理やシステム分析のツールとして有用だからです。さらに言えば、メンタル・モデルのひとつとして位置づけるにふさわしい概念だからです。

今回は同書から「反脆い」物事の一例として「反脆いシステム」に関する部分を引用してご紹介します。まずは、どのようなシステムが「反脆い」のかを説明した文章です。

工学者であり工学の歴史家でもあるヘンリー・ペトロスキーは、見事な点を衝いている。タイタニック号があのような致命的な事故を起こさなければ、私たちはどんどん大きな客船を造りつづけ、次の災害はさらなる大惨事になっていただろう。つまり、あの事故で亡くなった人々は、より大きな善のために犠牲になったのだ。間違いなく、亡くなった人数よりも多くの人命を救っている。タイタニック号のエピソードは、システム全体の利と個々の害との違いを物語っている。

同じことはフクシマの事故についても当てはまる。間違いなく言えるのは、この事故によって私たちは原子炉(や微小な確率)の問題点に気づき、もっと大きな災害を防ぐことができたということだ(ちなみに、ストレス・テストの甘さやリスク・モデルへの誤った依存は、もともと明らかだった。だが、経済危機と同じで、誰も聞く耳を持たなかったのだ)。[過去記事1, 2]

飛行機の墜落事故が起きるたびに、安全性は増し、システムは改良され、次のフライトが安全になっていく。亡くなった人たちは、残りの人々の安全全体に寄与しているのだ。スイス航空111便、トランスワールド航空800便、エールフランス航空447便の事故は、航空システムの改善につながった。だが、こういったシステムが失敗を教訓にできるのは、システムが反脆く、小さな失敗を活かすようにできているからだ。

一方で、経済の崩壊については同じことは言えない。現在の経済システムは反脆くないからだ。なぜか? 飛行機は1日に何十万便と運航されているが、ひとつの飛行機が墜落しても、ほかの飛行機を巻きこむわけではない。そのため、失敗は制限されていて、大きな教訓になる。一方、グローバル化した経済システムはひとつとして機能している。失敗は広がり、複雑化する。

重要なので繰り返すが、ここで話しているのは全体的ではなく部分的な失敗だ。深刻で致命的な失敗ではなく、小さな失敗だ。よいシステムと悪いシステムの違いはここにある。航空業界のようなよいシステムは、失敗が起こるにしても小さく、互いに独立している。失敗によって将来の失敗の確率が減るので、いわば失敗同士が負の相関関係を持っている。この考え方は、反脆い環境(航空業界)と脆い環境(縦横無尽につながりあった"フラット化する世界"的な現代の経済生活)を区別するひとつの方法だ。(p. 128)

次は、「反脆い」システムを築き上げる際に重要な特性についてです。

脆さや反脆さを見極める(または、このあとの数章でデブのトニーが実演してくれるように、嗅ぎ分ける)のは、事象の構造を予測したり理解したりするよりもずっと簡単だ。したがって、私たちがしなければならないのは、予測ミスによる損失を最小化し、利得を最大化する方法を考えることだけだ。つまり、私たちが間違いを犯しても崩壊しない(さらには崩壊を逆手に取るような)システムを築くことが大事だ。

(中略)

事象が起きたあと、私たちが反省すべきなのは、事象(たとえば津波、アラブの春や暴動、地震、戦争、金融危機など)そのものを予測できなかったことではなく、脆さや反脆さを理解していなかったことについてだ。「どうして私たちはこの種の事象にこれほど脆いシステムを作ってしまったのか?」と考えるべきなのだ。津波や経済危機を予見できないのは仕方がない。でも、津波や経済危機に対して脆いシステムを作るのは罪だ。(p. 228)

上の文章を読むだけでも、「反脆いシステムにはなんらかの冗長性が要求される」ことが読みとれます(原発で大失敗をした日本をコケにしていることも読みとれます)。ちなみに本書では、冗長さの必要性が繰り返し説かれています。

そして次の文章では、崩壊を逆手に取った一例が示されています。バークシャーの再保険事業が思い起こされます。

自分自身の失敗を歓迎する企業もある。たとえば、壊滅的なリスクに保険をかける(または保険会社が分散不可能なリスクを"再保険"するために利用する)再保険会社は、会社に大打撃を与える災害やテールの事象を経験すると、かえって業績がアップしたりする。会社が破綻を免れ、万が一の事態に備えていれば(こういう緊急時のための計画を立てられる企業はほとんどないが)、保険料を不釣り合いに吊り上げて、損を埋めあわせることができる。顧客は過剰反応し、今までより高い保険料を支払うからだ。再保険会社は再保険の公正価格(つまり適正な価格)なんてわからないと言うが、不穏な時代に保険料が高騰するということは間違いなく知っている。それだけでも、長期的な儲けを得るには十分だ。会社に必要なのは、生き残れるように失敗を小さく抑えることだけだ。(p. 130)

最後におまけです。タレブらしさがよくでている哲学的な文章です。

いちども罪を犯したことのない人間は、いちどだけ罪を犯した人間よりも信頼できない。そして、何度も間違いを犯した人間のほうが、いちども間違いを犯したことのない人間よりはまだ信頼できる。ただし、同じ間違いを2回以上犯していなければの話だが。(p. 131)

2015年10月14日水曜日

土曜も日曜も朝も夜もない(日本電産永守社長)

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今週の日経ビジネス誌(2015年10月12日号 No.1811)で最終ページに掲載されている記事は、同誌ではおなじみの日本電産永守社長が、経営者としての心構えを説いたものでした。モーレツ型の彼らしさが表れたよくある内容ですが、企業や個々人や生物が生存する上での競争優位性の本質を突いており、ある種の清々しさを感じました。その箇所を引用します。

極端に言えば、技術は未熟でもいい。最初は足りないところがあっても、顧客や市場の要望に合わせてどんどん改良していけばいい。大事なのは、人より早く、そしてどんなことがあってもやり抜くガッツだ。そのためには、土曜も日曜も朝も夜もない。人の何倍も働く心がないとだめだ。(p.98)

2015年9月20日日曜日

直観に反するように思える投資上の教え(ハワード・マークス)

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前々回にご紹介したハワード・マークスのレターから、もう少し引用します。(日本語は拙訳)

最初は、価格下落とリスクについてです。
だれもがリスキーだと感じているものの値段は、「欲しくない」と拒まれるうちに、全然危険でない金額まで低下することがよくあります。否定的な見解が行き渡り、もっともリスクのないものと変わり得るのです。価格に含まれていたあらゆる楽観が取り除かれるからです。(p.7)

When everyone believes something is risky, their unwillingness to buy usually reduces its price to the point where it’s not risky at all. Broadly negative opinion can make it the least risky thing, since all optimism has been driven out of its price.

次も価格下落についてです。
たぶんウォーレン・バフェットを真似ているのでしょうが、好調な時期になると自分の持ち株について「株価がどこそこまで下がってほしい」と話す投資家がでてきます。もっと安い水準で持ち株を増やせるからです。しかしひとたび価格が崩れて平均購入単価を下げる機会がやってきても、歓迎されないほうが多いものです。そして実際に行動に移るのはずっとむずかしいのです。

そのような下落が起きると売却を考える投資家もいるでしょう。「快適に感じられる水準まで売却することが重要だ」といった賢明そうに聞こえる理屈を付けて、感情的な行動を隠すことがよくみられます。しかし売却する際の正当な理由としてまず挙げられるのは、ファンダメンタルが毀損されたか、あるいは価格が相当上昇したか、そのどちらかだと感じたときです。安心したいからといって価格下落時に売却するのは(上昇相場でも同じ理由で購入するように)、価格と価値の関係には何も影響を与えません。(p.12)

In good times - perhaps emulating Warren Buffett – investors talk about how much they’d like to see the stocks they own decline in price, since it would allow them to add to positions at lower levels. But when prices collapse, the chance to average down is usually a lot less welcome ... and a lot harder to act on.

Investors can be tempted to sell during corrections like this one. Oftentimes emotional behavior is cloaked in intelligent-sounding rationalizations like “it’s important to sell down to your comfort level.” But the valid reasons to sell are principally because you feel fundamentals have deteriorated or because the price has risen enough. Selling to get more comfortable as prices fall (just like buying for that purpose in a rising market) has nothing to do with the relationship between price and value.

最後の引用は、ポートフォリオの構成とパフォーマンスについてです。
「うまく分散されたポートフォリオの構成銘柄すべてが良い成績をあげることは望ましい」。それはどうでしょうか。実際のところ、あるシナリオで全銘柄が好成績をあげるとすれば、別のシナリオでは全部ダメになるかもしれません。つまり、分散することの利点を享受できなくなるかもしれないのです。ですから、本当にうまく分散されたポートフォリオの中で遅れをとるものがあったとしても、驚くべきではないですし、すっかり失望する必要もありません。(p.9)

It’s desirable that everything in a well-diversified portfolio performs well - The truth is, if all the holdings were to perform well in one scenario, they could all perform poorly in another. That means the benefits of diversification wouldn’t be enjoyed. It shouldn’t be surprising - or totally disappointing - to have some laggards in a portfolio that’s truly well-diversified.

2015年7月14日火曜日

ウォーレン・バフェットの私信から学んだこと(レオン・クーパーマン)

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レオン・クーパーマン氏というヘッジ・ファンドのマネージャーが、ウォーレン・バフェットに関する話題を打ち明けた記事が、以下のWebサイトに掲載されています。講演用の原稿をレビューしてもらおうとウォーレンに依頼したところ、彼からもらった返信に教えられたとのことです。今回はウォーレンの返事の部分などを引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

Warren Buffett revealed this 'great philosophy of life' in a letter to a hedge fund manager (Business Insider)


[リー・クーパーマン氏はバリュー投資家向け講演でとりあげる事例として、ロウズ社(Loews)による自社株買いとテレダイン社のヘンリー・シングルトンを取りあげたいと考えた。以下は、それに対するウォーレンの所感]

2007年11月23日

リー殿へ、

前略

この2件よりも適した題材は挙げられないと思います。[テラダイン社の]ヘンリー[・シングルトン](参考記事)は、投資家やCEO、将来のCEOやMBAの学生のだれもが学ぶべき経営者です。最終的に彼の判断は100%合理的でした。わたしからそのように表現できるCEOは、ほんのわずかな人だけです。

自社株買いはわたしにとって大いに興味をひく状況です。答えが単純だからです。自社株買いをする時期とは、1ドルを買うために明らかに大幅な安い金額を支払うときで、なおかつ買っていいのはそのときだけです。

あくまでも全般的な見方ですが、30年前に自社株買いをしていたほとんどの企業は正しい理由でそうしていました。しかし、現在はまちがった理由でそうする企業ばかりだと言えます。時が移るなかで、流行に乗りたがったり無意識のうちに株価を支えたいと考える経営者をみてきました。いつでも正しい理由に基づいて自社株を買い戻してきた企業の例として、ロウズ社はとてもふさわしいと思います。それとは反対の例をいろいろあげることもできますが、わたしは次の格言にしたがうことにしています。「称賛するときには名指しで、批判するときには領域全体を指し示すこと」。

草々

ウォーレン

「わたしはその手紙を息子2人に見せることにしました」、クーパーマンはリゾルツにそう言った。「これはすばらしい人生訓だと思います。ウォーレンが公の場で特定の人物を批判したのをみたことがないでしょう。彼が投資銀行家という表現で批判したことはあるかもしれません。ヘッジファンド全体を批判したかもしれません。しかし特定のだれかを追い回したりはしません。良き人生哲学だと個人的には考えています」

November 23, 2007

Dear Lee,

I don't think you could have picked two better subjects. Henry is a manager that all investors, CEOs, would-be CEOs, and MBA students should study. In the end, it was 100% rational and there are very few CEOs about whom I can make that statement.

The stock-repurchase situation is fascinating to me. That's because the answer is so simple. You do it when you are buying dollar bills at clear cut and significant discount and only then.

As a general observation I would say that most companies that repurchased shares 30 years ago were doing it for the right reasons, and most companies doing it now are wrong when doing so. Time after time, I see managers who are attempting to be fashionable or subconsciously hoping to support their stock. Loews is a great example of a company that's always repurchased shares for the right reasons. I could give examples of the reverse, but I follow the dictum praise by name, criticize by category.

Best regards

Warren

"And I showed that letter to my two sons," Cooperman told Ritholtz. "And it's a great philosophy of life. You never see Warren criticize any one individual in public. But he might criticize investment bankers. He might criticize hedge funds. But he doesn't go after anyone. And that's a good philosophy of life, in my opinion."

*

お亡くなりになったことが昨日発表された任天堂の岩田社長も、個人的に尊敬していた人物です。持ち株は少ないながら、任天堂のことは情報収集を続けてきました。多くの人から愛される経営者として、岩田さんはウォーレン以上だったかもしれません。人がだれかの言動に共感を寄せたり、見習いたいと心のうちで感じるのは、テレビや新聞、ネット記事や新刊本といったマスメディアにではなく、誠実さや真剣さがにじむ人物の小さな行動の積み重ねにあると思います。岩田さんが示した人生訓は、静かに力強く受け継がれていくと思います。

2015年4月10日金曜日

強気相場で備えること、弱気相場で腹を決めること(セス・クラーマン)

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ヘッジファンドのマネージャーであるセス・クラーマンが書いた2014年度の顧客投資家向けレターが、以下のサイトで一部引用されています。その中から印象に残った2段落を拙訳付きでご紹介します。

Baupost Group 2014 Letter: Market Psychology (ValueWalk)

はじめは、強気相場でやっておくべきことについて。
経験豊富な投資家であっても、弱気相場では苦しむものです。だからこそ何よりも重要なのが、強気相場にいるうちに来たる弱気相場に備えようと、人としてできるあらゆることを実行しておくことです。プロセスや手順を改善し、チームを鍛え上げ、自分たちの路線を守り、ポートフォリオに借入れを組み込まず、売却時の原則を守り続ける。(中略)そして将来やってくる機会を逃さぬように、現金を保有しておくことです。

Even experienced investors struggle in bear markets. That's why it is of paramount importance to do everything humanly possible in a bull market to prepare for the next bear market: Improve processes and procedures. Train up your team. Stick to your knitting. Avoid portfolio leverage. Maintain sell discipline…Hold some cash in reserve to take advantage of future opportunity…

もうひとつは、弱気相場でやるべきことについて。
肝心なのは、弱気相場と言ってもしょせんは市場のひとつだと覚えておくことです。市場という場所は需要と供給によって、また強欲と恐怖によって左右されます。ベンジャミン・グレアムが記したように、そこで形成されるものは投票機であって秤量機ではありません。市場を占めつくすのは感情に支配された人たちです。強気相場が永遠には続かないように、そして弱気相場も同じように、(中略)弱気相場であらわれる安値の機会に乗じるには、下げている最中に買わねばなりません。おそらくは、下げているあいだずっとです。どん底を完ぺきにとらえる術はありませんし、資金の相当な部分を投じる方法として他には考えられません。

it's crucial to remember that a bear market is still a market. Markets are driven by supply and demand, and greed and fear. They constitute, as Benjamin Graham noted, a voting machine, not a weighing machine. Emotion-driven individuals dominate markets, and just as no bull market goes on forever, neither does any bear market…To take advantage of the low prices in a bear market, you have to have been buying on the way down, perhaps all the way down. There is no way to perfectly time the bottom, and no other way to put substantial capital to work.

2015年2月8日日曜日

ウォーレン・バフェットから学んだこと(セス・クラーマン)

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ヘッジファンドのマネージャーであるセス・クラーマンの記事が英経済紙Financial TimesのWebサイトに掲載されていたので、ご紹介します。題名に示したとおり、クラーマン氏がウォーレンから学んだ教えを12項目あげています。特に新しいものはありませんが、二重のフィルターを通過したという点が重要だと思います。(日本語は拙訳)

なお同じ記事がCNBCにも転載されていたので、そちらのリンクを挙げておきます。(こちらは随時無料ですが、FTのサイトは制限付きです)

Seth Klarman: What I've learned from Warren Buffett (CNBC)

1. バリュー投資のやりかたが通用すること。割安なものを買えばよい。

2. 事業や人の資質にこだわること。すぐれた資質の事業であれば、成長して累積的にキャッシュフローをうみだす可能性が高い。質の低い事業は浸食されがちなので、すぐれた経営者、つまり特定したり呼び寄せたり残留させるのが難しい人物がいても、会社を救うには至らないかもしれない。パートナーとしてみつけるべき経営者は有能であることが欠かせず、また彼らの狙いが自分のものと連携できる人物であること。

3. 手広く分散させる必要はないこと。「生涯で使えるパンチカードは1枚かぎり。1件投資すれば穴を1つ開け、その回数は20回まで」のように投資すること。ひろく機会を求めること。それは世界のどこかでみつかるかもしれない。予想外の産業や構成の中にあるかもしれない。

4. 一貫して振る舞うこと、そして辛抱できること。これらは決定的な要素である。ほとんどの投資家にとっての最悪の敵とは、自分自身である。辛抱しつづければ、累積的な効果が得られる。

5. リスクとは、価格変動(ボラティリティー)と同じことではない。リスクとは、払い過ぎたり、企業の将来性を過大評価した時に生じるものである。価格は価値よりも大きく変動するため、価格が変動することで機会が生じ得る。価格下落から身を守るためには、ある程度の価格上昇は犠牲にすること。

6. かつてない出来事は周期的に起こるものだから、それに備えておくこと。

7. 投資で失敗しても、それを糧にできる。

8. 機会がないときに現金のままでいるのは、理にかなっている。

9. 形式ではなく中身を重視すること。投資対象が公開企業か非公開企業かは問題ではない。同じように、保有するのが一部なのか全部なのかは問題ではない。債券、優先株、あるいは普通株、投資先がどれでもかまわない。

10. すなおに振舞えること。あやまちをみとめて、きっぱりと行動に移すこと。そして、あやまちから教訓を得ること。上手な文章を書くことは思考を明瞭にしてくれる。それは自分だけでなく、僚友たる株主にとっても同じである。

11. (運用者や投資家が)短期的な成績を求める圧力に縛られないために、見解を同じくする株主をみつけて維持するように努めること。

12. 道は好む所によって安し。[好きなことを仕事にすれば、苦役と感じることはない]

1. Value investing works. Buy bargains.

2. Quality matters, in businesses and in people. Better quality businesses are more likely to grow and compound cash flow; low quality businesses often erode and even superior managers, who are difficult to identify, attract, and retain, may not be enough to save them. Always partner with highly capable managers whose interests are aligned with yours.

3. There is no need to overly diversify. Invest like you have a single, lifetime "punch card" with only 20 punches, so make each one count. Look broadly for opportunity, which can be found globally and in unexpected industries and structures.

4. Consistency and patience are crucial. Most investors are their own worst enemies. Endurance enables compounding.

5. Risk is not the same as volatility; risk results from overpaying or overestimating a company's prospects. Prices fluctuate more than value; price volatility can drive opportunity. Sacrifice some upside as necessary to protect on the downside.

6. Unprecedented events occur with some regularity, so be prepared.

7. You can make some investment mistakes and still thrive.

8. Holding cash in the absence of opportunity makes sense.

9. Favour substance over form. It doesn't matter if an investment is public or private, fractional or full ownership, or in debt, preferred shares, or common equity.

10. Candour is essential. It's important to acknowledge mistakes, act decisively, and learn from them. Good writing clarifies your own thinking and that of your fellow shareholders.

11. To the extent possible, find and retain like-minded shareholders (and for investment managers, investors) to liberate yourself from short-term performance pressures.

12. Do what you love, and you'll never work a day in your life.

2014年4月16日水曜日

投資が簡単だと思っている人間は愚か者だな(ハワード・マークス)

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Oaktreeの会長ハワード・マークスが新しいメモを公開しています。このところ出番が多いようですが、今回の内容は力が入っています。部分的に引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

Dare to Be Great II (Oaktree Capital Management) [PDF]

あるいはチャーリー・マンガーが私にこう言ったように、「投資が簡単だとは思えないね。簡単だと思っている人間は愚か者だな」。これは言いかえれば、投資で簡単に成功できると考えている人は投資の複雑さや競争的な性質を考慮しておらず、単純化しすぎて上っ面しか見ていないということになります。(p.6)

Or as Charlie Munger told me, "It's not supposed to be easy. Anyone who finds it easy is stupid." In other words, anyone who thinks it can be easy to succeed at investing is being simplistic and superficial, and ignoring investing's complex and competitive nature.

その答えは明白ではないかもしれませんが、必須なことではあります。つまり、他のほとんどの投資家が保有しているポートフォリオとは異なった構成をとらなければならない点です。他人のポートフォリオと同じようであれば、うまくいくかもしれませんし、反対にダメかもしれません。ただし、他人と違う結果を出すことはできません。もし人より優れたいのであれば、人と違っていることが絶対に必要です。最上位の成績をめざすには群衆から離れることが不可欠です。そうするには様々な方法があります。一般的でないニッチな市場で活動するやりかた、他人が見いだせなかったり、好まなかったり、危険なので手を出さないものを買うやりかた、これは見逃せないと群衆が考える人気者から遠ざかるやりかた、逆張りのタイミングで市場に参入するやりかた、とびぬけた成績をあげると予想する少数の銘柄に集中投資するやりかた、などがあります。 (p.2)

The answer may not be obvious, but it's imperative: you have to assemble a portfolio that's different from those held by most other investors. If your portfolio looks like everyone else's, you may do well, or you may do poorly, but you can't do different. And being different is absolutely essential if you want a chance at being superior. In order to get into the top of the performance distribution, you have to escape from the crowd. There are many ways to try. They include being active in unusual market niches; buying things others haven't found, don't like or consider too risky to touch; avoiding market darlings that the crowd thinks can't lose; engaging in contrarian cycle timing; and concentrating heavily in a small number of things you think will deliver exceptional performance.

すばらしい投資のほとんどは、初めは不快な思いがするものです。根本となる前提が広く受け入れられていて、直近の成績が好調で、見通しが明るい。そういった投資先であれば、だれでも心地よく感じます。しかしそのようなものに割安な値段はついていません。反対に値段が割安なものと言えば、論争の的となったり、悲観的にみられたり、最近は成績がふるわなかったりするものが普通です。

しかし、不快さを招く行動を起こすのは容易なことではありません。オークツリーで成功した数々の投資の源が債務不履行(か間際の)債券だったことは偶然ではないのです。だれからも敬われる破たん間近の企業などあり得ないからです。1988年に私とブルース・カーシュは初めてファンドを設立しました。死の寸前にあると思われる企業の発行した債券へ投資するためのものです。この考えは資金を募るのがまさに難しいもので、私たちの分析ややりかたがリスクを減ずることを、顧客だけでなく私たち自身も確信することが要求される投資でした。しかしその同じ不快さによって、本来の価値よりも低い価格が債務不履行証券に付けられます。それゆえに、一貫して高いリターンが得られるわけです。(p.3)

Most great investments begin in discomfort. The things most people feel good about - investments where the underlying premise is widely accepted, the recent performance has been positive and the outlook is rosy - are unlikely to be available at bargain prices. Rather, bargains are usually found among things that are controversial, that people are pessimistic about, and that have been performing badly of late.

But it isn't easy to do things that entail discomfort. It's no coincidence that distressed debt has been the source of many successful investments for Oaktree; there's no such thing as a distressed company that everyone reveres. In 1988, when Bruce Karsh and I organized our first fund to invest in the debt of companies seemingly at death's door, the very idea made it hard to raise money, and investing required conviction - on the clients' part and our own - that our analysis and approach would mitigate the risk. The same discomfort, however, is what caused distressed debt to be priced cheaper than it should have been, and thus the returns to be consistently high.

経済学者のジョン・メイナード・ケインズは、1936年に著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』で次のように書いています。「世知が示すところによれば、評判という面では型破りなやりかたで成功するよりも、伝統的なやりかたで失敗するほうが望ましい」。勝ちによる利益が負けによる損失を上回るのであれば、金銭面で成功を量る人にとってはリスクを冒すことで報われることがあります。しかし評判や雇用継続を考慮に入れるとなれば、負けること自体が問題となるかもしれません。というのも、挙げた勝ち星では負け星の影響を上回れないおそれがあるからです。その場合の勝利とは、伝統的でないやりかたをして失敗する事態を避ける、という観点で完全に決まるのかもしれません。(p.7)

In 1936, the economist John Maynard Keynes wrote in The General Theory of Employment, Interest and Money, "Worldly wisdom teaches that it is better for reputation to fail conventionally than to succeed unconventionally" [italics added]. For people who measure success in terms of dollars and cents, risk taking can pay off when gains on winners are netted out against losses on losers. But if reputation or job retention is what counts, losers may be all that matter, since winners may be incapable of outweighing them. In that case, success may hinge entirely on the avoidance of unconventional behavior that's unsuccessful.

アラン・グリーンスパンは1996年12月に「根拠なき熱狂」との警告を出したものの、株式市場はその後3年以上も上昇を続けました。その当時、知り合いの聡明なマネージャーが弱気へと転換しましたが、それが正しいとわかったのはようやく2000年になってからでした。その間、彼に投資していた投資家は大量の資本を引きあげていきました。彼は「まちがって」はいませんでした。早すぎただけです。だからと言って、彼がこうむった痛みを和らげるものではありません。(p.9)

Alan Greenspan warned of "irrational exuberance" in December 1996, but the stock market continued upward for more than three years. A brilliant manager I know who turned bearish around the same time had to wait until 2000 to be proved correct . . . during which time his investors withdrew much of their capital. He wasn't "wrong," just early. But that didn't make his experience any less painful.

「投資は簡単なものではない」とするチャーリー・マンガーの見解は当たっています。投資で重要なことはすべて直観に反しており、明白なことはすべて誤っている、と私は確信しています。直観にさからった特異な持ち分を保有するのは、だれにとってもひどく難しいことです。初めの頃に間違っているとみなされるのであれば、なおさらです。そして二重に難しくするのが、「慣例的な見方による検討」が加えられることです[本メモの主な読者は機関投資家]。

優れた成績をあげようと望む投資家は、この現実を受け入れなければなりません。投資によって優れた成績をあげる唯一の道は、伝統的ではない行動をとることにあります。しかし、だれでもそうできるわけではないでしょう。卓越した能力が必要ですし、間違っているとみなされる時期をうけとめ、何度かの失敗を乗り越える力がなければ投資で成功することはできません。そのため、各人はみずからを診断する必要があります。ほぼ必ずやそうなりますが、賭け金を投じたものの最初の頃には間違っているとみえる際に、さきに挙げた姿勢をつらぬく力を性格的に備えているか。そして雇用者や顧客や他人の意見から影響を受けるという点で、置かれている環境がそれを許すのか。この問いに対してだれもが同意できるわけではありません。しかしそれができると信じている人は、大いなる機会をつかむべきだと思います。(p.9)

Charlie Munger was right about it not being easy. I'm convinced that everything that's important in investing is counterintuitive, and everything that's obvious is wrong. Staying with counterintuitive, idiosyncratic positions can be extremely difficult for anyone, especially if they look wrong at first. So-called "institutional considerations" can make it doubly hard.

Investors who aspire to superior performance have to live with this reality. Unconventional behavior is the only road to superior investment results, but it isn't for everyone. In addition to superior skill, successful investing requires the ability to look wrong for a while and survive some mistakes. Thus each person has to assess whether he's temperamentally equipped to do these things and whether his circumstances - in terms of employers, clients and the impact of other people's opinions - will allow it . . . when the chips are down and the early going makes him look wrong, as it invariably will. Not everyone can answer these questions in the affirmative. It's those who believe they can that should take a chance on being great.

2014年3月24日月曜日

ウォートン・スクールによるインタビュー記事(ハワード・マークス)

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オークツリーの会長ハワード・マークスが、母校ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのインタビューを受けていました。最近は出ずっぱりのようで、ほかで読んだことのある話題もでています。一部を引用してご紹介します。(日本語は拙訳)

Investor Howard Marks on Luck, Risks and the Job that Got Away (Wharton, University of Pennsylvania)

はじめの話題は、個人投資家がそのまま適用するのはむずかしいやりかたです。ただし、価値を評価する際の姿勢としては参考になります。

仕事をする中で彼がいくらか学んだことは、[昔の勤め先である]シティバンクが[1970年前後に]「ニフティー・フィフティー」を重視する政策をとったことで、「アメリカで最高の諸企業に投資して多額の損失を出したこと」だった。その後同社は「アメリカで最悪の諸企業に投資し、多額の利益をあげた」。マークスはさらに付け加えた。「何を買ったかではなく、いくら払ったのか。投資で成功するこの理由がわかるまでに、いつまでも時間をかけてはいられません」。質の高い資産は割高となりやすいため、まずい投資となりうる、とマークスは指摘する。逆に質の悪い資産は安値で買えるため、良い投資となりうるのだ。オークツリーが今日手がけるもので、債務不履行(か寸前の)債券(Distressed debt)は最大の割合を占めている。「当社はその領域で一貫して大きな成功をおさめてきた」とマークスは言う。

「過去25年間にわたって当社は年率23%のリターンをあげてきました。また案件のうちの95%が黒字となりました」と彼は説明した。またオークツリーはその間におよそ50の基金から資金を預かったが、損失を出したものは1件もなかった、と彼は加えた。「こう表現してよいのであれば、10社に投資して1社がグーグルとなれば成功とみなされるベンチャー・キャピタルのような博打(ばくち)ではありませんでした」。

What his career experience so far had told him was that with its Nifty 50 policy, Citibank had invested in "the best companies in America and lost a lot of money." Then it invested in "the worst companies in America and made a lot of money," Marks noted, adding that "it shouldn't take you too long to figure out that success in investing is not a function of what you buy. It's a function of what you pay." An asset of high quality, Marks pointed out, can be overpriced and be a bad investment; an asset of low quality can be bought cheaply and be a good investment. Distressed debt is the lion's share of what Oaktree handles today, and Marks said the company has been enormously successful - consistently so - in that area.

"Our return over the past 25 years has been 23% a year. And 95% of our outcomes are positive," he noted, adding that Oaktree has raised about 50 funds over the same period and never had one that lost money. "It's not a crapshoot like - if you'll pardon the expression - venture capital, where you invest in 10 companies but if one of them turns out to be Google, you're a success."


投資で成功するための別のたとえ話として、マークスはカリフォルニアに住んで長いことを好んで取りあげる。地震が頻発する地域に家を持つことを投資ポートフォリオと比較するのだ。「構造的な欠陥があるかもしれない家に30年間住んで倒れなかったとします。だからといって、それが無欠陥を証明するわけではありません。試練にさらされなかっただけのことです」。ポートフォリオに対して次のように問いかけることが重要だ、とマークスは言う。市場が上昇した時に儲かるかではなく、下落した時に傷を負わずにいられるか、と。「あなたが託した投資のプロは、値上がりする可能性を持ちながらも併せてリスクを管理できるほどに、慎重で先見性があって多様にふるまえる人でしたか」。

Another metaphor for successful investing which Marks is fond of citing is based on his many years in California. He compared an investment portfolio to a house located in an earthquake zone. "The house might have a structural flaw. And you might live in that house for 30 years and it doesn't fall down. But that doesn't prove it doesn't have a flaw - it only means it wasn't tested." Marks said that the important question about a portfolio is not if it made money when the market went up, but if it would have stayed intact if the market went down: "Has the investment professional been prudent, farsighted and versatile enough to include risk controls at the same time as upside potential?"

2014年3月20日木曜日

チャーリー・マンガーの真髄

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本ブログでは頻繁にチャーリー・マンガーの講演をとりあげています。ただし、彼がウォーレン・バフェットのパートナーであることは知っていたとしても、彼の話には興味がない方がいらっしゃるかもしれません。政府の要人だった人物を問いただしたり、著名な経済学者を非難するほど大層な人なのだろうかと感じるかもしれません。あるいは心理学がどうしたとか、順列がどうしたとか、グラフがどうしたとか、具体的にどう役に立つのか頭をひねるかもしれません。そこで今回は彼がみせてくれた一太刀を、少しわかりやすい形でご紹介します。経済紙Wall Street Journalのエッセイ記事からの引用です。

ただし原文記事は有料のようなので、以下のリンク先にはGoogleのキャッシュを指定しています。執筆者はときどきご紹介するジェイソン・ツヴァイク氏です。

Charlie Munger: Lessons From an Investing Giant (Wall Street Journal)

多くの資産運用マネージャーは、会議に出席したり、電子メールを飛ばし読みしたり、金融テレビ番組で株価表示がチカチカするのを凝視するといった毎日を過ごしている。そのくせ彼らは、市場に打ち勝とうとする気持ちでいっぱいだ。反対にマンガー氏やバフェット氏は「静かな部屋に座って読み物をし、ものごとを考え、電話で会話する」とシェーン・パリッシュは言う。彼は意思決定に関する興味ぶかいブログ「Farnam Street」を書いている資産運用マネージャーである。

「気が散るものには注意を向けず、決断する回数を減らすように日常の生活を確立することで」と彼はつけ加える。マンガー及びバフェットの両氏は「よりよい決断をくだせる確率を高めています」

Many money managers spend their days in meetings, riffling through emails, staring at stock-quote machines with financial television flickering in the background, while they obsess about beating the market. Mr. Munger and Mr. Buffett, on the other hand, "sit in a quiet room and read and think and talk to people on the phone," says Shane Parrish, a money manager who edits Farnam Street, a compelling blog about decision making.

"By organizing their lives to tune out distractions and make fewer decisions," he adds, Mr. Munger and Mr. Buffett "have tilted their odds toward making better decisions."

2009年の第1四半期には、金融危機が始まってからもっとも絶望的な毎日がつづいていた。マンガー氏はその最中にみずからが会長を務める小さな出版社デイリー・ジャーナルの有する現金の71%を投じて、多くの投資家が逃げ出していた銀行株を購入した。2009年の3月末には、彼の賭け分はすでに60%の利益を出していた。のちに購入したものを含めると、マンガー氏は4,970万ドルを株式や債券に投資した。デイリー・ジャーナル社が8月20日に提出した会計報告によれば。その価値は現時点で1億2,840万ドルとなっている。

In the first quarter of 2009, during the most desperate days of the financial crisis, Mr. Munger took 71% of the cash at Daily Journal, a small publishing company he chairs, and poured it into the bank stocks that so many other investors were fleeing. By March 31, 2009, his bet already had gained 60%. With other purchases he made later, Mr. Munger invested $49.7 million into stocks and bonds that today are worth $128.4 million, according to financial statements Daily Journal filed on Aug. 20.

文章だけではうまく伝わってこないと思います。そこで以下の2つのチャートをごらんください。1つめはS&P500指数のチャートで、2つめはチャーリーが実行したデイリー・ジャーナル社(DJCO)の資産配分です。

[S&P500指数のチャート]

[デイリー・ジャーナル社の資産推移(四半期毎)]

デイリー・ジャーナル社の資産の具体的な金額は、同社の10-K及び10-Qを参照しました。また同社の話題は過去記事でも何度か取りあげています(過去記事1過去記事2)。

2014年3月16日日曜日

いつか来た道(セス・クラーマン)

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ヘッジファンドBaupostのボスであるセス・クラーマンが、ファンドの投資家向けに昨年度のレターを出していました。彼の文章がおもてに出てくることは少ないのですが、今回は以下のサイトで一部が引用されていました。そのうちのさらに一部(文章全体の末尾の箇所)をご紹介します。(日本語は拙訳)

Seth Klarman 2013 Letter To Investors: The Truman Show (Outlier Allocators)

「やがて、いつの日か」

いつの日か金融市場は再び下降するでしょう。いつの日か株式や債券市場が上昇することは政府の政策ではなくなるでしょう。今日や明日でないにしても、たぶんいつかやってきます。いつの日かQE(量的緩和政策)は終わりを告げ、現金が無料ではなくなるでしょう。いつの日か企業破たんが認められるようになり、いつの日か経済は再び縮小するでしょう。投資家はいつかどこかで何らかの形で資金を失い、投機よりも資産を保全することがふたたび好まれるようになるでしょう。いつの日か金利は上昇し、債券価格は下落するでしょう。そして固定金利の金融商品を保有することで期待されるリターンは、ほぼリスクに見合ったものへと立ち返るでしょう。

いつの日かプロの投資家が仕事に出てきたときに恐怖が市場を襲い、野火のように広がっていくでしょう。悪いニュースが流れ込み、市場は厳しく下落するでしょう。

「いつか来た道」

市場が反転すれば、投資家が見聞きしていたあらゆる物事は上下が逆転し、表裏が反転するでしょう。「下落は買いどき」は「何をねぼけていたのだ」に置き換わり、もうこれ以上悪くならないと投資家が確信するときに、まさにそこから悪くなっていくでしょう。あのころならいつでもリスクを回避できたのにとか、投資で儲けたことによるどんな喜びよりも損失を出す痛みのほうがずっと不愉快なことを、苦々しくも思い返すでしょう。買うほうが売るよりも易しかったとか、弱気相場ではゴキブリホイホイへと変わる投資があまりにも多いこと、つまり「入口はあっても出口はない」ことを知らしめてくれるでしょう。いつもは相関しないはずの投資が、一時的ながらも著しく連動するようになるでしょう。弱気相場になると投資家は常に試されるようになり、その上でさらに試されます。貧弱なポジションをとっていて準備のできていない者はだれでも、下落の道は長くつづくと感じるでしょう。無傷で切り抜けられる者はほとんどおらず、いたとしてもわずかにとどまるでしょう。

6年前には身のほどを知らない投資家がたくさんいました。賢さを鼻にかけたものの試練にさらされていなかった仕組商品が焦げ付き崩壊したことで、巨大金融機関はひざを屈することとなりました。金融機関や機関投資家は危機的な損失に苦しみました。そして生き残った者は、これからはもっと慎重にやって、おごることなく、短期的に考えないようにとみずからに誓いを立てました。

しかしここにふたたび熱狂的な環境へと足を踏み入れたことで、あらゆる理屈を超えて価格が上昇する証券が出てきました。借り入れの姿が戻ってきた市場や資産クラスが増えて、注意を払うことは一般的でないとみられる一方で、リスクをとるほうがより慎重な道のりとみなされるようになりました。2008年に学んだ教訓が一時的でしかなかったのも当然です。傲慢と恐れ、そして天井とどん底は避けがたく繰り返していきます。この上昇が終わるのはいつなのか、それはわかりません。しかしいつかは終わります。そして終わりがくれば流れが逆転することはたしかです。その心構えができている人はわずかでしょうし、実際に用意ができている人もわずかでしょう。

"Someday…"

Someday, financial markets will again decline. Someday, rising stock and bond markets will no longer be government policy - maybe not today or tomorrow, but someday. Someday, QE will end and money won't be free. Someday, corporate failure will be permitted. Someday, the economy will turn down again, and someday, somewhere, somehow, investors will lose money and once again come to favor capital preservation over speculation. Someday, interest rates will be higher, bond prices lower, and the prospective return from owning fixed-income instruments will again be roughly commensurate with the risk.

Someday, professional investors will come to work and fear will have come to the markets and that fear will spread like wildfire. The news flow will be bad, and the markets will be tumbling.

"Here We Are Again"

When the markets reverse, everything investors thought they knew will be turned upside down and inside out. "Buy the dips" will be replaced with "what was I thinking?" Just when investors become convinced that it can't get any worse, it will. They will be painfully reminded of why it's always a good time to be risk-averse, and that the pain of investment loss is considerably more unpleasant than the pleasure from any gain. They will be reminded that it's easier to buy than to sell, and that in bear markets, all too many investments turn into roach motels: "You can get in but you can't get out." Correlations of otherwise uncorrelated investments will temporarily be extremely high. Investors in bear markets are always tested and retested. Anyone who is poorly positioned and ill-prepared will find there's a long way to fall. Few, if any, will escape unscathed.

Six years ago, many investors were way out over their skis. Giant financial institutions were brought to their knees when untested structured products that were too-clever-by-half turned toxic and collapsed. Financial institutions and institutional investors suffered grievous losses. The survivors pledged to themselves that they would forever be more careful, less greedy, less short-term oriented.

But here we are again, mired in a euphoric environment in which some securities have risen in price beyond all reason, where leverage is returning to many markets and asset classes, and where caution seems radical and risk-taking the more prudent course. Not surprisingly, lessons learned in 2008 were only learned temporarily. These are the inevitable cycles of greed and fear, of peaks and troughs. Can we say when it will end? No. Can we say that it will end? Yes. And when it ends and the trend reverses, here is what we can say for sure. Few will be ready. Few will be prepared.


蛇足その1です。おとといの3/14(金)に市場全体が下落しました(TOPIXで-3.22%)。その際に、新規の銘柄へ若干ながら投資しました。常々考えている買値の基準とくらべて2割は高かったのですが、自分自身に対する言い訳はともかく、セス・クラーマンの言うとおり「買いは易し」だと実感しました。

蛇足その2です。セス・クラーマンの書く原文には印象に残るリズムがよく登場します。彼に限らず、著名なマネージャーの書く文章には工夫が凝らされており、顧客をうまく惹きつけていると思います。セス・クラーマンの文章では簡潔で清潔感のあるレトリックが使われており、わたしがよく読む書き手の中ではもっとも詩的な匂いが感じられる文章です。

蛇足その3です。今回の原文記事では映画"The Truman Show"の話題が登場しています。1998年に公開された同作品は、わたしも劇場で鑑賞しました。映画『マスク』が公開されたときにジム・キャリーのファンになってから、彼がシリアスな作品に登場するのを待っていたときの一本でした。その年観た封切作品の中で3本指に入るお気に入りでした。いい作品です。

2014年3月10日月曜日

ナダルに思い知らされるわけではない(ハワード・マークス)

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前回の投稿につづいて、ハワード・マークスのインタビュー記事からもう一か所引用します。(日本語は拙訳)

<質問者> そのことから本質的な哲学的疑問が浮かび上がります。投資において運はどのような役割を果たすのでしょうか。

<マークス> 運というのはきわめて重要なものです。能力や勤勉さ、根気はどれも非常に大切です。しかし幸運も欠かせないものです。優れた分析や決断をすることで成功する確率を限界まで高めることはできます。しかしそれらがいつでも働くとは限りません。この世界は平穏な場所ではないので、偶然が重要な役割を果たします。私が大学で最初に学んだことは、投資において生じた結果からは判断の良否を見分けることはできないというものでした。偶然や運が関わるためです。

<質問者> だれが本当にすぐれた投資家でだれがそうでないのか、どうすれば言えるのでしょうか。

<マークス> 私がよく好んで指摘することですが、歯を治療したり、病気の診断をしたり、法務上の各種手続きをしたりということは自分自身ではやりませんね。だからこそ、投資の世界においても他の分野と同じように腕のいいプロを雇うべきなのです。それは容易なことではないからです。いや、訂正しましょう、平均でよいなら簡単です。インデックス・ファンドに投資したり、平均的な投資信託を一式そろえれば平均点はとれます。しかし私にとって投資で成功するとは、平均点ではなくて平均以上の成績をあげることです。これも、先のことがむずかしい理由の一部となっています。私は「第二段階」と呼んでいますが、投資とは「二重に考える」ことが要求される心理的な行動です。他人の考えをしのぐことが必要であり、さらにほとんどのことが直観に反するからです。このことは、橋梁を建設したりテニスをするといった実体を伴う活動には当てはまりません。心理的・感情的な複雑さの点でそこまでの水準を必要としないからです。

<質問者> しかしその話題ですが、ウィンブルドンのようなグランドスラムのテニス・トーナメントで勝つには平均では足りないと思いますがどうですか。

<マークス> テニスが投資と違う点は、まず第一に幸運をそれほど必要としないことです。ロジャー・フェデラーのようなプロの選手は肩やひじ、臀部や脚部をどう動かせばどのようにボールが進んでいくかを精確に把握しています。しかし投資の世界では違います。結果を完璧に予想することはできませんし、結果の信頼性も高くありません。もうひとつ違う点は、フェデラーがゲーム中にウィナーを狙っていることです。ウィナーにならずに容易に返球されるようであれば、ナダルに思い知らされるからです。しかしあなたと私で勝負する場合、私がウィナーをとろうとがんばる必要はありません。ミスをしないやりかたでも勝てるからです。ボールが継続するようゲームをつづけるだけです。20回もつづけるうちにあなたのほうがボールをネットにかけるかコートの外に打つだろうとわかっているので、私としては毎回きちんと打ち返します。ですから私はウィナーを狙う必要はなく、ミスしないように努めればよいだけです。このことは、我々がオークツリー[ハワードが会長を務める資産運用会社]でモットーとするものでもあります。適格な投資を多数実行し、そのどれもが火を噴かない。これが我々の望むことです。つまり敗者を出さないようにすれば、あとは勝者がうまくやってくれます。

<質問者> それはご自身が投資するポートフォリオでも同じですか。

<マークス> 私が投資する際には保守的にやっています。オークツリーが成功することで私が得られる同社の持ち分や収入、またオークツリー・ファンドに対する投資は相当大きなものです。ですから、自分の投資のリスク度合いを引き上げる必要性はまったく感じていません。最大の利益を得ようと有り金すべてを投資して一時たりとも寝かさない、と感じる類いの人間ではありません。流動性を確保し、信頼に足るポートフォリオを持つことで大いなる安心を得ています。金融危機が起こる前は、私は自己資金のほぼ全額を財務省証券に投じ、オークツリーには投資していませんでした。それによって完全に安全なリターンとして約6%が確保されていました。今日では、1年から5年満期の財務省証券に投資したければ1%のリターンしか得られません。税金とインフレを考慮すると損失が出るため、そのリターンでは不十分です。ですから、アクティブに運用する分を増加させたというのが私の答えです。しかし最大限に積極的とまでは至っていません。世界中のみなさんと同じように、やむを得ずリスク・カーブを移動させました。ただし私の場合は注意深くですが。

That leads us to an essential philosophical question. What's the role of luck in investing?
Luck is extremely important. Skill, hard work and perseverance are all very important. But you need luck, too. Sure, you can maximize your chances of success by doing good analysis and making good decisions. But that doesn't mean they're going to work all the time, since the world is not an orderly place and randomness plays an important part. One of the first things I learned at university is that you can't tell from the outcome whether a decision was a good investment decision or a bad investment decision because of the role of random and luck.

So how can we even tell who's really a good investor and who's not?
I always like to point out that nobody does their own dental work, or their medical work, or their own legal work. Therefore, in investing, like in any other field, you should hire a skilled professional because it's not easy. Let me correct that: it's easy if you want to do average. You can buy an index fund or a portfolio of average mutual funds and you get average results. But success in investing for me is not to be average; it's to be above average. That's the part that is hard. Investing is a mental activity in which you have to double think at what I call the second level, since your job is to out-think the others and most things are counterintuitive. That's not true in a physical activity like bridge building or tennis, for example, in which you don't have that level of psychological and emotional complexity.

But then again, to win a grand slam tennis tournament like Wimbledon it's also not enough to be average.
First of all, unlike in investing, there's not that much luck in tennis. A pro like Roger Federer knows exactly where the ball is going to go when he moves his shoulder, his elbow, his hip and his legs in a certain way. But in investing that's not true. Outcomes aren't fully predictable or dependable. And there's more: When Federer plays he tries to hit winners. If he does not hit a winner and gives an easy return, Nadal will stuff it down his throat. But when you and I play together, I don't have to try to hit winners. I can beat you by not hitting losers. I'm just going to keep the ball in play. I put it every time back knowing that if I can do it twenty times you're finally going to hit the ball into the net or off the court. So I don't have to hit a winner. I only have to avoid hitting a loser. And that's our motto at Oaktree Capital, too. We want to make a large number of competent investments and have none of them to blow up. And if we avoid the losers, the winners take care of themselves.

Is that also true for your personal investment portfolio?
I am a conservative investor. My ownership of Oaktree Capital and the income I derive from Oaktree's success and my investments in Oaktree funds is very substantial. So I've never felt the need to press up my risk exposure. I am not one of these people who feel that every dollar has to be fully employed at maximum return every minute. I derive a lot of comfort from having liquidity and a dependable portfolio. Before the crisis, I used Treasuries for virtually all my money that was not invested in Oaktree. That allowed me to get a return of around 6% with total safety. Today, if I want to invest in Treasuries with one to five year maturities I only get 1%. That's not enough because after taxes and inflation I lose money. So the answer is that I have increased my active investments. I'm still not maximally aggressive. By necessity, like everybody else in the world, I've moved out the risk curve - but in my case with caution.


備考です。運に関する過去記事としてはマイケル・モーブッサンのものが参考になります。
能力のパラドックス(1)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(2)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(3)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(4)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(5)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(6)(マイケル・モーブッサン)
能力のパラドックス(7)(マイケル・モーブッサン)

また「二重思考」のような多重的に考えるやりかたは、本ブログの主題のひとつとして取り上げつづけています。ここでは以下の2件を挙げておきます。特に2件目のダーウィンのやりかたは最上のものです。
心理学的な落とし穴を避ける考え方(チャーリー・マンガー)
誤判断の心理学(5)自縄自縛(チャーリー・マンガー)

2014年3月8日土曜日

今やっとけば金持ちになれるぞ(ハワード・マークス)

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資産運用会社Oaktreeの会長ハワード・マークスがインタビューに応じていた記事がありました(GuruFocusで紹介されていました)。彼自身の書くメモと同じように、このインタビューでも一般投資家に対してわかりやすい表現で現状認識や助言を語っています。今回と次回で一部を引用してご紹介しますが、それほど長くはないので原文記事全体を読まれたほうがよいかもしれません。(日本語は拙訳)

≪In the end, the devil usually wins≫ (Finanz und Wirtschaft)

<質問者> 今回の強気相場がつづく中で、投資家が注意しなければならないリスクとはなんでしょうか。

<マークス> 投資におけるリスクは何かと質問されたら、「資金を失うこと」とお答えになるでしょう。ところが投資におけるリスクは実際には2つあります。ひとつは資金を失うこと、もうひとつが好機を逸することです。どちらかであれば排除することができますが、両方同時には排除できません。そこで問題になるのが、2つのリスクに対してどのように身を処すべきかです。積極果敢にやるか、堅く守りに入るか、それともそのあいだを進むか。この状況からは、あるコメディー映画が思い浮かびます。そこでは登場人物の男が一体どうしようか悩んでいます。彼の右肩には白いローブをまとった天使が腰かけており、こう話しかけてきます。「やめておきなさい。思慮が足りない。良い考えでないどころか、正しくもない。これはやっかいなことになりますよ」。一方、反対の肩にはピッチフォーク[3本歯の農具]を手にした赤いローブの悪魔が座っています。悪魔はこうささやきかけます。「やるんだ。今やっとけば金持ちになれるぞ」。たいていの場合、結局勝つのは悪魔のほうです。「慎重、熟慮、善行」は古来より伝わる教えです。しかし金持ちになりたいという欲望と争えば、恐慌状態の時期を除けばたいていは欲望のほうが勝ちをおさめます。バブルが形成され、バーニー・マドフが金を集めたような詐欺が起こるのはそのためです。

<質問者> 悪魔の口車に乗せられないためにはどうすればよいのでしょうか。

<マークス> 私はこの業界に入って45年以上になります。その間、さまざまな経験をしてきました。それに加えて、感情に左右されやすい性格ではありません。実際、私が知っているすばらしい投資家は感情に流されない人ばかりです。感情的な人は、お祭り騒ぎをする他人たちが値段をつり上げた天井で買ってしまい、みんなが意気消沈して値段がさがった底値で売ってしまうものです。他人と同じように動き、甚だしい状況のときに間違ったことを毎度のようにくりかえします。だからこそ、投資で成功するための最重要な基準として感情に流されないことが含まれるのです。感情に流されてしまう人は、自分の資金で投資すべきではありません。この一言に尽きます。すばらしい投資家のほとんどの人は「逆張り」と呼ばれる姿勢を実践しています。これは他の大勢がやることの逆をやることを意味しますが、その実態は極度な状況下でも適切な行動をとるという意味です。感情に流されずに理性的にやることは、逆張りを実践していく上での基本的な要件のひとつです。

What are the risks investors should be aware of as this bull market goes on?
If I ask you what's the risk in investing, you would answer the risk of losing money. But there actually are two risks in investing: One is to lose money and the other is to miss opportunity. You can eliminate either one, but you can't eliminate both at the same time. So the question is how you're going to position yourself versus these two risks: straight down the middle, more aggressive or more defensive. I think of it like a comedy movie where a guy is considering some activity. On his right shoulder is sitting an angel in a white robe. He says: ≪No, don't do it! It's not prudent, it's not a good idea, it's not proper and you'll get in trouble≫. On the other shoulder is the devil in a red robe with his pitchfork. He whispers: ≪Do it, you'll get rich≫. In the end, the devil usually wins. Caution, maturity and doing the right thing are old-fashioned ideas. And when they do battle against the desire to get rich, other than in panic times the desire to get rich usually wins. That's why bubbles are created and frauds like Bernie Madoff get money.

How do you avoid getting trapped by the devil?
I've been in this business for over forty-five years now, so I've had a lot of experience. In addition, I am not a very emotional person. In fact, almost all the great investors I know are unemotional. If you're emotional then you'll buy at the top when everybody is euphoric and prices are high. Also, you'll sell at the bottom when everybody is depressed and prices are low. You'll be like everybody else and you will always do the wrong thing at the extremes. Therefore, unemotionalism is one of the most important criteria for being a successful investor. And if you can't be unemotional you should not invest your own money, period. Most great investors practice something called contrarianism. It consists of doing the right thing at the extremes which is the contrary of what everybody else is doing. So unemtionalism is one of the basic requirements for contrarianism.

2014年2月24日月曜日

トイレの中でも読んでいます(日本電産永守社長)

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少し前の日経ヴェリタスを読んでいたところ、日本電産の永守社長へインタビューした記事がありました。その中で、買収候補等の企業を研究するために四季報や企業情報をよく読んでいる、と語っていました。今回ご紹介するのはその話題の一部で、当たり前のことながらも投資家として二重に参考になる発言です。引用元は、日経ヴェリタス第308号(2014/2/2-2/8)の記事「私の仕事術」からです。

「風呂やトイレ、社用車の中にも置いて、いつでも読めるようにしています。各社の情報や数字はすべて頭の中に入っていますね。財務情報より、会社の弱点や強いところを把握することの方が重要なんです」。(p.56)


この発言と似たようなことをチャーリー・マンガーも過去記事「株式を判断するのに使う指標(ウォーレン・バフェット)」で言っていました。

なお記事中の写真には、社内向けスローガンの書かれた漫画のポスター(スケート編)も写っていました。登場人物として永守社長自らが前面に出ているものの、レトロで誇張された画調が厳しい表現をうまく中和しているように感じられます。現代的なモーレツ日本企業らしさが出ており、なんとなしにジャック・ウェルチ時代のGEと対極にくる印象を受けました。

2014年1月2日木曜日

祈りと共に始めよ(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその12の短い説明文です。このルールを初めて読んだころは宗教家風の表現に対してお高く感じたものですが、振り返ってみれば浅い見方でした。今では、経験に裏付けられ、人間の心理に通じた熟練者の知恵だと受けとめています。単純でいて力強い教えだと感じています。なお、引用元の原文はこちらです。(日本語は拙訳)

(ルールその12) 祈りと共に始めよ

祈り[感謝や畏敬]を以って始めれば、より明瞭に考えられるようになり、しくじることが少なくなるでしょう。

No. 12 BEGIN WITH A PRAYER

If you begin with a prayer, you can think more clearly and make fewer mistakes.