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2024年2月13日火曜日

2023年の投資をふりかえって(5)新規投資銘柄:ジーエルサイエンス

ジーエルサイエンス(7705)


(同社の2024年3月期第3四半期決算説明資料より)


化学分析機器の製造会社であるジーエルサイエンス(以下、ジーエル)には、昨年から投資し始めました。その同社は2月9日(金)付の発表で、持ち株会社を設立して(2024年10月1日予定)、そのもとに子会社と経営統合する旨で合意したことをあきらかにしました。ちょうどいい機会なので、今回はこの企業再編をケーススタディとしてとりあげたいと思います。なお子会社は、半導体製造装置関連製品の製造会社であるテクノクオーツ(以下、テクノ。証券コード5217)です。親子ともにスタンダード市場に上場しています。


はじめに触れておくと、「持ち株会社を使った経営統合」という形式をとっていますが、いうまでもなく実態は親会社ジーエルによる子会社テクノの完全子会社化案件です。


昨年投資するに先立って親子両社を調べるうちに、親会社ジーエルが子会社テクノの残り株式を買い取って完全子会社化する好機だと、個人的には強く感じていました。ただし同社の経営陣が実際に行動を起こす可能性は相当低く(たとえば5%以下の確率)、それによる正のエクスポージャーは小さいと判断していました。しかし親会社ジーエルの株価自体がずいぶんと割安だったので、資金をいくらか投じてきました。


<事業の概要と直近の業績>

親会社ジーエルが扱っている主な製品は、さまざまな物質に含まれる成分を分析するための機器や試薬です(島津製作所とは業務提携)。製品の利用される領域は、食品・化成品・医薬・半導体といった産業分野や、公害物質を同定するような環境分野でも広く利用されています。顧客業界が多岐にわたっているとともに消耗品を扱っているため、収益は安定しています。製造拠点は福島県、研究開発拠点は埼玉県にあります。


親会社ジーエルの2023年3月期の連結売上高は386億円、営業利益は60億円、純利益は34億円、EPSは341円でした。経営指標としては、営業利益率が15.5%、純利益率が8.8%となります。現在の株価は2800円弱で、実績PERは8.18倍です。



子会社テクノは親会社ジーエルによって1976年に設立されました。親会社によって保有されている株式の割合は約2/3、正確には65.7%です。子会社テクノが扱っている主な製品は、半導体製造装置内で使われる石英ガラス製の各種部材です。他社から購入したインゴッド材を成形加工するだけではなく、高温熱処理等に耐えられるような特性を付与するために、皮膜処理や表面処理などを施しています。国内の製造拠点は山形県と周辺に集まっており、外国の製造拠点は中国杭州市にあります。


子会社テクノの2023年3月期の連結売上高は200億円、営業利益は40億円、純利益は29億円、EPSは764円でした。経営指標としては、営業利益率が20%、純利益率が14.5%となります。現在の株価は5360円で、実績PERは7.01倍です。


<経営統合における取引条件>

親会社ジーエルおよび子会社テクノの株式は新持ち株会社へ移転されて、両社は上場廃止になります。両社の株主には新持ち株会社の株式が交付されます。親会社ジーエルの株式数は10.2百万株(自己株式を除く)で、同じ数のまま新株に交換されます。また子会社テクノの株主には8.1百万株(自己株式を除く)が割り当てられます。合計すると、新持ち株会社の株式総数は18.3百万株になります。ただし親会社ジーエルは子会社テクノの株式を約2/3保有しているので、それが新株に交換された後にいずれは消却されると仮定すると、持ち株会社の株式総数は12.9百万株(= 10.2 + 2.7)にとどまります。


ここで親会社ジーエルの立場からみると、今回の案件は新株を2.7百万株発行して、それを子会社テクノの少数株主が保有する株式と交換することで、子会社テクノの残り株式1/3を手に入れる構図になります。仮に親会社ジーエルの現在株価2800円をもとにした希薄後株価を2200円として計算すると、約60億円(= 2200 * 2.7百万)の価値を持つ有価証券を提供することで、予想当期利益8億7千万円相当の事業を受けとる帳尻になります。これだけみると、かなり割安に事業を手に入れられる取引条件です。しかし親会社ジーエルの適正株価は現在の2倍はあるといっても言いすぎではないと思いますので、そちらの株価をもとに計算すれば、ほどほど穏当な取引水準に落ち着くことになります(この件は後述)。


<本買収に対する所感>

株式市場で評価が低迷している企業がこのような形で別企業に狙われるのは、必然です。少なくとも、今後は日本でもそのような見方が強まってくると想像します。そして、その狙う側が競合他社や資金力のある投資家ではなくて親会社だったとしても、本質的な構図は同じです。「他人が見逃している機会を、自分がつかむ」。現在の株価によって価値との差を値踏みするのは正当な手段であり、原則的にはだれが使っても咎めることはできません。ただし、経営を支配している親会社が子会社の業績を意図的に低迷させておき、株価が下落した時期をみはからって不当な対価で完全子会社化するのは、子会社の少数株主の利益を損なうことになり、許されないでしょう。しかし今回の件はちがいます。子会社テクノが手がける事業(半導体関連)のほうが親会社ジーエルによる事業(分析機器および自動認識)よりも高い業績をあげてきた事実が、一定の期間にわたって示されていたからです。具体的には、2019年3月期から子会社事業が稼ぎ頭となっていました。そこから4年間以上が経過しており、市場が事業価値を評価するのには十分な時間がありました。その間に、子会社事業の営業利益は2.5倍になっていました。優良な事業を取り込みたいと考えるのは自然な帰結です。「それでも市場が適正に評価しないのであれば、自分たちが動いてもよかろう」と親会社の経営陣が考えるのは道理にかなっています。


子会社テクノの少数株主にとって幸いなのは、親会社ジーエルの株価も低迷していることです。2010年以前の個人的な経験談になりますが、わたしが株式を保有していたある企業も、株価が割安な時期に株式交換によって親会社に完全子会社化されました。そのときは「ひどい扱いをするものだ」と憤慨しましたが、その親会社株を長期間保有しつづけることで、結局は十分なリターンを得ることができました。実は親会社の株価もそれなりに割安だったので、見直される余地がありました。また規模の経済が働くことで、買収行為自体がその後の成長に寄与したこともあります。その事例どおりに物事が進む保証はないですが、傾向としては似ていると思います。


持ち株会社に移行することは、市場が企業価値に対する評価を改める流れにつながると思います。単純に利益水準が上昇するだけでなく、危うさを秘めていた親子上場が解消されることで、アナリストや投資家の目が集まりやすくなることが期待できます。また本質的な成長性の点でも期待度はあがります。余剰資本や各種リソースが集積されることで、有効的に再投資できる機会や規模が拡大するからです。


<新持ち株会社に対する定性的な価値評価>

ただし前回の投稿でひとこと触れたように、新会社ジーエルホールディングス(仮称)の長期的な成長見通しには留意すべき点があると考えています。現在手がけている事業はどこまで成長できるのか(特に急成長してきた半導体石英製品)。現在の事業領域を越えて周辺の領域へと進出し、売上を拡大できるのか。余剰の金融資産を使って効果的な企業買収ができるか。はたまた資本効率を重んじて自社株買いを実行できるか。そして中国における事業展開をどうするのか。個人的な結論としては、今回のスペシャル・シチュエーションが株価水準訂正のきっかけになればうれしいですし(逆に、ニュースが公開されたことで株価が短期的に下がる可能性もありますが)、中長期的(3-8年程度)な成長も期待しています。しかしそれ以上先の見通しは、今のところは判断しかねています。



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