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2020年4月20日月曜日

嵐をむかえたバークシャーの舵取り(チャーリー・マンガー)

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バークシャー・ハサウェイの副会長であるチャーリー・マンガーが、ウォール・ストリート・ジャーナルの電話インタビューに応じていました。聞き手はジェイソン・ツヴァイク氏、同紙ではおなじみのコラムニストです。彼の文章は過去に何度か取り上げたことがあります。今回は、バークシャー経営陣の用心ぶりがうかがえる発言をご紹介します。(日本語は拙訳)

なお原典は有料記事ですが、以下のサイトにも全文が転載されているようです(某掲示板での情報提供に感謝します)。

Charlie Munger : 'The Phone Is Not Ringing Off the Hook'

「まあ、我々の状況は基本的に、最悪のタイフーン来襲を迎えたときの船長といったところですね」とマンガーは答えた。「ただただタイフーンをやり過ごしたいと願っていますよ。さらに言えば、大量の流動性を携えたまま乗り切りたいところです。『さあ、いいですか。みんな真っ逆さまに落ちているので、手持ちを全部注ぎ込んで事業を買いましょう』といった行動はとっていません」

さらに彼はこう言った。「純資産の90%を当社に投資している人たちもいます。だからウォーレン[・バフェット]は、バークシャーが彼らにとって安全な投資先であり続けたいと望んでいるのです。いつであろうと我々は、安全な側にいるつもりです。果敢な行動は起こさないとか、機会をとらえないとか、そうは言っていませんよ。しかし基本的には、十分保守的にやるつもりです。その一方で当社は、いっそう強力になっていくでしょうね」

まさしく鈴なりとなった企業経営者たちが、バークシャーに資本要請の連絡をしてきたことでしょうね。

「いいや、来ていないですね」とマンガー氏は言った。「たいていの人は、すくみあがっていますよ。航空業界をごらんなさい。なにが起こっているのか、彼らはわかっていませんね。どこも政府とは交渉していますが、ウォーレンには連絡をとっていません。立ちすくんでしまってるわけです。かつてそういう事態に遭ったことがないのです。こういうことが起こる可能性は、彼らの手の内にはなかったわけですよ」

(中略)

「マクロ経済が今後どのようになるのかを、我々が正確にわかっているとは思いませんね」とマンガー氏は言った。「遅かれ早かれ、経済は復活してそこそこの状態に戻るとは思いますよ。しかし今回失われる以前の水準まで雇用が回復する可能性は、かなり低いでしょうね。少なくとも相当な期間においてはそうでしょう。実質的には、二度と戻らないと言えるのかもしれません。まあ、私にはわかりませんが」

「株式市場が過去に記録した諸々の安値よりも下回るのかどうか、うっすらとした考えも浮かびませんね」と、マンガー氏は言った。また、コロナウィルスによる社会活動停止は「生きていく上で忍従せざるを得ないこと」であり、なるようにしかならないとも言った。「他に何ができるのでしょうかね」

"Well, I would say basically we're like the captain of a ship when the worst typhoon that's ever happened comes," Mr. Munger told me. "We just want to get through the typhoon, and we'd rather come out of it with a whole lot of liquidity. We're not playing, 'Oh goody, goody, everything's going to hell, let's plunge 100% of the reserves [into buying businesses].'"

He added, "Warren wants to keep Berkshire safe for people who have 90% of their net worth invested in it. We're always going to be on the safe side. That doesn't mean we couldn't do something pretty aggressive or seize some opportunity. But basically we will be fairly conservative. And we'll emerge on the other side very strong."

Surely hordes of corporate executives must be calling Berkshire begging for capital?

"No, they aren't," said Mr. Munger. "The typical reaction is that people are frozen. Take the airlines. They don't know what the hell's doing. They're all negotiating with the government, but they're not calling Warren. They're frozen. They've never seen anything like it. Their playbook does not have this as a possibility."

(snip)

"I don't think we know exactly what the macroeconomic consequences are going to be," said Mr. Munger. "I do think, sooner or later, we'll have an economy back, which will be a moderate economy. It's quite possible that never again -- not again in a long time -- will we have a level of employment again like we just lost. We may never get that back for all practical purposes. I don't know."

Mr. Munger told me: "I don't have the faintest idea whether the stock market is going to go lower than the old lows or whether it's not." The coronavirus shutdown is "something we have to live through," letting the chips fall where they may, he said. "What else can you do?"

2020年4月17日金曜日

なにをどうすれば、こう上がるのか(ハワード・マークス)

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ハワード・マークスが矢継ぎ早にメモを公開していました(4月14日付)。今回中心となる話題は二つで、ひとつめは新型肺炎に対する政治的対応について、ふたつめは連銀による金融面での対応についてです。

Knowledge of the Future [PDF] (Oaktree Capital Management)

政治的対応については、むずかしい判断を取り上げていました。具体的には、ロックダウンを緩和して経済活動を再開することのマクロ的なトレードオフの是非についてです。ここでは、同じく著名な投資家エドワード・ランパートの言葉を借りて、冷徹な観点から選択肢を提示していました。一方でミクロ的な観点では、以前と同じ状態に少なくとも即座には復帰できないことも触れており、個々人の事情を慮っていました。全体としてみれば、個人的には同意できる主張でした。

もうひとつの話題は、連銀による無制限の金融緩和についてです。ボロ債券の底値買いを身上とする彼の立場からすれば、極端なまでの連銀の救済対応は商売上の好機を早々につぶすことにつながります。米国における投資家の一人としてその恨み節を公表した、といった具合の文章でしょうか。今回ご紹介するのは、その結びに当たる部分です。(日本語は拙訳)

どうやら市場は、将来に関する判断を下したようです。米国における[新型肺炎の]死者数は2万3000人を超えて、なお増加中です。失業保険の週次給付申請は、過去最大だった数字の10倍に達しています。そして、今四半期のGDP減少率は史上最悪になると予想されています。しかし、世間は治療体制やワクチン開発の見通しを歓迎しており、また投資家は「連銀と財務省が痛みを抑制してV字回復をもたらしてくれる」と判断しました。古くから言われているように、「連銀と闘うことはできない」、つまり連銀は望むところを達成できるわけで、投資家はそれに対して信を置いているのです。それゆえ、3月23日に底を打ったS&P500指数は23%上昇しました。過去に市場が上昇した局面では押しなべて資金抑制が懸念されましたが、今回はほとんど問題視されていない状況です。

しかし、義理の息子で芸術家のジャスティン・ビールは、これを不可解に感じています。土曜日のことですが、彼はこう話してくれました。「わたしにはわからんですよ。ウィルスが猛威をふるい、商売は休業中、一方で政府はそこらじゅうにカネをばらまいている。税収が減ること必至にもかかわらずですよ。なにをどうすれば、市場はこんなに激しく上昇するのですかね」。それは行方が開けたときに、露わとなるのでしょう。

The market seems to have passed judgment with regard to the future. U.S. deaths have reached 23,000 and continue to rise. Weekly unemployment claims are running at 10 times the all-time record. The GDP decline in the current quarter is likely to be the worst in history. But people are cheered by the outlook for therapies and vaccines, and investors have concluded that the Fed/Treasury will reduce the pain and bring on a V-shaped recovery. There’s an old saying that “you can’t fight the Fed” - that is, the Fed can accomplish whatever it wants - and investors are buying it. Thus, the S&P 500 has risen 23% since its bottom on March 23, and there’s little concern about the retrenchments that typically have been part of past market rallies.

But Justin Beal, my artist son-in-law, is mystified. “I don’t get it,” he told me on Saturday. “The virus is rampant, business is frozen, and the government’s throwing money all over the place, even though tax revenues have to be down. How can the market be rising so strongly?” We’ll find out as the future unfolds.

備考です。「芸術家のジャスティン・ビール」氏との姻戚関係をたどってみると、彼はどうやらハワードの継子の夫のようです。

・Nancy Marks, Justin Beal, Jane Hait, Sasha Puryear, Howard Marks at Sies Marjan and OMA Celebrate the opening of Countryside, The Future / id : 4229659 by Ryan Kobane/BFA.com


2020年4月14日火曜日

2019年度バフェットからの手紙(2)株価が半減するかもしれない

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前回分から少し時間がたってしまいましたが、2019年度の「バフェットからの手紙」から金利の話題をご紹介します。今年の2月22日に発表された本文章には、改めて心に留めておきたい警告も含まれています。(日本語は拙訳)

金利を予測することがわたしどもの取り柄だったことは、これまでに一度もありませんでした。次の1年間や10年間、30年間の利率が平均するとどの程度になるか、わたしやチャーリー[・マンガー]には考えもつきません。この件について見解を述べる評論家たちをみると、嫉妬まじりの見方なのでしょうが、将来予測のこと以上に、彼らの振舞い自体が本人のことを語っているように思えてなりません。

わたしどもの口から言えるとすれば、こうです。「もし現在の水準に近い金利が今後何十年間とつづくようなことがあれば、さらには企業が現在享受しているような低水準の法人税率のままであれば、利率が固定された長期債券よりも株式のほうが、ほぼまちがいなく好成績をあげつづけると思われる」

ただし、そのような明るい見通しには警告が付きます。明日になれば株価がどうなるのかはわかりませんし、いずれは市場で大暴落が生じるでしょう。50%あるいはそれ以上の下落になるかもしれません。しかしわたしが昨年度に書いたように、米国は追い風を受けている国です。さらにはスミス氏の描写にあったように複利の威力に授かることで、借り入れに頼らずに自分自身の感情を律することのできる人にとっては、株式というものが長期的には実に優れた選択肢となるでしょう。そうでない方々は、どうぞご注意あれ。(PDFファイル10ページ目)

Forecasting interest rates has never been our game, and Charlie and I have no idea what rates will average over the next year, or ten or thirty years. Our perhaps jaundiced view is that the pundits who opine on these subjects reveal, by that very behavior, far more about themselves than they reveal about the future.

What we can say is that if something close to current rates should prevail over the coming decades and if corporate tax rates also remain near the low level businesses now enjoy, it is almost certain that equities will over time perform far better than long-term, fixed-rate debt instruments.

That rosy prediction comes with a warning: Anything can happen to stock prices tomorrow. Occasionally, there will be major drops in the market, perhaps of 50% magnitude or even greater. But the combination of The American Tailwind, about which I wrote last year, and the compounding wonders described by Mr. Smith, will make equities the much better long-term choice for the individual who does not use borrowed money and who can control his or her emotions. Others? Beware!

備考です。バークシャー自体の株価が半値近辺に暴落したときの話題は、以下の過去記事でウォーレンが触れています。

・2017年度バフェットからの手紙(6)大暴落が待っている

2020年4月10日金曜日

買いどきが来ると、買いたくなくなる(ハワード・マークス)

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ハワード・マークスが顧客向けに書いた新しいメモが、4月6日付で公開されています。実のところ、前回の投稿でご紹介したメモから日を置かずに、彼は2件のメモを公開していました。しかし、「切れ味という点でみると、訳出する必要性は低いだろう」と考え、ここでは取り上げていませんでした。一方の今回公開されたメモでは、同氏の投資家としての姿勢が強く表れています。こちらは一読されることをお勧めしたい文章だと思い、その一部をご紹介します(日本語は拙訳)。

Calibrating [PDF] (Oaktree Capital Management)

まずは、マネー・マネージャーのやるべき仕事についてです。

近年になってからは、中期的な期間で見たときにファンド・マネージャーがすべきもっとも重要な仕事とは、「資産をどのように配分すべきかを決めることではない」と、確信を深めるようになりました。株式か債券か、米国か外国か、先進国か新興国か、大型か小型か、優良企業か否か、成長株か資産株か、そういった戦略やファンドやマネージャーを選ぶことではないのです。それでは、もっとも大切な仕事とは何か。それは「攻め」と「守り」の間で適切な位置をとらえることだと考えます。もしも「攻守」の判断を誤ったとしたら、さきに挙げた諸々はそれほど役には立ちません。一方「攻守」の判断が適切であれば、それらのどれを選択しようと、うまくおさまります。

In recent years I've become more and more convinced that the fund manager's most important job for the intermediate term isn't to decide the allocation of capital between stocks versus bonds; U.S. versus foreign; developed markets versus emerging; large-cap versus small-cap; high-quality versus low-quality; or growth versus value. And it isn't choosing among strategies, funds and managers. The most important job is to strike the appropriate balance between offense and defense. Those other things won't help much if you get offense/defense wrong. And if you get offense/ defense right, those other things will take care of themselves.

次は、本題の「市場の底」についてです。

筆を置く前に、「市場の底」という言葉について触れておきましょう。投資の世界においてことさら興味深い質問のなかには、まさしく今日においてぴったりのものがあります。「悪いニュースがこれからも続くと予想し、市場はさらに下落すると感じているのであれば、なにを買おうにも時期尚早であって、底を打つのを待つべきではないか」という問いかけです。

私としては迷うことなく「そんなことはない」と申しましょう。先に述べたように、いつになれば底に到達するかを知ることはできません。「底」とは、のちになって振り返ったときに識別できる地点です。「市場が上がり始める」、その直前が「底」なのです。そうである以上、「底に達したのかどうか」をその当日に知ることはできません。なぜならば、それは明日になってわかることだからです。それゆえに、「底を打つ日を待つ」という表現は理屈に合っていません。

あるいは、次のような言いかたを好むかもしれません。「底打ちを確認して、市場が上がり始めるまで待つ」と。このほうが筋の通った言いかたです。しかしながらそれでは、「市場の底は甘んじて見過ごす」ことを明言しています。また、売り手の不安が失せて売り圧力がなくなることも、市場が上昇し始めるきっかけになります。言い換えると、「売り物が激減して、まさしく現在において買い方が意欲を高めているかのように、買い方からの圧力が高まることで、市場が引き上がる」。市場の上昇とは、そういったことによって起こされます。ですから、買いたいと考える投資家は下落中に買うべきです。売り手がもっとも逃げだしたがり、買いを入れても証券価格の下落継続を止めることのない、そのときにです。

(中略)

ですから「市場の底を待つ」のは愚かなことだと、私自身は考えています。それでは投資家は何をもって判断すべきでしょうか。単純なことです。本源的価値から判断して安い価格がついていれば、それは買いです。そしてもっと安くなれば、もっと買えばいいわけです。

(中略)

ひどいニュースが世間に流れれば、買いに出るのはむずかしくなり、「落下するナイフをつかみ取るつもりはない」と発言する人も増えるでしょう。しかし途方もない安値になるのも、ちょうどそのときです。それゆえに、先に記したダグ・カース氏[名の知れたマネー・マネージャー]の見出し文を、私は気に入っています。「買いどきが来ると、買いたくなくなる」と。ひどいニュースが流れ、価格が暴落しつづけ、どこが底なのか考えもつかない時期において、買いに出るのは容易ではありません。しかしそれができることこそ、投資家の目指すべき姿だと思います。

Before I close, just a word on market bottoms. Some of the most interesting questions in investing are especially appropriate today: "Since you expect more bad news and feel the markets may fall further, isn't it premature to do any buying? Shouldn't you wait for the bottom?"

To me, the answer clearly is "no." As mentioned earlier, we never know when we're at the bottom. A bottom can only be recognized in retrospect: it was the day before the market started to go up. By definition, we can't know today whether it's been reached, since that's a function of what will happen tomorrow. Thus, "I'm going to wait for the bottom" is an irrational statement.

If you want, you might choose to say, "I'm going to wait until the bottom has been passed and the market has started upward." That's more rational. However, number one, you're saying you're willing to miss the bottom. And number two, one of the reasons for a market to start to rise is that the sellers' sense of urgency has abated, and along with it the selling pressure. That, in turn, means (a) the supply for sale shrinks and (b) the buyers' very buying forces the market upward, as it's now they who are highly motivated. These are the things that make markets rise. So if investors want to buy, they should buy on the way down. That's when the sellers are feeling the most urgency and the buyers' buying won't arrest the downward cascade of security prices.

(snip)

So it's my view that waiting for the bottom is folly. What, then, should be the investor's criteria? The answer's simple: if something's cheap - based on the relationship between price and intrinsic value - you should buy, and if it cheapens further, you should buy more.

(snip)

Terrible news makes it hard to buy and causes many people to say, "I'm not going to try to catch a falling knife." But it's also what pushes prices to absurdly low levels. That's why I so like the headline from Doug Kass that I referred to above: "When the Time Comes to Buy, You Won't Want To." It's not easy to buy when the news is terrible, prices are collapsing and it's impossible to have an idea where the bottom lies. But doing so should be the investor's greatest aspiration.

最後の文章は彼自身のものではなく、ある業界誌(Gavekal Research's Monthly Strategyの4月号)からの引用です。

... 大幅な下落がひとたび生じただけで市場が見通せるようになることは、稀である。1950年以降に起こった15回の弱気相場において、一番底をつけてから3ヵ月以内に次の底を試さなかったのは一度だけだった。それ以外の相場では、二番底・三番底が試された。今回の危機では状況改善の前に悪いニュースが続くであろうから、同じことが繰り返されると思われる。

... markets rarely clear after one massive decline. In 15 bear markets since 1950, only one did not see the initial major low tested within three months ... In all other cases, the bottom has been tested once or twice. Since news-flow in this crisis will likely worsen before it improves, a repeat seems likely.

蛇足です。前回の投稿では「3月9日に久しぶりに株式を購入した」と書きましたが、その週から翌々週明けまでは適宜買いつづけることになりました。その後の買いは休止中です。