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2013年9月30日月曜日

ある投資家が描くチャーリー・マンガー像(3)

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前回からつづいて、この話題の3回目です。個人的には、この一節を読んだことでチャーリー・マンガーという人を少し理解できるようになりました。前々回のコメントでも書きましたが、チャーリーが勧めるたぐいの本を読みはじめたきっかけとなりました。(日本語は拙訳)

一体マンガーは何をさがし求め、どのように候補を演繹的にしぼりこんでいくのだろうか。彼がはじめにやる帰納的にさがす作業については、彼の推薦するさまざまな書籍に登場するテーマの中に要約されていると思う。『銃・病原菌・鉄』、『利己的な遺伝子』、『氷河期』(未訳)、『ダーウィンの盲点』(未訳)といった本はすべて、たびたび登場するひとつのテーマへと集約できる。その共通のテーマとは、「ある対象の持つ能力が時とともに変化し、発展し、優勢になること」である。変化といってもそれぞれちがう対象をとりあげているが(人種、遺伝子、理論、人類)、いずれも根底にある命題は、時とともに変わり、栄え、優位に立つことだ。この考えをビジネスの世界へ当てはめて考えてみれば、ビジネスモデルや「自然淘汰的な」事業環境といった話が当然でてくるだろう。競争に打ち勝つことで興隆するものもあれば(『利己的な遺伝子』)、他者と協力することで繁栄するものもある(『ダーウィンの盲点』)。成功を果たし、永続していく能力をビジネスモデル自体が有しているかが、マンガーが投資したいと考える世界を決定づける。そこから彼は思考プロセスを「逆転」させ、論点へむかって逆方向から攻め、演繹的なやりかたへぐっとかたよる[=買わない理由をさがす]。ここですごく疑問だったのが、なぜマンガーはホーム・デポ(HD)を21ドルで買わなかったのかだ[2003年1月の安値のことと思われる]。そのジレンマの答えはロウズ(LOW)にあると思う。ホーム・デポはかなり良い会社だと考えたかもしれないが、ロウズをしのいで成功するだけの持ち前の競争力や協同面での優位性は持っていない、とマンガーは判断したのではないか。そのため削除プロセスを通じて(つまり帰納的に銘柄を追加するよりも、演繹的に自然淘汰して最適なものを残す)、マンガーは中核銘柄からホーム・デポをはずしたのだろう。同じ思考プロセスを、市場でみられる何百もの「割安な」企業にいつでも適用できるようになれば、マンガーの本質に手がとどくようになる。ひるがえってバークシャー・ハサウェイを考えてみると、20年前とくらべて現在はどうなったか。バークシャーのビジネス・モデルが持つコア・コンピタンシーは、柔軟に資本配分を行える点にある。それによって、おもに株式へ投資する器(うつわ)だった同社は、しだいに事業会社へと変貌してきた。利己的な遺伝子の運び手[=たとえば我々]とよく似ていて、今日の環境でもっとも成功できるようにバークシャーはみずからを変容させてきたのだ。これから20年後のバークシャーは、ふたたびまったく違うものにみえるかもしれない。その変化する能力こそ、競合がバークシャーと張りあうことのできないものだ。ビジネスの世界で変化し、成功をおさめ、優位に立つ能力には多くの要因がかかわっている。ひとつ気づいたのは、確実性の高いフリー・キャッシュ・フローが関係しているようにみえる。この件はバフェットもこう言っている。「悩みの種というよりは、使いみちを考える楽しみ(と柔軟性)を経営者にもたらしてくれるもの」と。コート・ファニチャー・レンタル社[=バークシャーの孫会社]には強力な競争相手がいるか。世界中にめぐらされたコークの流通網に、ペプシは対抗できるだろうか。H&Rブロック社が営む確定申告書作成ビジネスと戦えるところがあるか。それら3社は支配的な地位を占めており、その事実を変えるものはまだ姿をあらわしていない。

What does Munger look for and how does he deductively narrow the list? I think that part of what he first inductively looks for can be summarized in the underlying theme of much of his recommended reading material. After reading "Guns, Germs, and Steel," "The Selfish Gene," "Ice Age," and "Darwin's Blind Spot," I have deduced that there is one recurrent theme to all. The common theme is the ability of some entity to transform, thrive, and dominate over time. Each book in turn has a different transformation subject (peoples, gene carriers, theory, mankind) but the underlying thesis to all is what it takes to transform, thrive, and dominate through the ages. If one extrapolates this theory into the business realm then the natural bi-product would be business models and their 'naturally selective' environment. Some may thrive by out-competing (Selfish Gene) and some may thrive by out-cooperating (Darwin's Blind Spot). This ability of a business model to thrive and persist defines Munger's investment universe. From there he then INVERTS his thought process, attacks the issue from the opposite end, and begins his deductive bias. I have wondered aloud why Munger did not purchase say Home Depot at $21. I think the answer to that dilemma is Lowes - it is my guess that Munger may think that HD is a decent company but that over time he did not think that HD had the inherent competitive or cooperative advantages to thrive next to Lowes. Thus by process of elimination (deductive natural selection of the fittest rather than inductive addition) Munger would have eliminated HD from his core list. Transfer the same thought process to the hundreds of "undervalued" companies available in the market on any given day and I think we begin to get to the essence of Munger. On the other side, think for a moment of Berkshire Hathaway and what it was twenty years ago and what it is today. A core competency of the Berkshire business model is flexibility in capital allocation which over time has transformed the company from primarily an equity investment vehicle to an operating company. Much like a selfish gene carrier Berkshire has transformed itself to best thrive in the environment of the day. Twenty years from now Berkshire may look entirely different again and it is this ability to transform which Berkshire's competition can not match. The ability to transform, thrive, and dominate in the business world comes from many factors but one thing I've noticed is that it tends to be related to a secure stream of free cash flow which as Buffett says, "gives management pleasant choices [and flexibility] rather than headaches." Does Cort furniture rental have any significant competition? Can Pepsi compete with Coke's logistics network across the globe? Is there any competing tax preparation business for H&R Block? All three dominate and there is nothing visible on the horizon to change that fact.

2013年9月28日土曜日

ある投資家が描くチャーリー・マンガー像(2)

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前回のつづきです。マンガーがいだく思想の重要な部分が、うまくまとめられています。(日本語は拙訳)

それは、考えをどう進めるかにある[原文はThe mental approach]。たった3社の保有銘柄にマンガーが大きく賭けるのは、彼が投資上のプロセスにおいてどのように考え進めるのかと深い関係がある、と私は思い至るようになった。保有銘柄が3社でも安心して眠れるには、対象となるビジネスをとことん知り尽くし、理解することが欠かせない。当然ながら書き物を読んだり、調べたり、あらゆる角度から学際的なやりかたで問題を追究することが重要になるし、多くの時間を費やすべきだろう。マンガーは基本的に、「精神面での資本」を大量に投じて、一連の学際的なメンタル・モデルを築き上げてきた。これによって彼はビジネスに関するあらゆるものを分解し、自分が何を好むのか、またその理由についてきわめて深い理解に達することができる。アナリストの意見なぞ無用なのは、不思議でもなんでもない。彼の目指すところは、ごくわずかまでしぼりこんだビジネスを非常に深く理解することなのだ。精神的資本と時間を費やし、実際に購入したら、それを売却するのはそもそも個人的かつ精神的資源をひどく無駄づかいすることになる。もちろん、そのビジネスに根本的な変化が生じないかぎりだが。投資の世界へ足を踏み入れた時にほとんどの人がやるのは、単に帰納的に考えるだけで[≒経験主義的]、買いたいものや新しいアイデアを次々とさがし求める(そして望むままに付け加えられていく)。帰納的な見方をしていれば、当然ながら何を買おうかと決める機会が多数かつ頻繁に生じるし、さらなるデータを欲することになる。その結果、ポートフォリオにはたくさんの銘柄がならぶが、それぞれがポートフォリオ中で占める影響は小さくなってしまう。ピーター・リンチがその例で、彼は帰納的な考え方に熟達したすごい人だった。一方、マンガーについて私が読んできたあらゆるものが示しているのは、彼は多次元的に考えるが(帰納的および演繹的)、演繹的な考え方に偏っていることだ(いつでも逆にして考えよ)。マンガーは、市場をながめて自分のせまい定義に合うものをまずさがし(帰納的な部分)、それからそれらの候補をなぜ買いたくないかという観点でみつめる(演繹的な部分)。このように演繹面へとかたよることで、マンガーは投資対象の領域を大幅にせばめ(バフェットよりもずっと)、決め手になると考えているごくわずかな変数だけにひたすら集中し、非常に確かな企業だけにしぼりこむ。この中核銘柄の数は、拡大するよりも縮小する傾向にあるだろう。わずかな中核銘柄に対してマンガー言うところの「心の用意ができていれば」、いつでも買いに出られる準備が整う。そしていずれかの値段が魅力的なところまで下落すれば、大きく買いに出るのだ。彼にとっての毎日とは、それら候補に挙げたわずかな銘柄をすべて却下するばかりで、何の行動もとらない。どの中核銘柄にも魅力的な値段がつかなければ、大量の現金を寝かせたままじっと待ちつづける。ご察しのとおり、必要ならば何年でも。

The mental approach. I have come to realize that the key to owning only three and betting big has everything to do with Munger's mental approach to the process. To own three and sleep well at night FORCES one to thoroughly know and understand the business. The emphasis and bulk of time is by definition - reading, research, and attacking the problem with a multi-disciplinary approach from all angles. Munger has in essence spent a great deal of his "mental capital" developing a multi-disciplinary list of mental models which allow him to tear apart everything about a business so he has a very in-depth understanding of what he likes and why he likes it. No wonder he has no use for analyst opinion! His goal is a very deep understanding of a select few businesses. Once that mental capital and time is expended and a purchase made, a sell would in essence be a huge waste of his personal and mental resources unless of course something changed fundamentally with the business. When most people approach the investment landscape they use purely inductive thinking - constantly searching for things to buy and new ideas (adding on if you will). An inductive prism inevitably leads to numerous and frequent purchase decisions and a craving for more data. The end result is a portfolio of many names and insignificant portfolio percentages for each - as an example, Peter Lynch was a great inductive thinker and mastered it. Everything I've read of Munger shows that he is a multi-dimensional thinker (inductive AND deductive) with a bias towards deductive thinking (invert always invert). When Munger scans the market he's first looking for things that fit his narrow definition (the inductive part) and then from that list he looks for why he DOESN'T wish to buy (the deductive bias). This deductive bias has the result that Munger significantly narrows the investment universe (far moreso than Buffett), has a maniachial focus on only his few key variables, and then deduces a narrow core of very solid companies. If anything, this core would tend to shrink rather than expand. From this narrow core then when Munger says to "have a prepared mind" he is ready to execute and execute big when one of them falls to an attractive price. Most days he would cross everything off of his narrow list and derive at - no activity. If none of his core is selling at an attractive price then he'll sit on a pile of cash and wait - obviously for YEARS if necessary.

2013年9月26日木曜日

ある投資家が描くチャーリー・マンガー像(1)

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本ブログでは、チャーリー・マンガーに関する記事や彼自身の講演をたびたびご紹介していますが、今回は視点を変えて、ある個人投資家がチャーリーの投資スタイルを考察した文章を取り上げます。ずいぶん前に読んだ文章ですが、チャーリーのことを的確にとらえており、ずっと心に残っていました。

以下のリンク先にある原文は、The Motley Foolの掲示板に2003年6月18日付けで投稿されたものです。文章を書いた人はhartmanbirgeさんです。

The Munger Investment Process (The Motley Fool)

なお日本語(拙訳)は、数回に分割してご紹介します。

2週間を過ごしたアイルランドは物価が高い上に便乗値上げもしていたが(6缶パックが10ドル以上もする)、市場からしりぞいて距離をおき、チャーリー・マンガーがとる行動原理の核心をあらためて考え直す上ですばらしい機会となった。自分の投資思想にもっとも深く影響を及ぼしたのはバフェットよりもマンガーだとわかり、有意義な時間を過ごせた。私がバフェットよりもマンガーを好むのはいくつか理由がある。いちばん大きなものは、ちっぽけな個人投資家たる私が市場をしのぐ成績を達成するために、マンガーの思想は最高の機会をあたえてくれることだ。バフェットが有する「自分の土俵」は広大なもので、そこに至るまで彼は人生をささげてきた。一方、マンガーの興味はもっと多岐にわたり、投資面での彼の「土俵」はずっとせまい。私としては、市場に勝ちつづけていきたい。その一方で、他にもやりたいことがたくさんある。だからこそ、なおさらうまく集中しなければいけない。そこでアイルランドに降る雨を毎日ながめながらその2週間の間に、マンガーはどのような心持ちで投資の世界に取り組むのか理解しようとした。これを読まれているみなさんは、基本的な「マンガーのやりかた」はうまく受けとめているだろうし、マンガーがバフェットに影響を及ぼして純粋なベンジャミン・グレアム方式から質の高いビジネスへとしむけたのもご存じだろう。マンガーの投資思想とは、彼がどのように人生に向き合ってきたかによって生じた副産物なので、まずは「すべきでない」ことは何かをあげてみよう。

1. 分散しすぎる。
2. 借入れをする。
3. 証券の売り買いにいそしむ。
4. 馬鹿にならない額の各種費用を発生させる。
5. 群衆と共に歩む。
6. 魅力のない値段で買う。
7. 平均以下のビジネスを保有する。
8. 複利の法則を捨ておく。
9. つねに意思決定しつづけるよう、自らに強要する。これは各々の決定に費やす時間を減らすことになる。

それらを取り除いて最後に残ったもの、すなわちマンガーが投資を行う際の核心となる原理はつぎのようになる。

1. 投資で成功を収めていくには、カギとなるいくらかの決断に集約される。備えよ、常に。
2. ポートフォリオは質の高い企業数社に集中する。
3. 対象となる企業を、うまい値段で買う。
4. それ以降は、すばらしいビジネスモデルがもたらす卓越した経済性に任せる。

これらは単純な定義ではある。しかしよく考えてみれば、どれだけむずかしいことで、なぜマンガーが彼の発揮する能力ゆえに最上級の存在なのかがわかると思う。実際的な意味では、マンガーはそれほど多くは売買しない。実のところ、まれにしか取引しないと表現できるかもしれない。彼はこう発言してきた。「投資人生で成功することは、両手でかぞえられる決断にまさしく集約される」(バフェットを照らし合せてみれば、まず真実だと言えよう)と。自分の好むものがみつかれば、彼は非常に大きく賭ける。そしていったん決断したら、たいていは非常に長い期間にわたってそこにとどまりつづける。状況がそのような形に収斂するのはまれなことなので、ポートフォリオを分散させるには3社もあれば十分だ、と彼は公言している。たった3社しか保有しないことを考えると 、ふつうの人はぞっとするだろう。では、マンガーはなぜそうではないのか。

A couple of weeks spent in expensive, price gouging Ireland (over $10 for a six pack) was a great opportunity to step back, get away from the market, and do a reexamination on the core principles of Charley Munger. The time was well spent as I have come to realize that it is Munger, more than Buffett, who has had the most profound impact on my investing philosophy. I prefer Munger to Buffett for several reasons? mostly because as a small, individual investor it is Munger's philosophy which gives me the best chance to out-perform. Buffett's circle of competence is huge and he has spent a lifetime getting there. Munger's interests are more diverse and his investing circle of competence narrower. If I'm going to beat the market over time I'd damn well better focus intelligently because there are too many competing demands on my time. So with Irish rain falling every day I spent some of the two weeks trying to figure out how Munger mentally approaches the investment landscape. Most of you have a good idea of some of the basic "Mungerisms" and know that Munger influenced Buffett to transform from a pure Benjamin Graham style to look for high quality businesses. To begin, Munger's investment philosophy is a by-product with how he approaches life…..first look at what NOT to do:

1. Over-diversify
2. Leverage
3. Trade in and out of securities
4. Incur significant friction costs
5. Go with the crowd
6. Buy at unattractive prices
7. Own average to poor businesses
8. Destroy the laws of compounding
9. Force yourself to constantly make decisions which reduces the time spent on each

And by process of elimination we see what's left - Munger's core investing principles:

1. A lifetime of successful investing boils down to several key decisions - prepare your mind
2. Concentrate the portfolio in a few quality businesses
3. Buy the businesses at good prices
4. From there, Allow the superior economics of the great business model to do all the work for you

That is simplicity defined but a closer look I think shows just how hard it is and why Munger is a classic in his own right. In functional terms, Munger does not buy or sell very often - in fact one might characterize his transactions as rare. He has said that a successful investment life really boils down to but a handful of decisions (if you examine Buffett this is pretty close to the truth). When he likes something he makes a very large bet. Once he's made his decision he tends to stay with it for a long long time. As such a convergence of circumstances is rare, he's on record as saying that a portfolio of three companies is plenty of diversification. Most people I think would shudder in horror at the thought of owning only three companies. Why not Munger?

2013年9月24日火曜日

みなさんが受けた教育はまちがっています(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の4回目です。今回は短い上に具体的な事例がないですが、大切なことを言っています。これは、経験や観察に裏付けられたものだと思われます。なお、前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

しかし基本的なモデルをわかっておらず、またモデルを扱うための基本的な思考方法をわかっていなければ、バリュー・ラインのグラフを目の前にしても手持ち無沙汰に終わることでしょう。しかし手をこまねいている必要はないのです。100ほどのモデルを学び、ひとにぎりほどの精神的な技を体得し、人生のあらゆる局面で使いつづけることです。そんなにむずかしいことではありません。

これが麗しいのは、そうやっている人がほとんどいないということです。まちがった教育を受けたのもそうなった理由のひとつですが、みなさんも同じようにまちがった教育を受けたことで危機に見舞われるかもしれません。それを避ける手助けになると思い、今ここで私がお話ししている次第です。

However, if you don't have the basic models and the basic mental methods for dealing with the models, then all you can do is to sit there twiddling your thumbs as you look at the Value Line graph. But you don't have to twiddle your thumbs. You've got to learn one hundred models and a few mental tricks and keeping doing it all of your life. It's not that hard.

And the beauty of it is that most people won't do it - partly because they've been miseducated. And I'm here trying to help you avoid some of the perils that might otherwise result from that miseducation.


近年になって、中学・高校程度の学科を学びなおしたり、うまく活用しようとする本が書店でよく見られます。時代がチャーリーに少しずつ追いつこうとしている、と個人的には感じています。

2013年9月22日日曜日

(映像)ウェスタン・オンタリオ大学基調講演(ローレン・テンプルトン)

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大投資家ジョン・テンプルトンの大姪ローレン・テンプルトンのことは、以前の投稿でご紹介しました。ファンド・マネージャーをつとめる彼女が投資家向けに講演した映像がありましたので、ご紹介します。元ネタはGuruFocusの記事からです。



個人的に参考になったり、おもしろかった話題を、以下に一言要約しています。文頭のやまかっこの数字は、映像開始からの経過時間<分:秒>を示しています。

<12:30> ここからローレンが登場します。それまでは司会役からの紹介です。

登場後しばらくは、ジョンの逸話や彼と接する間に受けた教訓を語っています。これらの話題は、彼女の著書『テンプルトン卿の流儀』でとりあげられたものです。このあたりの時間帯では、ローレンの話し方にまだ固さが感じられます。

<24:50> だんだんエンジンがかかってきて、話しぶりが生き生きとしてきます。

<27:35> 心理学的な話題です。ジョンは心理的バイアスを完全に理解していた、と話しています。

<28:10> 行動ファイナンスの話題の中で、ジェレミー・グランサムのファンドGMOに在籍するジェームズ・モンティエ氏の著書『The Little Book of Behavioral Investing』が紹介されています。わたしは未読ですが、amazon.comのレビューでは好評ですね。

<29:15> 人間がもつ2種類の認知のしかたについて。この話題は本ブログでも取りあげてきましたが(過去記事など)、彼女も重視しているようです。反応がファストな「扁桃体」と、スローで合理的な「前頭葉」を説明しています。

<34:15> バリュー投資家が注目すべき2つの機会をあげています。ひとつは「不人気銘柄」、もうひとつは「悲観のどん底で行動にでること」です。

<35:30> ブラックマンデーのその日、ジョンがスタッフと交わした会話を再現しています。参考になります。

<41:00> 機会を活かすには「ただただ備えること」。「買いたい銘柄一覧」を用意しておくことをすすめています。

<43:25> ジョンにとって、遠く離れたバハマで投資に専念したことが、投資上の成績を高めたとの話題です。ウォーレン・バフェットがオマハに在住していることにも、ふれています。

<48:40> パット・ドーシー氏の意見を引用しながら、バリュー投資家にとって非常に重要なこととして「人間がとる行動をうまく利用する」こともあげています。「これは、もっとも一貫性があることなので」と強調していたのが印象に残りました。たしかに人間は簡単には変われないものですね。

なお、パット・ドーシーについては以前の投稿で取り上げています。またローレンが引用した話題は、「Dorsey: Three Sources of Alpha」(映像)などで説明されているものです。

<50:00> 2005年に発表された、ジョンによる最後のメモの話題です。彼女は一読することを勧めていますが、たしかにそのとおりで、鋭い洞察です。たとえば以下のサイトに文章が掲載されています。

Sir John Templeton's Last Testament: Financial Chaos Will Last Many Years (newsmax)

<51:00> これから将来のことを考えると、何に投資したらよいのか。ジョンから聞いた話を語ってくれます。その答えは、ぜひ映像をごらんになってください。(あるいは、上述のメモの文末でも同じです)

2013年9月20日金曜日

大金持ちになるには(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その8、質疑応答がつづきます。今回の質問は、やや手厳しいです。なお、前回分の投稿はこちらです。(日本語は拙訳)

<質問者> 株式投資を教える学校を開きたいと考えたことはありますか。

<ウォーレン> いいえ、生涯の仕事がありますから。バークシャー・ハサウェイの経営は、これからもつづけていくつもりです。

<質問者> 資金があると、人間は感情に左右されてその使い道を決めてしまう傾向があることが問題になります。これまでメディアなどで見聞きしたところ、あなたは明確で冷静な考えを貫いておられ、すごいなと感じています。たとえば今回の話で東京オフィスの方を登用した件について、ある種の要因をわかりやすいかたちで要約されています。では、株式を買うときにも同じようにしたとして、USエアーやソロモン・ブラザーズのように「はずれ銘柄」になったときは、どんなものなのでしょうか。それらの銘柄が、購入時に期待したような利益をあげてくれなかったのはたしかです。しかしどれだけ時間がたっても、結局はわからないのかもしれませんが。

<ウォーレン> どれか具体的な例でつづけましょうか。

<質問者> 以前にソロモン・ブラザーズのことを「金のなる木」と言われていたと覚えています。ではその株を買うことを決断したうちのどれぐらいが、何年間にもわたる6時間読書や電話での相談や思索の夜といったウォーレン・バフェット的行動によるものだったのでしょうか。また投機家的な感触や直観はどれぐらいだったのでしょうか。ある程度は入っていたのですか。

<ウォーレン> 予感とか直観ではなかったとは言えます。事業の有する今後の経済的見込みを理解しようとじっくり考えましたし、経営陣は信頼に値し、尊敬するに足る人たちか、見極めようとしました。価格が適切かどうかも考えました。そして出した結論が、よき人々に率いられたよい事業であり、値段も適切だというものです。一方で、そのように答えを出せない企業は山ほどあります。ニューヨーク証券取引所に上場されている数千社の企業には、わたしが見解をもっていない企業が非常にたくさんあります。そういった会社のことはよく知っていますが、将来の見通しについては少しもわかりません。ですから「自分の土俵で勝負する」とみずから呼ぶところまで、対象企業の数をしぼりこむようにしています。ここで肝心なのは土俵の広さではないですし、どこを土俵にするかでもありません。どれだけうまく境界線を定めるか、これが大切です。そうすれば、土俵の内側には何があり、外側には何があるのか把握できます。もしわたしに強みがあるとすればおそらく、自分が理解していることをやっているのか、それとも自分が理解していないことをやっているのか、それがわかる点です。これは証券にかかわる仕事をする上でカギとなります。大金持ちになるには、正しい決断をくだして証券をえらぶことが、ほんの何度かできればよいのです。うまい決断を100回もする必要はありません。わたしたちの場合、うまい決断が1年に1回できれば、まずはわたしのパートナー[=チャーリー・マンガー]がおどろきますし、さらにはそれで十分です。まあ、できすぎということです。ですからそれがわたしの目指すところで、今もアイデアをひとつさがしているところです。

しかしあなたのご指摘は正しいと思います。つまり何年間もみてきたあらゆることや、さまざまな読んできたものなどすべてがどこかで一体となり、ある決定を下す際に「自分の土俵の中」にいるという感覚を持ってしまった、という意味です。自分の土俵の中となれば、わたしはよろこんで大きく動きます。本当に理解しているものをちまちまと進めるやりかたは、わたしの信じるところではありません。何をするときでも、小さく進もうと考えたことはありません。そうする理由がないからです。小さくやっているときは、自分の見解に自信がないときです。そういうものはすっかり忘れてしまい、確信のあるほうを取り組みます。

Q. Have you ever thought of opening your own stock school?

A. No, I've got my occupation for the rest of my life. I plan to keep running Berkshire Hathaway.

Q. The problem with money is that it tends to flow toward the emotional part of the human being. And, I guess what fascinates me about you, in what I have observed in the media and so forth, is that you tend to keep a clear, cool head. For example, when you hired that fellow from the Tokyo office, you were adding up certain factors that were tangibles. I wonder if you do the same when you buy stocks, and what happens when they turn out to be "dogs", like USAir and Salomon Brothers. Obviously, those didn't pan out as expected when you bought them; however in the fullness of time, one can never tell.

A. You can probably tell on one of them, anyway.

Q, If you are talking about Salomon Brothers, I think you once referred to them as a cash cow; however, when you buy a stock like that, how much of it is just simply a result of Warren Buffett's many, many years of reading six hours, making phone calls, and thinking at night? Or, how much of it comes down to a gambler's feel or intuition? Is it that much?

A. I would say there is no hunch or intuitiveness or anything of the sort. I mean, I try to sit down and figure out what the future economic prospects of a business are. I try to figure out whether the management is someone or some group I both trust and admire, and I try to figure out whether the price is right. I mean that: It's the right business, the right people, and the right price. There are a whole bunch of businesses don't know the answer on. If you take all the companies on the New York Stock Exchange, a couple thousand plus, I don't have a view on a great many of them. I am familiar with them but I just don't have the faintest idea what is going to happen in the future. So, I try to narrow it down to what I call my "circle of competence". The important thing in your circle of competence is not how big the circle is. It isn't the area of it. It's how well you define the perimeter. So you know when you are in it, and you know when you are outside of it. And, if I have any advantage, it's probably that I know when I know what I'm doing, and I know when I don't know what I'm doing. That's key in the securities business. You have to make very few correct decisions in securities to get very rich. You don't have to do a hundred smart things. If we do one smart thing a year, (a) my partner will be surprised, and (b) that's plenty. I mean, that's more than enough. And, that's all I want to do. So, I'm looking for the one idea.

But you are correct that everything I look at over the years, all the reading I do and everything, comes together at some point in terms of giving me the feeling that this particular decision is within my "circle of competence". And, when it is within it, I'm willing to go very big. I do not believe in taking baby steps when you see something that you really understand. I never want to do anything on a small scale because, what's the reason? If I'm doing it on a small scale because I'm not that sure of my opinion, I'll forget it entirely and go onto something I'm sure about.

2013年9月18日水曜日

価値のとりうる範囲(セス・クラーマン)

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ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』をご紹介しています。前回につづいて第8章「事業価値の算出という技」(The Art of Business Valuation)から引用します。(日本語は拙訳)

価値のとりうる範囲

負債性の証券とは異なり、事業からは契約によって定められるキャッシュフローが得られない。そのため、債券のようには価値を正確に値踏みすることができない。企業ひいてはその部分的な所有権を意味する株式の価値を一点読みするのがむずかしいことを、ベンジャミン・グレアムは理解していた。彼とデイヴィッド・ドッドは著書『証券分析』で、「価値のとりうる範囲」という概念について次のように話題を展開している。


根本的なこととしてあげておきたいのは、証券分析とは対象とする証券の本源的価値を正確に見極めるものではないことだ。価値が適正であることを証明できればよい。たとえば債券の安全性を保証したり、株式を購入する理由を正当化したり、あるいは市場価格とくらべて価値が十分に大きいか、反対に十分に小さいかを示せばよい。そのような目的を達成するには、本源的価値がだいたい概算でわかれば十分と思われる。


実際にグレアムは、「1株当たり正味運転資本」と呼ばれる値を計算することが多かった。これは企業の清算価値を概算で見積ったものだ。このおおまかな近似を使ったことで、企業の価値をそれ以上正確には追究できなかったことを、彼は語らずとも認めている。実は投資家にとって、事業価値を正確に算出するのがむずかしいことは容易に説明できる。企業が売りに出された時にウォール街はたいてい評価額を示すが、これが広い幅にわたることを考えればよいのだ。たとえば1989年には、カンポー社がブルーミングデールズ[デパート]を売り出すことになり、買収を希望する先がないか打診した。またハーコート・ブレース・ジョバノビッチ社は、子会社のシー・ワールドを競売に出した。ヒルトン・ホテルは身売りすることになった。どの案件でもウォール街が出した企業価値の評価額は広い幅にわたっており、最高額は最低額の2倍になった。大量の情報を手にした熟練分析家であっても、注目の集まる評判の高い企業の価値をこれ以上に確信をもって評価できないのだとしたら、限られた公開情報しか入手できない投資家が自分ならばもっと正確にできると盲信すべきではない。

市場というものは、投資家が異なった意見を持っているおかげで存在している。もし証券の価値が正確に判断できるのであれば、見解の相違はずっと小さくなる。そして市場価格があまり変動しなくなり、取引自体も縮小する。ファンダメンタル志向の投資家が買い手にまわるときは購入金額よりも証券の価値が大きくなければならず、売り手のときは売却金額よりも価値のほうが小さくなければならない。そうでないと、取引が生じない。価値を認識する際に、将来に対する仮定が異なっていたり、資産を使うねらいが異なっていたり、異なった割引率を適用することで、買い手と売り手の見解に相違が生じるようになる。売買されるあらゆる資産は、価値の面で幅を持っている。その範囲は買い手による価値から売り手による価値までで、実際に取引される価格はその間のどこかに決まる。

たとえば1991年のはじめには、トンカ社のジャンク債には額面価額よりも大幅に割り引かれた値がついていた。また株式1株の価格は数ドルだった。同社は投資銀行やハズブロ社から売却を打診されたが、あきらかにハズブロは他の買い手よりも多額を支払うつもりだった。なぜなら、2社を合わせることで実現できる経済性を考慮していたからだ。実際のところトンカがハズブロに対して供給したキャッシュフローは、単体当時あるいは他のほとんどの買い手に対するものと比較して、かなり多額なものとなった。トンカの価値に対して、金融市場とハズブロの両者の見解は、鮮やかなまでに異なっていた。その相違は、ハズブロによる買収という形で幕引きとなった。

A Range of Value

Businesses, unlike debt instruments, do not have contractual cash flows. As a result, they cannot be as precisely valued as bonds. Benjamin Graham knew how hard it is to pinpoint the value of businesses and thus of equity securities that represent fractional ownership of those businesses. In Security Analysis he and David Dodd discussed the concept of a range of value:


The essential point is that security analysis does not seek to determine exactly what is the intrinsic value of a given security. It needs only to establish that the value is adequate - e.g., to protect a bond or to justify a stock purchase - or else that the value is considerably higher or considerably lower than the market price. For such purposes an indefinite and approximate measure of the intrinsic value may be sufficient.


Indeed, Graham frequently performed a calculation known as net working capital per share, a back-of-the-envelope estimate of a company's liquidation value. His use of this rough approximation was a tacit admission that he was often unable to ascertain a company's value more precisely.
To illustrate the difficulty of accurate business valuation, investors need only consider the wide range of Wall Street estimates that typically are offered whenever a company is put up for sale. In 1989, for example, Campeau Corporation marketed Bloomingdales to prospective buyers; Harcourt Brace Jovanovich, Inc., held an auction of its Sea World subsidiary; and Hilton Hotels, Inc., offered itself for sale. In each case Wall Street's value estimates ranged widely, with the highest estimate as much as twice the lowest figure. If expert analysts with extensive information cannot gauge the value of high-profile, well-regarded businesses with more certainty than this, investors should not fool themselves into believing they are capable of greater precision when buying marketable securities based only on limited, publicly available information.

Markets exist because of differences of opinion among investors. If securities could be valued precisely, there would be many fewer differences of opinion; market prices would fluctuate less frequently, and trading activity would diminish. To fundamentally oriented investors, the value of a security to the buyer must be greater than the price paid, and the value to the seller must be less, or no transaction would take place. The discrepancy between the buyer's and the seller's perceptions of value can result from such factors as differences in assumptions regarding the future, different intended uses for the asset, and differences in the discount rates applied. Every asset being bought and sold thus has a possible range of values bounded by the value to the buyer and the value to the seller; the actual transaction price will be somewhere in between.

In early 1991, for example, the junk bonds of Tonka Corporation sold at steep discounts to par value, and the stock sold for a few dollars per share. The company was offered for sale by its investment bankers, and Hasbro, Inc., was evidently willing to pay more for Tonka than any other buyer because of economies that could be achieved in combining the two operations. Tonka, in effect, provided appreciably higher cash flows to Hasbro than it would have generated either as a stand-alone business or to most other buyers. There was a sharp difference of opinion between the financial markets and Hasbro regarding the value of Tonka, a disagreement that was resolved with Hasbro's acquisition of the company.

2013年9月16日月曜日

ほとんどのMBAの学生が答えられない(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の15回目です。今回は5つ目のあやまちの話題ですが、すでに本シリーズ以前の過去の投稿で核心的な部分を取り上げています。以下のリンク先記事をごらんになられていない方は、はじめにそちらをお読みください。(日本語は拙訳)

(問題)ビジネス・スクールの学生への質問
(回答)ビジネス・スクールの学生への質問

なお、前回分はこちらです。

5) 経済学において、総合がほとんどなされていないこと

経済学に対する5番目の批判は、「総合」がほとんどなされていない点です。伝統的な経済学以外のものと組み合わせないだけでなく、経済学の領域内においてもそうしていません。2ヶ所のビジネススクールで次の質問を投げかけたことがあります。「みなさんは需要曲線と供給曲線のことを学習されたと思います。通常は、価格を上げるにつれて売れる量が減少し、反対に価格を下げると売れる量が増加する。これはみなさんが習ったとおりですね」。学生は一同にうなずきました。「それではお聞きしますが、物理的にたくさんの量を売りたい時に値上げするのが正解なのは、どんなものがありますか。例をいくつかあげてください」。そう質問すると、なんとも不気味な静寂がしばらくつづきました。ついにはどちらの学校でも、50人に1人ぐらいの割合で例を1つあげることができました。ある状況下では高い価格が品質をおおよそあらわすことになり、売り上げ増加につながるとの考えに至ったのです。

私の友人のビル・バルハウスという人がこれを実践しました。彼は、精密機器を製造する会社ベックマン・インストルメンツのトップでした。製品に瑕疵があって問題がおきれば、購入者に深刻な害をあたえるものでした。原油の油井ポンプではないですが、そのような例を思い浮かべてもらえればよいでしょう。他社製品よりも優れているのに売上げがかんばしくなかったのですが、彼はその理由に気づきました。他よりも値段が安かったため、品質の劣った機器だとみなされていたのです。そこで20%ほど値上げしたところ、売上数量が増加しました。

しかし、現代のビジネス・スクールでようやくこの一例をあげられた人は、50人に1人の割合でした。片方の学校はスタンフォードのビジネス・スクールです。入るのがむずかしい学校ですね。しかも私が聞きたかったほうの答えをあげた人はいまだ皆無です。もし値段を上げて、浮いたお金で競合の購買代理人を買収したらどうなると思いますか(笑)。うまくいくでしょうか。「値上げと売上増加分によってさらに売上げを向上させる」という考えと同等にはたらくものが、経済学つまりミクロ経済学に存在するでしょうか。そうです、ひとたび心理的に跳躍すれば無数に考えられるようになります。単純なことですね。

最たる例が資産運用業界です。ミューチュアル・ファンド[=投資信託]のマネージャーとなれば、さらなる売上げ増を求めるものです。ですからふつうは、手数料を上げようと思いつきます。もちろんそうすれば最終顧客のものとなる投資対象の口数を減らし、その投資対象の購入単価を上げることになります。浮いた手数料分は、販売代理人を買収するのに使います。つまりブローカーを買収して顧客を裏切らせ、顧客の資金を手数料の高い商品へ投資させるわけです。このやりかたがうまくいき、ミューチュアル・ファンドの売上げは少なくとも1兆ドルに達しています。

このたくらみには人間の本性の望ましくない一面があらわれています。私はこれを固く遠ざけて生きてきたことを申し上げておきますが、自分で買いたいと思わないものを売りつける、そのようなことに人生を費やす必要はないでしょう。合法的なものであったとしても、いい考えだとは思えません。しかし私の考えを額面どおりに受けとってはなりません。雇用されないおそれがあるからです。「どこかが雇ってくれればいいさ」というリスクを避けたければ、私の考えにしたがうべきではありません。

ここでお話ししたちょっとした質問は私が見聞きしてきたことです。これは、たとえ高度な学問的環境であっても、経済に関する問題を考える場では、いかに総合がなされていないかを示した一例となっています。明白な回答ができる、わかりきった問題についてですよ。しかし、経済学の科目を4つとったあとにビジネス・スクールに進学し、高いIQをそなえて小論文をこなす人であっても、役に立つ総合ができないのです。そのようにお粗末なのは、なんでもわかっている大学教授が、学生へ教えるのをあえて控えているせいではありません。教授たち自身がこういった総合を、全然うまくやれないのが原因です。他のやりかたで訓練を受けてきたのですね。ケインズかガルブレイスのどちらだったか思い出せませんが、こう発言しています。「経済学の教授はその方策を知っているがために、もっとも効率的にふるまう」。彼らは大学院で学んだことを使って、小さな成果をあげるのでしょう。その後の人生の間に(笑)。

5) Too Little Synthesis in Economics

My fifth criticism is there is too little synthesis in economics, not only with matter outside traditional economics, but also within economics. I have posed before two different business school classes the following problem. I say, "You have studied supply and demand curves. You have learned that when you raise the price, ordinarily, the volume you can sell goes down, and when you reduce the price, the volume you can sell goes up. Is that right? That's what you've learned?" They all nod yes. And I say, "Now tell me several instances when, if you want the physical volume to go up, the correct answer is to increase the price." And there's this long and ghastly pause. And finally, in each of the two business schools in which I've tried this, maybe one person in fifty could name one instance. They come up with the idea that, under certain circumstances a higher price acts as a rough indicator of quality and thereby increases sales volumes.

This happened in the case of my friend, Bill Ballhaus. When he was head of Beckman Instruments, it produced some complicated product where, if it failed, it caused enormous damage to the purchaser. It wasn't a pump at the bottom of an oil well, but that's a good mental example. And he realized that the reason this thing was selling so poorly, even though it was better than anybody else's product, was because it was priced lower. It made people think it was a low-quality gizmo. So he raised the price by twenty percent or so, and the volume went way up.

But only one in fifty can come up with this sole instance in a modern business school - one of the business schools being Stanford, which is hard to get into. And nobody has yet come up with the main answer that I like. Suppose you raise that price and use the extra money to bribe the other guy's purchasing agent? (Laughter). Is that going to work? And are there functional equivalents in economics - microeconomics - of raising the price and using the extra sales proceeds to drive sales higher? And, of course, there are a zillion, once you've made that mental jump. It's so simple.

One of the most extreme examples is in the investment management field. Suppose you're the manager of a mutual fund, and you want to sell more. People commonly come to the following answer: You raise the commissions, which, of course, reduces the number of units of real investments delivered to the ultimate buyer, so you're increasing the price per unit of real investment that you're selling the ultimate customer. And you're using that extra commission to bribe the customer's purchasing agent. You're bribing the broker to betray his client and put the client's money into the high-commission product. This has worked to produce at least a trillion dollars of mutual fund sales.

This tactic is not an attractive part of human nature, and I want to tell you that I pretty completely avoided it in my life. I don't think it's necessary to spend your life selling what you would never buy. Even though it's legal, I don't think it's a good idea. But you shouldn't accept all my notions because you'll risk becoming unemployable. You shouldn't take my notions unless you're willing to risk being unemployable by all but a few.

I think my experience with my simple question is an example of how little synthesis people get, even in advanced academic settings, considering economic questions. Obvious questions, with such obvious answers. Yet, people take four courses in economics, go to business school, have all these I.Q. points, and write all these essays, but they can't synthesize worth a damn. This failure is not because the professors know all this stuff and they're deliberately withholding it from the students. This failure happens because the professors aren't all that good at this kind of synthesis. They were trained in a different way. I can't remember if it was Keynes or Galbraith who said that economics professors are most economical with ideas. They make a few they learned in graduate school last a lifetime. (Laughter).

2013年9月14日土曜日

「他の人を先に」と祈る(『わたしたちの体は寄生虫を欲している』)

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少し前の投稿で、脳における認知のしくみを記した文章を『脳のなかの天使』から引用しました。今回ご紹介する文章も似た話題で、今度は別の本『わたしたちの体は寄生虫を欲している』から引用します。「恐怖という感情」についてです。

まずは脳が恐怖を感じるしくみについてです。

恐怖を感じたとき(あるいは、後に述べるように、怒りを感じたとき)、あなたの心臓は激しく鼓動する。それは、副腎の滑車が動きだし、扁桃体から、より原始的な部分である脳幹に、信号が送られるからだ。「恐怖モジュール」と呼ばれるこのシステムは、主に、「逃走」か(頻度は低いものの)「闘争」によって捕食者に対処するために進化したものだが、脅威を感じただけで発動する厄介なシステムでもある。恐怖やそれに先立つ衝動は、周囲の状況を誤解している場合さえある。扁桃体の一部は、常時、「怖い、怖い」というシグナルを出しているらしい。そして、ほとんどの場合、扁桃体の他の部分がそのような信号を抑えている。だが、恐怖を引き起こすものを見たり、聞いたり、経験したりすると、その抑制は解除され、脳の中で爆発が起きたかのように、瞬時に恐怖が全身を駆けめぐるのである。(p.161)

以前の投稿で引用した文章には「視床下部」という言葉がありましたが、これは上の文章(3行目)の「脳幹」に含まれる部位です。

次の引用は「人間が恐怖を感じるようになった経緯」についてです。いまさらと思われるかもしれませんが、本書のような視点で改めてふりかえってみると、われわれの身体がどのようにできているのか、ずっと納得できます。

人間と大型の捕食動物の歴史の大半において、わたしたちは間違いなく獲物であり、そのことが数百万年前に進化した脳内の恐怖モジュールを持続させ、人類が進化するにつれてそれはより精巧なものになっていった。わたしたちの系統に捕食者を見つけようとするなら、4本の足とトカゲのような尻尾を持ち、体が鱗に覆われていた時代にさかのぼらなければならないだろう。当時でさえわたしたちは、捕食者であると同時に被食者であったはずだ。3億年にわたってわたしたちは「やめて! 食べないで!」と叫ぶ動物だったのだ。

また4つの根拠から、人間はつい最近まで食べられていたことがわかっている。1つ目は、実際に人間が捕食された事件が数多く記録されていることだ。植民地時代のインドでは、トラは1年に1万5,000人以上の人を食べていたらしい。またアフリカでは、タンザニアだけで1990年から2004年の間に、少なくとも563人がライオンに殺された。トラやライオンだけではない。ピューマ(≒クーガー)も人を食べる。ジャイアント・イーグルは人間の子どもを食べる。さまざまな種のクマも人を食べる。オオカミ、ヒョウ、アリゲーター、クロコダイル、サメ、そしてヘビまでもが人間、特に子どもを食べる。しかもこうした事件は、捕食者の数も種類も少なくなった近年になっても起きているのだ。(p.163)


人間はじつに無防備な動物であり、足を1本なくしたヌーやおとなしい乳牛を別にすれば、足を骨折したり歯をなくしたりした捕食動物にとって、唯一、簡単に捕まえられる獲物なのだ。わたしたちは暗いところではほとんど何も見えないので、祖先たちは夜、洞窟にいるときに音が聞こえたら、しゃがみ込んで耳をすまし、もしそれがトラやクマなどの大型肉食動物であれば、どうか他の人を先に食べてくれるようにと祈った。(p.162)


なお題名から察して、本書の話題は寄生虫ばかりと想像されるかもしれませんが、その話題は前半部だけです。それ以外にも人類の過去を振り返った上で、さまざまな話題を展開しています。内容はむずかしくなく、楽しんで読める一冊です。

2013年9月12日木曜日

中世の僧による唯一の知的発明(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの(再考)世知入門の3回目です。前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

マイクロソフト社のCTOを務めていたナット・ミルボルド博士は私の友人ですが、この点で困惑していました。物理学の博士号をもつ彼は数学に熟達していたので、微分方程式を迅速かつ自動的に解ける能力を持つ神経器官を、綿々たる生命の営みが創り出せたことに納得がいかなかったのです。彼からみれば人間とは、確率や数字を扱うとなると、いずこにおいてもまるっきり不器用な存在でした。

ミルボルドがそのことで惑わされるのはちがうと思います。彼のようにものごとを正確に考える必要がでてくるずっと以前は、我々の祖先はいわゆる「適応度地形」(fitness landscape)によって、槍を投げたり、駆け回ったり、角を曲がったりといったやりかたを覚えるように強いられてきたのです。ですから、彼はそんなにおどろくべきではありません。しかし、その隔たりはずいぶんと極端なので、不条理だと感じているのは理解できます。

それはともかく、数字を操作する点では我々人類は不得手に生まれついているので、この現実を乗りこえるために、ひとつのシステムを発明しました。それが「グラフ」と呼ばれるものです。おもしろいことに、これは中世に発明されています。私の知るところでは、中世の僧によるもので何かしら価値のある知的発明は、これが唯一でした。グラフを使うと、数字を動きのある形で表現できます。これは体内のある原始的な神経系をうまく利用しており、人間にとって理解しやすくなります。だから、バリュー・ライン[四季報のような企業情報誌]のグラフはとても役に立つわけです。

今回お配りしているグラフは対数の方眼紙ですが、自然対数表をもとに描かれています。これは複利という基礎的な数学にもとづくもので、この世界でもっとも重要なモデルのひとつです。このグラフがこのような形をしているのは理由があるのです。

対数の方眼紙上で点を直線で結んでグラフを書けば、複利の利率がどうなるのか示してくれます。こういったグラフは実に便利なものです。

ところでバリュー・ラインの予測は私はあてにしていません。我々自身のほうがうまくやれるからです。まあ、実のところはずっとうまくですが。しかし、あの会社のグラフやデータがなかったらとは想像できないものです。ほんとうにすばらしい製品ですね。

My friend, Dr. Nat Myhrvold, who's the chief technology officer at Microsoft, is bothered by this. He's a Ph.D. physicist and knows a lot of math. And it disturbs him that biology could create a neural apparatus that could do automatic differential equations at fast speed - and, yet, everywhere he looks, people are total klutzes at dealing with ordinary probabilities and ordinary numbers.

By the way, I think Myhrvold's wrong to be amazed by that. The so-called fitness landscape of our ancestors forced them to know how to throw spears, run around, turn corners, and what have you long before they had to think correctly like Myhrvold. So I don't think he should be so surprised. However, the difference is so extreme that I can understand how he finds it incongruous.

At any rate, mankind invented a system to cope with the fact that we are so intrinsically lousy at manipulating numbers. It's called the graph. Oddly enough, it came out of the Middle Ages. And it's the only intellectual invention of the monks during the Middle Ages I know of that's worth a damn. The graph puts numbers in a form that looks like motion. So it's using some of this primitive neural stuff in your system in a way that helps you understand it. So the Value Line graphs are very useful.

The graph I've distributed is on log paper - which is based on the natural table of logarithms. And that's based on the elementary mathematics of compound interest - which is one of the most important models there is on earth. So there's a reason why that graph is in that form.

And if you draw a straight line through data points on a graph on log paper, it will tell you the rate at which compound interest is working for you. So these graphs are marvelously useful....

I don't use Value Line's predictions because our system works better for us than theirs - in fact, a lot better. But I can't imagine not having their graphs and their data. It's a marvelous, marvelous product....

2013年9月10日火曜日

投資というプロセスにおける決定的な点(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットが1994年にネブラスカ大学でおこなった講演その7です。前回と同じように有名な話題がつづきますが、講演全体の文脈の一部としてとらえれば、また違う印象でうけとめられるかと思います。(日本語は拙訳)

<質問者> 将来を占うとしたら、これから数年間はどのセクターの株に着目していきますか。どういった種類の株が流行ると思いますか。

<ウォーレン> ずいぶん学術的な質問ですね。少しばかり仮想的なところがありますね。

<質問者> 1日をどのように過ごされているのですか。

<ウォーレン> 核心をついてきますね。そうですね、文章を読むのに大量の時間をあてています。最低でも6時間ですが、まあそれ以上でしょう。そのほかに、1,2時間は電話で話します。あとは考えています。そんなところでしょうか。バークシャーには会議というものがありません。したことがないのです。全国にビジネスを展開しているので従業員は約2万名になっていますが、[子会社の]マネージャーとの会議に出たのはこの20数年で一度だけです。健康保険の話題をしたきりです。ですが、彼らがオマハに来たことはありません。プレゼンもしないのでプロジェクターなどは一切不要です。取締役会は1年間に一度、年次株主総会の直後にやります。昼食をとりながらで、それでおわりです。ずばり言いますと、会議がきらいなのです。これまで自分が楽しめるようなものごとを築いてきました。たくさん読むのが好きですし、いろいろ考えることもそうです。自分でビジネスを大きくしたり、ビジネスを始めるのでしたら、自分が楽しめないものを築き上げるのは、わたしからすればなにかおかしい感じがします。絵を描くのと同じです。完成したときに作品をながめて、よろこびを感じるような絵を描くべきですね。

さて、この午後に何を買うべきかという最初の質問にはお答えしませんでした。というのは、どうすればいいのかよくわからないからです。株式市場がどうなるのか、ある銘柄の株価が近いうちにどうなるかは、わたしにはまったくわかりません。わたしたちは、株式を事業の一部分とみなして保有するようにしています。これは、投資というプロセスにおける決定的な点だと考えています。株式のことをただの銘柄コードと考えたり、単に値段が上がったり下がったりするものなどと考えず、自分が所有する事業だと考えるようにしてください。[ネブラスカ大学のある街]リンカーンでビジネスを買う決断をするかのように考えるのです。クリーニング店や食料雑貨をあつかう小売店などを買おうとなれば、買った事業を明日売ろうかとか来週売ろうかなどとは、ふつうは考えないものです。そうではなく、長期的にみて良い事業なのかどうか検討するでしょう。それがわたしたちが実践していることです。ですからバークシャーのポートフォリオには、わたしたちが所有したいと願うたぐいの事業がならんでいるのがご覧いただけるかと思います。

最大の保有銘柄はコカ・コーラですが、ジレットにも大きく投資しています。その2社は、それぞれの業界でもっとも支配的な位置にある企業です。また変化が激しくない企業でもあります。その世界が急速に変化するようなものには投資したいとは考えていません。変化をうまく見極めたり、こちらの先生よりもうまくやれるとは思えないからです。ですから本当に買いたいと思っているのは、すごく安定していて非常に良好な経済性を有していけるものです。コカ・コーラ社は全世界の清涼飲料水の47%を販売しています。世界中で1日に飲まれる量は、1杯8オンス[=約250ml]換算で7億5,000万杯になります。もし製品の値段を1ペニー[=0.01ドル]値上げできれば、税引前利益が25億ドル増えることになります。わたしが理解できるのはこういうことです。またジレットですが、この会社もすばらしいです。世界中のひげそり用かみそりの替え刃を、ドル換算にして60%以上供給しています。夜になって寝床に入ると、こう考えます。わたしが寝ている間に何十億人という男性の顔にだまっていてもひげが伸びてくるのだなと。それこそ、ぐっすり眠りにつけるわけです。

Q. If you could look in your crystal ball, what kind of sector stocks would you look into in the next few years? What kind of stocks do you think will boom?

A. That's an academic question if I ever heard one. Just a little theoretical.

Q. What exactly do you do all day?

A. Getting right to the core here, aren't you? I spend an inordinate amount of time reading. I probably read at least six hours a day, maybe more. And I spend an hour or two on the telephone. And I think. That's about it. We have no meetings at Berkshire. We've never had. We have businesses around the country; we have some 20,000 employees, but we've only had one meeting of our managers in the twenty-some years I've been there, to talk about health care - one time. But, they never come to Omaha. We never have presentations. We don't have a slide projector. We don't do any of that sort of thing. Our board of directors meets once a year, right after the annual meeting. We have lunch and that's it, because I hate meetings, frankly. I have created something that I enjoy: I happen to enjoy reading a lot, and I happen to enjoy thinking about things. It is a little crazy, it seems to me, it you are building a business and creating a business, not to create something you are going to enjoy when you get through. It's like painting a painting. I mean, you ought to paint something you are going to enjoy looking at when you get through.

Now, I know I'm avoiding your first question about what I should buy this afternoon. I don't think much about that. I don't think at all about what the stack market will do or what given stocks will do in the very short term. We do try to own, and to look at stocks, as pieces of businesses. And, that is crucial in my view to the investing process; that is, to not think about a stock as a little ticker symbol or something that goes up or down, or something of the sort, but to think about the business that you own.... Some way if you were deciding on a business to buy in Lincoln. You might think about buying a dry cleaning store or a grocery store or whatever. You wouldn't think about what this business is going to be selling for tomorrow or next week or anything. You would think about whether it's going be a good business over a long period of time. And that's what we try and do. So, if you look at the portfolio of Berkshire, you will see the kind of businesses that we like to own.

Our biggest single holding is Coca-Cola. We own a lot of Gillette. Those are two of the most dominant companies in the world in their field, And they are also companies that are not subject to a lot of change. We don't want to own things where the world is going to change rapidly because I don't think I can see change that well or any better than the next fellow. So, I really want something that I think is going to be quite stable, that has very good economics going for it. Coca-Cola sells 47% at all the soft drinks in the world. That is seven hundred and fifty million eight-ounce servings a day around the world. That means if you increase the price of Coke one penny, you would add two and a half billion dollars pre-tax to the earnings. So, that's the kind of thing I can figure out. And, Gillette, I mean Gillette is marvelous. Gillette supplies over 60% of the dollar value of razor blades in the world. When I go to bed at night and think of all those billions of males sitting there with hair growing on their faces while I sleep, that can put you to sleep very comfortably.


本ブログを始めて3年目に入りました。いつもお読みになってくださる方にはお礼申し上げます。これからもよろしくお願い致します。

2013年9月8日日曜日

事業価値の算出という技(セス・クラーマン)

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ファンド・マネージャーのセス・クラーマンの著書『Margin of Safety』からご紹介します。今回から、第8章「事業価値の算出という技」(The Art of Business Valuation)をとりあげます。なお、前回分はこちらです。(日本語は拙訳)

投資先の価値は厳密に見定めている、と強調する投資家が多い。この不確実なる世界において正確さを求めているのだ。しかし事業の価値とは正確に決められるものではない。報告に出てくる簿価や純利益、キャッシュフローといったものは結局のところ、会計士がかなり厳格な基準や慣行に準拠することでなされる最善の予測でしかない。それらは経済的な価値を反映するというよりも、基準に適合させるという意味で設計されたものにすぎない。そのため予測によって描かれる姿は、それほど正確なものにはならない。自分の家の価値を数十万円の誤差で査定することはできないだろう。ならば、巨大で複雑な事業の価値を求めるのは簡単なことだと言えるだろうか。

事業価値とは正確に把握できるものではない上に、数多くの要因が揺れ動く中で時とともに変化する。それらの要因にはマクロ経済的なものや、ミクロ経済的なもの、市場に関するものがある。投資家はどのようなときにも事業の価値を厳密に見測ることはできない。それにもかかわらず、予想される価値をほぼ絶え間なく見直しつづけ、評価に影響すると思われるあらゆる既知の要因を織りこんでいかねばならない。

事業価値を正確にはかろうとする試みはどのようなものであれ、精密だが不正確な価値を導き出してしまう。これは精緻に予測する能力を、正しく予測できることと混同しやすい点に問題がある。正味現在価値(NPV)や内部収益率(IRR)は、電卓さえあれば計算できる。NPVでは、将来のキャッシュフローを現在まで割り引いて評価することで、投資対象の価値をひとつの数値として算出する。IRRでは将来のキャッシュフローと支払う金額を想定し、お望みの数値の精度で投資からのリターン率を計算する。NPVとIRRを計算すると、結果にあらわれる外見上の精度があやまった確信を投資家に抱かせてしまう。しかし計算の正確さは、算出に使われる想定キャッシュフローの正確さを超えるものではない。

コンピューターで表計算ソフトを使える時代になり、この問題はいっそう悪化した。詳細かつ周到な分析ができるとの幻想が生まれたのだ。たとえ最高に無計画な試みであってもだ。一般に投資家は、出てくる結果には非常に重きをおくが、それに対して仮定のほうはほとんど顧みることがない。「元が悪けりゃ、結果も悪い」とは、このプロセスをあらわすのにぴったりの表現と言える。

一連のキャッシュフローがもたらすリターンを集約する上で、 NPVは絶対額を、IRRはパーセンテージを見事なほどに示してくれる。たとえば債券のようにキャッシュフローが契約時に定まっており、すべての支払いが期限通りになされるのであれば、IRRは正確なリターン率を投資家に示してくれる。一方のNPVは、想定される割引率に対する投資の価値を表現する。債券に投資するのであれば、ある一連の仮定、たとえば契約上の支払いが期限通りになされるとすれば、それらの計算によってリターンがどうなるかを定量化できる。しかし、実際に契約上のすべての支払いをうけて、投資家が予想通りのリターンを達成できるかという確率を求めるとなると、そういった手段は役に立ってくれない。(p.118)

Many investors insist on affixing exact values to their investments, seeking precision in an imprecise world, but business value cannot be precisely determined. Reported book value, earnings, and cash flow are, after all, only the best guesses of accountants who follow a fairly strict set of standards and practices designed more to achieve conformity than to reflect economic value. Projected results are less precise still. You cannot appraise the value of your home to the nearest thousand dollars. Why would it be any easier to place a value on vast and complex businesses?

Not only is business value imprecisely knowable, it also changes over time, fluctuating with numerous macroeconomic, microeconomic, and market-related factors. So while investors at any given time cannot determine business value with precision, they must nevertheless almost continuously reassess their estimates of value in order to incorporate all known factors that could influence their appraisal.

Any attempt to value businesses with precision will yield values that are precisely inaccurate. The problem is that it is easy to confuse the capability to make precise forecasts with the ability to make accurate ones. Anyone with a simple, hand-held calculator can perform net present value (NPV) and internal rate of return (IRR) calculations. The NPV calculation provides a single-point value of an investment by discounting estimates of future cash flow back to the present. IRR, using assumptions of future cash flow and price paid, is a calculation of the rate of return on an investment to as many decimal places as desired. The seeming precision provided by NPV and IRR calculations can give investors a false sense of certainty for they are really only as accurate as the cash flow assumptions that were used to derive them.

The advent of the computerized spreadsheet has exacerbated this problem, creating the illusion of extensive and thoughtful analysis, even for the most haphazard of efforts. Typically, investors place a great deal of importance on the output, even though they pay little attention to the assumptions. "Garbage in, garbage out" is an apt description of the process.

NPV and IRR are wonderful at summarizing, in absolute and percentage terms, respectively, the returns for a given series of cash flows. When cash flows are contractually determined, as in the case of a bond, and when all payments are received when due, IRR provides the precise rate of return to the investor while NPV describes the value of the investment at a given discount rate. In the case of a bond, these calculations allow investors to quantify their returns under one set of assumptions, that is, that contractual payments are received when due. These tools, however, are of no use in determining the likelihood that investors will actually receive all contractual payments and, in fact, achieve the projected returns.

2013年9月6日金曜日

私たちはいつも幻覚を見ている(神経科学者V・S・ラマチャンドラン)

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前回引用した『脳のなかの天使』から、もう一度ご紹介します。今回は視覚の話題です。ものを見たときに人間がどのように認知するのか、著者が考察を加えています。

おもにコンピュータ科学者によって持続されている素朴な視覚のとらえかたでは、視覚は逐次的、階層的に像を処理しているとみなされている。生のデータが画素、すなわちピクセルとして網膜に入り、そこから次々と各視覚野に、バケツリレーのように渡されて、しだいに高度な分析がそれぞれの段階でおこなわれ、最終的な物体の認知にいたるという考えかたである。この視覚モデルでは、各段階の視覚野からそれより下位の視覚野に戻される大量のフィードバック投射が無視されている。そうした逆投射はきわめて大量なので、階層という言いかたには語弊がある。私の直観するところでは、各処理段階において、入力データについての部分的な仮説、もしくは最適の推量が生みだされ、それが下位の領野に戻されて、その後の処理に小さなバイアスがかけられる。いくつかの最適推量が優位を争う場合もあるだろうが、最後には、そうしたブートストラッピングもしくは逐次代入を通して、最終的な知覚の解決がつく。あたかも視覚は、ボトムアップではなく、むしろトップダウンではたらいているかのようだ。

実を言うと、知覚と幻覚との境界は、私たちが考えるほど明瞭ではない。ある意味で私たちは、世界を見るときいつも幻覚を見ている。知覚とは、しばしば断片的かつ短命な入力データにもっともよくあう幻覚を選ぶ行為であるとみなしても、ほとんどさしつかえがないくらいだ。幻覚とほんものの知覚は、同じ一連のプロセスから生じる。決定的にちがうのは、何かを知覚しているときは、外界の事物の安定性がその固定を助けるという点である。幻覚を起こしているとき、たとえば夢うつつの状態にあるときや、感覚遮断タンクのなかで浮かんでいるときには、事物はどんな方向にでもさまよう。(p.323)


最初の赤字強調部分で示唆されている内容は重要なことだと思います。階層的に認知上のバイアスがかかるというのは、別な表現をすれば「違う種類の落とし穴がならんで待ち受けている」ということです。これに対するチャーリー・マンガーやウォーレン・バフェットの解決策は、やはり見事です。たとえば意思決定上のフィルターを階層的に設けたり(過去記事1過去記事2)、学問上の知恵を借りるときは普遍的で信頼性の高いものから特殊なものへ進むように説いています(過去記事など)。

もうひとつ、こちらの引用はおまけです。

しかしながら、近年の調査によると、天使を見たことがあると回答している人の割合は、アメリカ人全体のおよそ3分の1で、その頻度はエルヴィス目撃談をうわまわる。(p.281)

2013年9月4日水曜日

脳のなかの近道(神経科学者V・S・ラマチャンドラン)

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心理学者ダニエル・カーネマンが著書『ファスト&スロー』で、人間が持つ2つの思考機能について説明していることを、以前の投稿でとりあげました。その主張を解剖学的な観点から説明する文章をみかけましたので、ご紹介します。最近読んだ本『脳のなかの天使』からの引用です。おそらくカーネマンも、そのような知見を参考に持論を展開したと思われます。

上の2つの本における用語の対応関係ですが、以下の文章に登場する「経路1」と「経路2」が「スロー」な思考に、そして「経路3」が「ファスト」に対応しています。

経路1と経路2に加えて、もう一つ、対象物に対する情報的反応に関与する、より反射的な別の経路もあるらしい。私はそれを経路3と呼んでいる。経路1と2が「いかに(How)」と「何(What)」の流れだとすれば、経路3は「それで(So What)」の流れと考えることができる。この経路では、目、食べ物、顔の表情、生命のある動き(たとえばだれかの歩きぶりや身ぶり)といった生物学的に突出性のある刺激が、紡錘状回から側頭葉の上側頭溝(STS)と呼ばれる領域に向かい、そこを通って扁桃体に直行する。言いかえれば経路3は、高次の対象認知(と経路2を通して呼び起こされる関連のさまざまなものごと)をバイパスして近道をとり、情動の中核をなす辺縁系への入り口である扁桃体に、すみやかに到達する。この近道はおそらく、生得的であるか後天的に学習されたものであるかにかかわらず、重要度の高い状況に対するすばやい反応を促進するために進化したものと思われる。

扁桃体は過去に貯蔵された記憶や辺縁系のほかの構造体と協同して、あなたが見ているものの情動的な意味や重要性を評価する。それは友だちか、敵か、配偶相手か? 食べ物か、水か、危険か? それともどうということのないものか? もしそれが重要ではないものだったら--ただの丸太や、糸くずや、風に鳴っている木だったら--あなたはそれに対して何も感じず、おそらくそれを無視するだろう。しかしそれが重要なものだったら、ただちに何かを感じる。そしてそれが強い感情だったら、扁桃体から出る信号が視床下部にも流れこむ。視床下部はホルモンの放出を調整しているほかに、自律神経系を活性化させて、摂食、闘争、逃走、求愛など、状況に応じた適切な行動をするための準備態勢をとらせる。そうした自立反応には、心拍数の増加、浅く速い呼吸、発汗など、強い情動をあらわすさまざまな生理的徴候がともなう。人間の場合は扁桃体が前頭葉とも結びついており、それが基本的な情動の混合に微妙な趣(おもむき)を加味するので、単なる怒りや欲望や恐怖だけではなく、傲慢、プライド、警戒、あこがれ、闊達さなども生じる。(p.100)


本ブログではこの種の話題をたびたびとりあげていますが、個人的には「人間はまちがえるようにできている」と考えるようになりました。これは、「人間が進化的にあやまった種だ」という意味ではなく、「現代の特定の局面では、人間の持つ機能はあやまちを導きやすい」という意味です。チャーリー・マンガーはその宿命を回避する鍵を示しているようにみえます。たとえばウォーレン・バフェットとコンビを組むことで意思決定のあやまちを減らしたり、物事を探求するお手本としてチャールズ・ダーウィンのやりかたを説きつづけています(過去記事の例)。

なお脳神経からとらえた投資の本としては、ジェイソン・ツヴァイクが書いた『あなたのお金と投資脳の秘密』を以前にご紹介しました(過去記事)。今となってはよく知られている話題も少なくないですが、総じておもしろく読めた一冊でした。

2013年9月2日月曜日

「最良」の投資家になる方法(ボブ・ロドリゲス)

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わたしの好きなファンド・マネージャー、ボブ・ロドリゲス氏がバリュー投資の情報誌からのインタビューに応じていました。彼のファンドFPAのWebサイトに、記事が掲載されているPDFファイルがアップロードされています。今回は、同氏が語る見事な運用ぶりの秘訣をご紹介します。(日本語は拙訳)

Value Investor Interview with Bob Rodriguez and Dennis Bryan (FPA) (PDFファイル)

<質問> ファンドのポートフォリオは現在30銘柄を下回っていますね。これはいつものことですか。

<デニス・ブライアン> 概して言えば、20から40の銘柄を保有しています。そのうち上位10銘柄がポートフォリオ全体の40-50%を占めています。この水準まで集中させているのは、保有するどの銘柄でも差をつけることができるようにと考えているためです。私たちの信条からすればもっと集中しても問題ないのですが、銘柄数をしぼりすぎると価格変動が大きくなり、顧客のほうでよく問題になってしまうのです。

<ボブ・ロドリゲス> 実際に私は、1984年の6月30日からこの方針をとりつづける実験をしたことがあります。IRA口座[個人が運用する退職年金口座。運用時は非課税]を開設し、そこで当社のキャピタル・ファンド(Capital Fund)が保有する株式だけにずっと投資してきました。ただし銘柄数は最大5つまでに限定しました。株を買うのはファンドが買い付けた後になってから、売るのもファンドが売却した後に、と決めました。これを始めてから2009年12月31日までに、その最終日は私が運用の第一線から引退した日ですが、キャピタル・ファンドは複利でおよそ年率15%増加しました。一方のIRA口座は、複利で年率24%増でした。その上乗せ分がなぜ生じたのかを考えると、集中度を高めたことと、他者が感情的になって資金の出入りを決めることに左右されなかったのが原因だと思います。このやりかたをする私こそ、「最良」の投資家だったのです。(p.4)

Your portfolio today has fewer than 30 positions. Is that typical?

DB: Generally speaking, we have 20 to 40 positions, with 40-50% of the portfolio in the top ten. That level of concentration is simply a function of wanting every position to potentially be a difference maker. Philosophically we would have no problem with concentrating even more, but clients often have a problem with the volatility that comes with having fewer holdings.

RR: I actually have an experiment going on this front since June 30, 1984. I have an IRA account that was set up then and over that period has only been invested in stocks that the Capital Fund has owned, but with never more than five holdings at a time. I'll buy a stock only after the fund buys it and sell only after the fund sells it. From June 30, 1984 to December 31, 2009, when I stepped down from lead management, the Capital Fund had compounded at approximately 15% per year. But this IRA account had a compound rate of return of 24%. I attribute that premium to the higher concentration and to the fact that at no point has this account been affected by the inflows and outflows resulting from others' emotional decision making. I was the only investor.


すぐれた投資家の行動を注視するやりかたは、少し前にも取り上げました。上で引用したボブ・ロドリゲスの場合は自分で自分を参考にしていて若干趣向が異なっていますが、同類としてあつかえると思います。

共食いをさがせ(モーニッシュ・パブライ)
マクドナルド、いただきます(モーニッシュ・パブライ)

ところで、年率24%増だと約3年間で2倍になる計算です。いわゆる10年強で10倍のペースですね。これを課税口座で達成するのは容易ではないと感じています。証券投資というものは、つくづく興味深い世界だと思います。

2013年9月1日日曜日

ビリヤードでもテニスでもチェスでもない(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる講演『経済学の強みとあやまち』の14回目です。前回だされた問題の答えにあたる部分です。(日本語は拙訳)

視覚と手指を反射的に協調させることが多く要求されるものではないでしょう。85歳にもなる人が全国ビリヤード大会で勝てることはないですから。テニスともなればなおさらで、まずあり得ません。さらに彼は指摘しました。チェスも無理ですね。この物理学者はとてもうまい指し手なのです。なぜならば、厳しいゲームだからです。システムが非常に複雑ですし、多大なスタミナも要求されます。ここまできて彼は思いあたり、チェッカーのことに思い至りました。「ああそうか、そのゲームなら85歳になった時でもいろいろ経験してきたことが最高位へと導いてくれますね」。

はたして、それが正解でした。

それはともかく、逆方向と順方向に発想を逆転させながら、そういった頭で考える謎解きをすることをお勧めします。併せて経済学の世界では、ここで示したような小さなスケールでのミクロ経済学に熟達するのがよいでしょう。

It can't be anything requiring a lot of hand-eye coordination. Nobody eighty-five years of age is going to win a national billiards tournament, much less a national tennis tournament. It just can't be. Then, he figured it couldn't be chess, which this physicist plays very well, because it's too hard. The complexity of the system and the stamina required are too great. But that led into checkers. And he thought, "Ah ha! There's a game where vast experience might guide you to be the best even though you're eighty-five years of age."

And sure enough that was the right answer.

Anyway, I recommend that sort of mental puzzle solving to all of you, flipping one's thinking both backward and forward. And I recommend that academic economics get better at very small-scale microeconomics as demonstrated here.