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2012年4月29日日曜日

最も信頼できるモデルとは(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知の続きです。一言で取り上げているものもありますが、今回は広い範囲にわたっています。本シリーズの先頭にあたる過去記事はこちらです。(日本語は拙訳)

さて、最も信頼できるモデルにはどのようなものがあるか、挙げていきましょう。当然ですが、純粋科学や工学の分野で培われたものがいちばん信頼できます。それから品質管理もそうです。これもフェルマーやパスカルの初歩的な数学に基づくものですが、私のようなプロの技術屋でない人は、少なくとも基本的な概念はおさえておきたいものです。

品質管理を学ぶにはそれなりに時間がかかります。でもそうしておけば、このモデルが示す考えからはみださなくなります。中学校でやる数学がわかっていれば大丈夫です。これの結実した一例が、デミングが日本にもたらした一連の品質管理手法ですね。

ふつうは、統計学を器用に使いこなせるレベルまで達する必要はないと思います。わたしなどは「Gaussian分布」[ガウス分布]をどう発音するのか、よくわからないぐらいです。ですが、それがどういう形に分布するもので、物事や世の中の多くの側面がその分布に従うことは理解しています。つまり、大雑把には計算できるというレベルですね。

一方、ガウス分布に従うものを小数点以下10桁まで計算しろといわれたら、これはお手上げです。習熟はしていないけれどうまくやれる程度にパスカルを学んだポーカー・プレイヤー、といったところです。

わたしぐらいには釣鐘曲線を理解しておく必要はありますが、それだけあれば十分うまくやれます。

先に進みます。工学上の概念としてバックアップ・システムや破断点がありますが、これらはとても強力なモデルです。物理学上の概念である臨界量も強力です。

こういったモデルは、日常的な物事をみつめる際にも、とても役に立ってくれます。それから費用便益分析もありました。これは中学レベルの代数がわかっていれば十分ですが、おおげさな専門用語で飾り立てられている感がありますね。

次に信頼できるモデルとしては生物学と生理学をあげたいと思います。というのは我々自身が遺伝を通じて、だいたい同じになるように仕組まれているからです。

Which models are the most reliable? Well, obviously, the models that come from hard science and engineering are the most reliable models on this Earth. And engineering quality control - at least the guts of it that matters to you and me and people who are not professional engineers - is very much based on the elementary mathematics of Fermat and Pascal.

It costs so much, and you get so much less likelihood of it breaking if you spend this much. It's all elementary high school mathematics. And an elaboration of that is what Deming brought to Japan for all of that quality-control stuff.

I don't think it's necessary for most people to be terribly facile in statistics. For example, I'm not sure that I can even pronounce the Gaussian distribution, although I know what it looks like and I know that events and huge aspects of reality end up distributed that way. So I can do a rough calculation.

But if you ask me to work out something involving a Gaussian distribution to ten decimal points, I can't sit down and do the math. I'm like a poker player who's learned to play pretty well without mastering Pascal.

And, by the way, that works well enough. But you have to understand that bell-shaped curve at least roughly as well as I do.

And, of course, the engineering idea of a backup system is a very powerful idea. The engineering idea of breakpoints - that's a very powerful model, too. The notion of a critical mass - that comes out of physics - is a very powerful model.

All of these things have great utility in looking at ordinary reality. And all of this cost-benefit analysis - hell, that's all elementary high school algebra. It's just been dolled up a little bit with fancy lingo.

I suppose the next most reliable models are from biology/physiology because, after all, all of us are programmed by our genetic makeup to be much the same.


2012年4月28日土曜日

ポートフォリオの流動性について(セス・クラーマン)

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今回は、ヘッジ・ファンドのマネージャーであるセス・クラーマンの著書『Margin Of Safety』から、流動性の大切さを説いた一節をご紹介します。(日本語は拙訳)

ポートフォリオが長期投資の視点で組まれていれば、流動性が大きな問題になることは、ほとんどないでしょう。いざというときには即座に現金化する必要があるので、完璧なまでに流動性を高くしておかなければならない、といった投資家は稀だと思います。ですが、唐突に現金化しなければならないこともあります。その場合、現金化できないことで払う機会費用は大きいので、流動性がまったくないポートフォリオというのも問題です。じっとこらえた末に十分に報われるのであれば流動性の悪い大きなポジションをとりつづけることもありますが、ほとんどの場合はバランスのとれたポートフォリオにするべきです。

Most of the time liquidity is not of great importance in managing a long-term-oriented investment portfolio. Few investors require a completely liquid portfolio that could be turned rapidly into cash. However, unexpected liquidity needs do occur. Because the opportunity cost of illiquidity is high, no investment portfolio should be completely illiquid either. Most portfolios should maintain a balance, opting for greater illiquidity when the market compensates investors well for bearing it.


個人的には、流動性が高くない銘柄ばかりのポートフォリオを組んでいるので、市場全体が大きく下落しているときにうまく売れることは期待していません。そのため、下落時に買い続けられる程度の資金は残すようにしています。状況によりますが、半年から9ヶ月ぐらい下がり続けることを想定して、買うペースや待機させておく資金を調整しています。下がっているときでないと買えないという性格なので、途中で株価が反騰しはじめて、思ったほど買えなかったことはよくあります。

2012年4月27日金曜日

自動車、航空機、テレビ。何が共通しますか(ウォーレン・バフェット)

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今回はウォーレン・バフェットによる2009年度「株主のみなさんへ」からの引用で、「自分たちが避けること」についてです。(日本語は拙訳)

チャーリーとわたしは、製品がどんなに魅力的でも将来がどうなるのか評価できないビジネスは、避けるようにしています。過去をふりかえってみると、自動車(1910年)、航空機(1930年)、テレビ(1950年)といった業界には、誰の目からみてもすばらしい成長が待っていました。しかし、その種の業界には激しい競争がつきもので、ほとんどの会社は競争に敗れ、消え去っていきました。生き残った会社のほうも傷を負ったものです。

業界が今後大きく成長するのが明らかだからといって、競合との覇権争いが繰り広げられるビジネスでは、利益率や資本収益率がどうなるのか判断できるわけではありません。あくまでもバークシャーが目を向けるのは、数十年先の利益がまずまず予測できるようなビジネスです。そうであっても、過ちは絶えないものですが。

Charlie and I avoid businesses whose futures we can’t evaluate, no matter how exciting their products may be. In the past, it required no brilliance for people to foresee the fabulous growth that awaited such industries as autos (in 1910), aircraft (in 1930) and television sets (in 1950). But the future then also included competitive dynamics that would decimate almost all of the companies entering those industries. Even the survivors tended to come away bleeding.

Just because Charlie and I can clearly see dramatic growth ahead for an industry does not mean we can judge what its profit margins and returns on capital will be as a host of competitors battle for supremacy. At Berkshire we will stick with businesses whose profit picture for decades to come seems reasonably predictable. Even then, we will make plenty of mistakes.

2012年4月25日水曜日

自分のやりかたで解く(リチャード・ファインマン)

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最近読んだ本『ファインマンさんの流儀』は、彼の業績や評判を軸に展開される伝記です。物理のことはだいたい忘れてますし、量子物理学の話にはほとんどついていけませんでしたが、ファインマンの天才ぶりはよくわかりました。

今回は同書からの引用で、ファインマンのやりかたについてです。チャーリー・マンガーは様々なモデルを使いこなすことの利点を説いていますが、なかでも基礎的な学問を重視しています(過去記事)。自分のやり方にこだわるファインマンが、その好例をみせてくれます。

実際、リヒスがほんとうにその会社、<シンキング・マシンズ>社を始めたとき、ファインマンは1983年の夏じゅう、ボストンで(カール[息子]と共に)過ごさせてくれと申し出た。ただし、ヒリスの願いに沿って自分の科学専門知識に基づいて、全般的で曖昧な「助言」をすることについては、そんなことは「でたらめの山」だからできないと言って拒否し、なにか「具体的な仕事」をくれと要求した。結局彼は、並行計算が実際にちゃんと行えるようにするために個々のルーターに必要なコンピュータ・チップの数は何個かという問題に対する解を導き出した。彼が導き出したこの解がすばらしかったのは、伝統的なコンピュータ・サイエンスの技法を一切使わず、その代わりに、熱力学や統計力学を含む物理学のさまざまな考え方を使って定式化されたものだったからだ。そして、なお重要なことに、その会社のほかのコンピュータ技術者たちが出した推定値とは一致しなかったけれども、実際にはファインマンのほうが正しかったのであった。(p.340)

2012年4月24日火曜日

ブラジルが一緒に詰めて輸出しているもの

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前回記事に続いて『食の終焉』からの引用の最終回です。今回は農業や畜産業で成長著しいブラジルについてです。

農家がいまだに分厚い表土の恩恵を受けているアメリカ中西部や黒海地方とは違い、南米の森林地帯の多くは表土が薄く、有機物の少ない強酸性の土壌であるため、開墾され作付けが行われても、ほかの地域で行われてきたような集約的農業に十分に耐えられない。そのような土地では、有機物の消失が急速に進み、それによって収穫量が徐々に落ち込み、表土流出の危険性が高まると、農家はその土地を放棄して新しい土地に移るしかないが、そのためにまた新たな森林伐採が必要となる。言ってみれば、ブラジルは輸出する大豆の袋や冷凍鶏肉の箱の中に、安い労働力やすでに逼迫している水資源や土資源を一緒に詰めて輸出しているようなものなのだ。

育種の専門家で、中南米で調査を行ったジョージア大学のチャールズ・ブラマー(Charles Brummer)教授は言う。「ブラジルが次の100年も作付け面積を増やせると考えるのは馬鹿げている。彼らは沼地を干拓したり、森林の伐採をさらに進めたりすることはできるだろう。しかし、それはすでに彼らが、延命措置によって生きていることを意味している」(p.399)

ブラジルはこれからの経済成長が期待されている大国として明るい面ばかりみていましたが、それなりの影がかくれているのですね。

2012年4月22日日曜日

スナック菓子が食事を占める割合

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前回の記事に続いて『食の終焉』からの引用です。今回は食品メーカーのマーケティングやR&Dについてです。

まずはブランドについて。
ほとんどの加工食品において(ついでに言えば、ほとんどあらゆる消費者製品についてもこれはいえる)、消費者は首位のブランドをあたかもそれがより高い価値を持つ製品であるかのように扱い、その価値を手に入れるためであれば、消費者は喜んで割高の代金を支払ってくれる。具体的には、消費者は売上トップのブランドには2位のブランドよりも最大4パーセントまでの割高な代金を、3位のブランドよりも7パーセント余分な代金を支払う意思がある。その3つの製品が本質的に同一のものであったとしてもだ。(p.97)

次は嗜好に関する研究結果です。
ネスレ、クラフト、ハインツなどの会社は、味と嗜好の謎をデータ化することに成功した。それだけでなく、私たちが何を好んで食べるか、そしてそれをなぜ好むのか、その理由まで、私たち自身が認識している以上に、彼らは私たちのことをよく理解している。彼らは塩味やカリカリ感への嗜好性が性別、年齢、民族性、国民性によってどう変わるかも、正確に把握している。年長者は味蕾の衰えもあって濃い味を好み、アジア人は塩気のあるパリッとしたスナックに目がなく、アメリカ人は新しい味に夢中になりやすいが、マカロニやミートローフのような「郷愁を感じさせる味」にも弱く、これまで慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられないことも、彼らはすべてお見通しなのだ。(p.102)

「慣れ親しんだ味からそう簡単には離れられない」理由を、ネスレ社のあるマネージャーは次のように説明しています。
「人間はこと食べ物のことになると、昔からとても保守的にできています。かつて狩猟採集民だった頃から、何か急な味の変化を感じ取ったとき、それを何かの警告として受け取る習性が身に付いているからです」
(p.84)

最後は、スナック菓子のマーケット調査結果です。
世界中の食品販売を分析しているイギリスのデータモニター(Datamonitor)社は、平均的なアメリカ人は3日に1回は朝食を抜いていて、さらに昼食と夕食を抜く回数も増え始めていると分析している。このような傾向は消費者の健康には恐ろしく悪いことだが、食品会社にとってみればまた新たなチャンスの訪れを意味している。消費者が日常の食事の回数を減らせば、それを補完するために、利益率の高い食物カテゴリーであるスナック菓子を多く食べるようになるからだ。データモニター社によると、現在アメリカでは、スナック菓子がすべての食事の約半分を占めるまでになっているという。(p.105)

2012年4月21日土曜日

インスタントコーヒーのあけぼの

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投資に役立つヒントを求めて、マクロな視点の本も少しずつ読んできました。水資源、食糧、省資源、気候、地球温暖化、大企業の社会的問題といったものです。最近読んだ本『食の終焉』はこれらの話題を包含するような力作です。本書の主題は、ビジネスに取り込まれてしまった「食」を様々な観点からとらえ、警鐘をならすことにあります。情報量が多い本は消化不良でおわったり、主旨がふらつくことがありますが、本書にはあてはまりません。著者はひとつひとつの話題をそれなりに掘り下げ、互いをつなぎあわせ、自らの主張を織り込み、読みごたえのある文書をつくりあげています。邦訳のほうも、幅広い分野にわたる原文に追いつくだけでなく、なめらかな日本語へと置き換えています。ビジネスや世界情勢を理解するのに役立つ知識はもちろん、社会や我々の中にある闇をみつめるきっかけも得られるでしょう。個人的には、今年読んだ中でベスト3に入れたい本です(これから読む本も含めて)。

同書の中から印象に残った文章をいくつかご紹介します。今回はインスタントコーヒー商業化のいきさつについてです。

もちろん、消費者の時間不足だけが食品メーカーをインスタントコーヒーなどのお手軽食品の開発に駆り立てたわけではない。そもそも、ネスレがインスタントコーヒーを考案したのは、消費者が手軽に入れられるコーヒーを望んでいたからではなく、コーヒー豆の価格が生の状態で売るには安くなり過ぎたからだった。1930年代、ブラジルのコーヒー農園はアメリカの穀物農場のように非常に広大になったため生産効率が高くなり、コーヒー豆の市場はだぶついていた。コーヒー相場は大幅に下落し、ブラジル人はコーヒー豆を機関車の燃料として燃やすほど持て余していた。困ったコーヒー産業の関係者たちは、需要喚起を願って、もっと消費者に手軽なコーヒー製品を開発するようネスレに懇願した。コーヒーの加工は初めてだったが(当時ネスレは主に牛乳を扱う会社だった)、その時のネスレの幹部らの推測は正しかった。余った豆をもっと手軽に使えるような形に変えることができれば、消費者はより多くのコーヒーを飲むだけでなく、喜んで生の豆の相場よりも高い金額を支払うだろうと考えたのだ。

このように未加工の農産物を加工して利益をもたらすような製品に変換することを「付加価値」と呼ぶが、この程度のことは今日、あらゆる商品を対象に当たり前のように行われているため、それが食品加工産業の成功とその特性に、どれほど中心的な役割を果たしてきたかをついつい見逃しがちである。穀物相場の下落は農場主の首を絞めていたかもしれないが、安い穀物をコーンフレークやキンダーミールに変えることで加工費を原材料費に上乗せして受け取っていたケロッグやネスレなどの加工業者には、逆の効果があった。確かに千年以上前から職人たちは穀物や牛乳、肉に付加価値を付けてきた。ワインから発酵という付加価値をなくせばただのブドウである。しかし大量生産と市場出荷という新しい手段のおかげで、付加価値は、未加工農産物の生産者が手に入れられなかった潜在的利益を食品会社にもたらした。(p.92)

2012年4月20日金曜日

TOPIX Core30ひとかじり (5)パナソニック

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当社は消費者向け製品も多く、おなじみの企業なので、詳細に立ち入る必要はないかと思います。そこで今回は以下の3点に着目して、当社の現状把握としておきます。

1.セグメント毎の営業利益率
当社ではセグメントという表現で事業を大きく分けています。どれも売上高が1兆円を超えるものばかりです。セグメントというよりも、企業グループといった趣きです。以下の表は少し前の2010年度の営業成績です。

#セグメント製品例売上高(10億円)営業利益(10億円)営業利益率(%)
1デジタルAVCネットワークテレビ、デジカメ3,3031143.5%
2アプライアンス冷蔵庫1,275927.2%
3電工・パナホームLED、住宅1,735724.2%
4デバイス半導体926323.6%
5三洋電機電池全般1,561△ 8-0.5%
6その他FA機器1,197524.4%
(出典:当社アニュアルレポート DATA BOOK 2011)

質のほうに目を向けると、いずれのセグメントでも営業利益率が10%に届いていません。以前取り上げた信越化学工業のような企業とくらべると(過去記事)、業種も規模も違いますが水をあけられています。


2.事業毎の営業利益率

下の図は、もっと細分化された事業レベルでの営業利益率のイメージです。ただし、上の表とは時期が異なっており、2011年度第3四半期までの営業成績です。

(出典:当社プレゼンテーション「収益力強化の取組み」 スライドp.4)










当社の不振ぶりが昨今騒がれていますが、その元凶がひとめでわかります。左側が赤字事業で、テレビ及び半導体です。


3.テレビ事業について
なぜテレビ事業が急激に失速したのか。液晶テレビのような家電製品の安値販売に対して、世間では「コモディティー化」と呼んでいますが、特に国内での販売状況を見ると需給バランスの悪化が目につきます。2011年夏の地上波デジタル移行に向けて、テレビ製造各社が進んだ道を振り返ってみましょう。

下の図は、ここ数年間の国内での薄型テレビの販売台数実績をまとめたものです。調査会社の資料ではなく、各製造会社のIR資料から独自に推測したものなので、精度はかなり大雑把です。また主要4社のみ対象としています。







国内の世帯数は約5,000万世帯で(総務省統計から)、1世帯あたりのテレビ保有台数は2.5台です(平成19年3月の消費動向調査から)。このことから、マーケットの大きさは12,000万台前後とみられます。それに対して、上記の図では2010年度末には7,000万台に達しており、それ以前に販売されていた台数も含めれば、飽和するのが遠くない状況です。買い替えサイクルは約10年なので、飽和後に期待できる年間販売台数は1,200万台強。この図の4社で均等に分け合っても、1社あたり300万台です。

この図は過去の実績をさかのぼってまとめたものですが、各社で薄型テレビのマーケティングや事業戦略を練る際には、このような需給予測は行っていたはずです。精度はずっと高いものでしょう。国内マーケットはいずれは縮小し、設備過剰に陥ることも予想されていたでしょう。それなのに、なぜ今回のような道を選んだのか。個人的にはその一つとして、前回記事で取り上げた「競合動向を軽視」していた可能性を挙げたいと思います。「そうではない。自社が売らなければ他社を利する」とゲーム理論的に考えたのかもしれません。真偽のほどはわかりませんが、2,000億円の減損は小さくはありません(出典: 2011年度第3四半期決算概要スライドp.11)。既に払ったお金であればサンクコストに過ぎませんが、お金の使い方という観点では当社を見る目は厳しくなったのではないでしょうか。

2012年4月18日水曜日

ぱっと考える、じっくり考える(セス・クラーマン)

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今回ご紹介するのは、ヘッジファンド・マネージャーのセス・クラーマンが投資家に向けて書いた2011年度の年次報告からで、おなじみの主題「判断の誤り」についてです。(日本語は拙訳)

心理学者のダニエル・カーネマンは経済学の分野で活躍しており、人の判断や意思決定における合理的モデルを開拓した業績に対して[俗に言う]ノーベル経済学賞を受賞しました。さらに研究を進めた彼が最近になって出版した作品も、注目に値するものです。題名は『ぱっと考える、じっくり考える』[邦訳は未刊行]。自分たちは常に合理的に行動していると考えている人が本書を読むと、がっかりさせられるかもしれません。ですが、カーネマンは人間を非合理な生き物だと決めつけているのではなく、人は常に合理的だと考えるのは現実には即していないと言っているだけです。カーネマンはこう考えています。「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、日常的に入ってくる何百万もの情報に対して自動的に反応する。この反応はぱっとでてくるが、そこそこ信頼できるものだ。このシステムは友人と敵を見分けたり、無害な食べ物と有害なものを選り分けたりする。いつも使う道路を運転する際にも働いており、目的地に着いたときには何をどう運転してきたのか思い出せないぐらいだ。そう、システムその1は世の中で生きていくには欠かせないものなのだ。一方、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている。システムその1は特に計算せずに2 + 2 = 4のような答えを出せるが、17 * 24のような問題にはシステムその2が必要になる。落ち着いて考えなければ解けないからだ」。

Daniel Kahneman, a psychologist who won the Nobel Prize in Economic Sciences for his work that challenged a rational model of judgment and decision-making, recently published a remarkable account of his intellectual journey: Thinking, Fast and Slow. The implications for those who believe that we are always rational actors are quite disheartening. Kahneman does not, by the way, brand people as irrational; he simply believes that the idea that we are always rational actors does not hold water. Kahneman thinks of the human brain as operating on two systems simultaneously. System One, the fast brain, is mostly on autopilot-responding to millions of inputs on a daily basis, forming quick and mostly reliable impressions. System One helps us discern friend from foe, or edible from poisonous. It controls our driving on a familiar highway, so that when we arrive at our destination, we hardly remember how we got there. We need System One to navigate the world. System Two is slow. System One knows that two plus two is, four without doing the math. System Two is needed to know what 17 times 24 equals', We have to slow down and think.


続いて、セス・クラーマンは、システムその1を使う場合の危険性に触れています。

システムその1を使って、簡単な問いではなく難解な問いに答えようとすると、失敗しやすくなります。物事を単純化しすぎることの危うさを示す例として、コリン・キャメラーという学者が最初に注目した「競合動向の軽視」という概念を紹介しましょう。これは、ある会社が自分たちの強みばかりに目がいってしまうと、実は競合他社も同じような力をつけていて、顧客をうばいとってきたり、いい商売の機会をみつけようと動くのを見逃しかねない、というものです。もうけ話が眠っているニッチをみつけるには、自分の能力を正しく見極めるだけではなく、競争相手の能力や意図のほうも考えることが不可欠なのです。これはビジネスでも投資でも同じことです。

When System One substitutes an easier question for a harder one, it is easy to make mistakes. Colin Camerer coined the concept of "competition neglect," which illustrates one of the dangers of oversimplification. When a business only focuses inward on its own strengths, it can miss the fact that its competitors may be equally strong and pursuing the same customers and business opportunities. Figuring out profitable niches to exploit-in business or in investing--depends not only on correct identification of your own capabilities, but also the capabilities and intentions of your competitors.


ダニエル・カーネマンは行動経済学の大家で、その手の本を読むたびにお目にかかる名前です。今回の引用で出てくる『Thinking, Fast and Slow』は遠からず翻訳されるでしょうから、楽しみに待つことにします。なお、題名の『ぱっと考える、じっくり考える』は私の勝手訳です。

2012年4月16日月曜日

ここより永久に(ジョン・メイナード・ケインズ)

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ケインズといえば経済学の大家として有名です。なじみの少ない人でも、歴史の教科書あたりで見聞きしたことがあるものです。しかし、投資家としての彼の手腕は、それほど知られていないものです。数年前までは、わたしも知りませんでした。

今回は、少し前のThe Wall Street Journalの記事Keynes: One Mean Money Managerから引用します。(日本語は拙訳)

資産運用を始めた頃のケインズは、今で言うところの「マクロ派」だった。金融や経済上の動きを注視し、株・債券・現金の間で資産をローテーションした。また外貨や商品にも投資していた。イングランド銀行の理事だったころには、金利政策の変更のような内部情報を知ることのできる立場にいたが、その情報をもとに投資したという証拠は残されていない。

しかし、ケインズはすぐれたマクロ派マネージャーというわけではなかった。英国株式市場とくらべると、1928年までの成績は散々だった。1929年の秋の時点では[世界恐慌の直前]、自身のポートフォリオの83%を株式に投資していた。

「市場の動きを読むのは難しい」チャンバース氏は述べる。「ケインズは奮闘しましたが、比類なき情報網をもってしても1929年の下落は予見できなかったのです」

その後、ケインズはまったく違うやり方をとることにした。「トップダウン」で資産運用するのをやめて、「ボトムアップ」で銘柄をみつけることにしたのだ。彼がのめりこんでいったのは、割安な値がついている中堅以下の企業だった。

ケインズはまた、割安だとにらんでいる産業へ大きな賭けをした。1936年には、ポートフォリオの2/3を鉱山株が占めていた。銀行やエネルギーには一銭も投じていなかった。彼の予想は的中し、南アフリカのゴールドを採鉱する会社は通貨下落の恩恵を受けた。

ケインズは、大手の投資家がそろって債券に向かうときに、株式を買うような人種の先駆けだったが、それだけではない。悠然とリスクをとることができたので、例えば自分の資産の半分を、すっかりほれ込んだ5銘柄に集中させたこともある。たいていの場合、買った株式は5年間は手放さなかった。「いったん投資したら、結婚と同じように永久に離れられないことにしましょう」と冗談交じりにいったものだ。(今日の平均的な米国株ファンドでは、上位5銘柄の占める割合は19%に過ぎない。また、銘柄の平均的な保有期間は15ヶ月間ほどである)

Keynes began as what we would today call a "macro" manager, relying on monetary and economic signals to rotate in and out of stocks, bonds and cash. He traded foreign currencies and commodities. As a director of the Bank of England, Keynes was privy to inside information about interest-rate changes, although there isn't evidence that he traded on it.

But Keynes wasn't a very good macro manager. He lagged behind the British stock market miserably until 1928, and he had 83% of his primary portfolio in stocks going into the fall of 1929.

"It's hard to time the markets," Mr. Chambers says. "Keynes struggled with it, and then he missed the 1929 crash?even with an unrivaled network of information sources."

So Keynes made a series of radical changes: He switched from being a "top down" asset allocator to a "bottom up" stock picker. He tilted sharply toward undervalued small and midsize companies.

Keynes also made titanic bets on industries he thought were cheap; by 1936, he had 66% of his portfolio in mining stocks and not a farthing in bank or energy shares. South African gold companies, he correctly foresaw, would benefit from falling currency values.

Keynes wasn't only a pioneer in owning stocks when most big investors favored bonds. He also relished risk, concentrating as much as half of his assets on his favorite five holdings or, as he called them, his "pets." Keynes clung to his typical stock for more than five years at a time. Only partly in jest, he had proposed making "the purchase of an investment permanent and indissoluble, like marriage." (Today, the average U.S. stock fund has only 19% in its five biggest positions and hangs on to its typical stock for just 15 months.)

2012年4月15日日曜日

飢えた犬が骨に食らいつくような光景

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最近読んだ本『ハイパーインフレの悪夢』は、その時代に生きた人々の思いや世相が伝わってくる一冊です。インフレが高じたメカニズムを解明する類の本ではありませんが、歴史から何かを学ぼうとする人にとっては一読に値する本だと思います。

今回は同書からの引用で、1923年11月6日ごろに、あるイギリス人実業家がベルリンで見た光景です。第一次世界大戦でドイツが敗れ、1919年6月にヴェルサイユ条約を受諾した時点での為替レートは、1ポンド=20マルクでした。一方、この文章が書かれたのはハイパーインフレの末期で、1ポンド=3100億マルクまで減価していました。

わたしは自分が目にした光景に気分が悪くなりました。たまたま、フリードリヒシュトラッセとウンターデンリンデンのあいだのアーケードを通りかかったのです。するとその狭い空間に、ほとんど死にかけた3人の女がいました。肺病か飢餓の最終段階にあるようでした。おそらく飢餓のほうでしょう。女たちには施しを求める力さえありませんでしたが、わたしが無価値なドイツの札をひと束与えると、必死になってそれをつかもうとしました--飢えた犬が骨に食らいつくように。それを見て、わたしは衝撃を受けました。わたしはドイツびいきではありませんが、休戦から5年が経つ今、わたしたちがこのような事態を容認しているとは驚きです。ああいう惨めなものを見たことがない人たちに、ここの実情がほんとうに理解できるのか、疑問に思わざるをえません。(中略)もちろんベルリンでは、自動車や、ぜいたくに暮らす裕福な人々も見かけます。しかし貧しい地区で何が起こっているか、ご存知ですか?食糧を求める長い行列を見れば、説明は無用でしょう。(p.245)

2012年4月14日土曜日

これは最低だな(チャーリー・マンガー)

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過去記事「順列や組み合わせ」に続いて、チャーリー・マンガーが世知にあげているのが「会計」です。なお、本シリーズの先頭にあたる過去記事はこちらです。(日本語は拙訳)

当然ですが、会計の知識は不可欠です。ビジネスの現場で語られる言葉ですからね。この有用な概念は、文明社会の発展に寄与しました。かつて地中海世界を経済力で席巻したヴェニスでうまれ育ったとのことですが、しかし複式簿記はすごい発明ですね。

会計を理解するのはそれほど難しくはありません。

ですが、会計にも限界があることは重々承知しておくべきです。会計で表される数字は大雑把なもので、あくまでも出発点に過ぎないからです。限界を知るのも、それほど難しくありません。例えば、ジェット機の耐用年数はと聞かれたら、大体のところで予想するしかないでしょう。償却率をそれっぽい数字に決めるでしょうが、だからといって自分でひねり出した予想が現実に即したものになってくれるわけではありません。

会計の限界について、わたしの好きな逸話があります。カール・ブラウンというすばらしい事業家の話です。彼はC. F. ブラウン・エンジニアリングという原油の精製プラントを設計、施工する会社をおこしました。この手のビジネスは技術的な難易度がかなり高いのですが、ブラウン氏は職人芸を発揮して、納期を守り、爆発事故を起こすこともなく、効率の高いプラントを建設してきました。

生粋のドイツ人気質をもっていたブラウン氏には、一風かわったところがありました。たとえば、標準的な会計規則をプラント施工の仕事に適用するところをみて、「これは最低だな」とした一件。

彼は経理屋をみんなお払い箱にし、技術者たちに向かって言ったのです。「これからは、うちの作業にあうように、会計のほうをあわせていくことにする」。そして時がたってみると、会計規則のほうがカール・ブラウン氏のやりかたを採用することになりました。彼は、会計の重要性だけでなく、その限界を知ることも大切だと示してくれたのです。並はずれた強い意志と能力を兼ね備えた人でした。

Obviously, you have to know accounting. It's the language of practical business life. It was a very useful thing to deliver to civilization. I've heard it came to civilization through Venice, which, of course, was once the great commercial power in the Mediterranean. However, double-entry bookkeeping was a hell of an invention.

And it's not that hard to understand

But you have to know enough about it to understand its limitations - because although accounting is the starting place, it's only a crude approximation. And it's not very hard to understand its limitations. For example, everyone can see that you have to more or less just guess at the useful life of a jet airplane or anything like that. Just because you express the depreciation rate in neat numbers doesn't make it anything you really know.

In terms of the limitations of accounting, one of my favorite stories involves a very great businessman named Carl Braun who created the C. F. Braun Engineering Company. It designed and build oil refineries - which is very hard to do. And Braun would get them to come in on time and not blow up and have efficiencies and so forth. This is a major art.

And Braun, being the thorough Teutonic type that he was, had a number of quirks. And one of them was that he took a look at standard accounting and the way it was applied to building oil refineries, and he said, “This is asinine.”

So he threw all of his accountants out, and he took engineers and said, “Now, we'll devise our own system of accounting to handle this process.” And, in due time, accounting adopted a lot of Carl Braun's notions. So he was a formidably willful and talented man who demonstrated both the importance of accounting and the importance of knowing its limitations.


余談ですが、私の場合、株式投資を始めたころは会計のことはあまりわかっていませんでした。財務諸表を読んで企業分析のまねごとをするうちに、知識を少しずつ身につけていったものです。そのうち、仕事の関係で簿記や決算に携わる機会がありました。実際に仕訳をしたり、固定資産の減価償却費を計算したり、税額を計算したりすることで、財務会計の基本を体で理解できました。チャーリーが言うように難しい概念ではないのですが、実際に手を動かすことで、いろいろ合点できるところがありました。貸借対照表が巨大な恒等式であることを肌身で感じられたのは、自分にとってよい経験でした。

そのこともあって、企業分析を行う際には損益計算書だけでなく、貸借対照表も大いに気にします。資産がどのように使われているのか調べるのは、財務面での安全余裕を確認するだけでなく、ビジネスの性質を理解したり、経営陣の金銭意識を推し量るのに役立つからです。

2012年4月13日金曜日

(映像)華麗なるスローイング(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットは中学・高校時代に、新聞配達に熱を入れていたのは有名な話です。もちろん、お金を稼ぐためです。まさか、その彼の技をみられるようになるとは、思ってもみませんでした。今回は3/31(土)に開催されたOmaha Press Club Showからで、技あり、歌ありの楽しいセッションです。個人的には、一投目が気にいってます(12秒ごろ)。

2012年4月11日水曜日

企業はすばらしくても自分はがっかり(アーノルド・ヴァンデンバーグ)

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前回に続いて、アーノルド・ヴァンデンバーグのインタビュー記事から引用します。今回は、質の高いビジネスについてです。

(質問)
「質が高い」とはどういうことでしょうか。どんな要因があれば質の高いビジネスだと呼べるのでしょうか。

(アーノルド)
本当に質の高い企業とは、真のフランチャイズを持っており、価格決定力があって、うらやましいほどの競争力を持ち、バランス・シートが強固で、対資本利益率が高く、時の試練にも耐える文化が築かれているものです。みなさんも異論はないでしょう。ただし、あくまでも理想の話で、そういう理想的な企業を安く買える機会は、まずやってこないだろうと思います。一方、わたしどもが挙げた利益のほとんどは、この理想像には当てはまらない企業からですが、安く買えたことで投資としては理想的なものとなりました。結局のところ、よい価値を手にいれるにはどうすればよいでしょう。我々も努力していますが、すばらしい企業を買うというだけでは十分ではありません。よい値段で買うことも欠かせないのです。そうしないと、安心して投資できる企業を保有しても、ひどいリターンに終わるかもしれないのです。正しい値段で買っていないと、企業はすばらしくても自分はがっかり、そうなるかもしれないことを忘れないでください。

(Q)
How do you define “high quality?” What factors will make you think a company has a high quality business?

(A; Van Den Berg)
Companies that are of real high quality have a true franchise, have pricing power, an enviable competitive position, a strong balance sheet, earn a good return on capital and equity, and have a culture that can stand the test of time. I am sure that most of your readers would agree with this. This is the ideal, but very rarely do you have the opportunity to buy the ideal at cheap prices. Most of our returns have been by companies that did not fit this category of the ideal, but the price made it an ideal investment. However, in order to get a good value, which is what we are looking for, it is not sufficient to just have a great company; you also need to buy it at good price. If not, you may end up with a comfort stock that gives you a mediocre return. Always remember that even a great company can disappoint you, especially if it is not bought right.

2012年4月10日火曜日

わたしも慎重です(アーノルド・ヴァンデンバーグ)

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私の好きなファンド・マネージャーにアーノルド・ヴァンデンバーグ(Arnold Van Den Berg)という人がいます。ボブ・ロドリゲスほどではないですが慎重派のバリュー投資家で、彼のファンドCentury Managementの読み物はいつも楽しみにしています。彼の文章を読んだのがきっかけで、昨年からマイクロソフト(MSFT)へ投資しています。

今回は、昨年11月にアーノルドが応じたインタビュー記事GuruFocus Interview with Investor Arnold Van Den Bergからの引用で、弱気相場についてです。彼の見立てでは、アメリカの株式市場はまだ弱気相場のまっただなかです。ただし、5,6年経った後に大きな強気相場がくる可能性も示唆しています。(日本語は拙訳)

時間がたてば、リターンを決めるのは買値です。質の高い企業をPER1ケタで買えれば、先行きが不透明で不安定なときでも儲けることができます。もちろんビジネスからの利益は現実のもので継続的にあげられるべきですが、そうであれば適正な値段を払ってもリスクを見込んだことになります。現金を保有する選択をしてもそれが誤っていることもあるので、あらゆるリスクをヘッジできるわけではありません。が、企業価値の面ではヘッジできると考えます。株のバブルのあとには必ず弱気相場がやってきます。弱気相場になると、低金利のような相場を盛り上げた要因は、一時的あるいは少ししか効果を発揮しなくなります。利益面で成長しても、平均PERのほうは低くなっています。ですから、株価があがっても1,2年たつと低いレベルに戻っていき、それがまた繰り返されます。弱気相場の間には、株価がすごく上昇するというのはないかもしれません。PERでみて安い株でも、もっと安くなることはよくあります。西暦2000年以来、まさに我々が目の当たりにしてきたものです。弱気相場も最後になると、PERはとても低い水準まで下がります。そこでようやく次の強気相場が始まるのです。

弱気相場がどれぐらい続くかですが、平均的には16年間ぐらいです。その調子ですと[2000年が始まりとすると]、あと5年かそこらは残っています。偶然ですが、先ほどコメントした不動産や失業率や財政危機にめどが立つ時期と一致しています。このような状況下で投資をするには、あくまでも個々の企業毎の価値に焦点を当てるのが大切です。安く買って適正株価に近づいたら売ることで、こんな時分でも利益をあげることはできます。注意しないといけないのは、PERは低めに考えないといけないので、ふつうのときほどには株価はあがらないでしょう。そしてお買い得がみつからなければ、現金のままでいることです。

Over time, price determines return. Buying high quality companies at single digit P/Es gives us the opportunity to make money, even in an uncertain and unstable environment. Obviously the profits have to be real and sustainable, but assuming those two conditions are met, if we buy companies at the right price, we are discounting the risks. We can’t hedge every risk (even cash can be a bad investment), but we can hedge valuation. Stock bubbles are always followed by a bear market. A major characteristic of bear markets is that things that would normally cause the market to explode - like low interest rates - have either minimal or temporary effects. In bear markets, earnings could continue to grow, but multiples become compressed. This causes stock valuations to trade up one to two years, but then revert back to low levels and start the cycle over. Over the duration of the bear market, the prices of stocks may not significantly appreciate. Stocks that may look cheap on a multiple basis may often get even cheaper. This is exactly what we have been seeing since 2000. At the end of the bear market, multiples have compressed to very low levels. This sets the stage for the next bull market.

How much longer will we be in this bear market? Bear markets typically last about sixteen years, so I would say that we have about five more years to go. This coincides with our earlier comments on how long we think it will take for the real estate, unemployment, and fiscal problems to be reconciled. The way to invest in this kind of environment is to stay focused on the valuations of individual companies. You can still make money in this environment by buying stocks when they are cheap and selling when they are near fair value (remember that multiples are compressing, so stocks won’t go as high as one would expect in a normal environment). When bargains can’t be found, hold cash.


ボブ・ロドリゲスの見解と通じるものがありますね(過去記事)。ただ、個人的には日本の株式相場についてはもっと楽観的です。地震による原発リスクは依然残っていますが。

2012年4月8日日曜日

かなりの世間知らずですね(ウォーレン・バフェット)

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今回は将来の予測について、ウォーレン・バフェットによる1995年開催のバークシャー・ハサウェイ株主総会での発言をご紹介します。おなじみ『Seeking Wisdom』で孫引きされているものです。(日本語は拙訳)

わたしは今後の予測とか業績予想といったものは気にしません。あたかも精確にみえますが、そう思えるだけでしょせんは作り立てたものです。細かな点にこだわっているほど、よく注意したほうがいいですね。わたしどもは予想をしないかわりに、過去の実績のほうをずっと気にかけ、なるべく深く調べるようにしています。これまでの実績が思わしくないのに今後の見通しが華々しいような企業の話がきても、見送ることにしています。

ビジネスを買おうとする際に、売り手や仲介者が出してくるような将来予測をなぜ参考にするのでしょうか。その手の予測に意味があるとは思えません。あてにしてもしょうがないです。

将来どうなるのか自分で考えていないところへ、ビジネスを売りたい人や仲介手数料を稼ぎたい人がやってきて「このビジネスは、将来こうなりますよ」と説明する。そんなときにふむふむと耳を傾けるのは、かなりの世間知らずだと思います。

I have no use whatsoever for projections or forecasts. They create an illusion of apparent precision. The more meticulous they are, the more concerned you should be. We never look at projections, but we care very much about, and look very deeply at, track records. If a company has a lousy track record, but a very bright future, we will miss the opportunity ...

I do not understand why any buyer of a business looks at a bunch of projections put together by a seller or his agent. You can almost say that it's naive to think that those projections have any utility whatsoever. We're just not interested.

If we don't have some idea ourselves of what the future is, to sit there and listen to some other guy who's trying to sell us the business or get a commission on it tell us what the future's going to be - like I say, it's very naive.
(p.52)

一見するとウォーレンのこの発言は、決定木を使った分析(過去記事)と矛盾していると感じるかもしれません。決定木の役割は不確実な将来を確率的に描くことなので、ある種の予測をしているでしょうと。しかし立ちどまって考えてみると、ウォーレンはやはり過去を重視しているように思えます。予測の中核となるのは、あくまでも過去の実績から延長線をひいた未来であって、それ以外に想定される未来は悲観的なリスクを盛り込むために使う。例えば、これまで年率10%成長しているところを、0%成長やマイナス成長といったシナリオを確率的に盛り込む。あるいは別の大きなリスクを想定してみるなどが挙げられます。

真偽のほどはウォーレンに聞いてみないとわかりませんが、決定木を使った確率的な未来の捉え方を自分なりに見直せるような気がしてきました。ちなみに、ロバート・ルービンはこのような考え方を「蓋然的思考」と呼んでいるようです(過去記事)。

2012年4月7日土曜日

まだ若ければ、私もそうしたいです(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは順ぐりに世知を説いていくうちに、「規模の経済」の話題にすすみます。そして、その流れを受けて、どのような投資先を選ぶべきか、彼らしい忠告が登場します。

引用元はいつもながら「Poor Charlie's Almanack」の講演その2 「投資やビジネスで活かす世知入門」です。(日本語は拙訳)

長期でみれば、ビジネス自体が挙げる利益よりも大幅によい成績を株式からあげるのは、難しいものです。あるビジネスが40年間にわたって投下資本ベースで6%の利益を挙げるとして、その株をすごく割安に買えたとしても、40年間保有して得られる利益は年率6%ぐらいにおちつくでしょう。その反対に、投下資本ベースで18%の利益を20年から30年にわたってあげられる企業ならば、少しばかり高い株価で買っても大きな成功をおさめられるでしょう。

つまるところは、よいビジネスに投資することです。「勢いにのったおかげ」でそこまで達したようにみえるかもしれませんが、あらゆるスケールメリットも、よいビジネスの条件のひとつになります。[この文章の前では、規模の経済の話題がされている]

そのようなすばらしい企業に一枚加わるにはどうしたらいいか。ひとつには、企業規模がまだ小さい頃に手をつけておくやりかたがあります。例えば、サム・ウォルトンが株式を公開した時点でウォルマートを買ってしまうのです。そうしようとする人も多いですが、これは魅力的な考えですよ。わたしもまだ若ければ、ほんとうにそうするでしょう。

ただ、バークシャー・ハサウェイはもう大きすぎて、そのやりかたは通用しません。我々に見合った大きさの企業が見つからないからです。そのうえ、我々は独自のやり方をしています。ですが、規律を重んじて投資ができる人であれば、小さいうちに見つけるのは、まさしく知的なやりかただと思います。わたしがやってきたやつとは、ちょっとやりかたが違いますが。

あきらかに大きな企業から探すとなると、狙う人も多くて難しいものです。これまでのところバークシャーはなんとかやってきましたが、コカ・コーラに続くような投資が今後もできるかどうかは、わかりません。道は険しくなるばかりです。

理想を言えば、すばらしい経営者が率いるすばらしいビジネスを手に入れるべきです。我々は何度もそうしてきましたが、やはり経営は重要です。GEを率いるのがジャック・ウェルチか、それともウェスティングハウスを経営していた人かでは、まったくの大違いですよ。

Over the long term, it's hard for a stock to earn a much better return than the business which underlies it earns. If the business earns six percent on capital over forty years and you hold it for that forty years, you're not going to make much different than a six percent return - even if you originally buy it at a huge discount. Conversely, if a business earns eighteen percent on capital over twenty or thirty years, even if you pay an expensive looking price, you'll end up with one hell of a result.

So trick is getting into better businesses. And that involves all of these advantages of scale that you could consider momentum effects.

How do you get into these great companies? One method is what I'd call the method of finding them small - get 'em when they're little. For example, buy Wal-Mart when Sam Walton first goes public and so forth. And a lot of people try to do just that. And it's a very beguiling idea. If I were a young man, I might actually go into it.

But it doesn't work for Berkshire Hathaway anymore because we've got too much money. We can't find anything that fits our size parameter that way. Besides, we're set in our ways. But I regard finding them small as a perfectly intelligent approach for somebody to try with discipline. It's just not something that I've done.

Finding 'em big obviously is very hard because of the competition. So far, Berkshire's managed to do it. But can we continue to do it? What's the next Coca-Cola investment for us? Well, the answer to that is I don't know. I think it gets harder for us all the time.

And ideally - and we've done a lot of this - you get into a great business which also has a great manager because management matters. For example, it's made a hell of a difference to General Electric that Jack Welch came in instead of the guy who took over Westinghouse - one hell of a difference. So management matters, too.


私の投資する企業も、大手とは言えないところばかりです。マイクロソフトやバークシャー・ハサウェイにも投資していますが、それはポートフォリオのごく一部です。小さめの企業にはそれなりのリスクがいろいろありますが、割安に放置されやすいのと、成長性が大きいことを考慮し、判断しています。ただし、チャーリーがいうような「すばらしい経営者」は、水準はいろいろだと思いますが、なかなか難しい要件かなと感じています。

なお、チャーリーが世知のひとつとして説明する「規模の経済」は、また改めてご紹介します。

2012年4月6日金曜日

マクドナルド、いただきます(モーニッシュ・パブライ)

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ウォーレン・バフェットはチャリティーの一環として、自分とランチを楽しむ権利を売りに出していましたが、バフェットを信奉するファンド・マネージャーが、大枚はたいて手にしたことがありました。彼の名はモーニッシュ・パブライ。その対価は約5,000万円でした。

カナダの大手新聞The Globe and Mailのサイトで、彼のやりかたをとりあげた記事The case for being a copycat investorがありましたので、ご紹介します。(日本語は拙訳)

よいアイデアを盗むのは後ろめたい? アメリカのファンド・マネージャー、モーニッシュ・バブライはそうは考えない。資産を築くにはすばらしいやりかたなので、著名な投資家をもっとまねしたほうがよいと説く。そういう彼の本からアイデアを借りて、あなたも自分のポートフォリオを見直したくなるかもしれない。

パブライ氏は先日、オンタリオ州ロンドンのリチャード・アイヴィー・スクール・オブ・ビジネスで学生を相手に「他人をまねることの楽しさ」について話をした。よく知られた話だが、彼はマクドナルドが新しい店をどこに開くか手間ひまかけて調べる例をあげた。「立地のよしあしが成否につながるので、そうするだけの価値があるのです。ところが競合のバーガーキングのほうは、ずっと安上がりにすませています。そう、単にマクドナルドの向かいに店を開くだけです。ライバルが調べたおいしいところを、ただで手に入れてしまおうというわけです」。

Is purloining good ideas distasteful? U.S. fund manager Mohnish Pabrai doesn’t think so. He says it’s a great way to make money and urges people to copy notable investors more often. You might want to take a page out of his book and improve your portfolio.

Mr. Pabrai recently talked about the joys of being a copycat with students at the Ben Graham Centre for Value Investing at the Richard Ivey School of Business in London, Ont. He pointed to the case of McDonald’s, which is well known for spending a great deal of time and effort on selecting locations for new restaurants. The effort is worth it because a good spot can make the difference between success and failure. But rival Burger King has a less expensive approach. It simply puts its restaurants across the street from existing McDonald’s locations, thus getting the benefit of its rival’s research for free.


まねる場合には、情報公開時期の遅れに注意するよう触れています。

ただし、注意する点がひとつ。頻繁に売買するマネージャーは、持ち株の状況を報告してもすぐに他の株へ乗り換えてしまうことがある。その手の報告書に載っている株に飛びつくと、すでにマネージャーが手放した株を買うことになるかもしれない。

だから、他人のまねをするとしたら長期投資家をまねるべきだ。となると、バリュー投資家をまねることになるだろう。不人気の証券を買って何年でも持ち続ける人たちを、だ。

But there’s another hitch. Managers who trade frequently may have swapped into different stocks soon after they filed their list of holdings. Someone who jumps into stocks on the basis of those regulatory filings could be purchasing stocks the manager has already discarded.

For that reason, copycats should focus on investors who hold stocks for long periods. By and large, that means copying value investors ? money managers who buy out-of-favour securities and hold onto them for several years.


パブライのランチ代は高額でしたが、それゆえメディアでも取り上げられました。ファンド・マネージャーとしては名前が売れて、おそらく本人が予期したような、よい投資になったのではないでしょうか。

2012年4月4日水曜日

底値で株を売却する投資家をばかにはできない(ロバート・ルービン)

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引続き、ロバート・ルービンの『ルービン回顧録』です。この本は投資家にとっても学ぶところのある一冊ですが、特に第12章の「上げ相場の終焉をめぐって」には忠告や助言が多くみられます。どれもまっとうなものばかりで、ウォーレン・バフェットが「よく書けている」と推薦するだけのことはあります。今回も同書からの引用です。

私自身のこれまでの投資を振り返ってみると、市場というのは予想や勘や期待どおりにはいかないものだと痛感する。したがって、常に株式投資には危険がつきものだと心にとどめ、多額の投資をしないように心がけている。ゴールドマン・サックス時代の投資経験から、市場の性質を思い知らされたためでもある。しかし、1973年に市況がかなり悪かった頃、私が基礎的条件を熟知している企業の株が下落し、その長期的な経営見通しに比べてかなり割安になった。買い時だと判断し、そうした企業の株を購入したのだが、その後も株価は下落し続け、翌1974年の底値の時には購入時から50パーセントも下がっていた。

この話は、熟練した手堅い投資家にとっても、市場の底やピークを見きわめるのは難しいことを物語っている。もう少し幅広い観点から言うならば、目先の市場の動きは予測不可能なので、投資家は長期的なリスクやリターン、リスクに対するみずからの忍耐力に基づいて、資産運用を行うべきである。しかしながら、かく言う私もこのささやかな教訓を忘れ、短期的な市場の動きに関心を奪われがちである。1998年から2000年にかけてのように好調だった時期だけに目を向ければ、私はすばらしい投資実績を記録していると言える。しかし、これまでの投資判断を正直にすべて振り返ると、おそらく短期市場予測の正答率は、せいぜい五分五分であり、それ以上の判断のできる投資家はいないと思う。1973年の経験は、何事にも絶対主義は禁物だというよい警告となるだろう。それは反対思考の株式投資運用者にも言えることだ。ある方向の長期的なトレンドを目にしたときには、それが賢明な判断であるかどうか常に疑念を持つべきである。とくに1973年に私がしたように、市場全体の動きに反する判断を下す場合には、総崩れした際には長い間痛手を負うこともあると覚悟するべきである。かつてゴールドマン・サックスのパートナーだったボブ・ヌーチンがよく口にしていたように、底値で株を売却する投資家をばかにはできない。問題は現実に目の前にあるが、結果はどうなるかわからないからだ。あとから振りかえってみて初めて、最悪の事態がすぎたことがわかるものなのである。 (p.457)

2012年4月3日火曜日

私がウォール街で見てきたこと(ロバート・ルービン)

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ロバート・ルービンがゴールドマン・サックスに転職する前は、ある法律事務所に勤めていました。そこで株式公開の仕事に携わったことで、投資に興味を持つようになります。分析手法のよりどころとしたのは、ベンジャミン・グレアムの『証券分析』。今回は株式投資に対する彼の見方をご紹介します。前回と同じ『ルービン回顧録』からの引用です。

今日でも、私はこれ[ベン・グレアムのやりかた]が株に投資する唯一の賢明な方法だと考えている。企業活動全体の経済的価値を考えるときと同じように、株の経済的価値を分析すべきなのだ。製鉄所であれハイテク企業であれ、その企業が将来見込める収益に、ほかの基本的要因 - リスクやバランスシートに載らない資産など - を加味した現在の価値に相当する。長期的に見れば、株価はこの経済的価値を反映しているのだが、長い間その価値から大きく乖離することもある。投資家はときどきこの現実を見失ってしまうらしく、その結果、当然ながら予測しうる事態を招く。最新の例では、2000年と2001年にインターネット業界と通信業界の株が暴落したとき、多くの投資家が価値判断ではなく流行にしたがった結果、多大の損害をこうむった。このことと関連しているが、もうひとつ別のポイントとしてあげられるのが、最大のチャンスは往々にして時流に逆らうところにあることである。

市場のとらえ方として、グレアムとドッドのアプローチも、私のハーバード時代からの懐疑主義に合致していた。市場を眺めて、価格が市場の大方の見方を反映していない証券を見つけようとすることに、私は大きな魅力を感じた。市場は効率的だというのが、不動の学術的原則である。つまり株価は、その株に関するあらゆる既知の情報や判断を織り込んでいるというのである。この効率的市場論に付随して、長期的には誰も市場の効率に勝てないということも指摘される。しかし私がウォールストリートで見てきたことのすべてが - そして金融理論に関するもっと最近の考え方の多くが - そうではないことを物語っている。当然ながら大半の投資家は、いや、たいていの専門家でさえ、市場に勝つことはできない。しかし、よりよい分析、よりよい判断、より強い自制心を兼ね備えていれば、一部の者にはそれが可能だろう。 (p.100)

2012年4月1日日曜日

わたしなら、こう考えます(ロバート・ルービン)

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ひきつづきロバート・ルービンの話です。彼はクリントン政権時代に財務長官として名をあげましたが、その前にはゴールドマン・サックスで共同会長を務めていました。ハーバードやイェールで法学を学んでいた彼が、なぜゴールドマンで活躍するようになったのか。彼自身は哲学に興味を持ったことを大きな要因としてあげています。そういえば、バフェットやマンガー、ソロスといった著名な投資家が、哲学や数学といった論理を追究する学問、あるいは物事の本質に迫る物理学のような学問を重視しているのと通じるものがあります。

今回は、物事を分析するときのルービンのやりかたについて、前回と同じで『ルービン回顧録』から引用します。

まずは学生時代をふりかえって。

デモス教授は証明可能な確実性があるというプラトンらの哲学者を尊敬していたが、私たちに教えたのは、人の意見や解釈はつねに改訂され、さらに発展するという見解だった。教授はプラトンなど哲学者の思想を取り上げて、いかなる命題でも最終的あるいは究極的な意味で真実だと証明することは不可能である、と説き明かしていった。私たちには、分析の論理を理解するだけでなく、その体系が仮説、前提、所見に拠っている点を探し出すことが求められた。

絶対的な意味で何も証明できないという概念をいったん自分の心に取り込むと、人生をそれだけますます確率、選択、バランスで考えるようになる。証明可能な真実がない世界で、あとに残る蓋然性をいっそう精密にするためには、より多くの知識と理解を身につけるしかない。 (p.84)


次は、クリントン政権1期目の補佐官時代です。

大統領首席補佐官室で、予算案を手渡されたことがあった。私はサマーズとともにその仕事に取り組んだ。数値を丸で囲い、クエスチョンマークを走り書きし、余白におおよその見積もりを立てて書き込んだ。サマーズは、あとになって、予算数字の並んだ紙を手渡されたときの反応には二通りあるといった。ひとつは、ざっと目を通し、それを既知の事実として、そこから検討を始める方法。もうひとつは、まず数字を疑ってかかり、矛盾点を探し、数字の意味や根拠の説明を求めたり関連性を追求したりする方法。私とサマーズはともに後者の性向をもち、数字だけでなく確かだという前提そのものも見直すほうだった。 (p.393)


「既知の事実として、そこから検討を始める方法」といえば、投資家がやってしまいがちなのは、決算短信や四季報に載せられている業績予想をうのみにしてしまう例でしょう。それらの数字にひきずられるのは心理学でいうアンカリングで、その危険性をルービンは冷静にみつめています。そもそも短期的業績の変動に左右されやすいのも、直近のことばかりに目がいく我々の傾向ですね。

余談ですが、本書『ルービン回顧録』は、ウォーレン・バフェットの2003年度の推薦図書です。「株主のみなさんへ」で取り上げられています。

A 2003 book that investors can learn much from is Bull! by Maggie Mahar. Two other books I'd recommend are The Smartest Guys in the Room by Bethany McLean and Peter Elkind, and In an Uncertain World by Bob Rubin. All three are well-reported and well-written. Additionally, Jason Zweig last year did a first-class job in revising The Intelligent Investor, my favorite book on investing.