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2012年10月31日水曜日

誤判断の心理学(21)老化が悪影響をもたらす傾向(チャーリー・マンガー)

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今回の話題は、年をとることについてです。今度の1月でチャーリー・マンガーは89歳になります。アメリカ史上最大の実業家ジョン・D・ロックフェラーは、97歳で没しました。最近では、ウォルター・シュロスの95歳が記憶に残っています。参考までに、日本人の平均余命はこちらです。(日本語は拙訳)

なお誤判断の心理学(その20)は「薬物」の話題ですが、チャーリー自身が数行しか触れていないため、本ブログでは取り上げるのを省略しました。

(その21) 老化が悪影響をもたらす傾向
Twenty-One: Senescence-Misinfluence Tendency

年老いるにしたがって、始まる時期や進み具合は人それぞれながら、認識力が自然と衰えていきます。かなりの年になると、ほぼどんな人でも複雑な技能を新たに身につけるのが難しくなります。しかし人によっては、ずっと昔に鍛練して身につけた技能を、晩年になるまでうまく維持できることもあります。ブリッジのトーナメント戦に出た人なら、よく見かけるでしょう。

私のような年寄りは、特にあれこれしなくても、年齢からくる衰えを隠す技を身につけています。というのは、衣服のような社会的慣例が、いろんな衰えを隠してくれるからです。

みずから楽しみながら継続的に思索や学習に取り組んでいれば、不可避なことでも、ある程度は遅らせることができます。

With advanced age, there comes a natural cognitive decay, differing among individuals in the earliness of its arrival and the speed of its progression. Practically no one is good at learning complex new skills when very old. But some people remain pretty good in maintaining intensely practiced old skills until late in life, as one can notice in many a bridge tournament.

Old people like me get pretty skilled, without working at it, at disguising age-related deterioration because social convention, like clothing, hides much decline.

Continuous thinking and learning, done with joy, can somewhat help delay what is inevitable.

2012年10月30日火曜日

すでに恐れおののく1年目(ジェレミー・グランサム)

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慎重派ファンド・マネージャーのジェレミー・グランサムが、チャーリー・ローズのインタビューに応じていました。トランスクリプトがBusinessweekに掲載されていたので、一部を引用します。株式市場の騰落と大統領選周期の関連についての話題です。(日本語は拙訳)

なおチャーリー・ローズは有名人を相手にインタビューすることが多い、本人自身も有名な司会者です。全盛期の久米宏さんのような人物、といったところでしょうか。ウォーレン・バフェットも何度か対談しています。

Charlie Rose Talks to Jeremy Grantham (Businessweek)

私は大統領選サイクルを崇めてきました。1932年にさかのぼってみると、大統領の任期1年目と2年目だけをみれば、市場からのリターンは実質ベースでゼロになります。リターンはすべて、多大なる3年目とまずまずの4年目に集中しているのです。我々はこの周期を10月1日から数えはじめるので、すでに恐れおののく1年目に突入しています。共和党はきわめて脆弱な経済に財政上の制約を加えようとしていますし、ヨーロッパの状況もあります。そして中国は、驚くほどゆっくりと失速しているところです。自重するのにぴったりの年だと思います。

I've hero-worshipped the presidential cycle. Going back to 1932, if you take the first and second year together, they've had no real return in the market. All of the return has been compressed into a gigantic Year Three and a respectable Year Four. For us, the cycle years start on October 1st. So now we're in the dreaded first year. And we have Republicans threatening to add fiscal constraints into a very fragile economy. We have the European situation. We have China stumbling in an incredible slow-motion style. I think it's a really good year to keep your head down.

この発言をみかけて、初めてグランサムの文章を読んだ時のことを思い出しました。2004年のことですから、大統領選のあった年です。世間知らずの自分にとっては、なるほどと感心した文章でした。以下の図が、大統領任期の各4年間の成績を示したものです。2004年時点の資料なのでデータは少し古いですが、上記のグランサムの発言のもとになっているものと思われます。


この図の引用元は、GMOのサイトに掲載されている、以下のPDFファイルの8ページ目です。ファイルをみるには、まずユーザー登録してログインし、[Library]-[Jeremy Grantham's Letters and Articles]から次のファイル名を探してください。

Skating on Thin Ice(Jeremy Grantham - Published 1/15/2004)

2012年10月29日月曜日

株式投資と競馬(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知入門です。以前にも何度か取り上げてはいますが、今回の話題はチャーリーの投資スタイルの真髄をなすものです。(日本語は拙訳)

株式市場でおきていることをわかりやすく説明するのに私が好んで使うモデルは、競馬場で採用されているパリミュチュエル方式です。なんだかよくわからなければ、パリミュチュエル方式とは市場のことだと考えてください。賭けをしたい者が集まって勝負をしますが、どのように賭けられたかでオッズが変動します。まさに、株式市場でやっていることと同じですね。

たとえば目の覚めるような勝率を誇る馬が、乗せる騎手は軽く、馬番もよく...といった具合であれば、散々な記録の上に騎手は重く...といった馬よりも勝ち目があるのは、どんなまぬけでもわかります。ですが、もし悪い方の馬のオッズが100倍に対して、いい方の馬が1.5倍だとしたら、フェルマーとパスカルの数学[確率]を使ってどれが最高の賭けかたかと考えても、よくわからなくなります。このように金額が変動するため、なかなか儲からない仕組みになっています。

その上、競馬場が17%の上前をはねていきます。ですから他の賭け手を出し抜くだけでなく、胴元に17%を渡しても手元に残るように、平均して大きなマージンをもって出し抜かなければならないのです。(中略)

しかし賢明なる勝負師のみせる手際は、残念ながらシーズン中の成績を17%の損から10%ぐらいの損に下げるぐらいが関の山でしょう。ですが、まるまる17%払った後でも勝っている人が、なかにはいます。

私が若かった頃にポーカーをしていた相手に、繋速[けいはや; 競馬の一種で、馬車をひく]へ賭けることで生計の大半を立てていた人がいました。普通の競馬とくらべるといろいろ深くは知られていないので、繋速は比較的非効率な市場といえます。私のポーカー相手は、繋速を自らの主たる職業と考えていました。そして間違った値段がついているのをみつけたときだけ賭けに出ました。そうすることで、おそらく17%ぐらいを胴元に全部払った後でも、十分に暮らしていけたのです。(中略)

いつ、いかなるときでもすべてのことを知り尽くしているなど、そんな人はいやしません。しかし懸命に努力し、誤った賭けがないか丹念に探し求める人には、いつか見つけられるでしょう。

そして賢明な人は、そのような機会が自分の前に現れた時に、大きく賭けに出るのです。自分に勝ち目があるときに大きく賭け、それ以外の時は賭けない。それだけのことです。

これはとても単純なやりかたです。しかしパリミュチュエル方式にかぎらず、他での経験をふまえて考えてみれば、至って当然のことだと思います。

The model I like - to sort of simplify the notion of what goes on in a market for common stocks - is the pari-mutuel system at the race track. If you stop to think about it, a pari-mutuel system is a market. Everybody goes there and bets, and the odds change based on what's bet. That's what happens in the stock market.

Any damn fool can see that a horse carrying a light weight with a wonderful win rate and a good post position, etc., etc., is way more likely to win than a horse with a terrible record and extra weight and so on and so on. But if you look at the damn odds, the bad horse pays 100 to 1, whereas the good horse pays 3 to 2. Then, it's not clear which is statistically the best bet using the mathematics of Fermat and Pascal. The prices have changed in such a way that it's very hard to beat the system.

And then the track is taking seventeen percent off the top. So not only do you have to outwit all the other bettors, but you've got to outwit them by such a big margin that on average, you can afford to take seventeen percent of your gross bets off the top and give it to the house before the rest of your money can be put to work.

Unfortunately, what a shrewd horseplayer's edge does in most cases is to reduce his average loss over a season of betting from the seventeen percent that he would lose if he got the average result to maybe ten percent. However, there are actually a few people who can beat the game after paying the full seventeen percent.

I used to play poker, when I was young, with a guy who made a substantial living doing nothing but bet harness races. Now, harness racing is a relatively inefficient market. You don't have the depth of intelligence betting on harness races that you do on regular races. What my poker pal would do was to think about harness races as his main profession. And he would bet only occasionally when he saw some mispriced bet available. And by doing that, after paying the full handle to the house - which I presume was around seventeen percent - he made a substantial living.

It's not given to human beings to have such talent that they can just know everything about everything all the time. But it is given to human beings who work hard at it - who look and sift the world for a mispriced bet - that they can occasionally find one.

And the wise ones bet heavily when the world offers them that opportunity. They bet big when they have the odds. And the rest of the time, they don't. It's just that simple.

That is a very simple concept. And to me it's obviously right - based on experience not only from the pari-mutuel system, but everywhere else.


以下は、参考となる過去記事の例です。

2012年10月26日金曜日

とある本屋の上の階で(テッド・ウェシュラー)

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ウォーレン・バフェットは、バークシャー・ハサウェイでの資産運用部門の後継者として2人のマネージャーを登用しましたが、その1人であるテッド・ウェシュラーの記事がBloombergに掲載されていたので、ご紹介します。リンク先には当人の写真がありますが、温厚そうな雰囲気はウォーレンと通じるものがあります。(日本語は拙訳)

Weschler Rise From Grace Leads to Role Advising Buffett (Bloomberg)

彼が始めたヘッジファンドはペニンシュラ・キャピタル・アドバイザーズという名前で、国内株式に20億ドルを投資していた。シャーロッツビルにある事務所は、とある本屋の上の階に2部屋を占めていた。かつての仕事仲間で、現在はオハイオ州アクロンでヘッジファンドを営んでいる友人マイケル・デイヴィッドによれば、彼は半袖シャツにショートパンツという格好でよく仕事をしていた。また何度かBMWを運転していたことがあったが、買った車には7,8年間は乗り続けていた。(中略)

「とんでもない金持ちになったことに、彼はいまだにあっけにとられているようです」。2002年にシャーロッツビルで"The Hook"という週刊紙を始めたときに、ウェシュラーから支援を受けたホーズ・スペンサーは言う。「彼が腕にロレックスをはめている姿を見かけたら、めまいがするでしょうね」。(中略)

ウェシュラーはバフェットと同じように、企業の発行する報告書や各種出版物をよく読んで分析することで、優位に立てるものを探していた。デイヴィッドは、彼がこう言ったのをおぼえている。投資候補をみつけても、調査や検討に500時間はかけなければ、投資に踏み切ることはない、と。

デイヴィッドは言う、「彼は休暇先に向かうときにも、10-Kや10-Qを持参していました」。証券取引委員会が株式公開企業に提出を義務づけている年次及び四半期の報告書のことだ。「それは今でも変わりません」。

He ran his hedge fund, Peninsula Capital Advisors LLC, which had about $2 billion in U.S. stockholdings, from a two-room office above a bookstore in Charlottesville. His work attire often was a short-sleeve shirt and shorts, according to Michael David, a former colleague and friend who now runs a hedge fund in Akron, Ohio. And while he has driven BMWs for some time, he keeps the cars for seven or eight years, David said.

“He's still stunned by the fact that he's become incredibly wealthy,” said Hawes Spencer, whom Weschler backed when he started a weekly paper in Charlottesville called the Hook in 2002. “If I saw a Rolex on his wrist, I would faint.”

Like Buffett, Weschler sought an edge by studying company filings and dozens of other publications. The former hedge-fund manager once told David that he didn't make an investment unless he had spent 500 hours studying the idea.

“He'd go on vacation and take 10-Ks and 10-Qs with him,” said David, referring to the annual and quarterly reports publicly traded companies file to the U.S. Securities and Exchange Commission. “He still does.”

2012年10月24日水曜日

狼狽しないこと(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその10「狼狽するな」の説明文をご紹介します。引用元はこちらです。(日本語は拙訳)

(ルールその10)狼狽するな

みんなが株を買っている局面で売らずに保有したままでいると、1987年におきたような大暴落に見舞われることもあるでしょう。たった1日で15%も下がるのです。いや、もっとひどいかもしれません。

そんな場合でも、次の日に売りいそぐべきではありません。売るのは暴落する前にやっておくことで、後になってからではないのです。それではどうすればいいかというと、自分のポートフォリオを見なおして、こう考えること。それらの株式を保有していないとしたら、暴落後の価格で買いたくなるだろうか。たぶん、そう考えると思います。手もちの株を売ってよいのは、他にもっといい株が見つかった時だけです。そうでなければ、持株はそのままにしておくことです。

No.10 DON'T PANIC

Sometimes you won't have sold when everyone else is buying, and you'll be caught in a market crash such as we had in 1987. There you are, facing a 15% loss in a single day. Maybe more.

Don't rush to sell the next day. The time to sell is before the crash, not after. Instead, study your portfolio. If you didn't own these stocks now, would you buy them after the market crash? Chances are you would. So the only reason to sell them now is to buy other, more attractive stocks. If you can't find more attractive stocks, hold on to what you have.


同じ話題が、ケントマンさんのブログでもちょうど取り上げられていました。

その行動が結果を決める。株価が下落したときにどう行動するべきか(ちょっと知りたい「賢明な株式投資」)

2012年10月23日火曜日

誤判断の心理学(19)かつての栄光(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの誤判断の心理学です。今回の傾向は短いため、全文を引用します。個人的には、今回も耳が痛いばかりです。(日本語は拙訳)

(その19)使わなければ、失われる傾向
Nineteen: Use-It-or-Lose-It Tendency

どんなものでも、使っていない腕前は落ちるものです。二十歳になるまで私は微積分の達人でしたが、それから後はまったく使うことがなかったので、その技能は完全に失われました。こうならないようにするには、パイロットの訓練用シミュレーターと同じように働くものを利用するのが適切です。そうすれば、ほとんど出番がないけれど失いたくないあらゆる技能を、とぎれることなく練習することができます。

賢明な人というのは、身につけたあらゆる有益な技能が、ほとんど使うことがない上に自分の専門外ばかりだとしても、自己を高めるというある種の義務と考え、人生をつうじて実際に使うようにしています。もし練習する技能の種類を減らせば、それはすなわち手持ちの技能の数を減らすわけですから、「かなづちを手にした人」の傾向が招く落とし穴へと沈んでいくことでしょう。また新しく経験したことを理解するのに必要な枠組みである「さまざまな理論を組みこむ格子枠」に穴ができてしまうため、学ぶ力も小さくなってしまいます。思慮深い人にとって、自分の技能を日常的に使うチェックリストへ組み込んでおくのは、欠かせないことです。ほかのやりかただと、大事なことを間違えやすいからです。

技能がきわめて高度な水準に達すると、それを維持するには毎日の鍛錬が欠かせないものとなります。ピアニストのパデレフスキは、かつてこう言いました。「1日でも練習を怠ったら、自分の腕が落ちたのがわかりますし、1週間も休んだら、観客の方もわかるでしょう」

「使わなければ、失われる傾向」がもたらす行く末を考えれば、徹底した人にとっては取り組むつらさもやわらぐでしょう。テストに合格するだけのために一夜漬けをするのではなく、十分な水準まで技能に通じておけば、腕が落ちるとしてもずっとゆっくりとしたものでしょうし、学び直してリフレッシュしたときには素早く元に戻るからです。これはちょっとした利益どころではないため、賢明な人が重要な技能を身につけようとするときには、本当に達者になるまでは途中であきらめないのです。

All skills attenuate with disuse. I was a whiz at calculus until age twenty, after which the skill was soon obliterated by total nonuse. The right antidote to such a loss is to make use of the functional equivalent of the aircraft simulator employed in pilot training. This allows a pilot to continuously practice all of the rarely used skills that he can't afford to lose.

Throughout his life, a wise man engages in practice of all his useful, rarely used skills, many of them outside his discipline, as a sort of duty to his better self. If he reduces the number of skills he practices and, therefore, the number of skills he retains, he will naturally drift into error from man with a hammer tendency. His learning capacity will also shrink as he creates gaps in the latticework of theory he needs as a framework for understanding new experience. It is also essential for a thinking man to assemble his skills into a checklist that he routinely uses. Any other mode of operation will cause him to miss much that is important.

Skills of a very high order can be maintained only with daily practice. The pianist Paderewski once said that if he failed to practice for a single day, he could notice his performance deterioration and that, after a week's gap in practice, the audience could notice it as well.

The hard rule of Use-It-or-Lose-It Tendency tempers its harshness for the diligent. If a skill is raised to fluency, instead of merely being crammed in briefly to enable one to pass some test, then the skill (1) will be lost more slowly and (2) will come back faster when refreshed with new learning. These are not minor advantages, and a wise man engaged in learning some important skill will not stop until he is really fluent in it.

2012年10月22日月曜日

大差をつけて市場に勝てるか(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知入門です。これまでの基礎的な概念を踏まえた上で、今回からは株式投資の話題に進みます。(日本語は拙訳)

最初の問いについて考えてみましょう。「株式市場の本質とは何だろうか」。これは、私がロースクールを卒業してからずっとあとに猛威をふるうようになった効率的市場仮説の話につながります。

実に興味深いことに、世界的に有名なある経済学者がバークシャー・ハサウェイの株を少なからず保有しています。バフェットが経営権を握った初期の頃からのことです。彼の書いた教科書には「株式市場は完璧に効率的で、市場に勝てる人は誰もいない」とあります。しかし彼自身の資金はバークシャーに投じられ、そのおかげで彼は裕福になりました。パスカルの有名な賭けと同じで、彼は自分の主張をヘッジしていたのです。

株式市場は効率的だから、それに打ち勝つのは無理なのでしょうか。たしかに効率的市場仮説は、だいたいのところは当たっています。市場はきわめて効率的であり、知性ある投資家が規律に従って株式を選定したとしても、大差をつけて市場に勝つのはきわめて難しいのです。

実際のところ、並みは並みでしかなく、あらゆる人が市場に勝つというのはありえません。常々言っているように、上位の2割に入れるのは20%の人だけなのが世の定めです。ですから質問の答えは、「市場は効率的なところもあるし、非効率なところもある」となります。

The first question is, “What is the nature of the stock market?” And that gets you directly to this efficient market theory that got to be the rage - a total rage - long after I graduated from law school.

And it's rather interesting because one of the greatest economists of the world is a substantial shareholder in Berkshire Hathaway and has been from the very early days after Buffett was in control. His textbook always taught that the stock market was perfectly efficient and that nobody could beat it. But his own money went into Berkshire and made him wealthy. So, like Pascal in his famous wager, he hedged his bet.

Is the stock market so efficient that people can't beat it? Well, the efficient market theory is obviously roughly right - meaning that markets are quite efficient and it's quite hard for anybody to beat the market by significant margins as a stock picker by just being intelligent and working in a disciplined way.

Indeed, the average result has to be the average result. By definition, everybody can't beat the market. As I always say, the iron rule of life is that only twenty percent of the people can be in the top fifth. That's just the way it is. So the answer is that it's partly efficient and partly inefficient.


なお「パスカルの賭け」とは、数学者として有名なパスカルが神の実在を信じるかどうか確率論的に判断し、「神は実在する」ほうを選んだものです。この逸話を初めて知ったときには古くさい印象を受けましたが、時がたつにつれて建設的だと感じるようになってきました。

2012年10月19日金曜日

どのようにモデルを使うのか(Seeking Wisdom)

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物事を的確に理解するにはモデルをつかうのがよい、というのはチャーリー・マンガーが繰り返し主張していることです。「モデル」については、過去記事「チャーリー・マンガーのMultiple Mental Models」などでも取り上げていますが、別の説明として今回はおなじみの『Seeking Wisdom』から引用します。(日本語は拙訳)

「モデル」とは、世界がどのように働いているかをよりよく理解するのに役立つ考えである。モデルがあれば、どのような結末を迎えるのか、また「なぜ、どうやって」といった疑問に答えられるようになる。ひとつの例として「社会的証明」モデルをあげてみよう。「いったい何がおきたんだ?」、不確かなことに直面すると、本来やるべきことを考えずに他人がとる行動をそのまま真似することがよくある。このモデルを以ってすれば、「なぜ」そうなるのか説明できるし、ある状況下において人は「どのように」ふるまうのか、予測できるようになる。

問題を避けるという意味でもモデルは有効だ。たとえば地球には無限の資源があると教えられたとしても、「ものには限界がある」という概念を知っていれば、その教えは誤っていることがわかる。プロジェクトに投資しないかと提案を受けたとき、それが物理学の法則に反していることがある。そのとき科学的に筋が通らないとして近寄らないでおけば、いったいどれだけの不幸な結末が避けられただろうか。

もしモデルが現実に即したものであれば、そのモデルは本物だろう。生物学に由来する概念を例にとると、現実に即したものとしては「一般的に、人は自分の興味に従って行動する」が挙げられる。一方で「人の性格はロールシャッハ・テストによって評価できる」という概念があるが、人間の性格を予測できるものではなく、こちらは現実離れしている。では、ここからは考えてみてほしい。「根本的で重要な概念」とはどういうものだろうか。日常生活でどのように使われているか、わかるだろうか。それは世界を理解するのに役に立つのだろうか。なぜ、どうやって、どんな状況で働くのか。どれだけ信頼できて、どこまで使えるのか。他のモデルとどう関連するのか。
チャールズ・マンガーは有用な概念として、次のような「化学における自触媒反応」の例を挙げている。

ある種の化学反応を生じさせている際に、反応速度が上昇することがあります。これはすなわち、何かに取り組んでいるときに、この驚くべき促進作用が長時間にわたって続くということです。物理学の法則によればそのようなことは永遠には続きませんが、そこそこの期間であれば継続するので、大きな促進が得られます。「あれ」ができたと思っていたら、突如として「あれ」も「これ」も「それ」も得られる時期がやってくるのです。(p.190)

A model is an idea that helps us better understand how the world works. Models illustrate consequences and answer questions like “why” and “how”. Take the model of social proof as an example. What happens? When people are uncertain they often automatically do what others do without thinking about the correct thing to do. This idea helps explain “why” and predict “how” people are likely to behave in certain situations.

Models help us avoid problems. Assume that we are told that the earth consists of infinite resources. By knowing the idea about limits, we know the statement is false. Someone gives us an investment proposal about a project that contradicts the laws of physics. How much misery can be avoided by staying away from whatever doesn't make scientific sense?

If a model agrees with reality, it is most likely true. One idea from biology that agrees with reality is that “people on average act out of self-interest.” But not the idea that “people's personalities can be evaluated by using the Rorschach ink-blot test.” It can't predict people's personalities. Ask: What is the underlying big idea? Do I understand its application in practical life? Does it help me understand the world? How does it work? Why does it work? Under what conditions does it work? How reliable is it? What are its limitations? How does it relate to other models?
Charles Munger gives an example of a useful idea from chemistry - autocatalysis:

If you get a certain kind of process going in chemistry, it speeds up on its own. So you get this marvelous boost in what you're trying to do that runs on and on. Now, the laws of physics are such that it doesn't run on forever. But it runs on for a goodly while. So you get a huge boost. You accomplish A - and, all of a sudden, you're getting A + B + C for awhile.


大局観をみるには何が助けになるのだろうか。また問題をとらえる際に、どうすれば多くの視点から検討できるようになるのか。それには、多様な学問の分野がもたらす知識や洞察を使うべきだ。ほとんどの場合、問題を解くにはさまざまな観点から追及する必要がある。チャールズ・マンガーはこう言っている、「人の世における乱雑な問題を解決するには、ほとんどの場合、重要な考えをいくつかではなく、すべてが使えるようにしておかなければなりません」。

物理学であらゆる物事を説明できるわけではないし、生物学や経済学であっても同じだ。つまり世界というのは学際的なものなのだ。たとえばビジネスの場では、規模の大小がどのように行動を変化させるのか、どうやってシステムは破綻するのか、供給が価格に対してどう影響するのか、どんな動機づけであれば行動につなげられるのか、こういったことを知っておくのはとても役に立つ。

単一の学問分野だけではすべてを答えることはできない。だから重要な学問分野で得られた重大な概念を理解し、使えるようになることが求められる。数学、物理学、化学、工学、生物学、心理学といった学問を、より信頼できるものから順に並べ、使っていくのだ。(p.191)

What can help us see the big picture? How can we consider many aspects of an issue? Use knowledge and insights from many disciplines. Most problems need to be studied from a variety of perspectives. Charles Munger says, “In most messy human problems, you have to be able to use all the big ideas and not just a few of them.”

The world is multidisciplinary. Physics doesn't explain everything; neither does biology or economics. For example, in a business it is useful to know how scale changes behavior, how systems may break, how supply influences prices, and how incentives cause behavior.

Since no single discipline has all the answers, we need to understand and use the big ideas from all the important disciplines - mathematics, physics, chemistry, engineering, biology, psychology, and rank and use them in order of their reliability.

2012年10月17日水曜日

いくつのモデルが必要なのか

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世知に長けた人間になるには、いくつのモデルを習熟すればよいのか。チャーリー・マンガーは100種類かそこらだとしており(過去記事)、その中でもほんとうに重要なものはひとにぎりだと言っています。この「100」という数字が気にかかっていたのですが、いま読んでいる本『失敗百選』で関連する話題がでていたのでご紹介します。なお本書の副題は「41の原因から未来の失敗を予測する」です。

失敗百選を作るならば、頻発する事故に共通であるシナリオ共通要素の数、つまり共通点の分類項目の数として、いくつぐらいが最適であるか、という問いに答えなければならない。そこで筆者は50個から100個までの値を考えた。(p.16)

記憶していた100件程度のデータから自分の課題に適するものを選んで、実際に有効に使用できる人もいるのである。(p.6)

能や琴、落語のような、一子相伝あるいは師匠からの免許皆伝の伝統芸能では、いくら名人でも脳のなかで活性化している出し物は、多くて200個程度だそうである。これが凡人だと20個程度に減少するらしい。100個を記憶する数として設定することは、あたらずといえども遠からず、でおかしくはなかろう。(中略)

なお、後日談であるが、エンジニアの友達に100個の多さを非難されて、自分も使ってみると確かに100個は多すぎることがわかった。法学者が百選を扱えるのは司法試験を合格する人がとびぬけて上等だからであろう。それでも、それを合格した弁護士でさえ実際には、貸借契約、離婚、相続、少年犯罪、特許係争というように得意分野が細分化されるので、百選も必要ないらしい。そこで本書は41個に絞った。(p.17)

2012年10月16日火曜日

水を飲むときにじゃまな人(ウォルター・シュロス)

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カナダの新聞The Globe and MailのWebサイトで、少し前にウォルター・シュロスの話題が取り上げられていたので、ご紹介します。なお同氏の成績は、過去記事「ウォルター・シュロスの投資成績」で触れています。(日本語は拙訳)

How to beat the market, with patience and ugly stocks
(辛抱づよさと魅力のない銘柄で、市場に勝つ方法)

1950年代にシュロス氏が自身の小ぶりなパートナーシップを始めるにあたって、彼はマンハッタンにあるバリュー志向の投資会社トゥイーディー・ブラウンの事務所に間借りさせてもらった。彼の居場所は正面ドアと冷水機の間だった。そこで座っていると、他の人が水を飲みにくるたびに身をかがめなければならなかった。やがて彼は小さな事務所へ引っ越した。息子のエドウィンがいっしょに働くようになるまで、秘書も事務員も会計係も雇わずに働きつづけた。

シュロス氏の調査資料には、企業の出す会計報告書と投資情報サービスを提供するバリューラインの古本が含まれていた。彼は企業の担当者に面会しに行ったり、経営陣と対談をすることはなかった。公開されている情報と自分の判断を頼りとしたのだ。(中略)

彼がそのようなすぐれた成績をあげられたのは、実直なやりかたをとことん貫いたおかげかもしれない。彼はまず、前年及びこの数年間の両方で新安値を更新した株式をさがした。次にその候補の中から、ビジネスモデルが単純で理解でき、負債が少なく、簿価より安い値段で取引されているものを選別した。また各企業の直近10~15年分の会計報告書を調べ、経営姿勢が欲深かったり倫理に反している企業、また失敗に終わりそうな製品を扱っている企業を除外した。

When Mr. Schloss decided to open his own modest partnership in the 1950s, he found space in the offices of Tweedy Browne, another value-oriented investing firm in Manhattan. He sat between the front door and the water cooler. If someone wanted a drink, Mr. Schloss had to scrunch up to let them by. He eventually moved into a modest office where he worked without a secretary, clerk or bookkeeper until he was joined by his son Edwin.

Mr. Schloss’s research materials included company financial reports and second-hand copies of Value Line, an investment advisory service. He didn’t travel to see companies or talk to management. Instead he relied on public information and his own judgment.

He generated these outstanding returns by methods that seem almost painfully straightforward. He started by looking for stocks trading at new lows both over the last year and over the last several years. He then winnowed down these candidates by looking for companies with simple, understandable business models and little debt that were trading below book value. He reviewed each company’s financial statements over the last 10 to 15 years and tried to avoid firms with greedy or unethical management and those with products that seemed likely to fail.

2012年10月15日月曜日

誤判断の心理学(18)近くにいる娘を好きになる(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの誤判断の心理学です。今回の傾向は、身に覚えのある方が多いのではないでしょうか。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その18)手近なものを買いかぶる傾向
Eighteen: Availability-Misweighing Tendency

次の歌の一節は、この精神的な傾向を代弁しています。「好きなあの娘がそばにいなけりゃ、近くにいる娘を好きになる」。人間の脳は容量が限られている上に不完全なため、たやすく手に入るもので済ませようとします。そもそも脳は、忘れてしまったことや邪魔が入って認識できなかったものを扱うことはできません。歌詞に登場する男が身近な女の子に惹かれたように、脳には種々の心理学的傾向が強い影響を及ぼしており、それによって大きく左右されるのです。それ故、人の心は容易に入手できるものに重きをおきます。これが「手近なものを買いかぶる傾向」につながります。

この「手近なものを買いかぶる傾向」によって過ちを犯さないためには、チェックリストなどを使ってきちんとした手順を踏むのが基本です。これらが役に立たないということは、まずありません。(中略)

しかしながら、心に残るようなすごく鮮やかなイメージは、建設的に使えるという点で特別な強みがあります。他人を正しい結論へ導きたいときがその好例です。また、たくさんのことを忘れないようにするために、かたっぱしから印象的なイメージを一緒にしておくことで、覚えやすくするやりかたもあります。過去をふりかえれば、古代ギリシャやローマの偉大な雄弁家がそういった印象的なイメージを記憶力向上の助けとしていました。何かの書き物を手にすることもなく、長大でよく整った演説ができたのはそのおかげだったのです。

この傾向を扱う上で忘れてはならない重要な手順はかんたんなものです。自分にとって入手しやすいという理由だけで、そのアイデアや事実のほうが価値があるわけではない、ということです。

This mental tendency echoes the words of the song: “When I'm not near the girl I love, I love the girl I'm near.” Man's imperfect, limited-capacity brain easily drifts into working with what's easily available to it. And the brain can't use what it can't remember or what it is blocked from recognizing because it is heavily influenced by one or more psychological tendencies bearing strongly on it, as the fellow is influenced by the nearby girl in the song. And so the mind overweighs what is easily available and thus displays Availability-Misweighing Tendency.

The main antidote to miscues from Availability-Misweighing Tendency often involve procedures, including use of checklists, which are almost always helpful.

Still, the special strength of extra-vivid images in influencing the mind can be constructively used (1) in persuading someone else to reach a correct conclusion or (2) as a device for improving one's own memory by attaching vivid images, one after the other, to many items one doesn't want to forget. Indeed, such use of vivid images as memory boosters is what enabled the great orators of classical Greece and Rome to give such long, organized speeches without using notes.

The great algorithm to remember in dealing with this tendency is simple: An idea or a fact is not worth more merely because it is easily available to you.


余談ですが、投資候補の企業のことを調べる一環で、その会社を取り上げた本を読んでいる最中です。この手の本ですから好意的に書いてあるのは承知の上ですが、それでも強い引力を感じます。人間の心を操作するのは簡単なものですね。

2012年10月13日土曜日

ローレン・テンプルトン女史

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ジョン・テンプルトンの投資方針を説明した本『テンプルトン卿の流儀』の話題を、以前にとりあげました(過去記事)。著者のローレン・テンプルトンはジョンの大姪(甥姪の子供)にあたる人で、彼女自身もヘッジファンドを運営しています。彼女の動向は個人的にはまったく知らなかったので、今回ご紹介するインタビュー映像はある種新鮮でした。



ジョンの直伝を受けているだけあって、発言がふるっています。
「市場全体が下落した時には気持ちを切り替えて、お買い得のほうに目を向ける」(1分30秒)
「悲観的なニュースが見出しにでると、わくわくする」(2分50秒)

ところで、彼女のファンドに関する情報はEDGARを検索しても公募時のものしかなく、成績(保有株式)の方は見当たりませんでした。ファンドの規模が小さいからか、あるいはタックスヘイブンで運用しているからなのか、法規制に疎くて理由はよくわかりません。ただ8月のブルームバーグの記事によれば、「マーケット・ニュートラル戦略をとっているファンドでは、今年は上位7番目の成績をおさめている」とありました。

Bloomberg features Chattanooga's Lauren Templeton Capital Management

最後に、彼女のファンドのWebサイトに掲載されている写真です。事務所かどこかの扉の上に、次の銘文が掲げられています。"TROUBLE IS OPPORTUNITY"、「災い転じて福となす」といったところでしょうか。




(2012/10/16訂正)大姪の説明を訂正しました。(誤)姪の子供 -> (正)甥姪の子供

2012年10月12日金曜日

(回答)ビジネス・スクールの学生への質問

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前回の問い「たくさんの量を売りたい場合に値上げするのが正解なもの」に対する回答です。あくまでもチャーリー・マンガー自身によるものであり、これが唯一絶対のものではないと思います。(日本語は拙訳)

1番目は「贅沢品」です。値上げをすることで、製品を「見せびらかす」力が高まります。たとえば、これみよがしに消費する人にとってみれば、買った品物の持つ効用が大きくなります。そして人は値段が高ければ、よい製品だろうと考えがちです。これによって売れ行きが伸びることがよくあります。

2番目としては「贅沢品以外」にもいえることで、上記の2番目に述べたのと同じ理由によるものです。金額が高ければ価値も高いはずだと消費者が仮定することを、高価な金額自体に語らせるわけです。このやりかたは、殊に産業用途の製品においてやりやすいでしょう。高い信頼性が重要な要因だからです。

3番目には、値上げによって得られた追加利益を使って、製品や販売システムを改善するといった合法的な行動をとるやりかたがあります。

最後は、値上げによって得られた追加利益を使って、さらなる売上増加を図るために、たとえば購買代理人に対して事実上の賄賂をわたします。投資信託業界における手数料の慣習などがその一例です。これは最終消費者に害をもたらすもので、非合法だったり倫理に反するやりかたです。[私が気に入っている回答はこれですが、誰からも答えてもらえませんでした]

1. Luxury goods: Raising the price can improve the product's ability as a 'show-off' item, i.e., by raising the price the utility of the goods is improved to someone engaging in conspicuous consumption. Further, people will frequently assume that the high price equates to a better product, and this can sometimes lead to increased sales.

2. Non-luxury goods: same as second factor cited above, i.e., the higher price conveys information assumed to be correct by the consumer, that the higher price connotes higher value. This can especially apply to industrial goods where high reliability is an important factor.

3. Raise the price and use the extra revenue in legal ways to make the product work better or to make the sales system work better.

4. Raise the price and use the extra revenue in illegal or unethical ways to drive sales by the functional equivalent of bribing purchasing agents or in other ways detrimental to the end consumer, i.e., mutual fund commission practices. [This is the answer I like the most, but never get.]”


4つの回答はいずれも抽象的な表現にとどまっていますが、チャーリー本人は具体的な事例を思い浮かべているはずです。なお1番目と2番目の回答の話題は、過去記事「誤判断の心理学(10)値段が高けりゃ、品質も一番」で取り上げています。3番目の回答に該当する具体例は、たとえば東京ディズニーリゾートを経営しているオリエンタルランドあたりでしょうか(参考資料: IRプレゼンテーション資料2012年9月 スライドの20ページ目)。

2012年10月10日水曜日

(問題)ビジネス・スクールの学生への質問(チャーリー・マンガー)

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コモディティー事業の話題を何度か取り上げましたが(前回記事)、今回は「価格」の話題で、チャーリー・マンガーによる問いかけをご紹介します。回答は次回にご紹介しますので、ご興味をもたれた方はどうぞお考えになってみてください。なおチャーリーは4つの回答を要求していますが、これは便宜的なものと捉えています。商売の話ですから、より幅広く考えることができるほど望ましいはずです。引用元はおなじみの『Poor Charlie's Almanack』です。(日本語は拙訳)

2つのビジネス・スクールで次のような質問を投げかけたことがあります。「みなさんは供給曲線と需要曲線のことを学習されたと思います。価格を値上げするにつれて売れる量が減少し、反対に価格を下げると売れる量が増加する。これはみなさんが習ったとおりですよね」。学生はそろってうなずきました。「それではお聞きしますが、たくさんの量を売りたい場合に値上げするのが正解なものとしては、どんな例が挙げられますか。いくつかの例を教えてください」。そう質問すると、なんとも不気味な静寂がしばらく続きました。しかし最後には2校のどちらでも、50人に1人ぐらいの割合で例を1つ挙げることができました。ただし近年になってからは、それができるのはスタンフォードのビジネス・スクールだけです。入るのが難しい学校ですね。しかも私が聞きたかったほうの答えを挙げられた人はいまだ皆無です。

この問題に対する回答は4種類のものがあります。第一の種類を答える人はいましたが、他のものを挙げる人はほとんどいませんでした。

Question: “I have posed at two different business schools the following problem. I say, “You have studied supply and demand curves. You have learned that when you raise the price, ordinarily the volume you can sell goes down, and when you reduce the price, the volume you can sell goes up. Is that right? That's what you've learned?” They all nod yes. And I say, “Now tell me several instances when, if you want the physical volume to go up, the correct answer is to increase the price?” And there's this long and ghastly pause. And finally, in each of the two business schools in which I've tried this, maybe one person in fifty could name one instance. But only one in fifty can come up with this sole instance in a modern business school ? one of the business schools being Stanford, which is hard to get into. And nobody has yet come up with the main answer that I like.”

Answer: “There are four categories of answers to this problem. A few people get the first category but rarely any of the others.


チャーリー・マンガーはさまざまな講演で歯ごたえのある問いかけをしていますが、個人的には今回のものも難しかったです。4問正解で100点満点とすると、自己採点で30点ぐらいでした。

2012年10月9日火曜日

織物事業の資本回転率が悪い理由(ウォーレン・バフェット)

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少し前に、コモディティー事業に対するチャーリー・マンガーの見方をご紹介しました(過去記事)。同じことをウォーレン・バフェットが別の表現をしていたので、そちらもご紹介します。1978年度「株主のみなさんへ」からの引用です。(日本語は拙訳)

織物事業に関しては、1978年度の純利益は130万ドルでした。1977年度より大幅に改善しましたが、この事業に投下した資本1,700万ドルとくらべると低い利益にとどまっています。当事業に関する工場や設備は会計上、現時点で設備を更新するコストとくらべると非常に小さな金額で計上されています。これらの設備の多くは使用年数にもかかわらず、業界で導入されている新型の設備と同様の機能を有しています。ところが、この「割安な」固定資産コストにもかかわらず、資本回転率は相対的に低いものとなっています。高水準の売掛金や在庫回転期間の長いことがその一因です。そこに低い利益率が重なることで、資本利益率は当然ながら望ましからぬ状況にあります。利益率を改善するためには、よくある手段としては製品の差別化、さらなる設備効率化や要員合理化による製造コストの低減、市場の伸びが大きい織物への転換といったものが考えられます。わたしどもの経営陣はそのような目的を達成しようと精力的に取り組んでいます。しかし問題なのは、ご察しのとおり競合企業のほうも精力的になって、まさしく同じことを実行しているということです。

[経済学の]教科書にはこのように書かれているものです。供給がタイトか不足が発生している場合を除いて、相対的に差別化しにくい製品を資本集約型の形態によって生産する事業では、リターンは不適切な水準にとどまるに違いない。まさに織物業界はこのとおりの状況にあります。過剰な生産能力が存在する限り、製品価格は投下資産に対してではなく、運転費用に即したものとなりがちです。織物産業ではほとんどいつも、そのような供給過剰な状態が続いていると思われます。われわれとしては、投下資本比でみたときに、他と比べて妥当な利益を得たいと考えております。

Earnings of $1.3 million in 1978, while much improved from 1977, still represent a low return on the $17 million of capital employed in this business. Textile plant and equipment are on the books for a very small fraction of what it would cost to replace such equipment today. And, despite the age of the equipment, much of it is functionally similar to new equipment being installed by the industry. But despite this “bargain cost” of fixed assets, capital turnover is relatively low reflecting required high investment levels in receivables and inventory compared to sales. Slow capital turnover, coupled with low profit margins on sales, inevitably produces inadequate returns on capital. Obvious approaches to improved profit margins involve differentiation of product, lowered manufacturing costs through more efficient equipment or better utilization of people, redirection toward fabrics enjoying stronger market trends, etc. Our management is diligent in pursuing such objectives. The problem, of course, is that our competitors are just as diligently doing the same thing.

The textile industry illustrates in textbook style how producers of relatively undifferentiated goods in capital intensive businesses must earn inadequate returns except under conditions of tight supply or real shortage. As long as excess productive capacity exists, prices tend to reflect direct operating costs rather than capital employed. Such a supply-excess condition appears likely to prevail most of the time in the textile industry, and our expectations are for profits of relatively modest amounts in relation to capital.

2012年10月8日月曜日

波に乗ってどこまでも(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの世知、今回は「先行者利益」の話です。(日本語は拙訳)

私が興味深く感じているミクロ経済学のもうひとつのモデルをお話ししましょう。我々の文明で起こっているように技術が急速に進歩すると、私が呼ぶところの「競争による破滅」が生じます。たとえばすばらしい馬車用鞭の工場をやっているとします。しかし突然あるときから、小型の自動車が登場します。こうなると馬車用鞭の商売におわりがくるのは、それほど遠くのことではないでしょう。ほかの商売に鞍替えするか、あるいはお陀仏となるかです。このようなことが何度も何度も繰り返されてきたのです。

そのような新事業が登場したときに先駆者だった人には巨大な優位がもたらされます。これを私は「波乗り」モデルと呼んでいます。サーファーが立ち上がってそのまま波に乗っていけば、ずっと長い時間にわたって進むことができます。ですが波がなければ、浅瀬でまちぼうけです。

しかし波を正しく捉えることができれば長い距離がかせげます。マイクロソフトやインテルやその手の人たちがそうでした。初期の頃のNCRも同じでした。

キャッシュ・レジスター[レジ]は、文明における偉大な貢献のひとつでした。このすばらしい話をふりかえってみましょう。パターソンは小さな小売店をやっていましたが、利益をあげていませんでした。あるとき彼は粗野なつくりのレジを買い受け、店の仕事で使うことにしました。すると突然、これまで赤字だったのが利益をあげられるようになったのです。というのも、従業員がお金を盗むのがずっと難しくなったからですね。

しかしパターソンは「これは店の商売に役立つぞ」とは考えずに、こう考えたのです。「レジを売る商売でいこう」、そうしてできた会社がNCRでした。(中略)

もちろんですが投資家が探すべきは、まさしくこういうことなのです。長き人生の間には、知恵を築き、そういった企業をさがそうとする決意をもてば、そのような機会のうち少なくとも何度かは大きな利益をあげられるでしょう。いずれにしても、「波に乗る」とはとても強力なモデルです。

Then there's another model from microeconomics that I find very interesting. When technology moves as fast as it does in a civilization like ours, you get a phenomenon that I call competitive destruction. You know, you have the finest buggy whip factory, and, all of a sudden, 「in」 comes this little horseless carriage. And before too many years go by, your buggy whip business is dead. You either get into a different business or you're dead - you're destroyed. It happens again and again and again.

And when these new businesses come in, there are huge advantages for the early birds. And when you're an early bird, there's a model that I call “surfing” - when a surfer gets up and catches the wave and just stays there, he can go a long, long time. But if he gets off the wave, he becomes mired in shallows.

But people get long runs when they're right on the edge of the wave, whether it's Microsoft or Intel or all kinds of people, including National Cash Register in the early days.

The cash register was one of the great contributions to civilization. It's a wonderful story. Patterson was a small retail merchant who didn't make any money. One day, somebody sold him a crude cash register, which he put into his retail operation. And it instantly changed from losing money to earning a profit because it made it so much harder for the employees to steal.

But Patterson, having the kind of mind that he did, didn't think, “Oh, good for my retail business.” He thought, “I'm going into the cash register business.” And, of course, he created National Cash Register.

And, of course, that's exactly what an investor should be looking for. In a long life, you can expect to profit heavily from at least a few of those opportunities if you develop the wisdom and will to seize them. At any rate, “surfing” is a very powerful model.


肝心な箇所を省略しましたが、NCRは当時のアメリカで大成功をおさめた企業でした。Wikipediaによれば、1925年のIPOによる資金調達は、アメリカ史上最大規模だったとのことです。

2012年10月6日土曜日

誤判断の心理学(17)パブロフの犬、後伝(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーの誤判断の心理学、今回は非日常的な話題で、人の認識が大きく変わるときの話です。現代は大きな災害が続く時期のまっただ中ですから、人の心の大きな変動は理解しやすいのかもしれません。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その17)ストレスによって引き起こされる傾向
Seventeen: Stress-Influence Tendency

脅威などによってストレスが突然かかると、体の中にアドレナリンがみなぎるのがわかります。これは、急激な反応ができるように体に喚起するものです。また心理学のイロハに通じている人であれば、ストレスが社会的証明の傾向をより強めることがわかっているでしょう。

やや知名度は劣りますがそれでもよく知られている現象として、大きなストレスが機能不全を招く一方、テストを受ける時のような軽いストレスがかかるときには、能力が若干改善することがあります。

しかし鬱を招くよりももっと強いストレスがかかるとどうなるのかは、ほとんど知られていません。たとえば、急性のストレスによる鬱が思考停止をもたらすことはよく知られています。長く続きがちな極度の悲観をもたらすとともに、行動停止状態にもなってしまいがちな現象です。しかしこれもよく知られていることですが、そういった類の鬱は幸運なことに、逆転できる症状の一例なのです。現代的な薬が登場する前でさえも、ウィンストン・チャーチルやサミュエル・ジョンソンといった鬱を患っていた多くの人が、偉大なる業績をなしとげました。

強いストレスによって引き起こされる非鬱病性の神経衰弱のことはほとんど知られていませんが、少なくとも1つは例外があります。パブロフが70~80代のときに行った研究です。パブロフがノーベル賞を受賞したのはまだ若い頃で、犬を使った消化生理学の業績に対して贈られました。犬がみせた単なる関連による反応[条件反射
]の業績によって、彼は世界的に有名になったのです。当初は唾液を出す犬の話でしたが、現代の広告がやっているような単なる関連がひきおこす行動上の大きな変化は、今日では「パブロフの」条件反射によると表現されることがよくあります。

パブロフの最後の研究があらわにしたものは特に興味深いものでした。レニングラードでは1920年代に大洪水が発生したのですが、パブロフは当時、たくさんの犬をカゴの中で飼っていました。パブロフの条件付けと標準的な報酬に対する反応を組み合わせることで、犬たちは自分の習慣をそれぞれ固有のものに変更されていました。洪水の水が押し寄せて引いたときに、多くの犬は自分の鼻とカゴの最上部の間に空気がほとんどなくなる状態にさらされ、これが最大級のストレスとなりました。その出来事のあとまもなく、パブロフは多くの犬が以前のようには振舞わないことに気がつきました。たとえば調教師になついていた犬が、嫌うようになっていたのです。この結果は現代における認識反転を思い起こさせます。最近好きになったものが突如カルトに変わることで、それまで両親を慕っていた人が突然憎むようになるような例です。パブロフの犬が予期せぬ極端な変化をとげたことは、どんなに優れた実験科学者をも好奇心ではちきれんばかりとするでしょう。実のところ、パブロフの反応がそうでした。しかしパブロフと同じように行動した科学者は多くありませんでした。

Everyone recognizes that sudden stress, for instance from a threat, will cause a rush of adrenaline in the human body, prompting faster and more extreme reaction. And everyone who has taken Psych 101 knows that stress makes Social-Proof Tendency more powerful.

In a phenomenon less well recognized but still widely known, light stress can slightly improve performance - say, in examinations - whereas heavy stress causes dysfunction.

But few people know more about really heavy stress than that it can cause depression. For instance, most people know that an “acute stress depression” makes thinking dysfunctional because it causes an extreme of pessimism, often extended in length and usually accompanied by activity-stopping fatigue. Fortunately, as most people also know, such a depression is one of mankind's more reversible ailments. Even before modern drugs were available, many people afflicted by depression, such as Winston Churchill and Samuel Johnson, gained great achievement in life.

Most people know very little about nondepressive mental breakdowns influenced by heavy stress. But there is at least one exception, involving the work of Pavlov when he was in his seventies and eighties. Pavlov had won a Nobel Prize early in life by using dogs to work out the physiology of digestion,. Then he became world-famous by working out mere-association responses in dogs, initially salivating dogs - so much so that changes in behavior triggered by mere-association, like those caused by much modern advertisement, are today often said to come from “Pavlovian” conditioning.

What happened to cause Pavlov's last work was especially interesting. During the great Leningrad Flood of the 1920s, Pavlov had many dogs in cages. Their habits had been transformed, by a combination of his “Pavlovian conditioning” plus standard reword responses, into distinct and different patterns. As the waters of the flood came up and receded, many dogs reached a point where they had almost no airspace between their noses and the tops of their cages. This subjected them to maximum stress. Immediately thereafter, Pavlov noticed that many of the dogs were no longer behaving as they had. The dog that formerly had liked his trainer now disliked him, for example. This result reminds one of modern cognition reversals in which a person's love of his parents suddenly becomes hate, as new love has been shifted suddenly to a cult. The unanticipated, extreme changes in Pavlov's dogs would have driven any good experimental scientist into a near-frenzy of curiosity. That was indeed Pavlov's reaction. But not may scientists would have done what Pavlov next did.

2012年10月4日木曜日

何が売られているかを知らないモスクワ市民

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『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』からのご紹介、今回で最後です。前々回前回をつなげるような話題です。

私たち人間が使い古された道を選ぶのは、主に道に迷うのを避けるためだ。だがアリなどの集団で移動する動物には、もっと重大な目的がある--最善の餌のありかを見つけ、最善の隠れ処を獲得し、何よりも探索中に食べられてしまうのを避けることだ。

こうした動物たちは、事情に通じた近隣の仲間の行動を模倣することによって、目的を達成する可能性を高めることができる。しかし、どの仲間が事情に通じているかをどうやって知るのだろう。現実的な手がかりは、他に真似をしている仲間がどれくらいいるかというところに見つかる。

1980年代、共産主義体制がうまく機能しなくなり生活必需品が慢性的に供給不足になっていた頃、モスクワ市民が利用した手がかりもそれだった。当時のモスクワを歩いていたとしよう。店の外に立っているのが1人か2人なら黙って通り過ぎるかもしれない。だがそれが3人4人となると、その店に売るものがあることの合図となり、他の人も急いで列に加わろうとするので、カスケード効果で行列があっという間に長くなる。何が売られているかを知っている人はほとんどいないというのに!

このカスケード効果は、動物行動学者がクォーラム反応[定足数反応]と呼んでいるものだ。クォーラム反応とは、簡単に言うと、各個体がある選択肢を選ぶ可能性が、すでにその選択肢を選んでいる近隣の個体の数とともに急速に(非線形的に)高まることで、集団はそれを通じて合意に達する(人間の脳神経細胞も、周囲の神経細胞の活動に対して同様の反応を示している)。(p.122)


余談ですが、本書の原題は"The Perfect Swarm"です。シャレが効いていて、楽しいですね。

2012年10月3日水曜日

尻振りダンスだけではない(ミツバチの群れ)

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前回に続いて『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』からの引用です。今回は、ミツバチの群れが目標に向かう事例です。

群れにいる個々のミツバチは、「回避」、「整列」、「引き寄せ」という例の3つの基本則に従っているが、全体としての群れには、イナゴの群れには見られなかったものがある--斥候が見つけてきた目標に向かってまっすぐ飛んで行けるという能力だ。ミツバチの群れがこの能力を発揮する様子は、群知能が創発する過程を解明するための第一の手がかりである。

「ああ、あれだ。ミツバチが目標を見つける方法ならよく知っている。有名な尻振りダンスを使うんだろ?」とあなたは思われたかもしれない。このダンスは、餌のありかや新しい巣の候補地などの何らかの目的地を仲間に伝えるために、斥候が使う手段である。斥候は、まるでディスコで踊る若者のように、腹部を振りながら8の字に移動する。ダンスの初めに斥候が進んだ方向が目標の方角を指し、腹部を振る速さが距離を知らせる。

だが残念ながら、この説明ではミツバチの群れが目標に到達できる十分な答えにはならない。なぜなら、ダンスはディスコ同様の暗い巣の中で行われるので、近くのミツバチ(全体のうち5パーセントほど)にしか見えず、ほとんどのハチは何も知らずに飛び立っていくことになるからだ。それに、ダンスを見たミツバチが先頭に立って仲間に方向を教えるわけでもない。そうしたミツバチは群れの中心にいて、他のハチと一緒に飛んでいるのだ。では、群れはどうやって目標を見つけるのだろう?(中略)

シミュレーションから明らかになったのは、目標を知っているミツバチが群れをうまく導くためには、他の仲間に自分が事情に通じていることを明かす必要も、売り込む必要もないということだった。目標を知っている個体がほんのわずかでもいれば、しかるべき方向に素早く移動するだけで、他の大多数の何も知らないミツバチの集団を導くことができるのである。そうした誘導はカスケード効果[ドミノ倒しのような波及的な作用のこと]を通じて行われ、それによって、何も知らないミツバチが、近隣の個体が向かう方向を目指すようになる。したがって方向を知っているミツバチがわずかしかいなくても、レイノルズの3つの規則、「回避」、「整列」、「引き寄せ」があれば、そのミツバチが向かう方向に群れ全体が進むことになる。

わずかな数の個体によって先導されるという現象は、コンピュータ・モデルで実験した人々によれば、「単純に、知っている個体と知らない個体の間の情報格差に応じて」生じるという。すなわち、目的地を明瞭に思い描き、そこに到達する方法をはっきりと知っている匿名の個体がわずかでもいれば、集団内の他の個体は、自分がついていっていることも知らぬまま、それに従って目的地へと向かうことになるのだ。そのとき必要なのは、意識しようとしまいと他の個体たちが集団にとどまりたいと望んでいること、そして、相反する目的地をもっていないことだけである。(中略)

コンピュータによるシミュレーションからは、さらに「集団を一定の正確さで導くのに必要な、事情に通じた個体の比率は、集団が大きくなるほど小さくなる」ことが明らかになっている。先の学生の実験では、200人の集団で10人(全体のわずか5%)が事情を知っていれば、90%の確率で集団を目標に導くことができた。(p.48)

2012年10月2日火曜日

怒涛が押し寄せる音が聞こえた(ダム決壊の日)

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最近読んだ本『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』で興味深い話がいくつか取り上げられていたので、ご紹介します。今回は物理学で登場する概念「臨界」についてです。

作家のジェイムズ・サーバーは、『ダム決壊の日』という自伝的な文章を書いているが、そこに描かれたような連鎖反応からも、そういう結果が生じることがある。きっかけは、一人の住民が逃げているのが目撃されたことだった。たったそれだけのことによって、心配するようなことはないと何度も念を押されたにもかかわらず、オハイオ州コロンバス東部の住民全員がありもしない津波から逃げ出したのである。サーバー一家もその脱出組の中にいた。「最初の半マイルのうちに、町の住民のほとんど全員が追い越していった」とサーバーは言う。パニックに陥ったある人は、背後から「怒涛が押し寄せる」音を聞きさえしたそうだ。だが、結局それはローラースケートの音だった。

パニックが起きたのは、最初に逃げた人を見て何人かの住民が逃げ始め、今度はその住民が、さらにまた何人かが逃げる元になり……、ということが繰り返されたからだ。この過程は住民全員が逃げ出すまで続いたのである。原子爆弾の内部でもこれと同じ過程が進行する。原子爆弾では、まずある原子核が崩壊して、近くの原子核を何個か分裂させるだけのエネルギーをもった高エネルギーの中性子を放出する。それが他の原子核を分裂させ、分裂した原子核がそれぞれまたさらに何個かを分裂させるだけの中性子を生む。こうして次々とドミノが倒れて、中性子の数と放出されたエネルギーの量が指数関数的に増大すると、大爆発となるのである。(p.28)


「臨界」については、以下の過去記事でも取り上げています。
なお、たしかに本書では群れに関する話題が登場しますが、全体的な内容としては副題「群知能と意思決定の科学」のほうが適切な表現かと思います。群れ以外の話題もいろいろ登場します。

2012年10月1日月曜日

超低金利を甘受する(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットの伝記『スノーボール』を書いたアリス・シュローダーへのインタビュー記事がThe Globe and Mailにありましたので、ご紹介します。ウォーレンが余裕資金を満額投資せずに待機させておく話題です。(日本語は拙訳)

引用元の記事: For Warren Buffett, the cash option is priceless

シュローダー女史は、バフェット氏の伝記を書く前から彼のことを何年も追ってきた。その彼女がこう論じる。バフェットにとって現金とは、利益をほとんど上げない種類の資産ではない。むしろ、値段が付けられるコール・オプションと捉えている。現金は他の資産を買うことができるが、そのことと比べてオプションのほうが安いと思えたら、彼はよろこんで超低金利を甘受する、と彼女は言う。

「彼は現金のことをふつうの投資家とは違うようにみています」シュローダー女史はつづける。「現金の選択性、これこそ彼から学んだきわめて重要なことの一つでした。つまり彼は現金をコール・オプションと捉えています。その条件は行使期限なし、あらゆる種類の資産が購入可能、権利行使価格の指定なしです」。

これはすごく根本的な見識だ。というのは投資家が現金のことをオプションと考えるようになると、つまりそれはここぞというときに掘り出し物を買える権利の値段だが、短期的にはほとんど利益を上げられなくても心が揺らがなくなるからだ。(中略)

ネブラスカ州オマハの彼のオフィスでカウチに座って何時間も過ごしたが、読んだり考えたりするばかりで、何も起こらなかった。そうして彼のファイルをひもとく時間が続くうちに、彼女は悟った。バフェット氏はわかりやすい比喩を使って話すことが多いが、実のところ彼の投資はとても複雑なのだと。

Ms. Schroeder argues that to Mr. Buffett, cash is not just an asset class that is returning next to nothing. It is a call option that can be priced. When he thinks that option is cheap, relative to the ability of cash to buy assets, he is willing to put up with super-low interest rates, said Ms. Schroeder, who followed Mr. Buffett for years before she became his biographer.

“He thinks of cash differently than conventional investors,” Ms. Schroeder says. “This is one of the most important things I learned from him: the optionality of cash. He thinks of cash as a call option with no expiration date, an option on every asset class, with no strike price.”

It is a pretty fundamental insight. Because once an investor looks at cash as an option - in essence, the price of being able to scoop up a bargain when it becomes available - it is less tempting to be bothered by the fact that in the short term, it earns almost nothing.

Much of that time was spent on the couch in his office in Omaha, Neb., where she said nothing much happens but a lot of reading and thinking. In that time, and the hours spent digging through his files, she said she discovered that while Mr. Buffett likes to speak in folksy aphorisms, in fact, his investing is very complicated.