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2024年2月8日木曜日

2023年の投資をふりかえって(4)新規投資銘柄:ナカニシ

 今回投稿している一連のふりかえりでは、長期的なリターンが大きいと考えている企業から順に取り上げています。ここで取り上げる企業ナカニシとくらべると、残りの国内企業2社アドテックプラズマテクノロジーとジーエルサイエンスは、短い期間(たとえば8年以内)をとれば相対的に割安にみえますが、それ以上の長期的視点にたつと当社のほうが確実性が高いと考えています。


ナカニシ(7716)


<事業の概要>

当社は、歯科を中心とする医療機器の製造販売会社です。おもな製品としては、各種ハンドピース(歯を削るドリルや歯石除去器具)や外科手術時に骨を切削する機器などがあります。中核技術が精密小型モーターとその制御にあるため、それらを中心としたスピンドル等も部品として販売しています。




海外売上高比率は80%と高く、欧米日亜に分散した地域的なバランスも良好です。北米の割合が若干低いものの(22%)、改善すべき地域として認識されており、施策の一環としてここ数年間に出資買収が実施されています。


国内における拠点(本社・開発・生産)は栃木県に集約されており、震災リスクが小さい点に惹かれます。また欧州の企業も買収してきたので、そちらにも製造拠点があります。


なお、当社と同じように栃木県を本拠地とする企業マニーとは、よく似た状況にあります。小型の医療機器を手がけており、利益率が高く、余剰の流動資産を大量に保有し、創業者一族による経営への関与が大きかったことがあげられます。そして両社ともに、品質を極めて競合優位性を維持するために地道な努力を重ねることを良しとする企業です。


<直近の業績>

2022年12月期の売上高は486億円、営業利益は153億円(そのほかに持分法による投資利益が約8億円)、純利益が124億円でした。経営指標で示すと、営業利益率は31.4%、純利益率は25.5%、ROEは14.4%となります。利益率が高いせいか、余剰な流動的金融資産の水準も高くなっています。2023年9月の時点では、負債を差し引いた純流動的金融資産は約300億円となっています。


<将来的な機会>

歯科を中心とした医療機器を事業領域としている性質上、世界的なGDP成長そして生活水準の向上にあわせた市場拡大は、基調として期待できます。また競争上の要因として精密化高品質化が重要である製品を手がけているので、技術発展を伴った買換え需要や他応用分野へのさらなる展開が期待できます。


成長性をみると、純利益が半分の水準だったのは2014年12月期(売上高が309億円、純利益が69億円)でした。倍増するのにかかった期間は8年間です。さらにその半分だったのが2004年ごろで、こちらの倍増は10年間程度でした。今後も同様の歩みが期待できるのであれば、倍増ペースは9年間前後となります。


また現在の配当利回りは約2%ですが、増配も期待できます。過去10年間を振り返ると配当成長率は年率20%強となっています。減配リスクは比較的小さく、前期比で10%減配した期がありましたが、余剰な流動的資産が多いので原資不足が理由ではありません。


M&Aには10年ぐらい前から力を入れ始めました。ここ数年間は複数案件を実施しており、ひとまず収束の感はあります。ただし、さきに実施されたM&A戦略説明会によると、案件のなかった外科事業領域では検討中とのことです。またM&Aの条件として次の3つを挙げています。「コア技術の強化」「製品種類の拡大」「販売力の強化」です。これらに寄与することが買収の条件であり、単なる拡大のための買収(コングロマリット化)は望んでいないと説明しています。少なくとも表面的には堅実な方針であり、納得できます。成長の速さは望めなくても、競合優位性を高めるという点で期待できるので、長期的な投資対象として好ましい方針だと思います。


<リスク>

医療系メーカーにとって製品の品質不良リスクは概して重大視されます。健康や生死にかかわるためですが、当社にとっては深刻な事態(賠償や顧客離れ)には陥りにくいとうけとめています。第一に、医師等専門家自身の判断にもとづいた手技を通じて患部に接するたぐいの機器であり、さらには体内に留置される恐れが小さいこと。第二に、品質不良が発生したとしても、これまでの使用実績を考えれば根本的な問題に起因するものではなく、一時的あるいは局所的な問題にとどまる可能性が高いこと。第三に、医師の手になじんだ機器であるため、代替製品へと乗りかえる障壁が比較的高いことがあげられます。


製品技術や生産技術の流出盗用リスクは、製造業全般で考えられているように考慮すべきリスクです。ただし当社は内製化率(部品点数ベース)が90%とのことで、すり合わせも含めて技術をまるごと盗用するのは現実的ではない試みと思われます。


長期的なリスクとしては、代替製品やソリューションの登場があげられます。「歯や骨を削る」処置に対して有効的な「削らない」処置が登場すれば、置き換わる可能性は大きいはずです。ものごとはより便利で快適な方向へと発展するので、医療の世界では低侵襲な方式へ置き換わるのは必然です。ただし現段階でそのような脅威は台頭していない状況かと思います。


主要拠点の立地という点では、人材採用リスクがあります。本社や工場が栃木県に位置しているので(東京上野にもオフィスあり)、利便性や人口減少の観点で就職先としての魅力が薄れて、望ましい人材を十分に採用できなくなる恐れがあります。財務的には優良企業なので、安定性や各種便益の魅力は漸増するものの、就職に直面する世代(特に、開発生産に従事する理科系の20歳代)に対して訴求できる生活環境なのか、疑問が残ります。ただし当社単体の従業員数は現在のところ漸増傾向にあるので、杞憂かもしれません。


為替リスクについては、あまり重大にはとらえていません。当社は基本的に円建てで取引しており、単体売上高(340億円)は連結売上高の70%を占めているので、円高になれば価格競争力が低下して業績低迷につながり得ます。直近では日米金融政策の動きから円高へ戻る流れが想定されているので、目先の業績は思わしくないかもしれません。しかし円高が定着するのか、あるいは再び円安に向かうのか、期間も方向も判断しきれません。また円高になった時期には当社の資産は相対的に増加するので、経営陣は余剰の金融資産を活用できる好機ととらえて、外国企業を積極的に買収してほしいと考えています。


<株価と価値評価>

現在の株価は2400円前後です。2022年12月期のEPSは145円だったので、実績PERで16-17倍程度となります。2023年9月時点での余剰な純流動的金融資産が1株当たり約340円あるので、これを差し引いて計算すれば実績PERはもっと小さくなります。事業としての質の高さ(利益や配当の安定性や長期的な成長性)を考えると、現在の株価は妥当な水準以下だととらえています。株価が低迷気味なのは、さらなる成長性や北米市場での減収、M&Aの巧拙、資本効率の悪さ(巨額の余剰資産を蓄積)、のれん償却の負担が不安視されているからでしょうか。




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