ピーター・リンチが投資する際に、「気になった企業はひとまず少し買い付ける」という文章をどこかで読んだ記憶があります。この1年はわたしも同じやり方をとってしまい、リンチさんには申し訳ありませんが、あまり誉められたものではないと自省気味に感じています。
今回は、昨年や今年に少額を投資したものの、早々にひきあげた銘柄を振り返ります。基本的には、昨年の投稿で注目銘柄としてあげた企業が対象となります。
6140 旭ダイヤモンド工業
6157 日進工具
3891 ニッポン高度紙工業
6988 日東電工
5201 旭硝子
5333 日本ガイシ
2178 トライステージ
上記のうち、最終的に本格的に投資した銘柄は1社のみとなりました。各銘柄について、以下に売却した理由等を若干記します。
■旭ダイヤモンド工業(6140)
当社は、機械加工で使用する工具のうち、主にダイヤモンドを刃材とするものを製造しています。ニッチで利益率がまずまずだったのですが、近年になってシリコンウエハー切断用のワイヤー「エコメップ」が大ヒットし、利益水準を押し上げました。また財務や配当方針の面でも、株主のほうを向いているように見受けられます。このように、自分の投資方針と合致している会社なのですが、どこか腑に落ちない点が残り、投資をひきあげました。購入は1000円強、売却は1077円で若干の売却益ですが、時期がたまたまよかったようです。その後、昨年来の太陽電池の需給バランスが悪化したことで主力のエコメップの販売が伸び悩み、それに同調して株価も低迷気味で、現在は780円前後です。
何がひっかかっているのか自分でもよくわからないのですが、きちんと納得できないときは、じっとするか手を引くことを旨としています。
■日進工具(6157)
当社は今年の主要投資先となったので、別の回でとりあげます。
■ニッポン高度紙工業(3891)
当社は、主にコンデンサ用セパレータを製造しており、製造技術や素材に特徴があることで、それなりの利益率を確保してきました。地方に本拠地をかまえていることもあり、個人的には応援したい企業なのですが、投資はやめとしました。購入は1400円前後、売却は1250円前後で損失を出しました。現在の株価は650円前後です。
投資をやめた主な理由は2つです。まずは製造拠点の立地についてです。株式投資を始めたころから、リスク管理の中心テーマとして巨大地震のリスク回避を念頭においてきました。今回は東日本でしたが、東海地方を最大のリスクと捉え、同地域周辺を中心拠点とする企業への投資は避けてきました。当社の主要拠点は高知県ということで、当初は確認していませんでしたが、拠点の地図をみると海岸沿いに立地しており、津波の直撃を受ける恐れがありました。なお、このリスクは当社の有価証券報告書に明記されており、新工場を日本海側に建設する大きな理由にも挙げられています。
第2の理由は、設備投資費用が重いことです。この影響のせいか、財務諸表をさかのぼって読むと、株主資本がそれほど増加していない点が気にかかりました。
■日東電工(6988)
投資家に人気のある企業なので、他言は無用かと思います。和製3Mという言葉がぴったりで、経営がうまくまわり、勢いの良さが感じられます。しかし昨年に2900円前後で購入するも、早々に3200円前後で売却しました。現在は4000円前後です。売却した理由として、利益が液晶関連の事業に偏重していることを考えましたが、当社の実績を鑑みれば、もう少し長い目で見て、売らずに保有すべきだったと感じています。株価がまた下がることがあれば、継続保有したいと考えています。
ただし、このような優良企業は全部は売らず、最後の一口(1単元)だけは残すようにしています。
■旭硝子(5201)
当社は液晶ディスプレイ用ガラスで世界シェア第2位につけており、寡占的な事業のため、利益率が高水準です。購入したのは1単元のみで600円、売却は570円なので売却損です。現在は640円です。
売却した理由は2つです。第一に、競合他社のコーニングを調べると、そちらのほうが有望かつ割安に思えたからです。ただし、同社の株式を買うには至っていません。第二は、利益水準と比して自動車関連の事業に関する設備投資が重いことです。これには中長期的な成長戦略が織り込まれているのかもしれませんが、うまく判断できませんでした。きちんと納得できなかったので、利益が出ていたとしてもいずれは売却したと思います。
■日本ガイシ(5333)
当社には投資していません。
■トライステージ(2170)
以前の投稿で触れたので、ここではとりあげません。
これ以外の「一口投資」としては、マニーに投資しました。数単元購入しましたが(2600円強)、日東電工と同じように、株価が若干上がったところで売却し、今は1単元だけの保有です。現在は3200円強です。売却した理由は、そもそもの自分の買値にもうひとつ納得できなかったからです。買値に自信が持てない最大の要因は、当社の顧客動向をきちんと理解していないことです。そのため、顧客との力関係や市場の成長性を、自信をもって判断できていません。当社に対しては、株価が大きく下がらないと本気になって勉強しない、という悪い面がでています。
4 件のコメント:
== No title ==
betseldomさんは投資先の選別にテクノロジーを重視されているようですね。
わたしはテクノロジーの価値をうまく見積もることができませんので、テクノロジー以外のものを評価して投資を行っています。
先日、投資先として紹介したロッキード・マーティンを私がどのように評価しているかをご紹介します。(今回は「持続力のある競争優位性」についてです。)
①米国の軍需産業の背景
米国政府は、世界のリーダーとして有事に備え産業基盤を維持する必要があり、また国家機密の保護からも常に軍需産業に投資し続けなければならず、その一方で予算は限られているため、新規業者の育成よりも既存の企業の維持成長が優先され、冷戦後の軍縮による予算削減による資本統合が進んだこともあわせて、業界再編を主導した数社の”スーパーカンパニー”が軍需産業を支配することになった。
また、政府の要求する性能や仕様は年々高度かつ複雑になっており、特に大型プロジェクトの主契約者となれるのは上記のスーパーカンパニーのみとなった。
②米国であることの魅力
世界のリーダーである米国の後ろ盾により製品輸出で圧倒的に有利となる。
③軍需産業の性質
唯一の顧客が政府であるため、その行動が比較的予測しやすい。
④軍需製品の魅力
契約が長期間にわたり収益が安定しており、製品のメンテナンスや改修、消耗品や補完製品の供給は独占的で買い手の価格交渉力が弱い。
特にスーパーカンパニーの製品はシステムインテグレーションによりその運用コストを引き下げると同時にスイッチングコストを高めている。
⑤軍需企業の持つ政治力
雇用創出や多額の献金の恩義に応えようとする議員や圧力団体を動かし、予算削減や発注キャンセル、他社への発注決定といった不利な決定を覆してしまうという政治力を有する。
①~⑤を併せ持つ業界でロッキード・マーティンは米国だけでなく世界のリーダーであり、他のどの軍需企業より資金と政治力、ロビー活動の力を持っている。
軍需業界は私にとって非常に魅力的かつ理解可能なものであり、それに加えて議員だけでなくペンタゴンすら思いのままに動かすロッキード・マーティンの“パワー”は並大抵のものではないと考えます。
高い参入障壁を持ち少数のスーパーカンパニーが支配する安定した業界を支配し、スイッチングコストの高く安定した収益をもたらす製品とサービスを有し、買い手や売り手の交渉力を弱めてしまう圧倒的なパワーを持つ同社の競争優位性は5年先、10年先も揺るぎないと思われます。
また、同社は航空機だけでなく今後大きな成長が見込まれるミサイル防衛システムやイージス艦に搭載されるイージスシステムやレーダー、火星探査機、人工衛星といったものから空港の保安検査、FBIの個人認証・識別技術、納税申告、国勢調査、郵便業務など軍事だけでなく政府の多岐にわたる業務に深く入り込んでおり、米国だけでなく世界でもなくてはならない存在となっています。
ロッキード・マーティンの持つテクノロジーの価値はよく分かりませんが、持続力のある競争優位性を持っていることについては確信を持っています。
== LMTの分析、とても参考になりました ==
ブロンコさん、こんにちは。
「持続力のある競争優位性」の例をご説明頂き、どうもありがとうございました。書かれた内容には、うなずくばかりです。別のものにたとえてみると、ローマ時代に皇帝をかつぎあげた軍団や、身近な例では上級公務員によるファミリー企業を連想しました。うまみがあって、一枚かみたくなる立ち位置を占めていると感じました。
「持続力のある競争優位性」を求めるには、たしかにブロンコさんが挙げられたような、構造的・生態学的な強みを持っているほうが、信頼性や持続性ははるかに大きいと思います。今回のLMTの事例は自分が気にかけていなかった視点でしたので、とても勉強になりました。価値あるコメントをありがとうございました。
それでは失礼致します。
== その他の軍需企業 ==
軍需企業ではロッキード・マーティン以外にもバフェットも興味を持っているゼネラル・ダイナミクスにも非常に興味があります。
同社の原子力潜水艦ビジネスは非常におもしろく、傘下のガルフストリームのビジネスジェットが持つ世界中の多くの経営者が成功の証として認めているそのブランドイメージは、そのイメージと自分とを積極的に結び付けようとする自己顕示欲の強い経営者にとって同社のビジネスジェットを必要不可欠と思わせ、信用に箔をつけるためにも持ちたいと考える企業も多くあることからも非常に有望であると考えるからです。
今年1年、このブログを通じて多くのことを学ばせてもらいました。このブログでマンガーの魅力を再確認できましたし、多くのことを考えるきっかけとなりました。
来年もすばらしいブログに期待しています。
== Re: その他の軍需企業 ==
ブロンコさん、こんにちは。
ゼネラル・ダイナミクス(GD)へウォーレン・バフェットが投資していたので、同社のことは以前から気になっていました。そのこともあり、軍需産業を調べたいと心のどこかで考えておりました。ブロンコさんの今回のご指摘は心理学的要因が絡んでおり、これも強力な原動力となるものですね。
先だってブロンコさんにご紹介いただいた書籍は、おそらくこの秋に出た新刊と思われます。昨日に書店で冒頭部分を立ち読みしたところ、おもしろそうな本でした。節約第一なのでその場では買えず、図書館の貸出予約に名を連ねることにしました。数ヶ月後になりますが、同書を読むのを楽しみに待つことにします。
いつも、ご意見・ご指導をいただき、ありがとうございます。
それでは失礼致します。
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