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2024年1月14日日曜日

日本企業は離陸していた(GMO)

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 GMOのリーダーたるジェレミー・グランサムは、米国市場全般に対してはあいかわらず弱気な見解を持ちつづけています(参考記事)。他方で、同社が目を向けている投資分野のひとつに日本株があります。最近発表された論考では、「4つの4」という観点で日本株への投資を勧めています。「4つの4」とは以下のものです。


THE FOUR 4s BEHIND THE COMPELLING OPPORTUNITY IN JAPAN EQUITIES 
(GMO; 2023/12/21付)


・4%の実質リターン

・4つの新規政策

・小型バリュー株に重点を置くことによる、4%のリターン上乗せ

・円安による4%の追い風効果


同文書では、これらについて定量定性の両面から説明を展開しています。根拠がやや弱いと感じられる説明もありますが、全体としては日本の現状をそこそこ妥当にまとめていると感じました。日本バリュー株ファンドを運営する筆者らが声高に主張しているのをみると、従来(2010年前半まで)の日本企業が全体としてみたときに外国の機関投資家から評価されていなかったことがわかります。


今回ご紹介するのは、同文書の中でもっとも印象的だった図を含む箇所から引用した文章です。(日本語は拙訳)



本質的業績の改善が寄与し、4%の実質リターンが期待される


当社GMOが予測を立てるうえで鍵となっている推進力は2つある。価値評価、そして本質的成長である。日本株はここ最近上昇したことで、市場全般でみたときの価値評価は妥当な水準となった。この話の興味深い部分は「本質」のほう、つまりファンダメンタルズにある。「直近でみられてきた力強いファンダメンタルズは、まやかしにすぎないものであり、いずれは低水準へ回帰するだろう」と多くの人たちが確信している。しかし、そうでない証拠があるのだ。

 
(図1)


日本企業がすぐれた本質的成長をここ何年間も果たしてきたことを、ほとんどの投資家は認識できていない。図1では、配当および本質的成長の形で株主が受けたリターンを示している。そこに、価値評価水準の変化分は含んでいない。図中の青色線は平準化した年率リターン4.5%を示しており、株式から低調な成績しか得られない場合を描いた我々の予想シナリオに一致している。これは直近10年間において株式市場に達成してほしいと我々が考えていた成績に近いものである。


興味ぶかいことに、これは米国企業がこの期間にあげた成果とほぼ精確に一致する。しかし日本企業はもっと好成績、つまり6.5%の本質的な成果をあげていた。これには驚くかもしれない。ドルベースでみたときには、米国株式市場のほうが日本のそれよりも好成績だったからだ。しかしそれは価値評価の水準が変化したからであり、さらには日本企業が果たした本質面での優位をうち消す以上に為替が変動したからである。投資家は米国株をこの10年間にわたって保有してきたことで優れた成果をおさめたが、根底にある企業業績をみると実際は日本のほうが優れていたのだ。(中略)


(図2) 


驚くことではないが、日本企業が残念な本質的リターンしかあげられなかった80・90・00年代は、ROC(Return On Capital; 資本利益率)が残念な結果にとどまった時期と一致していた。図2の左図の赤色線で示すように、その数十年間における日本のROCを均してみると、先進国で達成すべきだと我々が算定した値(4.5%、青色線で示す)の半分にしか達していなかった。実際のところ2018年あたりまでは、日本市場はその程度のROC(緑色の平坦線)に回帰するだろうと予想していた。つまり標準的な利益率の半分にだ。しかし我々は2018年までに、無視しがたい変化がROCに現れていることをみてとった。我々のデータにおいて標準的と定めた値をはじめて超過したのだ。そして高いROCを達成した年が何年か続いたことで、日本が恒常的な変曲点に到達したと我々は確信した。


図2の右図は[計量経済学上の]構造変化モデルで、ROCが平坦な緑色線の周辺へと回帰しない可能性を推し量るものだ。そしてこのモデルは、構造変化が2018年までにほぼ確実に生じたことを示している。それゆれ我々は予測モデルを、「日本における利益率は、先進国市場における標準値へゆるやかに遷移している(左図の緑色線が階段状になっている部分)」と変更した。日本企業のROCが改善したのはまやかしではなく、先進国水準へ収束し、以前の平坦線へ戻ることはないだろう。それが我々の見解である。

 4% Real Return Forecast Supported by Improving Fundamental Performance

 

Two key drivers underpin GMO’s forecasts: valuations and fundamental growth. After the recent run in Japanese equities, valuations look fairly valued for the broad universe. The interesting part of the story lies with fundamentals. While many believe recently strong fundamentals are a head fake and will revert to lower levels, evidence suggests otherwise. 


Most investors do not realize that Japan has been delivering superior fundamental growth for years. Exhibit 1 charts the returns shareholders earn from distributions and fundamental growth, ignoring the effects of valuation change. The smooth 4.5% annualized return line is consistent with what we expect stocks to earn in our “Low” base-case forecast scenario, and it’s roughly what we think equity markets should have delivered over the last 10 years.


Interestingly, it is almost exactly what U.S. companies earned over this period. Japanese companies, however, did much better delivering 6.5% fundamental performance. This might be surprising given the U.S. equity market outperformed the Japanese market when measured in dollars, but that is because valuation changes and currency movements more than offset the fundamental advantage Japan delivered. While investors did better owning U.S. equities over the last decade, underlying corporate performance was actually better in Japan. 

 

(snip)

 

Not surprisingly, Japan’s disappointing fundamental return in the eighties, nineties, and aughts corresponded to a period where returns on capital were disappointing. During those decades, Japan’s ROC, shown in red on the left of Exhibit 2, averaged only about half of what we estimate companies in developed markets should deliver (i.e., the blue line at 4.5%). Indeed, up until about 2018 our base case when forecasting Japanese market returns (the flat green line in the ROC chart) was to assume that ROCs would mean revert around this level of half of normal profitability. But by 2018 we had seen a change in ROC that was hard to ignore – ROCs had, for the first time on our data – exceeded what we assume to be normal. Further, after years of stronger returns on capital, we believed Japan had reached a permanent inflection point.


The chart on the right of Exhibit 2 represents a structural break model which asks how likely is it that ROCs were no longer mean reverting around the flat green line. By 2018, the model had put the odds of a structural break as a near certainty. We therefore changed our forecast model by assuming that profitability in Japan was slowly transitioning toward developed market norms (the stairstep section of the green line on the left.) In our view, Japan’s ROC improvement was not a head fake and would continue to converge toward the developed market norm, not fall back toward the old flat line.

 


2024年1月5日金曜日

2023年の投資をふりかえって(2)新規投資銘柄:フルヤ金属

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フルヤ金属(7826)


<事業の概要>

当社は白金族を中心とする貴金属を精製加工して販売しています。注力している具体的な素材は、イリジウムやルテニウム、銀、プラチナなどです。主力の製品としては、OLED向けの燐光材、各種スパッタリングターゲット材、単結晶引上げ用のるつぼ、熱電対などがあります。つまり当社製品が最終的に関わる先は、電子製品や精密機械機器といった領域になります。また劣化消耗した製品を顧客から回収し、リサイクルして再生する静脈型の事業も行っています。販売先は国外向けが過半を占めていますが、生産拠点は国内にとどまっています(茨城、北海道)。


<直近の業績>

2023年6月期における売上高は480億円、営業利益は110億円、純利益は94億円でした。経営指標で示すと、営業利益率は23%、純利益率は19.6%、ROEは23.3%でした。


ただし、11月に発表された今期の第1四半期業績は相対的に低調でした。売上高は100億円、営業利益は20億円、純利益は14億円でした。営業利益および純利益は前年比で半減しました。主な要因としては、顧客側の在庫調整やその先の市場低迷によるものと説明されています。


なお、成長性をみるために例えばさらに4期前の2019年6月期の業績をあげると、売上高は210億円、営業利益は44億円、純利益は27億円でした。業績が急上昇したのは2021年で、主要製品の金属価格が急騰した時期と一致しています。


<将来的な機会>

イリジウムやルテニウムといった金属元素は周期表の配置から想像できるように独特な特性を持っています。そのため有用性が高く、先端技術領域において今後も利用分野拡大が期待できます。その具体例としては、グリーン水素を製造するための水電解装置で使われる触媒関連の製品があげられます。


また注力分野以外の金属を扱った製品化も図っています。具体的には、窒化アルミニウムスカンジウム(AlScN)ターゲット材です。これは、携帯電話などの通信端末で使われる電子部品を製造する上で必要となる製品です。自社の得意な技術領域にとどまらず、別の周辺領域へと少しずつ進出するのは、化学系メーカーにとっては事業領域を拡大させる上で絶好の道筋だと思います。


資金面では、新株発行による増資(100億円)が2023年12月6日等に実施されました。使途としては、ほとんどが新規設備投資に充てられており、投資用途や時期は具体化しています。このことから、市場や販売量がそれなりの確度で見込まれていると想像できます。


<リスク>

製品の原料が希少な元素ゆえに高価であり、さらには戦略的な備蓄の狙いもあいまって、総資産に占める棚卸資産の割合が大きくなっています(50%以上、この点は会計監査でも指摘されている)。そのため、金属市場価格下落時の在庫評価損リスクおよび売上高減収リスクがあります。特にイリジウムやルテニウムは2021年に価格が急騰して以来、高値の状態が続いており、どこまで下落回帰するのか、価格の先行きが不透明です。


反対に金属価格が現在よりも大きく上昇すると、顧客側が安価な代替材料へ置き換えるリスクが大きくなります。上昇しないとしても、そもそも高価な材料と認識されているため、代替リスクは漸増していくと考えるのが安全だと思います。


イリジウムやルテニウムの産出元は南アに偏在しており、先述した「戦略的備蓄」につながっています。同国は電力供給問題を抱えており、鉱山の操業停止リスクがあります。


(イリジウム価格の推移)

イリジウム価格の推移


また経営者に関するリスクも小さくないとみています。会社の人員規模から想像できるように(従業員数400名弱)、創業者一族である古屋社長(80歳)が指揮経営していることが事業の成功に大きく寄与しているのはまちがいありません。それゆえ、社長交代後の後継者リスクは少なくとも現段階では考慮せざるを得ないと考えます。現在のように、新規市場を積極的に探しながら、他方では財務に目を向けて戦略的に資金を調達配分することで成長を続ける好循環を維持できなくなるかもしれません。なお、80歳の平均余命は8年程度です。


イリジウムやルテニウムといった金属を精製・加工・リサイクルすることは技術的にむずかしいため、安定的に量産供給している当社の競争優位性は高いと考えます。そのため、他社との競合という点では、大きなリスクは考えにくいと想像します。


<株価と価値評価>




増資後の時価総額は現時点で約800億円です。それに対して5年間平均でみた純利益の水準が60億円程度なので、実績PERは13倍の水準にあります。一方で、売上や利益の増加は基本的に期待できます。さきにあげた増資からまわす設備投資金額90億円は、現在の有形固定資産純額約170億円の50%程度に相当します。それ以外にも毎年の利益から捻出される新規設備投資費用は年間5-10億円の水準にあり、これらの数字からたとえば6年後の期待利益水準を予想できます。そのため、現在の株価9000円前後はリスクを考慮に入れたうえでも割安だと判断します。当社が数年後にダブルプレー銘柄(業績向上 + PER上昇)になることを期待しています。(参考記事)


なお、株式を購入した時期は図中の赤矢印で示しています。


2023年12月31日日曜日

2023年の投資をふりかえって(1)全般

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 2023年は、新規に購入しはじめた投資先が例年以上にありました。昨年の振り返り時には「投資家の心理は減退気味。個別企業の調査検討を本格的に再開する」と書きましたが、その方針にしたがった形になりました。なお、今となっては市場全般が株価上昇の1年間となったものの、個別にみると割安で魅力のある銘柄はそれなりに残っていると感じています。もちろん、為替レートが円高方向へ回帰することを考慮しなければなりませんが。


昨年までは銘柄ごとの売買概況をひととおり列挙していたのですが、現状維持(Hold)の銘柄ばかりとなってきたので、今年は新規購入分と買増し分のみにとどめます。(銘柄コードのリンク先は株価チャート)


<新規購入(New Buy)>

ニデック(6594)

・アドテックプラズマテクノロジー(6668)

ジーエルサイエンス(7705)

ナカニシ(7716)

フルヤ金属(7826)

・Dollar General(DG)


投資先の銘柄数が多く、集中できていないのは、見逃したくない程度には株価が割安になっている一方で、各企業の高いEPS成長率を確信するには至らなかったからです。株価下落に伴う実績PER低下は確固たる数字なので、重大な理由もなしに株価が下落するのであれば、基本的にその銘柄をひきつづき買増ししたいと考えています。


<買増し(Add)>

・クラレ(3405); 2月初めに購入

・参天製薬(4536); 7月中旬に購入



2023年1月9日月曜日

2022年の投資をふりかえって

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2022年はここ数年来と同じように、株式の購入金額よりも売却金額のほうが上回り、手元資金を増した結果となりました。ただし市場全般をみると米国ハイテク株を筆頭に株価の下落率が目立つようになっており、保有銘柄においても割高と思える銘柄数は減少しました。そして景気の見通しは芳しくなく、投資家の心理は減退気味です。今年は個別企業の調査検討を本格的に再開する年になりそうです。


銘柄ごとの売買概況は、以下のとおりです(銘柄コード順。リンク先は株価チャート)。また、昨年度分の投稿はこちらです。


<新規購入(New Buy)>

・参天製薬(4536); 春から夏に購入。


<買増し(Add)>

・日精エー・エス・ビー機械(6284); 4月に購入。

・インテル(INTC); 1年間にわたって都度購入。


<現状維持(Hold)>

・クラレ(3405)

・塩野義製薬(4507)

・メック(4971)

・日進工具(6157)

・マニー(7730)

・任天堂(7974)

・アップル(AAPL)

・バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)

・iShares シルバー・トラスト(SLV)

・従来からの銘柄


<一部売却(Reduce)>

・マイクロソフト(MSFT); 都度売却。保有比率はそれなりに縮小。

・従来からの銘柄


<全部売却(Sell)>

・なし


2022年3月1日火曜日

2021年度バフェットからの手紙(1)保有現金について

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バークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットが、2/26(土)付けで2021年度の「バフェットからの手紙」を公開しました。本文の文章量は10ページ分と、今年もさらに薄くなっています。その内容はあくまでも当社の株主に向けたものですが、そうでない一般投資家の方にも参考になるところがあると思います。

今回からの投稿では、いくつかの文章を拙訳付きでご紹介します。今回はバークシャーの資産における現金比率についてです。

SHAREHOLDER LETTER 2021 [PDF] (Berkshire Hathaway)

米国財務省証券

バークシャーの貸借対照表をみると、現金及びその等価物が1,440億ドル(約15兆円)となっています(ただしBNSF[鉄道子会社]とBHE[エネルギー子会社]が保有する分を除く)。このうち、1,200億ドルは米国財務省証券として保有しています。それらの満期はいずれも1年以内で、民間が保有する米国債のうちの約0.5%をバークシャーが受け持っていることになります。

チャーリーそしてわたしは、「バークシャー(とBNSFおよびBHEを除く子会社で)は、常に300億ドル以上の現金及び現金等価物を保有していくつもりだ」と公言してきました。みなさんの保有する当社が金銭的に堅固な会社であり、決して他者(やその友人)の好意にすがることがないよう、わたしどもは望んでおります。二人とも夜はぐっすり眠りたいですし、当社の債権者や被保険者や株主であるみなさんにも同じであってほしいと考えています。

しかし1,440億ドルとは、どうしたものでしょうか。

はっきり申し上げておきますが、この目をつく金額は血迷ったゆえに抱いた愛国心のあらわれなどではありません。またビジネスを保有したいという強い望みを、チャーリーやわたしが失ったわけでもありません。実際のところ、わたしがはじめてその情熱ぶりをあらわにしたのは80年前のことでした。1942年3月11日にシティーズ・サービス社の優先株を3株購入したときです(参考記事)。購入金額は114.75ドルで、貯金をすべて注ぎこみました。(その日のダウ工業平均終値が99ドルだったのは驚嘆すべき事実ですね。米国に逆らう賭けをしてはなりません)

初期に低下したものの、わたしは常に純資産の80%以上を株式に投じてきました。その状態を100%にしたいとずっと考えてきましたし、今でもそう思っています。現在のバークシャーがビジネスに資金を投じている割合が80%程度なのは、長期保有をする上でわたしどもが定めた条件を満たすような買収対象の企業やその一部分(つまり流通株式)を、わたしが見つけ出せていないからです。

現金保有率の高い同様な時期は過去にもあり、チャーリーとわたしはその状況を忍んできました。そういった時期は居心地のいいものではないですが、永続するわけでもありません。そして幸運にも2020年から2021年には資金を投じる若干魅力的な別の投資先を見つけることができました。つづきをお読みください。

U.S. Treasury Bills

Berkshire's balance sheet includes $144 billion of cash and cash equivalents (excluding the holdings of BNSF and BHE). Of this sum, $120 billion is held in U.S. Treasury bills, all maturing in less than a year. That stake leaves Berkshire financing about 1/2 of 1% of the publicly-held national debt.

Charlie and I have pledged that Berkshire (along with our subsidiaries other than BNSF and BHE) will always hold more than $30 billion of cash and equivalents. We want your company to be financially impregnable and never dependent on the kindness of strangers (or even that of friends). Both of us like to sleep soundly, and we want our creditors, insurance claimants and you to do so as well.

But $144 billion?

That imposing sum, I assure you, is not some deranged expression of patriotism. Nor have Charlie and I lost our overwhelming preference for business ownership. Indeed, I first manifested my enthusiasm for that 80 years ago, on March 11, 1942, when I purchased three shares of Cities Services preferred stock. Their cost was $114.75 and required all of my savings. (The Dow Jones Industrial Average that day closed at 99, a fact that should scream to you: Never bet against America.)

After my initial plunge, I always kept at least 80% of my net worth in equities. My favored status throughout that period was 100% - and still is. Berkshire's current 80%-or-so position in businesses is a consequence of my failure to find entire companies or small portions thereof (that is, marketable stocks) which meet our criteria for longterm holding.

Charlie and I have endured similar cash-heavy positions from time to time in the past. These periods are never pleasant; they are also never permanent. And, fortunately, we have had a mildly attractive alternative during 2020 and 2021 for deploying capital. Read on.