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2012年2月24日金曜日

注意!この先危険(ボブ・ロドリゲス)

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今回ご紹介するのは、ファンド・マネージャーの「超慎重派」ボブ・ロドリゲスが2/18に富裕層投資家のグループ向けに行った講演Caution: Danger Aheadです。

講演の前半では、欧日米の当局が放漫な財政や金融政策を続けている状況を取り上げ、低金利の続く現在の債券市場の危うさやインフレへの懸念を示しています。次に株式市場に対する見方が続きます。あくまでも、主に米国在住の投資家を前にした講演なので、日本の状況とは違うものです。個人的には、日本の個別銘柄はもっと楽観的にみています。そのような前提ですが、興味深かった発言を以下に引用します。(日本語は拙訳)

まずは、米国株式市場の低PERについてです。
図7では、黄色の線はS&P500のPERを示しています。この12年間はずっと下がり続け、1950年代半ば以来見られなかった水準まできています[1970年代からの株式の死と言われた頃にも、10以下になっている模様]。この低下傾向は、これまでの半世紀でもっとも長く続いています。そのため、株価はほどほどか割安だと考える人が多くなっていますが、歴史的にみれば、現在の価格には様々なリスクが考慮されていません。私もそうだったのですが、企業の収益の回復ぶりには驚いた人が多いでしょう。最近の記録的な税引前利益率は最たるものです。並み以下のこの経済成長下にも関わらずです。



ですから、この状況もおしまいになります。ただし、それほど急速ではないでしょう。細かく調べてみると、非金融企業の税引前利益率の増加の73%は、低金利(38%)や低賃金(35%)によるものでした。加えて、S&P500企業の売上の45%は、国外であげたものです。そのため、ヨーロッパや日本が景気後退にむかえば、さらなるリスクとなります。ヨーロッパから飛んでくる火の粉を甘くみないでください。新興国への貸出しの大部分は、ヨーロッパの銀行が占めているからです。株式市場のPERが下がっているのは、さまざまなリスクの高まりをおりこんでいるものと、私は考えています。利益率の低下、悲観的な経済成長の見通し、財政政策のあやまり、世界経済の不透明さといったリスクです。株価の騰落が大きくなっているのも、そのひとつに加えられるでしょう。ポートフォリオ・マネージャーたちは入ってきたニュースをほぼ即座に解釈して反応するからです。企業活動の先行きが低成長になるとみられると、現在の高水準の利益率や株価騰落が大きい状況とあいまって、投資家は株価を低PERへと押し下げます。マーケットがこんな状況ですから、株式に資金の多くを投じるのであれば、より低PERを心がけて安全余裕を大きくとらなければなりません。個人的には、今後10年間の平均的なリターンは、一桁台前半から中ほどになるのでは、と考えています。それでも楽観的かもしれませんが。

Exhibit 7 shows that the S&P 500’s P/E ratio, the yellow line, has declined over the past 12 years to a level not seen since the mid-1950s and is the longest sustained decline in a half century. Many consider the stock market reasonably or cheaply valued, when compared to history, so, its current valuation discounts numerous risks. The corporate earnings recovery surprised many, including me, particularly with near record pre-tax profit margins, despite substandard economic growth;

therefore, case closed--but not so fast. Upon closer examination, 73% of the non-financial corporate pre-tax profit margin expansion resulted from lower interest (38%) and labor (35%) costs.(note 19) Furthermore, approximately 45% of the S&P’s revenues are internationally sourced, so European and Japanese recessions pose additional risks. Contagion from Europe should not be underestimated since European banks dominate emerging market lending. I believe the market’s P/E decline reflects the growing risk of profit margin contraction, a sluggish economic growth outlook, fiscal policy mismanagement and international economic uncertainty. Increased market volatility adds to this list, as portfolio managers digest and react to news almost instantaneously. When a company’s operations are viewed as having low growth expectations, combined with peak margins and high volatility, investors typically ascribe a lower P/E valuation to the company’s stock. This portrayal describes the market and, therefore, a higher margin of safety, through a lower P/E, should be required for an aggressive equity allocation. In my opinion, low to mid single-digit returns will be the norm for the next decade and this may prove to be optimistic.

次は、今後の運用環境についての彼の考えです。
みなさんの中には、もっと何かをするような策を私が出すだろう、と期待していた方も多くいらっしゃるかと存じます。しかし、私としては元本を減らさないことを最上の務めとしています。今は辛抱のときです。私が思うに、世界的に高水準となっている債務が招くリスクや混乱を、多くの投資家が過小評価しています。今はまだ、経済や金融市場が不安定のまま拡大していく第2段階です。このような時勢で投資から際立った成果をあげるには、柔軟であること、現金比率を高くすること、適切ならば集中投資をすることが求められます。資金全額を投資し、インデックスにあわせてポートフォリオ中の配分を見直すような時代は、一昔前に終わったのです。

I know many of you would like more actionable ideas but principal protection is uppermost in my mind. Patience is required now. I believe many investors underestimate the potential risks and disruptiveness from high global financial leverage. We are in phase 2 of a continuing and expanding economic and financial market instability. Flexibility, high liquidity, and concentrated asset deployment, when appropriate, will be key elements in attaining superior investment performance. The era of being fully invested and adjusting portfolio weights relative to an index has been over for more than a decade.

聞き手は富裕層が中心なので、全額投資うんぬんのくだりはそれに見合った資産規模を想定した発言かと思われます。個人的には、給与所得などの比率がそこそこ高い時期は、現金比率を気にする必要性は小さいと考えています。

最後に、聴衆のみなさんへの助言になります。
最後になりますが、これまでの長い経歴の中で、私はたくさんの過ちを犯してきました。そういった過ち自体もそうですが、なぜそうなったのか考え直すようにしたおかげで、物事の行く末を予測する助けになりました。[著述家の]ノーマン・カズンズはこう言っています。「知恵とは、結末を予測することからできている」。失敗をしたらいい経験ができたと考え、そこから何かを学んでください。なぜ起こったのか分析し、お金に関する知恵を増やしてください。混沌としたこの時期に、みなさんがよき収獲をえて、無事な旅を過ごされますように。

「この先危険につき、注意」どうぞ、お忘れなく。

In closing, during my long career, I have made many mistakes. These mistakes, and my pursuit of understanding why they occurred, have been instrumental in helping me to anticipate consequences. As Norman Cousins said, “Wisdom consists of anticipation of consequences.” When you make a mistake, embrace it as a learning experience, analyze why it occurred, and increase your financial wisdom. I wish you all good hunting and safe journey through these turbulent times.

Remember, CAUTION: DANGER AHEAD.

同氏はマクロ予測だけでなく、個別企業に対しても徹底した分析を行いますが、最近は立場がかわったため、マクロの話題が目につきます。個人的にはマクロ予測には振り回されないようにしていますが、心構えと資金を準備するために参考にしています。そういえば、先日ご紹介したウォーレン・バフェットの発言も似ており、債券市場に対して注意の声をあげていましたね。

2012年2月23日木曜日

ウォルター・シュロスの投資成績

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前々回にウォルター・シュロスが亡くなった話題を取り上げましたが、今回は脂がのっていた頃の彼の投資成績についてです。

ベンジャミン・グレアムの会社をやめてから、ウォルター・シュロスは自分のファンドを立ち上げました。1955年のことです。ウォーレンが同氏を「大投資家」と紹介した講演資料に彼の成績を残しているので、グラフの形で以下にご紹介します。なお、Y軸の目盛は対数表示です。








青線がシュロスのパートナーシップの成績です。シュロスへの報酬をひいた後の金額です。当初元本が28年間で67倍になっています。赤線はS&P(500?)の配当込みのリターンですが、こちらは12倍弱にとどまっています。インフレによってドルは1/3程度に減価しているので額面どおりには受け取れないのですが、1975年以降の成績はあざやかです。1973年から1974年の厳しい下げの時期も、年率1ケタ台の減少で乗り切っています。

もう一つ引用があります。こちらはウォーレン・バフェットの2006年度「バークシャーの株主のみなさんへ」からで、同氏を取り上げた一節です。(日本語は拙訳)

ウォルターはビジネススクールだけでなく、大学にも行きませんでした。1956年当時、彼の事務所にはファイル・キャビネットが1本あるだけでした。2002年までには、それが4本に増えました。ウォルターは、秘書や事務員、会計係を雇いませんでした。ただ、息子のエドウィンとだけ、仕事に勤しみました。エドウィンはノースカロライナ芸術学校の卒業生です。ウォルターとエドウィンは、インサイダー情報には一切近寄りませんでした。彼らが手にしたのは公開された情報だけで乏しいものでしたが、ウォルターがベン・グレアムのもとで働いていた頃に学んだ簡単な統計手法を使って株式を選び出しました。ウォルターとエドウィンは、1989年にOutstanding Investors Digest[バリュー投資家に好評のインタビュー誌]のインタビューで、こう聞かれています。「おふたりのやりかたを一言でいうと、どうなりますか」。エドウィンの答えは「株を安く買うようにつとめています」。モダンポートフォリオ理論、テクニカル分析、マクロ経済の見解、複雑なアルゴリズム。そういうのはお呼びじゃなかったのです。

Walter did not go to business school, or for that matter, college. His office contained one file cabinet in 1956; the number mushroomed to four by 2002. Walter worked without a secretary, clerk or bookkeeper, his only associate being his son, Edwin, a graduate of the North Carolina School of the Arts. Walter and Edwin never came within a mile of inside information. Indeed, they used “outside” information only sparingly, generally selecting securities by certain simple statistical methods Walter learned while working for Ben Graham. When Walter and Edwin were asked in 1989 by Outstanding Investors Digest, “How would you summarize your approach?” Edwin replied, “We try to buy stocks cheap.” So much for Modern Portfolio Theory, technical analysis, macroeconomic thoughts and complex algorithms.
(p.21)

ウォルター・シュロスが残してくれた投資家へのメッセージ「株式投資で利益をあげるのに必要な16の要因」、ご興味を持たれた方はごらんになってください。

2012年2月22日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(過去の価格政策)

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最近読んだ本『ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力』で、過去の新ゲーム機発売前の価格政策に触れている文章がありましたので、ご紹介します。

まずはファミコンです。
山内は、ファミコンはヒットすると確信していたので、アーケード部門を廃止し、資金と経験をファミコンに集中投下した。価格は、山内が決して譲歩できない重要なポイントだった。ファミコンは安くしなければならない--市場のどの製品よりも安く。確かに、アップルのリサやゼロックスのスターは最高級マシンだったが、価格が高すぎたために大失敗に終わった。

山内は1万円を切る小売価格にして、その上利益を出そうとした。これは言わば二部料金制のビジネスモデルにおいて、基本料金からも大きな利益を期待するようなものだ。たとえば、このビジネスモデルでよく知られる剃刀メーカーのジレット社では、1度しか買わない剃刀本体の価格を安く、継続的に買わなければならない刃の価格を高く設定している。山内はゲームとゲーム機の両方で儲けたいと主張した。 (p.78)

次はゲームボーイです。
横井は、着脱式のカートリッジが使える携帯型ゲーム機ができないものかとブレーンストーミングをはじめる。実は以前にも考えたことがあったのだが、当時は満足なものができなかった。表示が不鮮明で、なにしろ馬鹿高い。適正価格、ハードウェアの能力、プレイのしやすさ、消費者の興味関心--横井はこれらをよく理解していた。今度はできるはずだ。

ファミコンと同様、価格は何よりも重要だった。安さは絶対条件だったが、安っぽい作りではだめだ。横井は、発売直後で高価な、実績のない先端的な技術ではなく、既存の技術を利用するよう強く主張した。彼の哲学である「枯れた技術の水平思考」とは、既存の技術や部品を新しいアイデアで活かすという意味だ。テクノロジー、メモリ、トランジスタ。あらゆるものがどんどん小さく、安くなっている。ではなぜわざわざ高い最新の部品を採用して、そのコストを顧客に転嫁しなければならないのだ?これは島国の経済学の初歩だ。材料を輸入し、付加価値をつけ、利益が出る価格で売る。

たとえば、液晶画面のバックライトなど問題外だった。高価でバッテリーを食う上に重い。確かにゲームボーイ(この機械の呼び名だ)は暗いところでは遊べないと苦情が来るだろう。だが軽く安くバッテリーが長持ちする製品という条件のほうが、バックライトの長所より重要だった。

さらに驚いたことに、液晶画面はカラーではなかった。カラーもバッテリーを消耗するので、横井はグレーというか、ソ連の軍服のようなオリーブグリーン一色のモノクロ画面を提案したのだ。彼はシャープがこのグレー画面の開発に莫大な投資をするのを、胃が痛くなる思いで見ていた。シャープの初期製品は画面を正面から見ると非常に見づらく、見る角度によっては室内や太陽の光が映り込んでしまうような状態だった。

だが横井とシャープは最後の最後でやり遂げる。4階調の緑がかったグレーがきちんと表示されるようになったのだ。「ほうれん草ペーストの色」とライバル企業が広告で馬鹿にした色だ。横井はそうした雑音などまったく気にかけなかった。ゲームボーイにはイヤホンがついているので、よりプライベートにゲームを楽しめ、サウンドもモノラルではなくステレオにできる。バッテリー寿命も延びた。1つの電池パックで約40時間プレイできる。通信ケーブルを使えば2人同時プレイも可能だった。その他にもカートリッジをロックするスイッチなどさまざまな工夫をこらしたので、耐久性も上がり、なおかつスマートなゲーム機になった。

(中略)

ゲームボーイ本体も売れ続け、1億1800万台と言う驚異的な数に達する。 (p.126)

昨年発売された新型機3DSは、当初は価格が25,000円だったため、普及に苦労しました(値下げ後の現在は15,000円)。もちろん、楽しめるソフトがそろっていなかったことも大きな原因でしょう。ですが本書を読むと、製品価格も同じように、当社の経営層が細心の注意を払って意思決定してきた課題のようです。昨年の3DSの失敗で、岩田社長は前社長の山内氏にお灸をすえられたのでは、と邪推してしまいます。

今年の新製品Wii Uでは同じミスを繰り返さないはずです。思わず財布のひもがゆるむような、魅力的な価格をつけてくるでしょうか。

2012年2月21日火曜日

ウォルター・シュロス氏死去

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ウォーレン・バフェットの旧友であり、また彼から「大投資家」と呼ばれたウォルター・シュロス氏が亡くなりました。享年95歳になります。情報元は、ブルームバーグのこちらの記事です。Walter Schloss, ‘Superinvestor’ Who Earned Praise From Buffett, Dies at 95
今回は、同記事から何箇所か引用します。(日本語は拙訳)

はじめは、ウォーレン・バフェットの言葉です。

「ウォルター・シュロスとは親しくお付き合いさせて頂いて、61年になります」
バフェットは昨日の声明の中で述べた。
「彼は飛びぬけた投資成績をあげてきましたが、それ以上に重要なのは、投資ビジネス界で誠実さのお手本になったことです。顧客が大きな利益をあげないかぎり、ウォルターはびた一文受けとりませんでした。つまり、固定報酬はとらずに、あがった利益の一部を受けとったのです。信義という面でも、投資能力に匹敵していました」

“Walter Schloss was a very close friend for 61 years,” Buffett said yesterday in a statement. “He had an extraordinary investment record, but even more important, he set an example for integrity in investment management. Walter never made a dime off of his investors unless they themselves made significant money. He charged no fixed fee at all and merely shared in their profits. His fiduciary sense was every bit the equal of his investment skills.”


続いて、シュロス氏自身の言葉です。

「ふつうは割安になっている株を買うのが好みなので、もっと下がったときにもっと買うだけの度胸がいります
1998年に開催されたGrant’s Interest Rate Observer協賛の会合で、シュロスは述べた。
「それこそが、ベン・グレアムがずっとやってきたことなんですよ」

“Basically we like to buy stocks which we feel are undervalued, and then we have to have the guts to buy more when they go down,” Schloss said at a 1998 conference sponsored by Grant’s Interest Rate Observer. “And that’s really the history of Ben Graham.”


最後に、同氏の息子さんの言葉です。

エドウィン・シュロスはすでに引退しているが、昨日のインタビューで、父親の投資上の哲学と長命の間には因果関係があったのでは、と述べた。

「最近のマネー・マネージャーには、四半期ごとの決算も気になっている人が多いですね。朝の5時まで[眠れずに]爪をかじりあげているようですが、私の父は四半期決算の動きなんて、全然気にしてませんでした。だから、ぐっすり寝てましたよ」

Edwin Schloss, now retired, said yesterday in an interview that his father’s investing philosophy and longevity were probably related.

“A lot of money managers today worry about quarterly comparisons in earnings,” he said. “They’re up biting their fingernails until 5 in the morning. My dad never worried about quarterly comparisons. He slept well.”


シュロス氏のことは本ブログでも2回とりあげました。「あるファンドの始まり」と、「株式投資で利益をあげるのに必要な16の要因」です。最初の記事には粋な同氏の写真も載せています。未見の方は、ぜひごらんください。

2012年2月20日月曜日

50年間待ちました(ウォーレン・バフェット)

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前々回にご紹介したウォーレン・バフェットのインタビューで、IBMの株式を購入するきっかけについて、やりとりがありました(5分過ぎ)。原文のトランスクリプトは"Person to Person": Warren Buffettから引用しています。

そうです、チャーリー[・ローズ]。IBMの年次報告書はだいたい毎年読んできて、50年になります。今年のを読んでいて納得できるものがありましたので、8,000億円ほど投資することにしました。

Yeah. Charlie, I'd been reading IBM's annual report, literally, every year for 50 years. And then this year...I saw something that sort a clicked in terms of adding to my-- feeling of confidence. And -- so we spent $10-plus billion. (CLEARS THROAT)


ウォーレンの答えはさすがです。50年前というと1960年過ぎです。IBMが大ヒット作のメインフレーム・コンピューターSystem/360を出したのが1964年ですので、ウォーレンは絶頂期の頃からずっと同社を見守ってきたことになります。1987年にCoca-Colaの株式を買い始めたときも、長く待ち続けた後のことでした。彼らの辛抱強さや継続して取組む姿勢は、そっくり見習いたいものです。

2012年2月19日日曜日

誤判断の心理学(5)自縄自縛(チャーリー・マンガー)

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今回は、前回の傾向「疑いをもたないようにする傾向」とつながる話題をご紹介します。併せてお読みください。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その5)終始一貫しようとする傾向
Inconsistency-Avoidance Tendency

人の脳は、回路の領域を節約するために変化を厭うようになりました。これは、一貫しないのを避けるという形で現れており、良くも悪くも習慣の面に影響しています。たくさんの悪癖を克服できた人は稀でしょうし、一つも克服できていない人もいるかもしれません。まあ、実のところ誰もが悪い癖をすごくたくさんもっています。よくないと思いつつも、ずっとそのままにしているのです。こんな状況ですから、若い頃に身についた習慣を運命とみる人が多いのも不思議ではありません。[ディケンズのクリスマス・キャロルで]マーリの哀れな幽霊が言った「この世でじぶんがつくった鎖で、じぶんをしばっているのだ」にでてくる鎖とは、習慣のことを指しています。はじめは軽くて感じられないほどですが、やがては硬くて外せなくなってしまうのです。

良き習慣を多く身につけ、悪しき習慣には近寄らないか直してしまう。そのような賢明な生き方ができる者は稀です。ですからここでも、ベンジャミン・フランクリンの『プーア・リチャードの暦』にでてくる大切な教訓の力を借りましょう。「1オンスの予防は、1ポンドの治療と同じ」。フランクリンがいくぶん説いているのは、人には終始一貫しようとする傾向があるので、ついてしまった習慣を改めるよりも、そもそも身につけないようにするほうが楽だ、ということです。

この変化をきらう傾向がゆえに現状維持しやすい例としては、前言、忠誠心、徳性、約束、社会的に認知された役割などが挙げられます。なぜ人の脳が疑念を速やかに払い、変化をきらうように進化したのか、完全にはわかっていません。が、以下の要因が組み合わさり、この変化嫌いを生みだす原動力になった、と私は考えています。

(1) ヒト以前のご先祖様だった時分は、捕食者から生き残るには意思決定の速さが決め手だったので、この変化嫌いが素早く意思決定する際に役立った。

(2) ご先祖様の頃に仲間と協力したほうが生き残りやすかったので、この変化嫌いが役立った。みんなが毎度違う反応を返すようだとなかなか難しいからだ。

(3) 読み書きが始まってから複雑な生活を営む現代に至るまでの限られた世代では、この変化嫌いこそが、進化によって導き出された最高の解決策だった。

The brain of man conserves programming space by being reluctant to change, which is a form of inconsistency avoidance. We see this in all human habits, constructive and destructive. Few people can list a lot of bad habits that they have eliminated, and some people cannot identify even one of these. Instead, practically everyone has a great many bad habits he has long maintained despite their being known as bad. Given this situation, it is not too much in many cases to appraise early-formed habits as destiny. When Marley's miserable ghost says, "I wear the chains I forged in life", he is talking about chains of habit that were too light to be felt before they became too strong to be broken.

The rare life that is wisely lived has in it many good habits maintained and many bad habits avoided or cured. And the great rule that helps here is again from Franklin's Poor Richard's Almanack: "An ounce of prevention is worth a pound of cure." What Franklin is here indicating, in part, is that Inconsistencey-Avoidance Tendency makes it much easier to prevent a habit than change it.

Also tending to be maintained in place by the anti-change tendency of the brain are one's previous conclusions, human loyalties, reputational identity, commitments, accepted role in a civilization, etc. It is not entirely clear why evolution would program into man's brain an anti-change mode alongside his tendency to quickly remove doubt. My guess is the anti-change mode was significantly caused by a combination of the following factors:

(1) It facilitated faster decisions when speed of decision was an important contribution to the survival of nonhuman ancestors that were prey.

(2) It facilitated the survival advantage that our ancestors gained by cooperrating in groups, which would have been more difficult to do if everyone was always changing responses.

(3) It was the best form of solution that evolution could get to in the limited number of generations between the start of literacy and today's complex modern life.


続いてダーウィンの話題です。こちらは以前にご紹介した「逆ひねり」と同様のものです。

最初に出した結論にこだわってしまう縛りから最もうまく自らを解放できた一人が、チャールズ・ダーウィンです。彼は若いうちから、自分の仮説を否定するような証拠がないか徹底的に検討することを、自らに課しました。自説が特によいと思えるときほど、念を入れました。このダーウィンのやり方と対極に来るのが、確証バイアスと呼ばれているものです。いい意味では使われない言葉ですね。ダーウィンは鋭くも、ヒトの持つ知覚上の誤りは、一貫しないのを避ける傾向によるものと認識していました。だからこそ自らのやりかたを律したのです。彼がたくさんの心理学的な洞察例を正しく残してくれたおかげで、最上の知的活動を推し進める際に役立ってきました。

One of the most successful users of an antidote to first conclusion bias was Charles Darwin. He trained himself, early, to intensively consider any evidence tending to disconfirm any hypothesis of his, more so if he thought his hypothesis was a particularly good one. The opposite of what Darwin did is now called confirmation bias, a term of opprobrium. Darwin's practice came from his acute recognition of man's natural cognitive faults arising from Inconsistency-Avoidance Tendency. He provides a great example of psychological insight correctly used to advance some of the finest mental work ever done.


自説にこだわるというのは投資面でもよくあることでしょう。誤った投資先から手を引けなかったり、柳の下に二匹目のどじょうがいると考えたり。最初の結論に縛られてしまうのは、以前ご紹介した他の傾向「愛好/愛情の傾向」や「嫌悪/憎悪の傾向」とあいまって、投資先への評価を誤らせる大きな落とし穴のように思えます。

なお、クリスマス・キャロルの翻訳は、以下の本からお借りしました。
クリスマス・キャロル(岩波少年文庫 村山英太郎訳)

2012年2月18日土曜日

(映像)これが私のオフィスです(ウォーレン・バフェット)

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以前にウォーレン・バフェットのオフィスの写真をご紹介しましたが、奇しくも同じ日にCBSでチャーリー・ローズがウォーレンにインタビューをしていました。オマハのバークシャーのオフィスからです。ウォーレンはあいかわらずのジョーク連発ですが、まじめな会話への切り替わりが自然で、どちらがホストなのか戸惑うほどです。

"Person to Person": Warren Buffett(トランスクリプトあり)



デール・カーネギーの話し方教室を受講したのは伝説的な逸話ですが、壁面に飾られた証書が映像に出てきます(6分過ぎ)。記録マニアのウォーレン、面目躍如です。

彼のしゃべりはテンポが速く、私の耳ではなかなか聴き取れません。最後のジョージ・クルーニーのジョークがいまひとつわからなかったのですが、トランスクリプトを読んでみたら、お得意のパターンのやつでした。

2012年2月17日金曜日

市場は自ら助くる者を助く(ウォーレン・バフェット)

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このところ日本の市場でも株価が上がっていますね。ここ最近の急上昇は目につきますが、日経平均で見ると、1年前と比べても高いといえる水準には達していないのですね。ここから上がるのか下がるのか、先のことはまるでわかりません。蛇足ですが、個人的にはどちらかというと株価が下がるほうが元気がでてきます(カラ元気?)。ウォーレン・バフェットの例の名言と同じです。

さて、今回はそのウォーレン・バフェットによる1982年の「株主の皆さんへ」からの引用です。(日本語は拙訳)

[バークシャーが市場で株式を買って企業を]部分所有するやりかたをうまく続けられるのは、魅力的なビジネスが魅力的な値段で買える場合だけです。それには、ほどほどの株価になっている市場が必要です。市場は、主と同じように「自ら助くる者を助く」のですが、主とちがって、市場は自分が何をしているのかわかっていない者は容赦しません。ですから、素晴らしい企業でも高すぎる株価で買ってしまうと、商売がその後も順調に進んだとしても、投資家にとっては帳消しで終わるかもしれないのです

Our partial-ownership approach can be continued soundly only as long as portions of attractive businesses can be acquired at attractive prices. We need a moderately-priced stock market to assist us in this endeavor. The market, like the Lord, helps those who help themselves. But, unlike the Lord, the market does not forgive those who know not what they do. For the investor, a too-high purchase price for the stock of an excellent company can undo the effects of a subsequent decade of favorable business developments.

一例として、マイクロソフト(MSFT)の10年チャートを挙げました。最近の上昇で若干プラスになりましたが、ほぼ横ばいです(配当は除く)。2002年当時のPERは40前後でした。たしかに高いですね。ちなみに現在のPERは12程度です。

2012年2月16日木曜日

慣れるように習え、そして慣れよ。(チャーリー・マンガー)

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前回取り上げた「学ぶ方法」は、学校だけではなく、企業でも重要視されている話題かと思います。「learning process」のようなキーワードで検索すると、インターネット上でも多くの検索結果が得られます。いずれそのような話題をとりあげるかもしれませんが、しばらくはチャーリー・マンガーの語りを咀嚼しつづけたいと思います。今回の引用は、おなじみの「Poor Charlie's Almanack」から、以前に取り上げた「世の中の働きと驚くほど一致する」に続く文章です。どうやって学べばよいのか、一例を示しています。(日本語は拙訳)

[順列や組み合わせといったやりかたを]無意識のうちには、なかなか実行できないものです。なぜそうなのかは、基本的な心理学に通じていれば、すぐにわかるでしょう。そう、脳の中の神経回路は、長きにわたった遺伝的、文化的な進化によって培われたものであり、パスカルとフェルマーの考えのようにはできていないからです。脳は物事を大雑把に見定めてしまうのです。パスカル・フェルマー的な要素も持ってはいますが、うまく働いていません。

だからこそ、この基礎的な数学[=順列、組み合わせ]を使いやすい形で学び、そして実生活で繰り返し使わなければならないのです。ゴルフがうまくなりたくても、もって生まれた体の動きでは自然にスイングできないのと同じです。ゴルファーとして自分がどこまでやれるのかわかるには、正しい握りを覚え、別のスイングを覚えなければならないのです。

By and large, as it works out, people can't naturally and automatically do this. If you understand elementary psychology, the reason they can't is really quite simple: The basic neural network of the brain is there through broad genetic and cultural evolution. And it's not Fermat/Pascal. It uses a very crude, shortcut-type of approximation. It's got elements of Fermat/Pascal in it. However, it's not good.

So you have to learn in a very usable way this very elementary math and use it routinely in life - just the way if you want to become a golfer, you can't use the natural swing that broad evolution gave you. You have to learn to have a certain grip and swing in a different way to realize your full potential as a golfer.


振り返ってみると、小学校で学んだことはきちんと身についているものです。例えば割り算の筆算だったり、分数の割り算だったり。幾度となく繰り返してきたものです。反対に、大学入試の直前に身につけた大量の知識や解法は、入学後まもなくすると消え失せてしまいました。他方、社会人になって身につけたスキルは、日常的な仕事でいやになるほど使ったせいか、これもよく定着しています。こうしてみると、実際的な形で身についていないのは、チャーリーの説くような基本的な学問(高校レベル)のようです。

それらを再学習する際に「使いやすい形で学び、実生活で繰り返し使う」、まだまだ実践できていないのですが、個人的にはこのテーマにこだわって取り組んでいきたいと考えています。

2012年2月15日水曜日

文明の進歩、自身の向上(チャーリー・マンガー)

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前々回(ゴルフと同じです)、それから前回(最高の助言)と、学ぶことについて取り上げましたが、今回は学び方について、チャーリー・マンガーの一言です。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用です。(日本語は拙訳)

文明が進歩できたのは発明の方法が発明されてからだったように、自分自身を向上させるには、まず学ぶ方法を学ばなければなりません。

Just as civilization can progress only when it invents the method of invention, you can progress only when you learn the method of learning.

2012年2月14日火曜日

偉大な投資家からの、最高の助言(ボブ・ロドリゲス)

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極めつけの慎重派」として以前に取り上げたファンド・マネージャーのボブ・ロドリゲスが、FortuneのインタビューBob Rodriguez: The best advice I ever gotに応じていました。個人的には同氏の言行に注目しており、ファンドのWebサイトは度々訪れています。今回は若い頃に同氏が受けた助言についてです。(日本語は拙訳)

1974年の秋には、USCの大学院で投資上のポートフォリオ管理のコースを受講していました。金融市場は厳しい時期で、なぜそんなにひどい値段で証券が売られているのか、私にはわかりませんでした。グレアムとドッドが書いた著書『証券分析』に出会ったばかりの頃で、外部からきた講師の話をきくことになりました。チャーリー・マンガーという名のその人は、バリュー投資について熱心に語ってくれました。講義が済んだ後、チャーリーに近寄り、優れた投資のプロになるには何をしたらよいのか、たずねました。彼はこう答えました。「歴史を読むこと。読んで、読みまくるのです」。そんなわけで私は、歴史一般に限らず、経済史や金融史も読み、いっぱしの歴史家となったわけです。

私は、危機に直面した人々について学ぶことができました。ですから、2008年に金融危機がおきた時は、昔なじみのように思えました。1907年の銀行危機とよく似ていたからです。チャーリーの助言に従って歴史に親しんできたおかげで、類似点を文脈の中で捉えられました。

In the fall of 1974 I was in graduate school at USC taking a portfolio-management investment course. The financial markets were in difficulty, and I didn't understand how securities were being sold at such depressed levels. I had only recently discovered Security Analysis by Graham and Dodd when we had a guest lecturer come in named Charlie Munger, who went on about this idea of value investing. After the class was over, I walked up to Charlie and asked him if there was one thing that I could do that would make me a better investment professional. His answer was, 'Read history, read history, read history.' And so I became a good historian, reading both economic and financial history as well as general history.

What I learned is that people relate to the crises they have experienced. So when the crisis of 2008 came, it felt like an old friend to me because it had so many similarities to the banking crisis of 1907. Asking Charlie's advice and then reading history allowed me to put those things in context.


同氏は現在、USCのビジネススクールに設立されている投資関連の研究所で、アドバイザーを務めています。同研究所の学生は、実際にファンドを運用しながら学んでいるようです。

歴史から学ぶといえば、ジム・ロジャーズもどこかで書いていましたね。

2012年2月13日月曜日

ゴルフと同じです(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは幾度となく、学ぶことの大切さにふれていますが、今回は未経験の投資分野でも通用すると説いたものです。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用です。

とんとん拍子で大投資家になった人は皆、学んでいます。ウォーレンに知り合ってからいろんな優れた投資家がいましたが、彼は飛びぬけた一人ですね。このゲーム[=投資]は、すなわち学び続けることなのです。学んで習得する過程自体を好きにならなきゃね。

ウォーレンの様子を何十年もみてきましたが、彼は多くのことを学んできました。だからこそ、ペトロチャイナのような企業に投資できるまでに、自分の守備範囲を広げられたわけです。

投資を始めると、全然経験のない分野に投資することもでてきます。しかし、少しずつでも前進し続ければ、ほぼ確実に好成績をおさめられるような投資を始められるでしょう。大切なのは、規律を守り、勤勉に努め、実践を積むことです。ゴルフでうまくなりたいのと同じです。せっせと励まなければなりません。

学ぶのをサボっていると、他の人に追い越されますよ。

I don't know anyone who [learned to be a great investor] with great rapidity. Warren has gotten to be one hell of a lot better investor over the period I've known him, as have I. So the game is to keep learning. You gotta like the learning process.

I've watched Warren for decades. Warren has learned a lot, which has allowed him to [expand his circle of competence so he could invest in something like PetroChina].

If you're going to be an investor, you're going to make some investments where you don't have all the experience you need. But if you keep trying to get a little better over time, you'll start to make investments that are virtually certain to have a good outcome. The keys are discipline, hard work, and practice. It's like playing golf - you have to work on it.

If you don't keep learning, other people will pass you by.

2012年2月12日日曜日

めざましい成功を収めるには(マイケル・バーリ)

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遅まきながらマイケル・バーリという投資家のことを知りました。サブプライム・ローン危機を題材にした『世紀の空売り』に登場する隻眼の相場師です。Vanity Fairに同書の抜粋が紹介されており、シリコン・バレーの自宅のオフィスで撮影された彼の写真が印象に残っていました。住宅バブルが傾くほうに賭けた彼ですが、本来は根っからのバリュー投資家です。今回は同書からの引用になります。

まずは、マネー・マネージャーになる前の彼に対する寸評です。

「何よりまず、マイク・バーリはいつこんなことをしているんだ、って思ったよ。本業は研修医だろう?こっちの目に入るのは、彼の一日のうち医者じゃない部分だけで、なのにすごいとしか言いようがない。バーリは自分の取引内容をみんなに公開している。みんなはリアルタイムでそれをまねしてる。ドットコム・バブルのまっただ中に、バリュー投資を実践しているんだ。バリュー志向の株を買ってて、それはうちの会社も同じなんだが、うちは損をしている。顧客も失ってる。ぽっと出てきたバーリは、勝ち続けだ。利回り50パーセント。常識はずれだよ。人間わざじゃない。あっけに取られて見てたのは、うちの会社だけじゃないだろう」 (p.71)


次はバーリの発言です。

投資は一個の定石に煎じ詰められるものではないし、ひとつのロールモデルから習得できるものでもない、というのがバーリの考えだった。バフェットについて学べば学ぶほど、そのまねはできないという思いが強くなった。バフェットから得られた教訓は、めざましい成功を収めたければ、めざましい非凡さを身につけよというものだ。バーリは言う。

「偉大な投資家になろうと思ったら、自分の身の丈にあった流儀を持たなくてはなりません。ウォーレン・バフェットは、ベン・グレアムのよいところを全部学び取りながら、ベン・グレアムのまねをせず、自分の道へ足を踏み出し、自分のやりかたで、自分のルールで、金を動かしました。そのことに気づいたとき、わたしはすぐに、偉大な投資家になる方法を教えてくれる学校などないという真理を胸に刻みました。そんな学校があったら、世界一人気のある学校になって、とてつもなく高い授業料を取ることでしょう。だから、そんな学校は存在しないんです」

投資とは、自分ひとりの力で、自分にしかできないやりかたで、学ぶべきものなのだ。 (p.68)


彼のプライベート・ファンドのWebサイトはこちらです。メディアで取り上げられた記事や寄稿へのリンクが載せられています。また過去の年次報告書を読むと、けっこうな下落だった2001年に55%のゲインをあげています。見事です。

2012年2月11日土曜日

ゴールドや債券よりも株式がよい理由(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットはアメリカの経済金融誌Fortuneに時折寄稿していますが、今週号(2/27)の記事Warren Buffett: Why stocks beat gold and bondsでは代表的な投資先3つ(株式、債券、金)のうち、株式がよいことを改めて説いています。ウォーレンがきまぐれに話題を取り上げることは少ないので、それなりのサインや警鐘をこめているかと思われます。一部を抜粋してご紹介します。(日本語は拙訳)

まずは債券などの通貨ベースの投資についてです。

通貨に裏付けられた投資先としては、MMF、債券、モーゲージ証券、銀行預金などがあります。それらはたいてい安全な投資とみなされていますが、実際は最も危険な資産に含まれるものです。ベータ[=価格変動の相対的な度合い]はゼロかもしれませんが、リスク[=バフェット言うところの購買力の低下]は大きいのです。

数世紀にわたって、それらの投資対象は多くの国で投資家の購買力を低下させてきました。発行条件通りに利息が支払われ、満期償還されてもです。この好ましからぬ事態は、今後も繰り返されることでしょう。各国政府は貨幣の究極的な価値を決定しますが、ときにはシステミックな要因が働いて、インフレを招くような政策をとらせることにもなるでしょう。が、そのような政策は、ときには手のつけようがなくなるものです。

Investments that are denominated in a given currency include money-market funds, bonds, mortgages, bank deposits, and other instruments. Most of these currency-based investments are thought of as "safe." In truth they are among the most dangerous of assets. Their beta may be zero, but their risk is huge.

Over the past century these instruments have destroyed the purchasing power of investors in many countries, even as these holders continued to receive timely payments of interest and principal. This ugly result, moreover, will forever recur. Governments determine the ultimate value of money, and systemic forces will sometimes cause them to gravitate to policies that produce inflation. From time to time such policies spin out of control.


現在の状況では、通貨関連の投資には手を出したくありません。それでも、バークシャーとしては、主に短期のものになりますが、その手の投資先に多大な資金を投じています。

Under today's conditions, therefore, I do not like currency-based investments. Even so, Berkshire holds significant amounts of them, primarily of the short-term variety.


次に、ゴールドへの投資についてです。

この手の投資が成功するには、買い手が増えていかなければなりません。同様にその買い手たちも、これからも別の買い手が増えると信じているからこそ、集まってくるのです。つまり保有者たちの心にあるのは、資産自体が何かを生みだすかではなく、むしろ他人がもっと熱心に欲するだろうと信じていることなのです。まあ、ゴールドはこれからもじっとしたままでしょうが。

This type of investment requires an expanding pool of buyers, who, in turn, are enticed because they believe the buying pool will expand still further. Owners are not inspired by what the asset itself can produce -- it will remain lifeless forever -- but rather by the belief that others will desire it even more avidly in the future.


確かに、ゴールドは産業用や装飾用にも使われています。しかし、それらの需要は限られており、新産金を吸収できるほどではありません。

True, gold has some industrial and decorative utility, but the demand for these purposes is both limited and incapable of soaking up new production.


今日では、世界中のゴールドは合計で17万トンになります。これを全て集めて溶かすと、一辺が20メートル強の立方体をつくれます。野球場の内野にすっぽり入るような感じの大きさです。現在の価格が1オンス1,750ドルなので、立方体全部では約750兆円です。この立方体を「金の山」[pile Au]と呼びましょう。

次に、同じ金額をかけて「商いの山」[pile Business]を作ってみましょう。まずアメリカ合衆国の全ての農地を買い上げます。総面積は160万平方キロメートルで[=およそ日本4個分]、毎年の生産高は16兆円になります。それからエクソン・モービル16社分を付け足します。同社は純利益3.2兆円で、世界で最も利益をあげている企業です。それだけ買っても、手元にはまだ80兆円残ります(これだけ派手に買い物をした後ですから、すっからかんになったとは感じないでください) 。どうでしょう、750兆円を持っている投資家が「商いの山」をやめて「金の山」を選ぶなんて、想像がつくでしょうか。

Today the world's gold stock is about 170,000 metric tons. If all of this gold were melded together, it would form a cube of about 68 feet per side. (Picture it fitting comfortably within a baseball infield.) At $1,750 per ounce -- gold's price as I write this -- its value would be about $9.6 trillion. Call this cube pile A.

Let's now create a pile B costing an equal amount. For that, we could buy all U.S. cropland (400 million acres with output of about $200 billion annually), plus 16 Exxon Mobils (the world's most profitable company, one earning more than $40 billion annually). After these purchases, we would have about $1 trillion left over for walking-around money (no sense feeling strapped after this buying binge). Can you imagine an investor with $9.6 trillion selecting pile A over pile B?


最後に、株式投資についてです。

我が国のビジネスは、市民の求める商品やサービスを効率的に提供し続けるでしょう。たとえてみると商業的な「牛」といえるものですが、世紀をこえて生き永らえ、ますます大量の「ミルク」を出してくれるのです。その価値は交換手段[=貨幣]によってではなく、どれだけ「ミルク」を出してくれるかで決まるものでしょう。ミルクの売上から得られる利益は複利で増えて飼い主へ報います。20世紀の間に、ダウ平均が66から11,497へ上昇したようにです。(それから、配当も山ほどありました)

Our country's businesses will continue to efficiently deliver goods and services wanted by our citizens. Metaphorically, these commercial "cows" will live for centuries and give ever greater quantities of "milk" to boot. Their value will be determined not by the medium of exchange but rather by their capacity to deliver milk. Proceeds from the sale of the milk will compound for the owners of the cows, just as they did during the 20th century when the Dow increased from 66 to 11,497 (and paid loads of dividends as well).


バークシャーは、第一級のビジネスをより多く所有することを目標としています。できればまるごと所有したいのですが、それなりの量の株式を保有することもあります。この種の投資はある程度の期間でみれば、先にあげた3種類の投資の中で大きな勝ちをおさめるものと信じています。そして、ずっと大切なのは、もっとも安全だろうということです。

Berkshire's goal will be to increase its ownership of first-class businesses. Our first choice will be to own them in their entirety -- but we will also be owners by way of holding sizable amounts of marketable stocks. I believe that over any extended period of time this category of investing will prove to be the runaway winner among the three we've examined. More important, it will be by far the safest.


ウォーレンの主張は常に一貫しており、少し先の未来をみすえています。必ず当たるわけではないですが、彼やチャーリー・マンガーによる予兆めいた発言には、耳を傾けたいと思います。個人的には少しばかり銀に投資しているので、ちょっと耳の痛い話でした。

2012年2月9日木曜日

TOPIX Core30ひとかじり(4) コマツ

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当社の本社所在地は、東京都港区赤坂二丁目3番6号。最寄り駅は東京メトロ銀座線溜池山王駅で、出てすぐのところです。溜池の交差点に面しているビルとは気がつきませんでした。Googleの写真をみると、竣工時の年代を感じさせるビルです。屋上の庭園は有名なようですね。

さて、本題になります。今回は有価証券報告書と20-Fを読んでみました。またキャタピラーの10-Kも若干参考にしました。

(1)現在の業績
好調です。今期末の予想では、売上高2兆円、純利益が1,860億円です。一方の前期実績は、1.84兆円と1,500億円でした。中国市場は低迷していますが、鉱山部門が世界的に好調を維持しています。目につくのが地域別売上構成。偏りが少ないです。意図したものでしょうが、見事な手綱さばきです。

(出典:当社Webサイト)








業界での位置づけは第2位。最大手キャタピラーには離されていますが、後続の日立建機、Volvo、CNH、斗山、現代、John Deere等は、売上や純利益で大きく離しています。両社の築いたMoatは大きいものと思われます。

(2)この10年間の上げ潮にうまくのった
以前からジム・ロジャーズが主張していた通りになりましたが、商品の強気相場が続いています。例えば、以下はLMEの銅価格です。1998年から2012年初までのチャートで、1目盛が1年です。2000年当初は停滞していましたが、2003年頃からは上昇基調です。








建設・鉱山機械業界は恩恵にあずかったようで、当社の売上高は10年前と比べて2倍になっています。キャタピラーの売上も同様に推移しています。









(3)従業員一人あたりの生産性が高い
当社対キャタピラーの比較ですが、一人当たり売上高(2010年度)は、およそ45対33。一方、純利益になると3.8対2.1です。相対的には、高付加価値で勝負していることになります。(1ドル=80円で換算)

(4)KOMTRAX
機器の稼働監視を行う本システムは当社の強みとして謳われていますが、他社でも同様のシステムを展開しています。しかし当社は導入時期が早く、稼動台数は1年半ほど前の時点で17万台になっています。先行者利益を享受できていると考えられます。

(出典:当社WebサイトのKOMTRAX紹介映像より)








例えば、野路社長によるKOMTRAXの紹介映像が当社Webサイトに掲載されており、その中でKOMTRAXで収集した稼動データを3ヶ月間先までの生産計画立案に使っていると発言されています(6分40秒)。「母数が大きいと、的確な分析がしやすくなる」とも。需要予測が的確であれば、サブASSYなどの部材を無駄なく先行手配できるようになり、納期がタイトな受注競争では戦いやすくなります。

(5)今後の見通し
中長期のマクロ要因がどうなるのかうまく判断できませんが、どちらかといえば追い風と思われます。特に主力のアジア太平洋地域は、大きな伸びしろが期待できそうです。

(6)株価について
現時点の株価(2,100円強)は、やや割安な程度にみえます。もちろん、商品市況が一時的にでも大きく下落すれば、当社株価もそれに追随するでしょう。しかし、当社の強力なMoatと今後のマクロ環境(資源高と新興国開発)を考えると、10年スパンでみれば安心して投資できる企業と思われます。

2012年2月8日水曜日

こんな仕事もしています(ウォーレン・バフェット)

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先月の1/23のTime誌、表紙はウォーレン・バフェットでした。タイトルはThe Optimist、景気が厳しい時期でも落ち込まない方です。今回の引用は彼の習慣を語る、ほんの一節です。(日本語は拙訳)

バフェットの小さなオフィスの給湯室にあるのは、古ぼけた木製のテーブル、人工皮革のL字ソファ、Formicaのカウンターだ。ちなみに、彼はいつも空室の電気を消してまわっている。

The company canteen in his small office suite, where he has a habit of walking around turning off lights in empty rooms, features a beat-up wooden table, a faux-leather sectional couch and Formica countertops.
(p.22)

なお、こちらのサイトではウォーレンのオフィスを訪れたときの写真が掲載されています。奥の壁には、お父さんのハワードの写真が飾ってありますね。

2012年2月7日火曜日

専門家の予測能力は高いのか?

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今回も「競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法」からの引用です。専門家の意思決定の質に関する孫引きになります。

専門家の直感が未来を予測する力については、これまで多くの研究がなされてきた。その結果は、専門家の直感に大きな信頼を寄せる人々にとっては少しばかり期待はずれなものだ。カリフォルニア大学バークレー校組織行動学教授だったフィリップ・テトロックは著書『専門家の政治判断、その真価を問う』で、専門家は一般的に思われているほど予測能力が高いわけではないと示唆している。彼は、専門家は自己の見解を述べたりプレゼンテーションをする方法には長けているが、それはどちらかというと表面的な要素にすぎず、客観的に見ると意思決定の質の面では往々にして物足りないと述べる。多くの場合その原因は、過剰な自信から目の前の問題に対する十分な検討を怠っていることにある。つまり、データを軽視し、綿密な調査よりも似たような場面での経験に依存する傾向にあるというのだ。

これが本章の教訓だ。優れた意思決定の根底には、例外なく何らかのデータと、特定の状況についての綿密な調査結果が存在する。その工程はスプレッドシートやコンピューターの分析結果としては残らないかもしれないが、あくまでも科学であって技ではない。(p.272)


この一文は専門家の持つ知見やテクニックを疑うものではなく、人間の脳に潜む落とし穴を指摘したものと捉えられます。特定の分野に特化するほど接する情報が見慣れたものになり、意思決定が短絡になる。チャーリー・マンガーが言うところの「疑念を払う傾向」の一面であり、また「自意識過剰の傾向(Excessive Self-Regard Tendency)」でもあります。ファインマンのやりかたも思い出されます。

2012年2月6日月曜日

(答え)戦闘機の防御性能を高めるには; 選択バイアスについて

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まずは、前回とりあげた問題の回答です。

調査の対象は戦闘から帰還した機体に限られているので、攻撃を受けた戦闘機の一部しか見ていないのだ。さらに重大な問題は、実は調査されていない戦闘機の方が重要なサンプルだということだ。補強が必要な箇所を特定するには、基地に戻れないほど致命的な損傷を受けた戦闘機を調査しなければならない。

これは選択バイアスの典型的な例だ。一部のデータにのみ着目したことで誤った結論を導いている。 (p.76)


正解された方が多いと思いますが、いかがでしたでしょうか。このように文書にまとめて改まった形で問題が提起されると、人は冷静に解決できるように思います。どこかのスイッチが入ってモードが切りかわり、バイアスがかからないよう注意するのでしょうか。一方、自分だけなのかもしれませんが、実生活で短時間で判断を迫られる場合には、問題解決がずっと下手になります。あとになってじっくり考えるとアイデアがわくのに、その場では出てこない。チャーリー・マンガーのいう「人は速やかに疑念を払う」を地でいっています。

本書に戻りますと、著者のジェフリー・マーは、バイアスを起こさないためにデータ収集の指針を記しています。以下に引用します。

軍関係者が帰還した戦闘機だけでなくすべての戦闘機を調査していたなら、機体の補強すべき部分についてかなり異なった結論に至っただろう。確証バイアス[参考記事1,参考記事2]と選択バイアスの具体例は、過去のデータを漫然と眺めるだけではいけないことを教えてくれる。肝心なのは過去のすべてのデータに目を配ることだ。もちろん、データとして適切なサンプルを選び出すことも重要である。

では、データが適切であるという確信を得るにはどうすればよいか。一言で言えば、データを見るときは一部ではなく、必ず全体を見よということだ。

(中略)

それでは、データ収集においてよく見られる失敗を避けるため、いくつかのルールを設けよう。まずは、これまでに述べたバイアスを回避するにはどうすべきか。確証バイアスを回避するには、自説を裏付けるデータだけでなく、あらゆるデータを客観的に検討することが重要だ。選択バイアスを避けるには、包括的なデータを揃える必要がある。意識的であろうとなかろうと、抽出されるデータは母集団の一部を無視したものであってはならない。どちらのバイアスについても、原則は可能なかぎり多くのデータを検討することだ。

だが、ここで興味深い問題が生じる。データの重みは一律ではないということだ。データには、それ自体は客観的かつ包括的であるのに、将来を予測する力をほとんど持たないものもある。そして、将来を予測する力こそが私たちがデータに期待する最も重要な特徴だ。データは将来の予測に役立つものでなくてはならない。 (p.77)


ただし、いかによいデータがそろっていても解釈するのは人間ですから、データ収集プロセスだけではバイアスを完全には回避できないと思います。意思決定の際にもバイアス回避の仕組みが必要ですね。

(2012/2/26追記)コメント欄に、raccoon様よりマンガーの「まるごと抜粋」があります。そちらも、どうぞご覧になってください。


2012年2月5日日曜日

(問題)戦闘機の防御性能を高めるには

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今読んでいる本『競争優位で勝つ統計学---わずかな差を大きな勝利に変える方法』は、統計の知識を駆使してブラックジャックで大勝ちをおさめたMIT出身のジェフリー・マーによるものです。客観的なデータの重要性を説くだけでなく、人間が陥りやすい心理上のバイアスについても触れています。今回は、同書からバイアスの一例を引用します。ちょっとした問いですので、どこが誤っているのかお考えになってください。答えは次回にご紹介します。

[第二次世界大戦において]アメリカ軍が帰還した戦闘機の損傷を調査したところ、「機体の部位によって敵の攻撃を数多く受ける箇所とそうでない箇所がある」ことがわかった。そこで、機体の銃痕のパターンの分析結果をもとに、戦闘機の防御性能を高めるため、攻撃を受けやすい部分を補強した。

いかにも理にかなっているようだが、この分析には明らかな欠陥がある。(p.75)

2012年2月3日金曜日

チャーリー・マンガーによる投資対象の評価手順

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ウォーレン・バフェットはバークシャー・ハサウェイの年次報告書を通じてビジネスや投資に関する示唆を行ってきましたが、一方のチャーリー・マンガーはそのような場を積極的には求めていません。本ブログでご紹介しているような講演が主な発言の場ですが、その内容も投資やビジネスには限定されず、より一般的で抽象度の高い、いわば「とっつきにくい」ものが多くみられます。今回ご紹介するのはチャーリー自身の企業分析のプロセスですが、実はこの文章は本人によるものではなく、引用元の「Poor Charlie's Almanack」の編者ピーター・カウフマン(Peter D. Kaufman)が著したものです。だからといって価値が低いかというと、そうではありません。ピーターは非公開の製造業のCEO及び会長を務めるかたわら、チャーリーが会長を務めるWesco Financialの取締役に2003年から就いています。同様に、チャーリーが会長を務めるデイリー・ジャーナルの取締役にもなっています。ですから、チャーリーとは親交が深く、彼の意思決定や思考プロセスになじんでいることは容易に想像されます。ですので、この文章はチャーリーのやりかた全てをあらわしたものではないでしょうが、目のつけどころを学ぶきっかけにはなるかと思います。(日本語は拙訳)

チャーリーは包括的に評価を行っていくが、データに盲従しているわけではない。対象企業及び業界について内外問わず、互いに関連する全ての観点を考慮にいれる。特定しにくいとか、測りにくいとか、数値化しにくくてもだ。しかし完璧にやるからといって、彼のエコシステム的な主題をおろそかにするわけではない。ときには、ある要因を最大化したり、最小化したり、(特筆すべきは、彼が好んで指摘するコストコの低価格倉庫店のような「特化」)、そういったことを行う。すると、その要因が大きく取り上げられ、重要なものとなる。

チャーリーは、財務諸表やその前提となる会計に対して、中西部人らしく懐疑的にみる。企業の本源的価値が計算しきれるものではなく、せいぜい初めの一歩になるものと捉えている。彼の調べる要因は他にも延々と続く。たとえば、今後の法規制の風向き具合、労働環境、供給者や顧客との関係、技術の進展による潜在的な影響、競争優位性や弱点、価格決定力、拡張性、環境問題。潜在的な脅威がないかは、特に注意している(もちろん、チャーリーはリスクのない投資候補などありえないことは承知しており、容易に理解できるリスクがほとんどない企業を探している)。彼は財務諸表上の数字を、自身の目にうつる現実にあてはめなおす。例えば、フリー・キャッシュ、在庫、運転資金、固定資産、のれんのような過大評価されがちな無形資産といったもの。またストック・オプション、年金給付、退職者向け健康保険給付が実のところどう響いてくるのか、将来をみすえて評価する。貸借対照表の負債についても同じように精査する。例えば、適切な環境下ではフロートを債務とみるのは適切でないとし、資産とみなす。フロートとは、[保険業界において]支払い請求がされるまでは何年間も払い戻す必要がない準備金のこと。さらに経営陣に関しては、よくやるような数字の解読以上に厳しく精査する。現金をどのように使ったのか、株主のために賢く使ったのか、それとも自分自身に過大な報酬を出したのか、あるいはエゴを満たすような、成長のための成長を追求したのか、という風にだ。

結局のところ、彼はあらゆる観点を考慮して競争優位性とそれがいつまで続くのかを評価し、理解しようとつとめる。観点には、製品、マーケット、商標、従業員、物流チャネル、社会的トレンドなどが含まれる。チャーリーは企業の競争優位性を「堀」とみる。侵入しようとするものに対して築かれている、目に見えない物理的な障壁だ。優れた企業は深い堀をもち、いつまでも守り抜けるように、それを広げ続けている。同じように、チャーリーは破滅的な競争に至る道も注意深く考慮する。長期的にみると、ほとんどの企業が囚われてしまうからだ。マンガーとバフェットはこの問題を注視する。ときには痛い目にあいながらも、長期にわたるビジネス上の経験で彼らは学んできたのは、何世代にもわたって生き延びるビジネスはほとんどないということだ。そういうわけで、その厳しい選別をくぐりぬけられそうなビジネスをみわけ、それだけを買うように力を注いでいる。

Throughout his exhaustive evaluation, Charlie is no slave to a database: He takes into account all relevant aspects, both internal and external to the company and its industry, even if they are difficult to identify, measure, or reduce to numbers. His thoroughness, however, does not cause him to forget his overall “ecosystem” theme: Sometimes the maximization or minimization of a single factor (notably specialization, as he likes to point out regarding Costco's discount warehouses) can make that single factor disproportionately important.

Charlie treats financial reports and their underlying accounting with a Midwestern dose of skepticism. At best, they are merely the beginning of a proper calculation of intrinsic valuation, not the end. The list of additional factors he examines is seemingly endless and includes such things as the current and prospective regulatory climate; state of labor, supplier, and customer relations; potential impact of changes in technology; competitive strengths and vulnerabilities; pricing power; scalability; environmental issues; and, notably, the presence of hidden exposures (Charlie knows that there is no such thing as a riskless investment candidate; he's searching for those with few risks that are easily understandable). He recasts all financial statement figures to fit his own view of reality, including the actual free or “owners” cash being produced, inventory and other working capital assets, fixed assets, and such frequently overstated intangible assets as goodwill. He also completes an assessment of the true impact, current and future, of the cost of stock options, pension plans, and retiree medical benefits. He applies equal scrutiny to the liability side of the balance sheet. For example, under the right circumstances, he might view an obligation such as insurance float ? premium income that may not be paid out in claims for many years ? more properly as an asset. He especially assesses a company's management well beyond conventional number crunching ? in particular, the degree to which they are “able, trustworthy, and owner-oriented.” For example, how do they deploy cash? Do they allocate it intelligently on behalf of the owners, or do they overcompensate themselves, or pursue ego-oriented growth for growth's sake?

Above all, he attempts to assess and understand competitive advantage in every respect ? products, markets, trademarks, employees, distribution channels, societal trends, and so on ? and the durability of that advantage. Charlie refers to a company's competitive advantage as its “moat”: the virtual physical barrier it presents against incursions. Superior companies have deep moats that are continuously widened to provide enduring protection. In this vein, Charlie carefully considers “competitive destruction” forces that, over the long term, lay siege to most companies. Munger and Buffett are laser-focused on this issue: Over their long business careers they have learned, sometimes painfully, that few businesses survive over multiple generations. Accordingly, they strive to identify and buy only those businesses with a good chance of beating these tough odds.


2012年2月2日木曜日

ディスプレイ用ガラスの今期見通し(コーニング)

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日東電工や旭硝子といった、注目している液晶関連企業の株価が安いです。同じように、ディスプレイ用のガラスでトップ・シェアの米コーニングも安いです。こちらもPBR1倍を割っています。今回ご紹介するのは、1/25に発表された同社年次決算で、CFOの発言した今後の見通しです。コーニングジャパンのWebサイトからの引用です。

ディスプレイ業界は過渡期を迎えており、今後の成長および収益予想の見直しを進めています。顧客の経済的負担軽減を支援するために、顧客と密接に協力しガラス価格の値下げを行っています。これを受けて、前年の第4四半期同様、2012年第1四半期のガラス価格は大幅に低下するでしょう。この2四半期を合わせると、2桁台の大幅な価格低下を予想しています。こうした価格設定および製造能力に関する決定が、これ以降の四半期に、より安定した価格低下の状態に戻る一助となればよいと思っています。

私たちの行った製造能力引き下げにより、液晶ディスプレイ用ガラスの供給量は、エンドマーケットの需要量により近づいたと考えています。当社の小売需要とサプライチェーンの動向予想が正しければ、今年のどこかの時点で、世界のガラスの供給量と需要量のバランスが取れるはずです。コーニングでは、製造能力を元に戻すタイミングとそのペースを注意深く検討していきます。

(中略)

液晶ディスプレイ事業およびダウコーニングのポリシリコン事業が過渡期を迎えていることから、当社は収益の点で新たな段階に近づいていると考えています。今後、この新たな水準から、収益増を図っていく計画を立てています。

(中略)

ディスプレイテクノロジー部門の売上高の伸長は望めませんが、今後も、大きな収益およびキャッシュを生み出すものと予想しています。

液晶ディスプレイの商売が転換期を迎えたのかもしれませんが、見通しがよくない企業にこそ投資の機会が眠っているかもしれないので、これらの企業は今後も注視していくつもりです。

液晶テレビにまつわる蛇足になりますが、ずいぶん前から自宅にテレビがなかったので、出張先のオープン間もないビジネスホテルで大画面の液晶テレビを初めてみたときは、小さな驚きでした。毛穴まで見えるのかよ..。

2012年2月1日水曜日

自然災害リスクの王様、東京

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この報告書「Megacities ? Megarisks Trends and challenges for insurance and risk management」(2005年版)を知ったのは数年前のことでした。作成したのは、Munich Re.(ミュンヘン再保険)、巨大災害リスクを飯の種のひとつにしている会社です。少し前の資料なのでご存知の方も多いかもしれませんが、世界中の50の大都市における自然災害リスクが定量化され、掲載されています。東京(圏)はリスクの指標となる数値が710で最高値でした。これは次に大きいサンフランシスコ湾岸の167を大きく引き離し、「最も高くつく都市」となっています。

浜岡原発が稼動している限り、東海地震が心配されている東京が1位なのは当然だろうと捉えていました。むしろ「遠い国でも、ちゃんと日本のことを見ているんだな」と感じたものです。まあ、再保険屋なので当たり前ですね。昨年の大地震以降、浜岡原発での発電はとまっているため、東京のリスクは以前よりは小さくなっているでしょうが、再保険業界では別の観点も含めた上でリスクを再評価していることでしょう。

ところで、同報告書にあった写真(下のものです)が頭に残っていたので、今回は地震ではなく、富士山噴火リスクについてご紹介します。内閣府の富士山火山防災協議会が作成した富士山ハザードマップ検討委員会報告書から、想定される被害についてです。








7. 噴火の被害想定 (7.54MB / PDF)
・(鉄道) 車輪やレールの導電不良による障害や踏み切り障害等による輸送の混乱
・(航空) 空気中の火山灰による運行不能
・(電気・ガス) 交通の被害等による機能低下
・(水道) 水の濁りが浄水場の排水処理能力を上回り、給水量が減少
・(畑作物) 2cm以上の降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(稲作) 0.5mmの降灰がある範囲では1年間収穫が出来なくなる
・(健康) 目・鼻・咽・気管支の異常(最大1,250万人に影響。有珠山等の事例から、2cm以上の降灰がある範囲では、何らかの健康被害が出るとした)

雨が降った場合には、電気は「碍子からの漏電による停電(最大約100万世帯)」と被害が拡大(桜島の事例より1cm 以上の降灰がある範囲で停電が起こり、その被害率は18%とした)
降灰が想定される地域はこの資料にあります。









この手の被害予測は当てるのが難しいでしょうから、被害感の参考資料として捉えています。

また地震や火山噴火リスクはいつ起こるかわからないので、個人的には投資面で大がかりなヘッジはしていません。あえて挙げると、固定資産の再建にお金がかかりすぎる企業には近寄らないことと、大きな事件が起きて市場が暴落したときに買える資金をそれなりに残しておくこと、の2点です。

最後に、前にも挙げましたが富士山の近い会社ファナックの有価証券報告書から、同社のリスク認識です。
12 一極集中によるリスク
当社商品は資本財であり、研究所、工場を日本国内に集中させ、そこで開発、製造された製品を全世界に供給することにより、効率化を図っております。
地震、富士山噴火等の自然災害や、長時間にわたる停電などが発生した場合に、当社の開発、製造能力に対する影響を完全に防止または軽減できる保証はありません。また当社工場から各市場への納入途上において何らかのトラブルが発生した場合、物流コストの増加や納入遅延による売上の機会損失などが生じ得ます。(後略)

2012年1月31日火曜日

私を認めてくれない人(ウォーレン・バフェット)

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おなじみの「Poor Charlie's Almanack」より引用で、今回は「自分できちんと考えること」について、ウォーレン・バフェットの発言です。(日本語は拙訳)

自分をごまかさないようにするには、論理的に考えるのがいいでしょう。チャーリーは、私が言ったからというだけでは認めてくれないのです。他の人だったら、まずそんなことはないのですが。

Apply logic to help avoid fooling yourself. Charlie will not accept anything I say just because I say it, although most of the world will.


このフレーズは、教訓の部分よりもウォーレンの絶妙なジョークのほうが頭に残りますね。

蛇足ですが、チャーリー・マンガーからウォーレンに対するジョークもご紹介しておきます。2004年のバークシャー・ハサウェイ年次総会にて、チャーリー・マンガーのあいさつです。出典は同じです。

今年で80歳になりましたが、この年になっても壇上にあげられているのは、[となりに座る]ウォーレンを若くみせたいからなのです。

The main reason they have me up here, at age 80, is to make Warren look young.

[ウォーレン・バフェットは当時73歳。高齢になる彼が死んだ後の同社を不安視する見方がある]

2012年1月30日月曜日

アインシュタインもさかさに考える

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以前取り上げたアインシュタインの伝記ですが、チャーリー・マンガーの主張する「逆だ、いつでも逆からやるんだ」をアインシュタインもやっていた場面があったので、ご紹介します。

アインシュタインの一般相対性理論への道は1907年11月に始まった。そのとき彼は特殊相対性理論を説明する科学年次報告の論文の締め切りと格闘していた。その理論の2つの制限が彼を悩ませた。つまり等速直線運動だけに適用できる(もしあなたの速度や運動方向が変化していると適用できない)し、その理論はニュートンの重力理論を含んでいない。

「私はベルンの特許局の椅子に座っているとき、急にある考えが頭に浮かんだ」と彼は回顧している。「もしある人が自由落下をしているとすると、自分の体重を感じないであろう」。その認識が彼を「飛び上がらせ」特殊相対性理論を一般化して「重力理論の方向に私を追いやる」という、8年に及ぶ大変な努力に駆り立てた。後になって彼は「人生で最も幸福な考え」とたいそうに回顧している。

(中略)

アインシュタインはその思考実験を洗練して、落下している男は地球上で自由落下しているエレベーターのような閉じた箱の中にいるとした。この落下する箱の中で(最後に地上に衝突して壊れるまで)、この男は無重力状態を感じる。ポケットから物を取り出して、手を離すと彼のかたわらで空中に浮かぶだろう。

別の観点で考えよう。「どんな星や質量からもはるかに離れた」空間に浮いた部屋の中にいる男をアインシュタインは想像する。彼は先と同等な無重力状態を感じるはずだ。「この観測者には重力は存在しない。彼は床に糸か何かで繋いでおかないと、床からのちょっとした衝撃でふわふわと浮き上がり、天井に行ってしまうだろう」

つぎにこの部屋の天井にロープが繋がれていて、一定の力で引っ張られているとアインシュタインは想像した。「部屋とその中の観測者は一定の加速度で『上方』に動き始める」と中の男は床に押し付けられているように感じる。「するとその男は地球上にある家の部屋に立っているのと同様に、箱の中に立っている」。

(中略)

アインシュタインが正にこの問題を調べるときの関連づけは、彼に典型的な天才的なものである。余りよく知られているので科学者が問題にもしないような現象を彼は調べる。 (上巻 p.224)



2012年1月29日日曜日

10秒ください(ウォーレン・バフェット)

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以前ご紹介した本「Seeking Wisdom」の第4章で扱われているのが「よりよい考え方(Guidelines to better thinking)」。12の話題が取り上げられていますが、その中の一つが「ルールとフィルター(Rules and Filters)」というものです。使い方は簡単です。白黒を判断できる質問をいくつか用意して順に並べ、答えが「はい」であれば次の質問に進み、そうでなければそこでおしまい、つまりフィルターされます。ウォーレン・バフェットが投資アイデアを評価する際にこれを使っているとのことなので、ご紹介します。(日本語は拙訳)

「案件の9割以上には10秒以内でノーと答えています。というのもフィルターがいくつかあって、単にそこでふるい落としているのです」

We really can say no in 10 seconds or so to 90%+ of all the things that come along simply because we have these filters


具体的にどんなフィルターかですが、以下のとおりです。6つのうち、最初の4つがウォーレンが語ったものです。一方、フィルター5と6は本書の著者Peter Bevelinが読者向けに追加したものですが、チャーリー・マンガーならば納得するでしょう。ただし、フィルター5や6まで到達する場合は、10秒でノーと答えるのは難しいと思いますが。

フィルター1 そのビジネスを理解しているか。高い確度で予測できるか。
フィルター2 長続きする競争優位性をなにか持っていると思われるか。
フィルター3 経営陣は有能かつ誠実な人たちか。
フィルター4 価格は適切か
フィルター5 反論してみる[自分の論理をたたく]
フィルター6 判断が間違っていたら、どんな結末をむかえるか。

Filter 1 - Can I understand the business - predictability?
Filter 2 - Does it look like the business has some kind of sustainable competitive advantage?
Filter 3 - Is the management composed of able and honest people?
Filter 4 - Is the price right?
Filter 5 - Disprove
Filter 6 - What are the consequences if I'm wrong?


一見するとたわいもない仕組みですが、この手のものは手を抜かずに毎回使うことが重要だと思います。固い表現でいえば、このフィルターシステムは投資におけるリスク管理プロセスそのものです。そういえばウォーレンも、自分のことをChief Risk Officerと称していましたね。

なお、上記のフィルターは2001年にウォーレンが語ったもので、それより一昔前のときは以前取り上げた「投資家が見極めるべき5項目(ウォーレン・バフェット1993年)」のリストになっています。内容はほとんど変わっていません。

2012年1月28日土曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(2011年度第3四半期決算の雑感)

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3四半期連続で下方修正が出るとは予想していませんでした。昨日の業績予想修正で、当社の今期の業績予想が650億円の純損失となりました。娯楽産業が勢いのビジネスであり、ハイリスク・ハイリターンなのは岩田社長自身が折に触れて述べていますが、今期はすべての悪い目が揃ってしまったようです。テンプルトン卿は「見通しが最悪のものに目をつけよ」といっていますが、当社の現状はそれに近いといっていいでしょう。

さて、当社の今期の業績悪化の原因ですが、個人的には以下に集約されると考えます。

1. 新型ハードウェアの発表時期の悪さ(据置型Wii Uと携帯型3DSが重なったこと)
2. 3DSの主力ソフトウェア発売時期の遅れ(売上低迷と値下げへつながる)
3. ドル安及びユーロ安による為替評価損

前にもあげましたが、岩田社長も以下のように同じような認識をされているようです。
それから、会社、社員の仕事という意味では、やはり今回のことで、「(ゲームビジネスでは)たった一つ歯車が狂うだけで、会社のビジネスがこんなに変わるのだ」ということを、任天堂という組織全体が今思い知っているわけですから、そのことをむしろ今後に活かさないといけないと私は思っています。そういうことが教訓となり、任天堂が、タイミング、あえてこの言葉を使いますが、「天の時を逃さない会社になるのだ」というのが私の決意でございます。多分に精神論的ですが、ご理解ください。

さて、ある方は業績不振の一因として為替政策を次のように批判されています(引用元はこちら)。
<Q 3-2>為替差損について、円より強いお金はない状態なので、外貨建て貯金をやめてほしい。任天堂は、ユーロ建てとドル建ての預金をたくさん持っているということで、毎回損をしたと聞くと頭がいたくなる。

<A 3-2 岩田社長>
為替差損が出ており、これは、当然決算の数字が悪い方向に振れるわけですから、その一年一年を見ると(資産を外貨建てで持つことが)適切であるとは言えないとおっしゃることもよく分かります。また、任天堂は今、売上の8割以上が海外ですから、海外で売り上げた時に、その売上というのは必ず一度外貨で入って参ります。そこで、その外貨で入ってきたものを、どのように会社として保持しておくべきか。もちろん、為替差損をなくすということだけに注目いたしますと、その時点で入ってきた瞬間にすべて円に替えれば、為替差損を後で被ることが一番少ないというメリットがございますが、一方で為替というのは常に変動いたします。確かに、この2年強の間、非常に円高基調で進みましたので、その結果、手持ちの外貨建て資産は評価替えをするとどんどん目減りしています。円換算すると、数字上の額が減るわけです。そしてそれは、会計上の決算の数字を悪くします。しかし一方で、為替というのは必ず一定の周期で振れる要素も持っています。私は、今確かに日米欧の通貨の中で円が最強であるという評価をされているということについては否定いたしませんが、その一方で、経済の現状、あるいは今の日本は、これから人口減少が起こっていかざるを得ない人口構成の国であること、その他を考えた時に、円が強いまま未来永劫続いていくとは必ずしも考えられない状況です。私どもとしては、「為替による変動をどうやってヘッジするか」というポイントをまず考えることと、それから「日米欧の基軸通貨をどのようなバランスで持つのか」ということの方が重要だと思っていますので、そういう意味で配分は(過去と)変えております。あるいは、任天堂はこれまで、円建てで支払って製造したものを外貨で売って、外貨の収入を得て、という形でビジネスを展開してきましたが、ここ数年の間に、仕入れに関してはドル建てでの仕入れを非常に大きく増やし、結果、毎期の収益において、ドルの変動に対する影響を以前に比べてはるかに小さくできるようになりました。しかし、残念ながらユーロ建ての支払いを喜んで受けてくださる取引先がまだ大手では見つかっていないこともあり、(ヨーロッパ)現地での売上が上がる一方、支払いには使えず、ユーロばかりがたまってしまうという現状が今起きやすくなっていまして、このユーロを定期的にどの通貨に変えて持つべきかということは当然議論すべきだと思います。確かに、「毎期の為替差損を生じさせないために外貨建ての資産運用は一切やめるべきだ」というご意見は、もちろんご意見として、われわれも考えていかないといけないことだと思いますが、一方で、これからはなおのこと、いつどの国の基軸通貨が不安定になるか分からない、不確実な時代になったわけですから、私たちは、むしろ複数の基軸通貨をバランスよく持つことが、任天堂がどんな場合にも備えを持つ上で最も妥当ではないかと思っています。長い目で見ていただくと、為替差損・差益のバランスがとれていくはずだと思っています。

上のような批判とは逆に、当社を日本企業と捉えるのではなく、アメリカ企業と考えてみるのはどうでしょうか。経営やクリエイターに日本人を登用し、日本の株式市場に上場していると捉えるのです。所在地別セグメントでみると、売上高のいちばん大きいのが南北アメリカ大陸です。また主要3市場(アメリカ、欧州、日本)の中では日本がもっとも売上が小さく、また販管費の割合でも日本単体は5割程度なので、「日本企業」とこだわる必然性は大きくないと思います。そうなれば、少なくとも為替差異はドルベースでみることができます。現在のようにドル安になればNintendo株の日本円換算は安くなりますが、先のことはわかりません。長期的にみれば為替は、相対的にどれだけ国力を維持できるかの問題です。先の批判に岩田社長が答えているように、現経営陣は当社の未来が日本だけに帰するとは考えていません。ですから、当社の株主として判断しなければならないことのひとつに、マクロレベルの観点が加わっているわけです。マクロが読めない投資家は、当社に投資しないほうがよいかもしれません。

一方、為替以外の経営上の失敗(上記の1,2)ですが、今後も同じことをくりかえすかどうかは経営者次第です。個人的には、次はよくなるだろうと予想しています。この手の過ちを繰り返すような人材にはみえないからです。当社の財務基盤があれば少なくとも1回の失敗は許されますし、そもそも経営陣も、そのリスクを踏まえた財務政策をとっています。

また、もうひとつの経営上の懸念である競合スマートフォンですが、これは消費者がプラットフォームを購入するかの問題で、ゲームやシステム自体の課題とは別とみることもできます。つまり、それらの出来がよければ乗り越えられる、ということです。任天堂ブランドを構築している以上、乗り越えられない壁ではない、と感じています。

さて、いよいよWii Uの登場が2012年の年末と発表されました。それまでの売上をどうやってあげるのか、現行機種Wiiの売上をどうするのか、はたまた3DSの売上で逃げ切るのか、今年の任天堂の動向と株価は目が離せなくなってきました。当社にはまだ投資していませんが、6,500円に近づくほど買いの機会と考えています。その前には、自社株買いが決議されるとは思いますが。

2012年1月26日木曜日

株式投資で利益をあげるのに必要な16の要因(ウォルター・シュロス)

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今回ご紹介するのは、前回取り上げたウォルター・シュロスが現役時代の1994年に発表した文章です。こちらが引用元のPDFファイルです。真偽はともかく、シュロスのファンドのレターパッドにタイプされています。グレアムから受けた教えの影響が強くみられますが、債券にこだわらない点は異なっています。インフレの時代を乗り越えてきた者として、ウォーレン・バフェットと同じ見方をしています。(日本語は拙訳)

1.価格こそが、価値をはかるのにいちばん大切な要因だ。

2.企業の価値を見定めよ。株式は企業の一部所有をあらわすものであって、ただの紙切れではないことを忘れないように。

3.企業価値を見定める際には、まずは簿価からみるようにしなさい。負債は株主資本とは等価ではない。

4.辛抱強くあれ。株価はすぐには上がらない。

5.聞いたうわさやちょっと株価が動いたからといって買わないこと。そういうのはプロにやらせておきなさい。それから、悪材料が出たからといって売らないように。

6.孤独を恐れずに、自分の判断を信じなさい。完全無欠とはいかないから、自分の考えのどこに弱点があるのか、さがしなさい。一段階下がったら買い、一段階上がったら売ること。

7.一度決めたら自分を信じる勇気を持ちなさい。

8.投資上の哲学をもって、それに従うようにしなさい。上に挙げたものは、うまくいくことを私自身が確かめてきたやりかたです。

9.売るときは急いで処分しすぎないこと。適正と思われる価格になったとき、例えば株価が50%あがると売って利益を確定するように言われるが、一度で売るのではなく、何度かに分けてもよい。売る前にはもう一度企業の価値を評価しなおして、簿価に見合った金額で売られているか確認すること。また相場の状況について、例えば、利回りが低くPERが高いか、歴史的に見て相場は高水準か、みんなは楽観的な様子か、といったことを知っておくこと。

10.株を買うときは、経験上、直近数年来での最安値あたりで買うのがよい。125[ドル]の高値をつけた株価が60[ドル]まで下がっていると魅力的に思えるが、3年間も意気消沈したあげく、結局20ドルで売ることになる。

11.利益に目をむけるよりも資産の割安度に目をむけて買うようにしなさい。短期で見ると利益は大きくふれるが、それにくらべて資産のほうはそれほどは変化しない。利益に注目するのであれば、企業についてより知りつくさなければならない。

12.尊敬する人の助言はきくこと。それをうのみにせよということではない。他でもない、[投資しているのは]自分のお金なのだから。ふつうは、増やすより維持するほうが大変なことを忘れないように。いったん大穴をあけてしまうと、とりもどすのは大変なのだから。

13.感情に任せて判断しないように注意しなさい。こわがったり傲慢な気持ちで株を売り買いするのは最悪のことだ。

14.複利の効果を忘れないように。年利12%で再投資しつづけると6年で2倍になる。これが72の法則で、72を利回りで割った答えが、当初資金が2倍になるのにかかる年数を示している。[72 ÷ 12 = 6年]

15.債券より株式を選ぶとよい。債券では利益が限られているし、インフレになると実質価値が減るからだ。

16.借金には注意せよ。仇となることがある。

1.Price is the most important factor to use in relation to value.

2.Try to establish the value of the company. Remember that a share of stock represents a part of a business and is not just a piece of paper.

3.Use the book value as a starting point to try and establish the value of the enterprise. Be sure that debt does not equal 100% of the equity. (Capital and surplus for the common stock).

4.Have patience. Stocks don't go up immediately.

5.Don't buy on tips or for a quick move. Let the professionals do that, if they can. Don't sell on bad news.

6.Don't be afraid to be a loner but be sure you are correct in your judgement. You can't be 100% certain but try to look for weaknesses in your thinking. Buy on a scale [down] and sell on a scale up.

7.Have the courage of your convictions once you have made a decision.

8.Have a philosophy of investment and try to follow it. The above is a way that I've found successful.

9.Don't be in too much of a hurry to sell. If the stock reaches a price that you think is a fair one, then you can sell but often because a stock a goes up say 50%, people say sell it and button up your profit. Before selling try to reevaluate the company again and see where the stock sells in relation to its book value. Be aware of the level of the stock market. Are yields low and P-E ratios high? Is the stock market historically high? Are people very optimistic etc?

10.When buying a stock, I find it helpful to buy near the low of the past few years. A stock may go as high as 125 and then decline to 60 and you think it attractive. Three years before the stock sold at 20 which shows there is some vulnerability to it.

11.Try to buy assets at a discount [rather] than to buy earnings. Earnings can change dramatically in a short time. Usually assets change slowly. One has to know much more about a company if one buys earnings.

12.Listen to suggestions from people you respect. This doesn't mean you have to accept them. Remember it's your money and generally it is harder to keep money than to make it. Once you lose a lot of money it is hard to make it back.

13.Try not to let your emotions affect your judgement. Fear and greed are probably the worst emotions to have in connection with the purchase and sale of stocks.

14.Remember the work of compounding. For example, if you can make 12% a year and reinvest the money back you will double your money in six years, taxes excluded. Remember the rule of 72. Your rate of return [divided] into 72 will tell you the number of years to double your money.

15.Prefer stocks over bonds. Bonds will limit your gains and inflation will limit your purchasing power.

16.Be careful of leverage. It can go against you.

個人的に強く共感できるのは、3.の簿価にこだわる点です。現在の日本の株式市場ではお買い得企業が多いので、このシュロスの教えを胸に、じっと辛抱といったところです。現預金が豊富で、経営陣が株主本位で、商売もまずまず順調で、そんな企業が「あれもこれも毎日特売」ですよね。

2012年1月25日水曜日

あるファンドの始まり(ウォルター・シュロス)

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ウォルター・シュロスは、ウォーレン・バフェットの講演「グレアム・ドッド村の大投資家たち」で紹介されたファンド・マネージャーです。バフェットと共にグレアムのパートナーシップで働いていた経歴を持つ大ベテランです。バフェットやチャーリー・マンガーとは投資方針が異なりますが、見事な実績を残しています。今回はバフェットの伝記「The Snowball: Warren Buffett and the Business of Life」から個人的に気に入っている箇所を引用します。シュロスが独り立ちしようとする場面です。(手元に邦訳がないため、日本語は拙訳です。誤訳がありましたら、後ほど訂正します)

ウォルター・シュロスは、そのての催しに声をかけられることがなかった。パートナーには登用されない、奉公あがりの雇われ人とみなされていたからだ。[パートナーの]ジェリー・ニューマンは他人に優しさをみせるような人間ではなかったが、それに輪をかけてシュロスを冷遇していた。そのため、シュロスには妻と2人の小さな子供がいたのだが、とうとう自ら辞めることを決意した。グレアムにはなかなか言い出せずにいたが、1955年の終わりに投資パートナーシップを立ち上げた。出資者から集めた資金はUS$100,000[=現在価値で約8,000万円]、バフェットがのちに認めるように、それらの出資者はエリス島で呼びかけたところに応じた者たちだった。

バフェットは、シュロスがグレアムのやり方をまねてうまくやるのは間違いないと思い、自身のファンドを立ち上げた心意気を賞賛した。ただ資金が少なすぎて家族を食わせてやれないのではとウォルターのことを心配したが、それでもバフェットは自分の資金をシュロスのパートナーシップにすこしも出資しなかった。グレアム・ニューマン[・パートナーシップ]に出資しなかったのと同じように、自分のお金を他人に投資してもらうなど論外だったからだ。

Walter Schloss was not invited to events like these. He had been pigeonholed as a journeyman employee who would never rise to partnership. Jerry Newman, who rarely bothered to be kind to anyone, treated Schloss with more than his usual contempt, so Schloss, married with two young children, decided to strike out on his own. It took him a while to get up the nerve to tell Graham, but by the end of 1955 he had started his own investment partnership, funded with
$100,000 raised from a group of partners whose names, as Buffett later put it, “were straight from a roll call at Ellis island."

Buffett was certain that Schloss could apply Graham’s methods successfully and admired him for having the guts to set up his own firm. Though he worried that “Big Walter” was starting out with so little capital that he would not be able to feed his family. Buffett put not a dime of his own money into Schloss’s partnership, just as he had not invested in Graham-Newman. It would be unthinkable for Warren Buffet to let someone else invest his money.
(p.197)

シュロスの横顔、今では90歳代半ばのはず。「The Snowball」からお借りした画像です。
(バフェットの友人ウォルター・シュロス氏、自身の90歳の誕生祝いの夜にブギを踊る。2006年)




2012年1月24日火曜日

どのようにして相対性理論に到達したのか(アインシュタイン)

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ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーは、年次報告書や株主総会でお勧めの本を紹介することがあります。伝記マニアのチャーリーがアインシュタインの伝記を紹介するのは順当なところでしょう。チャーリーお勧めの本の邦訳『アインシュタイン その生涯と宇宙』が昨年出版されましたが、下巻について出版事情のすったもんだがあったようなので、ようやく手にとっているところです。今回ご紹介するのは、アインシュタインが相対性理論を発見するに至った経緯や背景を数段落に要約した箇所です。

「新しいアイデアが突然頭に浮かんだ。それもかなり直感的なやり方で」とアインシュタインは語ったことがある。ただし次の言葉を直ぐに付け加えた。「直感とはそれ以前の知的経験の結果にすぎないのだが」

アインシュタインの相対性理論の発見は、一〇年に及ぶ知的思索と個人的経験に基づく直感から生まれたものである。最も重要で明らかなことは、著者の私が思うには、理論物理学に対する深い理解と知識である。彼はまた目に見える形の思考実験を行う能力にも助けられた。その能力はアーラウ時代の教育で培われたものだ。それから彼には哲学の基礎がある。ヒュームとマッハの哲学から、彼は観測できないものに対する懐疑精神を育てた。そしてこの懐疑精神は権威を疑問視するという彼の生まれつきの反骨精神に根ざしていた。

以下に述べるいろんな要素の混合が、物理的状況を可視化する能力、概念の核心をえぐり出す能力を増強し、彼の人生における技術的背景になっている。たとえば叔父のヤコブが発電機のなかの運動するコイルと磁石をよりよいものにするのを助けたこと。時計あわせに関する特許申請に溢れていた特許局で働いた経験。懐疑精神を推奨した上司。ベルンの時計塔近く、駅近く、電報局の近くに住んでいたこと。ヨーロッパでは時間帯内の時計を合わせるために電気信号を使っていたこと。話し相手としての技術者である友人のミケーレ・ベッソの存在。彼はアインシュタインとともに特許局で働き、電気器具の特許を調べていたのだ。

これらの影響の順序づけはもちろん主観的なものだ。結局アインシュタイン自身もどのようにして問題を解いたか、はっきりしなかった。「どのようにして相対性理論に到達したかは簡単には言えない。私の考えに動機付けをあたえた非常にたくさんの隠れた複雑な要素がある」と彼は語っている。
(上巻 p.181)


チャーリーが主張するところの「ほとんどの人より、うまくいくやりかた」と重なるように思えます。

ところで、本書(原著)はWescoの2007年株主総会でチャーリーから推薦されたものです。参加したファンド・マネージャーのティルソンがノートをとってくれています

I read the new biography of Einstein by Isaacson [Einstein: His Life and Universe]. I’ve read all the Einstein biographies, and this is by far the best - a very interesting book.(p.20)


2012年1月23日月曜日

誤判断の心理学(4)人はなぜ疑わないのか(チャーリー・マンガー)

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当たり前と考えていた仮定が実は落とし穴だった、という経験を数多くしてきました。あとになってから甘さを指摘するのは簡単ですが、前もって気がつくのは、なかなか難しいことです。今回も、個人的には身につまされる話題です。

人間の心理学的傾向その4
疑いをもたないようにする傾向
Doubt-Avoidance Tendency

人間の脳には、結論をみつけるといつまでも疑念を抱かないようにする仕組みがあります。

動物が長きに渡って、速やかに疑念を振り払う方向へ進化してきたのは言うまでもないでしょう。つまり、捕食者に狙われている獲物にとって、どうしたらよいか決めるのに時間をかけるのは、明らかに非生産的なことの一つだからです。ですから人間にとっても、疑いを持つことを避けようとするのは、ヒト以前の古きご先祖様の系譜をたどれば納得のいくものです。

結論に達して早々に疑念を払う傾向が強すぎるため、判事や陪審員にはそれを抑えるよう強制されています。すなわち、判決をきめる前には時間をおくこと。さらには、結論を出す前に、客観視という「仮面」をつけているように振舞うことを要求されます。この「仮面」が、正しく客観視するのを手助けするのです。この件は、次の話題である「終始一貫しようとする傾向」でも取り上げます。

The brain of man is programmed with a tendency to quickly remove doubt by reaching some decision.

It is easy to see how evolution would make animals, over the eons, drift toward such quick elimination of doubt. After all, the one thing that is surely counterproductive for a prey animal that is threatened by a predator is to take a long time in deciding what to do. And so man's Doubt-Avoidance Tendency is quite consistent with the history of his ancient, nonhuman ancestors.

So pronounced is the tendency in man to quickly remove doubt by reaching some decision that behavior to counter the tendency is required from judges and jurors. Here, delay before decision making is forced. And one is required to so comport himself, prior to conclusion time, so that he is wearing a “mask” of objectivity. And the “mask” works to help real objectivity along, as we shall see when we next consider man's Inconsistency-Avoidance Tendency.

2012年1月21日土曜日

実に愚かしい罪(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーは人の生き方について指針となる発言をすることがありますが、なかでも妬むことを厳しく戒めています。おなじみの「Poor Charlie's Almanack」からの引用で、チャーリーの発言をティルソンがメモしたものです。(日本語は拙訳)

普通の投資アドバイザーなら賛成しないかもしれませんが、自分の資産がまあ満足できるほどになっていて、誰か他の人が、たとえばリスキーな株式に投資して、より速くお金持ちになろうとしていても、そんなことは気にしないのが正しいのです。自分より速く金持ちになる人がいるのが当たり前のことで、別に悲しむことではありません。

Here's one truth that perhaps your typical investment counselor would disagree with: If you're comfortably rich and someone else is getting richer faster than you by, for example, investing in risky stocks, so what?! Someone will always be getting richer faster than you. This is not a tragedy.


自分より速く金を稼ぐ人のことを気にかけるのは、大罪の一つです。この「妬み」というのは実に愚かしい罪で、これだけが、[7つの大罪のうち]自分にとって何も楽しいことがないものです。つらいばかりで、ちっとも楽しくない。そんな思いを抱えている人たちに加わりたいとは思わないでしょう。

The idea of caring that someone is making money faster [than you are] is one of the deadly sins. Envy is a really stupid sin because it's the only one you could never possibly have any fun at. There's a lot of pain and no fun. Why would you want to get on that trolley?


2012年1月18日水曜日

雑音には耳を貸さず、何が起きているかをみきわめる(ブランデス)

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ブランデス(Brandes Investment Partners)はアメリカの著名なファンドで、運用資産は2.5兆円(=329億ドル)にのぼります。日本株にも積極的に投資しています。そういえば、小野薬品工業の大株主になっていたのを覚えています。EDINETをみると、少し前に同社の持ち株比率を5%未満に下げていたようですね。

今回は日本株に対する彼らの見解(How have Brandes' Japan holdings performed since the earthquake and tsunami in March 2011?)をご紹介します。あっという間に終わる1分半の映像ですが、強気の姿勢です。

・地震と津波は日本にとって確かに大きな出来事でしたが、長期投資家としては雑音には耳を貸さず、何が起きているかをみきわめる必要があります。企業によって、それぞれ事情は異なっているからです。

・今回の地震と津波以後、日本の企業は以前よりも環境の変化に強くなっています。また、この2年間で日本企業の株価は世界中で最も割安になりました。

・いま日本株でお買い得なのは、世界規模で通用する企業なのに、どの評価基準からみても割安なものがあります。その生産能力や技術は、世界で通用するものです。また日経[平均銘柄]の半数以上はNet cashの金額で取引されています。財務状況はきわめて強固です。

(Net cash: 現預金 + 有価証券 - 有利子負債 - 退職引当金のことか?)

東日本大震災以降の日本は、一般の欧米人には危ない国だと思われているでしょうから、日本株を推奨するマネージャーはそれなりに大変でしょうね。

2012年1月17日火曜日

TOPIX Core30ひとかじり(3)信越化学工業

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株式市場で人気の高い企業だったのでこれまで近づかないでいました。昨年、書店で平積みになっていた金川会長の新刊を手にとる機会がありましたが、自信や義務感にあふれた言葉が連ねられていました。こうして当社の事業成績を振り返ってみると、それも納得できます。

さて、当社の有価証券報告書や事業報告書を一読して印象に残った点を挙げます。

1. 各事業部門がおしなべて高収益体質
当社の中核事業は5つで、塩化ビニル樹脂・化成品、半導体シリコン、シリコーン、機能性化学品(セルロースなど)、電子・機能材料ですが、おしなべて営業利益率が10%を超えています。2011年度の上半期では、鹿島工場が被災した塩ビ事業は8.3%と低調ですが、そのほかは順に17.0%, 24.7%, 16.6%, 24.5%となっています。各事業の年間売上規模は1,000-3,000億円であり、成長余地が残されています。

2. 赤字を出さない
下の図は1997年度からの一株当たり純利益と配当の推移を示したものです。それ以前の年度は、当社のWebサイトには掲載されていませんでした。一目瞭然ですが、景気後退の時期でも黒字を継続しています。しかもそれなりの水準を保っています。配当も増配基調です。ここ10年間では減配していません。








3. 10年以上前から事業が継続している
原材料に近い川上の産業では製品ライフサイクルが長いものですが、当社の中核事業も10年以上前からのもので、高収益を維持し続けています。1997年度の決算短信をみても、塩ビ、シリコーン、セルロース誘導体、半導体シリコン、合成石英製品、希土類磁石等のように、現在も主力の製品がならんでいます。それらの既存事業は、生産規模の拡大、企業買収、不採算事業からの撤退等によって収益を拡大してきました。なかでも塩ビ及びシリコン関連製品では原料部門を強化しており、垂直統合によって規模拡大と利益率維持をめざしているように見受けられます。

財務や事業内容を簡単にみた上で現時点の株価3,700円を判断すると、半額まではいかないにしても割安な水準だと感じます。10年チャートをみると昔の株価に戻っていますが、純資産はこの10年強で倍増しています。生産能力も増強されており、次の好況期に備えています。前回のテンプルトン卿の教え「優良企業の中から割安なものを選びなさい」がよくあてはまる企業の一つではないでしょうか。

2012年1月16日月曜日

投資で成功するための16のルール(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトン卿の投資スタイルは以前に取り上げた本に詳しいのですが、1993年にご本人が雑誌に寄稿した文章がありましたのでご紹介します。再掲ですが原文は、ミューチュアル・ファンドFranklin Templeton Investmentsここに掲載されています。(日本語は拙訳)

1. 総実質リターンを最大化することを投資の目標とせよ。
2. トレードや投機をするのではなく、投資をせよ。
3. 投資する対象については、柔軟かつ広く受け入れるよう心がけよ。
4. 安く買うこと。
5. 株式を買う際には、優良企業の中から割安なものを選びなさい。
6. 着目するのは[投資対象の]価値であって、市場動向や景気の見通しにふり回されないこと。
7. 分散せよ。株式や債券に投資する場合でも他の例と同じで、数があれば安全になる。
8. 自分で調べよ。そうでなければ賢明なる専門家の手助けを得よ。
9. 投資対象を注視せよ。[ほうっておかないこと]
10. 狼狽するな。
11. 自分の過ちから学びなさい。
12. 祈りと共に始めよ。
13. 市場[の成績]をしのぐのは困難だ。
14. なんでも答えられる投資家ほど、そもそもの問いかけをわかっていない。
15. ただで儲かると思うな。
16. あんまりびくびくしたり、弱気になるな。

1. Invest for maximum total real return
2. Invest - Don't trade or speculate
3. Remain flexible and open-minded about types of investment
4. Buy low
5. When buying stocks, search for bargains among quality stocks
6. Buy value, not market trends or the economic outlook
7. Diversify. In stocks and bonds, as in much else, there is safety in numbers
8. Do your homework or hire wise experts to help you
9. Aggressively monitor your investments
10. Don't panic
11. Learn from your mistakes
12. Begin with a prayer
13. Outperforming the market is a difficult task
14. An investor who has all the answers doesn't even understand all the questions
15. There’s no free lunch
16. Do not be fearful or negative too often


なんといっても、ルール16の説明文には励まされます。株価が低迷しているのをみて落ち込んだときには、ぜひ読んでみてください。

なお、今回の話題を取り上げたきっかけはGuru Focusの寄稿です。ご興味のある方はこちらのリンクをご参照ください。

2012年1月15日日曜日

誤判断の心理学(3)嫌悪・憎悪がもたらすもの(チャーリー・マンガー)

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今回は、前回の愛好/愛情傾向の裏返しで、おなじみのことわざ「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の話題になります。

人間の心理学的傾向その3
嫌悪/憎悪の傾向
Disliking/Hating Tendency

愛好/愛情傾向にみられるように、生物として登場してまもない人類は、嫌悪したり憎む性質を持ってうまれついており、それは日常・非日常を問わず、ふとしたきっかけでひき起こされます。これは類人猿やサルと同じものです。

In a pattern observe to Liking/Loving Tendency, the newly arrived human is also "born to dislike and hate" as triggered by normal and abnormal triggering forces in its life. It is the same with apes and monkeys.


嫌悪/憎悪の傾向も[愛好/愛情傾向と同様に]、自身の行動を調節してしまうものです。
第一に、嫌悪する対象が持つ美点には目をくれません。第二に、嫌悪する対象と単に関係があるだけの人・モノ・行動に対しても、嫌悪感情を持つようになります。第三に、他の事実を曲げてでも、憎しみ続けようとします。

よくあるのですが、この手の曲解が極端になりすぎると、あきれるほどの見当違いをするものです。ワールド・トレード・センターが破壊されたときには、パキスタン人の多くは即座にインド人の仕業だと決めつけましたし、イスラム教徒はユダヤ人のせいにしました。そのような事実の曲解をやっているから、憎しみに凝り固まった敵同士が和解するのはきわめて難しいのです。イスラエル人とパレスチナ人がなかなか和解できないのは、双方が捉えている史実が相手側のものと全然合致していないからです。

Disliking/Hating Tendency also acts as a conditioning device that makes the disliker/hater tend to (1) ignore virtues in the object of dislike, (2) dislike people, products, and actions merely associated with the object of his dislike, and (3) distort other facts to facilitate hatred.

Distortion of that kind is often so extreme that miscognition is shockingly large. When the World Trade Center was destroyed, many Pakistanis immediately concluded that the Hindus did it, while many Muslims concluded that the Jews did it. Such factual distortions often make mediation between opponents locked in hatred either difficult or impossible. Mediations between Israelis and Palestinians are difficult because facts in one side's history overlap very little with facts from the other side's.

2012年1月14日土曜日

もはやサル社長ではない

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アメリカの経済紙Businessweekはよく知られている雑誌で、日本でいうところの東洋経済や週刊ダイヤモンドのようなものです。今週号の同誌の表紙ですが、なんと、マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマーが登場していました。個人的にはマイクロソフト(MSFT)の株式を保有しているので気になる人物なのですが、世間的には悪役ムードの強い人です。彼の奇行(というか、パフォーマンス)をとりあげた映像もYouTubeにあります。最近の注目はアップルやグーグル、そしてIPO必至のフェースブックあたりですが、大衆経済紙がマイクロソフトに焦点をあてるのはなぜなのでしょうかね。












今回は同誌の記事から、マイクロソフトとバルマーの業績概要を引用します。(日本語は拙訳)

過去十数年にわたって、マイクロソフトの売上は3兆円から5.5兆円へと増加し[USドルベースでは2.8倍]、純利益は215%増の1兆8,000億円となった。その大半は、バルマー以前から続いているWindowsとOffice資産のおかげだ。彼自身の業績といえば、データセンタービジネスにおいて無名に等しかった同社を主要業者にまで押し上げたこと、またXboxもバルマーによるもので、エンターテインメント事業で7,000億円の売上をあげている。年次ベースの利益成長でいえば、バルマーの成績(16.4%)は、伝説的なCEOとされるGEのジャック・ウェルチ(11.2%)やIBMのルイス・ガースナー(2%)を超えている。

Over the past 10 years, Microsoft’s annual revenue has surged from $25 billion to $70 billion, while its net income has increased 215 percent to $23 billion. Much of these gains have come from the Windows and Office franchises Ballmer inherited. That said, he’s moved Microsoft from a virtual nonentity in data centers to a dominant player, building a business that brought in $6.6 billion in profit last year. The Xbox also came to life under Ballmer and anchors the company’s $8.9 billion entertainment and devices division. Measured by total annual profit growth, Ballmer’s performance (16.4 percent) surpasses those of such legendary CEOs as GE’s Jack Welch (11.2 percent) and IBM’s (IBM) Louis V. Gerstner Jr. (2 percent).

もしバルマーが会社の利益に大きく貢献しているのであれば、素晴らしい経営者に恵まれたマイクロソフトは買いでしょうし、そうでなければマイクロソフトは比類なきビジネス特性を持っているので、これまた買いだと思います。冗談ぽくみえるかもしれませんが、いちおうまじめです。同社は、私が投資するアメリカ企業3社のうちの1つなのです。

2012年1月13日金曜日

我が家の家計簿(2011年の支出合計)

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溜めていたレシートを家計簿にデータ入力し、ようやく昨年の決算となりました。支出の合計は約277万円。科目ごとの詳細は以下の通りです。










科目小計1ヶ月平均
食費¥491,805¥40,984
日用品¥44,671¥3,723
住居¥1,229,508¥102,459
光熱水道¥90,865¥7,572
被服¥70,874¥5,906
保健衛生¥42,056¥3,505
教育¥460,688¥38,391
教養娯楽¥45,007¥3,751
交際¥68,285¥5,690
交通、通信¥98,772¥8,231
その他¥120,133¥10,011
合計¥2,762,664¥230,222

12で割って月次平均にしてみると、おおよそ想定内の金額です。「その他」の12万円ですが、共済代7万円が含まれています。残り5万円は何に使ったのか振り返りたくなりますが、気がひけるのでそのままに。また交通通信費が高くなったのは、11月の引越し代45,000円が加わっているためです。今年はおさえられる見込みです。

今年2012年の予算は特に決めていませんが、260万円以内に収まるかどうかといったところです。また引越しをしなければ、のことですが。

2012年1月12日木曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(コミュニケーションについて)

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糸井さんの「ほぼ日刊イトイ新聞」には任天堂の岩田社長との対談がいくつか載っています。今回は企画「社長に学べ!」からの引用です。本ブログのメインテーマのひとつは「自分の誤りに向き合うこと」ですが(例えばこの記事)、彼の姿勢も自我を超えていますね。

(岩田社長)
わたしは昔からここだけはわりと自信があるのですが 「コミュニケーションがうまくいかないときに、絶対に人のせいにしない」ということに決めたんですよ、あるところから。

「この人が自分のメッセージを理解したり共感したりしないのは、自分がベストな伝えかたをしていないからなんだ」と、いつからか思うようにしたんです。

うまくいかないのならば、自分が変わらないといけない。

この人に合ったやりかたを、こちらが探せば、理解や共感を得る方法はかならずあるはずだ。

ですから、いまでもうまくいかなかったら自分の側に原因を求めています。相手をわからずやというのは簡単ですし、相手をバカというのは簡単なんですけどね。

(糸井さん)
うん、岩田さんって、ほんとに相手を責める言葉をいわないもんね。

(岩田社長)
いわないということを、自分に課すことに決めたんです。

いつそうしたかは覚えてないのですが、きっと自分なりに決めた時期があったのでしょう。

似た話題をもう一つ。こちらは、任天堂のゲーム・クリエイターで専務でもある宮本氏の言動について、です。引用元はこちらです。

(岩田社長)
社内から、そのゲーム触ったことのない人をひとり、さらってくるんですよ。さらってきて、なにも説明せずに、いきなりポンとコントローラーを握らせて「さあ、やれ」って言うんですよ。

(中略)

なにも知らない人がそれを遊ぶのを見て、「あ、ここわからないのか」とか、「あそこに仕込んだ仕掛けはとうとう気づかずに先に行ってしまった」とか、「先に、これやってくれないと、あとで困るのに」というようなことが、後ろから見ていると、山ほどあることがわかるんです。お客さんが、前提知識がない状態で、どんな反応をするかがわかるんですね。だから、宮本さんは、自分がどんなに実績のあるゲームデザイナーであろうと、「お客さんがわからなかったものは自分が間違ってる」というところから入るんですよ。

2012年1月11日水曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(価値のあるコンテンツについて)

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任天堂の岩田社長の発言を目にしたのは、昨年の春だったかと覚えています。震災騒ぎで仕事の進みに若干の余裕ができ、自分の時間が少しとれた頃です。当社のWebサイトで決算発表会か何かの文章を読んだり動画をみました。第一印象は「若いのに、たいした社長だ」。当意即妙でいて、丁重で腰が低い。さすがは任天堂、と感嘆しました。

その後は、任天堂を取り上げた本を一冊読み(『任天堂 “驚き”を生む方程式』)、四半期ごとの決算を追ってきました。年末商戦がおわり、以前の彼の発言が裏付けられてきた感があります。いい機会なので、集中して岩田社長の発言を読んでいます。糸井重里さんのサイト(この記事など)も含めて興味深く読めます。

さて、今回は2011年度第一四半期決算発表会での、アナリストに対する岩田社長の回答から引用です。引用元はこちらです。

<Q6>
ハードとコンテンツの関係が1対1だけではなくて、いろいろなプラットフォームでさまざまなコンテンツができるようになってきている。また、コンテンツは所有するだけでなく消費するものになっている。こういったトレンドを踏まえて、むしろこれを事業機会として捉えて、新しい成長軸として何か外部に当社のコンテンツを提供するであるとか、事業提携の可能性が将来的にあるのかどうか、というところを改めて教えてほしい。

<A6>岩田社長
「ハードとコンテンツの関係が変わってきている」とか、「コンテンツは所有するものから消費するものになっている」とかいうのは、今、一つの流れとして間違いなく世の中で言われていることだと思います。一方で、一つのコンテンツ、それも価値のあるコンテンツは、そんなに簡単に次々と生み出せるのかというと、決してそうではないと思っています。例えば、短期的な業績だけを考えて申し上げれば、当社の看板のソフト資産をいろいろな形でライセンスをすれば、短期的には収益が上がるのかもしれません。ですが、それでそのコンテンツが消費されて価値がなくなってしまった時に、未来の任天堂はどうなるのでしょうか。私が今期の収益だけに責任を持つのでしたら、そういう決断ができるかもしれませんが、任天堂の中長期の展望に責任を持たねばならない立場としては、逆に「いかに消費されない特別なコンテンツをつくり、その価値を維持するか」ということができないと、それこそ任天堂の優位性というのはなくなると思います。また、その時の任天堂の武器は、私たちがつくるコンテンツとハードが一体でご提案できることで、私たちのコンテンツに必要であればハードにそういう機能を仕組んでおくことで、そのコンテンツの価値をより高めることができると思っていますので、原則的に、(たとえ短期的な収益があるのだとしても)私たちが自分たちの持っている知的財産を外にライセンスして出して消費されるものにしていくという考えはありません。
(後略)

なお、後続の質問では次のような回答をされていました。今回の業績不振をどのようにとらえているのか、一端がうかがえます。

<A8>岩田社長
それから、会社、社員の仕事という意味では、やはり今回のことで、「(ゲームビジネスでは)たった一つ歯車が狂うだけで、会社のビジネスがこんなに変わるのだ」ということを、任天堂という組織全体が今思い知っているわけですから、そのことをむしろ今後に活かさないといけないと私は思っています。そういうことが教訓となり、任天堂が、タイミング、あえてこの言葉を使いますが、「天の時を逃さない会社になるのだ」というのが私の決意でございます。多分に精神論的ですが、ご理解ください。

2012年1月10日火曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂(ブランド価値)

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ブランド・マーケティングのコンサルティングを行っているInterblandという会社があります。同社はまたグローバル企業のブランドを独自評価し、順位付けを行っています。個人的には順位やブランド評価金額に重要な意味はないと捉えていますが、アメリカ人が国外ブランドをどのあたりに位置づけているかは参考になると思います。

2011年の順位ですが、任天堂は48位でした。気になる競合は第3位のマイクロソフト、第8位のアップル、第14位のノキア、第17位のサムソン、第26位のアマゾン、第35位のソニーといったところでしょうか。プラットフォームがらみが多いですね。

報告書で任天堂に触れている部分がありますが、以下の一文は共感できます。(日本語は拙訳)

[任天堂の]最も重要な資産のひとつは、「ニンテンドー」ブランドそのものです。ニンテンドーといえば即ち、楽しくて、にっこりさせてくれるものなのです。

One of its most valuable assets is the Nintendo brand itself, which consumers see as fun and a reliable provider of smiles.
(p.30)

ちなみに過去の記録も見ると、任天堂の最高順位は2001年の29位のようです。ゲームキューブとゲームボーイアドバンスあたりの時代です。個人的には、どちらのゲーム機も経験なしです。

2012年1月9日月曜日

TOPIX Core30ひとかじり(2)任天堂

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この企業については実は1年ぐらい前から少しずつ調べ続けています。当時の株価は2万円強でしたが、今では1万円ちょっとです。当社はひとかじりで終わりそうにないので、今回はまず純利益の推移をグラフにしてみました。当社Webサイトには数値データ(excelファイル)が掲載されています









ハードウェアの端境期と円高要因が重なり、今年度は赤字決算の業績予想が出ています。30年来の黒字基調をとめそうな岩田社長以下の経営陣ですが、今年は正念場です。動向に注目したいと思います。

テレビのない我が家にはゲーム機もないので、Wiiを触ったことはありません。また少し前は電車に乗るとDSで遊ぶ人が目につきましたが、最近はスマートフォンばかりですね。

2012年1月8日日曜日

誤判断の心理学(2)愛好・愛情がもたらすもの(チャーリー・マンガー)

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2回目の今回はわかりやすい話題で、日本語でもことわざになっています。例えば「あばたもえくぼ」あたりでしょうか。前回と同じように、人間の行動をつかさどる根源的な力となるものです。メンタルモデルに加えるべき、重要な概念でしょう。

人間の心理学的傾向その2
愛好/愛情の傾向
Liking/Loving Tendency

殻をやぶったばかりのガチョウのひなどりは、遺伝子に組み込まれた教えに導かれて、初めに目にする生き物に愛情をよせ、付き従います。普通は自分の母親なのですが、殻をやぶるときに母親のかわりに人間が立ち会っていると、ひなどりはその人間を付き従うようになってしまいます。代理母、というわけです。

A newly hatched baby goose is programmed, through the economy of its genetic program, to “love” and follow the first creature that is nice to it, which is almost always its mother. But if the mother goose is not present right after the hatching, and a man is there instead, the gosling will “love” and follow the man, who becomes a sort of substitute mother.


両親や配偶者や子供を除いたら、人は何を好んだり、愛したりするのでしょうか。答えは、自分を好んだり愛してくれるものを、好み、愛するといったところでしょう。ですから、求婚に勝ち残るのはきわめて献身的な人のことが多いですし、本人と直接関係がない大勢の人から愛されたり、認められようと、人は営々と努力するものです。

And what will a man naturally come to like and love, apart from his parent, spouse and child? Well, he will like and love being liked and loved. And so many a courtship competition will be won by a person displaying exceptional devotion, and man will generally strive, lifelong, for the affection and approval of many people not related him.


愛好/愛情傾向が何を引き起こすかというと、わかりやすいものとして自身の行動を調節してしまうことが挙げられます。第一に、好意を持っている対象が間違ったことをしても無視したり、願いに沿ってあげたりします。第二に、好意の対象と単に関係があるだけの人・モノ・行動に対しても、好ましい感情を持つようになります(「単に関係ありのもたらす影響」は後述します)。第三に、他の事実を曲げてでも、その愛情を支えようとする点です。

One very practical consequence of Liking/Loving Tendency is that it acts as a conditioning device that makes the liker or lover tend (1) to ignore faults of, and comply with wishes of, the object of his affection, (2) to favor people, products, and actions merely associated with the object of his affection (as we shall see when we get to “Influence-from-Mere-Assosiation Tendency,”) and (3) to distort other facts to facilitate love.


私も、製品が好きだという理由から投資した企業がありましたが、失敗におわりました。その事例は、近いうちにご紹介します。

2012年1月7日土曜日

驚くほど突然に訪れる(水が世界を支配する)

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読んでいる本『水が世界を支配する』で示唆的な文章に目がとまったのでご紹介します。

歴史では何度も繰り返されてきたことだが、昔からの水工学に安住するだけの社会は、水問題に立ち向かって画期的な解決策を見つけた国家や文明にかならず追い越される。イスラムは、まずは中国の帆船に、ついで中国が海から退却したあと、ポルトガルの探検家バスコ・ダ・ガマがインド洋に乗り入れた一四九八年以降のヨーロッパ船に、対抗できなかった。イスラム教徒がビザンチン帝国とペルシャを転覆させたときもそうだが、一つの文明がほかの文明を追い越す瞬間は、驚くほど突然に訪れる。力の蓄積はひそかになされ、やがてあらゆるところで一気に表面化するからだ。ヨーロッパの航海技術や造船業、海上兵器の発達は、安価で速く安全な海上輸送と貿易の機会を着々と広げてはいたのだが、バスコ・ダ・ガマの船団が喜望峰をまわりインド洋を横切ってインドのカリカットの港に入るまでは、公然と知れわたることがなかっただけなのだ。
(p.147)

株式投資で考えると、これから勢いを増す企業を見つけたいのは人情ですが、ウォーレン・バフェットやチャーリー・マンガーであれば反対で、逆転されにくい企業を見つけるほうに力を注ぐでしょうね。

2012年1月6日金曜日

TOPIX Core30ひとかじり(1)ファナック

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市場で適切に評価されていない銘柄を探して投資対象としているので、有名だったり大きな日本企業はあえて避けていました。ですから、それらの企業については表面的な知識しか持っておらず、分析はほとんどしていません。しかし、思うところがあり、日本を代表する企業も少しずつ勉強したいと考えるようになりました。まずは浅く事実を知る程度ですが、TOPIX Core30から順に触れていくつもりです。

TOPIX Core30とは東証TOPIXのサブインデックスで、東証市場第一部に上場する内国普通株式のうち、時価総額、流動性の特に高い30銘柄が含まれています。現時点の構成銘柄はここに一覧されています。アメリカのDow Jones Industrial Average(DJIA)と雰囲気が少し似ていますね。

世間でも注目されている会社ばかりですので、屋上屋を架して各社を説明する必要はないかと思います。印象に残った点を記述していきます。

今回取り上げるのは、その中でもROAが最高水準の企業、ファナックです。当社のことは以前に一度だけ簡単に調べたことがありますが、今回は有価証券報告書に一通り目を通しました。優良企業は何かしらの特徴が目につくものですが、当社も独特な強い匂いがします。以下、感じた点を3点ほど。

1.自己株式取得の判断がよい
もともと自己株式を13%保有していましたが、2009年8月の取締役会で追加取得を決議しています。890億円で1,200万株(約5%分)取得ですので、1株平均7,500円程度で買っています。底値では買っていませんが、業績が悪かった年度(当期純利益375億円)に決断したのは見事です。

2.一味違うリスク認識
「事業等のリスク」で自然災害を挙げることが多いものですが、当社は富士山噴火を明記しています。富士山周辺に本社を抱える大企業は少ないと思いますが、小さな確率でも壊滅的な影響を及ぼすリスクです。最悪時の対応は検討済かもしれません。

3.現時点での割安度は?
(現預金+売掛金+有価証券)から負債合計をひいた残額は、1株あたり3,000円弱。それを考慮すると、現在のPERはそこそこ妥当に見えます。2009年のような自社株買いができる企業であれば、内部留保の使い方に安心感を覚えます。もっと分析を行って、Moatが長続きするか検討する価値のある企業だと感じました。

蛇足ですが、当社の有価証券報告書の「役員の状況」も一味違います。NTTや三菱UFJでもしていない略歴の書き方です。

2012年1月5日木曜日

(メンタル・モデル)熱力学の法則

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チャーリー・マンガーは戦時中にカルテックで熱力学を専攻しました。熱力学の教義は彼のメンタル・モデルに当然含まれているはずです。最近読んだ『サイエンス入門〈1〉』では爆発や温度などの話題がわかりやすく取り上げられており、楽しめました。今回は熱力学の法則を同書から引用します。

(第0法則)
接するもの同士は同じ温度になろうとする。

(第1法則)
エネルギーは保存される。

(第2法則)
熱エネルギーを取り出すには、温度差が必要である。
ある物体のエントロピー(無秩序さ)は増えたり減ったりするが、宇宙のエントロピーの総量はつねに増えつづけている。

(第3法則)
何物も絶対零度に達することはできない。

2012年1月4日水曜日

バリュー投資とは(セス・クラーマン)

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カルト的な人気を集めているヘッジファンド・マネージャーに、セス・クラーマン(Seth Klarman)がいます。著書Margin Of Safetyはamazon.comで高値で取引されています。今回は同書から、年頭にあたっての自戒として引用します。(日本語は拙訳)

バリュー投資の信条は、次の3つの主要な考えから成り立っています。まず一つ目は、ボトムアップ戦略です。つまり、やるべきことは特定の割安な投資対象をみつけることです。二つ目は、投資成績は純損益をみること。[他と比べる]相対的な成績は追いかけません。最後の三つ目は、損失を避けるよう努めることです。うまくいく場合(儲け)だけを考えるのではなく、間違えている場合(損失)のことも同じように検討するべきです。

There are three central elements to a value-investment philosophy. First, value investing is a bottom-up strategy entailing the identification of specific undervalued investment opportunities. Second, value investing is absolute-performance-, not relative-performance oriented. Finally, value investing is a risk-averse approach; attention is paid as much to what can go wrong(risk) as to what can go right(return).