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2020年6月26日金曜日

企業の成長性と価値評価の関係(前)(マイケル・モーブッシン)

少し前の投稿で取り上げたマイケル・モーブッシンのエッセイでは、企業価値を評価する上での成長性や金利の影響について持論を展開しています。今回ご紹介するのは、PERのようなわかりやすい評価指標を使う上での注意を促すような文章です。(日本語は拙訳)

計算式 

それでは、PERが30台前半になるように入力値を調節した上で、割引キャッシュフロー・モデルを使って検討してみよう。 以下に、用語の定義と初期条件を記しておく。

・NOPAT(税引後営業利益)が年率10%で増加すると仮定した。NOPATとは、財務的な借入れに頼らないで企業があげる損益を示す金額である。

・ROIIC(増分投下資本利益率)が20%と仮定した。ROIICの定義は、今期と比較した来期NOPATの増分を、今期中に支出される投資額で除した割合である。たとえば、来期のNOPATが10ドル分増加すると見込まれ、今期中に50ドルを事業に投資するとき、ROIICは20%になる(=10/50)。ここで注意すべき点は、投資した資金の仕分け先が費用か資産かは問わない点である。ただし、若干の税効果は別とする。

・株主資本コストを6.7%と仮定した。これはアシュワス・ダモダラン[ニューヨーク大学スターン・スクールの教授]が2020年2月1日時点で見積もった値である。この指標は、想定されるリスクに対して投資家が期待しているリターンを測るものである。そのため無リスク金利1.5%に、株式リスク・プレミアムの推計値5.2%を加算した値となっている。話を単純にするため、対象企業の資本調達先は、株主からの出資だけとしている。なお、債券が加わっていると計算が若干やっかいになるが、筋書きが変わることはない。

・本モデルでは15年間で得られるキャッシュフローの価値を算出し、その後の期間については残存価値を見積もるために永久債として扱う。なお、NOPATを16年目にも計算している。これは15年目に実施された投資の成果を反映するためであり、さらにそれを株主資本コストを使って還元している。そうして得られた数値を現在価値へ割り引く。

以下に、このモデルにおける入力および出力値を示す。

(入力値)
NOPAT(税引後営業利益)の増加率: 10%
ROIIC(増分投下資本利益率): 20%
資本コスト: 6.7%

(出力値)
PER: 32.3

ここで増加率を15%にして他の値はそのままだと、以下のような結果が得られる。

(入力値)
NOPATの増加率: 15%
ROIIC: 20%
資本コスト: 6.7%

(出力値)
PER: 52.2

それでは次に、それらの初期条件を変化させることでPER倍率にどのような影響をもたらすのか確認しよう。[価値評価の際にPERのような]倍率を使っている投資家のほとんどは基礎的な仮定を熟慮していないため、概して彼らが予想する以上の変化があらわれる。

(つづく)

The Math

We start by calibrating our discounted cash flow model with inputs that yield a P/E multiple in the low 30s. Here are the definitions and the initial assumptions:

- We assume net operating profit after tax (NOPAT) will grow 10 percent per annum. NOPAT represents the cash profits a company would earn if it had no financial leverage.

- We assume a return on incremental invested capital (ROIIC) of 20 percent. ROIIC is defined as the change in NOPAT from this year to next year divided by this year’s investment. For example, if NOPAT grows by $10 next year and the company invests $50 this year, the ROIIC is 20 percent (10/50). Note that it does not matter if the investment is expensed or capitalized, save for some effect on taxes.

- We assume the cost of equity capital to be 6.7 percent, which was Aswath Damodaran’s estimate as of February 1, 2020. The cost of equity measures the return an investor expects to earn given the assumed risk. As such, the figure is the sum of the risk-free rate of 1.5 percent and an estimated equity risk premium of 5.2 percent. We assume the company is financed solely with equity for simplicity. Adding debt makes the calculations slightly more cumbersome but does not change the story.

- The model values explicit cash flows for 15 years after which it uses a perpetuity to estimate the residual value. Specifically, the model takes NOPAT in year 16, which reflects the benefit of the investment made in year 15, and capitalizes it by the cost of equity. That figure is then discounted to a present value.

Here’s a summary of the inputs and the output:

NOPAT growth: 10%
ROIIC: 20%
Cost of capital: 6.7%
→ P/E: 32.3

If we increase the growth rate to 15 percent and hold everything else constant, we get this result:

NOPAT growth: 15%
ROIIC: 20%
Cost of capital: 6.7%
→ P/E: 52.2

We will now change these assumptions to see what the impact is on the P/E multiple. Because most investors who use multiples do not contemplate foundational assumptions, the changes are larger than they generally expect.

備考です。ROIICの具体的な計算例としては、米マクドナルド社がSECに提出した10-K中の文章が参考になりそうです。

One-year return on incremental invested capital (ROIIC)

また本文中で取り上げられていた割引キャッシュフロー・モデルは、スプレッドシートでおおよそ再現できます。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

NOPATの増分とROIICから投下資本純増額を計算し、フリーキャッシュフロー=NOPAT-投下資本純増額としてDCF法で計算するとPERが32.3になるということでしょうか?
自分が計算するとPERが19.5になってしまうのですが、もしよろしければ次回の記事でスプレッドシートを載せていただけると嬉しいです。

betseldom さんのコメント...

明日6月28日付の投稿で取り上げていますので、ごらんになってください。