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2012年12月14日金曜日

誤判断の心理学(27)質疑応答(チャーリー・マンガー)

チャーリー・マンガーによる「誤判断の心理学」は、今回が最後になります。25種類の傾向を示した後に、チャーリーは自問自答の形でいくつかの疑問に答えています。過去記事「(実例)旅客機からの脱出試験」が、今回の前段にあたる文章です。(日本語は拙訳)

3番目の質問も複合的なものです。これら一連の傾向をみてきましたが、現実問題として、この物事を考えるやり方[各種の傾向をチェックリストとして使う方法]にはどんなよさがあるのでしょうか。現実的なご利益は得られるのですか。そういった心理的傾向は広範な進化[遺伝的なものと文化的なものの組み合わせ]を通じて完璧なまでに人の心に組み込まれているので、取り除けないと思いませんか。では、この問いに答えましょう。これらの傾向は、おそらく悪性のものより良性のものが多いと思います。もし反対だったら、人間の状態や限定的な脳の容量から考えると、これらの傾向はきちんと働き、それゆえに人間はここまで到達していなかったと思われるからです。ですから、これらの傾向はただ自然に消失することはないでしょうし、そうなってはならないのです。にもかかわらず、これまで述べてきた心理学的な物事の考え方を正しく理解して使えば、知恵や良き行いを広めることができますし、また災難を避けるのにも役に立つでしょう。これらの傾向を宿命としてうけとめるのではなく、その実態を認識し、対応策を覚えておくことで、トラブルを未然に防ぐ一助となります。数はそれほどありませんが、次に挙げる例をみれば、基本的な心理学的知識があると非常に役に立つことが、改めて認識できるでしょう。

1. カール・ブラウン氏が実践してきたコミュニケーションのやりかた
[未訳出。コミュニケーションの際には、5W1Hを必須とするやりかた。なお同氏の話題は過去記事にもあり]

2. パイロットの訓練に使うシミュレーター

3. アルコホーリクス・アノニマス[断酒団体]が採用しているシステム
[過去記事]

4. メディカル・スクールにおける医療訓練の方法

5. 合衆国憲法制定会議における議事進行上の規則
この会議は完全に非公開とされ、予備的な投票の段階では投票者名は記録されませんでした。また会議末まではいかなるときでも票を覆すことができ、最終的には全会一致をもって決定としました。これは人の心理を重視した、非常に賢明なやりかたです。もし建国者たちがほかの手続きに従っていたら、さまざまな心理学的傾向に影響され、首尾の一貫しない、頑なな態度をとりつづける者が続出したことでしょう。エリートたる建国者たちが心理的な面において鋭敏だったことで、紙一重のところで建国がなしとげられたのです。

6. ばあちゃんのいいつけ
これは、やるべきことを抱えている人に対して動機づけを与え、よりよい成果を挙げるよう仕向けるものです。[過去記事]

7. ハーバード・ビジネス・スクールが強調する決定木の重要性
まだ若かったころの私はおろかにも、ハーバード・ビジネス・スクールのことをバカにしていました。「高校で習う代数を28歳にもなる人たちにむかって、実生活でどう使うのかを教えてるって、どういうこと?」。しかしのちになって私にも道理がわかり、それが非常に重要なことが理解できました。心理的な傾向から及ぼされる悪影響に対抗するためだったのですね。気がつくのが遅かったですが、そうでないよりはマシでしょう。[過去記事]

8. ジョンソン・アンド・ジョンソンにおける事後評価の実施
ほとんどの会社では、買収した会社が失敗だったとしても、おろかな買収に関係した人、事務作業、プレゼンテーションなどは全て、間をおかずに忘れ去られてしまいます。お粗末な結果に関わっていたと思われるので、誰も口にしないのです。しかしジョンソン・アンド・ジョンソンでは定められた規則によって、実施した買収が当初の予想とくらべてどれだけの成果をあげたのか振り返ることを、全員に課しています。これはとても賢明なやりかただと思います。

9. 確証バイアスを避けていたチャールズ・ダーウィンの卓越した先例
このやりかたを模倣したものとして、新薬の研究開発の例があります。これは、試験の際には「二重盲検法」に従うことがFDAによって義務付けられているものです。確証バイアスに対する究極の手段といえるでしょう。[過去記事]

10. 立会取引に対するウォーレン・バフェットのきめごと
参加しないこと。

My third question is also compound: In the practical world, what good is the thought system laid out in this list of tendencies? Isn't practical benefit prevented because these psychological tendencies are so thoroughly programmed into the human mind by broad evolution [the combination of genetic and cultural evolution] that we can't get rid of them? Well, the answer is that the tendencies are probably much more good than bad. Otherwise, they wouldn't be there, working pretty well for man, given his condition and his limited brain capacity. So the tendencies can't be simply washed out automatically, and shouldn't be. Nevertheless, the psychological thought system described, when properly understood and used, enables the spread of wisdom and good conduct and facilitates the avoidance of disaster. Tendency is not always destiny, and knowing the tendencies and their antidotes can often help prevent trouble that would otherwise occur. Here is a short list of examples reminding us of the great utility of elementary psychological knowledge:

One: Carl Braun's communication practices.

Two: The use of simulators in pilot training.

Three: The system of Alcoholics Anonymous.

Four: Clinical training methods in medical schools.

Five: The rules of the U.S. Constitutional Convention: totally secret meetings, no recorded vote by name until the final vote, votes reversible at any time before the end of the convention, then just one vote on the whole Constitution. These are very clever psychology-respecting rules. If the founders had used a different procedure, many people would have been pushed by various psychological tendencies into inconsistent, hardened positions. The elite founders got our Constitution through by a whisker only because they were psychologically acute.

Six: The use of Granny's incentive-driven rule to manipulate oneself toward better performance of one's duties.

Seven: The Harvard Business School's emphasis on decision trees. When I was young and foolish I used to laugh at the Harvard Business School. I said, “They're teaching twenty-eight-year-old people that high school algebra works in real life?” But later, I wised up and realized that it was very important that they do that to counter some bad effects from psychological tendencies. Better late than never.

Eight: The use of autopsy equivalents at Johnson & Johnson. At most corporations, if you make an acquisition and it turns out to be a disaster, all the people, paperwork, and presentations that caused the foolish acquisition are quickly forgotten. Nobody wants to be associated with the poor outcome by mentioning it. But at Johnson & Johnson, the rules make everybody revisit old acquisition, comparing predictions with outcomes. That is a very smart thing to do.

Nine: The great example of Charles Darwin as he avoided confirmation bias, which has morphed into the extreme anti-confirmation-bias method of the “double blind” studies wisely required in drug research by the F.D.A.

Ten: The Warren Buffett rule for open-outcry auctions: Don't go.

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