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2012年8月24日金曜日

ポートフォリオの現金比率(ウォーレン・バフェット、1957年)

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今回はウォーレン・バフェットのパートナーシップ時代のレター(1957年度)からの引用です。おなじみになってきましたが、ポートフォリオの資産配分の話題です。(日本語は拙訳)

わたしたちのポートフォリオの価値は、1956年末よりも1957年末のほうが高いことは間違いありません。全般的に価格が安く、辛抱した末でないとお目にかかれないような破格の値段で証券が買える機会を、さらに享受できたからです。先に申し上げたようにポートフォリオ中の最大の銘柄は、パートナーシップによっては資産の10%から20%を占めています[バフェットは複数のパートナーシップを組んでいた]。いずれすべてのパートナーシップで資産の20%を占めるようにするつもりですが、急ぐべきではないと考えます。当然のことですが値段が上がっていくときよりも、横ばいか、下げているときに株を買うのがわたしたちにとっては一番だからです。そんなわけですのでポートフォリオのある程度の割合は、いついかなるときでも利益を出さないままかもしれません。辛抱することになりますが、この方針をとれば長い目でみたときにもっとも利益が得られるに違いないからです。

I can definitely say that our portfolio represents better value at the end of 1957 than it did at the end of 1956. This is due to both generally lower prices and the fact that we have had more time to acquire the more substantially undervalued securities which can only be acquired with patience. Earlier I mentioned our largest position which comprised 10% to 20% of the assets of the various partnerships. In time I plan to have this represent 20% of the assets of all partnerships but this cannot be hurried. Obviously during any acquisition period, our primary interest is to have the stock do nothing or decline rather than advance. Therefore, at any given time, a fair proportion of our portfolio may be in the sterile stage. This policy, while requiring patience, should maximize long term profits.

2012年8月22日水曜日

(答え)地球温暖化が進むと、南極はどうなるのか?

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前回とりあげた話題「地球温暖化によって南極の氷は増加すると科学者たちが予想する」、その理由の部分になります。

その理由は簡単です。摂氏0.5~1度気温が上昇したとしても、南極の大部分の気温はまだかなりの低温です。氷の質量が減少した原因は、氷が融解したことではなく、氷が崩壊して海に流れ出したことだったのです。温暖化が進行した場合の主な影響は、(科学者の計算によると)水蒸気の増加です。温度の上昇によって、海水が蒸発するからです。この水蒸気が南極大陸の上空に流れていくと、降雪量が増え、固まって氷になり、氷河が発達します。そのため、地球温暖化によって南極の氷の質量は増えるという予想が出ました。 (p.153)


自分の直感が正しい結論と反する場合、どうしたら正しい道へ進むことができるでしょうか。今回の問題では、わたしは氷の質量が「減る」という直感に引きずられて、上のようなメカニズムが思いつきませんでした。気象に関する知識は必要ですが、この程度であれば想像できてもよかったと感じました。あとづけになってしまいますが、逆から考えれば解くことができたかもしれません。

ところで本書の筆者リチャード・ムラー(UCバークレー校物理学教授)は、上のような結果がでたからといって地球温暖化が進んでいないとは言っていません。その逆で、人間の活動によって気温が上昇している可能性はとても高いと考えています。

でも、温暖化は確かにおきています。そして、最近の50年間の温暖化の一部が、化石燃料の使用を主とする人間活動によるものである可能性がひじょうに高いのです。(p.155)

2012年8月21日火曜日

(問題)地球温暖化が進むと、南極はどうなるのか?

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以前読んだ『サイエンス入門〈1〉』の続き『サイエンス入門〈2〉』が出ていましたので、読んでいます。そのなかでおもしろい文章がありましたのでご紹介します。

南極の氷は、融けていると言われます。グレース衛星が、衛星軌道上から南極の氷の重力効果を測定し、氷の質量の正確な測定を行いました。その結果、南極の氷が毎年約36立方マイル(150立方キロメートル)ずつ減少していることがわかったのです! これは、地球温暖化の重大さを証明する深刻で際立った事実のように思えます。

驚くべきことに、この一見それらしい証拠は、事実を反映しているわけではないのです。2000年に、IPCCは、グレース衛星による観測に先立って、地球温暖化によって予想される氷の変化がどれほど大きなものになるかを計算するように、何人かの科学者に依頼しました。その結果、驚くべきことに、すべての科学者が一致して、地球温暖化によって南極の氷は、減少するのではなく、「増加する」と予想したのです。(p.153)


つづきの文章は次回にご紹介します。個人的には自分の直感にひきずられて、科学者たちがどういった論理で予想を出したのか思いつきませんでした。チャーリー・マンガー言うところの「疑いを持たない傾向」(過去記事)が強く働いているようです。

2012年8月20日月曜日

規模の不経済(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知入門、規模の経済の第3回目ですが、今回は規模が大きいほど効率が悪くなる話です。(日本語は拙訳)

規模が大きいからといって常に勝てるわけではないのがこのゲームの面白いところで、大きくなると官僚的になってしまうという重大な欠点があります。官僚主義はなわばり争いを生み出します。またもや登場しましたが、これも人の本性に根ざすものです。

ここでも動機付けが悪い方向に働いています。たとえば私が若かった頃のAT&Tは巨大な官僚主義の職場で、株主のような存在のことを考える人はいませんでした。官僚主義ときくと、みなさんはこう考えるかもしれません。自分の未処理かごに仕事が入ってきたら、別の人の未処理かごに進めればおしまいだろうと。ところがAT&Tはそうではありませんでした。やるべき仕事とは、自分たちがやりおわった仕事のことをさしたのです。膨張して巨大になり、おろかで意欲を失った官僚主義がはびこっていたのです。

実のところ、いくぶん腐敗していたとも言えます。たとえば私がある部門の責任者で、あなたが別の部門の責任者だとします。あることをやるのに必要な権限を両者で共有していたとしたら、そこには不文律がありました。「あなたが厄介なことをしなければ、私のほうもしません。それでお互い満足ですよね」。そんなわけで、管理上の階層が積み重なり、不要な間接費が積み上げられていったのです。そういった階層を正当化する人もいますが、それではいつまでたっても何も終わりません。とにかく決断するのが遅すぎます。機敏な人たちは、もっとうまくやっています。

The great defect of scale, of course, which makes the game interesting - so that the big people don't always win - is that as you get big, you get the bureaucracy. And with the bureaucracy comes the territoriality - which is again grounded in human nature.

And the incentives are perverse. For example, if you worked for AT&T in my day, it was a great bureaucracy. Who in the hell was really thinking about the shareholder or anything else? And in a bureaucracy, you think the work is done when it goes out of your in-basket into somebody else's in-basket. But, of course, it isn't. It's not until AT&T delivers what it's supposed to deliver. So you get big, fat, dumb, unmotivated bureaucracies.

They also tend to become somewhat corrupt. In other words, if I've got a department and you've got a department and we kind of share power running this thing, there's sort of an unwritten rule: “If you won't bother me, I won't bother you, and we're both happy.” So you get layers of management and associated costs that nobody needs. Then, while people are justifying all these layers, it takes forever to get anything done. They're too slow to make decisions, and nimbler people run circles around them.


バークシャー・ハサウェイが買収した企業には似たような業種同士のものがありますが、チャーリーやウォーレン・バフェットはそれらを合併統合してシナジーを求めようとはしません。その理由のひとつが、無益ななわばり争いを避けることなのかもしれませんね。

2012年8月18日土曜日

誤判断の心理学(13)楽観的になりすぎる傾向(チャーリー・マンガー)

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今回の文章では、過去にもとりあげたおなじみの話題が登場します。原文が短いので全文をご紹介します。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その13)楽観的になりすぎる傾向
Thirteen: Overoptimism Tendency

キリストが生まれた頃より300年前のこと。かの高名なるギリシャの弁論家デモステネスは、こう言いました。「人は自分が望むものを、やがて信念とするものだ」。

デモステネスの言ったことを解釈すれば、人は単に痛みを避けようと否定するだけでなく、うまくやりとげた後でも楽観的過ぎる姿を見せるとも言えます。

苦しんでいなかったり、あるいは苦しくなる心配がないときでも、たいていの人は楽観的過ぎるものです。みてください、くじを買って喜んでいる人たちを。あるいは、つけ払いできるうえに配達もしてくれる食料品店が、超効率的な巨大量販スーパーにとってかわると満足げに信じている人たちを。ギリシャの弁論家が正しかったのは言うまでもないですね。

このおろかな楽観に対処するには、私のころには高校2年で教わったフェルマーとパスカルの初歩的な確率計算を、反射的に使えるようになるまで練習するのが定石です。リスクに対処しようとして経験則に頼るのは、進化の末に我々人間が手にしたやりかたであって、適切とはいえないものだからです。ゴルフのグリップがこれと似た例でしょう。ゴルフ教室に通わずに、人として進化した体のつくりのまま自然に握るやりかたをとるのは、結局は役に立たないのです。

About three centuries before the birth of Christ, Demosthenes, the most famous Greek orator, said, “What a man wishes, that also will he believe.”

Demosthenes, parsed out, was thus saying that man displays not only Simple, Pain-Avoiding Psychological Denial but also an excess of optimism even when he is already doing well.

The Greek orator was clearly right about an excess of optimism being the normal human condition, even when pain or the threat of pain is absent. Witness happy people buying lottery tickets or believing that credit-furnishing, delivery-making grocery stores were going to displace a great many superefficient cash-and-carry supermarkets.

One standard antidote to foolish optimism is trained, habitual use of the simple probability math of Fermat and Pascal, taught in my youth to high school sophomores. The mental rules of thumb that evolution gives you to deal with risk are not adequate. They resemble the dysfunctional golf grip you would have if you relied on a grip driven by evolution instead of golf lessons.


何度かご紹介していますが、「フェルマーとパスカルの初歩的な確率計算」とは順列と組み合わせを使ったものです。以下の過去記事で取り上げています。


以前に「個人的には、組み合わせを全く使えていない」と書きましたが、肩肘張らずにやってみれば、ごく普通に使えるし、使うべき考え方ですね。

2012年8月17日金曜日

(映像)投資先を見極めるためのチェックリスト(チャーリー・マンガー)

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2009年にチャーリー・マンガーがBBCのインタビューに応じていたのを、いまさらですがみています。6分ごろの会話でチャーリーは、「投資先を選ぶためのチェックリスト」に答えていました。毎度のことでなんだかわたしのほうが恐縮気味なのですが、ウォーレン・バフェットとぴったり同じことを答えています。



チャーリーが挙げているのは以下の4つです。「ビジネスを理解できること」「長続きする競争優位性を持っていること」「有能な経営陣がいること」「安全余裕をとった価格であること」。二人とも昔から同じことを主張しているということは、きわめて大切な教訓なのだと捉えています。なお、ウォーレンの発言は以下の記事でも取り上げています。

10秒ください(ウォーレン・バフェット)
投資家が見極めるべき5項目(ウォーレン・バフェット1993年)

2012年8月16日木曜日

GDP成長率と株式リターン率の関係(GMO)

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拝見しているブログ『賢明なる投資!バフェる!グレアムる!フィッシャる!』で取り上げられていた「GDPの伸びと株価の相関性」の話題が気になっていました。この話題は過去にも各所で登場していますが(梅屋敷さま等)、たまたまジェレミー・グランサムのファンドGMOでも似たような話題に触れていたので、要点を引用します。(日本語は拙訳)

引用元PDFファイル
Reports of the Death of Equities Have Been Greatly Exaggerated: Explaining Equity Returns

「GDP成長率と株式からのリターン率には相関がない」
株式からのリターンを理解するために初めにみるのが、GDPの成長との関係である。一言でいえば、正の相関はない。株式からリターンをあげるのに、ある程度のGDPの成長が必要というわけではない。同様に、ある程度のGDP成長が株式市場でのリターンを示唆するものでもない。このことは実証されており、例えばディムソン=マーシュ=スタウントンによる1900年から2000年までの研究結果が示している。GDPが力強く成長することは、その国の株式市場が他の国よりも好成績をあげる最大の理由であると、多くの投資家はかたく信じている。しかし図1のように、20世紀をみればこの信念はあてはまらない。




The first point to understand about stock returns is their relationship with GDP growth. In short, there isn’t one. Stock returns do not require a particular level of GDP growth, nor does a particular level of GDP growth imply anything about stock market returns. This has been true empirically, as the Dimson-Marsh-Staunton data from 1900-2000 shows. Many investors are utterly convinced that strong GDP growth is the primary reason why one country’s stock market will outperform another. As we can see in Exhibit 1, this was certainly not the case in the 20th century. (p.1)

「企業利益の成長とGDPの成長には相関がある」
もし相関があるとすれば、道理に合わなくなる。ほかの条件がすべて同じだとすると、GDPの高成長率と株式市場からの低リターンが相関することになってしまうからだ。これはどういうことだろうか。企業があげる利益はGDPに連動して成長し、そして株価は利益に連動して上昇するものではないか。企業全体でみれば利益はGDPに連動して成長するとみて然るべきだし、株式市場の時価総額は利益に連動して成長すると期待されて当然だ。図4で示すアメリカ合衆国の例ではそうなっている。


Insofar as there is any relationship here, it’s a perverse one. All else equal, higher GDP growth seems to be associated with lower stock markets returns. How could this possibly be? Don’t earnings grow with GDP and stock prices with earnings? Aggregate corporate profits should indeed be expected to grow with GDP. And overall market capitalization of the stock market should be expected to grow along with aggregate earnings, as can be seen in the U.S. (Exhibit 4). (p.1)

「急成長がゆえに、株主へのリターンをある程度減じる」
急成長を望むのであれば、それに見合った投資が必要となる。この投資の原資は、配当せずに留保した利益か、株主利益を希薄化することによって作られる(注)。実際のところ、急成長をとげる国の企業では一般的に低配当率と株主利益の高希薄化の両方がみられる。そのどちらも、急激な成長にともなう増益効果を減じ、必要以上に株主リターンを引き下げている。

The faster you want to grow, the more you will need to invest, but this investment must either come from retained earnings (forgone dividends) or dilution of shareholders. In practice, companies in fast-growing countries generally exhibit both low dividend payout ratios and high rates of dilution of shareholders, both of which hurt shareholder returns enough to more than counteract the higher aggregate profit growth associated with fast growth. (p.4)

(注)
ここでは、新株発行と同様に借入金も株主利益の希薄化とみなしている。その理由として、資金の貸し手は公式には企業の所有者ではないが、キャッシュフローに対する権利だけでなく、破産や契約違反といった状況下で適用される期待権を有していることを考慮した。

(footnote)
For this purpose, I’m counting borrowing money as well as equity issuance as dilution of shareholders. Lenders may not officially have an ownership stake in the company, but they do have a right to some of its cash flow as well as having contingent rights under certain circumstances, i.e., bankruptcy or covenant breach.

「株式からのリターンの多くを占めるのは配当である」
株式市場からのリターンをみると、全体で見て大きな影響を与えるのは配当金だ。配当は過去のほとんどにおいて、株式投資家へのリターンの多くを担ってきた。図5は複利ベースで見た実質リターン及び実質EPSの成長を、実質GDPと比較する形で示している。全企業利益の総額や株式市場での時価総額の場合とは異なり、リターンやEPS成長はGDPと連動していないことが明確にあらわれている。


When we look at stock market returns, dividends have a very large impact on the total, providing the bulk of equity investor returns for most of history. Exhibit 5 shows the compound growth of real returns and real earnings per share against real GDP. Unlike aggregate profits and market capitalization, it is fairly clear that neither returns nor EPS grow in line with GDP. (p.4)

「全体として見ると、企業収益とEPSの相関が小さい理由」
全企業利益の総額や株式の時価総額は、EPSや株主に対する複利ベースのリターンとはほとんど相関していない。新会社設立、既存企業による増資、自己株式取得、M&Aといった企業活動が行われると、EPSは総計ベースの値から乖離したものになり得るからだ。

Total corporate profits and total stock market capitalization have very little to do with earnings per share or the compound return to shareholders because new companies, stock issuance by current companies, stock buybacks, and merger and acquisition activity can all place a wedge between the aggregate numbers and per share numbers. (p.4)

2012年8月14日火曜日

歴史からなにを学ぶのか

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いま読んでいる本『戦後史の正体』にあった一節を引用します。月並みといえばそのとおりですが、注意していないと心から離れやすい教訓と感じています。

英国の外交官として20年つとめたあと、高名な歴史家となったE・H・カーは『歴史とは何か』(岩波書店)のなかで「歴史は、現在と過去との対話である」とのべています。翻訳者の清水幾太郎はこの言葉を「歴史は過去のゆえに問題なのではなく、私たちが生きる現在にとっての意味ゆえに問題になる」と解説しています。
つまり歴史は過去を知るために学ぶのではなく、現在起こっている問題を理解するために学ぶのだということです。(P.103)


そういえば2004年に開催されたバークシャー・ハサウェイの株主総会で、ウォーレン・バフェットが別の言い方をしていたのを思い出しました。引用元はティルソンのメモです。

「わたしどもが歴史から学んだこと、それは人は歴史から学ばないということです」

What we learn from history is that people don't learn from history.


蛇足ですが、この本『戦後史の正体』は、個人的には本年度読書の筆頭にあげたい一冊です。今日の段階でも、amazon.co.jpの本のベストセラー第6位につけていますね。

2012年8月11日土曜日

10年先を見越した投資をしている人たちへ(ジェレミー・グランサム)

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マネー・マネージャーのジェレミー・グランサムのレター(2012年第2四半期)が少し前に公開されていました(こちらのファイル)。あいかわらずの弱気路線ですが、食料を中心とした資源問題をとりあげており、個人的には興味深く読みました。

今回は投資の対象として資源関連をどうみているのか、彼の意見が示されている一節をご紹介します。(日本語は拙訳)

私の考えを一行でまとめると、こうなります。「人類が直面する問題には弱気。悲しいかな、それゆえに資源投資には強気」。当然ですが資源価格の高騰は今後避けられないと、1年前のときよりも確信しています。また残念なことに、それに端を発して社会的国際的な不安定さも増していくことでしょう。だからこそ、1年前に申し上げた「生き残るための投資方針」になおさら自信がもてるのです。10年以上先を見越した投資をしなければならない人たちは、これからは資源関係を主力投資先に加える道を進んでいくべきです。私の財団はあくまでも個人的なものなので、10年超の投資期間を顧客に強いるのが難しい機関投資家とは異なっていますが、ゆくゆくは資源関係に30%を投資するよう方針を定めています。もしかしたらまるで見当違いなのかもしれないと感じつつも、最近の大幅な価格下落を注視し、買い単価を少しずつ下げてきました。その結果、私の財団のポートフォリオのうち、20%の2/3に達しています。

The one-line summary is this: I am very bearish on the problems we humans face and, sadly, very bullish on resources. Not surprising, I am even more convinced than I was a year ago of the inevitability of rising resource prices (and, unfortunately, associated societal and international instability). Therefore I am more confident in my suggested investment battle plan of a year ago. For any responsible investment group with a 10-year horizon or longer, one should move steadily to adopt a major holding of resource-related investments. For my Foundation (i.e., personally as opposed to institutionally where, reasonably enough, we cannot impose 10-year plus horizons on our clients) I had adopted 30% in resources as my eventual target and was slowly averaging in, nervous of near-term substantial price declines, but even more nervous of completely missing my own point. In my Foundation, I have currently reached about the two-thirds point of 20%.


別の投資方針としてグランサムは、資源価格高騰の影響を受けにくかったり、利益率が十分に大きな「質の高い」銘柄を勧めています。

2012年8月10日金曜日

かっぱの川流れ(チャーリー・マンガー)

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バークシャー・ハサウェイの子会社Wesco Financialの会長はチャーリー・マンガーが務めています。そのチャーリーが書く「株主のみなさんへ」は全体的に事務的な雰囲気の記述が多く、ウォーレン・バフェットとは趣きが違うと個人的には感じていました。古い年度のものも含まれたファイルがScribdにアップロードされているのを最近になって知り、「昔はどうだろうか」と期待して読み始めたところ、それっぽい文章が書かれていました。

今回は、Wescoの1989年度「株主のみなさんへ」からご紹介します。ウォーレンが常々説いている内容と基本的に同じですが、それは彼らが「一卵性双生児」である証拠なのだと思います。(日本語は拙訳)

当社の方針としては、奥義をきわめようとするよりも、わかりきったことを忘れないようにすることで利益をあげるやりかたに従っていきたいと考えています。賢く立ち回ろうとするのではなく、ばかげたことをしないよう一貫して気をつけることで、我々のような長期でみたときに優位な者がどれだけ多くを得てきたでしょうか。これは注目に値することです。「かっぱの川流れ」ということわざには知恵がこめられているに違いありませんね。我々のやりかたでは、退屈だったり、行動を制限するがゆえに不利になる時期がまちがいなくやってきます。しかし、これまでのところは平均的にみればまずまずうまくやってきましたし、これから長期にわたってもおそらくうまくいくでしょう。

Wesco continues to try more to profit from always remembering the obvious than from grasping the esoteric. It is remarkable how much long-term advantage people like us have gotten by trying to be consistently not stupid, instead of trying to be very intelligent. There must be some wisdom in the folk saying: "It's the strong swimmers who drown". Our approach, while it has worked fairly well on average in the past and will probably work fairly well over the long-term future, is bound to encounter periods of dullness and disadvantage as it limits action.


このところ、決算発表の数字が少しでも悪いと株価が暴落する傾向が見られます。売り買いどちらの立場にせよ、賢い立ち回りなのかどうか私にはよくわからないものばかりです。ただし、時には自分でも何かしら判断できるものがあり、そういうときには株式を少しずつ買うようにしています。

2012年8月8日水曜日

脊椎動物はひっくり返った昆虫なのだ(動物学者サンティレール)

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少し前にとりあげた本『ビジュアル版 科学の世界』で(過去記事)、逆に考えることで成果を挙げた科学者が二人登場していたのでご紹介します。

有機化学すなわち炭素の科学に真の突破口が切り開かれたのは、1960年代、ハーヴァード大学の教授でノーベル賞も受賞したイライアス・J・コーリーが、「逆合成解析」という手法を考案したときのことだ。この技術は、化学者が大きくて複雑な分子を小さくて手に入りやすい-そして通常はずっと安価な-出発物質から作り出すのに使える、もっとも強力なツールの1つとなった。
この手法は、合成のターゲットとする分子をジグソーパズルのように考えることでうまくいく。ターゲットから逆に考えることによって、一緒に反応させると触媒や反応物の手引きによって組み合わさり、パズルが完成するような構成要素を探し出せるのだ。(p.152)


フランスの動物学者ジョフロワ・サンティレールは、すべての動物が同じ基本的な体制をもつと考えていた。だが昆虫の場合、主要な神経索は内臓の腹側にあるのに対し、脊椎動物の場合、脊椎は背中側にある。それでもサンティレールはひるまず、このことから脊椎動物は基本的にひっくり返った昆虫なのだと推論した! そんなはずはないように思えるが、この考えも最近の発見によって裏づけられている。(中略)脊椎動物は昆虫をひっくり返したものだというサンティレールの奇抜な推測も、正しいことが立証されている。無脊椎動物ではどちら側が腹になるかをきめているホメオティック遺伝子が、脊椎動物ではどちら側が背になるかを決めているのだ。(p.222)


こうして過去をふりかえってみると、逆に考えることで成功した例はいろいろ見つかるものですね。

2012年8月7日火曜日

投資の世界で生き残る公式(ハワード・マークス)

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ハワード・マークス氏(Howard Marks)というマネー・マネージャーのことを最近知りました。彼が立ち上げて会長を務めているOaktree Capital Managementは、預かり資産5兆円超のオルタナティブ・ファンドです。顧客向けに書いたメモが一般にも公開されており、これが話題となっていたのに目がとまった次第です。

ウォーレン・バフェットも彼の文章を読んでいるようですが、実はそれだけの関係ではありませんでした。本ブログでよくとりあげる『Poor Charlie's Almanack』のWebサイトに同氏の著作『The Most Important Thing』が並んでいたのです。

今回ご紹介するのは、少し前のメモWhat Can We Do For You?からの引用です。なお、Oaktreeの主な投資先はDistressed Debt(「債務不履行債券」あたりが近い訳)などの債券ですが、彼の見識は株式投資にもそのまま通じるものと感じています。(日本語は拙訳)

不確実なことを試みるときには、その先になにがあるのかわからなくても、わからないのにわかっていると考えるのと比べれば、全然悪いことではありません。知らない道を使ってドライブに行くときのことを考えてみてください。地図を調べて、GPSの指示に従い、コースどおりか目印を確かめたり、方角を確かめたりしながら慎重に進むでしょう。一方、よく知っている道であれば、そういう作業は省略するものです。しかし、そう思っていたのに実はよくわかっていない道だったとしたら、どうでしょうか。目的地に着くのはもっと難しくなるでしょう。

In any endeavor involving uncertainty, not knowing what lies ahead isn't nearly as bad as thinking you know if you don't. If you're setting out for a drive and recognize that you don't know the way, you're likely to check a map, follow your GPS, ask directions and drive slowly, watching for indications you've gone off course. But if you're sure you know the way, you're more likely to skip these things, and if it turns out you didn't know, that'll make it much harder to reach your destination.


次は、マーク・トウェインの一文を借りてきています。

未来のことがわかると考える人と、わからないと考える人では、かなり違った行動をとる可能性があります。ここで大切なのは、正しいほうの道を選んで進むことです。マーク・トウェインもこう言っています。「わからないのはたいしたことじゃない。絶対わかっていると思っているのに実はわかっていないほうがやっかいだ」。投資の世界には生き残る公式というものがありますが、これはそこに含まれる要素の一つなのです。

The difference in behavior between those who think they can know the future and those who don't is potentially enormous. It's essential to be on the right side of this choice because, as Mark Twain said, "It ain't what you don't know that gets you into trouble. It's what you know for sure that just ain't so." That's an essential component of the formula for investment survival.


最後に、ハワード・マークスが顧客にむけて「できませんよ」と宣言している箇所です。

世界経済がどうなるのか、わかりません。
市場はいつどれだけ上がるのか下がるのか、わかりません。
どの市場あるいは市場の一部がいちばん成績をあげるのか、わかりません。
市場でどの証券が成績上位になるのか、わかりません。

we can't know what the economics of the world will do,
we can't know whether markets will go up or down, and by how much and when,
we can't know which market or sub-market will do best, and
we can't know which securities in a given market will be the top performers.


はっきりとものが言える、気持ちのいい5兆円のボスですね。

2012年8月5日日曜日

諸戸家遺訓(日本有数の大地主 諸戸清六)

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以前とりあげた『商家の家訓』から再び引用します(過去記事)。今回は明治維新前後に活躍した諸戸清六氏による家訓です。同氏は父親の残した莫大な借金2000両をかかえての出発でした。「時は金なり」を信条として「人が10時間働けば自分は15時間、人が3杯飯を食べれば自分は1杯で辛抱する、人が不用だと捨てたものは自分が利用する」という生きかたで財を成しました。明治21年(当時42歳)のころには、東京の恵比寿から渋谷、駒場に至る住宅地30万坪を買い捲り、一時は渋谷から世田谷まで、他人の地所を踏まずに行けたとあります。

第1条「時は金なり」
時は金なりである。時間は有効に使うべきである、決して忘れてはならない。

第3条「銭のない顔」
いつもお金がないという顔をすべきである。お金があるという顔をしていると、余分な出費が多くなる。仮に、お金がないという顔をしていて人様に笑われることがあっても、後々成功した暁には、流石だと褒められるものである。

第4条「質素」
派手な暮らしぶりはよくない。できるだけ質素な生活をすべきである。着物は垢が付きにくく、すぐに洗える木綿の服で十分であるので、無駄なことはするな。

第5条「人を選ぶ」
自分の財産を減らさないようにするには、平素の付き合いをする人は誰でもよいというものではない。質素倹約をして地道に生活をしている人がよいので、そのような人を交際相手に選ぶべきである。

第9条「知恵を得る」
いろんな人に会って、その人々から多くのことを教えてもらうように心掛けるべきである。

第10条「馬鹿になる」
賢い人は、いつでも馬鹿になれる人である。このような人になれば、頭を下げて色々な人に質問もでき、商売もできるのである。気位が高いだけの人間になってはいけない。

第13条「2年先を見よ」
2年先の予測、見極めができるようにすべきである。また、たまたま儲かったお金は労働の対価でないので、他人のお金を預かったのと同じことであると、心得るべきである。(p.271)


質素倹約を旨としていますが、かといって商機は逃さなかったようです。商用で汽車に乗るときは、必ず1等か2等の切符を購入し、3等には乗らなかったとあります。当人いわく「1等や2等の乗客は学識があり、実力のある人が乗り合わせている。このような人と乗り合わせるのは、商機が多く、自分のためになる。いたずらに少しのお金をケチって、チャンスを失うことは大きな利益を失うことになり、大きな損失である」としています。

2012年8月3日金曜日

シルバーの需要動向(2011年)

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最近は値動きが小さいかあまり注目されていないシルバー(銀)ですが、その動向は適宜追いかけるようにしています。シルバーの著名なアナリストであるテッド・バトラーによると、シルバーの相場はごく少数のJPモルガン・チェースのような大銀行によって操作されているとされています。そのため短期的な価格を推し量りたければ、それらの動向を考慮する必要があるかもしれません。一方、中長期の値動きとなると、他の商品と同様に需給の力関係がきいてくるようです。今回は、その需要動向に関する話題です。

シルバーの生産者等による業界団体The Silver Instituteが、2011年度の概況を最近公開しました(World Silver Survey 2012 A Summary)。それによれば、シルバーの加工用需要(つまり純投資用を除いたもの)は前年比で1.5%減になったとのことです。


今回同書から引用するのは、比率の最も大きい産業向け需要に関する一節です。(日本語は拙訳)

産業用途における需要は、通年で2.7%減の48,650万オンスとなった。第4四半期になって想定以上に需要が後退したため、第1四半期での増加分は帳消しになった。2011年末にみられた需要後退の原因は、主として最終ユーザーである需要家が欧州財政危機による[ユーロ]離脱を懸念して発注を控えたことによるものだった。また一部の用途では価格高騰に伴う節減や他材料による代替もいくぶんみられ、需要減の一因となった。セクター別に見ると、太陽光関連の減少がもっとも目を引いた。ただし潜在的な需要が減少したことよりも、在庫過剰の問題が大きかった。アメリカにおける昨年の需要減の大半がこれに起因するものだったが、絶対額ベースでは日本での減少が大きかった。とくに第4四半期にはエンドユーザーからの受注減がひどかった。絶対額の変動が3番めに大きかったのは中国だが、これは5%にのぼる増加であり、過去最高を記録した。

A largely unexpected slump in industrial demand during the fourth quarter outweighed strong first half gains, generating a full year loss of 2.7% to 486.5 Moz (15,132 t). The weakness seen late in 2011 was chiefly the result of industrial end-users slashing orders due to fears over the fallout from the Eurozone’s sovereign debt crisis. There was also a degree of pressure on offtake from price-led thrifting and substitution in some areas of industrial use. On a sectoral basis, the main feature last year was a fall in photovoltaic demand, which resulted from inventory mismatches, rather than a drop in underlying demand. That also explains much of US losses last year, although its absolute fall was just eclipsed by Japan, which suffered more from the fourth quarter drop in end-user orders. The third largest absolute change related to China but in this instance it was a rise of nearly 5% to a new record.

蛇足になりますが、個人的な見解としては、エネルギー消費が増大しつつも二酸化炭素の排出を抑えることが強く要求される時代においては、シルバーの有用性が下がることはないと考えています。その上で価格がどこまで許容できるのかは、使用用途によって異なってくると捉えています。

2012年8月1日水曜日

そもそも口は、きわめて個人的な場所である(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知入門、規模の経済の第2回目です。今回は心理学的な要因も関わっていて、チャーリーらしいモノの見方となっています。(日本語は拙訳)

また規模の経済は、情報面での優位にもつながります。どこか見知らぬ街へ行ったときにチューインガムを買おうとしたところ、リグリー[日本で言えばロッテに相当]の横にグロッツというブランドが並んでいたとします。リグリーの製品が満足に値することは知っていますが、グロッツのことは全然知りません。さて、リグリーが40セントでグロッツが30セントだとしたら、わずかな金額を節約するために知らないほうを買って口の中に入れるでしょうか。そもそも口というのは、きわめて個人的な場所ときているものです。

ですから、実のところリグリーは単に有名だからというだけで規模の経済を有しているのです。これは「情報優位」と呼ぶべきかもしれません。

他の規模の経済としては心理学的なものがあります。心理学者が「社会的証明」と呼ぶもので、あらゆる人は無意識に、あるいは意図してやることもありますが、他人がすることや認めることに影響されるものです。ですから他人が買ったもの、すなわちそれはよいものだと考えるわけです。ひとは外れ者になりたくないですからね。

重ねていいますが、これは潜在意識下で働く場合とそうでない場合があります。ときには意識しながら合理的に考えるのです。「ええと、自分にはよくわからないけれど、あの人たちのほうが知っているから、そっちに従うことにしよう」

まさに心理学からきているこの社会的証明とは、たとえば容易には構築できないような大規模の流通網を持つものに、莫大な優位をもたらしてくれる現象です。世界中のほとんどどこでも買えるということは、コカ・コーラが有利な理由の一つに挙げられるでしょう。

いま手にしているジュース、これが世界中どこでも手に入れられるようにするには、どうすればよいか正確に答えられるでしょうか。大企業は世界規模の流通網を培うのに時間をかけてきました。これは莫大な優位を与えてくれるものです。そうです、そのような大きな優位をいったん手にした人を他の者が追い落とすのは、とても難しいのです。

And your advantage of scale can be an informational advantage. If I go to some remote place, I may see Wrigley chewing gum alongside Glotz's chewing gum. Well, I know that Wrigley is a satisfactory product wheres I don't know anything about Glotz's. So if one is forty cents and the other is thirty cents, am I going to to take something I don't know and put it in my mouth - which is a pretty personal place, after all - for a lousy dime?

So, in effect, Wrigley, simply by being so well known, has advantages of scale - what you might call an informational advantage.

Another advantage of scale comes from psychology. The psychologist use the term "social proof." We are all influenced - subconsciously and, to some extent, consciously - by what we see others do and approve. Therefore, if everybody's buying something, we think it's better. We don't like to be the one guy who's out of step.

Again, some of this is at a subconscious level, and some of it isn't. Sometimes, we consciously and rationally think, "Gee, I don't know much about this. They know more than I do. Therefore, why shouldn't I follow them?"

The social proof phenomenon, which comes right out of psychology, gives huge advantages to scale - for example, with very wide distribution, which of course is hard to get. One advantage of Coca-Cola is that it's available almost everywhere in the world.

Well, suppose you have a little soft drink. Exactly how do you make it available all over the Earth? The worldwide distribution setup - which is slowly won by a big enterprise - gets to be a huge advantage.... And if you think about it, once you get enough advantages of that type, it can become very hard for anybody to dislodge you.

2012年7月30日月曜日

誤判断の心理学(実例)旅客機からの脱出試験(チャーリー・マンガー)

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このシリーズでは主に、チャーリー・マンガーが挙げている25種類の心理学的傾向をとりあげています。今回は順序が入れ替わりますが、チャーリーがすべての傾向を説明した後に触れている実例の部分をご紹介します。本ブログで未紹介のものも含まれていますが、いずれも文意から想像がつくものです。(日本語は拙訳)

二番目の自問自答に進みましょう。これまで私がとりあげてきたシステムを使って、心理学的傾向が複合的にあらわれている実例を挙げてもらえますか。ミルグラムがやった心理学の実験のようなものではなくて、ちゃんと因果関係がわかるように互いに影響したやつですよ。わかりました、私が気に入っている例をご紹介しましょう。マクドネル・ダグラス社[現ボーイング社]が新型旅客機の脱出試験を行ったときの話です。新型機を販売する前には、政府が決めた脱出試験に合格することが義務付けられています。これは、所定の短い時間のうちに定員の乗客が脱出することを要求するものです。政府は現実に即した形で試験を実施するよう定めているので、試験に参加する乗客をたとえば20歳の運動選手だけで構成するというのは認められません。そこでマクドネル・ダグラスは、脱出要員として年の入った人も少なからず手配し、薄暗い格納庫で試験を実施するよう計画しました。格納庫のコンクリートの床から乗客席のある高さまではおよそ6メートル、ごくふつうの軟らかさのゴム製シューターを使って脱出するという手はずです。最初の試験が実施されたのは午前中でしたが、20名の重傷者がでました。脱出に時間がかかって制限時間を超過し、試験結果は不合格でした。そこでマクドネル・ダグラスが講じた手は何かというと、その日の午後に同じ試験を繰り返したのです。結果はまたしても不合格。今度も重傷者20名以上、そのうち1名は麻痺が残るほどでした。

My second question is: Can you supply a real-world model, instead of a Milgram-type controlled psychology experiment, that uses your system to illustrate multiple psychological tendencies interacting in a plausible diagnosable way? The answer is yes. One of my favorite cases involves the McDonnell Douglass airliner evacuation test. Before a new airliner can be sold, the government requires that it pass an evacuation test, during which a full load of passengers must get out in some short period of time. The government directs that the test be realistic. So you can't pass by evacuating only twenty-year-old athletes. So McDonnell Douglas scheduled such a test in a darkened hangar using a lot of old people as evacuees. The passenger cabin was, say, twenty feet above the concrete floor of the hangar and was to be evacuated through moderately flimsy rubber chutes. The first test was make in the morning. There were about twenty very serious injuries, and the evacuation took so long it flunked the time test. So what did McDonnell Douglas next do? It repeated the test in the afternoon, and this time there was another failure, with about twenty more serious injuries, including one case of permanent paralysis.


このお粗末な結末に影響を及ぼしたのはどのような心理学的傾向だったのでしょうか。さきに私が挙げてきた一連の傾向をチェックリストとして使って説明してみましょう。試験に合格しないと旅客機を販売できないため、マクドネル・ダグラス社は「報酬に過剰反応する傾向」に従って作業を急ぎます。次に後押しするのが「疑いを持たない傾向」で、ある決定を下した後は、惰性的にそのまま物事を進めようとしています。一方、政府が現実的な試験を実施するように要請したことで、マクドネル・ダグラスは「権威によって、誤って影響される傾向」によって過剰に反応し、危険なこと明白な試験方法を採用しました。そして実行方針が決まったことで「終始一貫しようとする傾向」が働き、常識はずれともいえる計画のまま進むこととなったのです。さて試験の当日、ご年輩の実験参加者全員が暗い格納庫へ入場してきた様子をみたマクドネル・ダグラスの従業員。見上げた先には乗客席、一方の床はコンクリート製。これは怪しいのではないかと感じたことでしょう。ところが他の従業員や監督からは反対の声があがりませんでした。ここで「社会的証明の傾向」が登場し、疑念の上に覆いかぶさったのです。さらなる「権威によって、誤って影響される傾向」によって導かれ、試験はそのまま実行されましたが、失敗におわっただけでなく、重傷者を出す結果となりました。しかしマクドネル・ダグラスは午前中の失敗で得られた強力な反証を無視しました。確証バイアスとともに「剥奪されることに過剰反応する傾向」が強く働いたことで、当初の計画を固守する道を選んだのです。まるで、大損したギャンブラーが躍起になって最後の大勝負にでるようなものです。予定通りに試験に合格しないと、マクドネル・ダグラスは大きな損失をかかえる恐れがあったからですね。別の心理学的観点からもっと説明できるかもしれませんが、私の申し上げたシステムが役に立つことをチェックリスト的に使って説明するという意味では、これで十分にお話しできたかと思います。

What psychological tendencies contributed to this terrible result? Well, using my tendency list as a checklist, I come up with the following explanation. Reward-Superresponse Tendency drove McDonnell Douglas to act fast. It couldn't sell its airliner until it passed the test. Also pushing the company was Doubt-Avoidance Tendency with its natural drive to arrive at a decision and run with it. The government's direction that the test be realistic drove Authority-Misinfluence Tendency into the mischief of causing McDonnell Douglas to overreact by using what was obviously too dangerous a test method. By now the course of action had been decided, so Inconsistency-Avoidance Tendency helped preserve the near-idiotic plan. When all the old people got to the dark hangar, with its high airline cabin and concrete floor, the situation must have made McDonnell Douglas employees very queasy, but they saw other employees and supervisors not objecting. Social-Proof Tendency, therefore, swamped the queasiness. And this allowed continued action as planned, a continuation that was aided by more Authority-Misinfluence Tendency. Then came the disaster of the morning test with its failure, plus serious injuries. McDonnell Douglas ignored the strong disconfirming evidence from the failure of the first test because confirmation bias, aided by the triggering of strong Deprival-Superreaction Tendency, favored maintaining the original plan. McDonnell Douglas' Deprival-Superreaction Tendency was now like that which causes a gambler, bent on getting even after a huge loss, to make his final big bet. After all, McDonnell Douglas was going to lose a lot if it didn't pass its test as scheduled. More psychology-based explanation can probably be made, but the foregoing discussion is complete enough to demonstrate the utility of my system when used in a checklist mode.

2012年7月29日日曜日

必ず朝食の前にやりたいこと(動物行動学者ローレンツ)

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自分が誤った考えをしているときにどうすれば気がつけるのか、本ブログで何度かとりあげています。いま読んでいる本『ビジュアル版 科学の世界』で、それと少し関連する文章が目にとまったのでご紹介します。

多くの科学者は、うぬぼれるどころか、科学は仮説の反証によってのみ進歩すると考えている。動物行動学の祖、コンラート・ローレンツは、自分の仮説を必ず朝食の前に1つは反証してみたいと言っていた。それは、とくに動物行動学の大御所の言葉としてはおかしな話だが、科学者が、何よりもみずからの誤りを認めることで仲間に一目置かれることも確かなのだ。

大学の学部生だった頃の私に人格形成上大きな影響を及ぼしたのは、オックスフォード大学動物学科の高名な老教授が、自分の惚れ込んでいた仮説について、ある客員講師におおっぴらに誤りを立証されたときにとった対応である。老教授は大教室の教壇へ大股で歩み寄り、講師と温かい握手を交わし、高揚した口調で朗々と述べた。「君に感謝したい。私はこれまで15年間、間違っていた」聴衆は、手のひらが赤くなるほど拍手をした。(p.8)

この文はまえがきの一部ですが、『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンスが寄稿したものです。

2012年7月27日金曜日

(問題)逆向きに考えると簡単に解けます

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Yahoo Japanで紹介されていた頭の体操クイズ、よくあるマッチ棒のならびかえ問題です。はじめは直感的に解いてみようとしたものの、どうもうまくいきません。そこで、やっかいな問題を解く秘訣「逆向きに考える」をやってみました。自分で感心してもしょうがないのですが、あっさり解けました。引用元のサイトでは回答も載っていますので、ぜひ逆から解いてみてはいかがでしょうか。

【頭の体操クイズ】マッチ棒を2本動かして、5つの正方形を4つにして下さい


ミッションはいたってシンプル。上の画像に写し出されたマッチ棒16本のうち、2本だけを動かして、5つの正方形を4つの正方形にしてほしい。

ここで守って頂きたいルールは、4つの正方形は「すべて同じ大きさ」でなければならないということ。ひとつの正方形だけ大きかったり、小さかったりしてはダメ。4つの正方形すべてが、同じ大きさでなければならない。またこの他にも、次のルールを守って頂きたい。

1.マッチ棒を重ねてはダメ
2.マッチ棒はすべて正方形の一辺として使わなければならない

「逆向きに考える」ことについては、本ブログでたびたびとりあげています(過去記事の例: チャーリー・マンガーの名言「逆だ、いつでも逆からやるんだ」ダーウィンの「逆ひねり」)。

2012年7月25日水曜日

(映像)チェリーコーク好きのウォーレン・バフェット..

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Bloombergのサイトに、ウォーレン・バフェットがチェリー味の各種コーラを飲み比べする動画が掲載されていました。愛飲しているコカ・コーラ社のチェリーコークを当てよという趣向です。

Boomberg: Will This Video Break Hearts of Cherry Coke Fans?



ウォーレンは確率や心理学に強いはずです。それに留意しながら映像を見ると、二重にも三重にも楽しめるような気がします。(ただの考えすぎかもしれません)

2012年7月24日火曜日

アインシュタインの警句を守る(チャーリー・マンガー)

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以前の投稿で、チャーリー・マンガーの投資における意思決定プロセスを、『Poor Charlie's Almanack』の編者ピーター・カウフマンが書いた文章をご紹介しました(過去記事)。今回の文章も同氏によるものですが、もう少し一般的な表現でチャーリーのやりかたを描いています。(日本語は拙訳)

自分の置かれた状況がどうであれ、チャーリーはどう進めたらいいかを考えはじめる前に、何をすべきでないかのほうに焦点をあてることが多い。彼のお気に入りの言い回しに、こういうのがある。「どこで死ぬかさえわかっていれば、そこには行かないようにしますよ」。日常生活と同様で、ビジネスにおいても勝ち目の低い次の一手はさっさと切り捨てる。このやりかたがチャーリーに大きな優位を与えている。時間を節約し、より建設的な分野に集中できるからだ。複雑な状況にでくわすと、彼は本質的で感情の入らない基本原理まで還元しようと努める。しかしながら、合理性や単純さを追求するうちに、彼自身のいう「物理学羨望症」にかかってしまわないように注意してきた。経済学のような格段に複雑なシステムを、ニュートンによるいくつかの法則のようなもので説明しようとするのは人の性だが、彼はそうせずに、アルバート・アインシュタインが残した警句のほうを忠実に守ってきたのだ。「科学法則はできるだけ簡潔にすべきだが、必要以上にやってはならない」。チャーリー自身の発言も挙げておこう。「自分がまさにしたことを、害をなさずして益をなすだろうと考えて満足にひたるのは、わたしには賛成できませんね。おわかりですか、高度に複雑なシステムの中では、あらゆるものがお互いに影響を及ぼしあっているのですよ」

Often, as in this case, Charlie generally focuses first on what to avoid ? that is, on what NOT to do ? before he considers the affirmative steps he will take in a given situation. “All I want to know is where I'm going to die, so I'll never go there” is one of his favorite quips. In business as in life, Charlie gains enormous advantage by summarily eliminating the unpromising portions of “the chess board,” freeing his time and attention for the more productive regions. Charlie strives to reduce complex situations to their most basic, unemotional fundamentals. Yet, within this pursuit of rationality and simplicity, he is careful to avoid what he calls “physics envy,” the common human craving to reduce enormously complex systems (such as those in economics) to one-size-fits-all Newtonian formulas. Instead, he faithfully honors Albert Einstein's admonition, “A scientific theory should be as simple as possible, but no simpler.” Or in his own word, “What I'm against is being very confident and feeling that you know, for sure, that your particular action will do more good than harm. You're dealing with highly complex systems wherein everything is interacting with everything else.”


ウォーレン・バフェットの伝説的な文句で"Rule No.1: Never lose money."というのがありますが、逆から考えるチャーリーのやりかたが強く影響したのかもしれませんね。

2012年7月21日土曜日

誤判断の心理学(12)盗んだのはわたしです(チャーリー・マンガー)

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今回ご紹介するのは、自分を過信する傾向についてです。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その12) 自尊心過剰の傾向
Twelve: Excessive Self-Regard Tendency

人が行き過ぎた自尊心を持つ様子はよくみられるものです。ほとんどの場合、自分を高く評価しすぎています。たとえばスウェーデンでは、車を運転する人の90%が自分の技量を平均以上だと自任しています。この手の見当違いは、自分に関係する人や物にもあてはまります。妻や夫のことをかいかぶったり、自分の子供となると客観的にみるよりも高く評価してしまいます。また、ちょっとしたものでも過大評価しがちです。いくらなら払うかと質問されると、まだ所有していないものよりも、すでに自分のものとなったほうに高い値段をつけるのです。このような自己の所有物を過大評価する現象に対して、心理学では「授かり効果」と命名しています。そうです、自分の下すあらゆる決断は、決断する前とくらべると突如としてより良いものへ変わるわけです。

We all commonly observe the excessive self-regard of man. He mostly misappraises himself on the high side, like the ninety percent of Swedish drivers that judge themselves to be above average. Such misappraisals also apply to a person's major “possessions.” One spouse usually overappraises the other spouse. And a man's children are likewise appraised higher by him than they are likely to be in a more objective view. Even man's minor possessions tend to be overappraised. Once owned, they suddenly become worth more to him than he would pay if they were offered for sale to him and he didn't already own them. There is a name in psychology for this overappraise-your-own-possessions phenomenon: the “endowment effect.” And all man's decisions are suddenly regarded by him as better than would have been the case just before he made them.


トルストイの書いた言い回しでよく知られたものに、過剰な自尊心が持つ力に光をあてたものがあります。「極悪非道の犯罪者は、自分はそれほど悪者ではないと考えている」。それゆえ、罪になるようなことはしていないとか、これまでの人生で受けた逆風や不利を考えれば情状を考慮してもらえる、と信じるに至るのです。

この「トルストイ効果」の後ろの部分は非常に重要です。というのは、お粗末な成果をもっと改善できるのに、筋の通らない言い訳ばかりしてやりすごそうとする人が大半だからです。そういうおろかな生き方をつづけて駄目になってしまわないように、個人に限らず、組織においても対策を講じることがとても重要です。まず個人としては、純然たる2つの事実に立ち向かうべきです。第一に、もっとよい成果をだせるのに手を打たないでいるのは悪しき性質であるということ。この症状は進みやすく、言い逃れをするほど更なる害をもたらします。もうひとつは、スポーツチームやGEのように成果が要求される場では、やるべきことをしないで弁解ばかりしていると、戦力外への道をまっしぐらということ。次に、組織として取り組む方策ですが、第一に、公正かつ実績を重視した上で成果を求める文化をはぐくむこと。加えて、士気を高めるやりかたで人を扱うこと。第二に、始末におえない者をクビにすること。もちろん、自分の子供のように縁を切れない場合には、できるかぎりの力をつくして子供が改心するよう努めねばならないでしょう。50年前に親からうけた教えをまだ覚えていると語ってくれた人がいます。これこそ、効きめのある子供への教育の好例ですね。子供だった頃のできごとを語ってくれたのは、USCの音楽学校の学部長をつとめたことのある人物です。彼は雇い主の在庫からチョコを拝借したところを父親にみつかってしまいました。あとで元に戻すつもりだったと弁解したところ、父親からこう言われたのです。「いいか、お前。そんなことをするぐらいなら、ほしいだけ全部盗ってしまって『盗んだのはわたしです』とふれまわったほうがいいぞ」

過剰な自尊心のせいでバカなことをしでかさないためにはどうしたらよいか。何か自分のものについて考えるときは、より客観的に判断するよう自分を律すること、これが一番です。自分自身だったり、家族や友人のことだったり、自分の財産だったり、過去にしたことや将来やることの重要性といったものを考えるときです。そう簡単にはできませんし、完璧にやれるものでもありません。しかし、心理学が指摘するようなありのままの心に任せるよりは、このやりかたのほうがうまくいきます。

There is a famous passage somewhere in Tolstoy that illuminates the power of Excessive Self-Regard Tendency. According to Tolstoy, the worst criminals don't appraise themselves as all that bad. They come to believe either (1) that they didn't commit their crimes or (2) that, considering the pressures and disadvantages of their lives, it is understandable and forgivable that they behaved as they did and became what they became.

The second half of the “Tolstoy effect”, where the man makes excuses for his fixable poor performance, instead of providing the fix, is enormously important. Because a majority of mankind will try to get along by making way too many unreasonable excuses for fixable poor performance, it is very important to have personal and institutional antidotes limiting the ravages of such folly. On the personal level a man should try to face the two simple facts: (1) fixable but unfixed bad performance is bad character and tends to create more of itself, causing more damage to the excuse giver with each tolerated instance, and (2) in demanding places, like athletic teams and General Electric, you are almost sure to be discarded in due course if you keep giving excuses instead of behaving as you should. The main institutional antidotes to this part of the “Tolstoy effect” are (1) a fair, meritocratic, demanding culture plus personnel handling methods that build up morale and (2) severance of the worst offenders. Of course, when you can't sever, as in the case of your own child, you must try to fix the child as best you can. I once heard of a child-teaching method so effective that the child remembered the learning experience over fifty years later. The child later became Dean of the USC School of Music and then related to me what his father said when he saw his child taking candy from the stock of his employer with the excuse that he intended to replace it later. The father said, “Son, it would be better for you to simply take all you want and call yourself a thief every time you do it.”

The best antidote to folly from an excess of self-regard is to force yourself to be more objective when you are thinking about yourself, your family and friends, your property, and the value of your past and future activity. This isn't easy to do well and won't work perfectly, but it will work much better than simply letting psychological nature take its normal course.

2012年7月20日金曜日

B/Sを読む(5310東洋炭素、2012/5月期)

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前回の投稿ではB/Sの重要性にふれました。今回は、最近気になったB/Sの具体的な例をとりあげて分析します。対象企業は東洋炭素株式会社(5310)です。

(1) 東洋炭素について
社名が示すとおり、当社では炭素を素材とする製品を製造しています。当社の製品は電気伝導性や熱伝導性、機械的特性がすぐれていることから、たとえば半導体製造装置やシリコン製造炉で使われる部材として産業用に使われています。製品の品質が物性に依存するため、製造工程やプロセス上のノウハウが重要で、当社の属する業界は国際競争力を失わずに比較的高い利益率を守っています。同業他社の東海カーボンなども同水準の利益をあげています。

当社は香川県を発祥とする独立系の企業で、2006年に株式公開されました。創業者一族が株式の半数近くを保有しており、取締役会会長は創業家の近藤純子氏がつとめています。

個人的には、当社のような利益率が高い材料系のメーカーは注視しています。当社を知ったのは昨年の末ごろで、あまりなじんでいないため、少しずつ情報を蓄えているところです。

(2) 経営成績
ここでは直近2期の数字を挙げました。

(単位:千円)前々期(2011年5月期)前期(2012年5月期)
売上高  37,557,80138,714,106
営業利益 5,868,2296,055,421
純利益 3,699,5713,466,829

減益決算となりましたが、収益性は変わっていません。売上高当期純利益率 は9.0%と、まずまずの水準を保っています。

(3) 決算短信を読む
前期の決算短信をひととおり読みすすめたところ、次の2点がひっかかりました。ひとつは会計方針の変更で、もうひとつは製品在庫の増加傾向です。

・会計方針の変更
次期の見通し(PDFファイル4ページ目)で、次のような記述がありました。

当社グループの有形固定資産の減価償却方法は、国内では主として定率法で行っておりましたが、次期より定額法へ変更します。この変更により減価償却費は約23億円減少する見込みです。

ご存知のとおり、定率法は直近の費用負担が大きく、次第に小さくなっていく方式です。そのため、定額法に変更することは、費用負担を将来へ繰り延べることになります。

今期の業績として営業利益55億円(前期比9.2%減)を見込んでいますので(PDFファイル1ページ目)、この変更がなければ今期の予想営業利益は30億円強になります。これは前期の60億円と比べると半減に近い数字です。

競合動向が変化したなどの合理的な理由があれば、この変更はすんなり納得できるものですが、手持ちの情報では判断しきれません。不明なものは厳しくみるとすれば、この件は将来の帳簿上の利益を先食いしたものと捉えられます。

・製品在庫の増加
連結貸借対照表(PDFファイル12ページ目)によれば、製品在庫の期末評価額は以下のようになっています。

(単位:千円)前々期(2011年5月期)前期(2012年5月期)
商品及び製品  4,761,6187,315,218

絶対額ベースで25億円、前年比では50%以上増加しており、よい傾向ではありません。大きな受注が控えているのであればこれも納得できますが、受注残は漸減傾向なので(PDFファイル27ページ目)、その可能性は低いと思われます。これは、需要予測が大きくはずれたか、あるいは決算数字をつくったものと想像してしまいます。製造業の会計では、当期に発生した固定費でも製品在庫として棚卸資産の勘定項目にある間は費用として認識されません。固定費が重くて困った年度にこのやりかたをとれば、つまり作りすぎをしておけば、費用を先送りすることができます。翌期の需要を平準化する目的で先行生産するのであれば理にかなった行動といえますが、それでは意図を判断する一材料として過去の経営状況をふりかえってみましょう。

以下の図は当社の棚卸資産の推移です。適正水準を判断するために、あわせて売上高の推移も載せています。これをみると、ここ数年間で棚卸資産が相対的に増加しているのがわかります。また製品在庫については、前期の伸びが大きいこともわかります。このことから、前期の製品在庫ひいては棚卸資産全体が適正水準から離れていると考えられます。つまり、数年前から資産の過剰な拡大基調が続いていたということです。







ただし、当社としても過剰在庫リスクは認識しており、有価証券報告書で喚起しています。前々期分(2011/5月期)の有価証券報告書では次のように記載されています(PDFファイル20ページ目)。

当企業グループでは、等方性黒鉛材料の需要予測を毎月行い、生産計画を作成することで、過剰在庫を持たないように努めておりますが、予想以上に等方性黒鉛材料の需要が落ち込んだ場合には、製品自体に系時変化はないものの一時的に過剰在庫となる可能性があります。

(4)B/Sを読む
最後になりましたが、貸借対照表を読んでみます。「読む」というからには以前のものと比較します。前期(2012年5月期)(PDFファイル12ページ目)と2009年5月期(PDFファイル46ページ目)をくらべてみてください。大きな違いに気づかれると思います。この数年間で資産をふくらませる方向で経営してきたのがみてとれます。流動資産と固定資産のどちらも増加しているのですが、2つの点が気になります。ひとつは、上に挙げたように棚卸資産の割合が大きくなっていること、そしてもうひとつは、現預金残高が縮小し、借入金が増えていることです。このツケを払う日がくるのかこないのか。前回前々回の投稿を読み返すと、当社にとって興味深い時期はまさしくこれからと感じます。

ここでさらなる観点を加えておきます。上でとりあげた2009年5月期の決算が終わってまもなく、同年8月に新社長が就任しています(人事異動のお知らせ)。近藤尚孝氏という方で、創業者である故近藤照久氏の娘婿であり、会長近藤純子氏からみると義弟にあたる人物です。その社長が、今年の5月末日付けで社長及び取締役を辞任しました(人事異動のお知らせ)。健康上の理由ということです。

2012年7月18日水曜日

P/Lは見るもの、B/Sは読むもの(スター精密社長佐藤肇)

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前回とりあげた売掛金のような話題となると、実情が生々しく伝わってくるのは実際の経営者の言葉です。そういうわけで、もうひとつ手にとってみた本が『社長が絶対に守るべき経営の定石』です。著者はスター精密社長の佐藤肇氏で、創業者だった父親から受け継いだ経営上の定石を実践咀嚼した上で、具体的な数字を使って簡明に説明しています。題名が示すように、経営で悩む社長向けに書かれた本ですが、投資家の参考になる話題もあちこちにみられます。

今回は、貸借対照表の重要性を説いた部分をご紹介します。個人的には、企業分析の際には損益計算書だけでなく、貸借対照表やキャッシュフロー計算書にも目を通してきました(過去記事)。今回の引用文を読むと、そういったやりかたが有益なことを感じさせてくれます。

P/Lは見るもの、そしてB/Sは読むもの、というのが私の持論である。

P/Lは一番上にある売上高から下に目をやっていくだけで、いくら経費を使って最終的にいくら儲かったか、単純な引き算である。したがって、見ればすぐわかる。

一方、B/Sをただ眺めていても、会社の実態は一向に見えてこない。しかし、会社の実態というのはB/Sにこそ示されているものであり、B/Sの体質が良くなったのかどうか、経営としてはそれが重要である。利益は出たがB/Sが良くないというのでは、優れた経営とはいえない。利益が出て、なおかつB/Sが良くなり、会社が効率のいい会社に生まれかわる、ここにこそ、経営の定石を守る意義があると、前頁で申し上げたとおりだ。(p.374)


B/Sというのは、会社創業以来の蓄積の結果をあらわしたものである。言ってみれば、創業以来10年も20年もかけて蓄積してきた会社の力量、会社が現在有している体力のすべてを示しているのがB/Sなのである。

そこには、事業の歴史と社長の折々の判断が、良いも悪いも含めて、すべて凝縮されたカタチであらわされている。例えば、B/Sの右側は、その会社が持っている自分のカネ、利益、それと信用の累計であり、結局はこれだけの資金を使って会社経営ができるという「資金の調達力」をあらわしている。いわば、何十年もかけて蓄積してきた、会社の現時点における体力をあらわしているといっていい。

このように、B/Sの右側は資金の調達力をあらわしたものだが、それだけではない。さらに、どういうところから資金を調達しているのか、自分のカネなのか銀行からの借金なのか、信用によって仕入先から買掛債務として調達しているカネなのかといった「資金の調達先」もあらわしている。

一方のB/Sの左側は、右側で調達した資金をどのように使っているか、「資金の使い道」「資金の使途」をあらわしている。つまり、調達した資金を売掛金や手形でもっているとか、機械設備や土地でもっているとか、あるいは投資勘定でもっているといったことをあらわしている。そして、必要以上に在庫が多いとか、売掛債権が多いとか、自己資本以上に固定資産を持っているとか、万一不渡りをくらったときに、手元にすぐ金になるものがいくらあるとか、創業からこれまで資金をどう調達して、どう使ってきたか、いわば会社の体質、体力、もっといえば社長の性格、経営のやり方そのものが、B/Sには示されているといっていい。

だから過去3期分なり5期分なりのB/Sを拝見すれば、「売上の割に儲からない体質」とか「万一のときにどの程度の抵抗力があるか」だとか、その会社の実態が読み取れるのだ。

こういうことはP/Lだけ見ていても、決してわからない。基本的にP/Lで出る利益というのは、つくられた数字、いわば帳簿上の数字であって、利益が上がったからカネが増えるわけではないからだ。はっきり言ってしまえば、実際のカネと利益というのは直接関係がないのだ。(p.348)

2012年7月17日火曜日

売掛債権とは本物のカネではない(大竹愼一)

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常々拝見しているブログ『賢明なる投資!バフェる!グレアムる!フィッシャる!』で売掛金の話題がとりあげられていましたので、今回は同じ話題になります。たまたま手に取った本からの引用になりますが、題名は『おカネの法則』。2003年の初版と、不況で苦しむ経営者向けの内容ですが、個人的にはオーソドックスなものと感じました。著者の大竹愼一氏はアメリカでファンドマネージャーをやっているとのこと、その筋では有名な方のようです。売掛金回収や顧客の検収を待つときのゴタゴタは、そういった職務上の責任を実際に負ったことのある方にとっては日常茶飯事のことと思いますが、たまには正論もいかがでしょうか。

まずは、著者からみた売掛金の位置づけです。

私が企業のバランスシートを見るときは、真っ先に、売掛債権と買掛債務の項目に注意して、その企業の問題点をそこからえぐり出そうとするのが常である。なぜなら、キャッシュフローを大きく変動させる要因の主なものが流動資産で、その中でも最大なものは、売掛債権と在庫の残高だからである。

私の考えでは、この売掛債権は最も重要な要素であるにもかかわらず、経営者が最も軽く見ているものである。言い換えれば、今回の不況に生き残るには、売掛債権を減らすことによって流動資産を圧縮し続けることが重要である。さもないと回転差(期間差)資金がなくなって、資金繰りが急速に悪化してしまうからだ。売掛債権とは本物のカネではない。そういう意味で、経営者は「現金」というものが経営にとって、とても意味の深いものだということを肝に銘じる必要がある。

そして、私が売掛金にこだわるのは、あくまでも売上の性格をつかまえたいからである。もちろん売上が立たないと、利益は出ない。しかし、売上が増えたとしても、利益が増えるとは限らないことに注目せねばならない。

無理に売上を増やそうとすると、大幅な値引き販売になったり、売上の回収期間が長くなったり、金利負担が増えたり、あるいは取引先が倒産して焦げ付いたりすることがある。これはお客の顔色を見ながら、二割引、三割引と売値を割り引いていく日本の伝統商法ではよくあることだ。とくに、この長い不況の中で、販売条件をさらに悪くしてでも、売上を取ろうとする企業が多い。

しかし、こういう商売をやっていると、次第に本当の利益がわからなくなってくる。

いわゆる、骨折り損のくたびれ儲けになって、忙しそうにみんな働いているが、働けば働くほど、知らぬうちに損が累積していく。こういう会社が資金繰りに苦しめば、たちどころに倒産してしまう。(p.109)


次は、売掛金の質を向上させる管理会計の一例です。

医薬品卸大手の東邦薬品・故松谷義範会長は、売掛債権のコントロールに長けた名経営者であった。これまでの医薬品卸業界は、得意先である医師へ売り込むために、極端な増量サービスや長期の手形決済などで対応するのが常であった。

業界ではプロパーと呼ばれる営業マンは、自社の薬品をなんとか買ってもらおうと、他社との増量競争や手形の延長競争に走り、利益なき繁忙を続けていたのである。

そこで、松谷会長は、売掛債権の回収期間の適正水準を設け、水準を超える債権については、独自の金利をかけ、予定粗利益額から金利分を差し引く仕組みをつくったのである。回収の遅い売上について名目上では多少の利益が出ていても、金利を引かれると赤字になる。

それによって、給料やボーナスにまで反映させる仕組みだから、たちどころに営業マンの意識を変えることに成功したのである。

不況が深刻になればなるほど、営業マンは目先の売上を取るために、法外な値引きや回収の長期化に走りがちになる。ここで経営者が、売上のもつ恐ろしい性格を知っていれば、利益の出ない売上や回収できそうもない売上をいかに減らすかに腐心するはずだ。(p.111)


ところで、引用元の本は定価が約10,000円と、いい値段がつけられています。図書館向きの本です。この手の本が高価なのは、たとえばセミナーの場で販売するからでしょうかね。

2012年7月14日土曜日

帰り道をまちがえる(チャーリー・マンガー)

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Poor Charlie's Almanack』に掲載されているチャーリー・マンガーの写真には、本を手にした姿がいくつかあります。なかでもわたしのお気に入りは、歩きながら本を読んでいる写真です。今回の引用は、そんなチャーリーの思索的日常生活を息子デイヴィッドが書き記したものです(David Borthwick; 再婚した妻の連れ子)(日本語は拙訳)。

毎晩のように、父はお気に入りの椅子に座って何かを読むのに没頭していました。このときの様子はおもしろおかしいとしか言いようがありませんでした。はしゃぎまわる小さな子供たち、騒々しいTVの音、夕食の準備ができたと呼ぶ母さんの声。そういうのが父の耳にはほとんど入っていなかったのです。

何かを読んでいないときでも、父は静かに深く考えこむことがよくありました。たとえば、モリーとウェンディー[娘たち]をむかえに行ってパサデナへ帰るいつもの道でも、母さんが正しい方向へ指示しないと、まちがってサン・バーナーディノにいく道へ進んでしまったものです。そのようなときに父が何を考えていたのか、わたしにはわかりません。ですが、アメフトの試合やゴルフでの打ち損じを思い起こしていたわけではありませんでした。父が成功した要因はいろいろあるでしょうが、自分が熟考しているところに割り込んでくるじゃまものを固く閉め出すことができたのも、それらと同じように重要なことだったと思います。父の関心をひくことには楽しみがある一方で、歯がゆいところもあったものでした。

You have a dead-on comedic take on Father night after night in his favorite chair poring over something, all but deaf to the roughhousing younger children, a blaring TV, and Mom trying to summon him to dinner.

Even when not reading, Father was often so deep in contemplation that a routine drive to take Molly and Wendy back to Pasadena could have turned into an excursion to San Bernardino without Mom calling out the correct freeway turnoffs. Whatever was on his mind, it wasn't the outcome of a football game or a botched golf shot. Father's ability to Chinese wall off the most intrusive distractions from whatever mental task he was engaged in - a practice alternately amusing and irritating if you were trying to get his attention - accounts as much as anything else for his success.


蛇足ですが、わたしも歩きながら読書派です。自転車読書もやりますが、ときどき見知らぬ人から叱られています。

2012年7月11日水曜日

若かった頃の株式ポートフォリオ構成比率(ウォーレン・バフェット)

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ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイが保有する株式ポートフォリオの話題を以前取り上げました(過去記事)。今回は、ウォーレンがまだパートナーシップをやっていた頃の株式ポートフォリオの構成比率をご紹介します。1961年度のLetterからの引用です。(日本語は拙訳)

なお、この文章の前段では、投資戦略として3つのカテゴリーに投資している旨を説明しています。今回の話題に登場する一般的な投資の他には、公開買付け等のスペシャル・シチュエーション、それから経営権掌握目的の2つがあります。

最初のカテゴリーに入るのは、まあよくあるやつですが、過小評価された証券への投資です。この手の投資は、企業のポリシーに対して何か物申すわけでもないですし、過小評価が訂正されるのがいつになるかもわかりません。過去何年にもわたって最大の投資先は、このカテゴリーに入るものでした。そのため、他のカテゴリーより多くの利益をあげています。たいていの場合、各銘柄はそれなりのポジションをとります。資産全体の5%から10%ずつを、5~6件の銘柄に投資します。また、その他に10~15件程度の小さめのポジションをとっています。

The first section consists of generally undervalued securities (hereinafter called "generals") where we have nothing to say about corporate policies and no timetable as to when the undervaluation may correct itself. Over the years, this has been our largest category of investment, and more money has been made here than in either of the other categories. We usually have fairly large positions (5% to 10% of our total assets) in each of five or six generals, with smaller positions in another ten or fifteen.


当時も現在も、基本的なところはあまり変わっていないようですね。

2012年7月10日火曜日

規模の経済(チャーリー・マンガー)

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チャーリー・マンガーによる世知入門、これから何回か「規模の経済」の話題が続きます。今回はテレビCMの話題がでてきますが、この講演は1990年代のものなので、やや時代を感じさせる指摘となっています。(日本語は拙訳)

たとえば、世界中のすべてのビジネススクールでは、規模の経済がもつ最大の利点は経験曲線効果によるコスト削減だと教えています。人は複雑な作業をこなす場合でも、改善しようと試みたりあるいは金勘定のおもわくが働くことで、効率よく進められるようになります。

大量にこなすのが自分たちであれば、他の人よりうまくなるのは至極当然のことです。これはすごく有利なことで、事業の成否に大きく影響しています。

ここで不完全ではありますが、規模の経済として考えられるものを列挙してみましょう。まずは簡単な幾何学の応用から。何かを収容する巨大なタンクを造るとしましょう。このとき、タンクの外側を覆う鋼板の所要量は2乗のペースで増えていきますが、体積は3乗で増加します。つまり大きく造るほど、鋼板の単位面積あたりの容量は増えることになります。

これと同じで、簡単な幾何学、すなわちありふれた現実世界においても、あらゆる局面で規模の経済が登場します。

たとえば、テレビで流れるCMがそうです。テレビCMは、音声付きのカラー画像が茶の間に入ってきた頃に始まりましたが、これはもう圧倒的でした。当時は放送局が3つしかなく、視聴者のおよそ9割をおさえていたのです。

P&Gの経営者であれば、この新しい広告の手段を使うのに問題はないでしょう。莫大な量の商品が売れるので、全国ネットのテレビCMにかかる高額な広告料でも難なく支払えます。しかし、小さな会社ではこうはいきません。一部だけを買うというのはできないので、使いようがありません。結局のところ、大量に売れる見通しがないかぎり、このもっとも効率的な広告手段であるテレビCMを使うことはできないのです。

For example, one great advantage of scale taught in all of the business schools of the world is cost reductions along the so-called experience curve. Just doing something complicated in more and more volume enables human beings, who are trying to improve and are motivated by the incentives of capitalism, to do it more and more efficiently.

The very nature of things is that if you get a whole lot of volume through your operation, you get better at processing that volume. That's an enormous advantage. And it has a lot to do with which businesses succeed and fail.

Let's go through a list - albeit an incomplete one - of possible advantages of scale. Some come from simple geometry. If you're building a great circular tank, obviously, as you build it bigger, the amount of steel you use in the surface goes up with the square and the cubic volume goes up with the cube. So as you increase the dimensions, you can hold a lot more volume per unit area of steel.

And there are all kinds of things like that where the simple geometry - the simple reality - gives you an advantage of scale.

For example, you can get advantages of scale from TV advertising. When TV advertising first arrived - when talking color pictures first came into our living rooms - it was an unbelievably powerful thing. And in the early days, we had three networks that had whatever it was - say ninety percent of the audience.

Well, if you were Procter & Gamble, you could afford to use this new method of advertising. You could afford the very expensive cost of network television because you were selling so damn many cans and bottles. Some little guy couldn't. And there was no way of buying it in part. Therefore, he couldn't use it. In effect, if you didn't have a big volume, you couldn't use network TV advertising - which was the most effective technique.

2012年7月9日月曜日

(答え)イノベーションで事業の限界をのりこえる例

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今回は、前回とりあげた問題「石油産業が限界をこえるために、ITをどのように活用したのか」の回答になります。『探求―エネルギーの世紀』の引用です。

第一の発達は、マイクロプロセッサの急速な進歩が膨大なデータの分析を可能にしたことで、地球物理学者は地下構造の解析を大幅に改善させることができ、探鉱の成功率が向上したことだ。コンピュータの性能が高まると地震探査による地下構造ー層、断層線、キャップロック、トラップーの測量を、二次元ではなく三次元で行なえるようになった。三次元の地下構造測量によって、失敗がなくなるわけではないが、地下資源探査技師たちは深い地中の地質についてずっとよく理解できるようになった。

第二の発達は、水平掘削の到来だった。従来の油井は垂直に掘削していたが、数千メートル垂直に掘ってから、角度をつけ、場合によっては真横に掘ることもできるようになった。精密に制御し、数メートルごとに高性能の機器で計測しながら掘削する。これにより、原油を採掘しやすくなり、したがって生産量も増えた。

第三の大躍進は、ソフトウェアとコンピュータによる可視化の発達だった。石油産業で応用されたこのCAD/CAM(コンピュータ支援設計・コンピュータ支援製造)テクノロジーは、建設費10億ドルの海上油田の細部に至るまでコンピュータの画面上で設計できるようにした。さらに、最初の鋼板の溶接がはじめられる前から、その施設の弾性や効率をさまざまな角度から検証することができるようになった。

1990年代にはいると、情報・通信テクノロジーが普及し、通信コストが画期的に安くなったため、地球物理学者たちは世界各地にいながらにして、仮想チームとして作業することができた。ある場所におけるある分野の経験や知識が、他の場所で同様の問題を解こうとしているものたちに、瞬時に教えられる。そんなわけで、当時、ある企業のCEOはいささか誇張をこめて、科学者とエンジニアは「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」と表現している。

こうしたさまざまなテクノロジーの進歩により、企業はすこし前までは達成できなかった物事ーたとえば、あらたな有望鉱区を見つける、以前なら開発できなかったような油田に取り組む、より複雑なプロジェクトに着手する、石油採掘量を増やす、まったく新しい油田を切り拓くといったことーができるようになった。(上巻 p.26)

今回の例ではテクノロジーがビジネスの限界を広げていますが、それぞれの企業や業界によって、いろいろな限界の乗り越え方があるかと思います。一株式投資家としては、各企業のとりくみに耳を傾け、進捗を見守ると同時に、事業の持つ可能性を自分なりに見定めた上で、投資候補の企業をトレードオフする必要があると思います。「事業の持つ可能性」は経営者の手腕によるところもありますが、気になっている企業の経営動向を適宜確認していると温度差はさまざまで、おもしろいものです。

ところで、上の引用にあった「学習を重ねなくても、経験が蓄積される」は、失敗事例にもうまく当てはまっているものなのか、気になるところではあります。

2012年7月7日土曜日

(問題)イノベーションで事業の限界をのりこえる例

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投資候補の企業価値をおしはかる際には、事業の将来性を見極めようとするものです。そのとき、マーケットの大きさや価格競争、ライフサイクルなどを考えると、一事業や一製品群からの売上や収益はいずれ限界にぶつかると想定するのは、妥当な見方と思います。限界という観点でみると一見わかりやすいのが資源系の企業です。原油や天然ガスのような地下資源を扱う川上の企業となれば、限りある可採埋蔵量が企業価値に直結しています。

一方でそういった限界をのりこえる人たちは、ねばりづよい工夫をみせてくれます。彼らの努力は投資家による評価をのりこえ、新たな価値を拓きます。今回ご紹介するのは以前にもとりあげた『探求―エネルギーの世紀』からで、石油産業がITを活用して果たしたイノベーションの一例です。

石油産業の歴史を通じて、テクノロジーの発達はこれが限度で、業界の”道路の突き当たり”が見えてくるという説が、しじゅう口にされてきた。すると新しいテクノロジーが現われて、能力を飛躍的に拡大させる。その図式が何度もくりかえされてきた。(上巻 p.26)

この文につづいて、どのような取り組みやイノベーションによって限界を超えたのか、具体的に説明されています。答えのほうは次回にご紹介しますので、どんな手が打たれたのか、お考えになってみてください。本書では3つの事例が挙げられていますが、次のようなことをねらって実行されています。

1. 埋蔵資源を掘り当てる確率を高める(開発成功率の向上)
2. 掘削時の取りこぼしをへらす(採収率の向上)
3. 設備投資や保守コストをさげる(損益分岐点の改善)

2012年7月6日金曜日

発明の方法を発明する(アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド)

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「学んだことをうまく生かしたい」、あるいはその逆に「うまく生かすには、どう学ぶのがいいのか」という思いを抱いており、本ブログでも少しずつ取り上げています。なかでもチャーリー・マンガーが引用していた次の言葉は、頭のすみにひっかかっていました。「文明が進歩できたのは発明の方法が発明されてからだったように、自分自身を向上させるには、まず学ぶ方法を学ばなければならない」(過去記事)。気になっていた前半について、発言が含まれている文脈を読めば主旨が確かめられると考え、引用元の原典をさがしてみました。

書いた御本人は数学者のアルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(Alfred North Whitehead)で、引用元の著作は『科学と近代世界』のようです。全集『世界思想教養全集(第16巻)』に含まれているテキストで確認しました。チャーリーは他でもホワイトヘッドの主張をたびたび引用しているので、たぶん合っていると思います。なお、晩年のホワイトヘッドはハーバード大学で教えていたとありますので、チャーリーは講義を聴講する機会があったかもしれません。

今回は同書から「発明の方法を発明する」のくだりを引用します。

19世紀の最大の発明は、発明法の発明であった。ひとつの新たな方法が人生に加わった。われわれの時代を理解するためには、鉄道、電信、ラジオ、紡績機械、合成染料、などのような変化を形づくる個々のものをことごとく無視してさしつかえない。われわれは方法そのものに注意を集中せねばならない。この方法こそ真に新しいもので、古い文明の基礎を破壊した。(中略)

この変化全体は新しい科学知識から生じた。原理よりも成果から考えられた科学は、利用できる着想を貯えた、人目につく倉庫である。しかしこの世紀の間に起こったことを理解しようとすれば、倉庫に譬える[たとえる]よりもむしろ鉱山に譬えた方がよい。また、生のままの科学的着想は出来合いの発明で、拾い上げて使いさえすればよいものだ、と考えることは大きな誤まりである。その間には、想像的工夫を凝らす緊張した時期がある。新たな方法に含まれた一つの要素はまさに、もろもろの科学的着想と最後の産物との間の間隙を埋めにかかる方法の発見である。それは、もろもろの困難に次から次へと挑みかかる、規則正しい攻撃の過程である。

近代技術のもっていたもろもろの可能性は、富裕な中産階級の勢力によって、英国において始めて実際に現実化された。したがって産業革命は英国から始まった。しかしドイツ人は、科学の鉱山の中でより深い鉱脈に達する方法を、明らかに会得した。かれらは行き当りばったりの研究方法を廃止した。かれらの工業学校や工科大学では、ときおりの天才やときおりの好運な思いつきを待たなくても、進歩が見られた。19世紀を通じてかれらが示した学問的妙技は、世界の讃嘆の的であった。この知識の訓練は、技術を越えて純粋科学に、科学を越えて学問全般に適用される。それは素人から専門家への変化を表わしている。

特定の思想領域にその生涯を捧げる人びとが、昔からつねに存してはいた。とくに法律家とキリスト教会の牧師とは、そのような専門の明白な実例である。しかしあらゆる部門にわたる知識の専門化の力や、専門家を作り出す方法や、技術の進歩に対する知識の重要性や、抽象的知識が技術に結びつけられる方法や、技術の進歩のもつ限りなき可能性など、これらすべてのことを充分自覚的に会得することは、19世紀において、かつ列国の中でも主としてドイツにおいて、初めて完全に成しとげられたのである。

かつては人間の生活は牛車の歩みで送られた。将来は航空機の速さで送られるであろう。速度の変化はけっきょく質の差として現われてくる。(p.113)


翻訳の雰囲気は別として、ホワイトヘッドが指摘している内容は現代企業における技術経営やイノベーション創出のプロセス、産学連携と似たところがあり、古さを感じさせません。逆にみれば、「自覚的に会得する」のが難しいからこそ、こういった取り組みが現代でも課題として挙げられているのかもしれません。

2012年7月4日水曜日

両手があかないときにどうやったのか(チャールズ・ダーウィン)

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チャーリー・マンガーは思考や認識の誤りをみつける方法として、科学者ダーウィンのやりかた「持論をくつがえすよう努力する」ことを強調しています(過去記事)。『ダーウィン自伝』を読んだところ、ダーウィン本人がそのやりかたに触れていたのでご紹介します。

私はまた、多年にわたって、次の鉄則を遵守してきた。それは、公表された事実であれ、新しい観察や考えであれ、なんでも私の一般的な結論に反するものに気がついたときには、それを漏れなく、すぐに覚え書きにしておくということである。というのは、このような事実や考えは、都合のよい事実や考えよりもずっと記憶から逃げてしまいやすいということを、私は経験で知っていたからである。この習慣のおかげで、私がすでに気づいてそれに答えようとしたのでない異論が私の見解に向けて提起されるということは、ほとんど起こらなかった。(筑摩叢書 p.111)


このやりかたを身につけるに至っては、科学者の友人たちとの親交も影響していたかもしれません。

私は、結婚以前にも以後にも、他のだれよりもライエルLyellによく会った。かれの心は、明晰さ、注意深さ、健全な判断力、豊富な独創力を特徴としているように思われた。私が地質学についてかれに何か意見を述べると、かれは問題全体を明確に知るまでは信用しようとはせず、そしてしばしば、私がその問題をいっそう明確にみるようにさせた。かれは、私の意見にたいして可能な異論をすべてだしてみせ、それらをだしつくしたあとでもなお長いあいだ疑わしく思っているのがつねであった。(p.87)

このようなやりとりは、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーのようなコンビを思い出させますね。

最後はおまけです。ダーウィンがまだ学生だった頃の思い出です。

しかし、なんといっても、甲虫の採集ほどに私がケンブリッジで熱中し、たのしみにしたことはなかった。それはたんに採集への情熱であった。というのは、私はそれらを解剖したことはなく、外的な特徴を本にでている記述と照らし合わせることもまれでしかなかったからである。しかし、名前だけはなんとかつけた。私の熱中を示す一つの証拠をあげよう。ある日、古い樹皮をひき裂いていると、2匹の珍しい甲虫が見つかったので、1匹ずつ両手につかんだ。ところがさらに3番目の新しい種類のものが見つかった。これをつかまえないのは残念でたまらないので、私は右手につかんでいた1匹を口の中にほうりこんだ。何と! それはものすごく辛い液体を出し、私の舌を焼かんばかりであった。私はやむなくその甲虫を口から吐き出したが、それは逃げ、そしてまた、3番目のやつも逃げてしまった。(p.46)

2012年7月3日火曜日

自社株買いの例(4973日本高純度化学)

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今回は、投資候補として追い続けている企業の一社、日本高純度化学をとりあげます。少し前の投稿で「自分の投資している企業で、厳しい時期に自社株買いをするところはない」と書きましたが(過去記事)、当社はそのような自社株買いを積極的に実施しています。

貴金属めっき液製造のリーダーである当社は、利益率が高いことから優良企業として知られています。社員数45名で純利益が7億円弱なので、1人あたり約1,500万円の利益をあげています。ファナックの約2,600万円には及びませんが、悪くない成績です。

当社の利益の源泉はめっき液の化学組成にあることから、事業の性格はマーケティング及びR&D重視型です。新薬に力を入れている製薬会社と似ており、知的努力を重ねた末の知識の結晶が大きな利益をうみだします。そのため、経営資源として重要視しているのは有能な人材であり、資産規模は一定程度あればひとまず十分、と経営陣は認識しています。

そのような背景の下、経営陣は事業で挙げた利益を積極的に株主へ還元しています。配当金の利回りは4%超とそれなりに目を引きます。そして自社株買いのほうも見るに値します。直近では、株式市場が全般的に低迷した昨年末に実施しています。昨年度の総株主還元性向は100%を超え、純利益を超える資産を株主へ還元しています。

もう少し過去にさかのぼり、当社が自社株買いを実施したタイミングを確認してみます。当社のWebサイトによれば、取締役会で自己株式取得が3回決議されていますが、いずれも株価が低迷している時期に実施されています。








株を買うタイミングは申し分なしのようです。あとは株価自体が割安だったかどうかですが、現段階でのPERが13.5(今年度見込み)程度なので、高くはないが安いというほどでもない、といったところでしょうか。急いで買う必要はなかったかもしれませんが、経営陣自らが当社の将来性を高く評価しているのかもしれません。総合的にみれば、経営陣は株主を重視しているように思います。

いずれは当社に投資したいと考えてから何年かたちましたが、相対的な割安さがもうひとつで踏みだせていません。機会がくるかどうかわかりませんが、これからも動向を追っていきたい企業です。

2012年7月2日月曜日

誤判断の心理学(11)お先真っ暗なとき(チャーリー・マンガー)

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今回ご紹介するのは、苦痛を避ける傾向についてです。(日本語は拙訳)

誤判断の心理学
The Psychology of Human Misjudgment

(その11)ただ苦痛を避けたいがために否認する
Eleven: Simple, Pain-Avoiding Psychological Denial

初めて私がこの現象を印象深く感じたのは、第二次世界大戦のときでした。家族付き合いをしていた人にご子息がおられましたが、彼はスポーツマンの上に模範的な学生でした。しかし、彼は大西洋の向こうへ飛んでいったきり、帰らぬ人となりました。彼の母親はとても聡明な女性だったのですが、息子が戦死したことを決して信じようとしませんでした。ただ苦痛を避けたいがために事実を認めない、そのような心理学的行動をとったのです。人はあまりにも過酷な現実に直面すると、それを受け入れられるようになるまでは事実をねじまげて解釈するのです。人間誰しも何らかの形でそのような行動をとるものですが、ひどい問題に発展してしまうこともあります。極端な場合には、愛や死や薬物依存といったおきまりの災厄にまきこまれてしまうのです。

事実を認められないがゆえに死を選ぶ。そのような行動を良しとする社会では、周りの人が咎めずにいても憤慨する者はいないでしょう。しかし、「希望はなくとも耐え忍ぶことはできる」という冷徹な教えを守ろうとする人も、なかにはいます。そのようなふるまいのできる人には賞賛に値するものがあります。

とことんまで身持ちを崩してしまった薬物中毒の人に見られるのが、「自分はまだちゃんとしているし、将来だって有望だ」と信じている姿です。ますますひどくなるにつれて、現実否定ぶりもお話しにならないところまで達します。私が若かった頃にあったフロイト派による治療法では、薬物依存を治そうとしてもまったく役に立ちませんでしたが、近年のアルコホーリクス・アノニマス[断酒団体]では治癒率50パーセントを継続的に達成しています。この取り組みは仲間と共にアル中に立ち向かうもので、様々な心理学的傾向を活用しています。ただし、治るまでの道のりは概して険しく、燃え尽きがちです。それに残りの半分は失敗しているのです。ですから、薬物依存に陥りそうないかなる行為にも、絶対に近寄るべきではありません。ひどいことになる可能性が小さくてもダメです。

This phenomenon first hit me hard in World War II when the superathlete, superstudent son of a family friend flew off over the Atlantic Ocean and never came back. His mother, who was a very sane woman, then refused to believe he was dead. That's Simple, Pain-Avoiding Psychological Denial. The reality is too painful to bear, so one distorts the facts until they become bearable. We all do that to some extent, often causing terrible problems. The tendency's most extreme outcomes are usually mixed up with love, death, and chemical dependency.

Where denial is used to make dying easier, the conduct meets almost no criticism. Who would begrudge a fellow man such help at such a time? But some people hope to leave life hewing to the iron prescription, "It is not necessary to hope in order to persevere." And there is something admirable in anyone able to do this.

In chemical dependency, wherein morals usually break down horribly, addicted persons tend to believe that they remain in respectable condition, with respectable prospects. They thus display an extremely unrealistic denial of reality as they go deeper and deeper into deterioration. In my youth, Freudian remedies failed utterly in reversing chemical dependency, but nowadays Alcoholics Anonymous routinely achieves a fifty percent cure rate by causing several psychological tendencies to act together to counter addiction. However, the cure process is typically difficult and draining, and a fifty percent success rate implies a fifty percent failure rate. One should stay far away from any conduct at all likely to drift into chemical dependency. Even a small chance of suffering so great a damage should be avoided.


チャーリー・マンガー自身も、精神面、肉体面の両方で大きな苦痛を経験しています。31歳の時には長男を病気で亡くし、56歳の時には手術の甲斐なく左目の視力を失っています。

2012年6月30日土曜日

集団を頼るよう隠れた脳が指令する

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前々回にご紹介した『隠れた脳』から、今回は集団行動に関する話題を引用します。

進化の歴史を見れば、集団でいるほうが、安全が保たれる。ときとしてそれが裏目に出る場合もあるが、私たちの脳は、総合的にうまくいく手段がわかるよう進化しているし、進化で身につけた自己保存のための本能は、必然的に単純である。警報が鳴ると不安が引き起こされ、集団を頼るよう隠れた脳が指令する。それは私たちの祖先の時代から、集団でいたほうが危険にさらされる可能性が低く、安心と安全が手に入りやすかったからだ。

しかし今の時代、集団でいる安心感を優先すると、個人が危険にさらされるケースが以前より増えた。それは現代の危険があまりにも複雑で、一体何が起こっているのか、誰にもわからない場合が多いからだ。私はここで、集団の行動は常に間違っていると言いたいわけではない。集団は誰も気づかないうちに、個人の自主性を奪ってしまうことがあると言いたいだけだ。同僚たちは間違っているかもしれないが、彼らについていくほうが、自分で考えて行動するよりはるかに楽だ。集団は安心を与えてくれる一方、自主性は不安を引き起こす。しかし災害に巻き込まれた状況では、不安こそが正しい反応なのだ。根拠のない安心は死を招きかねない。
(p.168)


ちなみに、上に挙げた引用が登場する場面では、911アメリカ同時多発テロ事件のときにWTCで働いていた人たちを取り上げて、何が生死をわけたのか考察しています。

2012年6月29日金曜日

レストランを品定めするように(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその5「株式を買う際には、優良企業の中から割安なものを選びなさい」の説明文です。引用元はこちらです。(日本語は拙訳)

どういう企業であれば質が高いといえるのでしょうか。例えば、成長市場で売上のリーダーとして足場を固めていたり、技術革新を要する分野において技術面でリードしていたり、過去の実績に裏付けられた強力な経営陣がいたり、新規市場に最初に踏み入れた企業の中でも十分な資本を有していたり、有名かつ信頼のおけるブランドで消費者向け製品を提供して高い利益を得ている、といった企業があてはまるでしょう。

当然ですが、そういった様々な「質」を個別に考えるべきではありません。たとえば、低コストが売り物の企業であっても、自社の製品が顧客の望むものではなくなっていたら、質の高い株とはいえません。同様に、ある技術面でリードしていても、事業を拡大したりマーケティングを進めるのに必要な資本が不足していれば、あまり意味がないのです。

株の質を見極めるには、レストランを品定めするように考えるとよいでしょう。完全無欠というのは難しいですが、優れたところがなければ3つ星や4つ星はあげられない、といった具合です。

Quality is a company strongly entrenched as the sales leader in a growing market. Quality is a company that's the technological leader in a field that depends on technical innovation. Quality is a strong management team with a proven track record. Quality is a well-capitalized company that is among the first into a new market. Quality is a wellknown trusted brand for a high-profit-margin consumer product.

Naturally, you cannot consider these attributes of quality in isolation. A company may be the low-cost producer, for example, but it is not a quality stock if its product line is falling out of favor with customers. Likewise, being the technological leader in a technological field means little without adequate capitalization for expansion and marketing.

Determining quality in a stock is like reviewing a restaurant. You don't expect it to be 100% perfect, but before it gets three or four stars you want it to be superior.


アメリカのファンド・マネージャーは、しばしば「質が高い」(high quality)という表現をします。本ブログでもgonchanさんがコメントして下さっていますが(過去記事)、具体的に何をさしているのだろう、とわたしも気にはなっています。今回ご紹介したテンプルトン卿は大御所だけあって漠然とした感もありますが、噛みしめてみるとなかなか味わい深いですね。

2012年6月27日水曜日

気づかぬ間にオートパイロットが働いている

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以前とりあげたセス・クラーマンの話題の中で、「人の脳では2つのシステムが共存して働いている。システムその1は素早く考えるようにできており、システムその2のほうはじっくり考えるようにできている」とする心理学者ダニエル・カーニマンの主張がありました(過去記事)。最近読んだ本『隠れた脳』が、これを主題としていたのでご紹介します。題名から想像できるように、主にシステムその1の働きに焦点をあてています。

今回は、隠れた脳とはどういうものかを説明した箇所を引用します。

なぜ人間は意識的な脳と、隠れた脳の両方を持っているのか、説明する方法はいくつもある。一つ例をあげてみよう。わたしたちの経験には二種類ある。新しい経験と、繰り返されるおなじみの経験だ。意識的な脳は合理的で、慎重で、分析的なので、新しい状況に対処するのが得意だ。しかし状況を理解し、問題を解決するルールを見つけたら、その経験をするたびに考え込む必要はない。見つけたルールを使って、機械的に対処すればよい。こうした作業には、隠れた脳のほうが向いている。決まった作業を効率よく行うため、頭の中で思考の近道をすることをヒューリスティックスというが、隠れた脳はこのヒューリスティックスの達人である。スキルを身につけるということは、たいていの場合、隠れた脳にひとまとまりのルールを教えるということなのだ。初めて自転車に乗るときは、倒れないよう意識を集中しなければならない。しかしバランスを取るためのルールをいったん覚えたら、あとは隠れた脳に作業をすべて任せてしまえばいい。考えなくても、自然にできるようになるのだ。言葉についても同じで、新しい言葉を覚えるときは、一つ一つ単語を覚えたり文法を勉強したりしなければならないが、マスターすれば、苦労して単語を思い出したり、正しい文法を考えたりはしない。 (p.26)

隠れた脳は効率を重視するため、正確さは二の次になるとも述べています。

つづいて、意識にあらわれている脳と隠れた脳が並んで働く場合について。

自分の意見を言えと指示されると、頭の中で意識的な脳と隠れた脳が対峙して議論を始めるが、勝つのは常に意識的な脳だ。理論的な分析は、幼稚なヒューリスティックよりも強いからだ。意識的な脳がパイロットだとすれば、隠れた脳はオートパイロット機能である。パイロットは常にオートパイロットより優先するが、パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる。 (p.109)


「パイロットが注意を払っていないときはオートパイロットの出番となる」とありますが、チャーリー・マンガーであればもっと厳密に書くのではないでしょうか。「パイロットが気づかぬ間にオートパイロットが働いている」と。つまり、注意しているつもりでも隠れた脳が働くということです。

われわれが失敗をふりかえるとき、「それは想定していなかった」とか「そこまで読めなかった」とか「そもそもの仮定が間違っていた」といった声をあげるものです。頭の中でオートパイロットが働いて近道をしたということですね。それ以前に経験不足ということもあるでしょう。ささいなことならともかく、影響が大きいときにはひと悶着の始まりです。当たり前のことですが、影響が大きい意思決定を行なう際にリスクを下げるには、オートパイロットがおかす誤りをみつけてくれる仕組みが望まれるでしょう。そういえばウォーレン・バフェットも、自分の誤りを指摘してくれるパートナーのことをいつも自慢していますね。

最後になりますが、本書では、実際に起きた各種のできごとを題材に取り上げて話題を展開しながら、隠れた脳がどのように働いているかを検証・考察しています。著者がワシントン・ポスト紙のライターというだけあって、選んだ素材だけでなく、話しの進め方も上手です。翻訳もなめらかです。個人的には惹き込まれた一冊でした。

2012年6月26日火曜日

あなたが秀才かどうかはどうでもよい(リチャード・ファインマン)

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仮説・検証とくれば、昨今はコンサルタントの専売特許のような感もありますが、肩肘張らずに考えれば子供でも自然にやっていることですね。先日ご紹介したファインマンの『物理法則はいかにして発見されたか』でも、科学者が新法則を探す際の手順として触れていますのでご紹介します。

一般にいって、私どもはつぎのような手順で新しい法則を捜すのです。初めに推測によってある仮説をたてる。つぎに、それにもとづいて計算を行ない、その仮説からの帰結を調べます。つまり正しいと仮定した法則から何が出るかを見るのです。その計算の結果を自然、すなわち実験、経験につき合わせる。観測と直接に比較してうまく合うかどうかチェックいたします。もし実験と合わなければ、当の仮説は間違いである。この単純きわまる宣言のなかに科学の鍵はあるのです。仮説がどんなに美しかろうと、それは問題ではありません。あなたが秀才かどうか、これはどうでもよい。だれが仮説をたてたか、名前はなんというのか、これも関係ない。もし実験に合わないならば、その仮説はまちがいなのです。これがすべてであります。 (p.239)


こちらはおまけです。「なにが科学的なのか」という命題に対して、やわらかく答えています。ファインマンらしい表現が登場していて楽しい一幕です。

科学畑でない人々は、仮説をたてたり推測をしたりするのを非科学的と思っていることが多いようですが、それは誤りです。何年か前に、私はある街のおやじさんと空飛ぶ円盤について話し合いました。私は科学者だから円盤のことをなんでも知っていると思われたのです! 「空飛ぶ円盤なんてあるとは思いませんな」と私は言いました。おやじさんはこれに反抗して、「空飛ぶ円盤はありえないって? あんた、その証明ができるのかね?」「いや、証明はできません。」私は答えました。「きわめてありそうもないことだと思うだけです。」これを聞くとおやじ、「あんた非科学的だな。証明ができないのに、ありそうもないなんて、どうして言える?」でも、科学的とはこういうことなのです。何がありそうか、何がありそうにないか、これだけ言うのが科学的なので、ことごとに可能か不可能かを証明することではありません。あのとき、おやじにこう言ってやれば私の考えが明確に伝わったかもしれない。「現にこの私をとりまいている世界のことならいくらか知識もあるつもりですが、それから考えると、空飛ぶ円盤を見たという報告は地球人の例のいかれた頭の産物のようです。いかれ加減は既知ですからな。地球外の未知の頭脳の合理的な努力の産物というのよりも、はるかにありそうなことです。」よりいっそうもっともらしく思われるーそれだけのことなのです。 (p.254)

2012年6月25日月曜日

自社株買いの利点(マイケル・モーブッシン)

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少し前にご紹介したレッグ・メイソンのストラテジストであるマイケル・モーブッサンが新しいレポートを書いていました。題名は「自社株買いをあらゆる方向からさぐる」(Share Repurchase from All Angles)。前回とりあげたウォーレン・バフェットの引用(過去記事)は、実はこの文章の中に登場していたものです。

今回は、企業の経営者は自社株買いをどのように考えるべきか触れている箇所をご紹介します。なお、このレポートの前半では自社株買いと配当の長短比較もされています。(日本語は拙訳)

自社株買いをしようとする経営陣は次の原則に従わなければなりません。「想定される企業価値より安い値段で買うことができ、なおかつこれに勝る投資の機会が他にない場合に限る」。このきまりの前半では、経営陣は既存株主の価値を最大化する道を模索すべしとしています。後半のほうは優先順位を説いたもので、設備投資や買収といった他の事案とくらべて自社株買いのほうが有利な理由をはっきりさせよとしています。

事業に投資するよりも自社株買いのほうが望ましい時があるのですが、ほとんどの経営者はこの考えに耳を傾けようとしません。というのも、ビジネスを大きくすることが最大の使命と考えているからです。しかし、成長をめざすことが既存株主の長期的価値を最大化させるという目的と合わないこともあります。現にそういう例が見受けられるものです。ほとんどの場合、企業は資本コスト以上の利益が得られるよう事業に資金を投じることで価値を生み出しています。そういった企業活動を通じて価値をつくりだすことが一番重要なのは、たしかにそのとおりでしょう。しかし、既存株主の利益になるという意味では、自社株買いを上手に実施することも理にかなった重要な施策なのです。

自社株買いは企業買収よりも望ましいことがあります。ほとんどの買収案件では、買い手からみると損得なしの値段で決着しているからです。結局のところ得られるのは払った金額(コスト込)に近いところとなるでしょう。そうなってしまう理由は単純です。魅力的な資産が売りに出されるといろんな買い手が集まってくるので、シナジー[買収後のリストラ等]から得られる価値の大半は、買い手ではなくて売り手のものとなってしまうのです。そう考えると、経営陣にとって有利になる可能性を秘めているのは、買収よりも自社株買いのほうです。企業買収の場合、まず買収先の事業継続価値を適切に判断してキャッシュフローを予測します。その上で買収先を支配するのに必要な対価として、想定されるシナジーの現在価値を超えない範囲で上乗せして払える金額を検討します。つまり、2つのハードルを飛び越える必要があります。ひとつめは市場で織りこまれた期待にこたえること、もうひとつはシナジーより低いプレミアムを設定すること。それと比べれば、買収先のキャッシュフローより自社のものを見積もるほうが簡単でしょうし、上手に自社株買いをすればプレミアムを払う必要もありません。それどころか、割安料金で株を取得できることもあるのです。

Executives should follow the golden rule of share buybacks: A company should repurchase its shares only when its stock is trading below its expected value and when no better investment opportunities are available. The first part of this rule reinforces the notion that executives should seek to maximize value for the ongoing shareholders. The second part of the rule addresses prioritization and makes clear that executives should assess the virtue of a buyback against alternative investments, including capital spending and M&A.

Buybacks can be more attractive than investing in the business. Most executives don’t want to hear this because they think that their prime responsibility is to grow the business. But the objective of growth can, and often does, come into conflict with the proper objective of maximizing long-term value for ongoing shareholders. In most cases, companies achieve value creation through operations - investments in the business that earn above the cost of capital. And building value through operations should remain their top priority. But properly executed buybacks can provide a legitimate and significant lever to build value for ongoing shareholders.

Buybacks can be more attractive than M&A. Most M&A deals are close to value neutral for the buyer, which means that they earn something close to the cost of capital. The reason is pretty simple: attractive assets typically lure multiple buyers, so most of the value of synergies goes to the sellers than to the buyers. Buybacks offer executives a potential advantage over M&A. In M&A, a company must properly forecast the cash flows of the target as an ongoing business and then attempt to pay a premium for control that is less than the present value of synergies. So a deal must clear two hurdles: deliver on the expectations already in the market and deliver on a positive spread between the synergies and the premium. It may be easier for an executive to assess the cash flows of his own business than the cash flows of an acquisition target. Further, with smart buybacks the company pays no premium - in fact, the company can acquire the shares at a discount.


「他社」を買収するのではなくて「自社」を買収する。そう考えれば、自社株買いの利点がはっきりと理解できます。恥ずかしながら、これほど単純なことに気がついていませんでした。個人的には、今回の文章には目が開かれました。ウォーレンがIBMに入れ込んでいるのも、納得がいきました。

2012年6月23日土曜日

自社株買いについて(ウォーレン・バフェット)

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今回は自己株式購入について、ウォーレン・バフェットによる1984年度「株主のみなさんへ」から引用します。

並はずれた事業を営んでいて財務が安定している企業が市場に目を向けたとき、自社の株が本源的価値よりずっと低い値段で取引されていたら、株主の利益になるもっとも確実な施策は、自社株を買うことでしょう。

When companies with outstanding businesses and comfortable financial positions find their shares selling far below intrinsic value in the marketplace, no alternative action can benefit shareholders as surely as repurchases.

景気が悪く、株価が低迷している時期に自社株買いができる日本企業はどれぐらいあるのでしょうか。前にとりあげたファナックは見事な例でしたが(過去記事)、勉強不足で他の企業が思いあたりません。自分が投資している企業では、成長株が多いという理由もありますが、厳しい時期に自社株買いをするところはありません。平時であれば数年おきに買ってくれる企業がありますが、ウォーレンの基準には少し届いていません。

2012年6月22日金曜日

できるだけ遠くまで拡張する(リチャード・ファインマン)

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チャーリー・マンガーは、様々な学問分野で培われてきた原理原則は別のことにも役立つと主張しています(過去記事)。別の学問分野や日常生活、投資の上でも使えるというわけです。今回は、それと似たようなことを物理学者のリチャード・ファインマンが触れていたのでご紹介します。引用元は彼の講演2本が収められた『物理法則はいかにして発見されたか』からです。

まずは主題となる部分です。
粒子とか軌道とかの概念を原子の世界にまで勝手に持ち込んでよいのか、拡張の保証はあるのかと苦情を述べる人がよくあります。心配はご無用、拡張なら何を試みてもよいのです。既知の領域を超えて、すでにわがものとした考え方を乗り越えて、できるだけ遠くまで拡張しなければならない。拡張はすべきものであり、私どもはつねにそれを行なっております。危険なことだというのですか? そうです。危険です。不確かでいけない? その通り、不確かです。しかし、それをあえてしなければ進歩がない。不確かな道ですが、科学を有用なものにするためにはどうしても必要なのです。科学というものは、かつてなされたことのない実験について何ものかを教えてくれるからこそ有用なのです。すでにわかっていることだけ教えてくれるのでは、なんのご利益もありません。テストされた領域の外まで概念を広げることが必要です。 (p.252)

つづいて、アイデアを拡張した具体的な例です。惑星の運動に関するケプラーの第2法則(下図参照)を拡張して、別のものの挙動を説明するのに使っています。文中では「角運動量保存の法則」という別の法則としても言及されています。








数多くの星どもが互いの引力で集まってまいりまして星雲が形成されていくところをご想像ください。初めは、みんな遠くの遠くにあって、中心からの動径は長いのですけれども、動きがのろいために、動径の生成する面積もそれほど大きくはないのです。お互いが近寄ってくるにつれて中心までの距離が小さくなる。星どもみんながうんと真ん中に寄ってきたときの動径はごく短い。そうしますと、毎秒毎秒に前と同じだけの面積を生成するためには、何倍も何倍も速く動かなければならないことになります。星たちは、真中に集まってくるにつれて速度を増し、激しく渦巻くようになるわけです。渦状星雲の形は定性的にはこのようにして理解されるのであります。

スケート選手がスピンをするのも同じようにして理解できます。初めは足を開いてゆっくり走りますが、やがて足をすぼめるとスピンが速くなる。足を開いておけば、毎秒なにがしかの面積を得するのですが、すぼめてしまいますと、その分の面積をかせぐために、ひとりでにスピンが速くなるわけであります。しかし、私は、スケート選手の場合の証明をまだしておりません。スケート選手は筋力を使うのであって、重力ではありません。それでも、角運動量保存の法則はスケート選手にもあてはまるのです。

これはおもしろい問題です。重力の法則みたいに物理のある一隅から導き出した定理が、その実、はるかに広い範囲で正しいことが判明する。こんなことがしばしばあるからおもしろいのです。 (p.68)

2012年6月20日水曜日

深層防護という工学的アプローチ

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少し前に取り上げた『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(過去記事)では、今回の事故で何がまずかったのか、様々な観点から考察しています。今回ご紹介するのは、原子力発電所というシステムの設計や運用に対して、システム工学的な見地から反省をうながした箇所です。

まずは、原発の安全性を確保するための設計上のアプローチ、「深層防護」の説明です。
 高い信頼性を維持するための工学的なコンセプトが、深層防護という考え方である。深層防護とは、英語のDefense in Depthを訳したもので、安全対策を重層的に施して、万が一いくつかの対策が破られても、全体としての安全性を確保するという考え方である。(中略)また、設計時に用意した対策がすべて失敗した場合に備えて、人と環境を放射線の影響から守れるような対策が立てられてきた。 (p.254)

深層防護は、各階層が互いに独立しているべきである。ある階層の効果が、前後の階層に依存すべきではない。つまり、各階層は自分が最後の砦になったつもりで、対策を行わなければならない。こうした思想の下、5つの階層すべてを強化していくことにより、初めて深層防護と呼べるのである。

原子力の危険性を指摘する議論の中には、前段の階層の対策が不十分であるから、防災対策などの後段の階層が必要になるのだ、と考える向きがある。しかし、この議論は、深層防護という工学的アプローチの理解不足に起因するものである。 (p.255)

これを実際に起きたことにあてはめてみると、前段の階層が「地震のゆれを感知して原子炉を安全に停止させた」部分にあたり、後段の階層が「津波等の影響で全交流電源を失った」部分になるかと思います。電源喪失を防護する対策が不十分だったわけです。

では、なぜこのような設計運用が行われてしまったのか、本書のメンバーは以下のように分析しています。
 わが国では、定期検査などの枠組みの中で、個別の機器や構造物の性能が、定期的、かつ詳細に評価されてきた経緯がある。したがって、海外と比較して、個別の機器の信頼性は高い傾向にある。一方で、プラント全体の安全性については、評価が不十分であった可能性が指摘できる。 (p.259)

福島第一原子力発電所も含め、わが国の原子力発電所では、定期安全レビューの中で、内部事象(機器の故障や配管の損傷など)に起因する確率論的安全評価が、自主的に実施されてきた。しかしながら、外部事象(地震等)に起因する確率論的安全評価については、手法が十分確立していなかったこともあり、取り組みが遅れていた。また、規制機関にも、確率論的安全評価の結果を、積極的に規制に活用するという姿勢がなかった。

日本原子力学会標準委員長の宮野廣氏は、「一面から見た安全尺度の採用と過信」を事故の遠因に挙げ、「わが国の原子力発電所では計画外スクラム(停止)の頻度が極めて低いことは、世界的にも有名である。そこに安全神話が形成されてしまったのではないか。…従って、確率論的安全評価(PSA)のニーズが少なく、"せっかく安全だというのに"という思いから取り組みが遅れてしまったのではないか」と述べている。

このことは、深層防護の考え方の根本である防護レベルの独立性が、十分に理解されていなかったことを示している。つまり、第1層の指標である計画外停止頻度だけでなく、第3層の指標である炉心損傷確率についても、より積極的に評価されるべきであった。 (p.260)

工学的な知恵が理解されていなかったという点に、われわれの文明水準の程度が表われているようです。システム工学というのは難しい概念の集まりではなく、むしろ常識や見識と通じるところが多いように思われます。このようなものの見方や考え方は、社会的に大きな影響力をもつ人ほど、いっそう要求されるのではないでしょうか。

***

ここからは投資の話になります。まずはチャーリー・マンガーの言葉から。世知を語る中で、信頼できるモデルのひとつとして工学を挙げています。例えば次のような発言です。「工学上の概念としてバックアップ・システムや破断点がありますが、これらはとても強力なモデルです」(過去記事)。ここでは一言で済ませていますが、上に挙げた深層防護とはまさしくバックアップ・システムの一形態です。正しく使えば信頼できるモデルです。

つづいて、ウォーレン・バフェットの言う「投資先を評価する観点」です。順を追ってみると、それぞれの項目が独立しており、重層的に評価できるようになっています。

1. 長期的に見た場合に、ビジネスの特性がどうなっていくのか
株式投資を行う際の最重要の評価項目で、ビジネス自体の質が高いかどうかを問うものです。これによって、長期的なリターンと確実性を判断します。

2. 経営者がビジネスの潜在力を最大限に生かし、キャッシュをうまく活用できるかどうか
せっかくよいビジネスなのに、経営者が足をひっぱることがあります。例えば、むやみにシェア拡大をめざして設備投資したり、関連の少ない新規事業に手を出したり、場当たり的な企業買収を行うといった例。これはビジネスのリターンを悪化させる恐れがあります。
また、絶好の機会なのにキャッシュを使わないのも慎重すぎでしょう。あるいは単なる保身なのかもしれませんが。
ここで問われているのは、企業が持つ複利効果の質です。

3. 経営者がビジネスで得た利益を株主へ還元することを一義とし、無駄づかいしていないかどうか
よくある例は、高い株価で自社株式を買い戻すことです。間の悪い時期に自社ビルを購入するのも、株主にとってはありがたくないかもしれません。質の高いビジネスが稼いだお金をどうやって株主へ返すのか。そのプロセスの質が、ここでは問われています。

4. 株価
ここまでの基準を満たした企業でも、株を買うのに高い金額を払うのは誰にでもできることです。想定リターンに対してどこまで対価を支払うのか。ここでは、投資家が下す判断の質が焦点になります。チャーリーは、すばらしい企業にそこそこの金額を払うのだったら気にすることはないとしていますが、安いに越したことはありません。

このような4階層にわたる深層防護がきちんと働くことで、納得のいくリターンが期待できると共に、元本の安全性も高い投資先が残るのではないでしょうか。ウォーレンやチャーリーの判断基準は何気ないようにみえますが、実はよく考えられているようですね。


2012年6月19日火曜日

成功している投資家とそうでない人の違い(ジョン・テンプルトン)

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ジョン・テンプルトンの「投資で成功するための16のルール」から、今回はルールその11「自分の過ちから学びなさい」の説明文をご紹介します。引用元はこちらです。(日本語は拙訳)

(ルールその11) 自分の過ちから学びなさい

失敗を避ける唯一の方法、それは投資をしないことです。が、実はそれこそ最大の失敗ですね。ですから、落ち込んだりしないで、失敗した自分を許してやってください。なにより、損した分を取り返そうとして、より大きなリスクをとらないことです。そうではなくて、失敗を教訓として学ぶのです。なにがまずかったのか正しく把握し、同じ失敗を繰り返さないためにどうしたらよいのか見定めてください。

「今回はこれまでとは違うんだ」と力説する投資家がいます。それは、投資の歴史においてもっとも高くついてきた言葉を口にしていますね。実のところ、過去に起きた顛末が、また繰り返されているのです。

成功している投資家とそうでない人では何が大きく違うのか。それは、成功している人は自らの過ちや他人の失敗から学んでいるという点なのです。

No. 11 LEARN FROM YOUR MISTAKES

The only way to avoid mistakes is not to invest - which is the biggest mistake of all. So forgive yourself for your errors. Don’t become discouraged, and certainly don’t try to recoup your losses by taking bigger risks. Instead, turn each mistake into a learning experience. Determine exactly what went wrong and how you can avoid the same mistake in the future.

The investor who says, “This time is different,” when in fact it’s virtually a repeat of an earlier situation, has uttered among the four most costly words in the annals of investing.

The big difference between those who are successful and those who are not is that successful people learn from their mistakes and the mistakes of others.


よく聞く話だとお感じになった方、たしかにその通りです。同じような助言を過去に何度か挙げています(「投資で成功するのに大切なこと」「注意!この先危険」)。ここで重要なことが2つあると思います。ひとつめは、著名な投資家が口をそろえて指摘していること。もうひとつは、この助言を受けて自分がどのように行動しているかです。

2012年6月18日月曜日

結婚式の介添え(チャーリー・マンガー)

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ウォーレン・バフェットは温厚な性格が人を惹きつけますが、対するチャーリー・マンガーには気軽に話しかけにくい雰囲気があります。このシリーズでは、そんなチャーリー・マンガーがあまり表に出さない、もうひとつの顔をご紹介します。引用元は『Poor Charlie's Almanack』です。

今回は、彼と同じ名前を受け継いだ息子、チャールズ・T・マンガー・ジュニアが見た父親の思い出です。

15歳の頃に家族でサン・バレーへスキー休暇に行ったときのことです。最終日に、帰宅便の飛行機に乗る時刻が迫っていたのですが、父はわたしを連れてそれまで乗っていた赤いジープで雪道へ戻りました。別の道を10分ぐらい進んだところで、ガソリンスタンドに立ち寄りました。わたしは、ガソリンがタンクにまだ半分残っているのをみて驚きました。けっこう残っているのにどうして、とたずねたところ、父は諭すように言いました。「いいかい、チャーリー。他の人から車を借りたら、ガソリンは満タンにして返すものだよ」

わたしがスタンフォードに入学した年に、ある知り合いが車を貸してくれることになりました。その人がわたしをよく知っているというよりも、共通の友人が強く説得してくれたおかげでした。借りた車は赤のアウディ・フォックス、ガソリンタンクには半分入っていました。はたと、昔のジープのことを思い出しました。それで車を返す前にガソリンを満タンにしておいたのです。知り合いのほうも気づいてくれました。それがきっかけで、我々は良き友人としてつきあうことになったのです。結婚式のときには、彼に介添えをつとめてもらいました。

スタンフォードを卒業した後になって、例の休暇のときに滞在した家とジープは、父の友人のリック・ゲリンのものだったことを知りました。リックがサン・バレーへ戻ったときには車は問題なかったでしょうし、そもそもガソリンが減っていても気がつかなかったと思います。そうだとしても、父は公正を重んじ、配慮を忘れなかったでしょう。そのようにしてわたしは、どうすればよい友人を得られるか、さらにはその友情を保つにはどうしたらよいかを教わったのです。

On the last day of a family ski vacation in Sun Valley when I was fifteen or so, my dad and I were driving back in the snow when he took a ten-minute detour to gas the red jeep we were driving. He was pressed for time to have our family catch the plane home, so I was surprised to notice as he pulled into the station that the tank was still half-full. I asked my dad why we had stopped when we had plenty of gas, and he admonished me: “Charlie, when you borrow a man's car, you always return it with a full tank of gas.”

My freshman year at Stanford, an acquaintance lent me his car, more because friends we had in common twisted his arm than that he knew me all that well. The tank was half-full, and the Audi Fox was red. So I remembered the jeep and topped the tank before I brought the car back. He noticed. We've had a lot of good times since, and he stood as a groomsman at my wedding.

After Stanford, I learned that on that vacation we had been staying at Rick Guerin's house and driving Rick Guerin's jeep. Rick is one of my dad's friends who, on his return to Sun Valley, certainly wouldn't have been troubled, and was unlikely even to notice, if his jeep had less gas than when he left it. My dad still didn't skip a point of fairness and consideration. So I was taught that day not only how to get a good friend, but also how to keep one.

2012年6月16日土曜日

今般の津波は当社の想定を大きく超えるものだった

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テレビなし、新聞なしの生活をしているので、昨年起きた大震災に関する情報にはあまり触れてきませんでした。意識的にそうしていたところもあったのですが、そろそろ集中して知るべきと考え、『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』を読んでみました。完璧な本というわけではありませんが、自分の知らなかったことが多く記されており、参考になるところが多かったです。

チャーリー・マンガーが「他人の失敗から学べ」と説いているように、この本を通じて今回の失敗から何かを吸収できればと思います。今回は、同書から「想定外」について引用します。

 今回もまた、東京電力は、「今般の津波は当社の想定を大きく超えるもの」だったと主張している。しかし、三陸一体を襲った貞観津浪(西暦869年)の研究が進み、その意味合いが注目を集めるようになるにつれ、もはや津波の高さは「想定外」ではなくなっていたし、実際、東海第二原発では津波の想定される高さを上げ、海水ポンプの津波対策を強化していた。また、東京電力女川原発では建設当初より高い津波を想定し、敷地高に余裕を持たせていた。実は、東京電力の原子力技術・品質安全部は福島原発が「想定」した以上の高さの津波の来る可能性を示すシミュレーション結果を2006年に発表していたが、これは東電原子力部門上層部から「アカデミック」との理由で却下された。

津波の襲来は「想定外」ではなかった。多くの研究がそれを「想定」していたのに、東京電力は聞く耳を持たなかった。要するに東京電力の「想定が間違っていた」ということである。「想定外」を口にすることは、リスクマネジメントを放棄することにほかならない。ただ、規制当局も、津波リスクに対する新たな知見を織り込むよう事業者に勧めたものの、具体的措置は求めず、それを規制対象とはしなかった。(p.386)

「想定外」というよりは、実のところは非公式なリスク要因として挙げられたのかもしれません。ただし、その発生確率を過小評価して、対策をとらないことにしたのではないでしょうか。誰かがどこかで書いていたのを思い出します。どんなに賞金が高くても、ロシアン・ルーレットには挑戦しないと。発現すると致命傷に至るリスクは別格に扱え、ということですね。

ウォーレン・バフェットは「CEOはChief Risk Officerであれ」と言っています。今回の件で学べることは、その経営者や企業風土も経営資源のひとつと捉えた上で、企業全体のリスクを評価することが投資家に求められるということです。リスクの話題は今後も少しずつ触れていきたいと考えています。